Lostbelt No.8 「極東融合衆国 日本」 作:萃夢想天
こんな作品に斯様な評価を頂き、感謝の極みでございます。
さて、今回からは第二章へと突入します。
少しずつサーヴァントのヒントや異聞帯の謎に触れ始める頃合いなので、
皆様の考察が捗るのではないでしょうか? 捗ってもらいたいものです。
ちなみに、これまでの話の中で、既に重要な伏線を少なくとも二つは差し込んであるので、
探してみるのも楽しみ方の一つになるのではないでしょうか。
それでは、どうぞ!
どうもー、クリプター会議から三日経過してカドックと音信不通になってソワソワし始めているゼベル・アレイスターでございます。もうカルデアが攻めてきてそれどころじゃないんかなぁ。
どうか無事でいてほしいもんだ、両方とも。カドックはチームメイトだから死なれるのは嫌だし、カルデアの生き残りにも死んでもらいたいとはこれっぽっちも思っちゃいない。
さて、現在俺たちは国会議事堂にお邪魔しております。国のお偉いさん方に色々手伝ってほしい事とか山ほどあるからその嘆願と、もう少し信用を得ておきたいので何人か説得をしにわざわざ徒歩三分くらいのこの場所へ足を運んだわけでござんす。
内政会議までまだ時間があるからスピーチのリハーサルをしようと思い立った俺は、国会議事堂の屋外に出て敷地の隅の方へ歩き、人目に付きにくい木陰で用意していたメモを小声で読み上げる。
言葉として口に出すと、どこを変えるべきかがよく分かるので、改善すべき点を逐一書き加えていく。そんな時、近付いてくる足音に気付いて振り返ると、そこには見知った人の姿があった。
「おや、これはまた。首相がこんなところに何か御用でも?」
「いやいや、少し散歩をね。あまり人の近付かない場所に人がいたものだから、気になってね」
「ははは、それはそれは………大人しく部屋でやってりゃ良かった」
この日本異聞帯の中心にある国家、日本の政治の面舵を取る人物。国家元首である日本国首相その人である。老齢に差し掛かってはいるが、一向に衰えの気配を見せない現役バリバリの好々爺。
多忙の身なはずなのだが、俺なんかに構ってていいのかね。そのうち秘書官が飛んできそうだ。
「ふふ、せっかくの機会だ。久方ぶりに二人で雑談に花を咲かすのも、悪くなかろう?」
「暇なら今度の国連議会で採決する案をまとめたらいいんじゃないですかい?」
「耳が痛いな。まあ問題は無いだろう。どうせどの国も、首を縦に振らざるを得ないのだから」
「……ごもっとも」
首相の言葉に嘆息しながら肯定する。そりゃそうだ、なにせこの異聞帯における最強国家たる日本の提唱する議案だ。通らないわけがない。どの国も首肯するだけの傀儡に成り果ててるんだから。
無理も無いわな。あの列強の中の列強、アメリカ合衆国ですら降伏せざるを得ないほどの窮地に追い込まれたってんだから、ロシアも中国も同盟結んだって勝ち目は無い。どうやっても詰みだ。
「──────ふぅ……」
「お? それってもしかして、イイとこの葉巻じゃないですか?」
「ほう、分かるかね。製造は国内だが、材料の葉はわざわざ
「裕福とは呼べない家柄の出でしたが、機会に恵まれましてね…………一本頂いても?」
「君、歳は幾つかね」
「今年で26になりますんで、問題ないでしょ?」
「なに、26だと? それではダメだ。この国では
腹を割って話そうってんだから、相手に合わせてこちらもご相伴に与ろうかと思ってたのにまさか向こうから止めてくるとは思わなかった。というか、日本って成人規制が30歳からだったっけ?
