R15は原作が青年誌だから、アンチ・ヘイトは原作の否定になるからです。
日曜日、食材を買いに街まで出る。
大切な人たちを佐藤にとられてから一週間が経った。
心にぽっかりと穴が空いたようで、毎日吐き気に襲われる。食欲なんて、とうの昔にどこかへ消えた。
それでも、どんなに辛くても生きていかなくてはいけない。
わかっている、一番悪いのは何もしなかった僕だ。
彼女たちと付き合っていたわけでもない。僕のものだったわけでもない。なのに、悔しくて仕方がない。
胃の奥が鈍く痛む。朝から何も食べていないせいか、足元がふらついた。
街はいつもと変わらない。家族連れの笑い声、カップルの楽しげな会話。そんな何気ない日常が、今はただ眩しすぎる。
視界の端で、ふと立ち止まる影が見えた。見覚えのある横顔。思わず心臓が跳ねる。
──違う。
人違いだった。冷たい汗が背中を伝う。
乗り越えなければ先に進めない。凛にいつまでも心配をかけるわけにはいかない。だから無理して、自分で買い物に来たんだ。
歩け、進め、そう自分に言い聞かせ、足を進める。
スーパーを目指して、下ばかり見ながら歩いて行く。前なんて向く気力もない。
そんな風に歩いていたので、人に肩をぶつけてしまった。
「す、すみません!」
「いえ、私は大丈夫ですよ」
慌てて謝り視線を相手に向けると、ぶつかったことどころか息をするのも忘れてしまうほどの美人がそこにいた。
長い黒髪がさらりと揺れ、日差しを受けて艶やかに光る。切れ長の瞳は深い知性をたたえており、凛とした雰囲気を漂わせている。
芸能人やモデルを見たことはないけど、間近で見たらこんな感じだろうか……。
見たことない学校の制服だったので、このあたりの人ではないだろう。
「あなたこそ大丈夫ですか?」
透き通るような声が、優しく響く。
声をかけられ、ようやく不躾な視線を送ってしまったことに思いあたり申し訳ない気持ちになる。
「すみません! 大丈夫です! 本当にすみませんでした! では!」
早くこの場を離れなければ、と焦る気持ちが先に立ち、そそくさと立ち去ろうとする。
「あ! 待ってください!」
柔らかな声に引き止められ、足が止まる。
「えっと、なんですか?」
「私、九条 由紀恵といいます」
ふんわりと微笑みながら名乗る彼女の姿は、どこか品のあるお嬢様のようだった。
「あ、はい、僕は鈴木です」
立ち去ろうとしたときに名乗られ、思わず名乗り返してしまう。緊張してうまく話せそうにない。
彼女は柔らかい笑顔を浮かべているが、その奥に何かを秘めたような雰囲気があった。
何かしてしまったのだろうか、と身構えながらも、彼女の表情からは敵意は感じられない。ただ、不思議な引力のようなものに引き寄せられそうになる自分がいた。
「私と結婚を前提にお付き合いしてください。」
その言葉が突然、目の前で投げかけられた。驚きと戸惑いで、頭が真っ白になり、耳がぼんやりと遠くなる。聞き間違いではないか、何度も自分に問いかける。目の前で彼女が、真剣な眼差しで言葉を発しているのが信じられなかった。
「突然のことで驚いたと思います。一目惚れなんです。どうか私を恋人に、妻にしてください!」
その言葉が、心にまっすぐに突き刺さった。欲しかった言葉だった。彼女たちから貰えなかった。アイツじゃなく僕を選んでくれる言葉だ。
みんな大切だったから、関係を壊したくなかったから、だから踏み込むことができなかった。言い訳なのはわかっている。誰か一人を選ぶのが怖かった。言えなかった。でも、もし何かが違っていたら、彼女たちの誰かがこんな風に告白してくれていたら、何か切っ掛けがあれば変わっていたかもしれない。
涙が止まらない。顔を手で覆って、僕は思わず声を上げた。
「えっ?えっ?あの!ええっ?」
慌てた彼女の声が、頭の中に響く。でも、声を出そうとしても、涙と嗚咽が絡まって言葉が出ない。胸の中がひどく苦しくて、どうしようもなかった。
その時、柔らかな温もりが僕の肩に触れた。ほんの少しの感触から、すぐに何か大きなものが包み込んでくれるのを感じた。彼女の腕が僕の背中に回り、優しく、力強く、温かくて、すぐにその心地よさに身を任せた。
「嫌だったら突き飛ばしてください。大丈夫なら、落ち着くまでこのままで。」
その言葉が、彼女の心を感じさせる。優しさが伝わってくる。顔を押さえたままで、彼女の香りがふわりと鼻をくすぐる。それは、どこか清楚でありながら、温かみを感じさせる香りで、深く吸い込むたびに心が少しずつ落ち着いていくのが分かった。
