───世界に激震が走る。その原因は極東の島国、日本から報じられた一つのニュースだ。その内容は至って単純ながら、しかし今の世界が揺らぐには充分な内容である。
“世界初、男性IS操縦者発覚”
女尊男卑化、そしてIS事業の誕生。最強を決めるための祭典であるモンド・グロッソの開催。その変化の有り様は目覚ましいものだったと、断言しきっていい。
そうして生まれた風潮の中で、“男性IS操縦者”の誕生は極めて異例的であり───またどのようなものであれ、目を離せないニュースだ。
実際、この一件を機に、発見国である日本を筆頭とし、世界中で男性へのIS適性検査が大々的に行われた。
「…えっと…思わぬ幸運?」
所変わってドイツ軍部病棟ロビー。通院に来ていた長白髪の少年ヴォルフガング・イェルネフェルトは、今朝から報じられているニュースを眺めつつ、同行していた自らの養親レイヴンに恐る恐る目を向ける。
「そ゛う゛た゛な゛」
「ヒェッ」
少年の養親である彼の浅黒い肌と精悍な顔つきは、今や精神的な疲労で土気色と骸の顔付きへと変貌していた。レイヴンは軍部でも高い立場に在り、それ故今回の一件で未来に待つ苦難を察知し、早くも心をやられたのだ。
変わり果てた義父を憐憫の目で眺めつつ、少年は女性とも見間違え得るその端正な顔立ちを引きつらせながら、ロビーのテレビを眺める。
彼の表情に面白味・新鮮さ・好奇・期待は無い。
その理由は至って単純で、彼もまた“男性IS操縦者”だからである。厳密に言えば、本来ならばヴォルフが最初の男性操縦者だ。
しかし、今ニュースで報じられている者がおそらく“天然物”だとしたら、ヴォルフは“養殖物”という表現が適切だろう。彼は、男性操縦者と化した経緯が経緯だ。だからこそ今までのドイツは軽々しく、ヴォルフの存在を公表できなかった。
「…まぁ、君を公表し易くなっただけ充分か。今ならニュースで話題の“彼”に続く二番目という形で何とかなる。もちろん、“デザインド”については徹底的に秘匿するが」
「というか、僕の経歴も結構偽装するんだよね?」
「…まぁなぁ」
両手で顔を覆う養父。仕事に追われているのか、日に日に目の下のくまも濃くなりつつある。
心の中で謝罪と同情をしつつ、呼び出し音を聞いて診察室に入っていく少年。今度胃薬でももらっておこう。そんな微かな心遣いを胸に、ヴォルフは専属医師からの診察を受けた。
✳︎
新たな男性操縦者というニュースに、僕はあまり新鮮さを感じなかった。恐らく僕と“同郷”か、それに関係する誰かだろうと思ったからだ。
気になるところがあるとすれば、その人が強いかどうかぐらい。強いなら戦ってみたいし、弱いならどうでもいい。本当にその程度だった。
医師…フェットから処方された薬を飲む。定期的に飲まないといけないのは面倒だけど、これを飲んで身体を“調整”しないと駄目らしい。
というのも、実験の後遺症…昔が薬漬けだったせいで、免疫があまり正常に機能してくれてないから仕方ないとのこと。
その為に定期的に服用+注射する形でウィルス性の病気…インフルエンザとか、ノロウィルスとかへの耐性を上げるという処置を取っている。よくわからないけど、ワクチンみたいなものだろうか?
時刻は午後3時。今日は訓練場が黒ウサギ隊しか使えない日なので、僕は一等暇になる…というか、今は強制的に暇にさせられている。
日本で男性操縦者が見つかったから、軍の人達から“マジで下手に動くなほんともうお願いだから”みたいな文面の手紙が来たり、実際今の所家にいるけど周りが警備の人で溢れている。落ち着かない。しかも暇だ。
「…テレビ見よっと」
ニュースぐらいしかやってないと思うので、貯めていたBBCアースのDVDでも一気見しよう。
無為に日を過ごすのも、きっと悪い事では無いはずだ。そう思っている中で、僕はニュース番組しか映さない液晶に現れた衝撃的な文字を見た。
“男性操縦者:織斑一夏”
目を見開いた時と同時に、外にいた筈の軍の女性が部屋に入ってきた。彼女の手には僕の携帯があり、その画面には[通話中:チフユ]と表示されている。
没収されていたのに、わざわざ持ってきたという事は通話許可が下りているのだろう。僕は軍人から携帯を譲り受け、遠方の恩人と声を繋いだ。
「…えーっと、…おめでとう?」
『いい度胸だな、貴様。学園で待っていろよ』
みしり、と受話器を握る音が聞こえる。
でも声は心無しか柔らかい。
『…まぁ、お前の事だ。何と言えばいいのか分からんだけなんだろうが…』
「当たり。正直言って驚き半分、わくわくちょっと」
チフユの弟なら、きっと強いだろう。
本音を言うと戦ってみたくて堪らない。
「でも何でイチカに適性が出たんだろう?
