急募:人類種の天敵を幸せにする方法   作:「書庫」

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paradigm shift

 ───あの裏切りを、あの言葉を、僕は絶対に忘れないだろう。

 

 気取った声のナルシスト、熱意を装った企業の傀儡、そのくせ分裂なんて起こして逃げた弱い人。

 オッツダルヴァ? マクシミリアン・テルミドール? 馬鹿馬鹿しい、アンタなんて結局どっちでもない人で、何もない奴だったじゃないか。

 

 ORCA旅団は確かにあの腐った世界の反抗勢力だった。

 けれど発端は「次の開拓地」を望んだ企業だった。

 お誂え向きのトップにNo.1の傭兵を据える。

 そりゃ、そうそうたる人達が集まるだろう。

 だが、集まった団員は捨て駒に過ぎなかった。

 用が済めば、後は団長が全て終わらせるだけ。

 

 “当然の報いだ、貴様らはORCAの名を貶めた”

 

 最後に裏切るプランだったくせに、最期まで「ORCA」という名にこだわり続けて矛盾した男。呵責と増長に耐え切れず人格までブレた男。それがあの男の正体だ。

 オールドキングはそれを知っていて、だからこそ企業についても、 ORCAについても未来がないと分かって、

 ───僕らは揺り籠を壊し尽くした。

 

 それからだ、あいつみたいに、高飛車な人がほんの少し苦手になったのは。

 

 

  ───

 

 アリーナに、一つの機体が降り立つ。青と黒を基調としたそれは、戦闘機にも似た先鋭的なフォルムをしていた。

 それは、レイレナード所属操縦者であるヴォルフガング・イェルネフェルトの専用機体こと“ストレイド”だ。

 

 操縦者は赤いバイザーを開く。限りなく人体に近いマニュピレーターを2、3回ほど握っては開き、不備がないかどうか確認した。動作は至って良好だ。

 

 遅れて、点検を終えた青い機体が降り立つ。

 “ブルー・ティアーズ”は、厳かに佇んでおり、至極静かに敵機である“ストレイド”を視界に収めているが、搭乗者であるセシリア・オルコットは、何が言いたげに口を開閉させていた。

 

「ねーぇ、イチカと戦ってみてどうだった?」

 

 右手にマシンガン“01-HIT MAN”を、左手にブレード“DRAGON SLAYER”を取り出しては握り締めつつ、ヴォルフは問いかける。

 戦前の語らいなど、あまりした事はない。

 しかし、心の余裕などが出来たおかげか、ヴォルフはあまり縁のなかったそれに興じてみる。

 

 対するセシリア・ウォルコットは、先の織斑一夏との戦いで何かがあったのか、しばし俯いたままだった。

 それでも、問いかけられればゆっくりと白い長髪の少年を見る。

 

「………そのことで、一つ謝罪を」

 

 ざふ、と揺れた音。ヴォルフの目には、頭を下げるセシリア・ウォルコットの姿が映る。彼は困惑し、何をやっているのか、と問うた。

 

「謝罪、ですわ。この度は数々の無礼、申し訳ありませんでした。

 …貴方や織斑さんを男だからと見下し、あのような罵声を浴びせた事を、ここに謝らせてください」

 

 ヴォルフガングは、首輪付きは理解出来なかった。あんな罵声なんて聴き慣れていて、別に気にしてなんかいなかったから、この結果は全くの予想外だったのだ。

 イチカとの戦いで、何か起こったのだろうかと彼はイチカとセシリアの双方に興味を持つ。

 

 一夏には彼と闘うことで起こる変化に。

 セシリアには起こった変化による戦いへの影響に。

 

 織斑ー夏は弱い。それは当たり前の事実だ。だがしかし、彼は彼でとても興味深いものを持っていると、ヴォルフは確信する。

 それが楽しい、本当に楽しい。人について知ることが楽しいと、明確な新たな芽生えがある。

 

「…そうだ。セシリアとあいつは違うんだ。苦手なところは一つもない」

 

 なら、わざとらしく煽ることも必要ない。

 真摯に向き合い、全力で叩き潰す。

 こんな戦い、滅多に出来ない。

 貴重な機会に、ひたすら感謝する。

 

