Lostbelt No.8 「極東融合衆国 日本」   作:萃夢想天

38 / 49
どうも皆様、弊カルデアのQPが枯渇しかけの萃夢想天です。

新しい職場で四苦八苦しながらも、楽しく過ごしております。
まぁストレスの影響か、夜中にスナック菓子を食べる頻度が
爆発的に加速して健康面がマジヤベーイ! なんですがね。

前回のあらすじ!
皇帝かりぎゅら、くるう! そんな感じ!

それでは、どうぞ!





第六章三節 根は下り、芽は陽を浴びる #3

 

 

 

 

「困ったことになりましたね、先輩」

 

「そーだね、うん。ホントどうしようか…」

 

 

現状を憂うマシュの一言に対し、私は深々とした溜息を溢しながら答えるしかない。

だって現実問題として、どうしようもないんだもん。どうすべきかも分かんないんだしさ。

 

私たちが困り果てている要因は、濁さず言えば気色の悪い海魔の大群によってすぐそばで

強引に拘束されている。脈動する触手の塊の奥から、時折呻き声が漏れ出す。

 

 

「なんと哀れな……私めの召喚した下僕たちで抑えこそしましたが、おいたわしや」

 

小生(わたし)はこんな奇々怪々にまとわりつかれる事の方が哀れに思うが……」

 

 

放っておけばいつ暴れだすか不安とのことで、ジル・ド・レェが魔本で召喚した海魔たちが

絡みついてカリギュラの身動きを封じている。まともな精神では直視することも憚られるような

光景であり、この異聞帯に現れた汎人類史のアーチャー、薛仁貴も顔を顰めていた。

 

ちなみに、もう一人のバーサーカーであるジョシュア・ノートン一世は、彼のいうところの

アメリカ帝国民である異聞帯の住人たちに演説をしている。誰も聞いてないようだけど。

 

まぁなんにせよ、連れてきたキャシーの母親や他の人たちの安全を確保できてよかった。

 

 

「おねえちゃーん!」

 

「わっ、キャシー? 急に来たらびっくりするって!」

 

「ごめんなさーい!」

 

 

この日本異聞帯でカリギュラが何故か正気を取り戻していた時に彼が助けた少女、キャシー。

改めてみると、やはり日本人ではない。アメリカとかそっちの血を継いでいるのだと思う。

そんな少女の後からやってきたのは、少女をそのまま大人に変えたような外見の女性。

 

 

「こらキャシー! あなた、日本の民になんて無礼な! やめなさい!」

 

「ママ…?」

 

「すみません! 私たちをお守り頂いた方々に、とんでもないことを!」

 

 

血相を変えて自分を叱る母親に、理由がよく分かっていないキャシーは混乱している。

数時間前に『壁』の入り口近くで出会った人たちも言ってたけど、日本人かそうでないかが

かなり重要なのだろうか。それにしたって母親らしい女性の態度は度が過ぎてないかな。

 

ここでカリギュラが話を切り出してくれてたら助かったのに、今じゃ吠えるか(ネロ)の名前を

叫ぶだけのバーサーカーに戻ってしまっている。仕方ないのでまたジル・ド・レェに任せる。

 

 

「ご安心くださいませ、御婦人。こちらにあらせられますは、日本の民として生を受けながら

 その慈愛を分け隔てなく授けることを惜しまぬ尊き御仁。我らがマスターにございます」

 

「で、ですが……」

 

「それはさておき。まずは御息女を休ませてあげるがよろしいかと。昨夜我々と出会う前より、

 御婦人を探していたようですし、今も戦闘に巻き込まれて心穏やかではないでしょう」

 

 

この異聞帯で召喚されたジル・ド・レェは本当に精神が安定しているようで、彼の言葉や表情

などからは、キャシーや他の住民たちを思いやる気持ちがひしひしと伝わってくる。

これが私の知る彼だった場合は裏を勘繰ってしまうところだが、今回は純粋に慮っている。

 

キャシーの母親はキャスターと私とを交互に見つめてから、ノートンに助けを求めた。

 

 

「あ、あの、皇帝さん。私はどうしたらよいですか?」

 

「案ずるな帝国臣民! この者らは朕の窮地に馳せ参じた帝国陸軍である! 即ち、其方らを

 守る盾だ! よし、臣民よ。朕を其方の住まいへ案内するがいい!」

 

