Lostbelt No.8 「極東融合衆国 日本」   作:萃夢想天

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どうも皆様、3月から新しい職場で働く萃夢想天です。

先行き不安で仕方ねぇ……SSを書く時間が消失すると思うと、シンドイ…。
物語を書くことでストレスを発散してる私にとって、それが奪われることは
すなわち死を意味するわけなんですが……大丈夫かな私。

いざとなったら仕事を辞めて本格的にノベルライターを目指そうかな。
そうなった場合、活動拠点をこのサイトから小説家になろうに移すかも。
先のことなんて分かりませんが、ひとまずよろしくお願いいたします。


それでは、どうぞ!








第四章五節 窒素は生物を殺すが、生物に必須でもある

 

 

 

 

 

 

 

え、ええと。どうも、オフェリア・ファムルソローネ、です。

 

って、私は誰に言っているのかしら? というか現在進行形でどこへ連れていかれてるの?

色々と出来事が急過ぎてついていけないわ……さっきはせっかくのチャンスだったのに。

 

私は今、自分の想いを直接告げるために、日本異聞帯へやってきている。

勿論クリプター会議では反対された。一方的に言いたい放題下挙句に集団から離脱していった

ゼベルの後を追いかける、だなんて。裏切り者と思われてもおかしくない行為だもの。

 

けれど、私に向けられた非難はコヤンスカヤが封殺してくれたの。驚いたわ。

ベリルが痛いところを突いてきた時も、私との個人契約上で履行される行動だから第三者から

これを取り消すよう求められても応じる必要なし、と。性格こそアレだけど、頼りになる。

 

キリシュタリアの許可も得て、正式にこの異聞帯に足を運ぶことができたんだけれど…。

そこからはもう状況が二転三転。目まぐるしく変わる展開に、ついていくのでやっとよ。

 

 

「………此処ならば、誰の耳にも留まらぬか。この部屋で語らいましょう、小娘」

 

 

今だってそう。私を無理やりゼベルから引き離し、話がしたいと連れ出したサーヴァント。

クリプター会議では【暗殺者(アサシン)】と報告されていたはずの、ゼベルが契約したサーヴァント。

でも、先程までゼベルが取り仕切っていた作戦会議中、それが虚偽であると判明した。

 

 

「あ、の……話って何なの? フォーリナー、だったかしら?」

 

 

目の前に立つ女性の英霊。ゼベルは彼女のことを、フォーリナーと呼んでいた。

直後に彼から「後で話す」と謝罪をされたのは、きっと彼女本来のクラスを偽っていた事に

ついてだろうと予想する。嘘を吐かれていたのは気分のいいものではないけど、許せる。

 

それについては、戻った時に彼から直接聞けばいい。彼も話がしたいと言ってくれたし。

……えへへ。話ってなにかしら? 特異点修復の日に保留したあの話を聞いてくるかな?

だ、大丈夫よ。今度こそちゃんと言います。言えます。もう逃げたりしないんだから。

 

ゼベルとの話を想像して悶々としていると、フォーリナーが苛立ちを露わに言い放つ。

 

 

「そこのソファにお座りなさいな。少し長い話になるかもしれませんもの」

 

「え、あ、はい。失礼、します…」

 

 

室内に案内されると同時に座るよう指示されてしまった。お、怒っているみたい?

相手は人類史に刻まれた英霊であり、霊体。対してこちらは魔眼を失った魔術師。

勝ち目なんかあるわけがない以上、大人しく従っていた方が良さそう。あ、いいソファ。

 

降ろした腰がふわりと受け止められる感触を楽しみつつ、目の前の相手を改めて見つめる。

 

ウェーブがかった金髪の美女。その身にまとう衣服は、豪華の限りを尽くしたといわんばかり。

なにより一番目を引くのは、彼女の胸部。圧倒的な豊満さに、同性として比較してしまう。

今まで大きい事を羨ましく思ったことはなくても、アレほどじゃなくても、もう少し…。

 

 

「妾の胸が気になりますか?」

 

「い、いえ、違います! 不快に思ったなら謝ります!」

 

「構いませんわよ。妾の美貌は男女問わず虜にしてしまうと、自覚していますから」

 

 

う…な、なんという自信。これ見よがしに組んだ腕で押し上げて、まろびでそうな柔軟さに

思わず羨望の視線を向けてしまう。か、彼も、女性の胸は大きい方が好みなのかしら…?

