大変お待たせしました…すんません…
今回はまぁほのぼのっぽい感じ。
割と長めかもしれないのでごゆっくりん
サブタイのreallyはマジで?くらいの軽さです。
買い物:shopping───貨幣により品物を手にいれることであり、買物は気晴らしや娯楽として行われることがある。
店舗にある様々な商品を見て比較し迷ったり購入の決断をすることを楽しむ人がいるのである。
買い物とは日常に欠かせないもの。人類種の天敵が前生に於いて墜落させた空中居住空間“クレイドル”に於いても、それは行われていた。
しかしそれは、閉鎖された経済活動だ。そういった意味では、クレイドルでの生活は───汚染され切った地上の民が暮らす地───コロニーと遜色変わりなかったのかもしれない。
ともかく、ヴォルフガング・イェルネフェルトは織斑千冬に「モールへ買い出しに行くぞ」と言われた時、その顔を苦くした。
この少年は「商売」や「企業」や「利益至上主義」というモノに良い印象を持っていない。彼が“人類種の天敵”として生きていた世界での「企業」は、余りにも腐り切っていた故にだ。
だからショッピングモールでの買い物にもあまり期待を寄せていなかった。
モールの光景を見るまでは。
赤、緑、黄…と広がる極彩色。それぞれが葉や実、根に取り分けられた上で籠に収められ、行儀よく整列している。
青々とし、しかし瑞々しい匂いが嗅覚を叩く。収穫された作物が陳列したこの場を見て、ヴォルフガングはこう言った。
「……テーマパーク????」
「何処から何処を見ても食料品売り場だ」
スパーンと付添人ラウラ・ボーディヴッヒのツッコミが白い長髪をひっ叩いた。
その際“おう”っと小さく少年が呻く。
「冗談だよ…先生の怒るポイント謎だよ…」
「新手のボケか、今のは。薬物にでも手を出したかと思ったぞ、割と本気で」
「これ僕キレてもいいポイントだよね?」
険悪な字面だが、その実二人は楽しそうにしている。なので何も問題は無いなと判断した織斑千冬は、はしゃぎ過ぎるなと釘を刺した。
今回モールに来た目的は買い出しだけでは無い。もう一つの目的は「ヴォルフガングの頭を平和な状況に慣れさせる」ことである。
言ってしまえば
ラウラがこの運動の付添人を務める理由は、彼女が少年に常識を教える立場だったのに加え、過日の襲撃騒動からの反省からの案だった。
「とは言え、本当に雑誌で見たテーマパークみたいだと思ったのは本当だよ。初めてきたからね、ショッピングモール」
薄々と今回の買い出しの目的には気付きながら、白長髪を一つ結びにした少年はカラカラと笑っている。初めて目にする物には誰だって興奮する。
銀の長髪と眼帯の少女はそれに絶句。よもや此処まで外を知らぬとは思わなんだ。
「こいつはこういう機会を設けなければ、近場の市場か、訓練場か、医療棟にしか足を運ばないからな……」
「教官……」
遠い目をした最強を見て、ラウラの目が憐憫に変わると同時に「この人でも出来ない事はある 」という認識がラウラの中で確たるものとなった。
尊敬の念は未だ強いが、以前の様な崇拝じみた域では無い。却っていい傾向なのかもしれない。
そして内心で猛省する千冬。多忙さを理由にやるべき事から目を逸らしていたと後悔真っ只中。確かに法令やら学を教える前に、こういった活動の機会を多くすべきだっただろうか。
……しかしながら、法知識がなかったらなかったで白い少年は問題を起こし得るので、織斑千冬の対処が一概に間違いとは言えないのだ。
「今日は何買うの? 食料品?日用品?」
「両方だな。人手も増えたんだ、買いだめして帰るぞ」
「分担は……しない方が良いですね」
