シリウスが先生2人に連れて行かれ、私の部屋には笑いくずれるピーター、リーマス、そして笑いを堪えすぎて痙攣するセブルスが残っていた。
「えっ、と。つまりシリウス・ブラックは冤罪……?じゃあなぜ死んだと言われているピーター・ぺティグリューが生きて……?」
「それにオリオンさんはピーターって人は闇陣営にいるって言ってたし……」
「スキャバーズ、スキャバーズが、おっさんに……」
「動物もどきだったって事……?」
子供たちは優秀なので、笑い崩れるピーターを見て真実に近いであろう推測をし、杖を握りしめていた。
「だめだ、笑いが止まらない、シリウスの助けてって視線が!」
「あはははは!」
シリウスに愛の言葉を囁くのは、精神的にかなりきつかった。でもその分効果は抜群で、私は常にレギュラスとMr.オリオンの想像上の姿を称えていた。DNA的には四捨五入すれば一緒だから……。多分。
私は爆笑体験とホラー体験を同時に繰り出したので復活が早く、可愛い3人(33)を庇うように立つ。
「あははは、ごめんね皆。ちょっとだけ、庇わせてもらうね」
「……ミリ、まさかとは思うけど、その薄汚れた小デブのおっさんですら『可愛い』って言うつもりじゃないだろうな!?」
「さっすがロンね!よく分かってる〜」
ロンのドン引きした表情。ロンは好みではないので、そんな顔されても痛くも痒くもないわね。ピーターは昔からぷくぷく赤ちゃんほっぺたをしていたから、変わらず可愛くてハッピー。健康状態も良さそうで、食べずにガリガリのセブルスや栄養失調気味のシリウスに比べたら100億点満点の大天使だわ。
「ゲホ、ゲホゲホ。じゃあ、そろそろ説明しようか」
ピーターが両手を上げて子供たちに警戒されないように座り込んだ。
私の部屋にこんなにも可愛い子がいるなんて、幸せすぎる。えー、座った姿も可愛いのなんなの?
「まず、僕の名前はピーター・ぺティグリュー。ハリー、君の両親の学友で、ジェームズとは同室でもあった。ここで笑い崩れてるリーマスと、連れてかれたシリウスもだけどね」
私は可愛すぎて崩れ落ちそうだよ。理性が。
「僕ら4人に、リリーやエミリーやセブルス。いつも、まあめちゃくちゃ仲がいい訳では無いしどちらかと言うと悪友やライバルと言うのがしっくりくる間柄もあったけど、とにかく友人なんだ」
ピーターは昔を懐かしむ様に微笑んだ。
「なら……どうして闇陣営に居たんですか?」
ハリーの言葉は責めるようには聞こえなかった。愛しいね。
「端的に言えば、生きる為、かな。僕はとある縁で、ルシウスさんみたいに闇との繋がりが深い人と色々な研究をしたり支援して貰ってたんだ。まぁ、まだ作れてないんだけどね……」
「あぁ、一応言っておくけど、その繋がりはピーターだけではないよ。私も勿論だけど、ハリーの両親共繋がりがあった」
ていうことはヴォルちゃんの事かな。
私たちイタズラ仕掛け人だけならともかく、ルシーの名前が出たってことは。
「僕は、純血では無くてね。研究内容が内容だったから、闇陣営のそこそこのポジションにつかされちゃって。妬ましく思う人もいた。だから、生きたかったんだ」
「……それで、ハリーの両親を売ったのかしら?」
「まさか。僕が出来たのは、事前にリリーに伝えることくらい」
ピーターは聖母かと思うほど、微笑んだ。
「僕の所属は確かに闇ではある。でも闇陣営が全て罪というわけではない。僕らは、色眼鏡だけじゃ無くてその人の本質や個人を見なければならない。強い言葉や正義の言葉は正しいけど、弱い人を傷付ける。疑う事はすごく大事な事だけど、難しいことだと思うけど、先入観を持たずに大人になるんだよ」
呆然とした子供たちにくすくすと微笑むピーターは「シリウスや僕みたいにならないようにね」と付け足した。
「……ねぇ、ハロウィンの夜。一体何が起こったの?」
ピーターは闇陣営にいたけれど、それだけでシリウスがあんなに恨むはずが無い。
いや、うーん、自信ないな。シリウスなら自分の家系を棚に上げて恨みそう。
