Lostbelt No.8 「極東融合衆国 日本」   作:萃夢想天

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皆様の格段の御愛顧を賜り、当作品のUAが90000を超えました!
さらにお気に入り登録者数も2000人を突破致しました!感謝!

これからも突き進んで参ります!

そして今更で申し訳ありませんが、
こはや様、Zodiac様、メイン弓様、The sleeper様、ステラな人様、
誤字報告をしていただき、ありがとうございました!

2020年も皆様に楽しんでいただけるよう、努力してまいりますので
お付き合いのほど、よろしくお願いします!


それでは、どうぞ!







第三章:裏 2018年4月12日 カルデアの者たち

 

 

 

 

 

 

 

—————2018年4月12日

 

 

—————虚数潜航艇 シャドウ・ボーダー

 

 

 

「さて。此処に至った今、我々がすべきこととは何か。現状の把握だ」

 

 

かつて私たちがいたカルデアを追いやられ早三ヶ月。鉄板が剥き出しで冷たさすら覚えるこの狭いブリッジにも慣れてきてしまった。そのブリッジに、シャーロック・ホームズの声が響く。

その言葉に無言の首肯で相槌をうつのは、生き残ったカルデア職員のみんなと私。彼が続けて口を開くであろう瞬間を待っていると、想定外の横やりが口を挟んできた。

 

 

「現状の把握も何もあるか! 我々は遭難しかかっているんだぞ⁉」

 

 

ホームズの話を遮ったのは、かつてのカルデアには居なかった人物。そう、彼こそ解体予定だったカルデアを個人資産で買い占め、新たに所長の座に就(くつもりで)いた貴族然とした魔術師。

 

彼こそは『ゴルドルフ・ムジーク』、魔術の名門ムジーク家当主の魔術師なのだとか。

 

私たちと彼との最初の出会いこそ悪い印象が強いものとなったが、彼もまたカルデアを襲撃したコヤンスカヤに騙され利用された者だと知り、なし崩し的に撤退する私たちと合流し今に至る。

人類最後のマスターとして二年近くやってきた私は、他の魔術師がどんな人物なのかという明確なイメージが湧かなかったけれど、今ではゴルドルフ新所長がそのイメージに当てはまる。

 

まぁ聞いていた話だと、魔術師は基本冷徹で目的の為なら非道も辞さない外道みたいだけど、このゴルドルフという男性はその魔術師には当てはまらないんじゃないかと最近になって分かった。一緒になったばかりの頃は、横暴で無神経で保守的な人だと思ってたけど、本当は優しい人だと気付けた。彼の言葉は高圧的だけど正論で、状況を正しく把握できて、臆病と呼べるほどに警戒を怠らない。なにより、魔術師のスタンスを当てはめるにはあまりに優し過ぎた。

マシュか私の近くにしか寄り付かないフォウ君がこの短期間で懐いているのもその証左だ。

 

そんな彼を加えた新たなカルデア一行は、ここまでの道程を振り返るべきだとホームズが語る。

 

 

「遭難しかかっている、という認識は誤りです。我々は北欧異聞帯攻略直後に繋がった通信に従い、目的地へと向かっています。目指すべき道筋が明確であれば、遭難とは言えません」

 

「誰が言葉遊びをしろと言った! 悠長にしとる暇が無いと私は言いたいんだ!」

 

「だからこそ、我々は短い時間を有効活用しなければ。マシンに限ったことではありませんが、放っておけばトラブルに発展するやもしれない部分は、入念にチェックするでしょう?」

 

「む……確かに。些細な見落としが大事故を誘発するのはレースではよくある事だし、よくやった。トラブルはいかんなトラブルは。特にマシントラブルなどは最悪だ」

 

「ご理解いただけたようでなにより。では、本題に戻りましょう」

 

「うむ。我々の現状の把握だったな」

 

 

ホームズと新所長の二人の話が口論に発展しかけたけど、どうにか収まったようだ。今みたいにゴルドルフさんは、頭ごなしに他人を否定したりしないし、助言なんかも素直に聞き入れる。

口調こそ貴族っぽさがにじみ出て受け入れにくかったけど、そこにはしっかり優しさもあった。

そんな二人の様子が落ち着いたところで、ようやく話し合いは本題に立ち戻ってきた。

 

