Lostbelt No.8 「極東融合衆国 日本」   作:萃夢想天

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思った以上に良い評価を頂けているようなので、期待を裏切らないよう努めます!

今回は前回に引き続いて主人公の紹介と、サーヴァントについて少し触れる程度のお話です。


それでは、どうぞ!


序章 種を植えるのではなく根を落とすタイプだと知った

 

 

 

 

この俺、ゼベル・アレイスターという男にとって、この瞬間を忘却することは不可能となった。

 

 

『__________選ばれし君たちに提案し、捨てられた君たちに提示する』

 

 

どこからともなく、突然降って湧いたような実感の無い空虚な声が、俺の思考に介入する。

 

 

『__________栄光を望むならば、蘇生を選べ』

 

 

暗闇と静寂に満ちた空間内で、俺は己の現状を把握するよりも先に、意味不明な選択を迫られた。

 

 

『__________怠惰を望むならば、永久の眠りを選べ』

 

 

此処は何処で、アンタは誰で、俺はどうなったのか。ただの人間が抱くちっぽけな疑問すらも。

 

 

『__________神は、どちらでもいい』

 

 

答える気もなきゃ、待ってくれる気もないらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自己紹介は済ませたよな。中の下ランクの平凡魔術師ことゼベル・アレイスターだ。

元々は一介の魔術師でしかなかったんだが、ご先祖方の負債のツケを支払うべく一族ぐるみでの

付き合いがあるアニムスフィアからの招集に応じ、馳せ参じたは南極大陸に鎮座する巨大天文台。

 

その名も【人理継続保障機関 フィニス・カルデア】

 

何やら人類の未来がピンチかもしれんと言うことで、素養のある人材を片っ端からかき集めて

結成された綱渡りチームで世界の危機をどうにかしよう! ってのが目的だったらしいです。

そこには俺を含めた48人の魔術師が集められて、それぞれがカルデアのシステムを使用して

英霊召喚を行い、人理の危機に対処するという作戦を聞かされた。ちゃんと聞いてたってば。

 

この人理の危機とやらには、歴史の相違点ともいうべき『特異点』の修復が有効とのこと。

そして特異点の修復を魔術師だけの力で行うのは困難を極める。よって最上級の使い魔として

過去の偉人や伝説の英雄を型落ちさせた【英霊(サーヴァント)】を召喚、契約を結び力を貸してもらう。

大まかな概要はこんな感じ。伝わったかな? 悪いね、説明するってどうも苦手なんですわ。

 

つまりこの人理修復、魔術師として一級だったとしても、英霊のマスターとしての適性が

低かったらサポートに回される事になる。そのまた逆もしかり。俺は逆パターン側だった。

 

魔術師としては良くて二流そこそこの俺だったが、特異点修復に必要な『レイシフト』なる

簡易的かつ人為的な時間逆行に対する適正値が高かったようで、高待遇サイドの仲間入り。

48人のマスター候補から選りすぐりの9人たる「Aチーム」に選抜され、一躍脚光を浴びる存在

へと飛び級を果たしたのだ。いやぁ、思い返せば我が半生、ここが最も輝いていた頃だったな。

 

 

そして御察しの通り、ここから一気に転落する。

 

 

最初に観測された特異点へレッツゴーと意気揚々(実際は緊張のあまり腹痛に悩まされていた)に

レイシフト開始を待っていた。けれど次の瞬間、目に焼き付いたのは霊子の青白い光じゃなく、

暴力的なまでの熱さと痛みを伴う赤黒い光だった。きっとあれは、爆弾か何かが破裂したのだと

今さらになって想像できる。事前に気付く余裕? 魔術的な対処法? そんなもんないです。

 

そして「え、俺死んだの?」と事態の把握もままならない最中、あの声が脳裏に届いたのだ。

 

 

「あの声とは、主人(マスター)が先程語られた?」

 

「そー、それ。ふざけてるよなホント。生きるも死ぬも好きにしろ、だとよ」

 

「気に入りませんわね」

 

「まったくだ。人間どいつもこいつも、最初から好き勝手してんだっつーの」

 

 

俺が爆散し、謎の声に苛立ちながらも生存を望み、気が付いたら新しい人生が始まった。

訳が分からんだと? 俺だって訳が分かってないんだからどうしようもないでしょうが。

んで生き返って(?)みれば、一緒にレイシフトする予定だったメンバーの殆どが集まっていた。

 

 

白髪で目の下いっつもクマだらけの不健康青年こと、『カドック・ゼムルプス』

委員長気質で超真面目な堅物眼帯美少女ちゃんこと、『オフェリア・ファムルソローネ』

ツインテ眼鏡のくせに無感情フェイス文学少女こと、『芥 ヒナコ』

ハイテンションな頼れるオカンの偽名系両性類こと、『スカンジナビア・ペペロンチーノ』

その耳についてどう接していいか分からんマンこと、『べリル・ガット』

スカした態度が妙に似合うけどいつもどこ見てんの、『デイビット・ゼム・ヴォイド』

 

そして、白馬の王子様オーラ全開な僕らのリーダー、『キリシュタリア・ヴォーダイム』

 

