大学の関係により、執筆意欲の低下がしてしまい、投稿が大幅に遅れてしまった事を此処に陳謝致します。
実は忙しさも相まってもう書くのをやめようかな、とも思っていました。けれどやはり私は書くのが好きで、そして何より「続きを待っている」という旨のコメントを頂き、恥を忍んで戻ってまいりました。
見てくださる心からの感謝と敬意を。
そしてこれからまた、不定期ではあります拙作をよろしくお願いいたします。
頂いたコメントは必ず返させていただきますので、暫しお待ちを。
それでは───心優しき皆様の未来と瞳に
彼女が火種を撒いたのは、最初は小さな出来心と持ち前のプライドの高さからだった。
しかし彼女自身、こんな事になるなんてかけらも思わなかった。ましてや、己が敗北することなど。
「楽しかったよ、セシリア」
長い白髪が風に揺れる。舞い上がる土煙のを裂くように、バイザーの紅光が差し込む。
晴れた煙から現れる“黒”の機体。
殺意を具現したかのようなそれを見るだけで───セシリア・オルコットの震えは止まらなかった。
彼は一体何なのだろう?
化け物? 怪物? その誰もが当てはまらない。
彼女はただただ詰将棋のように勝利の道筋を絶たれた。
その結果が、自身のプライドを粉々にする敗北だ。
『勝者、ヴォルフガング・イェルネフェルト』
無機質な音声が、彼の勝利を告げる。
だがセシリアのもとに去来したのは████だった。
だからこそ、彼女の瞳は彼を睨んだのだ。
何故こうなったのか? それを語るには───しばし時間を巻き戻す必要がある。
───
織斑一夏がヴォルフガングを連れ出し、教室に戻ってきた後、普通に授業が始まった。
始まったのだが。
「織斑先生、すいません。教材を休暇期間に誤って捨ててしまったので再発行をお願いします」
それは余りにも衝撃的な始まりだった。中には吹き出した生徒も、絶句した生徒もいた。織斑千冬は一夏に反省文の提出と、教材の1週間以内での履修を課すことでその場は取り敢えずではあるが収まった。
しかしこの一連で、織斑千冬は実弟の変化に気付く。知っての通り、織斑一夏は自分で望みこのIS学園に入ってきたわけではない。
だからこそ、意欲なぞほぼゼロだった筈だ。
「……何があった?」
だが、織斑一夏の目はやる気に満ち溢れていた。使命感を帯びていた。やる気がない? 自ら望んで此処にきたわけではない? そんな事はもう言ってられないだろうが、とその双眸が語っていたのだ。
余りの変わりように若干引きながらも、良い傾向だろうと千冬は職員室でヴォルフに関した書類をまとめつつ、口元を緩ませた。
しかし教室にいる当人は───。
「ぉ゜ァ゜」
「わぁー…レイヴンと組手した後の僕みたい…」
教材による事前知識もなく、新たな知識の濁流を気合いと感情のみで相手取った結果、見事に脳味噌がキャパオーバーし、人としての言語すら話せない状態と化していた。
それをドン引きながらに見つめる白髪かつ中性的な容姿の少年、ヴォルフガング。
彼は墓前に備えるかのように菓子箱を置く。
「…ヴォルフ…後でわかんないとこ教えてくれ…」
「良いけど…今日は休んだ方が良いんじゃ?」
「いや…今の俺は周回遅れだからな…取り戻さねぇと」
ガバリと起き上がり、礼を言いながら菓子を口に放り込む一夏。そんな顔を物憂げに見つめるヴォルフ。
二人とも顔立ちが整っているため、周囲では何やら不穏な声が上がるが二人の男児は全力で聞こえないフリをする。
そんな彼らが共通の話題───“織斑千冬”について愚痴やら何やらを話していたところに、いきなり一つの甲高い声が割り込んだ。
「ちょっとよろしくて?」
「「ん?」」
二人が見たのは、縦ロールにセットされた長い金色の髪と緑の瞳。気品を感じさせる佇まい。表情は極めて攻撃的であり、それを目の当たりにしたヴォルフは瞳孔を開き、一夏は驚いたのか少し仰反る。
そんな驚愕と好戦的な反応など知った事ではないというかのように、彼女は声高だかに、恥じらうことも、躊躇うことなくこう述べた。
「何ですの!? その反応は! この私に話しかけられただけでも充分に光栄なのですから、それ相応な態度というものがあるのではないかしら!?」
「あ、イチカ、これやばい人だね」
「ヴォルフぅ!?」
それをノータイムでバッサリと切り捨てる無慈悲な白髪少年。悪気無く言っているので尚のこと始末が悪い。流石にあんまりじゃないかと目を剥く一夏。
ヴォルフの態度や発言に気を障ったのか、金髪の女は一夏を差し置き、ヒートアップする。
「イギリス代表候補生であるこのセシリア・オルコットを知らないようですわね…、ドイツは真面目な教育を受けさせているのか疑問になって来ましたわ…」
「……へぇ」
「おい、ちょっと待てよ。確かにこいつの態度は悪かったけど、言って良いことと悪いことがあるだろ」
