Lostbelt No.8 「極東融合衆国 日本」   作:萃夢想天

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どうも皆様、投稿が遅れて申し訳ございません!
可愛い後輩の恋愛相談に乗り続け三日が過ぎた萃夢想天です。

前回は日本異聞帯にオフェリアちゃん参戦!
どうなるヒロインの座? 正妻戦争勃発か⁉ 
半分くらい嘘だけど半分くらい本当なので許してください。

今回はついに、日本異聞帯の王が姿を現します。


それでは、どうぞ!







第四章三節 酸素は必須、なら二酸化炭素は?

 

 

 

 

 

 

 

 

よぉ。こう見えても気持ちの切り替えだけはしっかりしてるゼベル・アレイスターだ。

……クリプター会議の事? 忘れろ。気持ちの整理は早けりゃいいってわけじゃねぇ。

 

ってな具合に過去の後悔を引き摺るのをやめた俺は、政府高官たちと話していたセイバーを

連れて目的地の『皇居』へ、今一度足を運んでいた。護衛無しで動くほどバカじゃないからな。

 

しかしこの異聞帯は本当に汎人類史とは大きく異なってはいるが、あちらよりも数段過ごし

やすくて助かってる。長距離の移動に化石燃料も何も使わず、浪費される資源もありゃしない。

車やバイクを乗り回すのが趣味の奴にとっちゃ地獄のような場所だが、俺にはその手の趣味が

ないから気楽でいい。ごちゃごちゃした道路や線路も無い、ごくごく自然的な大地が広がる。

これこそがこの星と生命体との正しい付き合い方だと実感するが、個人的感傷はおいといて。

 

 

「セイバー」

 

「はっ」

 

 

俺の数歩分後ろをついてくる和装の英霊、セイバーに振り返らず声をかけた。

向こうも返事をしただけで聞き返してはこない。こちらの話を静かに待ってくれている。

普段ならもっと口を軽くしてほしいが、この状況では事務的な態度の方が話が早く進む。

 

 

「大臣たちと話を進めてもらってる最中に呼び出して、悪かったな」

 

「御気になさらず。話といえど、工程の進展具合とその報告が主だっておりました故」

 

「そっか。ここから戻ったら、またそっちを任せたいんだが、いいか?」

 

「主殿の御心のままに」

 

 

まずは急な呼びつけへの謝罪。これは主従が云々というより、同じ陣営として礼を失する

真似だけはしないようにするという俺の意思表示だな。断じて寝返りが怖い(チキった)わけではない。

 

議事堂の会議室を出てから約五分ほど。やっぱ此処の移動は手軽かつ迅速で頼もしい限りだ。

汎人類史じゃこうはいかない。技術体系とかって話じゃなく、世界の成り立ちという根本的な

次元が違うからこそ成しえ形態化したものだが。さて、もう『皇居』は目と鼻の先だな。

 

 

「お前さんを呼んだのは護衛だけじゃなくって、その剣の返還も兼ねてる」

 

「………これは返す代物なのですか?」

 

「そういう決まりだからな。なんだ、惜しくなったのか?」

 

「いえ。ただ、一度刀へと形を変えた神を、戻すことが叶うものかと」

 

「ああ。その点に関しては心配要らんよ。これから会えば分かるさ」

 

 

そう。セイバーを護衛にチョイスしたのは、どうせ呼ばれるんだったらついでに貸して

もらったカタナの返却も済ませようという思惑もあったからだ。単純に二度手間は嫌だし。

借りたものは返せ、と。前回ランサーと来た時に面会した際に神霊を材料に鋳造した武器を

お願いして作ってもらったんだが、渡された時にそんな感じの事を言われてたんだよね。

 

まぁ本来は一緒にいたランサーに渡してやるつもりだったんだが、あの野郎断りやがった。

なんでも「自分が勝ち取ったこの槍に勝る業物など無い」だとか。あとは成果も挙げていない

自分が褒美を先に貰うわけにはいかぬ、とか。日本のブシドー・スタイルはよく分からん。

 

 

(……ま、結局のところ。セイバーが護衛としちゃ最適解なんだよな)

 

 

