急募:人類種の天敵を幸せにする方法   作:「書庫」

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よぉ(気さくな挨拶)(土下座)(ほんとさーせんした)(リハビリ感ありありだけどユルシテ…ユルシテ…)(久々だからどっかガバってたらユルシテ…ユルシテ…)



White Dahlia(血泥の中で咲く花)

 ───また多くの日が巡り、最後の時が来た。季節は出会いと別れの季節と名高い春である。

 

 今日は織斑千冬の帰国前日ではあるが、日常は変わらぬまま送られた。

 強いて言えば送別会じみたものが小数人で行われた事ぐらいだろう。

 

 現在時刻は午後五時半。最後の日だからと台所に立ったヴォルフガングが夕餉の支度を進めている。長髪は結局切らず、後ろに一つ結びのままだ。

 女性じみた中性的な顔立ちと、身長が160にも満たない線の細い身体も相まって彼の性別を一見間違えさせられる。

 喉仏が出ている事が唯一ヴォルフが少年だと分かる識別点だろう。そんな事を考えながら、千冬は台所に立つ少年を眺めて居た。

 その視線に気づいたのか、ヴォルフは千冬の顔を見る。

 

「…何でじっと見てるの?」

「………いや、喉仏が出ているなと」

「男だもん、出るよ」

「…そうだな」

 

 “変なチフユ”とこぼしつつ、引き続き夕餉の支度に勤しむ少年。その姿をかわらずにじっと眺める女。流れる時間は緩やかで、聞こえる料理の音は平和を示している。

 この音を聞くのも、少年の姿を見れるのも、今日をもってしばらく見納めとなる。再会出来ると分かってはいるが、それでも別れは物悲しいものだ。

 …感傷以外にも、少年を見つめる理由は存在するのだが。

 

「…あの、凝視されてると落ち着かないんだけど」

「ああ、…すまん」

 

 最後の日、織斑千冬にはヴォルフに話したい事があった。それは彼のルーツに少なからず関わる事であり、千冬自身が犯した過ちでもあった。

 決して黙ったままではいてはならない。それでも口にするには勇気が必要で、一歩を踏み出す勇気もまた必須だった。

 

 …なし崩しに、躊躇ってる内に、夕餉の時は終わった。

 

 最後の日だというのに、今日も二人はいつも通りだった。変わらないままの日常を送った。そこから進展なんてかけらも無かった。

 ただ少しお互いの胸中が感情的になっただけ。だから、夕食が終わっても、互いに向かい合う形で席についたまま動かないのはごく自然な話。

 

「…今日は、夜更かしをしないか?」

「……うん、そうだね。どうせ眠れないし」

 

 千冬からの至極珍しい提案を少年は飲む。

 最後の日だから、と。

 

「…話しておきたいことも、あるからな」

 

 

 

  ✳︎

 

 

 時計の時刻は9時半。

 風呂も、何もかも、二人は夜を明かす準備を終えた。

 ヴォルフはソファに身を任せている。

 千冬はそのソファの前に脱力して座っていた。

 至極珍しいことに、白い少年は瞠目する。

 

「…あっという間に、一年が終わったな」

 

 背中を向けたまま、女は言う。

 

「僕にとっては、激動の一年だよ」

 

 少年は天井を眺めながら呟く。

 彼は自らの手首を眺める。傷は消えない。握力の持久性に期待はできない。自らの右目に触れる。左と違いぼやけは強い。自らの首に触れる。黒のチョーカーに隠された傷の首輪。

 傷だらけの身体。血に触れた肢体。科学に弄ばれた臓器と骨と神経と何もかも。かれは正に現代のフランケンシュタインの怪物。その評価こそ正当だ。

 

 ああ、だけれども───、

 

「…お前、ISが無ければと、思った事は、あるか」

 

 唐突な、あまりにも唐突な尋ねだった。

 最強のIS操縦者から、そのような言葉が口に出る。

 それに驚くのは、少年だけではないだろう。

 

