足の当たりをつつかれる感触で目を覚ます。どうやらいつの間にか寝てしまっていたらしい。死肉と勘違いしたクソ鳥共を追い払い、無線機を起動する。痙攣して動かしにくい指をどうにか動かし、あいつの周波数に合わせる。
「……よう、生きてるか相棒」
『御生憎様、死んでるよ』
雑音まみれのそれからどこか軽々しい声が聞こえる。戦いの最中で分断されたが、どうやら向こうもまだ生きてるらしい。だが声から察するに、今の俺と同じような感じか。
「お前の皮肉屋っぷりが健在ならまだ死なねえさ。気分はどうだ?」
『ああ最高だ。是非ともお前にも体験させてやりたいもんだよ』
「勘弁してくれ。こちとら寄ってくる鳥野郎の対処で忙しいんだ」
こいつとの無駄話はタッグを組んだ時からずっとやってきた。周りには俺含めて固い連中しかいなかったせいか、当時からひねくれた発言をし続けていたこいつが、やけに新鮮で、斬新なものに見えたもんだ。これは本人の前では絶対に言わないが、俺はあいつのそういった所に惹かれていったんだろう。
『ああクソ、世間じゃもう夏休みだぜ。それなのに俺らはこんな土と硝煙の掃き溜めで救援待ちとかやってられっか』
「……なぁ、ここにくるまで、色んなことがあったな」
『思い出話か? よしてくれ映画じゃそれを死亡フラグって言うんだぜ』
「そう言うなよ。ただ待ってるのはつまらねえだろ」
今思えば、こいつとのこれまではあまりにも激動の日々で、そして刺激に満ちた内容だった。
『……最初に出会ったのは尋問室みてえなとこだったな』
「そうだな。無謀にもお前が俺の所属する組織に潜入して、案の定捕まったお前を所長が何を考えたか、俺の部署に入れたんだよな」
『そうそう、あん時のお前の顔は酷いもんだったぜ。新卒みてえなガッチガチの緊張顔でよ、
「仕方ないだろ。あの頃は入って日が浅かったし、所長は組織の実質的な最高権力者だぞ」
全てが始まった、俺達が出会ったあの頃であったり。
「お前との最初の任務の時、お前が
『んだよお前まだそんな昔の話引きずってんのか? そんなんじゃハゲちまうぞ』
「安心しろ。俺の家系は全員老後もハゲてないから遺伝的に俺もハゲない」
『そういう話してんじゃねえんだけどな……』
衝突やすれ違いの多かった、初任務の頃であったり。
『時計塔から飛び降りた時はさすがの俺も開いた口が塞がらなかったぜ』
「あいつを空から叩き落とすためにはどうにかして張り付く必要があったんだ」
『だからってやるかね普通……。
「だが成功した。お前の誘導のおかげだよ」
ハリウッドもかくやというアクションをした、スカイフォール事件であったり。
「お前だって、自分の脳を使ってAIの暴走を止めるなんて無茶したじゃないか」
『あれはできるっつー確信があったからできたんよ。じゃなきゃ意地でもやらねぇわ』
「そうは言ってもこっちとしてはかなり不安だったんだぞ」
暴走したAI兵器を停止させた、ドットハック騒動であったり。
『本当に、色んなことがあったな。もっと名声とかあってもいいんじゃねぇのか?』
「大多数が表沙汰にできない内容だ。それに解決した際にその国の首相や大統領から感謝はもらってるだろ」
『感謝の言葉じゃなーんも買えねえじゃんか。俺はもっとこう現物の何かがほしいんだよ』
「まったくこの強欲野郎め」
『なんだとこの石頭』
嗚呼、まったくもってこいつといると日々が騒々しくてしょうがない。あんまりにもうるさくて、こっちまで祭りみたいに騒いじまう。まだ終わりたくないって思っちまう。まだ……。
「死にたくねえなぁ……」
『……ハッ、だったら賭けねえか? どっちが先に死ぬか』
「……それって決着着くのか?」
『細かいことは気にすんな。俺は50年物のワインを賭けるぜ』
「おいおいおい、それってそんなあっさりと扱っていいのか?」
『相変わらず硬えなお前は。どうせ負けイコール死のクソレートな賭けだしいいんだよ』
「なら俺はそうだな……QUEENのアルバム、初回生産のやつを賭ける」
『しょか……!? 俺よりぶっ飛んだモン賭けてんじゃねえか!』
「ははっ、負けイコール死なんだろ?」
そこからはお互いに過去を振り返りながら、時に笑い、時に怒り、時に感傷に浸り、そして……。
「……なぁ、生きてるか?」
『……』
「賭けは俺の勝ち、だな」
『……』
力なく無線機を触るが、それは最早雑音しか拾わない。
そしてそれを皮切りに、俺の体は足先から段々と感覚を失っていき、やがて俺が俺であ『……』ることを認識できなくなっていく。弱々しい心臓のリズムがゆっくり『──』遅くなっていき、そして今、動きを止めた。
『──勝ち逃げ。悪ぃな』
続きません。