その名前に動揺したのは誰だろうか。
まず、まっさきに声を上げたのはシリウスだった。
「──ダンブルドア!なぜエミリーの名前が出てくる!?」
凍りついた空間でワンワンと響く。
「分からぬ。……じゃが、選ばれたのは確実じゃ」
「エミリー?どなーたですか?」
「エミリー・コワルスキーだと……!?」
校長3名が口々に言い合う。
とくにダームストラングの校長のなんとかかんとかは激しく動揺していた。どうして?
「エミリー・コワルスキーは……」
「あの子は……あぁ…忘れたことはありません」
教員席でも動揺が激しくなっている。
「なぁコワルスキー?お前の家名じゃね?」
「その通りね、ゴールドスタイン?」
アンソニーが私に語りかけてきた。
私はもちろん入れてないし、そもそも呼ばれたのは今の私ではなくエミリーの名前。
これ、どうしたらいいんだろう。
「ミリ・コワルスキー。お主が代わりに来なさい」
「校長!」
シリウスが止めようとするけど、私は立ち上がって歩いていった。レイブンクローの席に座っていたから、レイブンクローとハッフルパフの席の真ん中を通っていく。
あっという間に壇上に向かえば、ダンブルドアは代表選手が向かった控え室の方を指さした。
「お主はあちらに」
「ダンブルドア!」
「すまぬなミリ。エミリーの代わりに出場せねばならぬようじゃ。同じ名前だし」
視線が『お前がエミリーだしな?』って語ってる気がするけど。とりあえず気の所為だということにして、フラーの所へ向かうことにした。
==========
「どうして……?」
ハリー・ポッターはグリフィンドール席で予想外の名前が呼ばれたことに驚いていた。
「なんだよ、あいつ!あんな興味無さそうな感じだったのに名前書いて入れてたのかよ!」
「ロン、違うわ。ミリじゃなくてエミリーと呼ばれたのよ」
ネビルは不思議そうに首を傾げる。
「なんでミリが呼ばれたの?」
「そりゃ、ミリもエミリーだからだよ。僕もエミリーだし」
「どういうこと?」
「ミリの口癖。なんか、難癖つけようとしたり大人ぶりたい時使ってるみたいだよ」
「ネビル、あなたの言いたいことは凄くわかるわ。ハリーの説明は分かりにくいし。つまりはまぁ、ミリのミドルネームはエミリーって言うから、あながち間違えでもないの」
そんな語り合っていると、他のグリフィンドール生たちはがやがやとハリーたちに寄ってきた。
誰も彼も、ルールを破ったミリの方法に聞きたかったのだ。
「なぁ、コワルスキーの名前ってミリだよな?」
「えぇそうよ。知ってるでしょう?」
「じゃあエミリー・コワルスキーってのは一体誰なんだ?」
「──死人ですよ」
グリフィンドールの寮憑きゴーストのほとんど首なしニックが、いつもよりほんの少し大きな声で言った。
「エミリー・コワルスキーとは、彼女の血縁で。そして……卒業前のあの日、名前を言ってはいけないあの人に殺された子です」
本来であれば、グリフィンドールから選手が選ばれたと喜びたかった。
どうやって年齢線を越えたのか話し合いたかった。
なのだけど、死者の名前で、ミリの親戚。
盛り上がれるに盛り上がれず、冷たい空気が雨のようにまとわりついていた。
==========
「──棄権しろ!」
シリウスの怒鳴り声と共に代表選手控え室に入っていった。
「ミリ!どうしまーしたか?」
暖炉の傍でフラーとセドリックと、あの、クィディッチの人が佇んでいる。
フラーは私が伝言役としてやってきたのだと勘違いしていた。
「実は、4人目の選手として選ばれちゃったみたいで。どうしよう、ボーバトン応援の横断幕作ってたのに……最前列で応援しようと思っていたのに……!」
「いや、せめてホグワーツを応援しな──なんて言った?」
セドリックが私の肩を掴んで問いかけた。
「ボーバトン応援の横断幕を作ったの。昨日お泊まりした時に、これは応援するっきゃないと思って。あとボディーペイントにも必要だから、校章の練習もしたのよ!」
「ごめんその情報は全然要らない」
「!!!???」
「なんでそんなに驚くんだい?」
私が夜なべして作ったのに!?そんな、ボーバトンの美しさを称えるためには完璧な芸術作品じゃないと思って頑張ったというのに。
私がショックを受けていると、ダンブルドアとクラウチとなんとかかんとかが入室した。
「先程、お主たちの後でゴブレットが『エミリー・コワルスキー』の名前を吐き出したんじゃ」
「……4人目の選手、というこーとですか?」
フラーの困惑した様子可愛い。
