Lostbelt No.8 「極東融合衆国 日本」   作:萃夢想天

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どうも皆様、萃夢想天です。

前回はオフェリアとヒナコがヒロインしてましたね。
ヒナコのヒロインちからが天元突破しそうになってた……何故?

今回からいよいよ、カルデアが日本異聞帯に介入します!
ようやく物語が動き出しますので、ぜひ楽しんでください!


それでは、どうぞ!






第五章序節:裏 2018年6月9日、カルデアの者たち

 

 

 

 

—————2018年5月18日

 

 

—————彷徨海バルトアンデルス内 ノウム・カルデア

 

 

「皆さん、緊急の呼び出しに応じていただき、感謝します」

 

 

私たちの新しい拠点、ノウム・カルデアに喧騒が訪れる。

忙しなく色んな機器を見て回る数少ないスタッフに、いよいよかと集まったサーヴァント。

騒ぎを聞きつけた皆が集まり、ようやく見慣れてきた管制室が人でごった返していた。

 

そんな中で、私と見た目的にさほど変わらない少女が、静かに話を切り出す。

 

 

「つい数週間前にインド異聞帯を攻略し終えたマスターや皆々様におかれましては、未だ充分に

 体を休められていないやもしれません。しかしながら、状況が変わりました」

 

「御託はいいのだ御託は! まもなく昼食を満喫しようとしていた所長の私を呼び出して、

 いったい何かと聞いておるのだ! これで変な実験とかだったら怒るからね!」

 

 

豊かな腹部を揺らすゴルドルフ新所長に、眼鏡をかけた紫苑色のツインテール少女は答える。

 

 

「では単刀直入に———日本を覆う異聞帯に、急激な変化がみられました」

 

 

少女、【シオン・エルトナム・ソカリス】の放った一言は、集まった一同に衝撃を奔らせた。

 

 

「な、なんだと⁉ 日本の異聞帯は規模が小さく、目下のところは問題ないと言っていたでは

 ないか! インド異聞帯攻略後にも再度観測をはしらせ、それが証明されていただろう⁉」

 

「ええ。ゴルドルフ氏の仰る通り。先日のインド異聞帯攻略後まで動きはありませんでした。

 ですが今朝、最大規模の大西洋異聞帯に変化がないかと観測していたところ、日本列島を

 まるごと覆っていた異聞帯の数値が大きな変動を見せました。ホームズ氏、詳細を」

 

「では、補足を担当しよう。観測には私も付き合っていたのでね」

 

 

慌てふためく新所長に、シオンは冷静に返す。人類最後のマスターとして、こういう場面には

もう慣れていたと思っていたのに、それでも緊張感で足が竦む。ダメだ、しっかりしなきゃ。

 

シオンの話を、どうやら観測を手伝っていたらしいホームズが引き継いだ。

 

 

「つい十数分前から、日本異聞帯を覆う嵐の壁が急激な膨張を開始した。これについては、

 インド異聞帯の前例があるから、慎重にならざるを得なくてね。数分掛けて観測を継続した

 結果、膨張が続くばかりで縮小する様子はみられないと判断し、招集をかけたわけさ」

 

 

彼の口からでた、インド異聞帯。私たちが二週間近く前に攻略した、第四の異聞帯である。

 

そこは創世と滅亡が唯一神の力によって流転する、悪の一切を許さない汚れなき世界。

誰もが優しく、誰もが平等にあるようにと、真に善なるものだけが存在を許された土地。

そのために、神が「悪」と断じたもの、命、思い。そうした全てが抹消された無の局地。

 

私たちは戦った。人として、神に戦いを挑んだ。人の思いを軽視する神を、許せなかった。

多くの人々の願いを知って、それを守る事が出来なくて。何度も助けられてばかりで。

自分に出来ることなんて、とてもちっぽけなんだと改めて気付かされた、険しい旅路。

 

この異聞帯でも出会いと別れを繰り返し、そうしてまた一歩先へ進んできた。

心に辛さが募りだしていることに気付き、そうではないと頭を振る。切り替えろ、私。

 

 

「う、うむ。それは分かったが、その膨張の原因について何か分かったのかね?」

 

「残念ながら。しかし、膨張のペースはインド異聞帯よりも緩やかです。今のところは」

 

「変に不安を煽る言い方はよしたまえ!」

 

 

ゴルドルフ新所長とホームズがいつもの調子で話し合っている。でも、このまま放って

おく理由はないもんね。どれだけ辛く苦しい思いをしても、汎人類史の為に異聞帯を……。

私は、私たちは、汎人類史を取り戻す。その為に全ての異聞帯を攻略しなきゃいけない。

口で言うのは簡単だけど、これまでの四つの異聞帯のどれも、一筋縄じゃいかなかった。

 

 