『今の所は何とも言えん。…大方の目星はついているが…お前は知らないままでいい』
「そっか、チフユがそういうならそうだね」
下手な事には触れない。ラウラからも何度も言われた。これがきっとそうだと思ったし、チフユの言う事だから、多分本当に知らないままで良いんだろうと処理する。
「…そう言えばさ、なんでイチカに適性があるってわかったの? 普通に過ごしてたらISに触れる機会なんてそうそう無いよ」
『…』
ニュースを見た時に何となく引っかかってた。女性しか使えない兵器を、男が触れる機会なんて整備とか作成とかを除けば、ほぼ無いだろう。
ましてやイチカは学生だ。整備員を目指しているならまだわかるけれど、チフユからそう言った話は聞いた事がない。単に聞いてないだけなのかも知れないけど。
『………』
…けど千冬は沈黙のままだ。僕の思考は深くなる。どうやら何か並々ならぬ事情が───
『…藍越学園とIS学園の試験会場を間違えたそうだ』
写真付きのメールを受信する。そこにはチフユらしい筆圧で書かれた“藍越”と“IS”の字が書かれた用紙が貼り付けられていた。
は? え? なに? 嘘でしょ? これを間違ったの? いや表記からしてもう違うじゃん。アルファベットと漢字だしそもそも周りの人の性別で“おかしいのでは?”と気付くんじゃ…?
「
…ジョークじゃないんだろうなぁ…えぇ…いや、これは…えぇ…ちょっと困惑から抜けだせそうに無い。え、こんな事ってある? 普通ない…無くない?
「待ってごめん…え、イチカってバカなの?」
『否定する材料が欲しくなるな、ははは』
か、乾いた笑い声……、いやもう痛ましい過ぎて聞いていられない。何だろう、こう…純粋に胸に来る。こんな声今まで一度も聞いた事なかった。
というかチフユのこんな声自体新鮮過ぎる。ここ暫くの間に一体何があったんだ。一緒にいた時だってそこまで消耗した事は無かったはずだ。日本の労働状況ってどうなってるんだろう…。
『ヴォルフ…私はもう…もう…寝たい』
「……あー、えっと…仕事終わるまで電話繋ぐ?」
『………頼む……』
…よほど消耗しているらしい。勢いに任せた提案を飲んだ事に驚きつつも、外にいる軍の人に通話時間の延長を申請する。念のため、監視がついたままであるが、通話は無事許可された。
おりむー
目星をファンブルした男。本人の知らぬ所でバカ判定された上に何気なく首輪付きにロックオンされている。南無三。現在てんてこまい状態。学園に行っても波乱の日々。何気にハードモード。強く生きろ。
首輪付き
免疫とメラニンが殆ど死滅してるので薬が手放せない。免疫は一応正常に機能する時もあるけど、普段はあんま働いてくれない。今欲しいものはBBCアースBlu-rayBox
ちっふー
体は仕事で出来ている
血潮は酒で、心は機械
幾たびの山場を越えて不眠
ただの一度も休暇はなく
ただの一度も中断出来ない
彼の者は常に独り書類の丘で仕事に酔う
ならば、我が仕事に意味は不要ず
その体は、きっと仕事で出来ていた
レイヴン・イェルネフェルト
夜勤三連
書類、欠落ヲ不ラズ
心身、死滅ニ至リ
胃袋、冥府ヲ渡ル
休暇、上司ニ納メ
両雄、共ニ命ヲ別ツ
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