背中を優しくさすってくれるその手が、まるで心の中の緊張を解きほぐすように、ゆっくりと動く。その手のひらの温もりが伝わり、張り詰めた心が少しずつ解かれていく感覚を感じる。心の中で、ずっと溜め込んできた何かが、まるで涙となって流れ出すようだった。
泣きたい気持ちが溢れ、彼女の胸元に顔を埋めたままで、涙を止められなくなった。心が壊れそうなほど、彼女の優しさに包まれて、全てを吐き出すように泣き続けた。
どれくらい泣いたのか分からない。でも、彼女は一切動じることなく、優しく僕を支え続けてくれた。彼女の温かさ、優しさ、その全てが、僕の心の中で少しずつ安心へと変わっていった。
その瞬間、僕はようやく、全てを受け入れることができた。
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あれは夢だったのかと思ったが、頬に残る涙の跡と、微かに残る彼女の香りが現実だったことを思い出させる。
頭を振って気を落ち着け、リビングに向かう。
そこには、談笑する妹の凜と、九条由紀恵の姿があった。
「あっ! お兄ちゃん、大丈夫!?」
「ごめん、心配かけた。あの……どうしてうちがわかったんですか?」
「その、鈴木くんが疲れて眠っちゃって、しばらくしたら凛ちゃんから鈴木くんの携帯に電話があったの」
「お兄ちゃん、いつまでも帰ってこないから心配したんだよ!? そしたらこんな綺麗な人が電話に出るし! お兄ちゃんは寝てるし! 由紀恵さんがわざわざタクシー使って家まで連れてきてくれたんだよ!」
どうやら、泣いた胸を借りた上にとんでもない迷惑をかけてしまっていたようで、一気に焦ってくる。
「すみません! 本当に色々すみません! ありがとうございます!」
「由紀恵さん、お兄ちゃんがごめんなさい! 改めて本当にありがとうございます!」
「いえいえ、大丈夫だから、気にしないで。」
おそらく僕が起きる前にも、何度も同じやり取りを繰り返していたのだろう。彼女は少し困ったように、でも心から優しく微笑んでいた。その表情には、ただただ真剣な想いが込められているのが伝わってきた。
「それに、返事を聞きたかったですし。」
彼女は照れたように、でもどこか自信を持って言った。
「返事? なんのですか?」
凛がなんのことかわからず聞き返している。ああ、そうだった。僕は告白されていたんだ。最初はその意味をうまくつかめなかったけれど、今、ようやくそれに気づく。心の奥底で、ほんの少しの戸惑いと、そして確かな期待が芽生えている。胸の中で何かが弾けた気がした。
「私ね、鈴木くんに一目惚れしたの。だから、交際を申し込んだの。」
「ええ!? え?」
凛は混乱してしまっている。僕も最初に聞いたときの衝撃を、鮮明に思い出している。
「由紀恵さん、お兄ちゃんと今日初めて会ったんですよね?」
「そうなんですけど、でもね、この人だ!って心が全力で震えちゃって。」
その言葉を聞いて、僕の顔は一気に真っ赤になっただろう。そして、隣でその様子を見守っていた凛が、少し呆れたように言う。
「はー、由紀恵さんって見た目によらず大胆ね。それで、お兄ちゃん顔色よくなってるんだ。」
「そ、そうか?」
「うん、ひどかったよ、いつ倒れるかと思ったから、買い物も本当は行かせたくなかったんだよ。」
凛は少し心配そうに言う。
「あのね、由紀恵さん、お兄ちゃん、すごく辛いことがあったみたいで、今、恋愛とかはちょっと・・・。」
彼女は僕に気を使って、言葉を選んでくれている。僕はその優しさに胸が温かくなるのを感じた。凛が詳しくは話していないことを察して、こうしてそっと配慮してくれている。その気配りに、深い感謝の気持ちが込み上げてきた。
「そうだったの、ごめんなさい。知らないとはいえ無神経なことを。」
由紀恵さんは申し訳なさそうに頭を下げる。
「いや、大丈夫だよ!何というか、おかげさまでスッキリしたから。」
僕は慌てて手を振る。
今この瞬間、僕は何かから解放されたような気がした。心の奥でずっと縛られていたものが、少しずつ解けていくのが分かる。会ったばかりだというのに、どうしてこんなに惹かれてしまうのか。彼女の美しい容姿や優しさだけじゃない。彼女の存在そのものに、僕は心を奪われている。
好きになりたい、心から彼女に向き合いたい。
