あれからかなりの数日が経ってからというもの。
あれよとあれよと、依頼書というものなのだろうかクエストが数多くに掲載されている内容があまりにもゾンビ退治というものばかりである。
クエストの中でもまともそうなのはといえば、ギルド関連の調査関係ばかり。
ギルドの関係者たちが幾度も調査しても解明されないことが多くあるためか、ギルド内でもクエストとして申請してしまう程に困っているのだという。
「幾ばくか、依頼をしても冒険者たちから受けたくないと言われてばかりでして。」
「白羽の矢がたったのが、この俺というわけか。厄介ごとには、首を突っ込みたくない。」
何かしらの意見を求めたいのなら聞いても良いのだが、やってほしいというのは強制的過ぎて正直言うとやりたくないの一言。
押し付けることをしたくないような申訳のない表情で伺うその女性スタッフは、落ち込んでしまっているようでこちらとしては、頭をかきむしるばかりだ。
「仕方ない。ただし、クエストを受注するが、報酬金額を上乗せしてもらいたいのだが。」
保険として怪我をして帰ってくる可能性もある。
その考えが自分の頭の中で過るのだが、明らかに何かありますよと言っているクエストを見やると何かしら違和感を感じて拭えないでいる。
「ありがとうございます。こちらからは、何かご用意をしてほしいのであれば、言ってください。」
ギルドの女性スタッフは、何度も頭を下げては感謝の意を込めて手を握ってくる。
正直、受けたくない内容だと頭を掻くものの仕方がないと一言で済ませてしまう自分に腹が立ってしまう。
そもそもクエストの内容が内容なのだ。
“ゾンビの掃討依頼 エルクラ村にてデルゾンビの集団が夜中に強襲してくるため掃討を頼みたいそうです。 報酬は、冒険者の中でゾンビ退治の出来る人によります。”
はっきり言って、嫌な予感しかしない。
複雑な気持ちのままエルクラ村に向かう準備を始めるオウキ。
対ゾンビ用の掃討するあるモノを部屋で製作することになるオウキは、やたらと愚痴っていた。
こんなことなら、専門家に頼めよと。
「さてと。明日、エルクラ村に着く距離だと言うし…しっかりと休むか。」
そう言って、眠りについたオウキは、部屋を暗くしてベッドに横になろうとした瞬間だった。
部屋の隅からある気配を感じた。
異質な感覚に襲われるオウキは、何かがこっちを見ているのだとはっきりわかっていた。
霊感とは言い難い感覚で背中に冷たい水が垂れていくような。
「誰か…いるのか?姿を、現せ。」
オウキは、ゆっくりと誰かがいる部屋の隅のほうへ足を運ぶ。
じっとりと汗が垂れるのが冷や汗だと気づくのに、数秒がかかるほどだった。
そして、やっとのことで数メートルまで近づいたところで男性の声らしきで話しかけてきた。
「…オレ…たちの村に…クル…な……。」
やはり、嫌な予感が当たったようだ。
怖がっているわけでもないオウキは、その村に何かあるのかと思ってその男に話しかけたのだが、その男は頭を俯いていた顔を見せるように見上げた。
「…わかった。ならお前の村を俺が直してやろう。だから、安心するが良い。」
オウキが、そう言うとその男は、顔色を変えて安心したようにすぅっと笑顔で消えていった。
まさかとは思うが、あれが俗にいう幽霊だというのだろうかと思うオウキだった。
その日の夜が過ぎて、早朝にその街から発ってしばらくしたらエルクラ村が見えた。
時間的には、太陽が真上に差し掛かった時だったのでお昼ぐらいだったのだろう。
ちょうど、村の入り口にある人物が見えたので声をかけることにしたオウキ。
「すみません。旅の者ですが、こちらで宿に泊まりたいのですがよろしいですか?」
オウキが話しかけた人は、背丈が自身より低く髪の毛が長い女性に声をかけたのだが吃驚して転んでしまうほどの反応を見せるのでお気の毒だなと思ってしまった。
「驚かせてすみません。旅の者なのですが、宿屋なんてありますか?」
「は、はい。私のところが宿として経営しています。一泊、でしょうか?」
宿泊する日数をその女性に伝えると理解してくれたのかその女性の顔をようやく見せてくれた。
その女性の顔は、何故だか以前に見に覚えのある感じだった。