「私の家へ、ですか?」

 

「そうだ! なに心配はいらぬ、朕の心は寛大だ。朕を仰ぎ尊ぶ臣民であれば、招き入れる

 邸宅が貧相であろうと問題ではない。朕は清貧を好む。豪勢も厭うわけではないがな!」

 

「はぁ……?」

 

 

助けを求める相手を間違えているとは思ったけど、流石に口に出して言えるわけもなく。

まるで見当外れな助け舟を出され、それを納得もいかないままに受け入れてしまったようだ。

 

 

「で、では、皇帝さんとそのご友人(?)の皆様、我が家へどうぞ」

 

 

キャシーの母親、もといグロリアさんの案内の下、私たちは彼女たちの暮らす家へ移動した。

この移動も『神の通り道』を使ったので、肉体的な疲労を一切感じないまま目的地へ到着

してしまい、瞬間的に移り変わった景色にまた驚かされることとなった。

 

彼女たちの暮らす家。それは、近代日本にも普通に建設されているアパートであった。

ただ、汎人類史の日本と比較して、アパート一棟の高さが数段高いようではあるが。

 

 

『ふむふむ。文明レベルで汎人類史の現代日本と差異は見られないね』

 

『今のところは、だが』

 

「ですが、ロシア異聞帯や北欧異聞帯と比べ、人の営みに大きな異常はないと考えられます」

 

 

キャシーたちの暮らす一室にお邪魔すると同時に、通信機からダヴィンチちゃんとホームズの

二人の考察が聞こえてくる。隣にいるマシュもブーツ型の鎧を一部霊体化させて脱いでから

玄関からリビングへ上がる。「アジア圏では玄関で履物を脱ぐのですよね」と確認された時、

マシュがまだまだ知識だけで世界の色々なことを実感していないのだと認識させられた。

 

リビングにある物も特に違和感はなく、現代の日本にも見られるものばかり。それが余計に

私の心を弛緩させる。駄目だ、ここは違う世界だってやっと認められるようになったのに。

自分のいた故郷を同一視しないように、心を強く律する。息を大きく吸い込み、吐きだす。

 

 

「先輩?」

 

「……大丈夫だよ」

 

 

心配してのぞき込んでくるマシュに、この二年の旅の中ですっかり身に付いた作り笑いで

内心の不安を悟られぬよう誤魔化す。私の返事に、彼女はそれ以上何も言ってこなかった。

 

キャシーとグロリアさん。この異聞帯で出会った現地の住人。対話を試みる最初の相手。

少女は疲れや緊張から寝息を立てており、代わりに母親のグロリアさんがテーブルにつく。

対面に私とマシュが座り、背後に薛仁貴とジル・ド・レェが控え立つ。

 

 

「それでは、僭越ながらこの私めが話の進行を務めさせていただきます」

 

「よろしく、キャスター」

 

 

深い紺色のローブをまとう大男が恭しい態度とともに、話し合いの口火を切った。

 

 

「では御婦人。この国の現状について知っている範囲で構いませんので、お教え願えますか?」

 

「この国の現状? それは、どういう…?」

 

「これは失礼。我ら異邦より参った旅の一団であります。こちらにおわす一団の長、我らが

 マスターと仰ぐ藤丸立香様がこの日本の出身ということで立ち寄ったのですが……」

 

 

そこから先は、嘘でも本当でもないギリギリのラインをつく話が語られていった。

やはり彼の話術は頼りになる。これでカリギュラもバーサーカーに何故か戻ってなければ、

さらに頼り甲斐があったというのに。というか、なんでカリギュラの狂気がなくなったの。

原因すら分かっていないんだからどうしようもない。その辺も突き止めなきゃかな。

 

ジル・ド・レェが話している間、この異聞帯で仮契約を結んでくれた薛仁貴には小声で

本当のことを伝えておいた。情報の齟齬が起きても困るし、彼女はそういう嘘とかを嫌う

性格じゃないかと思ったからだ。けど実際は「無用な混乱を避ける手か」と納得してくれた。

意外とこの手のやり方を嫌わないんだと思ったけど、属性が秩序・悪なんだから当然かも。

 

 

「……なるほど。お話は分かりました」

 

「では、お教え頂けますかな?」

 

「私のような小市民の分かる範囲なんて限られていますが、それでいいのなら」

 

「わずかなことでも構いません」

 

 

