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『結局お前は辞退したと?』
『うん、レイレナードも“イベントに出すなら完全に仕上げたい”って。だからクラスの代表はイチカ』
『あの変態どもはまだ改造し足りないのか?』
クラス代表戦後のあくる日、IS学園屋上。
風に吹かれ、白い髪を流しながらヴォルフガングはドイツに居るラウラとSNSを通じてチャットをしていた。
なお、画面だけを見れば一面ドイツ語である。
『教官は止めなかったのか?』
『もちろんチフユからも止められたよ
“公平性に欠ける”とかなんとか』
『十中八九お前を野に放ちたくなかったと見えるな』
『(「・ω・)「
『ディスプレイ越しに引っ叩くぞ』
そんな会話を繰り返す途中、ヴォルフの隣に織斑一夏がよろよろとやってきた。
表情はどこか浮かなく、悩んでいるのは明白だ。
白髪の少年は携帯を閉じ、ポッケに仕舞い込んだかと思えばピルケースを取り出す。
中にあるのはいくつかの錠剤だ。少年は水も使わずそれを飲み込んでから、隣の同級生へ言葉を投げる。
「どうしたの? チフユに怒られた?」
「…いや、今日怒られたのはお前だろ。というか、深夜まで携帯をいじるのやめろよな、また寝坊するぞ?」
「今日は良いの」
少年の返答に一夏が〝どういう理屈だよ…〟と辟易する。ヴォルフはそれに対して気を止めず、そのまま会話を続ける。
「で、何でそんな顔なの?」
「あー…いや、今日転校生が来たんだけど…」
話題は新たにやってきた転校生“凰鈴音”の事になる。
彼女は織斑一夏にとっては初めての幼馴染であり、その仲の良さは折り紙付きとも言える。そんな彼女であるが、幼少の折に一つ約束をしていた。
「毎日酢豚を作ってあげる」いうもので、側から聞けば首を傾げるものであるが、所謂“毎日味噌汁を作る”ようなもんである。
ただ一夏はこれを“酢豚を奢る”と曲解。そんでもってそのまま馬鹿正直に言うもんだから、頬に紅葉を作る羽目になった。
そして織斑一夏は、何が彼女を怒らせてしまったのか理解出来ず、頭を悩ませている。
「うーん…、わかんない」
けど、と少年は一つ区切りをつける。
「多分、何か伝えたいけど恥ずかしがってダメだった…みたいな感じじゃないかな?」
「何かって何だよ」
「うーん…聞いた感じだと…こ───」
好意、と核心が第三者の口から出る前だった。
どばん! と扉が開く音が空に鳴り響き、咄嗟に男衆は身構え扉の方へと視界を映す。
するとそこには、織斑一夏の姿を見て固まる女生徒がいる。
ここで彼と出会うのは予想外だったのか、扉を乱暴に開いた本人は口をパクパクと閉口させていた。
「な、何であんたが此処に居んのよ!?」
「いちゃ悪いのか!?」
理不尽な言葉に対して、流石に噛み付く一夏。
何となくではあるが、ヴォルフはこのやりとりのみで彼女が一夏の言う〝凰鈴音〟だと察する。
そして瞬く間に始まる口論。
やれいきなり叩くとは何ごとか、やれあんたの自業自得だやら、と一向に平行線から脱さないその様に、少年は〝ああこれ永遠に終わらないやつだ〟と察して再び携帯端末を弄り出す。
とっとと寮に戻っても良かったのだが───少年は、今はもうちょっとだけ「此処」に居たいと思っていた。
それは、半ば縋るような気持ちであり、或いは「名残惜しい」とも言える心だった。
少年自身、それには気付いていまいが。
「と、言うか───あんた誰よ?」
そんな折、口論中の筈の凰鈴音から声がかかった。
少々面食らいながらも、少年は簡単に名乗った。
「…ヴォルフ、ヴォルフガング・イェルネフェルト」
「え゛ッ」
その瞬間、ぴしりと少女が石化した様に固まる。
「…どいつのだんせいそうじゅうしゃ?」
「そうだよ?」
「……………うそ」
自身の現実を疑うかの様な声を出す。
「こんな女の子みたいな顔してる子が女の子なわけないでしょう!?」
「落ち着け鈴、言葉が滅茶苦茶になってる」
「……何かなぁ」
複雑そうに頭をかくヴォルフガング。
特段、自身の性に関して頓着はないのだが、こうも言われると気にもなってくる。
改善しようにも、以前見せられたカルテの内容からして、おそらく不可能だ。
