Lostbelt No.8 「極東融合衆国 日本」 作:萃夢想天
このままのペースだと未完で終わることになる可能性が浮上したので、
それを回避すべく更新速度を速めることをこの度決意致しました。
無理はしないつもりですが、どうしても速度を上げることで杜撰になる部分や
止むを得ず省略を行う場面が増えてしまいます。その点をご了承ください。
今度こそ書き切ると決めたんやワイは……!
謎が謎を呼ぶ新章開幕! そろそろカルデア来てくれないと書き手が詰む!
もしかしたら中国異聞帯は大幅カットかも! ごめんやでぐぅやんパイセン!
それでは、どうぞ!
——これは、物語が動き出した直後の幕間——
「うむ。戻ったか、我が仔らよ」
一人の女が微笑む。
人の形をした豪華絢爛とも呼ぶべきソレは、
「おお良し良し。『母』の言いつけ通り、よくぞ持ち帰った。良き仔らよな」
喜色満面といった様子でソレが見つめているモノは、低く短い吐息を漏らすのみ。
縦長の顔の右半分に、縦に三つ並んだ右眼を光らせ。
顔の残る左半分には、垂れ下がった左耳が二つ、重なるようにそこにあった。
蔦のように絡み合う剥き出しの筋繊維は脈動し、四肢は左右非対称の位置に備わっている。
直視しようものなら、
「さぁ、我が愛し仔よ。その身に宿した『種』を、
ズルズル、と。女の側頭部から山羊のそれによく似た角が生え、声もそれまでの色香漂う女のものから、背徳と悪逆を好む魔女の如き醜悪さを孕んだものへと変わり果てた。
「時の因果に縛られることなく駆けるがいい、『ティンダロスの猟犬』よ」
暗闇に蠢く奇妙な生物の真名を口にした女は、足元の闇へ溶けるように消えたソレを見送る。
女にとって先程の成果は重要であり不可欠。それを可愛い我が仔が果たしたことに満足げだ。
もっと、もっと。これだけではまだ足りない。胎を痛めても産まれる仔が愛おしい。
彼女の大切な人からも「増やせ」と命じられたばかり。ならば女は、その通りにするまで。
「くふふふ……第一宝具【
暗がりに包まれた密室の中で一人、歪に嗤う女は、早くも膨らみだした腹を撫でた。
おいっすー。すごい久々な気がするが、今日も元気なゼベル・アレイスターだ。
俺が日本異聞帯の女王に用事を済ませに行って、そのままやってきたコヤンスカヤに色々と頼んでから早くも一週間。緊急で呼び出されて現在クリプター会議の真っ最中なわけだが。
いやホントにビビった。まさかカルデアがオフェリアんとこの北欧を潰しちまうなんてな。
別に舐めてたつもりはないし、下に見るわけがない。ただ、あのオフェリアを凌ぐだけの力量が今のカルデアにあったんだなっつー驚きがあった。すげぇな、伊達に人理修復してねぇわ。
「……はい。かくしてスカサハ=スカディは破れ、北欧異聞帯は空想樹を失い、人類史から切除されてしまいました。残念ながら、オフェリアさんは帰らぬ人に……よよよ」
「ちょっと、悪ふざけはやめなさいコヤンスカヤ! 私は生きてます!」
「てへ☆ 場の空気を和ませるリップサービスのつもりだったんですが」
異聞帯がまた一つ消えたことは悪いニュースだが、良いニュースもある。北欧担当だったオフェリアが生きて戻ってきたことだ。いやまぁ、俺が助けてやってくれと頼んではいたんだけども。
あのコヤンスカヤが取引に応じたとはいえ、ちゃんと職務を全うするかどうかは信じきれなかったからな。そこでオフェリアの助力兼監視役として、こっちのセイバーを送り付けてやった。
前に話してた監査がどうこうっての意趣返しよ。ま、オフェリアがちゃんと無事で良かった。
……いや、無事とは言い難いか。
「見え透いた演技はやめて、コヤンスカヤ」
「あらヒドイ。これでも切った張ったの大立ち回りを演じてどうにか連れ出せたんですよ? そりゃまぁせめて