グロリアさんにも理解してもらったところで、いよいよこの異聞帯の情報を得られるように

なった。無意識のうちに意気込んだ私だが、彼女の「あ」という呟きに勢いを削がれた。

 

 

「すみません! お客様にお茶をお出しする事も忘れて……すみません!」

 

「あ、いえ。お構いなく」

 

「お話は分かりましたが、それでもあなたが日本の民であることに変わりはありません。

 外海の民として生まれた以上、礼を失するわけにはいかないのです」

 

「いえ、ホントに大丈夫ですよ」

 

「お待たせは致しません。すぐに()()()()()()()()()

 

 

どうやらグロリアさんは客人へのもてなしをしなかった事で、私たちが気分を害することを

恐れているみたいだ。それくらいで怒ったりなんてするはずないんだけどな。

というか、彼女の言い方に引っかかった。やってくれる? この家は他に誰かいるの?

部屋をキョロキョロ見回す私に、後ろで立つ薛仁貴が押し殺した声で語りかけてくる。

 

 

「マスター。しかと目に焼き付けるがいい。これが、この国の異常であると」

 

「え?」

 

「そら、出てくるぞ」

 

 

鋭い彼女の視線が、斜め後ろへ向けられる。彼女の視線をなぞるように追っていった先は、

このリビングと隔てるものなく繋がっているキッチン。そこにある戸棚を睨んでいた。

何が出てくるの、と問いかけた私は、そう口にするよりも早くその意味を知ることとなる。

 

 

「―――え?」

 

 

私たちの視線の先では、ティーカップやポットなどが()()()()()()()()()()()のだ。

誰もいない。なのに、勝手に道具が動いている。水道もないのにどこからか出現した水が

ポットへ吸い込まれてゆき、いきなり火のついたコンロに似た器具で湯を沸かしだす。

 

いきなりのことで気が動転している間に、カップに淹れられた茶がテーブルへ並んだ。

並べられた、ではなく、並んだ。音も立てずに浮かんできて、目の前に降りてきた。

そこに注がれている液体は、カルデアでもたまに飲んだ日本茶と何一つ変わらぬ色合いと

香りを漂わせている。かすかな湯気の昇る淹れたてはさぞ良い渋味で喉を潤すことだろう。

 

誰の手を借りることなく淹れられたものでなければ、私だって遠慮なく嚥下していた。

 

 

「日本の民が日頃お口にしているものと比べたら粗茶ですが、どうぞ」

 

「いや、あの、え…?」

 

 

驚きで呂律が回らない。目の前の光景にグロリアさんは驚いた様子もない。

ということは、この日本異聞帯ではこれが当たり前、なの? 今のが?

 

 

「ご覧になったか、マスター。これこそこの国の歪み。有り得ざる世界の行く末よ」

 

「アーチャー、今のは?」

 

「小さき島国に無数の『神』が跳梁跋扈する世界。それこそが、この異聞の世だ」

 

 

油断を感じさせない強い瞳は、私の目の前で冷めていく茶を注いだカップへ向いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――つまりこの世界では、()()()()()()()()()()。そういうことかな?』

 

「然り。道を繋ぐだけに留まらず、果ては食料の調達も調理すらも神々が人に代わり行う。

 人はただ、神々のもたらす万物を啜るだけで日々を暮らせる。まさに世も末よ」

 

 

グロリアさんから話を聞いた私たちは、情報の整理とカリギュラの身に起きた異常を詳しく

検査するため、一度ノーチラスへと帰艦していた。グロリアさんたちに一度別れを告げてから

こちらにきたから、追手なんかはいないはずだし、警戒も随時している。大丈夫そうだ。

 

ノーチラスへ戻る頃には夕方になっていたけど、依然カリギュラは狂化されたまま。

ジル・ド・レェの海魔たちによる拘束を一度解き、今はシャドウ・ボーダーにある医務室で

ダヴィンチちゃんから精密検査を受けている。結果を待つ間、情報整理を他のメンバーで

しておこう、ということでホームズを主軸に会議が開かれたわけだ。

 

ダヴィンチちゃんが不在なので、ジル・ド・レェと仲間に加わった薛仁貴が参加している。

 

 

「実感の湧かん話だが、現にこの世界はそうなっておるようだな」

 

「そのようですね。しかし、道祖を名乗る地蔵が意志をもっていた時点でもしや、とは

 思っていましたが……まさか道具に神が宿り人々の生活を支えているとは」

 

「思っていたなら教えなさいよ!」

 

「断定はしない主義ですので」

 

 

ホームズと新所長のお決まりのやり取りが繰り広げられる。それを見てちょっと安心する。

こほん、と咳払いを一つ。ゴルドルフ新所長は「しかしだな」と呟き、続けて所感を語る。

 

 

「神々が人間の暮らしを豊かにする。そう捉えれば、この世界は案外悪くないのでは?