 

「我らカルデアは、本拠地である南極大陸のカルデアを追われ虚数潜航で一時退避。三ヶ月の潜伏期間を経て第一の異聞帯であるロシアに浮上、これを約一週間で攻略し、異聞帯を汎人類史の地表へ固定する役割を担っているであろう謎多き物質、通称『空想樹』の伐採を完了した」

 

 

ホームズの口上を聞き、随分と長い間ロシアで戦っていた気分だったのが、一週間程度だったことに遅れて驚きを感じる。あの世界は本当に、弱肉強食がルールといった世界だったから。

 

ロシア異聞帯。そこは、異常な寒冷化が進んだ結果、生存が困難になった極寒の世界。

人間は襲い来る寒さや魔獣から身を守るべく、魔獣と合成した新生物「ヤガ」となり、飢えを凌ぐべく狩りをし続ける日々を送るという、弱者が絶対に生き残ることは許されない残酷な世界。

 

異聞帯とは、在り得ざる人類史。この先は無いと打ち切られた行き止まりの未来。その一端があのような姿をした人類のいる世界だったなんて、想像すらしたことは無かった。

 

 

「また、このロシア異聞帯を管理運営していたであろうクリプターの一人、カドック・ゼムルプスの身柄を拘束することに成功したが、ロシア異聞帯でもその存在が確認された言峰神父……いや、ラスプーチンによって奪い返されてしまった」

 

「思い出すだけでゾッとするわ。なんなのアレ。時速90キロでロケットランチャーを構えて突っ込んでくるとか、とんだ特攻野郎ソロチームではないか……」

 

「まぁ、その脅威から逃れるようにして我々は次の異聞帯、北欧異聞帯へと飛び込んだわけだ」

 

 

顔を青くして身震いしている新所長に共感する。カドックさんが奪われるのを阻止するべく、一度ラスプーチンと対峙した私は、言い表しようのない恐ろしさをあの人から感じていたから。

そうしてホームズの語ったように、私たちは転がり込む様に北欧の異聞帯へと突入したのだ。

 

 

「北欧……あの異聞帯も、消えてしまうんだよな……」

 

「ゴルドルフ新所長…」

 

「いや、私のことはいい。私よりもお前たちの方が、その、なんだ。あのゲルダという少女と長く交流していただろう。知らない方が良かった、などと最早言えんが……歯痒いなぁ」

 

 

ゴルドルフ新所長が、とある少女の名を口にする。

 

異聞帯にも人間は暮らしている。ロシアではヤガという姿に変わっていたけど、人としての営みを忘れることなく生きていた。それは北欧も変わらない。生き方が私たちと違うだけで。

 

 

ロシアで、パツシィというヤガの青年と出逢った。

 

異聞帯の王による圧政と徴収で身を削るような思いをしながら、日々を細々と懸命に生きたヤガの一人。ヤガの中でただ一人、ヤガという人間の在り方に疑問を抱いた人。星空を夢見た狼。

 

異聞帯の王との最期の問答に、異聞の歴史であろうとも其処に生きる人々を守ろうと立つ狩人の慟哭に、そして目の前に広がる世界を滅ぼす重圧に。私の心は耐えきれなくなる寸前だった。

その時、パツシィは私を庇い銃弾の雨に体を貫かれ、血飛沫をあげながらも私に訴えてきた。

 

 

———俺は、テメェを、絶対に許さない。

 

———俺に幸福な世界があることを教えてしまった失敗を、絶対に許さない。

 

———だから、立って戦え。

 

———お前が笑って生きられる世界が上等だと、生き残るべきだと傲岸に主張しろ。

 

———胸を張れ。胸を張って、弱っちろい世界の為に戦え。

 

———負けるな。こんな、強いだけの世界に、負けるな。

 

 

自分たちの生きる世界が間違いだと認め、私の生きた世界が正しいと定め、彼は願った。

押し潰されようとしていた私の心を揺さぶり、「折れることは許さない」と(のろ)いを託して。

今まで己が生きてきた証全てが消えることを承知で、彼は私を懸命に励ましてくれた。

 

 