ピーターは、一瞬だけ俯き、長く呼吸を吐いたあと、私を見た。
「…………僕は秘密の守人なんだ。ハリーが生まれる前から、ずっとね」
==========
ブラック家がホグワーツに挨拶へ訪れるということで、私は張り切って礼儀正しく接した。
「初めましてぇ、ミリ・コワルスキーです。シリウス様、よろしくお願いします♡」
やや抑えめのトーンで、しかし一切の羞じらいなく、私は頬に手を添えながら挨拶した。媚びでも逢引きでもない。これは儀式。完璧なイタズラのための、通過儀式。
──そしてシリウスは、絶望していた。
「ヒッ」
実際に聞いたことのない高音がシリウスの喉から漏れた。まるで夢枕に立った死者に取り憑かれたような顔。恐怖の二文字を貼り付けてしまったような彼の反応に、私はほんの少しだけ満足感を得た。
とは言え、そんな驚かなくてもいいじゃん、気味悪がらなくったっていいじゃん。ちょっとだけ傷付く。まあちょっとだけだから別にいいんだけど。
「シリウス・ブラック」
セブルスのミルクチョコレートヴォイスが私の脳髄で暴れ散らかしている。ほら、耳をすませば心臓の悲鳴が聞こえてきそう。
「スニベルス!私が居ない間ハリーを守ってくれてありがとうな」
「相変わらずふざけた脳みそをしているな。なんの用で来た。お前は絶賛裁判中では無かったのか?」
「相変わらず素直じゃないこって。素直に私に会いたかっただけなのだと言えば──ゴフッ」
「Ms.コワルスキー、こいつの口をキスで封じろ」
「喜んで」
セブルスの命令なら糞にだってキスするわ。高貴なセブルスの命令、喜ばざるを得ない。天国の床でも地獄の便器でもなんでもキスする。
「ハリー百味ビーンズ持ってなかったっけ」
「ごめん一応聞くけど、なんで必要?あ、ごめんやっぱ聞きたくないかも。あとシリウスにキスするのは辞めてあげてね、怯えてオリオンさんの背中まで逃げちゃったから」
どうやら私の知らない間にシリウスはしっぽ巻いて逃げたらしい。けっ、こんなプリチーかわいい女子学生とキスできる機会なんて一生訪れないだろうに。
「……ところで、なぜ目隠ししているか聞いてもいいですか?」
くぐもった声が横から届く。落ち着いた思慮深く整った発音。尊さで一瞬、時空が歪むほど脳みそが解けた気がしたわ。
「直視したら間違いなく死ぬから……?」
私は両目を覆った目隠し越しに、そっとレギュラスの方向を向く。見えない場所にいるレギュラスと視線を合わせた。
「正確すぎて怖いですね」
ドン引きの声色ですら可愛いってどういうこと?
「──こんにちは、レギュラスさん!」
「ハリー、こんにちは。勉強は頑張っているかな?」
「……なんでレギュラスがハリーの後見人になってるんだよっ!」
私の愛しのレギュラスへの恨み節がMr.オリオンの背後辺りから聞こえてくる。
シリウスが捕まったからだよ?
あなたがアズカバンで床を舐めていた間、レギュラスはちゃんと地上で天使として振る舞っていたのよ
「シリウス、元気そうだね」
「あぁハリー!ハリーはジェームズによく似ている!」
「うわ」
「本当にそっくりだ!目元とか笑ったときの口角とか、いやぁ〜、もう抱きしめずにはいられない……!」
感動の再会、と言いたげにシリウスがハリーに抱きつく気配がした。
「シリウスは裁判どうだったの?」
ぎゅうぎゅうにされながらも、ハリーが気を取り直して質問した。えらい。いい子。早く話題を変えてあげて。
「無罪だったよ。冤罪の賠償金を求めない代わりに速攻してもらった」
「へ〜!そうなんだ」
「それに……」
シリウスは含みがある間を設けた。
「当主を譲りました」
「「えっ」」
レギュラスの言葉にハリーと私が同時に声を上げる。え、ということは。
「おう、ブラック家の当主になった」
クラクラと崩れ落ちそうになる感覚。どうして、レギュラスがブラック家の当主で安泰じゃん!未来永劫!そんな博打みたいなおとこにしなくてもいいじゃない!