 

 

「って違う、違います! 貴女は何がしたいのです? 私を此処まで連れてきて」

 

「ああ、そちらね」

 

 

いけない。また塞ぎ込むところだった。大丈夫よ、私は「綺麗だ」って言われたんだもの!

それに胸の大きさに自信はなくても、スタイルなら気を遣っているから問題ないはずよ。

糖質制限もしたし運動も欠かさずしたし、ぺぺから伝授された女磨きだってマスターした。

心配することなんてないのよオフェリア……ん? 私は何をムキになっているの?

 

 

「他愛のない女同士の話がしたい、と。我が主人(マスター)に伝えた通りですわ」

 

「……そう言われても。そもそも私は貴女と会って間もないのですが…」

 

 

一度冷静になりましょう。彼の事は一先ず置いておく、よし。今は目の前の彼女に集中。

ただ、話と言っても何を話せばいいのか。この異聞帯に来て一日が経過したけど、この建物

から外には一歩も出させてもらえなかった。ゼベルは「安全上の問題」と言ってくれたけど、

此処は元から安全で危険のない世界だったんじゃないの? それも後で聞いておきましょう。

 

机を挟んで対面の位置のソファに腰を下ろすフォーリナーが、冷ややかに微笑む。

 

 

「ええ、仰る通り。ですから、妾の質問に答えていただける?」

 

「質問、ですか」

 

「至極簡単ですし、質問と呼ぶほど堅苦しい形式はありません。どうか気を楽になさって」

 

「……そういうことなら」

 

 

落ち着いた物腰で話しているようで、なんだか誘導されているようにも感じてしまう。

何故かしら。彼女とは会話するのも初めてのはずなのに、妙な話し辛さを覚える。

簡単な話というなら、どうしてさっきの部屋で済ませなかったのか、と疑問を抱いたけれど。

 

とにかく、聞いてみないと始まらない。今は彼女の話を聞くしかないみたいだし。

 

 

「では尋ねます」

 

「は、はい」

 

 

色白の顔から、僅かだが笑みの感情が薄れたように見える。

 

 

「妾の主人に話がある、と。昨日言っていたわね」

 

「……ええ。そうです」

 

「その話とやら、詳しく聞かせなさい」

 

 

最初の質問からいきなり難易度が高過ぎるのと思う。

 

ま、待って! 彼女はつまり、私がゼベルに伝えようとしている内容を知りたがっている。

そういうことなのよね? い、嫌よ! 言えるわけないじゃない! 告白するつもりだなんて!

ダメダメ、ダメです! それは言えません! で、でもどう断ったらいいの……?

 

私の焦りが表情に表れたのか、フォーリナーの眉根が形を歪ませる。

 

 

「妾は『話せ』と言ったのよ? それとも、言えない事情でもお有り?」

 

「そ、れは……その」

 

 

疑いの眼差しが強まる。いけない。疚しい事情なんか無いのに、圧迫感が強くて……。

そもそも、どうしてそんなことを聞いてくるのかしら。いくら彼のサーヴァントと言っても、

あまり内々に関わる事柄に自ら首を突っ込むなんてあるの? ああ、私の契約していた存在が

存在なだけに、感覚がおかしくなっているのかも。異常なのは私の方だったりする?