北欧で、ゲルダという少女に出逢った。

 

異聞帯の女王が定めた掟に従い、箱庭のような集落の中でただ飼われるように生きた少女。

誰かに恋する事を知らず、誰かを愛する事を理解できず、定められたとおりに生きた人々。

言われるがままに日々を生き、言われるがままに死を齎される。未来に希望などない世界。

 

絶対の法たる掟を破ってまで妹を救わんとした、誰よりも優しい女の子を私は知った。

彼女の生きる世界を滅ぼすのだと決意してなお、私は彼女に未来の素晴らしさを教えた。

 

 

———おねえさんたちが言っていること、わたしにはやっぱりよく分からないわ。

 

———でも、でもね?

 

———25歳を超えても生きられて、すきな人? と一緒になって、おばあちゃんになって。

 

———なんだか、絵本にでてくる夢物語みたい。

 

———それでも、そんな夢のようなお話が本当になるのだったら。

 

———それはきっと、すてきなことだと思うわ。

 

 

異聞帯の女王が人々に愛を示した世界では、人が人を愛する事が出来なくなっていた。

恋が人を狂わせることも、愛に人が苦しむこともない、そんな世界。誰もが平等で平和な世界。

けれど少女はあの瞬間、確かに願ったのだ。誰かに恋する事を。誰かを愛する事を。未来を。

彼女が望む未来を奪うことになると知りながら、私は少女の尊い願いが叶ってほしいと願った。

 

 

残る異聞帯はあと六つ。これまでのような出会いと、そして別れが待ち受けていることだろう。

それでも私は、私たちは知ることから逃げない。全てが消えてしまうとしても、それでも。

生き残った私たちが、消えてしまった彼らを忘れないことに、受け継ぐことに意味はあるから。

 

 

「私は、大丈夫です」

 

「先輩……はい。マシュ・キリエライトも、同じく!」

 

 

決意を新たに上を向く。隣にいるマシュも、私の表情をみて意を決したように叫ぶ。

私たち二人の言葉に、新所長は一瞬だけ悲しむような色を浮かべ、元の高慢ちきなものに戻る。

 

 

「そうか。自分の事は自分が一番良く分かる。貴様らがそういうなら、信じよう」

 

「「はいっ!」」

 

 

口元の髭を風雅な手つきで整えながら、新所長は頷きつつホームズの方へと向き直った。

 

 

「それで、ホームズ君。振り返りは以上かね?」

 

「いえ。むしろ本題はここからです」

 

「ここから?」

 

「そうとも。北欧異聞帯攻略の最終局面での一幕、そこがポイントだ」

 

 

新所長の言う通り、これまでのカルデアの道程の振り返りが終わったのかと思っていたら、まだ始まってもいなかったらしい。彼が言うには、北欧異聞帯の最終決戦が重要らしいけど……あ。

 

 

「そうか、コヤンスカヤ! それと彼女が連れていたあのサーヴァント!」

 

「正解だダヴィンチ。我々が注目すべきは、コヤンスカヤが見せた一連の行動にある」

 

 

私が思い至るより早く、ロリボディになったダヴィンチちゃんが前より数段高い声で正解を言い当てる。なるほど、確かにホームズの言う通り。あの性悪女の取った行動は奇妙だったもんね。

裏切られたことを思い出したのか、頬のたるんだ肉を震わせているゴルドルフ新所長を横目にホームズはあの時に起きた出来事を冷静に語り出す。

 

 

「ロシア及び北欧の両異聞帯で、我々は彼女と遭遇した。ロシアではヤガを相手に不当な徴収と商売を行い、雷帝への叛意を煽るような行動を取っていた。そして続く北欧だが……」

 

「当初こそ、北欧異聞帯に現存する巨人種たちを使って、私たちに敵対行動を取ってたよね」

 

「ダヴィンチの言う通りだ。彼女は北欧のクリプターであるオフェリア・ファムルソローネの援護をする形で、一度はマスター・立香たちを追い詰めた。そこまではいい。当然ですらある」

 

「問題はその後。スルトが顕現して、空想樹と同期してしまってから、だね」

 

 

ダヴィンチの的確な状況整理に、ホームズは頷く。私は話に着いていくのに精いっぱいだ。

 