 そりゃ生活の一部として神が介入してくるのは落ち着かんだろうが、一種の使い魔だと

 考えれば、自立思考して動くゴーレムとそう変わらんだろう。違うかね経営顧問?」

 

「魔術師である貴方の視点であれば、そうでしょう。しかし、これはそうではない」

 

「そうではない? どういうことかね」

 

 

ホームズの言葉に首を傾げる新所長。私も彼の言わんとする意味が分かっていない。

すると、私の後ろで背筋を伸ばし立っていた薛仁貴が、軽蔑したように鼻を鳴らす。

 

 

「はっ! 思慮の浅い男だ。それでよくこの一団、カルデアの長を名乗れたものだ」

 

「なっ、なにおう⁉」

 

「高宗様とは比べ物にならん蒙昧ぶりよ。いいか? この世界の住人は皆、神々により

 生活の基盤を押さえられている。衣食住の全てが、神々により与えられているのだ」

 

「そ、それは分かっておる! だがそれは使い魔にも出来ることであってだな!」

 

「たわけ! まだ分からんか! ()()()()()()()()と言っているのだ、小生は!」

 

 

薛仁貴の放った一言に、ゴルドルフ新所長は表情を一変させた。

 

 

「自らの足で歩む必要もなく、自らの技量で職を選ぶ必要もなく、自らの手で食を生み出す

 必要すらもなくなってしまった。そのような生き方が、家畜でなければなんとする!」

 

「む、ぐ……」

 

「この世界の住人は、それを疑問に思わぬ。神が人を支える。その仕組みが当然であると、

 生まれた時より学んでいるからだ。己の行き着く未来が家畜と化しているとしても、

 彼らのとってそれが当然でしかない。加えて、そなたも聞いたはずだな?」

 

「…………ああ」

 

「小生は中華の血を継ぐ者らの暮らす地に召喚され、そこで幾人かの住人と交流をした。

 街並みを見た。そして其処を追われ、逃れるうちに気狂いと出会い、マスターと契約を

 結んだ今日この時まで、私は人々を見ていた。だが、()()()()()()()()()()()()()

 

 

薛仁貴の言葉で、私たちはつい一時間ほど前にグロリアさんから聞いた話を思い出す。

 

 

「この異聞帯において日本列島以外に人類の生存圏は無く、明確な理由は未だ不明ではあるが

 年齢が50を超える者、いわゆる高齢期に分類される人が存在していないとされている。

 ミズ……いや、ミス・グロリアの話から得られた情報に限りこそあるが、嘘ではあるまい」

 

 

淡々と述べるホームズ。事実に変わりは無いけれど、そんな彼に難色を示したくもなる。

でもそれこそが現実であり、この世界にとっての当たり前。私たちの知らない常識だ。

 

この話を聞いた時、私は北欧異聞帯の世界を思い出した。神話の終末大戦を生き延びた神が

慈悲と慈愛を以て人類の生存圏を管理していた、永遠に春の芽吹かない氷獄の大地。

あの世界では25歳を迎える人間は、人類に許された生存圏外を跋扈する巨人などによって

殺され、間引かれる。生まれ、育ち、未来に残すものなどほとんどないままに死ぬ。

 

未来を創る前に消される穏やかな絶望郷(ディストピア)。北欧異聞帯と此処は似ているのかもしれない。

けれど、北欧異聞帯には、「愛」があった。神々や、人ではない上位者たちの持つ高みからの

ものではあった。それでも、確かに愛があったのだ。でも、この異聞帯はどうだろうか。

 

 

小生(わたし)も其方らと出会う以前にこの地の民と交流を持ったことがある。その折、この世界の

 決定的な歪を知った。神々が跳梁跋扈し、人を囲うことも大きな異常ではあるのだが。

 最大の相違点はそこではない」

 