背も伸びない、身体は止まった。
今だけは、それが少し惜しいとも感じている。
なんて思っていたら、また騒ぐ幼馴染二人。
それを見て、なんとなく、しかし形容のできないもやが少年の心を覆い始める。
二人で話し続けている。そこに入り込む余地はないし、なくて良い。
だが、それはそれとして…何処か胸に穴が空いた様な気がした。
ヴォルフは咄嗟に、己の心臓に手をやる。
何処にも異常はない。物理的に穴が開いたというわけでも無い。
今自身が体感するそれが何なのか、一切わからない。
しかし、体験だけはした様な気がした。
「…いっか、戻ろ」
だが、答えは得られなかった。
だから、そっとその場を後にする。
織斑一夏も凰鈴音も、それには気づかないままだった。
■
見当違いの復讐ほど、見苦しいものは無い。
王小龍はそう思いながら、一枚の資料を処分する。
その資料には、とある少女について記されていた。
それは失敗作と唾棄され、捨てられた残響。
彼女は未だ生存しており、その存在が確認された。
そして策略の翁は理解していた。
彼女の持つ心の向かう先を、何処までも。
だからこそ、彼は過去に「最強」へ連絡を繋いだ。
「もしかしたら、やりかけの仕事があるかもな」と。
あくまでも予想の域を出ないものであったが、ものの見事に的中した案件をどう処理すべきか、思考を巡らせる翁は一つの可能性に思い至る。
〝彼女〟は、現在のパワーバランスを壊しかねない。言わば存在そのものがどの勢力にも、もちろん自分にも通用する「切り札」とも言える。
否、正確には「存在が持つ情報」がそう機能する。
勢力自体の人員調整を行えば、切り札の無効化を図ることは可能だ。
だがあまりにもリスクが高い。
最悪、このBFFの再編が必要になる上、自身が動きにくくなる。また、ドイツの鴉を敵に回しかねない。
それはこの老人が最も避けたい展開だ。
唯一幸運とも言える展開は───情報戦に通ずる者垂涎の一品を、かの「天災」といまだ世に潜む「何か」が「いつでも暴露出来るもの」として処理している可能性がある、という所だろうか。
「…ふむ、やはり私ではこの程度か」
いかに優れていようと、例外を前にしては無力だ。
老人はあっさりと、それを認めた。
やりようは、幾らでもあるのだ。
幾らか、目を向けている「例外」は存在している。
彼らを操作する事は不可能だ。
だが、方向をずらす事は出来る。
想定できる最悪は、自分が例外に食われる事…
それは大前提だ。例外に手を出せば、タダでは済まないことなど百も承知だ。
最も最悪なのは「例外同士が衝突し、互いに消滅すること」に他ならない。あれはあれで、使いようが数多あるカードだ。
共倒れも、全方位への道連れも可能な「真の切り札」とでも言おうか。
しかしそれ故に機会は平等に近く、誰であろうと完全なコントロールが不可能なのが「例外」達だ。
「さて、ならばこうする他あるまい」
王小龍の矛先は、静かに定められた。
彼が先を見据え、狙ったのはただ一人。
しかしあくまで、ほんの僅かに背中を押す程度。
どう転ぶかは分からない、しかし今切らなければ出し抜かれる可能性は極めて大きい。
最悪、全てひっくり返せば良い。
命あっての物種だ。己の存在の引き継ぎは、幾人にも渡り済ませている。己が死のうとも、次の手はあるのだから。
この老人、何処までも「勝ち」に貪欲であった。
学園編後編に入るわよ
学園編前編のヴォルフは「詰め込み中の空っぽ」を、一夏は「ぶり返した熱意」をイメージして書いてました。
後編は全キャラの大暴れ(小規模)を書くつもりです
完結まで気長にガンバル
さて、感想返信について少しお話を。
大変申し訳ないのですが執筆に集中させて頂きたいため、これから行える頻度は限りなくゼロに近いです。
しかし、感想の全ては必ず読ませていただいています。その全てが私のかけがえのない燃料であり、応援です。
虫のいい話と理解していますが、これからも貰えたらなぁと。
質問などございましたら後書きで回答いたしますのでお気軽にどぞどぞ
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