Lostbelt No.8 「極東融合衆国 日本」   作:萃夢想天

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どうも皆様、萃夢想天です!

前回は投稿を急ぐあまり、盛大なポカを連発してしまい
申し訳ありませんでした!

皆様からのご指摘を受けた部分を修正致しましたので、
ご安心ください
(ビースト・Ⅱの追記、ノーチラスの誤植など)

今回からはカルデア視点になる事が多くなりますが、
彼らと同じ視点で日本異聞帯を見ていただければと思います!


それでは、どうぞ!





第五章 種は芽吹き、地に根付く

 

 

 

 

 

 

 

「実数証明、完了。各系統の数値、安定。虚数潜航からの浮上、問題ありません(オールクリア)!」

 

 

虚数の海を渡る神話の戦艦【ノーチラス】のデッキと化したシャドウ・ボーダー。

私には分からない計器を必死に見つめていた女性スタッフの声が、室内に響いた。

 

今回も無事に、異聞帯へ辿り着くことができた。その時点で安心してしまう。

なにせ虚数潜航は、少しでも調整を失敗したら自分たちの存在を危うくしてしまうという、

賭けみたいな移動方法なのだから。成功しただけで安堵の息を漏らすのは許してほしい。

 

 

「続けて、外部のサーチにはいります!」

 

「各種データと照らし合わせて! まずは環境値の観測とこちらに向かってくる反応の探知を

 最優先にね! 生体・非生体限らず手広く!」

 

「ミスター・ムニエル。今の内にソナーで霊脈の捜索を行ってもらいたい」

 

「オッケー、ホームズ。10秒くれ」

 

 

現実空間への浮上が確認された瞬間から、にわかにデッキが騒がしくなる。

スタッフの皆が手分けしてモニターに流れる数値を調べ、船長である【キャプテン・ネモ】も

ノーチラスの各機関に異常がないか入念にチェックしていた。みんな大変そうだな…。

 

何か手伝えないかと考えたけど、私はこういったシステム的な面で力にはなれない。

マシュならともかく、私はこれまで前線でサーヴァントと戦ってきただけだから。

魔術師としても三流に届かず、技術的な面でも役に立たない。心にまた一つ、重りが増える。

 

喧噪の中で人知れず溜息を溢すと、ゴルドルフ新所長が痺れを切らして声を荒げた。

 

 

「そ、それより外はどうなっておるのかね! 数値ばかりに気を取られてはいかんぞ! 

 ピカタ君、今すぐ外部カメラの映像をモニターに出したまえ! そら早く!」

 

「ムニエルだっての! 俺だって忙しいんスけどねぇ!」

 

「私が変わろう。ゴルドルフ氏の言葉にも一理ある。そちらはモニターを」

 

「お、サンキュー」

 

 

自分勝手な意見を言っているだけ、とは思わない。新所長は冷静かつ客観的な視点で物事を

考える事が出来る人だ。この状況で何を優先すべきかを、彼自身の経験や勘も合わせて導き

出した結果の判断だと思う。あと、単純に外の様子が分からないのを怖がってるのもある。

すっごい震えてるもん。怒っている時とは違う震え方だ。最近見分けがつくようになった。

 

ムニエルさんが調べてた霊脈の捜索をホームズが引き継ぎ、数秒後に映像が投影される。

 

そこに映された景色は―――私の故郷である日本、その望郷の念を容易く砕いてみせた。

 

 

「………………え?」

 

「なんだ、アレ……」

 

『………壁、なのかな。それにしたって大き過ぎるけど』

 

 

私たちが浮上したのは、日本の近海。そこから本土がハッキリと見えるはずだったのに。

豊かな森林の緑か、はたまた都会の灰色か眩い光の群れ。そうしたものを想像していた。

けれど代わりに映されたのは、上空に浮かぶ雲すらも遮るように聳え立つ、巨大な『壁』。

 

 

「接近してくる反応、無し! 周辺の環境値も汎人類史と比較しても誤差の範囲です!」

 

『魔術的な対策をしなくても普通に活動できそう?』

 

「はい。あ、いえ………空気中のマナ濃度が、汎人類史の約4倍近く計測されました!」

 

『「4倍だと(だって)⁉」』

 

 

映像に気を取られていると、館内放送で会話に混ざるダヴィンチちゃんと、スタッフの

言葉に深く腰を下ろしていた椅子から飛び上がった新所長の、二人がシンクロする。

マナ濃度って、ようは魔術の源となる力が濃いってことだよね。確か現代の魔術師にとって

濃い魔力のある空間は害になる場合もあるんだっけ。ロンドンの時とは少し違うのかな。

 

 

