なんだかよく分からないけれど。気付けば全部終わっていた。
こんにちは。
コワルスキーです。シリウス以外のブラック家の皆さんに会いウッキウキで行ったと思ったら、帰り道でした。
『あれ?レギュラスは?Mr.オリオンとヴァブルガ様は?』
『終わったよ』
『終わったな』
『帰ってるよ』
『……なんで???』
『命は大事にしてね』
……記憶を遡ろうとすると、チカチカと視界に走る残像だけで、それはもう、なんかこう、すごく美しい何かだった。
あれは貴族のビームだ。
息を呑むとかじゃない、横隔膜ごとどっか行った。内臓が、ないぞーう?
海馬が『記憶に焼き付けろ!』って指示してるのに、大脳皮質が『やめてください死んでしまいます』って悲鳴上げてるし前頭葉が『死んでも本望!』って意気込んでいた気がする。
『ミリ、トムから伝言』
『トム?』
『──思い出すな、だそうだよ。僕も同じ意見』
『ぐぬぅ』
解せない。
さて、そんなこんなでホグワーツに戻ってきた私たちを待っていたのは、各教員から出される課題とクリスマス合宿である。
え?合宿なんてものカリキュラムになかった?
ないよ。
ダンブルドアがそんな私に都合のいいカリキュラムを出すわけがないじゃない。未だにプロムが復活してないんだよ?
去年と同じく、ルシーとシシーにマルフォイ邸へ招待されているのだった。最高です。
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「ミリ、まだ課題終わらないの?」
とっくに全ての課題を片付けたハーマイオニー。というかクリスマス休暇に入る前には既に終わっていたような気がするのだけど、気のせいかな。
「変身術が難しくって……」
さて、今年のマルフォイ邸のクリスマスパーティには、去年招待された生徒たちだけでなく、それぞれの家族も招待されていた。
参加メンバーのせいで顔ぶれが、なかなかに豪華というか、もうなんか魔法界×マグル界大交流イベントみたいな感じになっている。
例えばだけど。
・ハーマイオニーの両親
・ネビルのお婆さん
・クイニー母さんとジェイコブ父さん
この3組とルシーが協力して、魔法界にまったく馴染みのないダーズリー家を迎えに行ったのだ。
なぜこのメンバーなのかというと、ハーマイオニーの両親とジェイコブ父さんがそもそもマグルなので、マグル的な常識もちゃんと通じる。
その上、格の高い純血貴族がいるから安全面や魔法手段面でも優秀と言う。
ちなみに、ロンの両親はマルフォイ家と折り合いが悪いから、両親は不参加。代わりに仕事の都合がついた長男と次男が親代わりとして来てくれるそうだ。
「もう、みんな来ちゃうわよ?」
ハーマイオニーの可愛い首傾げ。
その仕草はもはや、聖杯から注がれる祝福か何かでは?いや本当に、可愛い。天から恵みの小雨が降ってる感じ。
「変身術の動物もどきの形質変化指数の計算が難しくって」
「……形質変化指数?何を言ってるの?」
「へ?」
「今年度の課題は動物もどきの講義をまとめるだけでしょう?」
「……はい?」
変身術はほら、体積が違ってくるからそれを魔力で補ったり圧縮する必要あるじゃない。あれの計算をしろって。いや、でも、マクゴナガル先生が直接、しかもわざわざ課題リストを作ってくれてたし。
何度課題リストを見直してもやっぱ書いてあるわ?