あれ、おかしいな。汎人類史でもそうだったかな? いや、確かあっちじゃ20歳からどちらも問題無かったはずじゃなかったか。んー、俺の記憶違いか? でも昔そう聞いた記憶があるんだが。
誰に聞いたっけな………あー、そうだ。思い出した。ロンドンの時計塔に飛び級で編入するだけの実力が俺にはあるって思い込んで空回りしてた頃! あん時は、11年くらい前だったような。
それで時計塔在中の魔術師に一蹴されたから、帰るに帰れなくてしばらく荒れてたんだよなぁ。
観光客のポケットからくすねた金で買ったタバコを吸おうとしたら、日本語で喋るヤツに咥えてたタバコ取り上げられて説教されたっけ。良く覚えてるよ、あの外見は一度見たら忘れられない。
イギリス系の顔立ちじゃなかったし、なにより
確かその人、時計塔で無茶やってた俺が心配になって追いかけてたら、偶然金をくすねるところを目撃してたらしくてさ。そんで一緒にいた二人の美女が俺を警察に突き出そうとするの宥めて止めようとしてくれたんだ。
金髪カールの美人がその時、赤毛の男をチェロだかジェロだかって呼んでたのは覚えてんのよ。
もう一人の黒髪美人は金髪の方にやたらガン飛ばしながら、エ、エ………エミール、だったかな。そんな風に赤毛の男を呼んでいがみ合って、男が困った顔して笑ってんの見てたら、急に自分が恥ずかしく思えてきて急いで家に帰って魔術の修業を再開したんだった。
あの時赤毛の男が、言ってたはずだ。〝日本でも20歳未満はタバコ禁止なんだぞ〟って。
この異聞帯ではその辺りも違いがあるのか。ふーん、こりゃ調査不足か。ガリレオに頼んでおいた他異聞帯の『観測』に目途が立ったら、セイバーを連れて市井へ調査に繰り出すかね。
「……どうしたね、アレイスター君」
「ん? ああ、いえ。なんでも。少し昔を懐かしんでおりまして」
葉巻の煙をこちらに向かないよう気を配る首相に、過去を振り返っていたと語る。
過去、過去か。この異聞帯の過去については、首相ら日本国家中枢の助力が得られるようになってから、随分調べ上げたもんだ。おかげで異聞帯の王の所在………いや、
単独じゃ潜入が困難なあの場所に入れたのは、この国の政治に干渉できる首相に認められたから。
滅多に出入りできないってのが難点だが、最悪の場合はサーヴァントの力で無理矢理こじ開ければいいから気にしなくてもいいだろう。あとはタイミングだな。空想樹と王を接続するタイミング。
早くてもダメだし遅くてもダメ。見極めが肝心だから、なるべく近くにこちらの手駒を置きたい。
「時にアレイスター君」
「はい、なんですか?」
腹の底でなんとか異聞帯の王のいる場所への干渉策を練っていたのがバレたのかと驚く。
「懐かしむと言えば、君が私たちに接触してきた時の事を、覚えているかね?」
ところが首相の口から出てきたのは、まったく別の話。焦って損したわ。
にしても、俺らがこの異聞帯にちょっかい出し始めた頃ねぇ。そりゃたった三か月前の事だもの、覚えてないわけないじゃんか。初めは本当に苦労の連続でなぁ、思い出すだけで涙が出そうだ。
「勿論覚えておりますとも、総理大臣閣下。クソ生意気な若造が厄介事を放り込んできたっつー、最悪の日のお話でしょう? こちらとしては話を聞いてもらえただけで万々歳だったんですが」
「私も覚えている。開口一番、『この世界は、星に未来を否定された世界だ』と嘯く異国の青年がいきなり現れ、この世界のどこにも存在しない〝未知〟をこの目に焼き付けてくれおってな」
「とんだ無礼者がいたもんです。それで? そんな怪しい輩にどんな措置を下したんです?」
「ふふふ、そうさな。あまりに荒唐無稽で、しかしそれでいて理路整然とした説話を述べ立ておる異質な者に、言ってやったのだよ。『信ずるに足る証拠を見せよ』とな」
「言われた側はさぞ焦ったでしょうなぁ」
「焦っていたとも。だが、お付きの麗しい女人は、そうでもなかった様子でね」
ああ、そうだよ。めちゃめちゃ焦ったわ。証拠見せてみろ、なんて言われてすぐ出せるかっての。政府関係者の官邸に乗り込む前にフォーリナー召喚してなけりゃ、多分今頃処刑されてたわ。
すぐ横にいたフォーリナーが宝具を発動して、眷属を目の前で召喚して見せてなければな。
