急募:人類種の天敵を幸せにする方法   作:「書庫」

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何でこんな伸びてんの…(戦慄)

Q.首輪付き助けたい派多い…多くない?
A.戦争期でも無いし、それと助けたい(利用したい)みたいな奴も含んでいるので。因みに前提は「勢力の大きさ≠権力の大きさ」

guest member→アブ・マーシュ




MOONLIGHT

 時刻、午前3時。最も暗い夜明け前。

 個人部屋404号室の寝台から、むくりと小さな影が起き上がる。

 影の正体は長髪の少年、ヴォルフガング。

 彼は自分が久方振りに睡眠をとったことに気付く。そして時刻を把握しようと、きょろきょろと辺りを見回すも、明かりがないので時計が見えない。

 もそもそもとした動きで寝台近くの常夜灯のスイッチを押した。幸いにも、スイッチは微かな力でも押せるらしい。

 部屋がぼんやりと目に優しい光で満たされる。

 

「……3時…3時かぁ…」

 

 時計を見て、彼もまた部屋の光と同じ様にぼんやりと呟く。

 そっと自身の傷の首輪に触れながら、安堵した様に笑い“今日は見なかったな”とほっと息をついた。

 

 彼はよく悪夢を見る。

 内容は己が殺した数多の人々からの罵倒…()()()()。彼は確かに前世の折、“人類種の天敵”として君臨して1億以上の人命を屠った。

 それは覚悟の上で決断した行動であり、それ故に自省こそすれど、恥じは無いし悔いも無い。必要な事だったと割り切り、彼は進んで行く。

 例えばの話。今生の時、デザインドの被験体だった頃に己が殺した者が夢に出てきてもヴォルフは“僕は進んで行くから安心して”と語るだろう。

 

 “───君が死んでも遺るものはある。僕はそれを背負って進むから、僕を信じて”

 “ ───僕が死んでも遺るものはある。君はそれを背負って進むんだ、僕は君を信じている。

 

 それが彼の性質。決して死を無駄にしないし、させない。何があろうと進み進ませ、結果や成果を手にするまで止まらない止まらせない。

 そんな異質な彼にとって見たくないと欲して止まない「悪夢」とは一体なんなのか? 答えは単純「進めなくなる夢」である。

 自身が何も出来なくなる。肢体が無く、目見えず声も出せなくなる夢。己が背負ったもの全てが何も果たせず終わり、己も何かを託す事すら出来ず死ぬ。それが彼には耐えられない。

 

「……生きなきゃ」

 

 だから生きる。己が今生で殺した者達の「生きたかった」という思いを背負ってここに在る。

 だから、死を願っても生きる。死が叶う事を切に望みながらも、生をどうでもいいと思いつつ、己は生き抜かねばならないと思考を自縛する。

 

「生きなきゃ、駄目だ」

 

 こほ、と乾咳を出す。

 どうやら長い睡眠により喉の水分が無くなってしまったらしい。

 

「………水、取りに行こう。

 寝すぎて頭も痛いし…ちょっと歩こう、かな」

 

 寝転がったまま、必死に手を伸ばし壁に立てかけてある杖を持つ。

 それを支えに起き上がった。そしてカツ、カツと硬質な音を立てて、少年は部屋から出た。

 

「お前か、身体の具合の方はどうだ?」

 

 部屋の扉を開けるとそこには世界最強がいた。顔色は幾分か良く、目にも凛々しさが戻っている。

 

「…まだ怠い。頭が痛いから、少し歩こうかなって…」

「一日中寝ていたわけだからな、血の巡りが良くないのだろう。水分補給も必要だな、付いて来い」

 

 有無を言わせず、といった感じで織斑千冬は歩き出した。

 ヴォルフは杖の向きを直し、置いていかれない様にやや早く歩いていく。

 

「…起こしちゃった?」

「いや、仮眠を終えただけだ」

 

 “そっか”と、少年は申し訳なさそうに呟く。

 それ以降、会話が発展しない。

 草木も眠る刻に相応しい沈黙が流れる。

 ただ廊下に足と杖の音が響くだけだ。

 

「……月が、綺麗だな」

 

 その沈黙を破ろうと、話題を探した結果はガラス窓から見える満月だった。

 肥え満ちた月は煌々と輝き、その光を以って二人を照らしている。何とも幻想的な風景ではあるけれど、しかし互いの視点には相違点が一つ。

 

「僕は…まだ見えない…かなぁ」

 