「気にしてないから…って言っちゃうのも悪いんだっけ。先生…じゃないや、ラウラも言ってたし…今度何か美味しい甘いものでも、奢って貰えれば良いかな?」

 

 へにゃん、と柔らかな笑みを溢す。要望は微笑ましく、それに面食らうセシリア。

 しかし、ヴォルフにとっては何気ない事。

 

 試合開始の合図が鳴るまで、残り僅か。

 お互いが構えを取り、敵を見据える。

 鳴り響き出した試合開始を告げるブザー音、それと同時に、ヴォルフガングは姿を消した。

 

「なっ…!?」

 

 否、確かに彼はこのアリーナ内にいる。ISのハイパーセンサーが、確かにヴォルフの位置を感知した。それは、セシリアの真後ろだ。

 知覚は遅すぎた。驚愕の最中、ブルー・ティアーズは背後からブレードによる一撃を許してしまう。

 

「ふっ…と!」

「…! ならばこうですわ!」

 

 爆発の様に鳴るブースター噴射の音。またもや姿を消すヴォルフのストレイド。相手がスピード特化の機体とわかれば、セシリアはBT兵器…“ブルー・ティアーズ”を自身の周囲に展開させ、周囲全方向に対し攻撃する。

 感心する様な声。それは今も超高速で飛び続ける白い少年から。攻撃を避けるために、彼は一度だけ止まり、その姿を現した。

 それを見過ごすセシリアではない。彼女は武装の一つであるレーザーライフルである“スターライトmkIII”を放つ。

 

「そこです!」

「あっぶないなぁ! はっはははは!

 でも良い! すごく良い! 予想以上に楽しいや!」

 

 だが跳躍と共にかわされる。楽し気な笑い声、溌剌とした声がアリーナに染み渡る。

 嘲笑ではない。本当にこの戦いを楽しむかの様な笑い声。

 上空に位置をとった彼は、背部武装であるプラズマキャノンこと“TRESOR”をセシリアに向けて放とうとするが───既の所でそれを取りやめる。

 

「…わかっていましたわよ」 

 

 ヴォルフの飛ぶ先には既に二つのブルー・ティアーズが待ち構えている。

 ビット型の兵器は、即座にミサイルを吐き出し、敵を射たんとする。

 

「ならこうだ」

 

 だが少年はさして慌てることもせず、それどころかより一層楽し気に口元を歪めながら、TRESORの銃口をビットに向けて即座にプラズマの塊をぶつけた。

 爆風でヴォルフの身体と機体は後ろに吹っ飛ぶが、彼はブースターを吹かすことで即座に体勢を整え、そして縦横無尽に飛び回る。

 

「っく…!」

 

 ハイパーセンサーで捉えられても、思考と行動が間に合わない。次に彼はどこからやってきて、どう攻撃するのか、セシリアの思考リソースはその方向に割かれてしまい、BT兵器はその動きを止めていた。

 そこが第三世代ISの課題でもあった。イメージ・インターフェイスを用いた特殊兵器だが、稼働と制御にかなりの集中力が必要とされる。少しでもそれが乱されれば十全な機能など夢のまた夢だ。この課題がある限り、第三世代は未だ実験機の域を出ない。

 

 飛び回る機体からは、延々とマシンガンによる弾幕が放たれる。一発一発ごとの威力は低くとも、チリが積もれば山となる様に、決して無視できないダメージとなる。

 ブルー・ティアーズのシールドエネルギーは、着実に削られていく。底をつくのも時間の問題だ。

 

 だが───彼女は諦めない。せめて一撃? 少しでも削る? 否、否、否! やるのであれば勝つ。自身の努力の全てを叩きつけ、それで持って踏破し乗り越えなければならない。諦めなど論外だ。

 

「っ、あああああああ!!!」

 

 全てのビットが本体であるブルー・ティアーズの元へ帰る。接続を終えたそれらは、スラスターへと変貌する。

 ヴォルフは怪訝な顔をしつつも、攻めの手を緩めない。高機動で翻弄しつつ、マシンガンで着実にセシリアのエネルギーを削って行く。

 ブレードによる突撃案は、ヴォルフの中から消えた。彼の感が、明らかに何かあると察知した為だ。

 