あーだこーだ理由はあれど、これに尽きる。少なくとも、初見でコイツに勝てる奴はいない。

俺にしては珍しく慢心ともいえる過信がある。その最たる要因はセイバーのスキルだ。

 

 

———スキル【不殺の剣客 : A++】

 

 

詳しい説明は省くが、このスキルがある限りセイバーは()()()()()()()()敗北知らずとなる。

人間に対する大幅なダメージ軽減というデメリットも常時発動させる厄介なスキルだが、

元々人を殺さないサムライだ、ほぼ無意味と化してる。実質強化の恩恵しか存在しない。

 

スキル発動中、対人戦闘に限定されるが、相手を確実に上回るステータス補正(ブースト)がかかる。

要するに、このセイバーを倒せる人間はいないわけだ。例えギリシャのヘラクレスでもな。

まぁカルデアの資料にあった情報によると、英霊ヘラクレスには十二回分の蘇生(リジェネ)スキルが

あるみたいだから、勝てるとは言わない。ただ、セイバーは決して負けはしない。

 

そんなわけで、護衛としてこれ以上の適任はいないと俺は判断した。てか最適解だな。

本当ならコイツをオフェリアの護衛につけてやりたかったが、あそこに四騎もサーヴァントが

いるんだし、問題ないだろう。そもそもこの異聞帯には「脅威」なんてのはいないんだし。

 

………いや。正確に言えば、「脅威としてこちらに牙を剥いてはこない」、か。

 

 

「お待ちしておりました。外海(そとうみ)の者、そして霊魂殿。此処よりは我らが案内(あない)します」

 

「頼んます」

 

 

周囲に存在する『彼ら』を一瞥しながら考えに耽っていると、目的地にて待機していると

いっていた使者団の一人に声をかけられた。って、なんだ。やっぱり巫女衆だったんかい。

 

目の前に並び立つ六人の女性。古めかしい装いをした彼女らは、「巫女衆」と呼ばれる。

 

彼女らは基本的に【異聞帯の王】の領域に居るんだが、女王の意思表示の代行として、

稀にあそこから出てきて議事堂に現れる。本当の意味でのメッセンジャーの役割を果たす存在。

基本的にこの国の重要人物の前にしか姿を見せない彼女らが、よりにもよって俺を呼び出して

女王の許まで案内とは。ますます気になる。こりゃなにかあると見た方がいいな?

 

念話でも繋いでセイバーと話し合うべきか、とも考えたがやめておこう。それは悪手だ。

【異聞帯の王】は常識では測れんほど強大な存在。こちらの念話を傍受するだとか、思考を

把握するなんて事も可能かもしれない。警戒ってのは、し過ぎるくらいがちょうどいいのさ。

 

立派な御屋敷である『皇居』にかけられた隠蔽の魔術に似た空間を潜り、天然自然の岩肌が

露出した洞窟を黙々と進み数分。視界がぐらぐらと歪んだ直後、そこには別世界が広がる。

 

 

「———面妖な」

 

「やっぱ何回見ても慣れんわ」

 

 

先程までの薄暗い洞穴は見当たらず、あるのは自然の音だけが聞こえる太古の風景ばかり。

目に映る全てが、現在では失われてしまった幻想だらけで、ギャップに眩暈すら覚える。

 

来る度に「何も変わっていない」ことへ驚く自分を無視して、巫女衆が先へ進んでいく。

セイバーに促されて後を追い、道沿いに歩いた先に建つ木造の御殿に辿り着いた。

 

 

「それでは、此方。天皇への参拝を前に、御仁への礼を尽くしなさい」

 

「………やんなきゃダメ?」

 

「……………………」

 

「ですよね。やるやる、やるから睨まないで」

 

 

巫女衆の一人が御殿に着くなり、()()()()()()()()を行うよう申し付けてくる。

前にも言ったが、多分この異聞帯独自の習わしかなんかみたいなものだ。意味不明だが。

 

植物状態のようになっているご老体に、礼節を弁える様を見せる。

相手からの反応が無かろうと、人形と会話するような滑稽さに苛まれようと、執り行う。

これを済ませてからようやく、本命の女王とご対面ができるわけ。いちいち面倒なんだよ。

やんなきゃいけないのは分かるがさ。悪習ってのは引き継がない方がいいと思うよ俺は。

 