 傷の首輪を付けた少年は、視力が乏しい。歩くにも杖を突いて周囲を確認しなければならない。治るまでの辛抱とはいえ、生活にはそれなり以上の支障をきたす。

 景色の共有も難しく、本や新聞を読むには膨大な時間がかかるだろう。

 夜にもなれば物事は微か程度しか見えない。だからこそ彼はとても悔しげに歯噛みする。

 

「すまない、不謹慎だった」

 

 ぐしゃり、と千冬は自らの髪を乱す。

 深い溜息。後悔はそこから容易く読み取れる。

 しかし少年はいたって気にしない。寧ろ視力の弱い自身に内心はらわたを煮え繰り返しながら、杖をつく。

 

「大丈夫だよ…。いつか、僕も見れるかな?」

「…医師の話では、時間は掛かるが治るようだ」

 

 気分の沈んだ声でそう返答し、変わらず彼女は歩く。

 そんな彼女に追い付こうと、少年は杖をつく事をやめて小走りで追った。

 手を伸ばすと、布の感触を掠める。まだ足りない。思うように動かない足を無理やり動かし、半ば跳ねるように進む。

 そこましでようやっと、必死に伸ばしたヴォルフの手が、織斑千冬の服の袖を掴めた。

 

 くん、と少しだけ千冬の後ろへ重心が向く。

 彼女は即座に後方へ視界を向ける。

 役割を果たしていない杖。

 呼吸と共に揺れる白い髪から覗く澄んだ赤い瞳。

 口端は必死に釣り上げられていて、ぎこちない。

 作り笑いに慣れていないことが明白である。

 それでも、少年には今伝えたい事があった。

 

「僕の目が治って、見えるようになった時。

 ……また一緒に、月を見てくれますか?」

 

 貴女は徒らに僕を傷つけた訳ではないのだと。

 小さな夢を作ってくれたのだと。

 だから悔いないでと、そう伝えようとした。

 彼は異質ではあるが、れっきとした人間だ。

 人の心が分からない“化物”では無いのだ。

 

「───」

 

 思考に空白が生まれる。予想外な言葉に少しだけ面食らうと同時、少しだけ頬が緩んだ。

 ……それと、後悔。言わなければ、気を遣わせることも無かった筈だと考える。

 だけど、今はこの返事が最適だと思って織斑千冬は静かに言葉を口にする。

 

「ああ、約束しよう…だから、治るまで身体を大事にしておけ」

「…うん」

 

 月光に照らされながら、互いに頬を緩ませる。もう一度歩き始めた時、少年は敢えて杖を使わず、千冬の袖を掴んだままだった。

 織斑千冬もそれを拒む事はなく、ただ歩く速さを少年に合わせた。

 

 

 そろりと病棟を抜け出した二人は道中調達した水を飲みながら、ぼんやりと空を眺める。

 紺碧の空には白い月が静かに佇んでおり、じきに朝が来る事を忘れさせた。

 

 少年は見えない月よりも、見る事の出来る近場の石畳や、街路樹や植え込み、そして己が先程までいた病棟の方をキラキラとした目で見つめている。

 

「…初めて見たかも…」

「本当なら朝方に何処か連れて行ってやりたかったが…起こすのも忍びなかったからな」

「そっか、丸一日寝てたのか、僕」

 

 “どうりで身体がいつもより軽い訳だ”と呟く。その発言に千冬は少し思い悩んだような顔をする。

 

「身体に大事はないか?」

「大丈夫だよ、チフユさんは心配し過ぎ」

 

 そんな返答をする少年であるが、寧ろ織斑千冬の心配具合は適切なものである事をここに明記しておく。

 彼女は彼女で不安に思うことが多くあるのだろう。しかしそれをごまかそうと、それを悟られまいとヴォルフの頭に手を置いた。

 

「わ、わ…チフユさん…?」

「……気にするな」

 

 優しい声色。いつも凛々しく、厳しい彼女にしては珍しい事である。

 白髪の少年はそれを心地よく思い、穏やかに目を閉じこのひと時を忘れないよう、嚙みしめようと思っていたのだが。

 

「…え、あれ最強?嘘でしょ、俺あんな鬼みたいな人が女らしい顔してるとか信じられ───」

 

 中々に失礼な事を呟く茶髪の青年がいる事に気付き、少年は心の中で“知らないぞ僕は”と思いつつ、初対面の青年に一応同情の念を送る。

 しかし現実は非情であり、コンマ数秒後にはブリュンヒルデ直々のアイアンクローを食らっている青年の姿がそこにあった。

 