「……チフユさん?」

織斑計画(プロジェクト・モザイカ)が無ければと、思った事はあるか」

 

 血を吐くような声だと、少年は思う。

 この間にも、織斑千冬は顔を決して見せない。ヴォルフはそれを無理やり見てはいけないんだろうと、顔を合わせる事などしなかった。

 

「お前は、自身がそうなる謂れが無ければと、その原因がなければと、そう思った事が一度でもないとは、言い切れるか」

 

 お前は私を恨んだ事はないか? 少年は、そう言外に聞かれているような気もした。

 

「無いよ、昔はそう思う暇もなかった」

 

 しかし現実はこうだ。血と血と血、それに塗れて、それを溢し続けた過日。そこに思考を挟む余裕は無く、最初にあった生きようとする意志すら、果てには失っていた。

 地獄を通じて獣は再び生まれ落ちたが、その恨みの対象は既にいない。

 ただ、彼は夢を見た。今はそれを糧に前を見ている。人の皮を被る事を覚えた。今はそれを踏まえて市井に溶け込めている。

 

「…私はな、この一年で自分のしでかした事の重さを再度実感したよ」

 

 女の声は暗く重々しい。懺悔と後悔。その二律を持ちながら、自嘲を喉から捻り出す。その都度に彼女は自身の胸に針が刺さる思いだった。

 息を吸い、深く吐く。覚悟か何かを決めたような一動作。意を決したように、織斑千冬は言葉を吐く。

 

「…織斑計画についても、白騎士事件についても、

 ───お前はもう、きっと、知っているんだろう?」

 

 それはどちらも、少年の身を弄くり回した試みの根幹。後者においては、現社会の体制を築き上げた一大事件とも言える。

 IS開発者、篠ノ之束が起こしたとされるもの。犯行動機はISの価値を認めさせるという至極単純なものであるが、その内容はあまりにも度がすぎていた。

 否、度が過ぎているという言葉すら足りない。

 

 かの天災は、日本本土を攻撃可能領域である近隣諸国のミサイル数千発。それらを掌握し、その上その全てを本土へと向けた。

 一つの島国が焼け野原と化す筈だったが、突如現れた白銀のISを纏った一人の女性によって無力化された。その後も、各国が送り出した数多の兵器全てを、その女は人命を奪うことなく破壊した。

 この所業によりISは「究極の機動兵器」として一夜にして世界中の人々が知るところになり、そして「ISを倒せるのはISだけである」という束の言葉を事実として、敗北者たる世界は無抵抗に受け入れるほかなかった。

 これが白騎士事件のあらましだ。

 

「…拾われて、間もない頃の記憶は朧げだけどあるんだ。初めてチフユと会った日のことは、かすみ程度だけど、記憶にある」

 

 前者の織斑計画は、遺伝子操作によって意図的に「最高の人間」を造り出す計画。女とその弟の出生と少年の身に最も深く関わったもの。

 少年の被験した計画“デザインド”は、この「最高の人間」を後天的に作り出すことも目標だった。

 

「…そっか、それじゃあ」

()()()()()()()

 

 織斑計画成功体も、ISが社会に浸透した原因の一つでもある白騎士も、織斑千冬その人だった。

 少年の因果が、今目の前にはいる。ある種、彼の運命を決めてしまった者が、目の前には今確かに存在している。

 

「卑怯だと嗤ってくれ。白状しよう、私はお前にこの事実を告げることから、ずっと逃げていた。

 怖かったのだと思う。お前から恨まれる事が。それが逃げて良い理由になるはずないというのに……謝罪する。すまなかった」

 

 織斑千冬は逃げずに、その全てを告白した。

 その時になれば顔を合わせる勇気はなかったが、逃げる勇気もなかった。

 

