急募:人類種の天敵を幸せにする方法   作:「書庫」

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ちっふー「デザインド摘発を計画し、立場の弱いお前を守るために養親になる予定のレイヴンだ」(顔写真見せる)
首輪付き(まんまUnknown(レイヴン)じゃん…おなかいたい)
ちっふー(…様子おかしいな)
ちっふー「お前、レイヴンを知っているのか?」
首輪付き「知らない」

因みに大文字の題名は首輪付きから「誰か」へのメッセージだったりする。


    ✳︎ ✳︎ ✳︎

近隣に暮らす人々の間の平和とは、
人間にとって自然な状態ではない。
それどころか、戦争こそが自然な状態である。
敵意はただ戦争のみに見られるものではなく、
我々は常に敵意に脅かされている。
それ故に、平和は法により確立されねばならない。
イマヌエル・カント「永遠平和のために」
───第ニ章より抜粋



I KNOW THAT

 ヴォルフガングとアブ・マーシュが邂逅し、専用機について話し合った後2週間ほど経過した。

 少年の視界は治癒が進み、左目は生活する上で不自由ないレベルまで回復しているが、右目の治りは芳しくは無いとのことだった。

 だが、杖をつく必要がなくなったのは目出度い事と言えるだろう。

 

 そんな彼は今日、朝一から延々と自身に与えられる専用機についての資料を眺めていた。

 

「…“ストレイド”…」

 

 少年はキリキリと胃が痛む感覚を覚える。

 自身の生涯にまたもや「企業」どころか、前世の折に駆った機体の名すら絡むとは。己は余程、彼等と縁があるらしい。

 苦笑いと共にと少年は資料をめくる。

 

 機体名ストレイド。設計者及び開発者はアブ・マーシュ。開発許可はレイレナードの社長直々から貰ったとの事だった。

 コンセプトは高機動性及び特殊性。近接戦闘を得意とした機体であり、そこに既存のISにはない機能を追加させようと、レイレナード社全体が躍起になっているとの事で、機能の候補としては以下の通り。

 

 ・慣性抑止フィールド“プライマル・アーマー(PA)

 ・PAを攻撃に転化した“アサルト・アーマー(AA)

 ・瞬間加速(イグニッション・ブースト)の軌道変更及び連続使用可能化

  …等々。

 

「…いやネクストだよねコレ」

 

 世界が変われど人は変わらないらしい。

 諦観の目で少年はそっと資料を閉じ、溜息を吐きながら寝台の上に乗せてあるバッグにしまい込む。

 その後、間も無く部屋の扉が開き、ためらいなく一人の女性が入室する。

 

「入るぞ」

「もう入ってる気もする」

「気にするな」

 

 少年用の個室に入って来たのは例に漏れず、織斑千冬。

 本日彼女は久方ぶりの非番であり、スーツでは無く私服を着ていた。

 

「そろそろ出る時間だ、準備は出来ているか?」

「荷物らしい荷物もないから、大丈夫だよ」

 

 今日の少年は、病棟から支給された白い寝巻きを着ていない。

 その代わりに極一般的な衣服(上下共に長袖)を着用している。

 彼のこの服装には理由があった。

 

 本日を以って、404号室の使用期限は終了であり、少年は大分回復を見せていたが、この頃と同時、政府暗部から怪しい動きが目立つ様になる。

 現状、レイヴン・イェルネフェルトはヴォルフガングの養子登録が未だ出来ていない。

 

 そこでレイヴンは彼を保護する為に、織斑千冬に少年を同じ部屋に入れる事を委託した。

 千冬はこれを戸惑いつつ承諾し、これからの生活の為に少年の私服を購入した。

 

「…服のサイズは問題ないか?」

「うん、背が伸びてなかったのはショックだったけど…でもこんなしっかりした服って初めて着たかも」

 

 えへへ、と無垢な笑顔を見せる白い少年。

 吐いた言葉に悪意は無い。彼は心底からそう思い、とても嬉しそうな様子を遠慮の一つも無く見せている。

 

 世界最強と呼ばれた女は、その横顔に引け目を感じてしまう。

 

 それが良心の呵責だと彼女は知っている。

 だからさっさと吐いて楽になりたい。

 そう願えど何故か彼女は中々踏み出せずにいる。

 

「…、───そうか。だがまぁ、きっとこれから伸びるさ。成長期だからな」

「そうだよね、カルシウムとか今から摂れば伸びるよね、あと夜早く寝るとか!」

 

 …織斑千冬は、伝えていない。

 少年の身体は、これ以上成長出来ない事実を。

 隠している事が、それだけならまだいい。

 ただいつかは───。

 

 眼前で年相応の笑顔を浮かべる様になった少年に告白しなければならない。

 