 

でも、恥ずかしくても、ここは言うべきかもしれない。いや、言うべきだと思う。

今までずっと自分の想いと正面から向き合うことはなくて。北欧で最期を覚悟した瞬間にやっと

向き合うことができたけれど。死の間際に託そうとして、けれどそれは自分の言葉ではなく。

またしても自分から伝えることから逃げようとしていただけに過ぎない。故に、今度こそ。

 

顔から火が噴き出そうなほど頬を赤く染め、それでも私は胸の奥に燃える想いを口にする。

 

 

「つ、伝えるためです———彼が、ゼベルが、好きなのだと。私の全てなのだと」

 

 

この気持ちに嘘偽りはない。焼け落ちる異聞の世界を私の右眼が視たあの日まで、この心に

燻っていた想いの残滓は、今では私自身にすら抑えられないほどの炎へと燃え広がった。

きっと、一度死を覚悟したからでしょうね。開き直ったと言ってもいいほどに、かつての私に

出来ていたはずの心の制御が、難しくなっている。破られた殻の中から、溢れ出している。

 

 

「伝えたいんです。私が今日まで大事に抱き続けた、この本心を」

 

 

正面から、堂々と。もう他人の視線や顔色を窺って縮こまる私はもういない。

そんな私は、北欧で死にました。此処にいる私は、これからを生きる私は、臆することなく

相手を見つめ返せる。片方の目は無いけれど、残った瞳でも世界は色づいて見えるから。

 

 

「…………………」

 

 

とはいえ、完全に克服できたわけでもない。未だに初対面の相手と話すのは慣れないわ。

それよりもさっきからフォーリナーの顔つきが、段々と険しくなっているような……?

 

 

「気に入りませんわね」

 

「え?」

 

 

質問への返答を黙って聞いていたかと思えば、強い口調で私の言葉を否定してきた。

 

 

「気に入らないと言ったのです。確かに妾と其方では、主人と共に過ごした時間では大きな

 差がありましょう。けれど、なんです? まるで自分だけが彼を慕っているかのように」

 

「え…? あの、何が言いたいのか…」

 

「其方は主人にとって、同志以外の何者でもないのでしょう? ですが妾は違います。

 妾は彼に望まれてこの地に参じた、いわば出逢うべくして出逢う運命に結ばれている。

 ハッキリ言わせてもらうわ。妾は、主人を誑かそうとしている其方が気に入らないの」

 

「………なんですって?」

 

 

なんとも強引かつ理不尽な物言いをされたものだわ。いきなり何を言いだすの?

 

私がゼベルを誑かそうとしてる、ですって? まるで私が泥棒猫みたいな言い草じゃない!

微かな苛立ちが胸の中に生まれる。貴女こそ、自分勝手に言いたい放題しているのに。

そもそも、どうして私が想いを伝えるのに、貴女から文句を言われなきゃいけないの!

 

自然と眉間に皺が寄るのを堪えられない。そうしている間も、彼女の言葉は止まらない。

 

 

「其方と違い、妾は主人に必要とされているのです。お分かりかしら? クリプターとやらに

 主人が所属していた時、其方は必要とされていたの? 妾は常に主人の隣におりましたが、

 妾以外の女をお求めになった事は、一度たりともありませんでした。ええ、一度も」

 

「…………それは、あくまでサーヴァントとマスターというだけの間柄では?」

 

「今はまだそうでしょうね。しかし、これから先もそうであるかは分からないわ。

 すぐ隣にいて力になれる女と、振り向いてもらうのをただ待つばかりの女。果たして主人は

 どちらをお選びなさるかしら。結果は見え透いておりますけれど、ねぇ?」

 

「ッ………」

 

 

口早に、溢れんばかりの傲慢さを捲し立てる目の前の女に、私は明確な敵意を抱いた。

何なのよ、本当に。どうして何も知らない彼女にこうまで言われなきゃいけないのよ。

目に見えて勝ち誇る様子に、無意識に舌打ちを漏らす。こんな苛立ちは北欧以来だわ。

 

でも、私は冷静な思考を保てている。だから問題ない。彼女の侮辱も聞き流せる。

それにフォーリナーは致命的な見落としをしている。あえて見ないフリをしているのかも

しれないけれど、そんな都合のいいことがあるわけない。現実と向き合わせてやるわ。

 

 

「そうね。貴女の言う通りです。結果は見え透いているもの」

 

「……何が可笑しい」

 

「いえ、気付いていないのか。それとも気付きたくないのか。どちらともなのか。

 私には関係ないから無遠慮に言わせてもらいます。お互い様でしょう?」

 

「不埒な小娘風情が、(わらわ)に何を語ると言うの⁉」

 