「そう。なら、そうなって正解だったと言えるわね。彼女の瞳がおまえのコレクションにされていたら、なんて想像するだけでも目が眩みそうだもの。貴方もそう思わない、ゼベル?」
「んー。それについては同感だな。コヤンスカヤにくれてやるのは、もったいない」
「わぉ、辛辣ぅ♪」
ヒナコに話を振られ、無難に答える。流石に目が眩むような絶望感は感じはしないぞ俺は。
結局、オフェリアの命を助けることはできた。でも、その代償と言わんばかりに彼女は魔眼を失う羽目になった。不慮の事故とか戦闘での負傷じゃなく、あくまで自分の意志らしいが。
詳しくは聞いてないが、大まかな流れは芝居がかったコヤンスカヤの語りで把握した。
彼女が契約したセイバーが北欧の英雄シグルドではなく、その霊基に潜んだスルトだということ。スルトとは、神々の黄昏ことラグナロクにおいて数多の神々を屠る終末装置となるはずだった存在だという。オフェリアの魔眼が異聞帯にいたスルトを視抜き、その縁を辿られ強引にサーヴァント契約を結ばれてしまい、最後の最後でスルトの呪縛に踊らされたということ。
ほんで、スルトが覚醒して異聞帯もろともにこの星を破壊しようとしたため、カルデアとの共闘を選択。そこでオフェリアは、契約の強制破棄を行うために右眼を自ら破壊したのだ、と。
もうあの綺麗な輝きが見られないことを悲しむべきか。いや、生きていることを喜ぶべきだな。
「私は自分の異聞帯の報告の為に来た。それも済んだし、退席させてもらうわ」
「おいおい定時退社かよ羨ましい。その神経の図太さを俺にも分けてくれヒナコや」
「うっさいゼベル。とにかく、私はそこの女狐とは極力無関係でいたいの。間違っても私の異聞帯に寄越さないでよね。その女は、どうあっても国を滅ぼすことしかできない女なのよ」
俺は通信礼装でホログラム状態だが、オフェリアと実は無事だったカドックの二人は、キリシュタリアの異聞帯であるギリシャのクリプター会議室に生身でいる。いや、生きててよかった…。
とか安心してたらヒナコが通信ブッチして消えた。また怒らしたかな、俺。あれか、神経といっても女性に「図太い」はマズかったのかな。そこは「フットワークの軽さ」の方が良かったか?
「おいおい、ホントに退席しちまったぞ芥のヤツ! チームワークとかどうなってんのかね」
「……いいのか、ゼベル?」
「なにが?」
「芥はお前の……いや、いい。それよりもヴォーダイム、放っておいて大丈夫か?」
べリルがいつもの軽口を叩き、カドックがなにやら俺に言いかける。なんだなんだお前、そういうちょっと口に出した感じの言葉が一番気になるんだ俺は。勝手に自己完結して終わらせんな。
とはいえ、ちょっとヒナコも言葉足らずだったな今のは。後で話しかけにでもいくかね。
「ふむ、大丈夫とは?」
「芥が苛立ってた理由はコヤンスカヤの挑発だけじゃない。オフェリアの北欧と僕のロシア、二つの異聞帯が落ちた現状に、強い怒りを持っていたように感じたが」
カドックがヒナコの苛立ってる理由を自分たちのせいだと言ってるが、多分違うぞアレは。
俺の予想だが、きっとアイツ異聞帯で夢にまで見た項羽様との生活が上手くいってねぇからだろうぜ。カルデアにいた頃は口を開けば「項羽様項羽様」の項羽オタクだったのに、実物と出逢ったら想像と違ったからカルチャーショック受けてるに違いないとみた。やっぱ後で慰めに行くか。
「コヤンスカヤの挑発が無ければ、怒りの矛先は僕に向いていただろう」
「……それは私にも言えることよ、カドック。彼女に役立たずだと叱責されたとしても、今の私たちは反論できる立場ではないもの。その点でいえば、喜んでいいのかしらね?」
そして元から自分を責める傾向があったカドックはともかく、オフェリアも責任を感じているみたいで、二人してヒナコの怒りが自分たちのせいだと落ち込んでた。気のせいだと思うがなぁ。
でも、あれだな。オフェリアも随分変わった感じがする。「憑き物が落ちた」って感じか?