 

層々たる顔ぶればかりを見る中で、俺はたった一人この場にいない人物の事を考える。

 

Aチームメンバーの補佐として同行するはずだった少女、『マシュ・キリエライト』だ。

ここに来ていないという事は、あの爆発か何かに巻き込まれずに済んだという事なのか。

そうだったら良いのだが。もし仮に俺たちと同じように暗闇に放り出された挙句に、

例の神を名乗るふざけた声の選択に対し、ノーと答えて死を選んでいたとしたら。

 

そこから先を考えないように頭を振り、何やら事情を知っているようなキリシュタリアの

話を聞いた。キラキラのイケメンぶりこそ気に食わないが、アイツの話は理解し易くて好きだ。

 

つまるところ、俺たちは俺たちを蘇らせた『異星の神』とやらがこの地球に降臨するために

適した土台を作る手伝いをしなくちゃならないのだそうだ。すっごい簡潔にまとめるとだけど。

閉ざされた可能性だの捨てられた歴史だの難しい話は理解しなくても良いから、俺はとりあえず

何をするべきなのかをキリシュタリアに問うた。彼は険しい表情を浮かべ、こう答えた。

 

 

「これから我々クリプターは、異聞帯(ロストベルト)を各自運営し、新たなる人類史の確立を競い合う」

 

 

そうして俺らはキリシュタリア主導のもと、異星の神の使徒を名乗る連中の手引きによって

それぞれが担当する異聞帯とやらに連行された。そこで各クリプターは各々の担当する異聞帯の

拡張と成長を、異聞帯を治める王たる存在と共に遂げなければならないとの使命を仰せつかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ってな訳で、これから俺たちは文字通りに世界を丸ごと一つ運営せにゃならんのよ」

 

「そうでしたの。それはまたメンド………いえ、苦難の道行きを歩まれるのですね」

 

「俺たちっつってんのに他人事なんだよなぁ」

 

 

隠す気もない溜息を一つ。そりゃ悪態だって吐きたくなるさ、人間だもの。

 

異聞帯に到着した旨をキリシュタリアに専用の通信礼装を用いて通達した俺は、即座に自分の

魔術回路と異聞帯の土地に根差した霊脈をフル活用して、相棒たるサーヴァントを召喚した。

それはいい。そこまでは別によかった。むしろ魔力が貧弱な俺がよく単独で英霊の召喚に成功

したなと、自分を褒めてやりたいところだった。まぁ、世の中そんなに甘くはなかったけど。

 

英霊の召喚には共通する詠唱を口上として述べる必要があり、その詠唱には特定の文言を追加

することによって、召喚するサーヴァントのクラスを限定できるのだが、俺はそこで失敗した。

 

俺が本来のAチームのマスターとして召喚する予定だった英霊のクラスは【エクストラ】だった。

 

カルデアのデータベースで閲覧した限りじゃ、過去に召喚された英霊のクラスには基本となる

七つのクラス以外にも、どうやら規格外として枠外にカテゴライズされたクラスがあるらしい。

それこそがエクストラクラスと呼ばれるもの。通常の方法ではまず召喚不可能な未知の存在。

これは本当に運任せってレベルだったが、一応保険程度にはなるかもしれない読みがあった。

 

七つのクラスの一つに、【狂戦士(バーサーカー)】のクラスがある。このクラスのサーヴァントを召喚する場合、

特定の文言を詠唱に追加することでほぼ確実に召喚が可能になる特徴があるのだが、俺はそこに

目を付けた。要は、特定のクラスを召喚するための、特定の文言って部分が俺の秘策である。

 

特異点修復のレイシフト開始までの数か月、俺はこの特定の文言の解析に心血を注ぎ続けた。

そしてついに、通常とは異なる霊子の反応を示す文言の解明に成功したわけよ。超頑張った。

けどエクストラクラスとして確認されているのは、【調停者(ルーラー)】と【復讐者(アヴェンジャー)】の二騎のみ。

このどちらを引くのか、ここから先がマジで運だったわけだが。実際はどちらでもなかった。

 

 

「こんなん分かる訳ねーよなぁ。詐欺だよ詐欺、クラス詐称だって」

 

「妾を喚び出したという栄誉に頭を垂れるでもなく、そのうえで不遜を重ねるのかしら?」

 

「笑って見逃してくれ。つーか本当に計算外だ。なんだよ、【降臨者(フォーリナー)】って」

 

 

そう、俺が召喚したのは前代未聞のクラス、フォーリナーだったのだ。

こんなん予想できひんやん、頭おかしなるで。予めどっちのクラスで召喚されても良いように

100を超える接し方を想定していた俺に謝ってもらいたい。ホント、切実に。

 

まぁ、召喚したのは俺だ。召喚に応じてくれた時点で、俺に文句を言う筋合い等無い。

あまりにも計算外過ぎたせいで見落としていたが、このフォーリナーとやらの召喚は僥倖だ。

 

俺のようなクソ雑魚魔術師の魔力量じゃ、霊基の強い英霊を召喚した瞬間に凍らせた風船の

如く瞬時に爆散する。既に一度味わっとんのじゃこっちは。もう二度と爆ぜるのは御免だ。

そんな訳で俺が召喚する余地があったのは、埒外のエクストラか、暗殺専門の【暗殺者(アサシン)】の

二択しか無かったのだが。世界の管理運営に暗殺やら諜報が専門の奴を喚んでどうしろと?

