Lostbelt No.8 「極東融合衆国 日本」   作:萃夢想天

35 / 49
どうも皆様、萃夢想天です。

前回のあらすじ!
皇帝かりぎゅら、しゃべる。以上!

それと仮面ライダーギリシャ君さぁ!
お前が来るのをずっと待ってたんだよ!(既に二万爆死)
何が何でもお前に種割らせてやるからな…(SEED脳)

そんなわけで、ギリシャ1愉快なあの男がほしい私です。


それでは、どうぞ!







第五章四節 種は芽吹き、地に根付く #4

 

 

 

 

 

 

 

私たちの知るその人物は、狂暴そのものと言えた。

 

理性は薄れ、言語も一部しか介さず、ただ衝動の赴くままに暴威を振るう暴力の化身。

それこそが私たちが有する、バーサーカー・カリギュラ帝の印象であった。

 

けれど。いま目の前に立ち、強靭な五体をもって怪生物を蹂躙するその勇ましい姿には、

狂気に魅入られた暴君の風貌など、影も形も見当たらない。

 

 

『これはいったい、どういうことだろうね?』

 

「想定外の出来事が多すぎて頭どうにかなっちゃいそう…」

 

『こういう時こそ君の出番だ、経営顧問! 早いとこ謎を解明したまえ!』

 

『判断材料が足りません。加えて、憶測で物を語るなど、私にはとてもとても』

 

『ええい、使えるんだか使えんのだか分からん探偵だね君も!』

 

 

剛腕が振るわれるたびに黒々とした肉塊が飛び散り、喉から放たれた咆哮は衝撃となって

怪生物を吹き飛ばす。しかし、敵を見据える彼の瞳は血走っておらず、冷徹な輝きをみせる。

 

かつてないほど流暢に言葉を用いた彼の宣言通り、わずか2分足らずで蹂躙劇は幕を閉じた。

 

 

「……余の振る舞いは運命である。即ち、余が賜すこの結末もまた、運命と言えよう」

 

『いやー、凄いね。頭に血が上らない状態でこうも強いバーサーカーも珍しい』

 

「ダヴィンチちゃんの言う通りです。バーサーカークラスの皆さんは、【狂化】スキルに

 よって攻撃性能を大幅に向上させていますが、今の様子ではおそらく……」

 

『うん、してないね。狂化。それどころか彼、【加虐体質】すらコントロールしてる』

 

 

疑う余地などない。目の前にいるカリギュラは、間違いなく私が召喚したサーヴァントだ。

なのに、私の知っている彼とは大きく異なっている。これも異聞帯の影響なのかな。

 

マシュとダヴィンチちゃんがカリギュラの状態を解析してくれているけど、目立った異常は

みられないとのこと。つまり、本当の意味で正常なカリギュラになっているわけか。

これまでは暴れだす彼を引き留める役割を心掛けてきたけど、意志疎通が叶うようになると

話は変わってくる。彼はあのローマの皇帝。ネロやカエサルとは違うタイプの為政者。

 

どう接したらいいのか。他の王様系サーヴァントたちと同じ接し方でもいいのかな?

取りあえず下手に遜らず、かといってマスターとサーヴァントの立ち位置を明確にしない、

絶妙な距離感のバランスを保っていこう。慎重に、言葉に気を付けて、けれど大胆に。

 

 

「あ、あの、バーサー……カリギュラ!」

 

「む。どうした、我が契約者」

 

 

思い切って様付けとかはせず、いつもと同じように呼んでみる。怒られたらどうしようと

ちょっと怖くなったけど、野太いながらも思いやりを感じさせる返事が返ってきた。

こ、これは想像以上の好感触。もしかしたら、普段より一歩下がった感じでいけるのでは?

