霊夢の宝物のお話。
ほんのりレイマリ

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宝物

 幻想郷の昼下がり。博麗神社でのこと。

霊夢と魔理沙は縁側で本を読んでいた。

 魔理沙が家から、或いは小鈴のところから、はたまた紅魔館の図書館から持ってきた本を積み上げ、ゆったりと読み耽る。霊夢はそれを手に取り、のんびりページをめくる。

 喉が乾けば茶をすすり、小腹がすいたら煎餅をかじる。そんな日常の一ページだ。

 読んでいる最中に会話はない。ただただ静かな神社で過ごすのだ。

 この日持ってきた本はどれも恋愛モノ。魔理沙は「最近よく読むんだ」と持ってきたものだ。

 

 霊夢は唐突にぽすん、と魔理沙の肩に寄りかかった。

 縁側から足をぶらぶらさせている魔理沙の肩に背中を預けている形だ。

 いい位置にいると霊夢はよくこうする。

 

「……あのなぁ、霊夢。」

 魔理沙が口を開いた。

「誰にでもこういうことしてると勘違いされるぞ?」

 人望、尊敬の意味では人妖問わず集めている霊夢。こんな無防備なことをされたら、親友であり、同じ女である魔理沙ですらドキッとしてしまう。

 

「んー……?よっかかんのは魔理沙だけよ?」

もぞっと頭を向け、霊夢が言う。

 

「そういや疑問だな。なんで私にだけなんだ?今となっちゃ、仲良いやつも多いだろ。」

魔理沙は栞を挟みながら問うた。

 

「うーん、なんだったかしら...」

 

しばらくうーん、と悩んだ後、「ああ。」と何か思い出したようだ。

「お、教えてくれよ。」

 

「ふふっ、絶対イヤ。」

霊夢は笑顔で思い切り断った。

 

「ええー!?なんでだよ?」

魔理沙は心底ガッカリしたようだ。

 

「だってねぇー……」

 

────────────

 

 何年も前のことだ。霊夢は紫の指導のもとで修行をしていた。誰にも負けることのないように。幻想郷に仇なす者を全て始末できるように。紫は霊夢を神社から出さず、徹底的に強くさせようとしていた。

 霊夢は妖怪に敗北した巫女の末路を知っている。敗れた先代が引きちぎられ、食われる様を見てしまった。

 紫は普段から霊夢に言い聞かせていた。

「博麗の巫女は孤独。敵を作れば腹を刺され、友を作れば背を刺される。」

と。

 一端の少女である霊夢にはそれがとても辛かった。寂しかった。それを紛らわせるためにさらに修行に励んでいた。

 

 それから大凡一年ほどだった頃だ。

 冬になると紫は冬眠する。結界の守護を式に任せ、己は莫大な妖力を溜めるのだ。

 そしてこの頃、霊夢にはちょっとした楽しみができていた。

 妖怪の森に住み始めたという、魔理沙と名乗る少女と出会った。

 魔理沙は神社からめったに出ない霊夢に色々なことを話した。森の動く木の話。湖に反射する望月の話。そして...大空を舞う話。

 

 それから彼女は頻繁に神社を訪れた。

 本を読んだり、料理をしたり、幾度となく笑いあった。霊夢にはそれがどうしようもなく幸せだった。先代の死を目の当たりにしてから初めて、心から失いたくないと思った。

 

 冬の終わりの頃。霊夢は初めて紫との約束を破った。

 霊夢は魔理沙の箒に乗り、夕焼けを見ていた。

「な、綺麗だろ?」

と笑う魔理沙を見て、霊夢は笑顔がこぼれてきたようだった。

 

「ねぇ、魔理沙。」

「ん、なんだ?」

 

「...ありがとう。」

霊夢は涙が止まらなくなった。理由もわからず泣く霊夢を、魔理沙はただ、こう言った。

「また来ような。」

 