僕はその思いを胸に、深く息を吸い込み、勇気を振り絞って告白した。
「僕の方からお願いします。僕と付き合ってください!」
その言葉が、ようやく口から出た瞬間、彼女の目が大きく見開かれ、そして彼女の唇がゆっくりと笑みを浮かべる。
「はい、末永くよろしくお願いします!」
彼女は嬉しそうに、そして恥ずかしそうに答えた。その笑顔はまばゆくて、僕はしばらくそれを見つめていた。
その瞬間、僕の心が満たされた。すべてが一瞬にして変わった気がした。この笑顔、そしてあの日からずっと感じていた温かさ。これを一生、大切にしていきたいと思う。
その後、隣で驚いた顔をしていた凛も、ふっと微笑んだ。彼女の表情が、また何とも言えず愛らしい。
こうして、僕は生涯の伴侶と出会った。
この瞬間から、僕の人生が大きく動き出した気がする。
九条SIDE
私の家は物凄く古くから続く一族です。
言い伝えでは人とその人に一目惚れした女神の間に生まれた子が始まりだと言われています。
一族には特徴があって、
まず生まれてくるのは必ず女の子、母も祖母も姉妹しかいません、男性は父も含め全て一族の女性の婿です。
次に必ず一目惚れした相手と出会い結ばれ、生涯において愛し合うこと。
そういった理由もあり一目惚れした相手以外とは婚約も結びません。かつて美貌や家の力を目当てに婚約を迫ってきた者がいたそうですが、婚約を迫ってきた本人はもちろん、後押ししていた周りの人も事故や病気で亡くなったそうです。
思春期になったとき、母からこの女神の祝福とも呪いとも言える話を聞いたとき、私の心に歓喜に震えました。
祖父母や両親たちのように私が理想とする夫婦に必ずなることができる。正しく祝福でした。
私は浮気や不倫を嫌悪しています、テレビで政治家や芸能人のそういったニュースを見るだけでも耐えがたいのです。一途に互いを愛し愛する、これができない相手の妻になって正気を保てるとは思えません。
それから、早くその相手に出会いたくて、様々な機会を貰って様々な男性を見て、話してきました。本当に素晴らしく、尊敬にあたいして、我が家の伴侶に不足はない人たちと接してきました。
でも心は震えなかった。母が父と出会ったのは大学の時だというから、私もそのくらいなのでしょうか。
どうしても焦ってしまうので自分を磨くことで気を紛らわせてきました。
見た目はもちろん、勉強、運動、家事や作法。いつか出会ったらすぐに私を好きになって、愛してくれように努力を重ねてきました。
そんな日々を過ごしていたある日、休日なのに用があって学校に向かった帰り道、何故か電車に乗ってきたことのない駅に来てしまいました。目的もなく、ただふとその駅に降りたのです。電車を降り、見知らぬ町を歩きながら、どこか違和感を感じていました。足取りが自然にその町に向かっていたような、妙な引力に引き寄せられる感覚でした。
自分でもわからないけど、ここに来ないといけないという思いに駆られたのです。
駅を出て初めての町を見ながら歩いていたとき前から歩いてきた同い年くらいの男の子に目を奪われた。
その瞬間、私は完全に心を奪われました。何もかもが一瞬で変わったのです。
この人だ!!心の中で確信した瞬間、胸が高鳴り、鼓動が早くなりました。言葉では言い表せないほどの喜びと興奮が私を満たし、その瞬間、言い伝えを聞いたとき以上の歓喜に心が震えました。
ついに!ついに出会えた!!喜びのあまり立ち尽くしてしまっていたので彼とぶつかってしまいました。
慌てて謝る彼、それを切っ掛けに話そうとするが謝ってそのまま行ってしまいおうとするので呼び止めます。
待ちに待ったときが来たのです。このチャンスを逃すまいと思い、そのままの勢いで告げます。その言葉は、もはや意識すらない。私の心は彼に完全に引き寄せられていたから、自然に言葉が出てきた。
「私と結婚を前提にお付き合いしてください。」
この日、私は生涯の伴侶に辿り着きました。
この瞬間から、私の人生がようやく動き出したのです。
鈴木くんはラノベ主人公要素が薄いのはなぜかと考えてたら、これは「過去に恋愛のトラウマがある主人公がヒロインに出会って変わる」系ラノベの過去部分だと思ったらしっくりきたので書いてみました。
小説書いてる方々は本当にすごい、心底尊敬します。
鈴木くんを救いたかったけど、これが限界でした。
誰か鈴木くんを幸せにしてください!ついでに佐藤たちに制裁も。