 

仲間と合流できた喜びと相まって、心の中でガッツポーズを取る私だったが。

 

 

「―――何者です?」

 

『2時の方向、生体反応あり! たぶん人間のだと思うけど一応警戒!』

 

 

開かれた通信からの警告より一瞬早く、ジル・ド・レェが誰かの存在に気付いて振り向く。

ギョロリとした大きな目玉が、暗闇が広がりだした異聞帯の夜を睨みつけている。

マシュを伴って接触するかどうかを話そうかとしたが、先にカリギュラが反応に近付いた。

 

 

「待って、カリギュラ!」

 

「案ずるな。マスター、そこにいる者は敵ではない………もう出てきてよいぞ」

 

 

慌てて制止しようとしたが、カリギュラはよく通る声で暗がりにいる何者かへ呼びかける。

すると、呼びかけに応じた人物が、私たちにも視認できる距離まで近付いてきた。

 

 

「……女の子?」

 

『もしやカリギュラ帝。貴方は、その少女を護ろうとしていたのですか?』

 

「如何にも。余は偉大なりしローマ皇帝。全ての道はローマに通ず、それ即ちこの世の

 ありとあらゆるものはローマに繋がるのだ。人も、魂も、文化も、何もかも」

 

『なるほど。全てがローマに帰依するのであれば、それは貴方の庇護対象に成り得ると?』

 

「余はローマを愛する。なれば、ローマへと繋がる世の全てもまた、余は愛そう」

 

 

見知らぬ私たちを警戒しているのか、それとも先程の怪生物をまだ怖がっているのか。

視線を彷徨わせている金髪碧眼の少女に歩み寄ったカリギュラは、彼の片手で包み込めて

しまえるほど小さな頭を優しく撫で、誇らしげな笑みを浮かべる。

 

 

「ねぇ、おじさんたち、だれ?」

 

 

カリギュラに頭を撫でられ、キョトンとしていた少女が私たちを見てそう呟く。

 

彼女は異聞帯の住人だろう。そんな彼女に、私たちは正体を明かしていいのだろうか。

子供だからとか、そんなことではなく。この少女ではない他の誰かに、自分たちの存在や

目的を明かすべきかということだ。彼女らの暮らす世界を滅ぼしに来た、などと。

 

言っても信じてもらえないかもしれない。それでも、私たちはそれを実行する為に来た。

それを隠し、黙って彼女たちに近付くことは、彼女たち異聞帯の住人を騙していることに

なると思う。最後まで隠し通すことは出来ない問題だ、いっそ最初から話した方が…。

 

 

―――それは違う。俺は騙されてないぞ―――

 

―――ただ、秘密にされていただけさ―――

 

―――騙していたんじゃなく、黙っていただけ―――

 

 

不意に、言葉が脳裏をよぎった。

 

この言葉は、中国異聞帯で出会った、クリプターの一人が言っていたものだ。

どこからか現れた謎の多い男性。ゼベル・アレイスター。マシュが全幅の信頼を寄せる人。

同じクリプターのオフェリアさんが愛する人であり、芥ヒナコの名を騙った虞美人を助けた。

 

よく分からない人という印象が大きい。当然だ、会ったのも話したのも一度きりなんだし。

それでも、マシュから聞いていた話の通り、悪い人ではないというのは何となく分かる。

彼が芥ヒナコこと虞美人を助けに中国異聞帯に現れた際、交わした言葉のうちの一つが、

さっき思い出したものだった。状況は違っても、それを言える彼の誠実さを尊敬する。

 

私には出来ない。異聞帯の住人に正体を明かすことも、目的を秘しておくことも。

でもやらなきゃいけないんだ。私たちが生きる汎人類史の未来を、取り戻すために。

だけど、それは彼らも同じ。自分たちの生きている世界を消されて嬉しいはずがない。

 

そんな風に迷っている私に気付いたのか、カリギュラが私の代わりに少女へ答えた。

 

 

「余らは、カルデア。星見の編纂者なり。汎人類史を取り戻すべく、異聞を取り除く者」

 

 

皇帝の言葉は、全てを明らかにするものだった。彼は、包み隠さず話したのだ。

 

 

『ちょ、ちょっと⁉ やっぱりバーサーカーではないのかね⁉』

 

『カリギュラ帝。いくら少女と言えど、我々の素性をそう簡単に露呈するのは』

 

 

すぐさまノーチラスのデッキから繋がる通信で、新所長とホームズが難色を示してきた。

少女の質問に答えられなくなっていた私が言えたことではないけど、ホームズの言うように

バラしてしまっていいものか。もしこの子が親や大人にこのことを話してしまったとしたら、

きっと協力は得られなくなる。それどころか、私たちを何としてでも排除しようとするはず。

 

新所長や私の抱いた懸念を、カリギュラは堂々たる姿勢で受け止める。

 

 

「黙れ。余の振る舞いこそは運命に他ならぬ。反論は許さん」

 

