Lostbelt No.8 「極東融合衆国 日本」   作:萃夢想天

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どうも皆様、萃夢想天です。

FGO2000万DLは、まさかまさかの星5配布!
更には正月PU並の豪華日替わり召喚まで!
早速武蔵ちゃんを手に入れて涙した私です。

さて、前回からこの作品はいよいよ佳境へと差し掛かって参りました。
物語の核心部分に近づくことができて、正直ホッとしています。
これから更に面白くなっていく(といいな)展開を刮目あれ!


それでは、どうぞ!





第七章二節 芽は若葉となり、茎は幹となりて #2

 

 

 

 

一人の、男がいた。

 

まだ少年と呼ぶべき年頃の彼は、窪んで虚ろな眼をしていた。

 

頬は痩せこけ、手足は枯れ枝のように細く、蝋燭のように真っ白な肌で。

 

死期が近い病人と言われても頷けるほどの状態の少年は、窓の外を眺めていた。

 

彼は掠れた声で呟く。

 

「どうして、ぼく、は、そとへ、いけない、の?」

 

虫の羽音よりも小さい音量のソレに、同じ室内にいた彼の父親が答えた。

 

「必要がないからだ」

 

父が少年へ向ける眼差しは無機質で、愛情の欠片も含まれてはいなかった。

 

一方的に告げられた返答に、ベッドの上から起き上がることもできない少年は再度尋ねる。

 

「ぼくには、なに、が、ひつよう、な、の?」

 

続けざまに疑問を投げかける息子に、父親は表情筋を動かさず静かに返す。

 

「逆だ。お前に必要なのではなく、()()()()()()()()

 

会話とは到底呼べない、言葉のぶつけ合い。

 

それだけが、少年と父とを結ぶ唯一の関係性の表れであった。

 

無表情な父が発した言葉を聞き、少年はゆっくりと瞼を閉じる。

 

やがて室内に溶けるような微かな呼吸音が聞こえ始めた。

 

少年の就寝を確認した父親は、そこで初めて鋼鉄の表情を緩め、軽く息を吐く。

 

ベッドの上で死んだように眠る少年へ近づき、その色素の抜け落ちた白い髪を撫でる。

 

「眠れ、息子よ。次に目覚める時までに、より相性の良いものを用意しておく」

 

聞かせてやるつもりのない父親の言葉を、ただ彼らを包む部屋だけが聞いていた。

 

息子が眺めていた窓の外を一瞥し、関心を抱くことなく部屋を後にする。

 

魔術師である父親は自らの工房へ入る瞬間、人知れず呟きを漏らした。

 

「私はアミソーダロスとは違う。完全なるものを生み出してみせる」

 

それは魔術師としてか、はたまた少年の父親としてか。

 

彼の言葉の真意を知る者は、誰もいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――いまの、は?」

 

 

閉ざされていた眼を見開き、フォーリナーは困惑の表情を浮かべる。

 

今の映像は何だったのか。少なくとも自身にはこのような記憶はなかったはずなのに。

混迷する思考を巡らせ、そこで彼女は現在の自分がどんな存在であるかを思い出す。

 

英霊。サーヴァント。およそ、そう呼ばれている情報体。

 

融合して得たサーヴァントと言う存在の情報を引き出し、そこから先程の現象に該当する項目を

発見した彼女は、表情を顰める。これが本当であれば、今見たものは過去であれど事実となる。

即ち、契約を交わした相手の記憶を閲覧する現象。これは英霊にもマスターにも起こり得る。

 

マスターが契約したサーヴァントの過去を追体験するように、その逆も然り。

サーヴァントが契約したマスターの過去を追体験してしまうこともあるのだという。

 

納得や理解。そうした複雑怪奇な感情をいったん無視して、彼女は現状の把握に努める。

 

 

「今のはもしや主人(マスター)の………ッ! 主人、主人⁉」

 

 

彼女が思い出したのは、その身を焼き焦がし尽くす程の怒り。

その発端となったのは、彼女の契約したマスターが深手を、致命傷を負ったこと。

 

忌々しきはセイバー。彼が既に退去したアサシンなんぞと手を組み、マスターを謀ったことは

当然許し難い。けれど今は処刑よりも優先すべき問題がある。マスターの治療および回復だ。

 

そこへ思い至った彼女は、自身と共に見知らぬ場所へ飛ばされてきたマスターの姿を探す。

幸運にも探し相手はすぐ傍におり、そして不運なことに彼の失血量は凄まじく、猶予はない。

元来の霊基の持ち主である彼女にとっては馴染みのある血液が、今は恐ろしくてたまらない。

 

 