なんて考えながらも口にはしない。そうしてここ数回で暗記してしまった定型文を滑らかに

読み上げ、やっと儀式が終了。ここから【異聞帯の王】の待つ本殿への移動が許される。

 

再び巫女衆の後をついていき、独特の香りがする木造の廊下を歩き、本殿に到着。

スダレとかいう和風カーテンで覆われた部屋から見下ろせる、一段下の部屋で歩みを止める。

さて。いい加減緊張よりも面倒が勝ってきたんだが。いかんいかん、集中集中。

 

 

神呼(みこ)様、神呼様。御膝元へ参りし我らに、尊顔を拝す誉を与え給え」

 

 

巫女衆の頭目らしき女性が、膝を折って頭を垂れたままの姿勢で、真摯に述べる。

毎度同じセリフだが、これも神聖な場における習わしの一つなのだろう。堅ッ苦しいけど。

 

次の瞬間、信じられないほどの空気の変化を感じた。

 

 

『———(よい)。面を上げよ』

 

 

しん、と。体の中から音が消える感覚を味わう。心臓の鼓動すら、停止したかのように。

対面するのはこれで二度目だが、此処へ来る時と同じで、絶対に慣れる感覚じゃないな。

迂闊に口を開くことも出来ない。思考以前に肉体が拒否している。それほどの「圧」がある。

 

 

『拝謁の誉れを許す。面を、上げよ』

 

 

絶対的な重圧か、少しばかり和らいだ気がする。手の感覚マヒしてないか不安になるな。

こういった畏まった場にて、上位者からの拝謁の許しを得る時は、二回目を待つのが常らしい。

貴族社会に通ずる暗黙の了解のようなものと自分を納得させ、言葉に従い顔を慎重に上げた。

 

 

『良くぞ参った。()が民、阿が子』

 

 

其処に居るのは、人でも、霊でも、まして神でもない———超常的な概念と呼ぶべきモノ。

数多無数の()()宿()()にして、この日本異聞帯を総括する()()()()()()()()()と化したモノ。

 

そして、その真名は。

 

 

「御機嫌麗しゅう———【卑弥呼】様?」

 

 

かつて、この日本という国がまだ国という単位としてまとまりきっていなかった太古の時代。

戦乱によって国を併合し、新たに国を興すという『国盗り』が浸透するより以前の、旧き世。

歴史学上、この日本という島国において最初に起こったと思しき国を治めた、神卸の女神官。

 

それが、汎人類史の歴史に刻まれている【卑弥呼】という人物である。

 

間違っても、その身に生きた神を取り込み、管理しているような代物を指す名じゃない。

 

全身から幽かに光を放つような人間がいてたまるか。いったいどこの竹取物語の主人公(プリンセス・カグヤ)だ。

という突っ込みも自粛しながら、神々しいオーラを隠そうともしない上段の貴人を見やる。

 

 

(東洋系の顔立ちとか、そういった枠じゃ見れないな……同種として見做せんわ)

 

 

視線の先におわす御方は、美人に違いない。だが、それは神秘的な美しさというカテゴリに

分類されてしまう。同じ種族としての美しさという枠組みで、見ることはできそうにない。

例えるなら、聖なるものを描いた絵画、だろうか。描かれた人物に美を見出したとしても、

そこに人間的な情欲や恋慕は抱かないと俺は思う。思う人がいても悪いって意味じゃないぞ。

 

とにかく、そんな神聖さすら感じられる相手を前に、まともな精神を保ってられないんだ。

 

失礼な態度で気分を害するような真似だけは避けねば。そう意識するのでやっとな状態よ。

このまま立ち上がったら俺の膝は、バランスが不安定なジェンガの如く震えだすだろう。

あー、喉が渇いてきた。クソ、小便近くなるのを恐れて水分補給怠ったのが裏目に……!

 

 

『———(うん)、近う寄れ』

 

 

弱った精神状態の俺に追い打ちをかけるかのように、女王は言葉を発した。ん、何だって?