 

「英霊シグルドの霊基に潜んでいた巨人王スルト。彼が顕現してからしばらく、汎人類史側の英霊ナポレオンの宝具によってスルトのマスターであったクリプターが正気を取り戻し、スルトを放置してはならないという互いの目的の一致により、我々との共闘が行われた」

 

「オフェリアはそこで、スルトとの契約を破棄するために、魔眼を自ら破壊した……」

 

「問題はここからだ。シグルドの宝具開帳と同時に発動せんとしていた【大令呪(シリウスライト)】とやらの存在も気がかりだが、コヤンスカヤはそれを発動させまいとあの場に飛び込んできた」

 

 

ホームズがそこで話を区切る。私たちがあの戦いの中での様子を思い出すのを待っているのだ。

 

彼の言う通り、コヤンスカヤはオフェリアさんが大令呪とかいうのを使う寸前に割り込んできた。あの時は状況が切迫してたから深く考えなかったけど、確かにあのタイミングは変だった。

まるで、その大令呪を使わせないために割って入ったような……。

 

 

「あの時、彼女は『クライアントの希望に沿うべくのんびりしてた』とか言ってたね」

 

「クライアントだと? つまり、クリプターの小娘を助けたのは、誰かの依頼ということか?」

 

「確証は無いけど、あの言い方だとそう解釈できるよね。ただ、そうなると……」

 

「そう。コヤンスカヤを動かした何者か(フーダニット)、ではなく、彼女を救う動機(ホワイダニット)こそが重要となる」

 

 

カルデアのトップ会談が白熱していく。でも、動機は気になるよね。なんで助けたのか、か。

 

 

「そういえば、コヤンスカヤがオフェリアさんに何か言ってなかった?」

 

「はい。『彼からの伝言をお忘れですか』と。先輩の仰るとおり、そう言っていました」

 

「彼からの伝言? 彼、というのはつまり、クリプターの男たちのいずれかだな」

 

 

私の呟きをマシュが拾ってくれて、新所長が考察の枝を伸ばしていく。伝言って、あの人はいったい何を伝えられてたんだろうか。それに誰が、何の目的で? 考えるほど分からなくなる。

 

 

「ホームズ、君はどうみる?」

 

「………この場合、伝言の内容も発信者もさして重要ではないだろう。マスター・立香の気付きはとても素晴らしいものだったが、目を向けるべきはコヤンスカヤの目的にある」

 

「コヤンスカヤの目的、ですか?」

 

「伝言を伝えた事を思い出させる、これがコヤンスカヤの目的だったのだろう。実際、彼女が介入してくる直前まで、クリプターは自身の死を思わせるような発言をしていたしね」

 

 

その一言が、オフェリアさんのあの言葉を思い出させる。

 

 

『実は私、好きな人がいるの』

 

 

彼女の突拍子もない一言から続いた想いの告白は、同じ女である私の心に深々と突き刺さった。

そしてコヤンスカヤが口にした「彼からの伝言」をオフェリアさんが思い出した直後からの様子は、正直直視できるものじゃなかった。泣き崩れる様が、痛々しくて、悲し過ぎて。

 

 

「オフェリアさん………」

 

「マシュ…」

 

 

そして、Aチームの頃からの付き合いがあるマシュは、オフェリアさんが気がかりなようだ。

そりゃそうだよね。二年越しに再会した仲間が敵になってて、おまけに心に秘めてた想いをまるで遺言のように託される寸前だったんだもの。それで動揺するなという方が無理な話だ。

 

 

「………彼女の個人的な想いはともかく、コヤンスカヤはクリプターと取引を交わし、連れていた和装のサーヴァントに命じて意識を奪い身柄を確保。そのまま彼女自身は撤退していった」

 

「う、うむ。しかしあのサーヴァント、いったい何者だったのだ」

 

「当時の戦闘記録を端末にダウンロードしたよ。もう一度見てみようか」

 

 

敢えてオフェリアさんの乙女の恋慕部分に触れないよう濁したホームズは、話を強引に続ける。

見た目は昔の日本にいそうなサムライ、って感じだったけど。ってことは日本の英霊なのかな。

 