 ヴォルフガングは、しばし沈黙する。

 悩む素振りは見られない。

 彼はソファから降りて、女の目前に座る。

 彼はじっと、織斑千冬を見つめている。

 千冬は目を逸らせなかった。

 少年は、彼女を見つめたまま言う。

 

「僕は人間だ。そうなれそうな気がする」

 

 彼は獣だ。闘争のみしか知らず、それにしか喜びを見出せない虎狼。だがその回路は静かに、しかし確かに狂い始めている。

 その原因は織斑千冬が大半を占める。それを踏まえて、戦場こそにしか居場所がなかったはずの白き少年は力強く、重ねて言う。

 

「僕は人間だ。それはチフユのおかげだ」

 

 自分の胸に手を当て、少年は笑顔を見せる。安らかなそれは、平凡な童が浮かべるものと、何ら遜色変わりないもの。織斑千冬は、それを目の当たりにして、瞠目する。

 

「僕は人間だ。チフユもそう」

 

 少年は両手を出し、女と繋ぐ。

 血脈の暖かさがそこにある。

 

「僕は人間だ。だから、憎めない」

「お前…」

 

 少年は、ぎこちないながらも女を抱きしめた。

 鼓動が伝わる。無防備な姿を晒す。

 それが信頼の証であり、友好の形だった。

 恨みなど、一欠片も無い。

 しかし、女は首を横に振る。

 

「納得出来ない?」

「…ああ」

 

 自責の念は晴れなかった。晴れて良いはずがないと、女は自身の心を自縛する。

 少年は悩む。こればかりはどうしようもない。きっと彼女はこの念に身を縛り続けるし、だから少年が“憎まない”という意思を示した事に、いつまでも頷けない。

 だが思いついたように、少年は笑った。ちょっとした罰ゲームみたいなことでもすれば、幾分心が晴れてくれるだろうかと、ややズレたことを考えて願う。

 

「………じゃあ、膝、貸してよ」

 

 最後の日ともなれば、少しは甘えたくなる。

 自分の小さな我儘を込めて、少年は言った。

 

 

 

 ✳︎

 

「…おい…本当にこれで、良いのか?」

「うん、だって世界最強の膝枕だよ? 

 安心するし、落ち着くよ」

 

 寝台の上、織斑千冬の膝を枕にヴォルフは呟く。

 頬は緩み、目蓋は少し下がっていた。

 紅玉じみた赤い眼差しは睡魔に蕩けている。

 

「…ああ、結局一緒に月、見れなかったね」

「…覚えてたのか、お前」

「そっちこそ」

 

 小さな夜の語らい。

 これを最後に、二人は長い別れとなる。

 再会は遠くなるだろう。

 

「…帰国して、それでIS学園に行くんだって?」

「調べたのか?」

養父(おとう)さんから聞いた」

「そうか…」

 

 長い白髪に女は何となく触れる。

 結局これは切らないままだなと、思いつつ。

 少年は撫でられたのかと勘違いし、微笑む。

 

「もしまた会えたら、僕は生徒?」

「もしではない。絶対だ。

 忘れたか、私はお前を逃さない」

「…覚えてたんだ」

「…ふん」

 

 終わりに二人の頬が緩み、そして最後の一言を。

 

「…いってらっしゃい」

「行ってくる」

 

 

 

 




 ───別離完遂───

白のダリア…花言葉:感謝

・その後
首輪付き…携帯にちっふー、黒ウサギ隊、医師、レイレナード組、イェルネフェルト夫妻のアドレスが登録済み。メールを打つと何故か暗号化する。

ちっふー…帰国後おりむーからめっさ質問責めにされる。話せないので適当に誤魔化して答えてたら関係が拗れそうになった。危ねぇ。首輪付きにメールを送るけど返信が大体暗号化してるので解読に時間がかかる。

幕間挟みつつ次回から学園行くよー

UA20000記念話

  • ドイツ大人組飲み会
  • IS学園掲示板
  • レイヴン押し倒され騒動
  • ヴォルフ女装話

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