「彼女の言う通り。日本異聞帯が汎人類史と決定的に乖離している部分は数多くあれど、

 それらの中で特に顕著なものがある。これは、人類という種そのものを揺らがしかねない」

 

「……キャシーさん。いえキャサリンさんには、()()()()()()

 

 

薛仁貴が険しい表情で語り、ホームズが捕捉した話題にマシュが沈痛な面持ちで答えた。

私も似たような顔をしているに違いない。それほどに、この事実は私たちには衝撃的だった。

 

キャシーには父親がいない。つまり話をしてくれたグロリアさんの夫となる人がいない。

これは未婚というわけでもなければ、離婚して独身になったという単純な理由ではない。

最初からキャシーの父親という存在が実在していない。では、彼女は何なのか。

 

まだ顔色が安定していない新所長が、小さく息を吐いてから落ち込んだ様子で話し出す。

 

 

「結婚や婚礼の習慣が無いというのは耳にしたことくらいはあるがね。

 まさか、神々によって子供が授けられている世の中とは……信じられんよ」

 

「日本は勿論のこと、世界各国にも安産祈願やそれに類する神の存在は確認されている。

 しかしながら、本当に子供を人々に授ける神なんてものがいたとする伝承などは流石に

 世界広しといえどみられない。この異聞帯において、性別は一切意味を成さないのだ」

 

「母は子を産まずに母となり、父は家庭を築かず父となる。なんと歪で醜悪な世か」

 

「性別は無意味。海と『壁』に囲まれた島国の中で、神々を使役する家畜化した人類…」

 

 

本当に信じられない事ばかりで、心の整理が追いつかない。いつだって追いついたことなんか

なかったけども、今回は今までの比じゃないくらいだと思うほど精神的動揺が大きかった。

場所が日本ということが関係あるんだろうか。今までも日本の特異点を攻略したことは何度も

あった。でもそれはあくまで過去の異変であって、今現在まで変化が続く世界ではない。

 

 

「急激な嵐の壁の形状変化から異聞帯内部で大きな変化が起こっているかと想定していたが、

 ミス・グロリアの話にはそういった情報が無かった。内部は通常通りということなのか。

 どちらにせよこの日本異聞帯の異聞深度は『C+』だ。これからも警戒を続けよう」

 

「これ以上汎人類史と乖離した部分があっても、私はもう驚かんよ……」

 

 

疲れた表情を浮かべる新所長に、ホームズから「少し休憩を挟もう」と提案が挙がる。

彼の言葉を否定する者もいるはずなく、ノーチラスのデッキ内の空気がわずかに弛緩した。

緊張の糸がちょっと解れたからだろうか。モニターを見つめるスタッフたちも欠伸を漏らす。

 

休憩をもらったことだし、私も何か手伝うことがあればやった方がいいかもしれないな。

何もなければ医務室に行ってカリギュラの様子でも確認しようかと考える。それとも、

マシュを誘ってマスター専用に割り当てられたマイルームでじっくり身体を休めようか。

 

どうしようかと考えていた時、モニターや計器を睨んでいたスタッフがにわかに騒ぎ出す。

 

 

「た、大変だ! 観測記録のあるサーヴァント反応が突然現れた! 目の前の砂浜に!」

 

「なんだと⁉」

 

「映像を出してくれ」

 

 

デッキから出ようとしていた私はすぐさま戻り、投影された外部カメラ映像を見る。

そこに映っていたのは、北欧異聞帯でオフェリアさんを攫って消えた和装のサーヴァント。

そして、サーヴァントを従えるように立っている、見覚えのある男性の姿があった。

 

 

「……ゼベル・アレイスター、何故ここが……⁉」

 

 

驚愕に目を見開く一同。当然だ。ここにノーチラスがあることを知っているはずがない。

尾行なんかも警戒していたし、魔術的な隠ぺいも怠っていないのに、何故なのか。

先程とは違った緊張が迸る中、映像の向こうにいるクリプターが話しかけてくる。

 

 

『見つけたぜカルデア―――さぁ、腹割ってお話といこうじゃねぇの?』

 

 

 

 






いかがだったでしょうか?

なんとか三月中に投稿することができてほっとしております。
次は四月に投稿かぁ……出来るといいなぁ。いいなぁ。

ちなみに今後の動向につきましては、活動報告をご覧ください。


それでは次回をお楽しみに!


ご意見ご感想、および批評や質問などもお気軽にどうぞ!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。