それはともかくとして、今現在すべき事は買い出しである。過去はあくまで反省に使えばいい。未来に活かせればそれで良しなのだ。
メモ帳を確認し終えた千冬はカートとカゴを持って売り場の方へ足を運ぶ。
いつもよりやや騒がしい買い物が始まった。
───野菜売り場
「なにこれ?新手の鈍器?」
「ドリアンだ、酒に合う」
「……教官?今何と?」
※ドリアンとアルコールの食い合わせは本来、命に関わります。常人は絶対真似しないで下さい。
───魚売り場
「…ミル貝ってグロイ」
「………キモいな」
「気持ちは分かるが口を慎め馬鹿ども」
ミル貝の、でろんと伸びる大きく発達した水管を眺めながら感想を述べた少年少女はひっ叩かれた。当然である。
───雑誌売り場
「………………」
「目で訴えるな、買わんぞ。買ったらお前はまた夜更かしするつもりだろう」
「クロスワードに対する情熱を少しは常識を守る方に使えんのか貴様は」
眠れない夜にはパズルがうってつけです。(頭を使うと眠れなくなる場合もあります)
そんな具合で、騒がしくも淡々と買い出しが終わった。一行は現在、フードコートで昼食を終え、食後の小休止を取っていた。
しかし突如黒服の女が織斑千冬の前に現れ、何やら報告を入れた。それに目を見開いた彼女は、黒服の女と共に席を外す。
それと同時、残された二人の周囲を私服の男女が取り囲むように席に着いた。雰囲気や足運びから、一般人でない事は明白だ。
言うまでもなく二人の護衛だろう。そのうち一人の女性はIS所持者だろうかとラウラは雰囲気で、ヴォルフは直感で把握する。
織斑千冬は、私服の護衛者達に要警戒を促してから場を離れ、この一連を何でもないかのように見ていたラウラとヴォルフは、千冬が去ったことをさして気にせず休息に浸り続けた。
✳︎
チフユが黒スーツの人と何処かに行って、僕とラウラだけが残された。
いつの間にか、僕らの周りには手練れが群れを成している。恐らく全員警護の人なのだろう。中にはレイレナード社の人間もいた。
警護は都合八人。そのうち一人、日本刀マークのシャツを着た男は、ギターケースを肩に下げている。その中身は恐らく物騒なものだろう。
そしてその男の隣、天使の羽みたいなマークのある黒ジャケットを羽織った女の人。あの人はきっとかなり強い。
…それにしても、あの男女はやけに距離が近くないだろうか。まぁ気にしても僕にとってはどうでもいい事なのだが。どうでもいいったら。
視界を“せんせー”ことラウラに移す。彼女は食後のデザートであるクレープを食べ終えたのか、お絞りで手を丁寧に拭いていた。
「…美味しかった?」
何とは無しに聞いてみる。
「まぁまぁだ」
何とも素っ気ない返事だ。
でも不思議と、冷たい印象は何処にも無い。
冷水を喉に通す。潤いが発声器官を満たす。飲み込む音が耳中に響く。
ガラスの窓から降り注ぐ陽光が、僕らを照らす。聞こえる音は食事と子供と親の音。平和で安寧極まりない、僕にとっては未だ慣れない時間の流れ。
“訓練場に行きたい” そんな思いばかりが強くなる。言ってしまえば今が苦痛で、脳が乾いている感じが凄い。お腹が空いているのに、餌がない。
「…今日はどうだった?」
そんな僕など露知らず、ラウラは聞いてくる。
純粋な疑問なのだろう。眼前の白ウサギみたいな少女は、小首を傾げてる。
煙に巻くのは憚れた。情というか、何というか、最近自分でも気づいたが、どうやら僕は誤魔化すことが余り好きでは無いようなのだ。
細かく言えば、本音を誤魔化すのが苦手だから、さっぱり言ってしまう方が良いと考えている。嘘つきよりはマシな姿勢かな?