沈黙していたが、どうしても聞き捨てならない一言を起点に会話に割って入る一夏、彼は自分よりもだいぶ背丈の小さいヴォルフを庇うように立っている。
「そもそもなんだよ代表候補生って、あからさまに人を見下せるほど偉いのかよそれって」
───織斑一夏はIS操縦者でありながら“代表候補生”を知らない。そんな事実に倒れたくなったセシリアと周囲の聴衆だったが、続く言葉で息を呑む音が聞こえた。
が、それはとそれとして先ほどから会話を聞いてた篠ノ之箒から叱責の声が飛んだ。鋭い声とともに、スパァンと実に良い音が教室に鳴り響く。彼女が一夏の頭部にツッコミを入れた音である。
「あべし!?」
「その言葉には頷けるが…普通文字からして分かるだろう!? 代表候補生と言うのは各国代表のISパイロットの候補になっている者の呼び名だ! わかったか一夏ァ!」
「アイマム!!」
ギャーギャーと喧騒が吹き荒れる教室。そこに終幕を告げたのは、次の授業時間が始まったことを示すチャイムだった。織斑千冬の出席簿ブレードを食いたくないのは誰もが同じ意志なのか、皆いそいそと席に着く。
その直後に、スパァンと教室の戸を開いて織斑先生と山田先生が入室してくる。千冬は教壇に立ち、大雑把にこう言い放った。
「早速だがクラス代表を決める。自薦他薦は問わない。やりたいものは申し出ろ。先に言っておくが、拒否権はない」
───沈黙。こういう場で我こそはと自分から手をあげる子どもは余りいない。
だが好奇心をもった何名かの生徒は徐に手をあげる。
「織斑君を推薦します」
「えっ」
「あ! 私も私も!」
「じゃ〜私はゔぉるゔぉるを〜」
推薦されたのは希少な男性操縦者。大方レアだからこそとか、そんな理由だろう。
ここまで来て自分名前が上がらないことが不満だったのか、セシリア・オルコットは机を叩きながら立ち上がった。
「お待ちなさい!! 納得がいきませんわ! 何故この私ではなくIS操縦の経験もない男が推薦されますの!? わざわざこんな極東まで足を運んだと言うのに、こんな島国の猿と一緒にされては困りますわ!」
ぶち撒けられた鬱憤と不満。
流石にこれには聞き捨てならなかったのか、織斑一夏も立ち上がり、セシリア・オルコットに対して吠える。
「イギリスだって島国だろ!! ハギスやらうなぎのゼリーやらとんでもないものばっか生み出しやがって! 食文化に至ってはお前の言う極東の猿以下だしな!?」
売り言葉に買い言葉。このまま終わらぬ口喧嘩が広がり、教師からの仲裁が入るまで繰り広げられるだろうと教室にいる生徒の殆どが思っていたのだが───これを終わらせたのは意外な声だった。
「ねぇ」
普通の声色だが、まさか自発的に喋るとは思わなかった。先ほどから一言も発さなかったから、黙ったまま終わるかと、誰もがそう思っていた。
けれど現実のヴォルフガング・イェルネフェルトは違う。彼は机にほっぺを押し当てながら、うだうだと、挑発するように言葉を吐く。
「別に好きなだけ言っても良いけど、後から恥ずかしくなると思うよ? ドヤ顔してたくせに水没したやつみたいに」
「いや誰だよそれ…」
前世の折、全盛期から程遠い
「あとさ、セシリアは多分凄い頑張ったんだと思うよ? だからその…代表候補生? っていう何かにもなれたんだと思う。けど、その肩書きに甘えてるんじゃ良く言っても『粗製』じゃないかな」
そして彼は努力は笑わず、その結果を嗤った。わかりやすく、生意気な微笑みまで浮かべ、ヴォルフガングはセシリアを見る。その眼光は獰猛な獣のそれと何ら変わりない。
見えやすい挑発を受けたセシリアだが、その肩はワナワナと震えている。彼女はキッとヴォルフガングと一夏に対して大声で宣言する。
「決闘ですわ! 手加減なんてする優しさももうありません! 徹底的に叩きのめしてやりますわ!!」
「やた!」
その瞬間ガッツポーズをとるヴォルフガング。
彼の顔は恍惚に歪んでおり、周囲から驚きの表情で見られていることなど気づきもしない。
彼はそのまま教卓にいる織斑千冬に対して、興奮冷めぬままに声を掛ける。
「ということでチフユ!僕とイチカとセシリアの模擬戦でクラス代表決めよ!」
「何が“ということで”だ馬鹿者…だがまぁ良い案だ。運動場はちょうど1週間後に予定が空いている。そこで模擬戦を行い、勝ったものをクラス代表とする」
今回の特別意訳
「……へぇ」→強いのかな?強いよね?楽しいよね?
「今日は休んだ方が良いんじゃ?」→万全でいてよ、楽しめないじゃん
今回わざわざ粗製呼ばわりしたヴォルフですが「プライドが高い→舐められる→手加減される」と察してわざと煽りました。全力で戦いてえのである。
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