「えっと、それってかなりマズイこと、だよね?」

 

『んー。マズイといえばマズイだろうけど……まぁ立香ちゃんに影響はないと思う』

 

「そうなの?」

 

『第七特異点、バビロニアの時とはまた違うからね。あそこは時代背景的に神代のマナが

 満ちていたから影響があったのであって、今回は神代ではなく普通のマナだから』

 

「質が違う、って意味?」

 

『より正確に言えば出力の違いかな? まぁ質が違うって認識でもいいよ』

 

 

自信のない問いかけに、ダヴィンチちゃんが館内放送を使って答えてくれた。助かる。

要するに、活動自体に影響はないと。何に驚いたのかは気にしない方が良いのかな。

 

 

「……これは!」

 

「ど、どうしたのかね、経営顧問!」

 

 

ムニエルさんの代わりにコンソールを操作していたホームズが、鋭い声をあげる。

危機察知能力の高い新所長が何事かと怯えながら、ホームズを役職で呼んだ。

すわ厄介事かと腰を浮かした私だが、当のホームズは冷静な面持ちで状況を報告する。

 

 

「いえ。霊脈の反応を探っていたのですが、予想外な事に……」

 

「なにか問題が? まさか、霊脈が無いなんてことはないだろうな⁉」

 

「ご安心を。むしろその逆です」

 

「逆?」

 

()()()()()()()()()()()。ある意味では予想外と言えなくもありません」

 

 

淡々と告げられた言葉の意味を、魔術師の名門一家党首である新所長が即座に察した。

 

 

「いやいや、そんな馬鹿な。こんな状況でジョークはいかんよ君ィ。いくら緊迫している

 この状況を緩和させようという意図があったとしても、時と場合を考慮してだね……」

 

「恐れながら、いまお話したことは事実です」

 

「え、ホントなの?」

 

 

ホームズが首肯する。霊脈って、私たち魔術師が魔術を使うのに必要な魔力を吸い出せる

ポイントのことだったはず。自然に出来た、星を循環する魔力の出入り口なのだとか。

いわゆる、パワースポットのような場所で、これを保有する魔術師は少なくないという。

 

で、その霊脈が至るところにあるって、変じゃない?

 

魔術関係の話題に疎い私が口を挟むまでもなく、魔術に詳しい面々が議論を白熱させる。

 

 

「いったいどうなっとるんだ日本は……元々そういう土地柄なのかね?」

 

『聖杯戦争が生み出されたのは、日本に居を構えた魔術に造詣の深い御三家によるものと資料

 にはあったけど。だからって日本列島丸ごと全部が霊脈に収まるなんてのは前代未聞かな』

 

「やはり、この異聞帯独自のもの、と見るべきでしょう。しかしこれは有効活用できる。

 霊脈が全土に広がっているのであれば、全てを管理することは困難。一部を密かに利用する

 ことは可能ではないかと。現地でのサーヴァント召喚の目途もこれで立ちましたね」

 

「おお、そうか! では早速上陸に移り、英霊を召喚するとしよう!」

 

 

ダヴィンチちゃんとホームズの仮説を聞いて、そりゃそうかと納得する。

日本が元々霊脈だらけの土地だったなら、もっと魔術が盛んになったり、一般人が魔術を

目にする機会も増えていただろう。隠ぺいされった可能性もあるけど、かなり低いと思う。

 

慎重に周辺への警戒を続け、脅威となりえる存在が確認できなかったので、新所長の要望を

叶えるべく一番近い場所へ接岸する。ちょうど周囲に生体反応がなく、いい感じにスペースに

余裕のある海岸を発見できたので、しばらくはノーチラスを停泊するエリアとした。

 

 

「マシュ、行こう!」

 

「はい、先輩!」

 

「待って待って二人とも! 私も行くよ、置いてかないで~!」

 

 

艦のステルス機能をオンにして、魔術的な結界を構築。万全を期したうえで砂浜に着地する。

異聞帯のフィールドワークをするのは、マスターである私とそのサーヴァントであるマシュ。

そして霊脈からの英霊召喚をスムーズに行う工程を取り仕切るダヴィンチちゃんの三名。

 

ホームズはボーダーの護衛をしなきゃだし、キャプテン・ネモはノーチラスという宝具を常時

展開しなきゃいけないから除外。ダヴィンチちゃんも、召喚のサポートをしたら艦に戻る。

なので、実質今回の旅は、私とマシュ、そしてこれから召喚する英霊のみになるのだ。

 