冷静に考えると、このフォーリナー以外を召喚していなかった場合のリスクがデカ過ぎる。

そういった点でも、俺は彼女という予想外の賜り物に感謝しなければならない。

 

 

「まぁアレだ。アンタを召喚できたのは、俺にとって望外の幸運だったのは変わりない。

欠点だらけの情けない魔術師なんだが…………それでも俺をマスターと認めてくれるか?」

 

「________________ええ。及第点と致しましょう、我が主人」

 

「そうかい。そりゃ助かる」

 

 

今度は安堵の溜め息を一つ、小さく溢す。張りつめていた緊張が押し出されていくようだ。

顔を上げ、視線を隣に立つ相棒へと向ける。俺の運任せな召喚に応じてくれた物好きな女性へ。

 

 

ややウェーブがかった茶と金の中間のような色味の長髪をなびかせる、黒い瞳の麗しい美女。

およそ一目で高貴な身分と見て取れるほどに豪奢な装飾の施された服を着こなす出で立ちは、

自分と言う存在が絶対不可侵であることを公言するかのような雰囲気すら漂わせている。

 

俺は彼女の真名を知っている。彼女の逸話も知識として把握している。だからこそ驚いた。

てっきりアサシンクラスで召喚されるような人物だと思っていたが、どうやら史実の彼女とは

『何か』が決定的に違うらしい。でもまぁ今更気にしたところで変わらないし、別にいっか。

 

 

「さて我が主人、これからどうなさるの?」

 

「んー? とりあえずこの異聞帯を今以上に詳しく調べつつ、異聞帯の王との交流を深める。

いや、その前にまずクリプターで集まる近況報告会しなきゃいけねーんだ。いつだっけアレ」

 

「そちらの都合に妾の出る幕はないでしょう。主人はその報告会とやらに専念なさい」

 

「正直めんどくさい」

 

「こちらの事は、我等の崇高な目的に賛同したランサーとキャスターに任せて頂戴な(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

どろりと流れ落ちそうな深い赤に染まったドレスと、その内に覆われた極上の肢体を揺らし、

フォーリナーは細めた目をこちらを見やる。短い付き合いだがある程度の事は分かってきた。

あの目はなんか企んでる時の目なんだよなぁ。すっげぇ不安になるんだけど、美しさは崩れない。

 

それに彼女の言った通り、既にこの異聞帯に何故か数体のサーヴァントが現れたのだが、

そのうちの【槍兵(ランサー)】と【魔術師(キャスター)】、そして【騎兵(ライダー)】の三騎はこちらの味方となるよう説得済み。

早いとこ他にも喚び出された英霊を異聞帯側に引き入れたいところなんだけど、俺のような三下の

説得に応じてくれる英霊がこれ以上いるとは考えにくい。三騎いるだけでも上々の現状なのだ。

 

 

「そうだな。『南米のライダー』には、引き続きサーヴァントの捜索をするよう伝えてくれ。

そんで、『日本のランサー』をフォーリナー、お前の護衛につけておこう」

 

「なに? ならば主人、其方は如何するのです?」

 

「どーせ『イタリアのキャスター』が望遠鏡使ってこっち見てるだろうし、今のところアイツの

興味の対象は俺みたいだし、言わなくても勝手についてくると思う。だから問題ナッシング」

 

「…………妾よりもあの男を重宝するの?」

 

「なに勘違いしてるか知らないが、重要なのはクリプターである俺よりもこの異聞帯なのよ。

俺が居ない間に何か起きたとしても、俺たちの視点で対処が出来るのはフォーリナーだけだ。

だからここにいてもらいたい。もしもの為の保険って事で、どうか一つ頼まれてほしいんだわ」

 

「…………………見返りは当然、妾の望む物を」

 

「へいへい、女王陛下(・・・・)の仰せのままに」

 

 

さて、とりあえず一応方針の目途は立ったかね。このまま万事上手くとまではいかないにしても、

それとなく不都合が起きない程度にやんわりいってくれないもんかね。うん、無理だろうね。

けど、この世界は実に俺の理想を叶えるに適しているみたいだし、否が応でもやる気は上がる。

目の前の問題を着々とこなして行くことが出来れば、きっと失敗だけはする事なく生きられる。

 

ぼんやりしててフォーリナーに蔑まれるのもやだし、気合い入れて報告会に出席しますかね!

 

 

……………みんな元気でやってるといいけど。

 

 

 





さぁ、真名当てクイズのスタートだっっ(横暴)


ここにきてようやく、オリジナルサーヴァントを何体か登場(?)させる事が
できました。この時点で真名を看破できるマスターがいたら心が折れかねます。


それでは次回も、楽しみにしてくださる読者の皆様のためにも、
なるべく早めに投稿したいと思います!


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