 

さっきまでの淑女然とした振る舞いが鳴りを潜め、高慢な本性が厚皮を突き破り現れた。

相手が人間を超越したサーヴァントであることを忘れ、一人の女として相対している自分を

自覚することなく、毅然とした口調で彼女の盲点を指摘する。

 

 

「だって———貴女、既に死んだ身(サーヴァント)じゃない」

 

 

彼女は英霊。サーヴァント。その身はエーテル体で構成された霊的存在。生物ではない。

そんな彼女が、ゼベルの隣に相応しいですって? お昼寝の時間には早過ぎるのでは?

 

彼の事を何一つ分かってないくせに、偉そうなこと言わないで。

 

 

「ゼベル・アレイスターは未来を目指す人。過去の記録(あなた)では、不相応でしかないわ」

 

 

いつだって彼は先を、進むべき未来を見つめていた。だから私は彼が好きなのよ。

自分という存在の小ささを自覚しながら、それでもひたむきに一歩ずつ前へ踏み出す雄姿。

彼にその自覚がなくても、私は無言の背中に希望を見出したの。心を救われたのです。

 

ゼベルの近くにいながらそれすら分からないような蒙昧は、それこそ不必要。

 

 

「貴女が何を思って私の想いを否定したのか分からない。でも、私、止まらないから」

 

 

召喚されたというだけで強がらないで。それだけで選ばれただとか、見当違いも甚だしい。

彼の隣には私が立ちます。契約が無ければ現界も出来ない霊体の出る幕なんて、ないの。

 

強い意志をこめた左目の視線が、フォーリナーを射貫く。

 

対してあちらは、まさか反論されるとは思いもよらなかったようで、たじろいでいた。

でもすぐに顔色を変え、みるみると険しさを増していく。どうやら完全に怒らせたみたい。

 

ドス黒いオーラを身にまとわせ、魔力を収束させ始めるフォーリナー。

 

 

「こ、の……ッ! 言わせておけば、小娘如きがッ!」

 

 

金切声をあげながら立ち上がった彼女の足元で、またあの不快な水音が聞こえ出した。

目線を下げると、黒い泥のような足元から、歪な造形の怪生物がぞろぞろと這い出している。

 

 

(わらわ)の邪魔立てなぞ許せるものか! ()()()()()! ()()()()()()()()‼」

 

 

私の知るどんな生き物とも違う、奇妙な唸り声が室内に響く。彼らの視線が私を捉えた。

爪が、牙が。私の命を奪い取ろうとする瞬間を待ち侘びている。危機的状況だと理解しては

いるのに、不自然なほど冷静にこの場を俯瞰している自分に驚く。一瞬の静寂、そして。

 

 

「我が仔らよ! そこな小娘を食い殺してしまいなさい‼」

 

 

黒い殺意が、私に群がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ———女が、泣いている。

 

 ———男が、女を冷ややかな目で見つめる。

 

 ———まだ幼い少年は、そんな二人を見上げている。

 

 ———「違うのです」と、女は言う。

 

 ———「何が違う」と、男は返す。

 

 ———幼い少年は、涙を流す女を手を握る。

 

 ———「違うのか」と、男は問う。

 

 ———「違いません」と、女は答える。

 

 ———幼い少年は、男の様子に怯える。

 

 ———女は、涙ながらに話す。

 

 ———「この子は、確かに貴方の子です」と

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………?」

 

 

なんか変な夢を見ていた気がする。ぼんやりとした意識の中で、目が覚めた。

 

って、あれ。もしかして俺寝ちまってたのか? 今もソファから上半身起こしてるし、

この部屋に入った記憶もない。くそ、こりゃやっちまったな。まさか俺が寝落ちするとは。

 

ライダーとランサーをバーサーカー及びアーチャーの討伐に向かわせた、そんな状況で俺が

とんだ暴挙をしたもんだ。無防備な状態で意識を手放して、挙句に護衛もつけてないときた。

いくら寝不足で疲れていても、そこまで油断していたなんて……意識をしっかり保たねば。

 

 

「———主人(マスター)?」

 