「あだだだ脳出る脳出る脳出るってこれぇ!?やべぇ何このアイアンクロークッソ痛ぇんだけど!?レイヴンの金的より痛いって握力どうなってんだこの女もしやゴリラなのかオイ!?」

「ほう、思ったよりも余裕そうだな───もう少し粉砕()らせてもらうぞアブ・マーシュ…!」

 

 …これは青年が悪い。少年は頭の中で粛々と現状況を咀嚼した。

 

  ✳︎

 

 青年が世界最強から直々に鉄拳制裁を食らった後、盗聴防止と近所迷惑にならぬようと少年達は結局404号室に戻って来た。

 ヴォルフガングは寝台の上に座っており、織斑千冬はソファに腰掛けていたが、ボコボコにされたアブ・マーシュだけは冷たく硬い床上で正座だった。

 

「前が見えねぇ」

「それだけで済んだ事をありがたく思え」

 

 未だ若干の怒りを見せる女は冷たく言い放ち、少年はそれを見て“結構ショックだったのかな”と思いつつ、顔面が比喩では無く本当にボコボコになっている青年を眺めている。

 

「それで? 貴様は何をしにやって来た。単に覗き見に来たのならさっさと帰れ」

「んな理由で俺が来るかよ、専用機の件だよ最強」

「…決まったのか」

「まあなー」

 

 けろり、と青年は笑って一つ伸びた。

 大きなあくびを伴いながら、少年の座る寝台のそばまで椅子を引っ張り、そこに腰掛ける。

 

「さて初めましてだな。俺はアブ・マーシュ。ただの天ッ才アーキテクトだよ少年。今日は君にとある企業からの商談があってやって来た」

「……」

「Oh…とても心に刺さる視線をありがとう」

 

 “企業”という単語が出た瞬間、傷の首輪を付けた少年の双眸は冷たかった。

 ヴォルフにとって“企業”の印象はすこぶる良くない。彼にとって“企業”とは市場の独占と利益の為ならば、どんな事も厭わない無血外道の集団だ。

 そうではない所もあると頭では理解しているが、心は納得出来ていない為に、必然態度にもそれが現れてしまう。

 

「何をしに来たんですか?」

「なんか冷たいな君、俺達はほんの親切心で君の元へ来たというのに…まぁいいか、本題に行こう。君はISを動かせる事を、自覚してる?」

 

 早速答えづらい質問をアブ・マーシュは投げかける。代わりに答えようとした織斑千冬を、彼は手の仕草で封じる。

 これは少年が答えなければならないのだと、青年は一つの線を引いた。

 

 問われた少年は目を見開いた。

 それに加え、わなわなと歯を震わせる。

 記憶の再生が始まる。

 少年の脳に、常人であっても狂人であっても、思い出したくないであろう過去が渦巻き始める。

 強烈な目眩と頭痛が少年を襲う。口内が乾く。込み上げてくる血の味と胃酸の臭いにむせ返る。手足が震え、悪寒が彼を包む。彼はそれに耐えられず、己の身体を抱く。

 それでもしかし、彼の唇はこう答えた。

 

「…動かせた、僕は、アレを確かに動かした…」

「Good. 意地の悪い質問をしてすまない。だが君は思いの外強い子だったね」

 

 から、と笑いアブ・マーシュは水を差し出す。少年はそれを豪快に嚥下した。

 身体中から一気に抜けた水分を補給しようと必死に喘ぎながら水を飲む。

 側から見ればまるで溺れているかのように見えるが、それを終えた時、蒼白だった少年の顔色は少しではあるが血色が戻り始める。

 機を見計らい、青年は話を続ける。

 

「ま、ともかく。俺達は君と商談をしに来たんだよ。勿論俺達にメリットが出るようにな! だけどその為にも、君にもメリットがある事を説明しに来た、夜分遅くにごめんね? 俺達は君に“専用機”を作ってやろうと思ってる」

「…“騙して悪いが”とか言って自爆させるつもりかな?」

「心の扉が予想以上に硬いな君」

 

 当然の警戒だが余りにも容赦無い想定な為、軽く引くアブ・マーシュ。傍で話を聞く織斑千冬もまた同等の反応を示していた。

 

「ま、そら警戒もするよな。だが安心してくれよ、俺達を斡旋したのは、君を弄った実験場をぶっ潰す事を立案したレイヴン・イェルネフェルトさんだ」

「レイヴン…?」

 

 前生の己を乗り越えた者の名が出、首輪付きは驚愕を表に出さずにはいられなかった。

 その驚愕を別の意味で受け取ったのか、青年は何処か合点がいかないように眉をひそめ、背後にいる女に尋ねる。

 