 己が過去に友人と共に起こした事件を。

 それにより今の世界が生まれたことを。

 その結果、少年が悲劇を背負う事になってしまった事を。

 

 そして、そんな日が来ることを、彼女は無意識のうちに忌避している。

 

 今はそんな事を知る由もない織斑千冬。

 彼女は、傷塗れの身体を衣服で隠した少年と共に自らの住処に足を進めた。

 

 

 互いのせいで、今があるのに。

 

 

   ✳︎

 

 

 かちゃり、と銀色の塊が半分回った。

 

 開いた扉から遠慮がちに白い長髪が覗く。

 女性とも見違える中性的な少年が、ひっそりと部屋に入った。

 彼の手には学生鞄みたいな革のバッグが握られており、中身には簡単な着替えと複数の資料程度だけ。

 当たり前と言えば当たり前だ。彼は今日に至るまで日用品などとは限りなく無縁に近い人生を送ってきた。

 

 ただ、それも今日までの話。

 これからヴォルフガングは、少しでも真っ当な人間らしい暮らしが出来るだろう。

 此処は確かに織斑千冬(にんげん)の住む部屋なのだから。

 

「…………」

 

 リビングにてやはり、少年は驚く。

 綺麗な部屋、整った雑貨に電化製品。破れていない大きなガラス窓から見える夕日と緑と街並み。

 そこに前生の面影(戦場の火)は無く、さりとて今生の影(幼子の血)も見られない。此処は真に“平凡な暮らし”がある。

 しかし…少年はきっとそれに()()()()

 

「……違う」

 

 ……彼は思う、()()()()()()()()()()()()

 

「今、何か言ったか?」

「ううん、何でもないよ」

 

 

 ……戦場から戻って来た者の中には、望んでいたとしても、平穏を享受することが出来なくなってしまった者もいる。

 一度闘争のテンションを味わった者は一生戦場に身を置くことになる。

 少年の「肉体」はそうではないかもしれないが「意識」又は「魂」とも言うべきか、ともかく彼の「中身」は絶対に違う。

 “首輪付き”はあくまで闘争に生きた者だ。殺し殺された者。例えばの話、彼が幾ら闘争を蛇蝎の如く嫌うようになっても、一度味わった「麻薬」から脳は逃れられない。

 

「……僕は何処に居ればいいのかな」

 

 だから彼は“きっと此処での生活は長く持たないだろう”と思い、先を見通した一言を呟いた。

 そしてその一言だけを聞いて、いつの間にかノンアルコールビールを片手に持っていた織斑千冬は何でもないかの様に言う。

 少年の内心を彼女は知らない。だから言えるのはいたって普通の言葉だけ。

 

「空き部屋が一つある。昨日片付けたばかりだが、寝床と机、それとIS関連の物も揃えて置いた。足りない物があれば、一緒に買いに行こう」

 

 その姿を見て、“首輪付き”は少し笑った。

 確かに目の前の人は、訣別した恩師(セレン・ヘイズ)と姿形こそ合わせ鏡の様に見えるけれど、実際は違うのだ。

 彼女は彼女でしかない。無くした者、別れた者は幾ら望もうと戻ってこない。それが自分の意思で手放したのならば、尚更のこと。

 それが少年にとっては何処か悲しかった。そう思っている己に驚くと同時、激しい自己嫌悪を抱く。

 ───お前が殺したのだろうと、お前が手放したのだろうと、自身を縛った。

 

「取り敢えず、何日か過ごしてみてからかな」

「…そうだな」

 

 酔えない酒を飲み、先行きを不安に思いつつ女は苦く笑う。

 しかし少年は微笑み、これからを思い手を伸ばした。

 

「だから、これからよろしく」

「ああ、よろしく頼む」

 

 一先ずは、握手。

 これから待つ前途を如何に乗り越えるか、それよりも己はこの世界でどう生きればいいのか、それが少年の抱く不安。

 少年とどう向き合うべきか、いつになれば己の咎を吐けるようになるのか、それが世界最強を苛ませるもの。

 互いに抱く不安は多い。だが今はそんなものだろうと、中々に平凡なスタートを切った。

 

 

 

「僕の部屋ってこっちですか?」

「ッ!?待て、そっちの扉は開くな!!」

「へ?」

 

 …話は変わるが、織斑千冬という女は家事に関しては全くのからっきしだ。

 彼女の弟はその逆だが、それはまた別の機会とさせていただく。

 

 ともかく、女の家事スキルはゼロを振り切りマイナスと言っていい。

 そんな彼女が自身の部屋を散らかしていない訳がないのだ。

 にも関わらず今日ヴォルフの見た部屋は、少なくとも見た目は綺麗に整理整頓されていた。

 

「…………うわぁ」

 