「…んー、最初は楽しかった」
だから全部言う。
「色々綺麗だったり、グロテスクだったり、面白かったり…本当に最初の頃は楽しかったんだよ? そこは本当だよ?」
「………ああ」
神妙な顔で、先生は頷く。
その顔がちょっとチフユに似てて、何故か自然に頬が緩む。すると案の定怪訝な顔をされたけど、とにかく話を続けた。
「でも何処か冷めてる。退屈だと感じて、戦いたいと思わずにはいられなくなる。駄目なんだよ、どうしても今が耐えられない」
飢えている。今の僕は正しくそれだ。お腹が空いて、どうにもならない犬に過ぎない。僕は“変われない”それを良いことに戦いへの欲求は、心の中で強さを増し続けている。
縛鎖は理性のみ。やりたい事をやる為に耐えようとする。だけれども“戦い”とは一度味わえばやめられ無いもので、一つ行えば二を欲する。
ああ、もう本当煩わしい。心の赴くままに戦いたいけれど、それでは駄目だ。やりたい事が出来なくなりそうだし、それは今の綺麗な世界を壊してしまう。だから抑え続けなくてはいけない。
この綺麗な空と地を、自らの欲望のままに壊し尽くしたくは無い。それぐらいには此処は綺麗だから、此処に生きてみたい。
「……うん、まぁ、退屈だったよ」
なんともまぁ、滑稽で惨めで哀れで退屈な話だ。
「変われない事は、悪い事じゃない」
…ラウラの言葉に少し、驚いた。
「…やっぱり分かる?」
「ああ。存外、お前は分かりやすい方だ。
感情が直ぐ顔に出る」
くすりと小さく微笑む彼女は、身長に似合わず大人びて見える。それが奇妙で、不思議に思う。
「お前はまだ保護されて一年も経っていない。それどころか、たったの数ヶ月でお前みたいな奴が、変わるとは到底思えない」
真っ直ぐに見据えて、彼女はこう言った。
僕はと言えば、びっくり固まる。
ふと頭が軽くなった気がした。
「それでも、ゆっくりで良いんだ。少しでも真っ当に生きられるようになって欲しい。私も教官も、そのつもりでお前と時間を過ごしている」
純粋に、尊敬した。
僕には到底出来ないだろうその在り方。
恐らくは普通である筈のスタンス。
だからこそ情景は強くなる。
届かないからこそ、光り輝いて見える。
「…───ああ、安心した」
僕はきっと、変わらない。
所詮は獣、話しても仕方ない確信犯。
戦いが好きで、綺麗な世界が好きだと言う矛盾した頭。それが申し訳ないとは思う。だけど僕は綺麗な理念とか目的とか持ってない訳で、だから
だけど。
それでも“変わってみようかな”と、一時の気の迷いでも、少しでもそう思えたのならば、僕は“真っ当な方向”に前進しているのだろうか。
口元が少し緩んだのを自覚して、水を飲んだ。互いに沈黙。それは話題を変える合図でもある。
「お前は、やりたい事とかはあるのか?」
「あるよ、───宇」
突如、携帯電話の着信音が鳴り響く。
空席に置かれているバッグからはみ出している黒い携帯。チフユの物だ。
鳴り始めて1、2、3、4、5とコール音が続く。
「……長いね」
「いっそ出てしまえ、周りの迷惑になる」
「そうだね、火急の用事かもだし」
携帯を手に取り、耳に当てる。
電波が此処には居ない誰かと繋がる。
そして次の瞬間に僕は酷く驚いた。
『もしもし、千冬姉?』
…話には聞いていた。聞いていたとも。
しかしこうした形で言葉を交わす事になるとは思いもしなかった。どうも初めまして、どうせならその顔も見てみたかった。
「チフユは今留守だよ、用があるなら聞いておくけど、どうする?」
織斑一夏。チフユ
『え…あ、いや、それはありがたいけど…あんた誰なんだ?』
「えーっと…チフユの、弟の、イチカ?」
『あ、ああ…で、あんたは?』
「… ヴォルフガング。長いから、ヴォルフで良いよ」
声から困惑が分かる。そりゃびっくりするだろう。肉親、姉にかけた筈の電話からいきなり知らない人の声だ。
イチカは未だあたふたしてるけど、何となく、彼の人の良さが分かった。この状況で普通“ありがたい”なんて言うだろうか? 僕は勿論、まともな人も中々言わないだろう。多分。
「僕はチフユに保護観察されてて…リハビリというか、まぁお世話されてるというか、偶にし返してるというか、…ああ、チフユからイチカの事はちょっと聞いてるよ、自慢の弟だって」
なるべく僕の事は話さない。自分の立ち位置は流石に少しくらい分かる。一般の人に軽々しく言ってはいけないって事くらい。とは言え、質問にはきちんと答える。これは大事な事だと学んだばかりだ。
『いや待て待て待て保護観察って何だよ!? お前一体何したんだ、あと世話って何だ、お前千冬姉に何もしてないよな!?』