誰が来るのか分からない不安はあるけど、大丈夫。きっと心強い味方になってくれるはず。

マシュに見られないように太腿をつねり、軽い痛みで自分を誤魔化す。習慣になっちゃった。

ダヴィンチちゃんが準備をしてくれている間、ボーダーとの通信に問題ないかを確認する。

 

 

「聞こえますか。こちら藤丸、応答願います」

 

『おお、聞こえとるぞ。よし、通信状況に問題ないな。ご苦労』

 

「良かった……通信可能かどうかで、結構違うからね」

 

 

ノーチラスデッキとの通信も良好。今のところは。今後の保証は無いけど、ひとまず安心。

 

 

『そうだ。藤丸、今回召喚するのは、日本ゆかりのサーヴァントという話だったな?』

 

「あ、はい。ダヴィンチちゃんが調整してくれてます」

 

『うむ。土地に強く結びつく英霊を喚び出せたなら、戦力として大いに期待できる!

 是非とも日本の超一級サーヴァントを召喚してくれたまえよ。お前さんならやれるとも』

 

 

所長用のちょっと良いイスにふんぞり返っている新所長の言葉に、力強く頷く。

 

彼の言った通り、今回は日本出身の英霊に的を絞って召喚する予定なのだ。

前回のインド異聞帯でも、インドに縁のある英霊に絞って召喚するという方針をとった結果、

ラーマーヤナの主役【ラーマ】に、マハーバーラタに名高き施しの英雄【カルナ】という、

超々一級の英霊の召喚に成功した。あの二人がいなければ、インド攻略は不可能だった。

 

そんな前回の成功例があるので、今回もうまくいくだろうとかなり期待をしている。

 

私には荷が重いと思うけど、日本の超一級の英霊かぁ。例えば、誰になるんだろう。

 

奇々怪々、魑魅魍魎跋扈した京を守護した源氏の傑物【源 頼光】は間違いないよね。

そんな彼女と関わり深い、金太郎のモデルとなった男【坂田 金時】も大当たりだ。

他にも、戦国の魔王【織田 信長】に、誠の旗を掲げた【土方 歳三】と【沖田 総司】など。

 

数え上げたらキリがない。それくらい、私の生まれた日本には強い英霊が多い。

召喚に応じてくれるのは誰なのか。頭に浮かぶのは、かつてのカルデアで絆を深めてきた

日本の英霊たち。一癖二癖ある人たちばっかりだけど、きっと助けてくれる。

 

 

「立香ちゃーん! お待たせ、準備できたよ~!」

 

「うん、分かった!」

 

 

ダヴィンチちゃんの呼びかけに応じ、彼女が形成した陣の上に立つ。目の前にはマシュの

使っている盾、そこに武骨な強化外装が取り付けられたものが、堂々と鎮座している。

彼女の盾を用いて、英霊たちへの呼び声をかける。もはや見慣れた召喚の光景だった。

 

この二年近く、何度も紡いだことで覚えてしまった文言を詠唱し、魔力を収束させる。

全身から力が抜けていく感覚と、力ある存在と見えない糸で繋がる感覚を同時に覚えた。

召喚によって発生したエーテルの輝きが一層激しくなり、そして、現実に形を成す。

 

多少の疲れを感じながらも、眩さに一度閉じた目をゆっくり開き、その存在を視認する。

 

 

「召喚、無事に成功!」

 

『よしよし! 私は東洋の英雄に詳しくないのでよく分からんが、とにかくよし!』

 

 

英霊を座から呼び出すのに使われたマナの残滓が空中に消え、()()の人影が姿を現した。

 

 

「―――お招きに預かり、推参仕りました。これより、お傍に侍らせていただきます」

 

「―――余の、振る舞い、は。運命、で、ある……ォ、オオ、オォオオ!!」

 

 

圧倒的な巨躯を誇る、二人の男。しかし、対極的な印象を抱かせる二人でもあった。

どちらも、良く知っている相手ではある。しかし、だからこそ私は混乱している。

 

 

『………私は東洋の英雄に詳しくないのだが、彼らって日本の英霊だったかね?』

 

「先輩、えっと、これはいったい…?」

 

「マシュ、私に聞かないで。私にも分からないから」

 

 

開きっぱなしだった通信からも、困惑の声が聞こえてくる。いや、一番困ってんの私。

万が一を考慮して私を守れるよう構えていてくれた後輩も、予想外過ぎる展開に脳の処理が

追いついていないみたい。でも、一番処理速度遅いのも私だから。ホントどういうことよ。

 

 

「なんで、【フランスの元帥(ジル・ド・レェ)】と【ローマの暴君(カリギュラ)】なの⁉」

 

 

私の疑問に答えてくれる人は、誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異聞帯に到着してから数十分が経過。私たちカルデアは、二人の英霊を召喚成功。