 

 

「神呼様! 外海の者を招くのみならず、御身に近付かせるなど⁉」

 

『———(よい)。吽、阿が許へ参れ』

 

 

突然巫女衆がざわついたかと思えば、女王の一声でしんと静まる。で、どういうことなの?

何が起きているのかを尋ねようにも、巫女衆は俺を貫かんばかりの視線で睨むばかり。

どうしたものかと考えたところで、後ろに控えていたセイバーが念話で助け舟を寄越した。

 

 

〈主殿。おそらくかの御仁、主殿に関心がある様子。歩み寄るがよろしいかと〉

 

〈マジ? それマジで言ってんの? アレに自分から近付けって、バカなの?〉

 

〈然らば如何する。このまま千日手にて日暮れを待たれるか? 沈む陽があるのやら〉

 

〈………だよなぁ。行く、しかないよなぁ。はぁぁクッソ、怖いものは怖いんだが⁉〉

 

 

セイバーから念話を繋げてきたってことは、この近距離でも女王には感知できないと踏んで

いるとみるが。それとも聞かれても問題ない内容だからってだけ? 問題ないのかコレは。

でぇいチクショウ! やらなきゃ分からんのだし、ここは動く! 大丈夫だと信じて!

 

音を出さないよう慎重に慎重を重ね、静かにゆっくりとスダレが掛かる上段へ近付く。

意を決して数歩分だけ移動すると、スダレの奥に居る女王の意識が集中するのに気が付いた。

 

 

『……………吽、近う』

 

(まだ⁉)

 

 

なんか皮膚がヒリヒリしてきたんだが、気のせいか? 気のせいだと思いたい。

ここまで来てさらに接近を要求されるとは予想外だが、これホントに大丈夫なんだろうな?

すぐそばまで寄ってから「不敬」とか言われて処されたりしないよな。しないよな⁉

 

 

(……怖ぇ……)

 

 

呼ばれたのだから行くしかない。腹を括り、また少しずつ音を殺すように歩み寄る。

そうして上段にかけられたスダレが、目と鼻の先ほどの距離に近付いた瞬間。

サササ、と。植物が擦れるような音とともに、スダレがスルスルと巻き上げられていく。

 

 

「う、あ———」

 

『……是』

 

 

スダレ越しに話すのかと思いきや、まさかの直接のご対面。想定外にもほどがある。

いきなり神々しい存在を眼前に感じてしまったせいか、数秒ほど俺の意識が飛んだ。

後ろにぶっ倒れるかもという懸念は、しかし無様に棒立つ両膝によって払拭された。

 

これが、有史以来この日本を守護し、統治し続けてきた理の埒外。究極の生命。

人の形をしている分、違和感が半端じゃない。人型の生物がまとう雰囲気ではない。

強大な力の前に、物理的に押し潰されそうになる。そんな予感が脳裏をよぎった。

 

 

『———』

 

 

だが。寒くもないのに震える俺をよそに、女王は淡く発光する細腕を伸ばしてくる。

 

 

(なっ⁉ コイツ、動けないって話じゃなかったか⁉)

 

 

日本異聞帯に来て今日まで、俺はこの女王が動くことのできないものと認識していた。

どうやら間違いだったようだと遅まきながらに気づく。ああ、動けないってのはあくまで

居場所を動くことができないのであって、体を動かせないわけじゃねぇのか。

 

致命的な誤解。静かに迫る両腕を、見ることしかできない。まさに蛇に睨まれた蛙。

何をされる? 分からない。分からないことが怖い。どうすれば。どうしたらいい?

自然、俯きそうになる顔をどうにか擡げ、女王の意図を探らんと表情を観察しようとする。

 

そこで、ふと。どこかで見た事のあるような、()()()()()()を見たような気がして。

 

 

『———吽。吽よ。阿は吽、その須くを許す』

 

 

血液が巡っているか疑うほど白い指が、手が、俺の頬をそっと撫でる。何なんだ?