「僕、白兵戦の経験あんまり無いからする前に地面に転がると思う。はは、ミンチミンチ」
『マジでお前何なんだよ…』
「ん───…何だろう…」
あまり言わない方が良さそうなので、僕は話題をずらす。
「話変わるけどチフユって家事苦手?」
『…見たのか』
「冷蔵庫から雑誌が ビールのゴミの山が」
『…すまん。…俺が見た中では冷蔵庫に封筒が入ってる時もあった』
「…───ドイツのお菓子食べる?送るよ?」
『…いや、いい。それより、お前は一体…」
「ごめん、それは言えない。でもまぁ聴きたかったらチフッがべご」
イチカも苦労したんだなぁと思いつつ相槌を打っていたら、死ぬほど痛い拳骨脳天直撃。意識はクラクラチカチカ明暗中。身体はグラグラ揺れて今にも倒れそうな感じ。僕はそのまま携帯をなす術なく引ったくられる。
机に頭を伏す前に、揺らぐ視界の端には僕より先んじて鉄拳を喰らったのであろう、先生が頭を押さえて悶えていた。僕はと言えば机とキスをした所。
幸いにも、意識はあった。殺気は無いので多分咎める為と、あとは何らかの感情の発露がこの拳骨なのだろう。
「…ああ、すまんな一夏。仕事で席を外していた」
…柔らかい声だ。僕と話す時なんかより何倍も丸い声。チフユは少し疲れた顔だけど、何時もより多少は柔らかな表情だった。
ああ、なんだ。家族とはそういうものなのか。
姉とはそういうものなのか。
…少し、羨ましいなと思っている。
それがどうか気の迷いであって欲しい。
「…ヴォルフの事は話せん。…ああ、少しな。問題ない、心配するな」
無事と息災を祈る声。数えておよそ5分の時が流れた。互いに話は終えたのか、携帯を持った手がだらりと下がる。
ゆっくりとチフユが僕を見る。呆れたような顔。先の柔らかな顔はどこにも無い。それに何故か、少しざわつく。理由なんて知らない。
「…今回は多目に見る」
「はい…」
「申し訳ありませんでした…」
警句と謝罪。そんなやり取りの後、三人で帰る用意をする。荷物を軽く纏めて、分担。荷物の量はそれなりだから、まぁまぁな大荷物。
トレイやコップを片付け、ゴミを捨てる。いよいよフードコートから出ようとした時、ある一枚の写真が、正確にはポスターに目が止まった。
「…このポスター…」
「? ああ、MSFの宣伝か、それがどうしたんだ」
ラウラが不思議そうに僕を見る。
僕にはこのポスター…というか、ポスターに映る人物に間違いなく見覚えがあった。青い髪の女と、灰色の髪の男。二人とも白衣を纏っており、快活な笑みを浮かべている。この切り取られた一瞬にいる二人は間違いなく。
「いや、このポスターに写ってる人達…フェットの部屋に置いてあった写真に写ってる人と同じだよ、これ」
幾度も医師が寂しそうに眺めていた者達だった。
ブランクが長すぎたのでリハビリで何か書くかもしれません(真顔) っかぁー、やっぱ感覚あくと駄目ですね、変な文しか書けない…でも頑張る…
現状の首輪付き;獣から人に変わり…変わり…変わってお願い(懇願) 皆への配慮(弱)を覚えた! ■■の感情を取得した! まだまだ先は長い…。
・帰宅中の小話・
首輪付き(´・ω・`)「何か弟さん当たり冷たい気がしたぁ…」(強いんだろうなぁ戦ってみたいなぁ)
ちっふー(絶対今会わせたらあかん)
ラウラ(せやな)
・
通称MSF。1971年にフランスの医師とジャーナリストのグループによって作られた非政府組織。皆様ご存知世界最大の国際的緊急医療団体。
・フェットの部屋にあった写真。
男と女が幸せそうに笑っているモノクロ写真。二話で登場済。モノクロなのは撮影者である医師の趣味。彼の医務室に置いてあるので、患者や職員は割と見る機会がある。ちなみによく見ると女の方は右腕が欠損している。
・写真、ポスターの男
灰色の髪と瞳の男(21) 細マッチョ+黒タンクトップ+白衣といラーメンにケーキ突っ込んだ感じの男。フェットの弟子。医療棟の中には彼を知ってる人が割と多い。腕は破茶滅茶にいいが、側から見れば治療が雑極まりない。
・写真、ポスターの女
青色の髪と瞳の女(18) 隻腕+白衣+スポーツウェアという大味の複合体みたいな奴。フェットの養子。医療棟の中には彼女を知っている人が割と多い。現在養父とは喧嘩中。尚理由はくっだらないものである。
学園に入るまでにやらなきゃいけない話が2、3個程あるから許して…許して…
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