「こちらです。どうぞ、お部屋は、二階にありますのでどうぞお寛ぎください。」
そう言うと、考え事をしていたオウキに声をかけて階下へと向かって行ってしまった。
確かに何処かで見た顔だと感じたオウキは、部屋に荷物を置いてエルクラ村の周囲を見に回っていくことにした。
村の周りには、石垣で囲まれているのが見える。
少し小高い場所があり村の周囲が見渡せる場所があるので石垣で囲まれているのがよくわかるのだが、何故か、この村にある違和感が感じる。
襲われたとしても、壊れた石垣が見当たらないのだ。
「襲われたにしては、真新しい石垣…この村、何かあるようにしか見えないのだが。」
確かにと言えるのかわからないが、村の石垣には痛みもまったく無い状態。
不可思議にも門が壊された箇所が無いのも可笑しいなと感じていた。
だというのに、何なのかわからないが胸のところが苛立っている感覚には、覚えがある。
前に冒険者たちが襲われていた時のと、同じな感じ。
「この村には、何かを隠しているようにしか思えない。」
そう感じながらも太陽が夕焼けになり始めていることに気づいたオウキは、宿屋へ戻ることにした。
それでも、ふとあることに違和感も感じ始めた。
“人のいる感覚があるのだけど、どうにも薄い”
稀薄な人体の感覚は、空気の破調を感じ取りやすい人もいるのだが。
言ってしまえば、気配に近い存在が殺気へと感じる人もいるのだ。
言いえて妙な感じでもあるが、人の居る感覚は、目で見て音で聞いて始めて人がいると感じ取るのが主なのだと専門家は言うだろう。
だけど、修練をする人間には、その感覚を周囲の空気で感じ取り人の存在を確かめる。
「…村の人間は、こんなにも…薄い感覚な…ものなのか?」
周囲をきょろきょろと見るのは、いささか挙動不審に見られるのではないかとオウキは思ったのか真っすぐに前を向きながら気配だけで周囲を感じてみることにした。
どうにも、人間の生きている感覚が薄い。
まるで、生きる力を抜かれた器としか思えない。
「旅のお方でしょうか?もし、宜しければこれをどうぞ。」
「私のところで採れた野菜ですが、どうぞ持っていって下さい。」
顔色が少しばかり薄い感じのおばさんやおじさんが食べ物をお裾分けしてきた。
旅の者に対してなら、優しく接してくる地元の人たちは、笑顔で話しかけてくる。
オウキは、何事もなく笑顔で感謝を言葉にしてその場を立ち去って行った。
だが、明らかに村の人たちは、隠しきれてない心を見せていた。
この村から早く立ち去ってほしそうな表情を背後でビンビンと感じ取っていたのだ。
宿屋に着いてからは、夕食をご馳走になり深夜、皆が寝静まる時間を見計らうことにしたオウキは、宿屋に泊めてもらった恩として多額の金額をカウンターに置いて出かけた。
向かう先は、石垣の近場にある門。
この村に来る途中で気になっていた宿屋の女性と出会った場所。
どうにも、門前の場所で女性がいるなんて場違いな感じがしていた。
まるで、ついそこまでに誰かと話をしていたような素振りだったように。
「……冷たい…まだ、近くにいるか。」
門を出てすぐにあるのは、林道。
だが、林道の左右にある木々たちの間に確かに何かの存在を感じ取っていた。
先ほどまでいた門前では、何も感じ取れなかった気配が出てすぐにいくつかの気配を感じるようになったのだ。
「…お前たちが、ゾンビという輩か。名を持つものは、名乗ってもらいたい。俺は、オウキだ。」
自ら名を名乗ってみるが、相手方の出方を探るには好都合だったのかもしれない。
だが、一番に驚いたのは、オウキの方だった。
左側の木々の間から見えたのは、夕方に出会った村人たちだった。
でも、右側の木々から出てきたのは、身体が腐敗している人間、デルゾンビが居たのに驚いたのだ。
「え!?」
オウキは、何故、村人たちが居る前でデルゾンビが姿を現したのかが不思議でならなかった。
襲われるはずの村人たちがデルゾンビたちが居るというにもの動じたりしない様子。
これには、さすがに黙ってられなかったのか村人の一人、女性らしき子が話し始めた。
「あの、これには、理由があるのです。実は、デルゾンビの中には、私たち村人でもあるのです。このことを冒険者の人たちに話しても理解できず、倒すのだと言ってデルゾンビたちの何人かがヤられていってしまったのです。どうか、話を最後まで聞いてくださいませんか?」