 少年は見る。その実態を見てしまう。

 ゴミとゴミとゴミ。散らかされた衣類やら何やら。そこかしこに放置されたなんかもう意図もよく分からないダンボール。缶ビールの残骸が無数。

 少年が目の当たりにしたのは弊害。これは急な来客および同居人が来た為に、織斑千冬が彼女なりに掃除した結果。

 

「うわぁ…………」

 

 ドン引きである。“うわぁ”と言った数二回。

 心の底からのドン引きなのである。

 この凄惨な殺人現場(被害者:部屋一室、凶器:ゴミの山)を作り出した張本人は至極気まずそうにしていた。

 

「……いや、そのだな、いつもならもっと綺麗なんだが…最近色々と忙しくてな」

 

 そんな感じで誤魔化し沈静化を───駄目だった。少年は赫怒の笑顔(ブチ切れスマイル)で彼女を見つめている。

 ヴォルフは切れた。どうしてこうなるまで放っておいたんだ、そう小一時間ほど問い詰めたいと思っている。だが恐らく、千冬の言う「忙しかった」理由には自身の事もあるのだろうと思い、何も言わなかった。

 その代わりに、少年は尚のこと激怒した。必ず、かの無量大数のゴミを除かなければならぬと決意した

 

「ゴミ袋、掃除機、雑巾、洗剤と新聞紙」

「……………………………ああ」

 

 世界最強、少年の剣幕に動かされた瞬間である。

 この後、たった一人の女性の部屋から出た無数のゴミにより、ゴミ収集員は大量の仕事を強いられる事となる。

 これにはさしものドイツ軍部、特に織斑千冬から指導を受け恩義と尊敬の念を持つラウラ・ボーデヴィッヒも流石にドン引きであった。

 

 

 夕日が傾きつつある時、とある一室から二人分の叫びが空に響いていく。

 

「あー、もう!なんで下着がその辺に置きっぱなのかなぁ!?しかもこれ上下バラバラじゃんか!」

「ッ〜〜お前!!!」

 

 少年の声は半ば悲鳴じみており、それを受ける女の声はもはやいたたまれないものだった。

 

「羞恥心があるならちゃんと仕舞ってよ!あと雑誌を冷蔵庫の中に入れない…冷蔵庫の中に雑誌!?」

「……ッく!」

「何で悔しげにしてんの…あー…今日中に足の踏み場くらい作らなきゃ……」

 

 …中々に幸先の悪いスタートではあるが、これもきっと少年にとって良いリハビリになるだろう。

 彼が真っ当に生きられるようになる為に、社会復帰運動は通過する必要もある。ならばこれは怪我の功名というやつだ。

 




レイヴン「少年保護したいけどまだ養子登録時間かかりそうだから一緒にいてあげてくれまじで頼む」
ちっふー「……まぁ問題ない(部屋掃除しないと…)」

首輪付き「あんた一体何なのよ!缶ビールの残骸は捨てない!ソファの上にはゴミ袋の山!足の踏み場もない!いつもはもっと綺麗なんて突然メチャクチャは言い出す!かと思ったらゴミの山が倒壊する!挙句はベッドの下から酒瓶がゴロゴロ転がる!あんた人間なの!?お次は冷蔵庫の中から雑誌ときたわ!本棚が倒れてきたんであんたを助けたわ!そしたらあたしが掃除してる身よ!どうして部屋がこんなになるまで放っておいたのか教えて頂戴!」
ちっふー「(´・ω・`)」


知らなかったのか?闘争からは逃げられない。
今回はちょっと内面抉り。正直書いてて楽しかった()次回はIS試運転、と言っても専用機が出てくるのはまだ当分先の話です。
それと少しきな臭い話も出るかも?
???・????「そちらにとっても、悪い話では無いと思いますが?」
次回投稿は遠い先の事に成りそうですが、まぁ頑張りますねん。

・容姿モデル
ヴォルフガング…刀剣乱舞の今剣ちゃんとDies Ireaのアンナ(速い方)ちゃんを足して二で割った感じ。最近、刀剣乱舞を友人(男性)がやってるのを知ってちょっとびっくり。
レイヴン・イェルネフェルト…DRIFTERSの薩人マッシーンこと島津豊久さん。因みに私が戦国武将で一番好きなのは父と同じく島津義弘。
フィオナ・イェルネフェルト…声の影響なのかペルソナ3のアイギスがしっくりきたけど、お前どう?
シュトルヒ・フェット…鋼の錬金術師のノックス大先生。あんな人が身近に欲しかったなー俺もなー。
アブ・マーシュ…キノの旅の『相棒』、緩い感じでクッソえげつないムーブかます所とか大好き。

UA20000記念話

  • ドイツ大人組飲み会
  • IS学園掲示板
  • レイヴン押し倒され騒動
  • ヴォルフ女装話

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