「あれ?おい、最強。養子の件説明してねーの?」

「明日か明後日にする予定だったんだが…この分では明日にでも説明したほうがよさそうだな」

「I see. ならその辺りの説明省くぞ。明日にそれが聞けるからな。取り敢えず、君はレイヴンさんに会ったらお礼を言いな」

 

 …やはり己の知っている“レイヴン”とは違うのだろうと首輪付きは割り切り、そっと落ち着きを取り戻そうと深呼吸をした。

 そんな事に意を介さず、アブ・マーシュは淡々と話を続ける。

 

「これは君にとっても悪い話じゃないんだ。後ろ盾だけではこの先生きのこれないぜ? だから、お前自身も強くならないといけない」

 

 今少年の立場は非常に弱い。身寄りもなく、戸籍も作成途中。織斑千冬という保護者がいるが、それに頼り切ってもいけない。

 世にも貴重な男性操縦者、そして“デザインド”唯一の成功体。更に加えていなくなっても誰も困らない身、裏側の者にとっても表側の者にとっても喉から手が出る程欲しい存在だろう。

 

「…他の奴らから身を守る為にも。国からもチフユさんからも見限られないように、僕は僕の有用性を証明しないといけない…でしょ?」

 

 だからこそ、現状自身を保護してくれる存在に「己は有用である」という事を証明し続ける。自分は使えるのだと、自分を失う方が損失が大きいと、そう主張し続けなければならない。

 少年のこの発言に目を見開く女性が一人いたが、今はそれを置いておこう。

 青年は特に気にすることも無く、話を続ける。

 

「That’s right! だが強くなっても無所属だとネームバリューの欲しいIS系の企業の方はうるさい。だから“専用機”も必要だ。変な裏側の企業にちょっかい出されない為にもな。そんな訳で、俺達が先に作って君に与えることにした。君を俺らがフライングゲットって訳!」

 

 ヴォルフの腑に納得が落ちる。確かにこれは両者にとってメリットのある話だ。

 アブ・マーシュの属する企業は先んじて「未だ公表されていない男性操縦者」を入手する事が出来、ヴォルフガングは専用機を手に入れる他、他企業からの干渉を避ける事が出来る。

 

「…名義とか手続きとか契約とかは?」

「俺は天才だがそれ以前にアーキテクトだぜ? ならその為に方々に頭下げるのだって苦じゃないさ。信頼の為に無茶な契約も随分と結んだもんだよ。レイヴンの野郎……あんなの飼い殺しレベルの契約じゃねーか…ま、良いんだけどさ」

 

 そしてもう一つ分かった事がある。

 この男はアーキテクトである己に絶対の自信と誇りを持っている。その力を十全に振るう為ならば、凡ゆる損失を厭わないし第一客を裏切らない。

 この人ならば、信頼できる。 少年はそう思い、ここに来てようやく青年に笑顔を小さく見せた。

 青年はそれに気づき、照れ臭そうに話題を変える。

 

「…ともかく、これがお前の専用機を作る所だ」

 

 青年から名刺を手渡された時、少年の時が止まった。

 黒い名刺に走る赤いラインに、白い英語。

 このエンブレムには見覚えしかない。

 やや待って、青年が口を開く。

 

「名をレイレナード、俺の属する新興企業さ」

 

 少年は思いっきり噎せる。

 ───なんて事だ、と心の中で叫んだ。

 

 

 




▶︎企業からの勧誘が減少!
▶︎裏企業が強行手段にでる確率UP!

レイレナード社
新興企業。エネルギー分野に強い変態技術者どもの巣窟その1。挑戦的な開発を続けており、この先注目を集めている。
アブ・マーシュ
新興企業レイレナード社所属の天ッ才アーキテクト。元々は「IS研究機関アスピナ」専属アーキテクトだったが「何だこの気狂い共…(恐怖)」という事でとある友人と一緒にレイレナード社へ移った。

人の心が分からない化物では無い(分かった上で化物地味た行動をする)拙作の首輪付きのイメージに使った曲は「新世界へのプロローグ」に加え「NEW WORLD」(Bentham)です。歌詞を見みると拙作の首輪付きがどんな人間が少しわかるかも?

まだ平穏は続くよ!安心だね!(プロットから目を逸らしながら)次回は一夏とテレフォン☆ショッキングにするか、それともラウラと会わせてみようか。悩むぞい。

陳謝:これから先かなり忙しくなるので更新が随分と先になる可能性がございます。本当に申し訳ない(メタルマン) でもいつか戻ってくるから安心してね!

-投票終了-
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