C.F: Excalibur
オルコット家。かつては名のあるイギリスの名門貴族の一つであったが、その担い手である者達は過日の列車事故により呆気なくこの世を去る。
かの家に遺されたのは遺産と、一人娘とその従者。ウォルコット家の遺児は、周囲の大人達から自らの家を守るために研鑽を惜しむことなどなかった。
それに目を付けたのが、後のBFF社長“王小龍”の側近の一人である“メアリー・シェリー”という女だ。
彼女は程なくしてオルコット家の遺児───“セシリア・オルコット”と接触し、BFFへ勧誘する事を決定した。若輩ながらも資産を守る手腕を鑑みた上で、経済競争の中で妥当な戦力となると踏んだのだ。
オルコット家従者“チェルシー・ブランケット”を仲介人とした交渉の結果、メアリーは“オルコット家の遺産”に「BFFの資産」という名目を与える代わりに、彼女のBFFへの服従と、就職後の一定の成果を請求。
これは無事に受理され、今や欧州の大規模企業と化したBFFという最高規模の隠れ蓑を得たオルコット家の遺産は、今日至るまで守られている。
そして現在。BFF本社の社長応接室にて、権力者たる王小龍はとある者と対峙していた。
「───さて、そちら側の要求を飲んで、今回この場にオルコット嬢は招かなかった。この事を留意した上で、話を進めよう、チェルシー・ブランケット」
チェルシー・ブランケット。オルコット家の専属従者その人。彼女は普段纏っているメイド服ではなく、正装でこの場に出向いている。王小龍もそれに答える形で新品のスーツで出迎えている。
今回の話し合いの場は翁により用意されたもの。王小龍は、オルコットについて一つの懐疑点を持っていた。
「本題から入ろう “剣”とは、何だ?」
「…なぜ、貴方がそれを?」
「……私とて地獄耳ではない。藁にもすがる思いで当たったが、まさか当たるとはな…」
何らかの隠語。翁がそれを口にしたとたん、チェルシーの目は鋭くなる。
テリトリーを守ろうと躍起になるもののそれだ。
王小龍はその答えとしてとある家の名前を答えた。
「始まりはウォルコット家だ」
「…オルコットとは違うのですか?」
「血を分けた家が一番正しいか」
老人は余裕綽々と茶を啜るが、対照的にチェルシーは警戒の目を緩めない。それどころか、翁の喉元に食らいつかんとばかりの眼力を放っている。
それを気に留める事なく、小龍は話を進める。その様を見たチェルシーは、次第にその双眸を冷静なものへと変え、それを見計らって、翁はまた口を開く。
「“ウォルコット”は
所詮、分家だな。だからこそ、オルコットの遺産に隠れ蓑を与えるのが比較的容易にはなったわけだが…。
───一つメアリーが気にかけていたことがあった。セシリアの親は、死亡前に一度身分を隠した上でウォルコット家とコンタクトを取った形跡がある」
ここで、チェルシーに明確な戸惑いが生まれる。
王小龍は苦虫を噛み潰したような面持ちだ。
「それからだ、ウォルコットの先代当主も、セシリアの二親も、揃って不審死を遂げたのは」
能面の様な老人の面持ちが、鈍く鋭くなる。
対照的に、チェルシーの顔は陰鬱としたものだった。
「…不審死と、言い切るのですね」
「他に何がある? …奴が事故などで死ぬものか」
吐き捨てるかの様に老人は言う。どうやらウォルコットの先代当主は、彼にとって大事な存在であったらしい。それを察したチェルシーは、意外そうな顔で小龍を見る。
彼女から王小龍に対する印象は、極めて悪い。列挙すれば、無慈悲な昆虫。餌のみを食らう狡猾な梟。情のかけらなんて少しも無い鉄の心臓の持ち主と言ったところだ。
だからこそ、今の王小龍の姿は新鮮極まるものだった。
「話を戻そう。どこで剣を知ったか、だったか。
便宜上、現在ウォルコットの当主である姉弟は、先代からの遺言に一つ不可解なものがあると報告してきた。
高度な暗号に隠されていたが、先週ようやく解読出来たとの事だった。曰く“亡霊により失われるだろう剣を取り戻せ”とな」
暗号を解いた先にある何らかの隠喩。それを紐解こうとしたが、手がかりらしきものは一つとして見つからず、もはや投げ槍にも等しい思いで“オルコット”そのものに問うことにした。
王小龍は、セシリアの両親が身分を隠し、ウォルコットに接触した点?そしてセシリアの二親が死した後のセシリア本人の奮闘を見て、彼女が“剣”について何か知る得るものは無いだろうと括っていた。
「…王の手にはいつの時代も剣が必要だ。
無論、王は私ではないがな?」
武威、王権の象徴たる剣。翁はそれを欲した。
剣を知る従者はその訳を問いただす。
「貴方は───、貴方は、一体何を目的に?」
暫しの沈黙。しかしそれが破られるのは存外にも早く、また秘匿性などかけらもなく訳を明かされる。王小龍の思考において、眼前の女性は驚異足りえないものと処理されている。