そうしてるうちにダヴィンチちゃんがあの時の戦闘データをホログラムに投影してくれた。

 

そこに映った一連の出来事は、改めて見返しても衝撃の一言に尽きる。

 

 

「カタナ・ソードの柄でクリプターの小娘の首を打って昏倒させよった……」

 

「その後、巨人王スルトに向き直って、()()()()()()()()()()()。何度見ても目を疑うよ」

 

「この大質量を日本刀で切断する事は不可能だと思いますが、実際に彼は切り裂きました」

 

 

映像にも、そして私たちの記憶も。あのサムライがスルトを斬る瞬間が映っている。

 

 

「何かカラクリがあるはずだ。ダヴィンチ、サーヴァントの解析は済んでいるね?」

 

「勿論さ。でも、ちょっとビックリするよ、コレ」

 

「ええい、もったいぶらんでもいい! 早く教えたまえ!」

 

「はいは~い。じゃ結論から———彼の持つあのカタナから、()()()()()()()()()()()

 

 

ダヴィンチちゃんの言葉に、ホームズの眉が跳ね上がり、焦れていた新所長から勢いが失われていく。私はただ驚くことしかできない。いや、待って。神霊? 神霊って、神霊だよね?

 

かつてのカルデアにも神霊サーヴァントの召喚例は幾つかあった。すぐ思いつくのは、ギリシャ神話にその名が刻まれた『ゴルゴン三姉妹』。他にもメソポタミア神話の女神『イシュタル』なども神霊系サーヴァントに該当する。まぁ、総じて凄まじい力を持った英霊だった。

 

 

「つまり、あのサーヴァントが持ってる日本刀も、サーヴァントってこと?」

 

「マスター・立香、それは違う。君の主張は、神霊系サーヴァントに当てはまるかどうかということだが、そうではない。そうだね、ダヴィンチ?」

 

「うん。マスター、この反応はサーヴァントに型落ちした神霊のものじゃない。本物の神霊だ」

 

「ということは……サーヴァントではなく、生きた神霊そのものが刀になっている、と?」

 

「そうとしか考えられない」

 

 

ホームズとダヴィンチちゃんの補足もあって、私にも彼らの危惧するところが読めた。

要するにあのサムライ英霊は、生きている神霊というとんでもない存在を武器に使っているわけだ。ん? その言い方だと、あのサムライの方は神霊じゃないってことだよね?

 

 

「そうなると、あの英霊の出自よりも、武器の方を警戒しなくては」

 

「何故だね? 神霊を武器にするサムライなんぞ、調べればすぐに該当しそうなものだが?」

 

「そこですミスター・ゴルドルフ、重要なのはそこだ」

 

「む?」

 

「あの英霊は神霊を武器に使う。裏を返せば、()()()()()()()()()()()()()()()()事実があるということに他ならない。我々が真に警戒すべきは、汎人類史にはないその技術でしょう」

 

 

突き付けられた現実に、新所長の顔色が再び青に染まる。私も似たようなものだろうけど。

汎人類史にはない、ホームズはそう言った。ならば間違いなくその技術は、異聞帯独自のもの。

私たちが破壊しなきゃならない世界のどれかに、そんな超技術を有する世界があるなんて。

 

 

「この英霊が何の神霊を武器にしているかは不明だが、カタナで斬られたスルトはこの後、明らかに弱体化し始めた。小型化されていながら、神霊の権能自体になんら陰りはないとみられる」

 

「何らかの属性に対して特攻を有する神霊かな?」

 

「現段階では不明だ。しかし、サムライの英霊と日本刀と化した神霊。予想はつくが」

 

 

カルデアが誇る頭脳二人が予想を語り合う。そこで新所長が声を荒げた。

 

 

「日本だ! 日本にも異聞帯があるといっていたな、ならばそこに違いない!」

 

「ゴルドルフ新所長のお言葉に、私も賛同します」

 

「私もマシュと同じで、新所長の言ってることが合ってると思うな」

 

「断定はできません。しかし、そうなると日本異聞帯には神霊を加工ないし鋳造するような技術が存在する事になる。ロシアや北欧のように、人々の文化がどのような変化を遂げているかも不明瞭な今の状態で、これ以上踏み込んだ想定はかえって悪手になる」