ただ、よく分からんが女王が何やら俺に語っている。ウン、ってのは俺の事なんだよな。

 

 

「つ、つまり女王。貴女は俺に何を」

 

『是。阿は許す。阿は吽が求むるを与ふ。吽、唯申せ。阿は総て許す』

 

 

表情の一切が削げ落ちたとでも言えるか。さながら感情のないアンドロイドを思わせる。

女王の淡々とした言葉にも恐怖を感じるが、それ以上に語られた内容の方が気にかかった。

えっと……要するにどういうことなんスかね。ちょっと表現が独特っつか古風過ぎて。

こういう時にこそ、同郷の人材がいるという安心感は異常。助けてセイバー!

 

 

〈言ってる意味が分からん。セイバー分かる?〉

 

〈………訳せば、『其方の望みを全て叶える。何でも言え。その権利を与える』かと〉

 

〈わっつ…? ってことは、女王への発言権が得られたって認識していいのか?〉

 

〈否。それ以上でありまする。かの御仁、主殿の申し出を何であれ受け入れましょう〉

 

〈………いやいや。そんな七つ集めて神頼み(ドラゴ〇・ボール)じゃないんだからさ〉

 

 

冗談言ってる場合かよ。と念話越しに怒鳴ろうかと思ったが、セイバーはこんな状況下で

ボケに走るようなアホじゃない。となると、え? マジなの? 本当に? なんで?

絶対的な領域に居る存在視点で話されてもこちとらお困りなんじゃが。どういうことよ。

 

でもまぁ、そっちがそう言うならいいのかね。あとで悪魔的取引持ち掛けられるとかは

無さそうだし。そういうのは生きた神のすることであって、女王は生物とは呼べんしな。

よし。そういうことなら、せっかくだし図太くいかせてもらおう。何をお願いしようか。

 

 

「……女王。いや、【卑弥呼】様。私の願いを叶えていただけますか?」

 

『是』

 

「なら、そうさな……あ。では、この地の霊脈に手を加えることを御許しください」

 

『許す。吽が求むるならば』

 

 

初手からかなり無茶なお願いをしたつもりだったが、あっさりとオーケーをもらった。

本当にいいのか? 霊脈に手を加えるってことは、女王の管理下にある土地を奪い取る事も

可能になるって事なんだが。いや、するつもりはないがね。それくらいの事だよって話。

 

でもそうか。このレベルのお願いも聞いてもらえるのか。よしよし、なんか知らんがヨシ!

霊脈を弄れたなら、日本異聞帯にこれ以上日本の英霊を召喚させないようにプロテクトを

施すことも可能になるぞ。カルデアが乗り込んできても、かなり戦力を削げるはずだ。

 

調べて分かったことだが、日本という国。実は『神殺し』の伝説が非常に多い国である。

世界中の伝承や伝記を調べるうちに判明した事だが、ケルト神話と同等かそれ以上の割合で

神々を殺した伝説が残されていた。正直、ただの島国と侮ってた俺は戦慄したね。うん。

 

しかも比べてみると理由がまた相当なモンだ。

基本的な神殺しの伝説は、神が要らんちょっかいを出したりして人間が迷惑を被り、

それが許せずに神に挑むという形式。いわば「テンプレート」が大半を占めてるんだ。

ところが日本はどうか。勿論、先のテンプレートに当てはまる場合もかなりの数があった。

だが、「邪魔やったから殺したら神様だった、いっけね」な展開が多過ぎるんだよなぁ。

 

だから日本の英霊をカルデアに召喚されるのは、けっこう拙い。だからその手を封じる。

俺一人じゃ到底無理だが、日本に流れる霊脈を司る女王に頼めば、一発で問題解決よ。

これで向こうの戦力は日本以外の英霊に絞られる。相当な数だが、地の利を得られる英霊が

除外できたと考えれば妥当だろう。さて、ここからどうしたもんかね。逆に悩ましいな。

 

 

『…………………』

 

 

すげぇ見てくる。無表情だけど、「もっと他にないの?」みたいな意思を感じる気がする。

これは……どう受けとりゃいいんだろう。何でも叶えると言った手前、大して要求しない方が

かえって失礼にあたると捉えるべきか。はたまた調子に乗らない程度で控えておくべきか。

 

どうしたもんかと悩んでいたが、此処に来た目的がまだあったことを忘れてたわ。

 

 

「そうだ。女王よ、お借りしていた神霊武装・縁切(えんきり)を返上致します」

 