英霊の召喚が成功したことは素直に喜ぶべきだし、そこに不満は無い。うん、無いよ。

けど、どうしても気になる事が一つだけあるんだよね。

 

 

「どうして日本の英霊が誰も来てくれなかったの……?」

 

 

ダヴィンチちゃんの調整を疑うことはしない。なら、私の力不足ということになる。

ただ、ダヴィンチちゃんも首を傾げていた。召喚する英霊の特定化には確かに成功していた。

インドでその実績は証明されている。しかし、今回はダメだった。何がいけなかったんだろ。

 

 

「ああ、おいたわしや…。マスターの嘆き、悲憤。不肖、このジル・ド・レェめが肩代わり

 して差し上げられたなら、どれほど良いか…。至らぬ私を、どうかお許しください…」

 

「あー、ううん。大丈夫、気にしないでね。たぶん私の方の問題だから」

 

「いえ! いいえ、そのようなことは! これもまた、何処やで我らを見守っている神が

 課した不条理でありましょう! おお、神よ! 過酷なる試練に挑む可憐な乙女に対し、

 なんたる暴挙! またも同じ過ちを繰り返すか! 断じて許しておけぬゥゥ……!」

 

「あはは……はぁ」

 

 

傍らに立っていた痩身の大男、キャスタークラスのジル・ド・レェ元帥のスイッチが入る。

普段はとても紳士的な言動をすることが多いのだが、一度こうなるとしばらくは戻らない。

放っておくとヤバいことをしだすので、そうなる前に止めなきゃいけない。やる事が増えた。

 

そして私が召喚したもう一人。バーサーカークラスのカリギュラ。ローマ帝国の暴君と恐れ

称えられた人物。高ランクの【狂化】スキルの影響で、理性が消え、意思疎通も困難。

なんなら二人ともバーサーカーみたいな感じだし、これは前途多難な旅になりそうだなぁ。

 

 

「………でも、どうして日本の英霊が応じてくれなかったんだろ」

 

 

疑問は尽きない。けど、こうして召喚に応じてくれた英霊がいるだけでもありがたい。

過去に挑んだ異聞帯では、汎人類史側として召喚されながら、異聞帯側についた英霊も

いなかったわけじゃない。それぞれ理由や矜持がある。だから、今は素直に喜ぼう。

 

英霊召喚も無事(?)成功したので、一度ノーチラスに戻って会議を開くことになった。

異聞帯で動くことになる前に、活動の方針をここで決めてもらえるとありがたい。

デッキに全員が集まったので、ホームズが視線を一手に引き受け、議題を口にする。

 

 

「まず、異聞帯の確認。現状だけでも、手に入った情報はある。ダ・ヴィンチ」

 

「うん。まずは、あの『壁』について。スキャンは終了してるよ」

 

 

コンソールを手早く操作し、ホログラムのモニターにデータが投影された。

 

 

「これね、日本列島のほとんどを囲むようにして立ってるんだ。用途はまだ不明。

 直接触れて確かめなきゃ正確には分からないけど、結構分厚くて硬いと思う」

 

「日本を囲むように、ですか。まるで鳥籠か檻のようではありませんか」

 

「ほう? ジル・ド・レェ元帥。君はあの壁を、内に閉じ込める為のものであると?」

 

「確証はありません。しかし、外からの侵入を阻むものにしては、些か無防備に過ぎる。

 あれが防壁として機能しないとは言いきれませんが、防衛の為の備えが視認できません」

 

 

ダヴィンチちゃんの説明を聞き、顎を手で撫でるジル・ド・レェが推察を述べる。

彼の話に矛盾点は見られないと判断したのか、ホームズも片眉をわずかに上げるばかり。

それにしても、暗黒面に堕ちたような状態になっても元帥は元帥なんだな、と驚かされる。

 

スイッチが入れば狂言回しのような言動と正気を失った行動を取るキャスターだけど、

こうしてふとした瞬間には、かつてフランスの為に戦った元帥としての片鱗を覗かせる。

 

 

「なるほど。貴重な意見だ。情報不足なので断定はできないが、あの壁自体には危険性が

 薄いだろうと私も考えていた。より詳細なデータがほしいが、マスターの安全が最優先。

 壁に接近する状況になったとしても、万が一を考えて迂闊に近づかないようにしてくれ」

 

「了解」

 

 

ホームズが私の目を見ている。私の身を案じてくれてる、そんな気遣いが伝わってきた。

彼の言葉に了承の意を示し、会議は次の話題に移る。モニターに映るデータが切り替わる。

 

 

「続いて、マスター・立香たちが召喚を行っている間に走査していて判明した事柄だ」

 