『し、しかしだね。いや、ですね? 我々の立場が危うくなってしまっては元も子も…』

 

「汝らが求める未来。そして、この異聞の民草が求める未来。それらは両立など叶わぬもの。

 汎人類史の存続を望む汝らの願いが尊いものであるように、異聞の歴史に生まれ落ちた者が

 未来を欲する思いもまた、尊きものに変わりはない。そこに差は無いのだから」

 

『う、ぐ………それは……』

 

「よって、余は問い質さねばならぬ。他者を傷つけぬ為であれ、虚飾は虚飾なり。

 嘘偽りに相違なく。全てに通じるが故に全てと通じる、ローマの皇帝たる余の務めだ」

 

『……貴方は、異聞帯の人々に我々の存在価値の有無を、尋ねる気か』

 

 

然り、とカリギュラは頷く。私たちは彼の話を聞き入ることしかできなかった。

 

カリギュラの言葉が正しいかどうかなんて、私には分からない。あくまで彼の語る正しさは、

彼の視点にある正しさだから。他の皆にも、他の皆の視点での正しさがある以上、その全てが

同じものになるはずもない。そしてそれは、異聞帯の人々にとっても変わらない。

 

でも、私はカリギュラの意志を信じたい。

 

だって。私たちのことを話すべきかどうかを、メリットとデメリットの天秤にかけてから決める

つもりだった私に、彼の言葉を覆せるだけの説得力なんてないし。

 

それに、狂気が何故か無くなった今のカリギュラの思考は、聡明なる皇帝のそれなのだ。

きっと信じていいと思う。というか、今までだって私は皆のことを信じてやってきたんだ。

ここでも同じことをするだけ。いつもとちょっと違うけど、私の戦いは信じることだもん。

 

 

「カリギュラ。私、あなたを信じる」

 

『マスター・立香、いいんだね?』

 

『お、おい! カルデアにおいての最高権力者かつ現場指揮官である私の意見をだね⁉』

 

『まーまーゴルドルフ君。サーヴァントとの信頼関係構築は彼女の領分だよ』

 

 

また相談もなしに決めちゃったけど、最終的な結論は変わらなかったと思う。

新所長ごめんね。そっちはダヴィンチちゃんとホームズが説き伏せてくれるだろうから、

任せてしまおう。私はマスターとして、目の前の問題に対処する。

 

 

「マシュ、キャスター。二人とも、勝手に決めてごめん」

 

「いえ。私は先輩の意志決定を尊重します。それに、先輩らしいお答えです!」

 

「常に善き心で寄り添われるマスターの御言葉ならば、従う所存にございます…」

 

 

先に二人へ頭を下げ、問題ないという返事をもらったところで、カリギュラへ向き直る。

 

 

「それじゃあ、バーサーカー」

 

「うむ。余が語り、余が聴く。万国万民を平らげるローマに相応しく、な」

 

 

私の意図を汲み取ったカリギュラが、事情を知らずに首を傾げている少女に話を切り出す。

 

途中で補足をしつつ彼の荘厳な語り口を聞いていると、ダヴィンチちゃんが囁いてきた。

 

 

『立香ちゃん。多分だけどあの皇帝、君のことを庇ってくれたんだと思うよ』

 

「私を?」

 

 

通信越しの小声でダヴィンチちゃんの高い声域が耳に心地よいが、内容の方が気にかかる。

庇ってくれたって、何から? 特に思い当たる節がないので、そのまま聞き返した。

ダヴィンチちゃんはもう一度「憶測でしかないけど」と前置きしてから話を再開する。

 

 

『彼は私たち汎人類史の存在を、異聞帯の人々に語り聞かせる。小さな子供には理解の難しい

 ことでも、大人に伝われば話は変わる。きっと、私たちを危険視する者たちが出てくるし、

 最悪の場合、敵対してしまう恐れもある。それは、君も分かってるでしょ?』

 

「……うん」

 

『だから、彼はその責任を自分が一手に引き受けようとしているのさ。汎人類史を取り戻す

 一団を指揮するマスターではなく、そういう立場にある者としての責務で行ったという、

 いわば免罪符になるつもりだろう。理性がある時期の彼は、真に名君だったんだねぇ』

 

 

ダヴィンチちゃんの言葉が、私の心を温かくする。もしそれが本当だったら嬉しいな…。

私の召喚に応じてくれただけでなく、マスターとサーヴァントの関係性だけではない結びつき

まで作ろうとしてくれている。令呪による強制された間柄ではなく、対等に近い在り方で。

 