 

「ま、目下のところは『そういった事実があった』程度に認識しておこうってわけだね」

 

 

ダヴィンチちゃんがホームズの言葉を受けて、一度この話題を締め切った。でも、そうか。日本で暮らしてた私が、一番ギャップを感じることになるのかな。私の知ってる日本と全然違う世界になってる可能性があるんだもん。いや、やっぱり止めよう。ホームズの言う通り、考えすぎるのもこっちの思考の自由度が縛られる。今は、目の前の問題に集中しなくちゃ。

 

 

「サムライはスルトを切断後、戦線から離脱。おそらく、コヤンスカヤ同様撤退したのだろう」

 

「コヤンスカヤの動向、オフェリアを救おうとした誰か、そして神霊を武器にする異聞帯か…」

 

「……クリプターの小娘を死なせないよう働きかけたのは、同じクリプターではないか?」

 

「その可能性は高いと思われます。ならば、いったい誰が? という新たな疑問が生じますが」

 

「あの……」

 

「マシュ?」

 

 

異聞帯を攻略しても分からないことが増えていくばかりで気が滅入りそうだと溜息をつくと、隣のマシュがおずおずと意見を口にする。

 

 

「その、オフェリアさんを助けようとした人物は……ゼベルさんでは、ないかと」

 

「ふむ。その根拠は?」

 

 

マシュの口から出てきた人物の名は、ゼベル。クリプターの一人で、同じクリプターの芥さんとお付き合いしているらしい男性だとか。ホームズもマシュに根拠を求めている。

 

 

「根拠と言えるものではありませんが、ゼベルさんはとても優しい方です。以前、よくお二人で談笑している場面を目にしました。それに、オフェリアさん自身も、彼の事を……」

 

「ああ。『前の私』の記録にもある。ゼベル・アレイスターは魔術師にしては優し過ぎるし、よくマシュやオフェリアを誘って映画鑑賞なんかをやってたみたいだ。辻褄は合うかな」

 

 

人理漂白という状況に陥れたクリプターだとしても、マシュは信じていたいんだ。私が知る前から一緒にカルデアで過ごした仲間を。ダヴィンチちゃんも前の姿の記憶をデータとしてアップロードしてるようで、マシュの言葉を擁護する姿勢を見せている。

 

すると、ブリッジにいた他のスタッフのみんなも口々に話し始めた。

 

 

「確かに、ゼベルなら有り得るな」

 

「アイツ魔術師とは思えないほどフランクだったし、人付き合いもすごかったよ」

 

「私もよく話したわ。というより、彼から話しかけられるのがほとんどだったけど」

 

「僕もサブカルの話で盛り上がったなぁ。技術屋上がりの僕にも普通に接してきたっけ」

 

 

次から次へと、彼の人物評が挙がっていく。そしてそのどれもが、彼を好意的にものばかり。

私は知らないけど、カルデアの中でゼベルという人は、受け入れられていたんだろう。

 

 

「……とにかく。彼女を救うべくコヤンスカヤに働きかけた者がいた、この事実は揺るがない」

 

「もしそれがゼベルさんだとしたら。彼なら、きっと話し合うことができると思います!」

 

(マシュ……もし彼がかつての彼と変わりなかったとしても、きっと……)

 

 

特にマシュからの信頼は厚い。さっきも映画を一緒に見たとか言ってたし、本当にゼベルさんを信じているみたいだ。だったら、私も信じてみたいな。マシュが信じているんだから。

でも、ダヴィンチちゃんがそんなマシュを悲しげな目で見つめているのが、少し気になった。

 

 

「ん? 何だ、この反応?」

 

「どうしたね、カルパッチョ君?」

 

「ムニエルだっつの。ああいや、戦闘記録を洗い出してたら、妙な反応を見つけて…」

 

「なにそれ気になる! みせてみせてー」

 

 

突然、スタッフの一人でオタク趣味のムニエルさんが変なことを言い出す。毎度新所長から変な名前で呼ばれてるのも慣れたけど、どうやらふざけている場合じゃないみたいと切り替える。