「……ねぇミリ?魔法薬学と防衛術も課題の量多くない?」
「あの二人のだした課題は尊さのあまりもう終わったわ、安心して」
「何も安心できない」
苦手な科目は苦手すぎるんだもん。
ハーマイオニーに教わりつつ課題を終わらせている。歳下に教わるこのなんとも言えない複雑な心境。でも仕方ないよね、ハーマイオニーは天才だもの。
美と才能のハイブリッド魔女。最高よね。
そしてようやく課題が終わった頃、親たちがやって来たという報せがあった。
「こんにちは!」
「こんにちは」
ダーズリー家やグレンジャー夫婦が物珍しそうに、そしておっかなびっくり現れた。
「ハリーお前、こんな高そうな所にいたのかよ……」
「うん。なんならこの前もっとすごいとこ行ってきた。あ、でもミリ見てたらあまりにも失礼すぎてマシになるから大丈夫。最初だけだよ」
ハリーが心配そうな顔したダドリーを落ち着かせている。可愛いね。
「ミリ、る、ルシウス君ってこんないい所の人だったのか!?」
あっ、おっかなびっくりしてるのはジェイコブ父さんも同じだったわ。
貴方、一応最年長なんだからさぁ。
「知らなかったの?イギリスで1.2を争うくらいのお金持ちだし、マグ……ノーマジでも貴族爵位を持ってるのよ?」
「そうなのか!?」
「まぁまぁダーリン。それを言うならニュートも爵位は持ってるわよ?」
「えっっ!!!???」
「ちなみにダーリン、私たちも本当はもらう可能性があったのよ。ダーリンはノーマジだし、私は断ったから持ってないけど」
初耳なんだけど。
「それって……もしかしてグリンデルバルトの戦いの件でですか?」
「そうよルシウス君」
「すごいな……歴史にはあまり乗らないとはいえ、エミリーのご両親からグリンデルバルドの話を聞けるとは……」
ルシーが目を輝かせて、ちょっと声が上ずってるの、最高に愛しい。頬もほんのり染まってるし、あれはたぶん無自覚萌えの極致。
すごく、すごく可愛い。
宗教と理性が崩壊したわ。カムバック理性。早く帰ってきて。
「ね、ねぇミリ……?」
「どうしたのチュニー」
チュニーが私の袖を小さく引いた。顔色はそこまで良くなさそうで、緊張していることが分かる。
「私たち、魔法のこと全然知らないのだけど……大丈夫かしら。その……純血貴族って、マグルをあまりよく思っていないって聞いたから……」
「大丈夫だよ。ルシーもシシーも、そういう狭い了見の人たちじゃないし、むしろマグルとの交流にも理解ある方だよ。事業だってマグルにも展開してるくらいだし」
私がにっこり返すと、後ろにいたバーノンさんが肩をすくめながら前に出てきた。
「……本当にそうなのか?魔法界には色々と偏見があると聞いているが……」
あら、意外と慎重派。でもこの人が社長って肩書きのおかげで、ルシーにとってはかなり興味を抱いてたけど。
「ルシーはマグルとやり取りをしていると言っても、あくまで魔法族の人でしかないから。バーノンさんみたいにマグルで会社経営人の話を聞くのは楽しみって言ってたよ」
「そっか、それなら……いや……つまらない話をしないように気をつけなければ……」
真っ青になってしまった。あらら?
「ねぇルシー、今からでも遅くないと思うんだけどセブルスとリーマス呼ばない!?」
「あの二人は冬は忙しいと言ったでしょう?」
「うっ、まぁ、確かに忙しいって言ってたけど」
「駄犬のことも狼のこともあるんですから、余計な面倒をかけないように」
ごもっともです。
リーマスは29日の満月に備えて脱狼薬の準備だし、セブルスもたぶんそれに巻き込まれてるはず
でもシリウスについては、後回しでもいいと思うの。
「チュニーとしてもセブルスが居た方が安心じゃない?彼みたいにマグル育ちで魔法界の貴族になった人ならチュニー達の気持ちも分かるだろうし、あと教師だし」
「私は別にセブルスとは仲良くないのよ?いつもリリーにばっかりくっ付いて。まぁでも、ホグワーツに行ってからは夏休みもあまり見なくなったけど」
「あー、それならその時のセブちゃんは家に来てたわね」
チュニーの不思議そうな疑問に答えたのは、サラッと割り込んだクイニー母さんだった。
「えっ!?セブルスがMrs.コワルスキーの所に?」
「毎年アメリカに来てたの。うちの娘とも仲良くてね。……それにしても貴女セブちゃんのこと知ってたのね?」
あれ?言ってなかったっけ?