でも、でもレギュラスが決めたのなら私はその意見を手のひらくるっくるで応援する!えぇ、私なんかには到底考えられないような深い考えがあるのかもしれないし。
たぶん、シリウス本人だけが『良い兄貴ムーブしたぞ』くらいの気持ちでいるんだろうな。
ハリーは横で少し戸惑っている気配がする。レギュラスは平然としてるけど、内心は読めない。顔を見てないから。
「まぁいいんですよ、正直ブラック家はかなり忙しいですし、身体にも魔力にも負荷を掛けすぎますから。無駄に元気で、元気の、元気くらいしか取り柄のない兄上がやってくれたら」
「おい」
「色んな人の邪魔にならないように、父上と僕で家業に縛り付けておきますから」
そういうことかぁ。
なんか、知らないところで複雑なことになっているんだろうな。
「──シリウス」
私は目隠しを取ってシリウスを見た。
ハリーを抱きしめるシリウスのぎくりと揺れた体。腹立つ。こっちを見もしない。
「……えーっと、ミリ?申し訳ないけど、ほら、私はブラック家の当主になったわけで、君とはまかり間違っても結婚出来ないというか」
「……別にいいのでは?どう思います父上」
「もうMs.コワルスキー相手ならどうでもいいと」
「レギュ!親父!」
シリウスが地団駄を踏む。
はは、お金積まれてもシリウスと結婚なんてしたくはないかな。
「ポッター」
「はい、なんですか?」
「面会は終わりだ。ドラコが呼んでいるため早く行ってやるといい。ルシウスと共にこの阿呆の事件で奔走したそうだ。労ってやれ」
「わかりました。失礼します、レギュラスさん、オリオンさん。シリウスもまたね」
ハリーはパタパタと元気に走っていった。
そういえばブラック家ってほとんどの純血と親族だから王家とも言われてるんだよね。ポッターは大元がアメリカだから混ざっているか分からないけど、ルシーやセブルスとも大小様々な親戚になるって、すごいよね。
世間というか。魔法界って狭いなぁ。
……。
ふむ。
「……レギュラスが弟になってMr.ブラックとヴァルブルガ様が義両親にはなるなら最高なのでは……?」
お金払ってでも結婚すべきね。これ。
「一緒になりましょうシリウス、大丈夫、私は幸せ」
「誰がするか!レギュラスと両親目当てじゃねぇかよ!」
しばらく視線が合わなかった私たちだけど、弾かれたようにシリウスが顔を上げて私と目を合わせた。
誰よりも真っ黒の瞳に、光が入っている。
なにかに気付いたような表情。
じわじわと顔に血色が戻っていくような感覚さえしている。
血の気のなかった顔に、少しずつ色が戻っていく。
魂の奥で凍っていた時間が、今まさに、解け出している。
「……シリウス」
私は、静かに名前を呼んだ。
言葉が溢れるより先に、胸の奥がじわりと熱くなった。
「……会えて、嬉しいよ」
生きていてくれて、本当によかった。
変わらず、ここにいてくれて。
──私の、大事な友達。
その一言だけで、シリウスの喉がひくつく。
何度も口を開こうとして、閉じて。
言葉が出てこないまま、息が止まった魚のように目を見開いていた。
「ねえ、聞いたよ。初恋だったんだって?私が」
冗談めかして言うと、その瞬間だった。
「──コワルスキー!!」
悲鳴のような声とともに、シリウスが走り寄る。
足がもつれて、転けるかと思うほどの勢いだった。
それでも彼は私にたどり着き、両腕で、強く、強く抱きしめた。
「こわ、コワルス……っ、お前……お前は……!」
震える腕に、びっくりするほどの力がこもっていた。
言葉より先に、肩が震え、顔が揺れ、ぼたぼたと涙が落ちてくる。
私はそっと手を伸ばして、彼の背中をあやすように叩いた。
「お前さ……お前……っ、死ぬなら、死ぬって言ってから死ねよ……!」
「ふふ、何それ」
「お前がっ、コワルスキーが、死ぬなんてって!思ってもみなくて、それで、俺、俺は……!」
置いて行ってごめんなさい。多分、シリウスのことだから沢山キレただろうね。短気なところがあるし、友達思いで、でも思い込みが激しくって。
「相変わらず真ん中頭だよねシリウスってば」
「なんだよそれ」
「ルーンスプールの頭。真ん中は夢見がちなの」
泣き崩れるシリウスをプリンセスホールドして、私は大きく笑った。いたずら完了、と。
「で、結婚する?大歓迎」
「お前にブラック家という権力を与えたら甚大な被害が魔法界に及ぶことが分かってるので死んでもしない」
「え、でも私もブラック家の血を引いてるけど?」
「「「えっ?」」」