急募:人類種の天敵を幸せにする方法   作:「書庫」

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OUTER SCIENCE

 クレイドル03墜落。たった二人の、されども屈指の実力を持ったリンクスにより行われた凶事。

 その二人は正しく“世界全体にとっての脅威”であり、また非力な者達にはどうする事もできない“正真正銘の怪物”であった。

 よって、企業連のトップ達とその反動勢力である筈のORCA旅団の首魁は、現状況を打破するために手を組む事を余儀無くされた。それ程までに二人は強大だったのだ。

 

 二人を抹殺する為、企業は傭兵機構“カラード”より、ランクNO.4から2までを共同出撃させ、ORCA旅団の首魁であるマクシミリアン・テルミドールは、自身の本来の名である“オッツダルヴァ”つまり、カラードのNo.1として出撃する。

 そしてそのメンバーの中にも、元オリジナルリンクスである霞スミカ…セレン・ヘイズも参入し、万全の戦力を投入した。

 

 

 した筈だったのだ。

 

 

 だというのに、結果は完全敗北だった。勝者はただ一人、“首輪付き”という「人類種の天敵」足り得る例外である。

 たった一人の、しかも新参の傭兵。彼は正しく天才と称するに相応しい者だった。数々の巨大兵器AFを撃破し、最強と最強が衝突したラインアークでの戦いから生存した異分子だった。

 カラードの上位4名、そしてベテランのリンクスを投入しても、討ち取れたのは彼の同志である“オールドキング”のみ。

 

 人類種の天敵は、クレイドルに深刻な出血を強いた。これにより、彼は史上で最も人間を殺した個人となる。強者である筈のカラード上位陣が戦死した今、誰もが“彼”という「災害」に巻き込まれないように、息を潜めて生きるしかない。

 誰もが絶望した時代。支配者たる企業は、とっくにその権威と意義を失い、ただ自らの首を締める過去の所業を悔いるしか無かった。

 

 しかし───まだ光明はあった。この世界におけるもう一人の「最強」にして「異分子」が、まだ戦えた。まだ生きていた。

 ランクNo.9“Unknown”白き閃光(ホワイト・グリント)。彼は残る地上の人類の為に再起し、怪物と相対した。

 誰もが固唾を飲んでその激闘を見た。誰にも追いつけない超高速戦闘。他人が介在する余地の無い激突。それは三度目の朝日を迎えてようやく終わりを告げた。

 

 彼等の勝敗を分けたのは、二つの要因。

 一つは“首輪付き”がホワイト・グリントのパートナーが編み出した苦肉の策を見破ることが出来なかった事。彼女はオペレーターという立場にありながら、Unknownと共に旧ホワイト・グリントへ搭乗して共に戦場へ躍り出た。全ては自身のパートナーを勝利に導く為に。

 結果、Unknownは“首輪付き”を殺す最後の一撃を行う事が出来た。激戦が終了間近となった時、腕の機能を失ったUnknownに代わり彼女が操縦桿を共に握ったからだ。

 

 そして最大にして二つ目の要因は、“首輪付き”が殺した筈のセレン・ヘイズが生存していた事。彼女は奇跡という他無く生きていた。

 彼女は瀕死の体を引きずりながらも出陣する。そして、最初で最後の一撃で“首輪付き”を死に至らしめる「確実な隙」を作り出した。

 ……これは勿論、“首輪付き”と暮らした時間が最も長い彼女にしか出来ない芸当だ。

 

 

 

 人類種の天敵たる獣は死んだ。彼の乗るネクストには、鋭利な銃身が突き立てられている。

 制御を失った大質量は重力の力に吸い寄せられ、水底へと引きずり込まれて行く。浸水する海水が、搭乗者“首輪付き”の腹に開いた大穴にしみて激痛を走らせて行く。

 

 彼は静かに目を閉じる。自身の命が終わると理解した以上、もう出来る事は何も無い。ならばこのまま死を待とう。

 激しい戦闘のおかげか、壊れた回線から様々な音が聞こえる。彼が死んだことを喜ぶ声。ただこれからの不安を吐露する声。ただ冷徹に彼を罵倒する声。その全てを耳に収め、彼は微笑んだ。

 

 “───うん、もう大丈夫だ”

 

 信じられない事に、彼の行動原理は「人類の為」だった。元となった渇望は「悪を根絶したい」。「悪を喰らう悪」となって悪を殺戮すれば最後に残った自分こそ、この世総ての悪である。