昨日から嫌な予感が的中したのは、言うまでもなかった。
どうやら、昨日の夜にデルゾンビの一人の男性がオウキの泊っている場所を突き止めて部屋に隠れていたのだという。
そして、この村に来ないでほしいといった理由は、掃討を依頼されている書類を見てしまったので来ないでほしく忠告をしに行ったのだという。
あの晩、ずっとあの部屋に居たことを反省したみたいだった。
「するというと。話が複雑になっていき、収拾がつかなくなってしまった、と。」
理由をある程度話し終えた村人たちの顔色が悪かったのは、デルゾンビになる兆候なのだと聞いたことには吃驚ものだったが。
掃討してくれと頼まれた以上は、することが一つ。
この村にある仕掛けをするほか無いなと、ある計画を持ち掛けてあげた。
村人たちは、快く承諾してくれたのか、ひと安心すると村人全員がデルゾンビの姿に変わっていった。
便利な変化機能だな。
「では、早朝にその場所へ向かいます。本当に、ありがとうございます。」
デルゾンビになった女性は、頭を下げてその村の村人全員をある場所へ避難させた。
俺はというと、ある仕掛けをするのに早朝まで時間がかかってしまっておかげで寝不足と疲労でしんどい目にあってしまった。
そして、早朝。
太陽が上がると同時刻。
ギルドのあるリベシグルの街から見える東から昇る太陽。
そこに位置するエルクラ村に大きな火柱が立ち上った。
その轟音と共にリベシグルの街の住民たちが騒ぎながら起き上がったのだ。
「な、何事だ!?」
「確か、あっちの方って…エルクラ村!?」
「ちょ、待って!?あの村には、オウキさんがいる…はず…よ?」
リベシグルの街の人たちは、オウキという冒険者のことを知っていた。
何故なら、街の住民たちにお世話になると言って挨拶回りをしていたことで覚えていたようだった。
だが、本来、クエストで出かけたはずのオウキの行き場所まで知っている皆が、かなり心配するように騒ぎ立ててしまっている。
「一体、何が起きたというのだ。あの村には、オウキ殿が居るはずだろ!?」
「あの人、私たち家族にお裾分けと言って果物を貰ったのよ!?」
何かと近所付き合いにも奥様方に好評だったようで吃驚するギルドマスターとギルドの女性スタッフ一同。
そんな御仁に何かあったのかと心配になりながらもオウキの帰りを待つことに数分後。
ある人物がゆらりと歩きながらリベシグルの街へ入ってきたのが見えた。
「オウキ…殿……では、ない!?」
そこに現れたのは、小さな幼い女の子が歩いていた。
いったいどうしたのかとギルドマスターがその少女に駆け寄って話しかけた。
「君は、どこの子なんだい?オウ…いや、成人ぐらいの男性を見なかったかい?」
「ワタシ…は…エルクラ村の住民…見たけど……覚えて…ナイ。」
その少女は、右半身と右の顔が焼け爛れて今でも死にかけそうな顔をしていた。
そんな身体でよくこの町まで歩いてきたものだと街のみんなが慌てふためいている。
少女の身体をタオルで巻いてあげて今すぐにでも治療をしてあげないとまずい状態だったが、すぐにでも医者に見せないと思ったギルドマスターは、その足で少女を抱えて走って行く。
「それにしても、エルクラ村と言えば…デルゾンビが出ている場所だろ。クエストでも掃討する依頼が来ているっていうのに、そこから来た少女ってことは、まさか…だろ。」
「その村…確か、爆発音のした方向だろうね。あんな爆発でオウキさん、生きていない…はず……だ…よね?」
火薬をちょっとでも間違えれば人間なんて木っ端みじんになってしまうほどの威力なはずだから、たとえ、魔法でさえも死ぬことはないにしろあの音と威力。
あれだけの衝撃ともなれば、死んでいても可笑しくないだろうと皆が口々に話す。
だけど、そんなことを信じたくないとある女性スタッフが皆の意見にちょっと待ったをかけたのだ。
「まだ、可能性はあります。生きているはずです。皆様に顔を出していたり、挨拶回りをしている人が、死にに行ったりしますか?きっと、帰ってくるはずです。」
「そう言われると、恥ずかしい…のだがな。」
まだ、早朝にしても数分しか経っていない時間なはず。