「あー、それな。オレもそこは流せねぇなぁ。ロシアが落ちてカドックは生還した、それはいい。北欧が焼けてオフェリアが帰還した、それもいい。喜ぶべき事だ。仲間の命だかんな」
「……何が言いたいのかしら?」
「いやなに、
そんな中、眼鏡の奥にある瞳を細めたべリルが、底冷えするほど冷淡な声色で尋ねる。
「特にカドック、おまえさんのサーヴァントはカルデアを制圧したアナスタシア。いわばヤツらの仇敵だ、そんな英霊を従えた男が無傷で生還とか、おかしいだろ?」
「………僕は、従えていたわけじゃ」
「オフェリアさんよ、アンタも同じだ。連中にとっちゃ等しく邪魔な障害で、そんでもって貴重な情報源になるわけだ。身柄を捕らえて尋問拷問って流れなら分かるよ? でもそうなってない」
「………………そうなってほしいような口ぶりね」
「そういうわけじゃねぇさ。だが———今更寝返ろう、なんてのはナシだぜ?」
べリルの口ぶりは、絵本なんかでよく見る狡猾な狼を連想させた。厭らしい野郎だなオイ。
当人のいない場所で陰口として言い放題なら分からんでもないが、二人を目の前にしてよくもまぁ裏切りを疑えたもんだ。俺もいい性格してないが、この畜生ほどじゃない自信がある。
というかここは黙っていられん。せっかく生きて戻った二人に、その言葉はねぇだろうが。
「なに寝ぼけたこと言ってんだべリル」
「ん? なんだなんだ、いつもは口数の少ないおまえさんが、珍しいじゃんか」
「この二人が寝返ろうとしてるわけないだろ。それぐらい分かるだろふつー」
「……へぇ。そうかい。だったらその根拠を教えちゃくれないかい?」
前まではこの荘厳な場所に顔を出す度に緊張で腹を痛めてたが、今日は随分と調子がいい。
もういい加減慣れたってことかね。それなら俺の舌はよく回るってとこ、証明してやるか。
「根拠だぁ? んなもん、二人がこの場に来てることが何よりの証明だろ」
「……………すまん。ゼベル、おまえが言いたい事がオレにはさっぱりなんだが?」
「だーかーら。裏切るつもりなら、そもそもこの場に顔出すことしないだろって事だよ」
「…………………は?」
完璧な論破にべリルも開いた口が塞がらないようだ。自明の理って言葉知ってっか?
裏切る腹積もりがあるんなら、普通はのこのこ裏切る相手の前に戻っちゃ来ないだろう。
なのに二人は戻ってきた。つまり二人は裏切るつもりなんかない。はい証明終了。
「あのバカ……本気で言ってるのか?」
「残念だけど彼は本気よカドック。そういう人だって私も忘れてたけど…」
圧倒的説得力が誇らしい。ってオイ、なんだよ。二人そろって頭抱えて。疲れてんのか?
「あー。まぁ、なんだ。おまえさんはどう思うよ、キリシュタリア?」
お前までなんだよべリル、そろいもそろって人の話を聞いといてぞんざいな扱いしやがって。
何が気に食わないんだよ、言ってみろオラ。ちゃんと俺が論理的思考に基づいた結論をだな。
「ねぇゼベル、アタシ聞きたいんだけど」
「お、どうしたぺぺ姐ぇ」
他のメンツとはやはり格が違うぜ、ぺぺ姐ぇは。俺の証明が完璧に過ぎるからって負け惜しみも無しに話を切りやがって。よっしゃ、ぺぺとの話の中でちゃんと筋道立てて説明してやるか。
「裏切り者って、普通裏切る相手側に着いて情報とか引き出すものじゃない?」
「当たり前だよなぁ」
「なら、それってこの二人にも当てはまらない?」
「……あ」
まさかの俺の論理牙城、崩壊。言われてみればその通りだわ。裏切るんだからそりゃ内通の一つや二つもするわな。何考えてんだ俺のバカ。ああ、皆の視線がすげぇ痛い。
「彼の誤解が解けて何よりだ。さて、話が本筋から脱線してしまったね」
やいキリ公コラ。人の間違いを脱線とかこきおろすのやめぇや、通信ブッチすんぞ。
くっそ普通に恥ずかしいわ。仰るとおり過ぎて反論の一つも浮かばん。ぐぅ正論。
しばらく黙って様子を見ていようそうしよう。恥かくのが嫌だとかじゃないからな。
「コヤンスカヤ……いや、ここは本人に直接尋ねるとしよう。オフェリア、もう一度確認がしたい。君は自らの意志でカルデアと共闘し、炎の巨人王スルトを諫める為に
「…………ええ」
「君のその行動は、北欧を治めるクリプターではなく、オフェリア・ファムルソローネ個人としてのものだったと。そう認識して、構わないかな?」
「構わない。私は、成すべき事を成した」
顔をしかめながら場の成り行きを見守ることにした。キリシュタリアがオフェリアに随分と酷な事を突き詰めているが、さっきの話を鑑みて口を挟むべきではないと判断する。
「……そうか。君の返答に、私は多少、失望しているよ」