 この世総ての悪として、総ての罪と罰を抱く。後は己が消えるだけで悪は根絶される。

 

 残るのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そして、この汚染された世界でもめげる事なく生きようとする人々。こうしてようやく、世界は真っ当な方向に傾く。

 少なくとも彼はそう信じた。そう考えて、実行した。自己満足だとしても、これが一番いい方法だと思ったから。

 

 消えゆく意識の中、最後の思考を巡らせる。

 

 “どうしてセレンさんは、生きていたのかな”

 

 それが分からなかった。自身はあの時確かに全ての敵を殺せたし、事実殺した。加減なんてなかった。容赦もしなかった。だというのに何故か?

 答えはありふれた事実。彼女が生きていた理由。それは至って単純な話。

 

 “───ああ、いや。なるほどそうか。僕は、セレンさんを殺したくなかったのか”

 

 人としての、「情」だった。

 

 

 ───お前には山ほど説教がある。楽しみに待っていろよ。

 

 

 しかし最後に、そんな声が聞こえた気もした。

 

 

 ✳︎

 

 

 

 死の先に待つのは地獄でもなければ、煉獄でもない。僕は今日、新たにそれを学んだ。

 意識が消え、目が覚めた時…僕の体は年単位で縮んでいた。脚と腕から見るに幼児ほどだろうか。

 

「っ痛…」

 

 身に纏っているのは懐かしの血の染みた清潔感など皆無な手術衣。包帯の巻かれた肢体からも血が染み込んでいて、黒色と化している。

 赤色に曇った視界であたりを見ると、散乱した電線とレポート用紙に、常時明暗するややこしそうな機材の群れ。セレンさんにインテリオル・ユニオンから拾われる前に死ぬ程見て、味わった光景だ。

 

「その割に………」

 

 あの腹立たしいエンブレムは何処にも無い。あれだけ自己顕示欲と自己愛の強い組織の事だから、何処かしらに自社のマークを刻むものだが…。

 そう思って周囲を見渡した瞬間、照明の無いこの部屋に極めて人工的な光が射す。入って来たのはガリガリな男。

 彼は白衣を着ているが、その眼の爛々とした輝きから医者では無く、アスピナ機関によくいる狂科学者(マッド・サイティエンスト)だとすぐ分かった。

 

「やぁ、初めまして検体No.53…ああこれ君の番号ね? 起きたらいきなりお母さんもお父さんもいなかったから、びっくりしただろう?」

「……」

「ひどく落ち着いているね? もしや夢だと思っているのかな? あぁ答えなくていいよ聞いてないし興味ないからどうでもいい。大事なのは君の身体をついさっき色々弄らせて貰ったって事。変化は成長と共にやって来る。我々はそれを見させてもらい、見込みなしとしたら処分させてもらうよ」

 

 …早口は嫌いだ。聞き取れないし。あと、こんな喋り方をする人にはあまり良い印象がない。自分に酔い切って、勝手にベラベラ喋って陶酔して、悦に入って見下して来る。

 目を合わせたく無くて、少し下を見る。それを見て科学者の方は気を良くしたのか、あからさまな侮蔑を込めて頭に手を置いた。

 

「わかったかい、NO.53」

「それ止めてよ、子ども相手にみっともないな」

 

 すごいムカついたからその手を振り払って、血の混じった唾を吐いてやった。

 

「僕にはヴォルフガングってなまえがある」

 

 あの人から貰った姓名…“ヘイズ”は絶対に名乗らない。それはもう捨てたし、袂を分かった以上名乗る資格も無いだろう。

 だけど、この与えられた名前だけは名乗りたい。これだけは唯一譲れない。

 

ヴォルフガング(狼の道)だと? ハッ随分と大層な名だな、一銭にもならない道端の芥(ストリートチルドレン)風情が」

「ッ!……ぁ゛」

 

 だけど科学者は僕に唾をかけられた事に、余程腹を立てたのだろう。

 わざわざ血の染みた包帯を圧迫して来た。包帯の下の傷はまだ癒えていないのか、冗談みたいな激痛が走る。神経の中に針を突っ込まれたみたいだ。

 

「お前の名前は53、それで十分だ分かったな?」

 

 ……勝手に言ってれば良い。それでも僕の名前はヴォルフガングだから。

 しかし…うん、まぁ、大体今の状況が分かって来た。

 