「この異聞帯の神どものいずれかならば、この傷も治してやれるだろう。

 しかし、此処は何処なのだ? 妾は斯様な小汚い古小屋なぞに足を運んだ記憶なんて

 ありませんが………それに、この気配。妙に落ち着かない。いったい、此処は…?」

 

 

自分たちが運営するこの異聞帯ならば、どれほどの深手であっても治療が叶うはず。

拠点である国会議事堂の一室からどうやってか見知らぬ場所に居る不可思議に首を傾げ、

フォーリナーはどうすればマスターを助けることができるかを考えようとした。

 

けれどその時。強烈な不快感が彼女を襲った。

 

 

「ぐっ……⁉ なん、なのだ! 妾が、妾の()()が引き寄せられる…!」

 

 

知らない。なんだコレは。気分が悪い。英霊の身でありながら、悪寒に苛まれるなど。

両手で頭を押さえながら呻く。地をのたうつ無様こそ晒しはしないが、それほどに苦しい。

 

先程の憤怒によるものとは異なる要因で息を荒げる彼女は、そこで気が付く。

 

彼女……そう、フォーリナーたる所以となった()()は、英霊などではないのだと。

 

 

「………違う、違うな。嫌悪感でも不快感でもない。だが、拒絶しようとしている」

 

 

瞳孔が真横に割れたような形の黄金の双眸と化したフォーリナーは、自分を襲う感覚の

正体を悟る。メキメキと音を立て、側頭部からヤギのような巻き角が表出し始めた。

霊基が変質していく。否、本来の霊基との解離。彼女が奪っていた元々の霊基を表出させる。

 

 

「貴様だな、汎人類史の英霊。妾の内より小細工を……何の真似だ?」

 

『あら、小細工だなんて。そうね、肉体の主導権を奪われたことへの意趣返し、でしょうか』

 

 

フォーリナーという異常な霊基は、ゼベルというマスターが召喚したサーヴァントの霊基を

【闇】が浸食した結果として誕生した。彼に憑りついていたナニカこそが彼女の本体。

つまり、フォーリナーの霊基の奥底には、彼が召喚したアサシンの意識が眠っていたのだ。

 

尤も、この宇宙とは異なる次元より来訪した超常存在である彼女が、アサシンの意識を放置

しておくはずもない。エーテル体に自身を変質させアサシンと融合した時点で霊基を浸食。

主導権を奪いフォーリナーと化した。故に、アサシンに出来ることなどないと思っていた。

 

ところが、彼女の中に眠っていたはずのアサシンは目覚め、抵抗を試みているようだ。

 

 

「小娘。貴様と妾の利害は一致しているのではなかったか?」

 

『一致していた、ですわ』

 

「していた?」

 

『ええ、偉大なるお母さま?』

 

 

内なる人格と対話しているかのように、フォーリナーはアサシンと意思疎通する。

彼女から母などと呼ばれるとは思ってもみなかったフォーリナーは僅かに瞠目した。

その一瞬の隙をついて、肉体ではなく会話の主導権をアサシンに握り返されてしまう。

 

 

『不甲斐ないものですわね。主人(マスター)を守れないだなんて、サーヴァント失格ですわ』

 

「ッ! 黙れ! 低次元のエーテル情報体擬きが!」

 

『仮にも私の霊基を奪ってみせた貴女が、まさか目の前で主人を害す賊を見逃すだなんて』

 

「黙れ黙れ黙れ‼ 今は貴様如きに構っている暇なぞない! 主人を、助けねば…!」

 

 

怒りに任せるだけの情動をなんとか抑え、フォーリナーは意識なく倒れるマスターを見やる。

今なお出血は止まっていない。彼女には治療どころか応急処置の知識すら有りはしない。

どうすれば助けられるのか。かつての彼女であれば幾らでも手はあった。しかし今は違う。

 

慌てふためくフォーリナーとは対照的に、アサシンは落ち着き払っていた。

 

 

『そう、そこですわ』

 

「なに?」

 

『今まさに、私たちの利害は一致しました。主人を助ける。この一点においてのみ』

 

「………そうか。貴様、妾と話す時間を稼ぐ為だけに抵抗したのか」

 

 

衣服を赤黒く染め、冷たくなりつつある体を抱き上げ、フォーリナーとアサシンは語る。

 

 

「これまで妾をこの場所へ、おそらく天皇とやらがいる皇居へ近付かせないように無意識へ

 干渉していたのだな? 此処へ妾が来てしまえば、この妾が弱体化していることに気付いて

 しまいかねんと考えて」

 

『方法までは分かりませんが、貴女は私の召喚に割り込み、この霊基を浸食して奪った。

 ですがその一瞬の間にエーテル体で構成された貴女の何割かが、異聞帯を治めている王に

 吸収されていたのでしょう。私もこの事実に気付くまで時間がかかりましたが』

 