「なにか分かったのですか?」

 

「ああ。霊脈が列島全土に張り巡らされていることから、嫌な予感はしていたが……。

 簡潔に述べよう。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

外に出ていた私たちの知らない情報を、ホームズが言い放つ。

一瞬、そのスケールの大きさについていけず、何のことかすら理解が追い付かなかった。

ダヴィンチちゃんのすぐ横にいる新所長の顔色が青褪めているのを見て、そこでようやく

状況の重さを知覚することが出来た。あのレベルの青さは、相当深刻な問題とみた。

 

 

「それって、つまり?」

 

「言い換えると、この日本異聞帯に()()()()()()()()()()。そんな状態だ」

 

「か、神がうじゃうじゃいる、ってこと…?」

 

「なんと! 天上に座すべき神が、既に地に堕とされていたと⁉ おお、おお!」

 

 

事態を正確に掴み切れない私に、ホームズがかみ砕いた説明を追加してくれる。

つまり、この日本には、神様がいる。偶像でも伝説でもなく、生きている神様がたくさん。

想像すらできない。そんな日本が、そこで生きる人たちが、どうなっているのかを。

 

またスイッチが入りかけているキャスターをなだめ、落ち着かせて会議を再開する。

 

 

「この世界が、どのように成り立っているのか。そして歴史の転換点はどこからなのか。

 そうした情報が乏しい今、無理に考察すべきではない。しかし、頭に入れておいてほしい。

 君の知る日本ではなく、我々の知らない常識で成立している、有り得ない日本なのだと」

 

「………うん」

 

「日本出身の君に、こう言うのは酷だと理解しているつもりだ。それでも、敢えて言おう。

 これから降り立ち、踏み出す世界は、君のいた日本ではない。君の故郷とは呼べない」

 

「………分かってる。大丈夫」

 

「すまない」

 

「ううん、ありがとう」

 

 

冷淡で感情を表に出さないホームズの顔が、本当に少しだけ曇ったのを見逃さなかった。

名探偵の気遣いのおかげで、少し心が楽になった気がする。さっきまでより全然いい。

言葉で人を煙に巻くのが得意なくせに、こういう時も素直に言ってくれない。なのに今は、

そんな回りくどさが逆にありがたい。私からのお礼を、ホームズは静かな微笑みで受ける。

 

改めて決意を抱いた私が、これからの方針を尋ねようとした。そこで新所長が気付く。

 

 

「む。そういえば小娘、いや藤丸。お前さん、もう一騎のサーヴァントはどうした?」

 

「え?」

 

「いや、召喚したあのおっかなそうなバーサーカーだよ。霊体化でもさせとるのかね?」

 

 

確かめるような新所長の物言いに、そういえばと周囲を見回す。けれど影も形もない。

いつでもどこでもローマとネロを賛美して回る、あの暴君の姿も声も、見当たらない。

 

顔から血の気がマッハで引いていくのを感じた。

 

 

「ば、ばばば馬鹿者! マスターなら自分のサーヴァントの手綱くらいちゃんと握って

 おきなさいよまったくもう! バーサーカーを野放しとか、絶対やったらいかんでしょ⁉」

 

「ごめんさい! でも、なんか随分大人しかったから調子いいのかと思って…」

 

「反省は後だ! プルコギ君、あのバーサーカーの反応を今すぐ追うのだ!」

 

「ムニエルな! でも確かに急がなきゃマズイな、ダヴィンチ、サポート頼む!」

 

「まっかせて!」

 

 

にわかに慌ただしくなる。私が原因なんだけどね! ほんとごめんなさい!

 

休憩中だったスタッフさんたちも加わっての大捜索が始まり、数十秒後。緊迫の中で謝り倒して

いると、どうにか反応を捉える事が出来たらしい。ほっと胸を撫で下ろしたの束の間。

 

 

「見つけた―――けど、反応が、んん? どうなってんだ⁉」

 

「報告急いで! 慌てず、冷静に、見たままを言葉に!」

 

 

反応を見つけたスタッフがしどろもどろになるのを、ダヴィンチちゃんが落ち着かせる。

彼女の的確な援護によって冷静さを取り戻したスタッフさんは、正確に報告する。

 

 

「は、はい。それが……あの『壁』の、真下にいます」

 

「「「「「……………えぇ⁉」」」」」

 

 

 

 

 

 

 









いかがだったでしょうか?

まずは恒例の現地召喚。
まさかまさかの人選かと思われたでしょう。
しかし、これにもちゃんと理由がございます。
これから彼らの活躍にも乞うご期待です!


それでは次回をお楽しみに!


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