じんわりと心に広がった温もりを抱き締めるように、手で胸を押さえる。

顔を上げると、ちょうどカリギュラが少女に話し終えて立ち上がるところだった。

 

 

「……おじちゃんのおはなし、よくわかんない」

 

「幼子に解せよというのが無理難題か。であれば、汝の母にでも話してやらねばなるまい」

 

「ママ? ママは今は家にいないよ」

 

「ほう?」

 

 

やっぱりというか、幼い女の子には難しい話のようだ。成人前の私ですら分からないことが

多いんだから、分かられたらむしろ私の立場がない。カリギュラが少女の母親に話そうと

所在を尋ねると、家にいないと答えが返ってきた。もう夜なのに、親が家にいないの?

 

抱いた違和感を言葉にする前に、少女が続けて母親の居場所について話し出した。

 

 

「ママは、他のおとなの人と、こーてーおじさんについていったんだよ」

 

「こーてー……? こうてい、でしょうか?」

 

「余か?」

 

「絶対違う」

 

 

少女曰く、彼女の母親は他の大人たちと一緒に、こーてーおじさんとやらに着いて行って

まだ帰ってこないらしい。怪しい話の気配がしたけど、大人がその不審人物と出かけるのは

いつもの事で、夜になれば帰ってくるのだとか。少女は帰りの遅い母親を心配して家を

抜け出したところで、あの黒い怪生物と遭遇。そこをカリギュラに助けられたという流れだ。

 

なら、彼女の母親は今、大勢の大人と一緒にいるのか。話をするのにちょうどいいのかも。

カリギュラもそう思っているらしく、少女に件の人物のいる場所への案内を依頼した。

少女はカリギュラの言葉に頷き、しかし直後に困った顔になって、尋ねてきた。

 

 

「そういえば、おなまえ……おじさんたちの」

 

「あ、そっか。言ってなかった」

 

「そういえば互いに自己紹介がまだでしたね」

 

 

マシュと顔を見合わせて苦笑い。そうだ、急いでいたうえに、話を二人に任せてたから

ちゃんと話すこともできていなかったんだっけ。しゃがんで少女の目線に合わせて話す。

 

 

「私は立香、藤丸立香。こっちのかわいいお姉ちゃんが、マシュ」

 

「マシュ・キリエライトです」

 

「それで、こっちのギョロ目なおじさんは……」

 

「ご紹介に預かりました。私のことはどうぞ、青髭のおじさんとお呼びくださいませ」

 

『自分から名乗っちゃうんだ、その悪名……』

 

 

少女が順番に私たちの顔を見る。怖がっていないようで何よりだ。特にキャスターを。

190センチを越える痩身長躯のギョロ目大男とか、いくつになっても怖いと思うだろうに。

不思議そうな目で見つめるばかりで、怯えていたりはしない。案外肝の据わった子だなぁ。

 

そして、少女の目が最後の一人に移る。

 

 

「そして余が、ガイウス・ユリウス・カエサル・アウグストゥス・ゲルマニクスである」

 

『いや長い長い』

 

「余のことは、畏敬と賛美を込め、皇帝カリギュラと呼び崇めるがいい」

 

 

腕を組み、尊大な口調で少女に名を明かすカリギュラ。あんな感じのキャラだったんだ。

 

仲間である私たちですらおいてけぼりな状況で、少女はまた表情を曇らせて呟く。

 

 

「おじさんも、こーてーなの? でも、こーてーおじさんはもういるよ?」

 

「え?」

 

『ってことは、本当に皇帝って意味だったのか!』

 

「カリギュラさん以外の皇帝が、この土地に…?」

 

 

少女の話を再び聞くと、どうやら「こーてー」は「皇帝」で間違いなさそうだ。

流石に細かな情報まではこの子から引き出せなかったけど、それでも充分といえよう。

問題は、その皇帝おじさんとやらが、どうして大人を集めているのかということだけど。

 

 

「おじさんのことは、なんてよべばいい?」

 

「…………ローマ以外の皇帝など余は認めぬ。だが、それでは汝が困ってしまうのか」

 

「ローマ? ローマのおじさん?」

 

「………偉大なりしローマの名を冠する栄誉もまた、ローマ皇帝たる余の特権であるな」

 