「…ISは、兵器として運用するには不完全だ。殆どの者はあれの真価を見ないフリをして誤魔化しているが、いつかはそれに直面するだろう。
それが天災によるものか、時代によるものかは未だ分からないままだが」
彼はISに兵器としての期待はしていない。現状BFFがISの装備を作成しているのは、それで一定の収益を確保出来るからでしかない。
つまり、BFFは大規模総合企業であるにも関わらず
「我々の罪はいずれ積もる。この星には飽き足らず、宙にすら塵芥を投じたという負債は、必ず我々にのしかかる。
だがこれは───新たな事業のチャンスと言える。その先駆けとなり、新たな循環とフロンティアを築き上げる。それが私の目的だ。
その為にも、
だからこそ、私は剣を確保したい。戦力はいくらあろうと不足する。亡者とはそういうものだ」
それは過日に抱いた夢と確信。積年の研鑚と野心の積み上げた舞台。今や最強の兵器ともてはやされた技術の塊の真価に目をつけた男は、着実に目論みの達成に王手を手繰り寄せる。
恐ろしいのはここまで動いてなお、その胸にある理念はあくまで自社への利益だということ。彼はあくまでも、BFFの為にしか動かない。何処までも商売人な翁。
「さて、どうするチェルシー・ブランケット」
「…一考のお時間を」
「良いだろう、その間に状況は動くだろうが」
その目論見を阻む亡霊を誅す為。
宙にある聖剣に、老王の手が伸びる。
「しかし一つだけ───、年寄りの冷や水は、寿命を縮めますよ?」
「忠告、痛み入る。だがこの様な老耄に、代わりなどいくらでもいる」
✳︎
───亡国機業地下拠点。
緑髪の男アイザック・サンドリヨンは、機材が等間隔に配置された部屋の中央にいた。
彼の眼前には「白色かつ人型の、武装した機械」があり、アイザックはその機械に鋼材と電子回路でパッケージされた、子供の頭程の大きさの何かを収めた。
「調整完了。どうです? “新しい身体”の具合は?」
「…───…サん、ど り ョ ンん 、ん」
「…失敗のようだね、期待外れだ」
人型の機械は、パッケージを装填された時に音声を流した。それは途切れ途切れな声。音程も乱高下であり、明確な理性などかけらも匂わせない。
アイザックはそれに失望を隠さない言葉を送る。その言葉を受けてもなお、人型の機械は崩れ落ち、その場でのたうちまわり、呻き声を発するばかりだ。
「やはり機械への完全移植に人の方が耐えられないか。となると単純にコア付きのISに脳髄をパイロットとして装着するのも───」
しかし、その白い機械は膝を付いた。
身体中を軋ませ、震えさせながら、それは蠢く。
極めて倫理から逸脱した何かが、今成立する。
「ゔ、ぁ、…ガ…ガァアアアアアッ!!!」
機械が───吠える。それと同時に、白いそれは両足で立った。その両手に備え付けられたパイルバンカーもまた装填音を鳴らし、背にあるブースターからも熱気が放たれた。
アイザック・サンドリヨンはそれを目の当たりにして、震えた。それは恐怖ではなく、狂気の恍惚から来たもの。彼は無常の歓喜をいま味わい、陶酔する。
「───素晴らしい…っ! 君のその戦いへの執念、それは何処から来ている? いや口にする必要もなかった! 羨ましいんだろう、唯一の成功体、あのイレギュラーが!」
狂気の大爆笑。それに応えるかのように、頷くかのように、白い機械は再度吠える。
「君達12人の子供達は、希望と願望を持って“デザインド”に自己志願したけれど、成功したのは53人目のあの少年ただ一人。
君達は糧にすらなれず、ただ失敗作として破棄され、しかしあの少年は今や闘争へ参加する権利を得るにまで登り詰めた」
パッケージされたものは人の、子供の脳。
それは“デザインド”の失敗作。
それは破棄された執念の塊。
今やかの執念と斬鬼は、機械の体で新生する。
「君の帰還を歓迎するよ、ようこそ戦場へ。
記念に名前を贈ろう。君の名前は───カプリコルヌスだ」
1人の尖兵が、今ここに現れた。
ゾディアックは全員出しません(出せません)
・王小龍
あくまでも社長。それ以上の逸脱は行わない。
野心が実る日は未だ遠い。
・チェルシー・ブランケット
現在クッソ焦ってるけどポーカーフェイスで誤魔化した。
聖剣をどうしたものか。
・カプリコルヌス
“デザインド”被験者の一人。とある理由で更なる戦いを望み、実験参加を志願したが、廃棄処分された。同じ被験者のNo.53に対し強烈な嫉妬と渇望、そして希望を抱いている。
・アイザック・サンドリヨン
活動開始。彼の目的は未だ不明たが、彼もまた“戦いを望む者”の一人。だがその渇望の果てには、おそらく何もない。
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