 僕は死んだ後、どういう訳か“別の誰か”として生まれた。そう考えた理由としては、先ず体格の違い。そして目の前の科学者が僕を前に恐怖の感情を一切抱いていないという事。

 そして再び生まれた僕はストリートチルドレンであり、だからこそ眼前の科学者の「実験」に利用されたという事と、そしてこれからも利用されるという事。

 

 …この辺りは死ぬ前と変わらない。やっぱりインテリオル・ユニオンは滅ぼして正解だった(私怨)。

 

 だけど…これからどうしたものか。ともかく、今は生きたい。野垂れ死ぬのはともかく、あいつの糧として死ぬのは絶対嫌だ。

 

 …生き残る為には、腹立たしいがあの科学者の「求める結果」を出し続けなければならないだろう。つまり「優秀」である必要がある。

 先ずこの科学者の実験の目的、課題、等々…を知らないといけない。

 

「…はい……(いやだけど)

「最初から頷いとけばいいんだよ、無価値野郎」

 

 …その一言を最後に科学者は出て行った。

 

「…よっ…っと」

 

 その隙に床に落ちていたレポート用紙を拾う。そこに書かれているのはきっと今僕が受けている実験についてだ。

 ……インフィニット・ストラトス(IS)。原因は不明であるが女性にしか扱えない兵器。当実験はその例外を生み出すもの、つまり男性操縦者を創り出すことを最低限の目標としたものである。

 理想的な最終目標は織斑計画(プロジェクト・モザイカ)成功体、現世界最強である織斑千冬とする…と、書かれている。どうやら世界最強を目標に、僕は使い潰されるらしい。

 

 

 そこから数年がたった。想像以上とも以下とまではいかないが、やはり地獄がそこにあった。だから生きる為に殺し続け、自身を痛めつけた。己は優秀であると証明し続けた。

 しかし足りない、不足であると科学者達は不満を口にし、更に僕の体を改造する。皮膚は何度も裂かれ、臓物は何度も掻き回され、得体の知れない何かを身体に満遍なく埋め込まれ、酷い匂いと味のする薬品を流し込まれ、それでも足りないと尚弄り回された。

 

 一体、何処までが「僕」なのか分からない。何度も何度も脳髄ごと肉体を作り直されていく内に、自己の体が自己の体でないように思えた。

 それでも生きる事を強制された。やはり死なせては貰えない。何が何でも生き永らえさせられた…生きるのに疲れ始めたのはいつだっただろう? あれほど執着した「生」に、今は微塵も輝きを感じられなくなっていた。叶うならさっさと死にたかった。

 

 

 

 …そしてとある日───僕は出会った。

 

 半壊し、開いた壁の穴から覗く()()()()()()()()()()。それをバックに、とても悲しそうな顔で僕を見る女の人に。

 

「……すまない、遅くなった」

 

 知っている。僕は彼女を知っている。何度も彼女の戦闘データを見た。僕は彼女を目標に身体を弄り回された。

 世界最強、織斑千冬。彼女はまるで冗談みたいに、残酷なほどに、セレン・ヘイズ(あの人)に似ていた。

 

 

 ……何故だか、無性に泣きたくなった。




・首輪付き(現在ショタ状態)
今作では元々インテリオルの実験体で、セレンが救出してインテリオルを抜けたという設定。
 本名ヴォルフガング・ヘイズ。名付け親はセレン・ヘイズ。利用されるだけの狗では無く、戦い生き抜く狼となれという願いを込めて付けた(なお結果)。世は諸行無常である。仕方ないね。
 私は彼を“純粋で若過ぎた、尚且つ賢く聡過ぎた少年”と解釈。ACfaの世界は本格的に詰んでいると理解し、どうにかするには根本的な奴ら(及びそれに準じた奴ら)を皆殺しにするしかねぇ! と思い、オールドキングの依頼を覚悟完了状態で快諾した。
 最終的にはジョシュア・グリント引っ張り出したアナトリアの傭兵に討たれ、安堵の中に死んだと妄想。

現状:まーた人体実験かよ…つらいたすけ(心身あぼん)
詳細:ISを操縦出来るように身体を色々と何度も弄られた。起動はできたけどちょっとしか動かない。
 科学者達は唯一の成功例なので実験を継続し、彼を唯一の男性操縦者+最強のIS乗りにしようと躍起になっていた。ちっふーの救助が間に合わなかったらファンタズマ・システムみたいなやつが採用されてたよ、あっぶねぇ。

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