「うおっ⁉ ってなんだ、フォーリナーか。驚かすなよ」

 

 

まだボーッとした頭で考えてたが、フォーリナーから声を掛けられたことでやっと靄が

晴れたように、意識が覚醒する。部屋に入ってきたなら分かるから、最初から居たのか。

いよいよ集中力が切れてんな。いかんいかん、こんなに気が抜けてるとは思わなんだ。

 

頬を軽く擦って意識をハッキリ動かす。よし、平常運転できそうだ。不調も感じない。

というかコイツはなんで此処に居るんだ? 確かオフェリアと話し合いしてたんじゃ?

緩やかに回転を始めた思考が弾き出した疑問を、読んでいたかのように話してきた。

 

 

「その、主人……怒らないで、聞いていただけますか?」

 

「ん?」

 

「実は、先程———」

 

 

俺が返事をするのも待たずに、フォーリナーは陰鬱な面持ちで語り始める。

 

ポツポツと力なく続いた言葉をまとめると、どうも彼女はオフェリアと話をしている中で、

手を出してしまったらしい。原因は聞かせてくれなかったが、まぁ何かしらの言い争いが

起きたことで、フォーリナーはオフェリアに危害を加えようとした、と。

 

フォーリナーの攻撃がオフェリアに当たる寸前で、彼女の護衛に着けていたセイバーが異常を

察知し駆けつけ、どうにか事なきを得たという。頭に血が上っていたフォーリナーは構わずに

攻撃を続行しようとして、そこでセイバーに「主殿の言伝をお忘れか」と諭されたらしい。

言伝ってのはアレな、オフェリアに危害を加えんなよってやつ。で、俺からの命令に背いたと

いうことで、わざわざ俺のところに来て沙汰を待っていた。そういう話だった。

 

 

「…………………」

 

 

見るからに落ち込んでるのが分かる。召喚してから今日まで、彼女のこんなしょげた表情は

お目にかかったことがない。ん? でも泣いてるのは見たぞ? あれ、どこで見たんだ?

その辺は曖昧だが、まぁとにかく。彼女は俺から叱られるのを、この部屋で待っていたのか。

 

 

「まぁ、なんだ。口論してりゃ、カッとなってやり過ぎる事もあらぁな」

 

「主人…」

 

 

話を聞いても、彼女を叱る気にはなれなかった。理由は今言った通り。苦い経験があるしな。

それに、オフェリアがケガでもしたんなら話は違ったかもだが、幸いセイバーのおかげで傷なく

収まったそうじゃないか。だったらいいさ。言い過ぎ、やり過ぎなんて、ざらにあるもんだ。

 

俯いていた顔を上げ、少し潤んだ瞳でフォーリナーが見つめてくる。

 

 

「妾を、罰しないのですか? 一介のサーヴァントがでしゃばるなと」

 

「しないしない。だいたい、話聞く前に『怒らないで』って言ってたろ?」

 

 

普段の高慢な言動が見られないと、違和感を覚えてしまう。煌びやかに着飾る彼女が、

いつもと真逆のしおらしい態度になっているせいで、変にドギマギして落ち着かない。

これが噂のギャップ萌えってヤツか? いやいや、ダメダメ。早速気が抜けちまってる。

 

えーと、まずは何から手を付けるべきか考えよう。

 

対米帝国戦は、現場に任せてあるし、何かあれば監視をしているガリレオが動くだろう。

次。減ったフォーリナーの仔の生産。これもこの後彼女に直接伝えればやってくれるな。

最後。わざわざ話をしに異聞帯へやってきてくれた、オフェリアとの話があったっけ。

会議が終わったら話そうと思ってたが、時間は………2時? にしては窓の外暗くない?

……待て。まさか、14時のほうじゃなくて、2時の方? もしかして日付変わってる?