 春が訪れた。紫は目覚め、神社へと顔を出す。そして目を見開いた。

 そこは、魔理沙が霊夢に手を振り、神社に訪れるところだった。

 たった三ヶ月、紫は目を離した。目が覚めると、自分が決して作ってはならぬと言った友を作ってしまっている。

「霊夢。」

紫はゆったりと歩いてきた。

「紫...っ」

霊夢は怯えたように後ずさった。

「あんた、誰だ?」

魔理沙は躊躇う様子もなく問うた。

「私は八雲紫。……博麗の巫女に友は要らない。立ち去りなさい、小娘。」

紫は冷たく言い放った。

「なっ...なんでだよ、友達くらいいたって──────」

「やめて魔理沙!」

霊夢が言葉を遮った。

「ごめんね、魔理沙……」

魔理沙が振り返ると、その友は膝をつき、涙を流していた。

「立ち去りなさい、早く。」

紫は魔理沙に詰め寄った。

「断る!なんで友達がいちゃいけないんだ!博麗の巫女だからなんだ!私は...友達を見捨ててたまるか!」

魔理沙は紫を見据え、言った。

「ならば死になさい。」

紫はスキマと呼ばれる異空間から鉄パイプを放った。

「へぇ、なかなか動けるのね。」

すんでのところで躱す魔理沙を見て、紫は呟いた。

「逃げて魔理沙!」

霊夢が叫ぶと同時に紫はスキマから外界のものをどんどんと発射していった。

魔理沙は死に物狂いでかわしていくが、すぐに限界がきた。

次の瞬間、確実に魔理沙が死ぬ。霊夢の頭にその事実がよぎった。

魔理沙が死ぬ。

 

……認めない。

私は動けない。……認めない。

紫には勝てない……認めない。

私には何も出来ない。……認めない。

 

絶対に勝つ。

 

 

大きな衝撃音が響く。魔理沙を潰し殺すための。

しかしその場所に魔理沙はいなかった。

霊夢は魔理沙を担ぎ、空を飛んでいた。その目に怯えはなかった。

「霊夢、考えなさい。その感情がいずれあなたを殺すことになるのよ。」

紫は鉄柱を飛ばした。しかし、それは霊夢、魔理沙をすり抜けていった。

「霊夢?いつの間に空を……しかも今当たったはずじゃ?」

魔理沙は驚きを隠せずにいた。

外したか、と紫は何本も鉄柱を飛ばした。

確実に当たっているはずのそれは完全にすり抜け、遠くへ飛んでいった。

「これは……あなた、今覚醒したの?」

紫は冷や汗を垂らしながら訊いた。

「なんだろうと、私の友達は死なせやしないんだから!」

「今度は私が……守るんだ!」

紫すら倒さんとする覚悟。命を賭して友を守る愛情。その大きさに紫は気付いたようだった。

「……全く、厄介な能力を身につけたものだわ。」

紫はそう呟くと、外界のものを全てスキマに戻した。

「"空"の巫、博麗霊夢。それがあなたの夢想天生よ。」

そう言うと紫は穏やかな表情で手招きした。

 

「ねぇ、あなた。名前はなんて言うの?」

「魔理沙。……霧雨魔理沙だ。よろしくな。」

「あの子の覚悟を見たらもう勝てる気がしないわ。...決して、あの子を裏切らないであげて。」

魔理沙の耳元でそう囁く紫の表情は我が子の成長を喜ぶ母のようで、またどこか悲しげだった。

 

魔理沙が帰った後。紫は霊夢に問うた。

「霊夢、あの話を覚えてる?」

「……幻想郷は全てを受け入れる、って話?」

「えぇ。そしてその言葉は博麗の巫女には違う意味を持つ。敵を作れば腹を刺され、友を作れば背を刺される。博麗の巫女は特別なの──────」

「わかってるわよ!友達がいちゃいけないとか、一人で強くならなきゃいけないとか!でも……」

霊夢の目からポロッ、ポロッと涙が落ちてくる。

「全く、最後まで聞きなさいな。」

穏やかな顔のまま、霊夢に言う。

「だからこそ、背を刺さない友は宝物なのよ。あの子を……魔理沙を大事にしなさい、霊夢。」

 

「……いいの?これからも、魔理沙と一緒にいても。」

霊夢は不安そうに訊いた。

「えぇ。あの子ほどの子なら、きっと...あなたの背中を守ってくれるわ。」

紫は嬉しそうに言った。

「私の……宝物。」

 

 

────────────

 

「ふふっ。」

霊夢は魔理沙の膝に頭を乗せる。

「んだよ、教えてくれてもいいだろー?」

魔理沙は不満を言う。

「だめよ、なんだか恥ずかしいもの。」

ぶーぶー言う魔理沙の頬を引っ張りながら霊夢が言った。

 

「ただ、これだけは言えるわね。」

魔理沙の頬をさすり、呟く。

「私が背中を預けられるのは、あなただけよ。」


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