「棄権だ棄権!第一ダンブルドア、こいつがろくな魔法を使えるとでも思ってるのか?箒には逃げられ、魔法には嫌われ、こいつの出来ることなんて逃げ惑うこと」
「ふんっ!」
「い゛っっつてぇなてめぇ!」
私はバカにしてくるシリウスの足の甲を思いっきり踏み抜いた。
「えっと、エミリー・コワルスキーというのは、彼女の名前ではありませんよね?コワルスキーという家名が同じ学年にいた記憶はありません」
「左様」
ダンブルドアはセドリックの言葉に頷いた。
「エミリー・コワルスキーとは、ミリにとっての叔母である。そこにおるブラック先生と同学年の……とてもミリに似ておった。本当に」
いやな含みの仕方するじゃん。
「彼女は卒業式の寸前に、殺されておる。そうであろう?」
「あぁ。……私やスネイプの目の前で、あの野郎に」
「エミリーの死は、当時の学生教師、ほぼ全ての人物が見ておる。それほど、最悪な事件じゃった」
「だからといって、ダンブリードール。ミリを代理でエミリーの代わりにだーすと、いうのですか?オグワーツが二人も代表選手を出すことは、できませーん。とーてもただしくない上に、ミリはとーてもちいさく、年齢も若すぎまーす」
マダム・マクシームは代理で巻き込まれた私を気遣って反対してくれた。
ごめんなさいマダム。めっちゃ本人なのよ。
入れた覚えはないのだけど、ダンブルドアが私を代理で出すのは仕方ないのよ。
「事前に説明しとったとおり、ゴブレットには魔法契約を結ばれており、呼び出された名前のものはかならず最後まで試合をせねばならぬ」
「だからといって親戚ってだけのこの者を出す訳には行かぬだろう。たしかに、卒業前ということならば17歳は超えているが、この子供は未熟だ」
「ミリの本名は、ミリ・エミリー・コワルスキーと言うんじゃ。名前にエミリーの名前が入っている以上、縛られておるのはミリなんじゃよ」
三名の校長と、代表選手達の視線がこちらへ向いた。
「あ、話終わった?真剣な顔をしてるフラーもすっごく綺麗で眼福……」
「この大馬鹿!」
シリウスに叩かれた。
「私は反対だ。教師ではなくこいつの保護者代わりとして言わせてもらうが、魔法契約を無理矢理破ってでも止めるべきだ。エミリー……うぇ、あいつの名前言うのなんかすげぇ違和感ある……、まぁ、ともかくエミリーの名前が出てきたのは、ミリを殺したいと願っている人物の仕業かもしれない」
「だがブラック、現実的ではあるまい」
扉の外からセブルスが入ってきた。
その真っ黒な服に映えるような真っ白な肌……というか色青すぎない?光の加減とかのレベルを超えてるのだけど。
これはせっせと栄養のつく食事を持っていくしかないわね。
それにしても憂いを帯びた顔も眉間に込めたシワもその全てが愛おしいし一挙一動にありがとうございますと感謝を述べたいところだわ。
「時にカルカロフ、エミリー・コワルスキーの名前をよくご存知のようだが」
「セブルスから出てくる下の名前の威力ヤバくない……?心臓が耳から出てきそう」
「〝シレンシオ〟」
「感謝するブラック。貴様がやらねば我輩がやっていた」
なんですって……!?
くっっそ、シリウスからの魔法を喰らわなければセブルスからの魔法をあじわえたというのに……!
「Ms.コワルスキーが危険な目に遭う事は違いあるまい。ただでさえ実技劣等生。箒を一度も乗れたことがない魔法族を……しかしながら、魔法の契約の破棄は相当に難しい。試合を前にして死にかねない代物」
「おいスネイプ」
「代理出場、よろしいのではないでしょうか。なぁカルカロフ……貴様にはよくわかっておるだろう……?」
カルカロフと呼ばれた男はセブルスの愛しい視線を受けてビクリと肩を震わせた。
分かるわ、あまりにも美しすぎて心臓がはねすぎて体まで動くわよね。そこ変われ。
「あぁそれとも。ボーバトンもダームストラングはマグル育ちの魔法属歴4年の劣等生には、勝てぬと。そうであれば早めに言って頂かねば」
心臓ーーーーー!!
持って、持つのよ!!私の心臓!!あと1時間くらいは頑張って!このイキイキドヤ顔セブルスターンが終わるまでは持ってね!!??
「あなーたは!なんて冷たい方でーすか!オグワーツが二口の出場で有利なこーとより!代理でとつぜーん、巻き込まれた、子供のしーんぱいもせず!」
「心配などしても無駄であろう」
「スネイプてめぇ!コワルスキーが危険な目にあってもいいってのか!?」
シリウスうるさい。
あのね、それセブルス語で『信頼してるから心配するわけがないですよ、相棒を』だよ。何年の付き合いしてんの?