 

 

「えっと、フォーリナー。俺って、どんぐらい寝てたか分かる?」

 

「ソファでぐっすりと。いくら呼んでも起きず、心配しておりましたわ。

 時間で言えば、この部屋でお休みになっているのを発見したのが昨日の昼前でしたから、

 ほとんど1日寝ておられたのではないかしら」

 

「嘘ぉ…」

 

 

悲報、日付変わってた。いやマジか。緊迫したこの状況下で1日爆睡こいたんか俺。

もうちょい危機感持とうぜ。根がビビりな俺なら油断も慢心もしないと思ってたのに、

まさかその思考自体が油断だったとは。おかしいな、そんな眠くなかったはずだが。

 

こんな時間にオフェリアを尋ねるのも良くないな。ああ、彼女は賓客として政府が保護する

扱いになってるから、議事堂の貴賓室に寝泊まりさせてる。不自由はさせてないと思う。

年頃の女性の寝室に男が入るとか、確実にアウトですね。ええ、絶対にしませんよ。

 

仕方ねぇか。話とやらは明日に回そう。目覚めたばかりなのに、まだ眠れる気がするし。

 

 

「はぁ~あ。過ぎたことを悔やんでもしょうがない。明日……今日に備えるか」

 

「そう、ですわね。その方がよろしいでしょう」

 

「俺からは怒ったりしないけど、明日オフェリアに謝るんだぞ」

 

「…………はい。寛大な御心遣い、痛み入りますわ」

 

 

俺が寝ると伝えると、フォーリナーが退室しようとした。そんな彼女の背中に、しっかりと

謝罪するように言っておいた。わずかに振り向いた横顔は、少しだけ穏やかに見えた。

 

 

「……あ、そうだ。なぁフォーリナー」

 

「はい、なんでしょう?」

 

 

それだけで話を済ませるつもりだったんだが、彼女を呼び止めてしまった。なんでだ?

特に話すべきこともないはずなのに。口を吐いて出た言葉を引っ込める事も出来ずにいると、

またしても意識してもいない言葉が勝手に飛び出していく。

 

 

「お前さ、()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「————それ、は」

 

 

俺は何を言ってんだ? いや、言葉の意味は分かる。だが、それを聞く意味が分からん。

彼女はサーヴァント、過去の人物の影写し。当然、彼女が契りを交わした男がいた事は

知っている。彼女がどういう人物なのかも、後世に残っている歴史としては理解している。

 

実際の彼女は、歴史に記されたものとかなり違っている部分もある。その辺りは、後世が

伝えるべき事実を歪めてしまい、それが今日まで残されてしまっている影響だと思う。

 

でも、なんで俺はこんな質問をしてんだ?

 

 

「……………」

 

 

彼女が浮かべた表情を、どう表現していいか分からない。怒りでも悲しみでも驚きでもなく、

入り混じってぐちゃぐちゃな感情が浮き出ている。違う。そんなつもりじゃなかったんだ。

なんでこんなこと聞いたんだよ。寝起きだからってそれくらいの分別はつくはずだろう?

 

星明かりだけが窓から部屋に差し込む闇の帳の中、痛いくらいの静寂に包まれる。

どれほど時間が経っただろうか。失礼に過ぎる俺の問いかけに対し、フォーリナーは律儀に

答えを考えてくれたらしい。体ごとこちらへ振り返り、艶やかな唇を震わせた。

 

今まで見たこともない、慈愛に満ちた面持ちで、彼女は答えてくれた。

 

 

「ええ、間違いなく。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

そう言いきった彼女は、そのまま退室していってしまった。申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

どうしてあんなことを聞いたんだろう。聞く理由もなければ、考えたこともないはずなのに。

 

自分の不可解な言動に思考が囚われていた俺は、そのままモヤモヤした思いを抱えたまま

再び眠りについた。だから、気付くことができなかった。彼女の、フォーリナーの変化に。

 

 

()()()()()()()()()

 

 

そう告げた彼女は、本当に俺の知る彼女だったのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 











いかがだったでしょうか?

書く気がもりもり湧いてきた!
やることいっぱいあって泣きそう!
でも頑張るぞ! 一話あたりの文章量を減らしてでも書くぞ!


次回はついに、「彼女」が物語に関わってきます!
果たして、ゼベルが出す答えとは? 彼はどう動くのか?


ご意見ご感想、並びに質問や批評などお気軽にどうぞ!

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