『是。阿が元へ還れ。須勢理毘売命(スセリビメノミコト)磐長姫命(イワナガヒメノミコト)

 

 

借りていたカタナ、神霊武装を返さなきゃいかんのだった。急展開の勢いで頭から抜けてた。

危ねぇ危ねぇ。セイバーが言うには、かのスルトにも通用するヤベェ武器だったらしい。

生きた神霊を材料にして作ってんだし、効果は折り紙付きとは聞いてたが。そこまでとは。

 

セイバーが腰に提げていたカタナを鞘ごと手に取り、恭しい姿勢で差し出す。

それを返却と認識したようで、先程までそこにあったカタナが瞬きの間に形を失い消えた。

なんか名前を呼んでいたようだが、それが材料となった日本の神様なのかな。分からんが。

 

俺が女王に貸してくれと頼んだのは、「強制的に契約を破壊可能な概念武装」だった。

オフェリアを助けるのはいいが、それを彼女の契約したサーヴァントやらに妨害でもされたら

厄介この上ない。クリプター会議でセイバーを召喚したと聞いてたから、念には念を入れたぜ。

結果的には予想的中どころか、相当役立ったみたいだったが。炎の巨人王とかよく斬れたな。

 

とにかく。これで返すべきものは返したし、お願いを何でも聞いてもらえるようになったし。

収穫としちゃ万々歳ってなもんだ。いや順風満帆これ結構。順調に物事が運ぶのは良い事よ。

ただ、何でも叶えると言われてもパッと思いつかないし、この案件持ち帰ってもいいかね?

俺より頭のいい連中としっかり検討したうえで、いろいろ策を講じておきたいんだけども。

 

 

「女王。無礼は承知しておりますが、私の願いをまた聞いていただけますか?」

 

『是』

 

 

即答だよ。ここまで来ると怖いんだけど。そもそもなんで急に女王の態度が変わったの?

前回御目通りした時は、別にこんな感じじゃなくって、今以上に機械染みてたんだが?

時間経過とは考えにくい。目の前の存在は、数千年を神とともに生き続けている超常生命。

会うのが二度目だから慣れてフランクになった、なんて本人に言われたとて納得できんわ。

 

ま、分からんことをぐだぐだ考えても意味ないか。考えて意味のあることに集中しよう。

さてさて。それじゃオフェリアも待たせてるし、お願いを検討させてくれと頼もうか。

 

結論を出した俺が口を開こうとしたその瞬間、脳髄が揺すられる程の魔力の繋がりを感じた。

 

 

〈———聞こえておるか、主人(マスター)!?〉

 

〈うおッッ!?〉

 

 

ビッッックリしたぁ‼ 急に頭ん中に声が響いたから驚いたじゃねぇか!

念話にビビったというより、聞こえるはずのないフォーリナーの声に驚かされたわ!

え? つか待ってくれ。此処って女王のいる異空間だよな。なんでアイツと念話が繋がる?

時空ごと隔絶された場所のはずだろ。フォーリナーはどうやって外から俺に語り掛けてる?

 

 

〈驚かせたことは詫びます。ですが、緊急事態でしたので〉

 

〈緊急だと? まさか、オフェリアになにかあったのか⁉〉

 

〈……何故あの小娘の名が挙がるかはおいておきます〉

 

 

妙に引っかかる謎に意識を割くことを許さない声色で、彼女は緊急事態とやらについて語る。

 

 

〈———()()()()()()()()()。おそらく、サーヴァント主導によるものかと〉

 

 

いつになく余裕の感じられない彼女の言葉を理解するのに、数秒の時間を要した。

 

 

〈……待て待て。どういう事だ? ガリレオに『観測』を任せてたはずだろ〉

 

〈はい。キャスターの衛星監視は、確かに先刻まで異常を捉えておりませんでした〉

 

〈だったら、なおさらおかしいだろうが〉

 

 

そうだ、冷静になれ。落ち着け。考えろ、考えろ。沈着な思考を取り戻せ俺。

まず彼女の報告。反乱を起こされた、だと? この日本の国家体制でそんなの有り得るか?