「母さん、チュニーはリリーの妹よ。旧姓エバンズ」
「え……!リリーちゃんの!?」
「うん。そしてハリーがダーズリー家に預けられてるのもその縁だよ。リリーの親戚だから。……後見人のシリウスがアズカバンにぶち込まれてるからね」
母さんが目を丸くして固まった。リリーのことは、もちろんよく知ってる。なんなら夏になるたび、うちに来てたし。
「……そう、そうなの……。リリーちゃん、ほんとに毎年のように夏休み遊びに来てたわ」
「あぁ……! そういえば。昔、挨拶に来ませんでした? 私、当時魔法界のこと全然知らなくて、怖くて陰に隠れてたんですけど」
「あの時の……!」
思わぬ再会に、母さんとチュニーが顔を見合わせて笑い合っていた。なんだか懐かしい匂いのする空気。
……うん、大丈夫そう。母さんにチュニーを任せて、私はそっとグレンジャー夫妻のほうへスススと距離を詰める。
そろーりそろーりとグレンジャー夫妻の方へ近寄ってみた。
「こんにちは、グレンジャーさん」
「こんにちは、えっと、ミリちゃんだったかしら?Ms.コワルスキーと呼んだ方がいいかしら……」
「いえ、ミリで大丈夫ですよ。ハーマイオニーにはいつも良くしてもらってます。彼女すっごく賢くて、先生の質問をなんでも答えちゃうんですよ。マグルの学校でもきっとすごく優秀だったんでしょうね」
「あぁ、そうなんだ!ハーミーは昔から賢くて。子どもなのに大人の話に普通に入ってくるからね。何かもう、脳みそに百科事典が入ってるんじゃないかって……」
「パパ、言いすぎよ。私も知らないことが沢山あるわ」
慌ててそう言って口を尖らせるハーマイオニーが、もう、砂糖とミルクでできてるかってくらい可愛い。
天使とか女神とかそういう形容詞がもはや逆にチープになる、概念としての愛らしさだった。
それにしても、グレンジャー夫妻が緊張しつつも理性を保っている姿はすごく偉いと思う。
うちの父なんて、ルシーの靴を3度見したあと、「あれ1足で車買えるんじゃないか」と小声で呟いていたくらいなのに。
「おほほ、おほほ。ネビル、お友達にちゃんと紹介なさいな」
そのとき、ネビルの後ろから、明らかに血統の強さを感じる声が聞こえてきた。
オーガスタ・ロングボトムさんだ。
見事な羽帽子。飼育小屋から逃げてきたフェニックスかと思った。
いや違う、あれは自信と格式の塊だ。威圧系ファッション魔女。
「……おばあちゃん、彼女がミリだよ。ミリ・コワルスキー。たぶん、僕の友達の中で1番変な人」
ネビルの紹介はちょっと雑だし不満いっぱいだけど、紹介してくれたのだから頭を下げた。
「こんにちは、初めましてMrs.ロングボトム。ミリ・コワルスキーです。」
「あらあなたが! ネビルがいつも手紙で『とても元気で、いつも騒がしく、可哀想になるくらい行き過ぎた変態』って書いてくる子ね!」
「えっ、それ私ですか!?……ダメだ、自覚しかない」
「あぁ、自覚はしてるのね。ネビルの手紙はいつもどこか焦げたり汚れたりしてるから、読むのに苦労してるのよ。いえ、楽しいのだけども」
本人はもじもじと視線を泳がせていた。
これはアレですね。反論すると余計に話が広がるから黙っているやつね。分かるわ、うちのイオ母さんもそっちタイプなの。
私、皆の親御さんにどう言った報告をされているのか、すごく気になってきちゃったな。
「ミリさん。私はあなたに感謝しているのよ」
「えっ?」
突然の感謝に、少しだけ背筋が伸びた。純血貴族の威圧感がそこにはある。
「ネビルったらね、去年までは本当に自信がなくて……何をするにも腰が引けてたの。それが、あなたと交流するようになってからか、少しずつ前に出るようになったの」
「おばあちゃん!」
「……たとえ魔法生物に乗ってエキセントリックな通学をしててもね。若者よ大空に羽ばたけってね!」
元気なお婆さまって、強い。
それにしても……このクリスマスの空気。
魔法界とマグル界、血統も年齢も考え方も違うたくさんの人が同じ屋根の下に集まって、お茶を飲んだり、話したりしている。
なんだか、ちょっとだけ、不思議で。
──でも、すごく、幸せな時間だなって思った。
……リリー、ジェームズ。
二人もここにいるべき人達なんだよ。会いたいよ。