なのに、まだエルクラ村にいるはずのオウキの声が、近くで声がする。
周囲のみんながその声を頼りにどこから聞こえてくるのか、見渡す。
だが、どこにも居ない。
「こっちだ。どこを見ているんだ。」
ふと、女性スタッフは、真上から聞こえてくるのを耳に入ってきた。
屋根の上で服がボロボロになりながらも煙突のところに片足を乗せて格好よく登場していた。
まるで、伝説の英雄が帰還したかのような登場っぷりだった。
「オウキさん!!よ、よかった…無事でよかった。」
「まだ、あの世に逝くにしちゃ…若過ぎじゃねぇーか。」
さっきの発言を聞いていたのか、女性スタッフは、顔を真っ赤にしていたのだが、すぐに怒り口調で何があったのかを事情を話してほしいとせがまれた。
「なぁに。エルクラ村の住民たちがデルゾンビのちょっと手前だったみたいでこの街の冒険者たちに掃討依頼を出していたらしいのだが。あれは、ギルドの勘違いだ。解決をしてほしい依頼だったんじゃないかと思った俺は、除霊グッズをしこたま買い込んでいたんでね、それをあの村に仕込んで発動させたら爆発系だったんでやんの。マジそれの影響で俺がそれの巻き添えで吹っ飛んで行った方向がこの街だったんで助かったわけよ。そんで、その村では、まだデルゾンビになる前の村娘が居たんで昨日の夜にデルゾンビになる宿
屋の人から預かってたんでな。早いうちに街へと向かう道を教えて逃がしたってわけよ。あの子も一応、デルゾンビになるからしっかりと直してやってくれ。」
そんな話をされてギルドのスタッフ全員が弾圧されたのは、後日のことだった。
街にいる冒険者たちからお説教を受けたあとのギルドマスターが、オウキの対応をしている女性スタッフのところに来て本題の話をすることになった。
「それで、あの村の人たちは、どうしたのでしょうか?まさか、あの爆発系の威力に巻き込まれて。」
「そんなことはしてないですよ。村人たちは、今は…この街へ向かっているところだ。」
「へ?い、今…なんて、言いましたか?」
「だから、この街へお昼ごろに来ますと、言いましたが?」
「ちょ、え、なんで!?なんでなんで!?どうしてそうなったのか話してくれますか!?」
ギルドマスターと女性スタッフは、驚きのあまりにテーブル越しに前のめりになって顔を近づけてきた。
近い近い。
「この街で重労働をするために来るってだけですが?彼らは、普段から人間の生活をしてきた習慣があるわけで悪さなんて出来ないはずだと考えたわけですよ。それならってことで、俺の屋敷で働いてみないかと誘ったわけですよ。」
確かに、ほかにもオウキの屋敷には、幽霊屋敷だということで貸し出している事情を知っているのがギルドの人たちしか知らない。
近所付き合いをしっかりとしているオウキの大らかな性格だからこその成せる業。
幽霊屋敷にデルゾンビを働かせるのもどうかと思うギルドマスターだったが、彼の監督下の元で働くのであれば被害もないはずだと考えてみた。
「そうですか。では、デルゾンビをあなたの屋敷へと歓迎させましょう。もちろん、ギルドマスター権限でギルドのスタッフ一同が誤解をしてしまった謝恩もありますゆえに。」
「そのご意見、痛み入ります。そして、報酬金のことですが。」
「あ、はい。本当に誠に申し訳ありませんでした。百万ほどで、いかがでしょうか?」
「上乗せでプラス五十万。」
「……ご、ごひいきにしてくださりありがとうございます。」
これにて、デルゾンビたちの屋敷へ歓迎することに決まった形でことは解決をした。
ギルドマスターの誤解となる内容、そして、こうなることを予知していなかったことにギルドマスターは、三日三晩に枕を濡らしてしまったことは、誰にも語り継がれなかったのでした。
百五十万の謝恩礼金として、デルゾンビたちの給金に回ったことであの村から出て仕事に就けれたデルゾンビたちの喜ぶ顔が屋敷内に広まった。
これで、幽霊屋敷の幽霊たちもおとなしくなるだろうとオウキは、満足そうに眠りにつくのでした。
こんなオチにしてみました。
人間の生んだ誤解は、一生に付くものだと教訓になることを書いてみました。
あとがきは、これにて終わりです。
何も書く子とがありませんでした。
すみません。