ダヴィンチちゃんがムニエルさんの使っている端末に近付き、データとにらめっこし始める。

何事かと気になっている私やマシュをそっちのけで、妙の反応とやらについて話が進んでいた。

 

 

「これ、スカサハ=スカディのいる氷の城に突っ込んでいった時の戦闘データだね?」

 

「そうそう。すごい数のワルキューレやわけわからんエイリアンみたいなのと戦ってたやつ」

 

「オフェリア・ファムルソローネ曰く、アレは『空想樹』の種子らしいが……」

 

「で、ここ。ほら、ナポレオンの砲撃で応戦してる時に、反応が一つ消えてるんだよ」

 

「………本当だ。ナポレオンの砲撃範囲外で、種子の反応が不自然に消えてるね」

 

 

ダヴィンチちゃんの表情から笑みが消え、真剣みが増す。なにか大変な事が起きたのかな。

ゴルドルフ新所長も置いてけぼりに我慢できなくなったのか、また声を荒げだした。

 

 

「こらこら、最高責任者の私をほったらかしに議論を白熱させるんじゃないよ! 何か異常が見られたのなら、すぐに私に報告しなさいよまったく。で、何が奇妙なのかね?」

 

「レーダーから『空想樹』の種子の反応が一つ、不自然に消えている。すごく引っかかる」

 

「探知範囲外に出て観測できなくなっただけじゃないのか?」

 

「そういうわけじゃないよ、コレ。ムニエル君、ちょっと照準絞ってみて」

 

「了解……………あ! あった、すごい小さな反応! でもこれ未知の反応(アンノウン)だぞ⁉」

 

「どれどれ……小さな未確認反応が三つも。マシュ、マスター、心当たりはある?」

 

 

どうやら、あの戦闘の最中に未知の存在が三つも紛れ込んでいたらしい。高速移動するボーダーの上でワルキューレや種子と戦闘していたマシュは、小さく首を振った。マシュに見えてないものが当然私に見えるはずもない。私も同じように首を左右に振る。そこでホームズが小さく呟く。

 

 

「どうやら、また謎が一つ増えたようだね」

 

「現在進行形で、通信に従って謎にまっしぐらだし。こりゃ大変だぞぅ」

 

「そ、そうだった! どうかね、【彷徨海バルトアンデルス】との連絡は⁉」

 

「ダメダメ、向こうから一方的に送られてそのまんま。けど、指定された座標は間もなくさ」

 

 

ゴルドルフ新所長がダヴィンチちゃんの言葉に慌てふためく。そうだ、私も振り返りで複雑化していった疑問や問題に意識が向いて忘れてた。私たちが今、ある場所を目指していたことを。

 

魔術世界の三大巨頭の一角。人理の白紙化を免れた最後の砦、【彷徨海バルトアンデルス】

 

北欧異聞帯を攻略した私たちに送られてきた通信に従って、私たちは指定された座標へ向かっている最中だったんだっけ。すっかり忘れてました。だって魔術方面の話題にはまだ疎くて…。

拠点を失い、車両を前線基地代わりにする現状を打破し得る可能性。だんだんと悪くなっていく私たちの現在をどうにかできるかもしれない希望。それが、この先に待っていた。

 

 

現状の把握を終えた私たちは、そのすぐ後に目的の場所へと辿り着くことに成功した。

そこで出逢った新たな仲間や、安心して腰を下ろせる拠点を得て、私たちは久しく安堵する。

心細い暗がりの逃避行は終わり、ここからようやく反撃の狼煙を上げることができるのだと。

 

そう信じて疑わなかった。

 

でも、安心なんてしてる猶予すら与えられないのだと、私は悟らされる。

 

 

たったワンホールの小さなケーキによって。

 

 

 

 

 








いかがだったでしょうか?

振り返りはなるべく文字数減らそうねって思ったそばから一万字越え。はーやだやだ。
前半で話を膨らませすぎるのが、僕の悪い癖(特命係並)

それとお詫びがございます。

当作品の「序章:裏」というお話がありまして、そこで2019年と表記してあったのですが、
それは誤りでした。正しくは、2018年でした。現在は修正してあります。
読者の皆様を混乱させかねないミスをしてしまい、申し訳ありませんでした。


次回をお楽しみに!
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