「行きますわよ…!」

 

 セシリアが狙う一瞬は、軌道を変える一瞬。確かに僅かではあるが、その時だけはストレイドは動きを止める。自身が唯一喰らい付けるのはそこだけだと理解していて───それでいて尚、セシリアはヴォルフに勝つつもりでいた。己の矜持が、それを叫んでいる。

 

「…ああ、楽しい。本当に楽しい」

 

 万感の思いを込め、ヴォルフは呟く。競い合うこと。それが楽しい。戦いの中にある何かに、彼は清々しさを感じていた。

 だからこそ、手抜きなどする筈が無い。全力を持って叩き潰すし、躊躇などする訳もない。

 

 そうして、最後の一瞬は訪れた。

 

 ストレイドが確かに軌道を変えた瞬間。

 そこをめがけ、ブルー・ティアーズが飛び出す。

 スラスターを得て、それは爆発的な加速を生む。

 確かにセシリアはヴォルフに近付けた。

 

「インターセプター!!」

 

 叫んだのはブルー・ティアーズ最後の兵装の名。接近戦用のショートブレードが、セシリアの手元に現れ、一撃を喰らわせようとする。

 だが、足りない。首輪付きには追い付けない。セシリアの眼前にあったのは、自身より早く準備されていたブレードと、TRESORの銃口。

 

 回避が間に合う筈もなく───青い機体はプラズマとブレードによって地へと叩き落とされ…そうして敗北が確定的となった。シールドエネルギーが、確かに底をついたのだ。

 

 …彼女が火種を撒いたのは、最初は小さな出来心と持ち前のプライドの高さからだった。

 しかし彼女自身、こんな事になるなんてかけらも思わなかった…否、己が敗北することを前提に戦う事を嫌っていた。

 だからこそ、全力を以てヴォルフを相手取った。

 

「楽しかったよ、セシリア」

 

 だからこそ、少年はどこまでも楽しめた。消化的な試合など何処にもなく、単純に楽しいという一心が、彼を満たしている。

 晴れやかな笑顔。恍惚とした、危うげなものでは無い。まるで、スポーツを終えたばかりの様で、溌剌している顔だ。

 

 長い白髪が風に揺れる。舞い上がる土煙のを裂くように、バイザーの紅光が差し込む。

 晴れた煙から現れる“黒”の機体。

 殺意を具現したかのようなそれを見るだけで───セシリア・オルコットの震えは止まらなかった。それは恐怖ではなく、武者震いによるそれだ。

 

 彼は一体何なのだろう?

 化け物? 怪物? その誰もが当てはまらない。

 彼女はただただ詰将棋のように勝利の道筋を絶たれた。

 その結果が、自身のプライドを粉々にする敗北だ。

 

『勝者、ヴォルフガング・イェルネフェルト』

 

 無機質な音声が、彼の勝利を告げる。

 だがセシリアのもとに去来したのは“悔しさ”だった。

 だからこそ、彼女の瞳は彼を睨んだのだ。

 いつか、必ず勝ってみせると。

 

 




ヴォルフ→スポーツ的な楽しさを戦いの中で若干見出す。娯楽が増えつつあるので不安定さはあまり無い。ちなみに、古代スポーツは争いの代替という説もあった。また食欲は、三第欲求の一つでもある。

セシリア→最後まで「勝ち」を諦めなかった。ある意味特異的な人材であり、打倒首輪付きを目指す。一夏の波紋がデカすぎる。

オッツダルヴァ→首輪付きから滅茶苦茶嫌われている。高飛車な態度もそうだが、彼の旅団長としての在り方も納得出来るものではなかった。ぶっちゃけると進撃のライナー枠。
 詳細は活動報告にまとめてあるので気になった方は覗いてみてね。

UA20000記念話

  • ドイツ大人組飲み会
  • IS学園掲示板
  • レイヴン押し倒され騒動
  • ヴォルフ女装話
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