「ただ、今回の日本異聞帯は()()()()()()()()()()()()()()

 

「それは、どういうことでしょうか?」

 

 

シオンの言葉の意味を、私の隣にいたマシュが尋ねる。方向性が違うってなんだろ。

 

 

「これまでの異聞帯を囲む『嵐の壁』は、異聞帯を中心にその直径を拡大させている。

 日本異聞帯もその点は同じです。ですが、最も膨張率が高い部分は、上空でした」

 

「む? 上空だと?」

 

「はい。日本異聞帯を囲む『嵐の壁』が、徐々に円錐型に形を変えているんです」

 

「ロシア、北欧、中国、インド。これら四つの異聞帯は全てドーム型の壁が展開されていた。

 しかし今回は、ドーム型から円錐型に変化している。初の現象に私も驚いていますよ」

 

 

途中でホームズの補足を交えながら、マシュと新所長の疑問に答えるシオン。

なんで円錐型になるんだろう。円錐って、ドリルみたいな形をいうんだよね。

日本を丸ごと円形の底が包んで、上の方は細く鋭くなっている、ってことなんだろうか。

 

 

「確実に、日本異聞帯に何らかの異常が起きているとみて、間違いないでしょう。

 もしかしたら、あそこにある『空想樹』が、我々の知らない変化を遂げているのやも

 しれません。よって、これ以上の放置は危険と判断。ただちに日本異聞帯攻略を開始

 するべきと、ダ・ヴィンチやホームズと協議したうえで結論付けました」

 

「ちょうどインド異聞帯で、キャプテン君の頼れる船も出来上がったことだしね。

 大西洋異聞帯を攻略する前に、実際に航海可能かどうかの実地運用を兼ねての最終調整を

 行う、という名目もある。もうとっくにキャプテン君はドックに籠ってるよ」

 

「頼もしい限りだ。そういうわけで、マスター・立香。明朝出立だ、準備を願う」

 

「うん。分かった」

 

 

まだ分からないことだらけでも、これまで四つの異聞帯をどうにか攻略してこれた。

今回も、油断なくいつもの調子でいけば、きっと大丈夫。常にポジティブに考えよう。

 

ホームズの言葉に頷き、マシュにも装備なんかの点検を手伝ってもらうよう頼んだ。

彼女も新装備の「オルテナウス」の調整が済み次第、すぐいきますと言ってくれた。

緊急で招集された会議は議題を終了し、締めに差し掛かる。

 

 

「それでは、今回の目的はキャプテンが実際に正常な航行可能かの運用実験を兼ねた、

 日本異聞帯の攻略となります。これまでにない変化を見せた異聞帯ですので、どうか

 慎重に、かつ迅速な攻略を願います。攻略に挑むメンバーは、前回同様!」

 

「私、ダ・ヴィンチ、キャプテン。そしてマシュにマスター・立香。そして———」

 

「ま、また私が出向かなければならんのかね⁉」

 

「無論です。いまやカルデアという一組織の長たる貴方が、現地でマスターの行動を監督

 しなくてはならない。それが魔術師であり、名門ムジーク家党首である、貴方の務めでは」

 

「う、ぐぐぐぅ………」

 

 

ふるふると頬肉を震わせつつ拳を握る新所長の姿に、申し訳ないけど癒されてしまう。

彼も最初に出会った頃と比べれば、かなり受け入れられていると思う。今では前カルデアの

スタッフの皆からも、新所長と呼ばれるくらいに。私もとっくに仲間だと言い切れる。

 

なんだかんだ文句を言っているけど、結局自分の責任能力の高さから折れるんだよね。

自己保身的な言い方も裏を返せば親切心の表れでもあるって、何度も命を預け合った間柄に

なったから分かってる。それこそ、中国異聞帯の時は文字通り運命共同体になったし。

 

で、やっぱり折れた新所長が、しぶしぶといった表情で同行に納得する。

他にも、現場でシャドウ・ボーダーまわりを担当するスタッフさんの名が呼ばれた。

こうして、日本異聞帯攻略前の会議は、シオンの締め括りで幕を閉じる。

 

 

「これより、第5の……いえ、事前の脅威度認定から第8とナンバリングした異聞帯、

 日本異聞帯の攻略を開始します! 各員、気を引き締めていきましょう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、今。

 

私たちカルデアはシャドウ・ボーダーが組み込まれた、新しい『船』に乗っている。

 

其の名も【ノーチラス】、嵐の壁をも乗り越える、汎人類史最新の砦。

 

虚数潜航の不安定さには慣れてしまった。自分の存在が証明されないという時間を不安に感じた

ロシア異聞帯に比べ、随分と非日常な事態に慣れたもんだと小さく笑う。

 