「…………………キリシュタリア。あなた、いくらなんでも」
「彼女の能力を過大評価していたと言わざるを得ない。平和な北欧を治めきれないとはね」
俺たちクリプターのリーダーを務める御方は流石だな。ぺぺ姐ぇが取り持とうとするのも無視してオフェリアに辛いこと言いやがる。誰より責任を感じてるのは当人だってのは俺みたいなバカでも分かることだろうが、天才のお前が分からんとは言わせんぞ。クソ、偉ぶりやがってよ…。
「ああ、その点について私からも一つ、質問が」
「なにかな、コヤンスカヤ」
巨大なテーブルのしたで拳を握りしめ我慢していると、不意にコヤンスカヤが口を開いた。
「アナタはスルトの事を知っていて、そのうえでスルトを残しておくようオフェリアちゃんに指示していたのではありませんか? スルトの存在も込みで、北欧を任せていたのでは?」
続けて語られたのは、キリシュタリアがすべての原因だったのではないかという追及だった。
「となると、これは少し筋が通りません。スルトは北欧異聞帯にとって大敵。それを残す、つまりは北欧の崩壊を意図していたのと同義では? 【異星の神】の望みとは異なっていません?」
今回の議題でオフェリアが中心になっているのは、北欧異聞帯が落とされたこともそうだが、スルトという神話級の化け物の存在があったからだ。それが話題にかかる圧を増加させている。
だがコヤンスカヤの話が仮に真実だとするなら、オフェリアがスルトの制御に失敗したことで異聞帯を終わらせた、というより、スルトを排除しなかったから北欧の崩壊が確定した事になる。
そうなるんなら話は変わってくる。筋が違うよなぁ、どうなんだキリ公。
「確かに、スルトを残すようアドバイスした。北欧異聞帯の王がカルデアに賛同する危険があったからね。その時の保険として使うといい、と提案はした。だがそれまでだ」
「と、言いますと?」
「彼女には荷が重すぎた。それだけの話だよ」
「……っ」
コヤンスカヤの問いかけに、キリシュタリアは是と答える。
提案として口にしたことは認めるが、それは実行し切るだけの力があると信頼していたから。
蓋を開けてみれば自分の信頼が過度だった。君の力量を見誤っていた私の落ち度だった、と。
つまりはそう言いたいんだな、テメェは。
「ふざけんな」
しばらくは黙って様子見だっつったな、前言撤回だクソッタレ。
「どういう意味かな?」
「スカしてんじゃねぇぞボケ。要は勝手に期待して、勝手に落胆しただけじゃねぇか。万馬券でも買ったつもりで寝ぼけてるようなら、そのピクリともしねぇ頬を張り倒してやろうか」
「——随分な言い様だね」
我慢できなかった。いや元から俺ってヤツは気が短い方だってのは自覚してたが、こうもあっさり堪忍袋の緒が切れるのは初めての経験だ。冷静な部分で割とビックリしてる自分がいる。
俺の唐突な暴言に会議は静まり返った。べリルやデイビットですら唖然とした顔になってるが、生憎と外野に構ってやるつもりはない。俺の怒りの矛先は、ただ一人に向かってるからな。
「別に一から十までお前が悪いとは言わんさ。提案したってことは、オフェリアの方からどうすりゃいいのかって聞きにきたんだろうし。だとしても、まずは相手がどうしたいかを聞けや」
「オフェリアの意思を問うことが肝心だったと?」
「最終的な決定をしたのはオフェリアだ。行動の責任はアイツにある。だが、お前がたった一言『こうすべきだ』と言った以上、テメェの言葉には責任を持てよ。オフェリアなら大丈夫だとか勝手に決めつけて丸投げすんな。それで失敗したら槍玉に挙げて〝失望した〟だ? 笑かすな」
「ゼベル……」
心の奥底から絶え間なく溢れ出る感情を抑えられない。オフェリアの事を思うと止められない。
「オフェリア・ファムルソローネは立派な魔術師だし、自分を律する事ができる人格者でもある。でもな。コイツはお前が想像しているような完全無欠女じゃねぇし、なによりお前が求めていたレベルとか当人からしたら〝知るかボケ〟って話だ。何も知らないヤツが勝手に語るなよ」
「不明瞭な発言ばかりだな、君は。昔から変わらない」
「頭悪いからな、俺は。そんならバカの俺でも天才のお前に分かるように言い換えてやる」
言いたい事を片っ端から口にして、ようやく腹の底が落ち着いてきたらしい。しかし、俺も人様にああだこうだと言える立場じゃないはずなんだが。それでも言わずにはいられなかった。
というよりも。ああ、そうだ。思い出したぜ。すっかり忘れてたことが一つ、あったんだ。
キリシュタリア・ヴォーダイム—————俺はお前が好きになれなかった、最期までな。