「驚いたよ、心底から。我々の知る如何なる科学技術でも、あんな生物は生み出せない」
「だからこそ俺の言葉を、一先ずは信じることにしたと」
「うむ。だが私が信じたのは、君が異なる歴史を知る稀人である事だけだ。今この人類が生を謳歌する世界の全てがまやかしだったなど、すぐに受け入れられるはずもなかろう」
「それを聞いて若造はこう言った、『ならば見せましょう。こことは違う歴史の進んだ世界を』」
クリプター会議の様子を録画しようと思いついたのはその時だ。本当なら俺が通信している現場を見てもらいたかったくらいだが、それに勘付きそうな奴があの場に2……3人ほどいたからな。
それをやって俺自身の計画まで見破られたら何もかもご破算だ、そんなリスクは極力避けたい。
だから録画という安全策を選んだ。説得力は落ちるが、それだけでも信じた奴はいたからな。
決して無駄ではなかった、それで今のところは良しとする。自覚が芽生えればそれだけで良い。
「たった三か月で、この国の方針は大きく軌道修正させられた。一人の青年の証明によって」
「
「情けない話だよ。君に言われるまで、気付けなかったのだ。我々は、我々の不甲斐なさに」
ふわりと風にさらわれていく葉巻の煙を眺める。首相は僅かに首を振り、葉巻の火を消した。
「信じて疑わなかったが、今にして思えば我々は皆─────
「奴隷、ですか?」
「ああ、奴隷だ。神のお告げ、神託、天上の授け。どれも聞こえはいいが、耳触りの良い言葉で我々を謀っていたのではないか。そう思い至った瞬間、私はひどく己の……人の弱さを悟った」
ゆっくりと瞳を閉じる首相にかける言葉が見当たらない。俺は自分の行いの罪深さを再認識する。これまで〝そうであること〟が当然であった価値観を、利己目的の為に打ち砕いたのだから。
直接言ったわけじゃないが、何も変わらない。俺はこの世界に生きる人々全てに告げたも同然だ、『アンタらが生きてるこの世界は間違っているから、星に見捨てられた。未来は無い』って。
自分たちが当たり前だと信じていた根底を覆されたこの世界の住人を、俺はどうすべきなのか。
分かってる。やってやるさ、必ずな。図らずも彼らに証明してしまった俺が、救わなくては。
星の意思に見限られたのだと『観測』した俺が、今度はこの世界の人々の命に責任を持つ。
人間は嫌いだ。
「……………アレイスター君、聞いてもいいかね?」
固く己に誓いを立てたところに、首相が雰囲気を改め、真っ直ぐこちらを見据えて話す。
「君がこの国にやってきた理由はまだ分からんが────目的はある程度察しがついている」
「………………………………そりゃビックリだ。答え合わせといきますか?」
「そうさせてもらおう。君の狙いは、
首相の言葉に、声も表情も動かせずに固まる。オイオイ冗談だろ、大正解だよクソッタレ。
こっちの真意というか、計画のことまでは流石に読まれちゃいないだろうが、それも危ういな。
いや、待て。むしろこれは好機じゃないか? ああ、間違いなく好機だ。千載一遇の大チャンス。これを利用しない手は無い。首相は俺を
この国を、この異聞帯の存続を確約する以上、そこに生きる者の協力は絶対に欠かせない要素だ。幸いにも俺は三か月の苦労が実を結び、特別顧問という政治に干渉する立場を得られた。
ここで立場を逆転させてやる。国を動かす事に協力してもらう。あくまで自分の意思でな。
考えろ、冷静に。言葉で伝えるんだ。心を動かせ。一人の人間に、一人の人間として。
「……………正否の発表の前に、少々御耳汚しを」
「……聞かせてみたまえ」
緊張で鼓動が早まるのを必死で抑える。手汗が掌から零れ落ちないよう、ギュッと握りしめた。
「─────────
いかがだったでしょうか?
さぁ、盛り上がっていこうぜ第二章! さくっとかけて一安心だぜ第二章!
今回思ってたより短くなってごめんね第二章! 続きが楽しみだぜ第二章!
というわけで、少々短めですが続きをお楽しみに。
次回はサーヴァントたちの話し合いでも書こうかしらね?
それでは次回をお楽しみに!
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