日本があまねく地球上の国家を吸収し融合した、最強の統一国。それがこの世界の常識。

俺たちがやってくるまで、自発的な変革の必要性にすら気付けなかった人間に、どうやって

クーデターを起こすなんて発想が抱けるってんだ。可能だとしたら外部からの接触しかねぇ。

 

それこそ、フォーリナーが言っていた、主導しているサーヴァントの影響だ。

 

 

〈過去にライダーが接敵した米国(アメリカ)のバーサーカー、彼奴の策だったようですわ〉

 

〈なんだと…⁉ それじゃ、まさか反乱を起こしたのは……〉

 

 

続けられた報告に挙がった名を聞き、今度こそ表情が変わるのを止められなかった。

俺たちのつけた仮称・米国のバーサーカー。奴が反乱を企てた首謀者だと? 狂戦士(バーサーカー)が?

 

現時点で俺たちが有する情報は少ない。クソ! 情報を秘匿しようと接触を断ったのが逆に

仇になっちまったのか。ライダーしか接敵してないし、その一度限りの戦闘からしか情報を

得ることができていない。向こうの手の内が、こちらからは全く見えていない状況だ。

 

しかも、米国のバーサーカーが反乱を企てたってんなら、場所は一つしかねぇだろ!

 

 

〈ええ。反乱の発端は、アメリカ県の一都市。そこから勢力が急速に拡大しています〉

 

〈よりにもよって、汎人類史で開拓者精神(フロンティアスピリッツ)掲げてたアメリカか、クソッ!〉

 

〈情報によれば、『主の御名の下、我らは新たな帝政を樹立し、帝国として独立する』と〉

 

 

フォーリナーの話を聞いて確信する。あの英霊は、これ以上放置したら絶対にマズイと。

俺たちが存在を確認してから、まだ一か月経過してもいないのに、反抗勢力どころかほぼ

無辜の民を焚きつけて反乱分子にまで格上げさせる腕前がある。時間を与えるだけ相手が

有利になっていく。手を出すリスクを考慮しても、ここで見逃す方が後々厄介になる。

 

 

〈フォーリナー。至急、お前の子供を200体とライダーを向かわせろ。ここで潰す〉

 

〈妾の仔らは良いが、ライダーまで向かわせますの?〉

 

〈のさばらせておく程、こっちが不利になる。最優先でバーサーカーを叩けと伝えろ〉

 

〈承知しましたわ。その旨を伝えておきます〉

 

 

その言葉を最後に、念話のパスが切れたのを実感する。早速動いてくれるようだ。

しかし、クソが。まさかカルデアの他に厄介事の種が増えることになろうとはな。

完全に予想外だった。召喚された汎人類史の英霊一人を放置しただけで、こうなるか。

 

今回の件は教訓として深く胸に刻ませてもらうぜ、米国のバーサーカーさんよ。

この借りは数倍にして叩き返してやる。返品不可の着払いだ、ありがたく思え。

 

 

(…………ん? 待てよ。『帝国として独立』だと? 合衆国(アメリカ)が?)

 

 

齎された情報の断片が、いやに思考をさざめかせる。違和感が徐々に浮き彫りになっていく。

 

 

(様々な思想、人種、血統、民族が集った平和的結束(ハリボテ)の国だろ。帝政が樹立できんのか?)

 

 

透明なパズルを手探りで当てはめていくように、着実に違和感の正体へ近づいていく感覚。

それがますます強くなる度、新たなピースが見つかる。それを埋める。見つける。埋める。

単調な思考への没頭を続けてしばらく。バラバラだった歯車が、ガチリ、と噛み合った。

 

 

(なるほど、そうか。あの人物が主導者なら、確かにアメリカは『帝国』になるな)

 

 

敵の、正体を見抜いた。これ以外はないと断言できる、唯一の解答に辿り着く。

 

 

(———やってくれたなぁ、()()()()()()()()()()()()()()()()()?)

 

 

打ち破るべき存在を、捉えた。

 

 

 

 









いかがだったでしょうか?


最近は調子が良いので、近いうちにまた投稿できるのではないかと!
波乱巻き起こる(かもしれない)次回を、お楽しみに!


ご意見ご感想、並びに質問や批評などお気軽にどうぞ!

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