「見た事はあるか?」
「…………君は、なにを」
「オフェリアの眼帯の下にある眼を見た事があるかって聞いてんだ」
「彼女の、魔眼を?」
気に入らない理由は、大したものじゃない。ただ、誓って僻みや妬みとは無縁である。
キリシュタリアは時計塔でもかなりの有望株で、カルデア初代所長のマリスビリーの一番弟子でもあったっつー話だ。実の娘のオルガマリーを絶望に追いやった一因でもあったけなぁ。
昔からと言ったかクソボケ。なら俺も同じ言葉を返すぜ。変わってないな、悪い部分が。
「戦闘訓練などで彼女が眼帯を外した際に、目にしたことはある」
「…………それを見て、どう思った?」
「先程から君の発言の意図が読めないな」
「いいから答えろ、
コイツはかつてのカルデアの頃から、周囲を
今でもクリプターを率いるリーダーの位置にいるが、それは俺たちが任せたからじゃない。
キリシュタリアが誰よりも前に立つからこそ、俺たちを率いているように見えるだけなんだ。
「どう思った、か…………ふむ。
だからこそ、この男の答えは予想がついていた。
「彼女の魔眼の性能について語れと? それとも、魔眼への畏怖? どれも違うだろう。ゼベル、君が求めている答えはそうではない。彼女とよく話していた君だ、私より詳しいはずだからね」
「オフェリアの目を見ても、何も言うことはないと。そういうことだな?」
「今になって語るべきものは無い。もう彼女の魔眼が未来を視ることもないのだから」
「ああそうかい。期待通りの回答をありがとうよ」
キリシュタリアは誰も見ていない。今の問答で確信した。コイツは、人を見ちゃいない。
勿論、見ただけで相手の全てが完璧に分かるようになれ、なんて寝言は言わない。誰にだってできるわけねぇからな。俺が言いたいのはそういうことじゃなく、もっと人間的な部分での話さ。
もっとありふれた、普遍的な、人間らしい答えをしてもらいたかったが……。
「あんなにも綺麗な輝きをみて、何の感慨も湧かないなんざ———人の心は無いらしい」
「ちょっとゼベル、アナタ言い過ぎよ! どうしちゃったのよいったい!」
「悪いぺぺ姐ぇ。それでも俺は言うべきだと思ったんだ。なぁキリシュタリア、人の眼を見て話すのはコミュニケーションの基本だろうが。天体科だからっつって星ばっか見上げてるから初歩の初歩すら忘れちまうんだろ。人理再編の前に、テメェは人との接し方を一からやり直せ」
キリシュタリアの目つきが鋭いものに変わる。ぺぺも咎めるような視線を投げかけてくるが、ここまできちまったらどうしようもない。下手に戻そうとすれば、余計に悪化するのは明らかだ。
しょうがねぇ。もう少し先にするつもりだったが、『計画』をここで早めるとしよう。
「前々から疑問だったんだ。キリシュタリアの異聞帯が勝つ出来レースに、なんでわざわざ俺らまで参加しなきゃならん? やるなら結果を残したいのに、既に結末が決まっているときた。とんだ茶番だぜまったく。もうたくさんだ、俺は負け確定のレースから降りさせてもらう」
本当ならこっちの問題があらかた片付いて、予定していた工程の7割が完了してからクリプターに絶縁状を叩きつけてとんずらこく想定をしてたんだが………頃合いというには早計だな。
吐いた唾は呑めん。今更なぁなぁで終わる雰囲気じゃないし、勢いの任せる方が良いとみた。
「…………君の決定に異を唱えるつもりはない。去ると言うなら、追いはしない」
「寛大な慈悲に感謝するぜ————あばよ」
最後まで平静を崩すことなくこちらを見据える男に、心の内で「済まなかった」と謝罪する。
本当はそこまで言うつもりじゃなかったんだ。お前の全部を否定するわけじゃなかったんだ。
ただ、止められなかった。オフェリアの奮闘を知っても冷淡なお前が、許せなかった。
ちゃんと言葉に表して謝れなかったことを後悔するんだろうな、と早くも精神が揺れ動く。
けれど、もう立ち止まることはできない。俺は、必ず日本異聞帯を生き残らせると誓った。
あの世界を守ると決意し、俺の決意に寄り添ってくれる最高の相棒とも出逢えたのだから。
捨て台詞を残し、俺はクリプター会議を後にした。
いかがだったでしょうか?
く、苦しい。書いてて苦しいシーンが多かった……。
ゴメンやでキリシュタリア。君の事は嫌いじゃないんだけどもね。
それでもこちとら主人公なんや。花持たせたらなアカンかってん。
なるべく次回も早めに更新しますので、お楽しみに!
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