頼もしい仲間たちと肩を並べ、先の見えない未来を、そして「有り得ざる歴史」に挑む。

なんと誇らしいことか。なんと恐ろしいことか。体を震わせる感情は、はたしてどちらによる

ものなのだろう。ボーダー内で虚数の海を油断なく見渡す仲間たちも、真剣な面持ちだ。

 

大丈夫。私たちなら大丈夫。

 

 

「マシュ」

 

「はい、先輩」

 

「頑張ろう」

 

「………はい!」

 

 

少しでも足を止めたら立ち止まってしまうような弱い自分をどうにか隠すために、隣に居る

最も信頼のおけるかわいい後輩、マシュに声をかける。彼女が頼りにする先輩を演じるの。

そんな私の不安に気付いているのか、それとも気付いていないのか。真摯な答えが返る。

 

ボーダー全体がぐらぐらと揺れだした。もうすぐ、次の異聞帯に浮上する予兆だ。

 

どんな困難があろうとも、私たちは必ず乗り越える。人理を取り戻すため、決して負けない。

覚悟を決め、決意を固める。緊張と恐怖で早まる鼓動を、両手で胸を押し込むように抑える。

 

 

「———あれ?」

 

 

誰もが虚数の海を越えた現実の光を見据えるあまり、誰も気付いていなかった事に気付く。

 

 

「フォウくんは?」

 

 

二年の激闘を共にしてきた、愛らしい小動物兼相棒の姿が、見えない事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  すまないね。カルデアの善き人々、そして人類最後のマスター。

 

  私の役割は君たちの旅路を見守る事。人間の歩んできた道を、見定める事だ。

 

  あの頭お花畑の腐れ魔術師に放り出された結果論だけど、私はそれを良しとした。

 

  本当なら、君たちの行く末に着いて行き、共に『美しいもの』を見たかった。

 

  けれど、重ねて言うが、すまない。

 

  今回、私は行くべきではないと感じたのでね。

 

  確証はない。確信なんてものもない。それでも、()()の臭いが幽かに感じられる。

 

  驚かされたよ。こんな事が起こり得るものかと、戻りつつある知性で驚愕した。

 

  同時に———安堵した。まだ存在していないという、確たる事実に。

 

  人類が滅ぼす自滅機構(アポトーシス)。七つからなる原罪(アンティーク)の檻。始まりと終わりの両立する(ビースト)

 

  その数は、ⅠからⅦであるとされる。既に人理が斃した獣の総数は、5体。

 

  ビースト・Ⅰ ――― 限りある命の終わりを、滅びを嘆いた【憐憫】

 

  ビースト・Ⅱ ――― 全ては海に産まれ、やがてはまた還る【回帰】

 

  ビースト・Ⅲ L / R ――― 愛と欲に溺れ、悦に塗れる【快/愛欲】

 

  ビースト・Ⅳ ――― 生ある限り無数に螺旋する、優劣の性【比較】

 

  残すはⅤ、Ⅵ、Ⅶの獣たち……そのはずだった。

 

  私は君の誕生を忌避しよう。私は君の存在を拒絶しよう。何者にも望まれぬ獣よ。

 

  それは、人の人であるが故の定め。個としてはあまりに脆く、多としてあまりに強い。

 

  独立した一つとして生きる生物としても、群棲した多数として生きる生物としても。

 

  いずれにしても破綻する。人という生物に、「繋がり」がある限り。

 

  知らないという罪。知り過ぎる罠。他と関わらねば生きられず、雁字搦めになれば死ぬ。

 

  だから君たち人は、『理解』しようとする。

 

  知らなくてもいい領域まで踏み込む為の、免罪符として。

 

  だから君たち人は、『共感』しようとする。

 

  知りたくもない現実を抱える重みから逃れる為の、脱出口として。

 

  故にそれは、ああ。

 

  まさしく―――【共解】と呼ぶに相応しいほどに、虚飾に溢れた獣となるだろう。

 

  まだ見ぬ()8()()()よ、願わくは君の存在が世界に産声を上げぬように。

 

  君が求める【比較】は、あまりにも規模が大き過ぎるんだ。

 

  人は、大と小を比べる。優劣を競う。

 

  しかし君は、全と一を天秤で量ろうとする。

 

  なんと愚かで、なんと合理的なんだ。

 

  敬意どころか畏敬の念を禁じ得ない。君が七つの中にいなくて本当に良かった。

 

  さらばだ、誰も知らない獣の卵。

 

  どうかそのまま、袋小路の未来の中で潰えてくれ。

 

 

 

 

 

 







いかがだったでしょうか?

削れるところを削ったら、かなり短くなっちゃいましたね!
明日は一日家を空けるので、次回の更新は土曜日か日曜日になるかと!

ああ、早く書きたい。早く皆を活躍させたい!


それでは次回をお楽しみに!


ご意見ご感想、並びに質問や批評などお気軽にどうぞ!

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