「納得したの⁉」

 

 

筋骨隆々で浅黒い肌、全身に黄金の鎧をまとった大国の皇帝が、女の子と膝を突き合わせて

話し合っている姿に危機感を抱いてしまうのは、私の心が汚れているせいなのだろうか。

 

ともかく、ローマのおじさんもといカリギュラも納得したみたいだし、少女に今度こそ大人の

集まっている場所への案内を頼もう。ってそうだ、名前名前。

 

 

「あなたのお名前は?」

 

「わたしはキャサリン! ママたちはキャシーってよぶのよ!」

 

「そっか。キャサリンちゃんか。いい名前だね」

 

「キャシーでいいよ!」

 

 

少女改めキャシーは、大人たちを集めて何かをしているという「皇帝おじさん」のもとへと

案内してくれると約束してくれた。早速キャシーは心当たりのある場所へ歩き出す。

小さな彼女の後ろを、私とマシュ、そしてジル・ド・レェとカリギュラが続いて歩く。

 

暗い夜道でも迷うことなく進むキャシーは、どこか背伸びをしたおませさんに感じる。

私にもこんな時期があったな、などと昔を懐かしんだのも束の間。通信が飛び込んできた。

 

 

『マスター! 君たちの進む方向に、4騎のサーヴァント反応が確認された! 

 4騎のうち2騎は、中国異聞帯で敵対した、ランサーとライダーの反応と一致!

 おそらく、戦闘中と思われる! もしかしたらその子の母親が巻き込まれてるかも!』

 

 

いきなり聞こえた甲高い声にびっくりしているキャシーを宥める余裕も、なくなった。

ダヴィンチちゃんのナビゲートに従い、そう遠くない目的地までの最短ルートを駆ける。

カリギュラが先行し、キャシーを抱き寄せた私をマシュが護り、ジル・ド・レェが海魔を

喚び出して陣形を組ませる。言葉すら発さない連携に、またもキャシーが目を丸くする。

 

驚きで声も出ない少女を小脇に抱えたまま、最悪の想像を掻き立てる場所を目指す。

さっき、4騎のサーヴァント反応があると言っていた。おまけの2つは、中国異聞帯に突如

現れたゼベルさんのサーヴァントだという。まさか、あの人が戦いの場にいるのか。

 

 

「マスター! 汝が敵を見定めよ! 余は、汝が敵と断じた者を叩く!」

 

「死角からの奇襲や不意打ちは、我が眷属で対処致します。安心して采配をなさるよう」

 

 

戦場で頼るべきサーヴァント二人が、私を頼ってくれている。それが肝心なんだ。

迷いはいま、必要じゃない。誰がいようと関係ない。私たちは、私たちの為に此処に来た。

そうだ。たとえ世界そのものを消すことになっても。その世界に生きる人を見殺しになんて。

 

 

「―――したくない! だから、手を貸して!」

 

 

皆と心を一つに。異聞の歴史と戦うことは、決して在り得ない未来の否定ではないのだから。

 

 

「戦闘準備! キャシーの母親を含め、巻き込まれている人たちの救助を最優先に!」

 

 

この異聞帯で初の戦闘を前にして、私の心から戸惑いは消え去っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

其処には、七つの台座と像がある

 

 

円環に並ぶ其は、窮極の一を顕す玉座

 

 

長剣を携えし騎士は、粛々と時を待つ

 

 

槍を携えし兵士は、穿ち貫く的を定める

 

 

弓矢を番える射手は、彼方の空を眺め憂う

 

 

乗騎に跨る騎手は、轍を刻み地を駆ける

 

 

千里を見通す術師は、楽園から世界を見守る

 

 

死を賜す教主は、幽谷の淵にて堕落を殺す

 

 

そして残るは、檻に囲われた最後の台座

 

 

狂乱に堕ちた愚者足り得る、冠位の英雄

 

 

閉ざされた檻の中に、鎖に繋がれた者あり

 

 

今はまだ、鎖を手繰る刻にあらず

 

 

 

 

 

 

 

 









いかがだったでしょうか?

次回は日曜日に投稿する予定です!
展開を先に進めることで頭がいっぱいなので、
ヒロインがヒロインをする回がおろそかになるやも……。

それでは次回を、お楽しみに!


ご意見ご感想、または批評や質問などお気軽にどうぞ!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。