「この異聞帯の王は神々の宿り木。即ち、如何なる神性をも吸い寄せてしまう者…」

 

『私の霊基を一瞬で塗り替えるほどの力を持った貴女が、本来の力を取り戻してしまえば。

 マスターたるこの人どころか、この異聞帯ですらどうなるか分かったものではありません。

 ですので、微々たる程度に貴女の神性が吸われ、弱まる度に意識を取り戻した私は』

 

「妾の無意識に干渉。この場所へ赴くことに忌避感を抱かせた、か。やってくれたな」

 

 

これこそが、フォーリナーが頑なに皇居へ近付くことを拒んだ理由であった。

 

自身の神性を剥奪されることを嫌ったから、というのは、彼女の内から生じた偽りの忌避感。

フォーリナーの霊基深くへ意識を沈められていたアサシンが試みた、ささやかな抵抗だった。

 

自分を抑え込むほどの存在が完全に力を取り戻すことを恐れ、内面に封じられている状態を

逆手にとっての一計である。そしてそれは、これまでの様子を見るに、成功していた。

しかし、状況が変わった。どちらの彼女にとっても、手段を選んでいる余裕は無くなった。

 

 

『ですがまさか、異聞帯の王が直接こちらへコンタクトを取ってくるとは想定外でした。

 貴女からの接触を押し止めても、こうなってしまえばどうしようもありませんもの』

 

「妾にとっては好都合だな。それに今は主人のこともある」

 

『それなのですが、少々よろしくて?』

 

「貴様と話す間も惜しいのだぞ。まずは我が主人の傷を癒すことが何よりも」

 

『先決、でしょう? それは承知の上ですわ。それでも今、私は貴女と取引したいのです』

 

 

フォーリナーはアサシンの話を聞く義理などない。刻一刻とマスターの死が迫っている危険な

状況であるというのに、悠長に自分の内面と語らうことなど愚の骨頂だと判断する。

そう判断しているのだが、アサシンが口にした「取引」というワードに意識が集中した。

 

 

「取引だと? 貴様と妾が?」

 

『ええ、そうです。まあ正確に言うのなら、お願いと言い換えるべきかもしれません』

 

「利害は既に一致していると、貴様先程そう言っていたな? そのうえで取引をすると?」

 

『それは主人を助けるという一点のみ。私が取引したいのは、助けた後の事なのです』

 

「主人を助けた後?」

 

 

取引などと言う大層な言葉を用いた割には、先々の事を補填するかのような物言いをする

アサシンに、フォーリナーは純粋に疑問を抱く。共に同じ霊基、霊核を有している共同体

であっても、意思まではリンクしていない。出し抜かれたことがそれを証明している。

 

 

「そうしたいのならば、手遅れになることだけは避けねばならぬだろう。

 取引とやらは後回しだ。まず、主人の傷の治療を最優先する。よいな?」

 

『………已むを得ません。ええ、そうしましょう。お話は主人を助けてから改めて』

 

 

両者の最優先目的である、マスターの治療。それを実行せねばならないのだと諭され、

アサシンは渋々といった様子で了承する。取引は後でもできると自分を納得させて。

 

フォーリナーはそこで一度話を打ち切り、血を失って青白くなったゼベルを抱き上げた。

再度アサシンを霊基の奥底へ封じ込めることも考えたが、ここで抵抗されても面倒だと

割り切ることにした。自分で言ったように、何よりもマスターを優先せねばならない。

 

 

「貴方を死なせはしません。必ず、必ず妾が護ります…!」

 

 

ステータス上は「筋力 / E」程度であっても、常人を超越した存在であるサーヴァント。

成人男性であるゼベルを抱き上げ、未だ続く自身を引き寄せるような感覚を頼りに動く。

 

異国情緒あふれる木造の御殿がそびえ立つ。しかし彼女がソレに対し何らかの感慨を抱く

というようなことは有り得ない。それはアサシンでもフォーリナーでも変わらない。

己の豪華絢爛を表すドレスが血化粧を纏うことすら意に介さず、見知らぬ空間を歩む。

 

引き寄せるような感覚に従い進んでいき、やがてフォーリナーは巨大な屋敷へ辿り着く。

彼女はこれまでに得ていた情報を正確に縫い合わせ、ここに異聞帯の王がいることを推測

していた。王、いや、女王の力があれば間違いなく、ゼベルの怪我を完治できるだろう事も。

 

 

「何者だ! 此処より先は、神呼様が居わす神殿であるぞ!」

 

「……アレが主人の言っていた、巫女衆とかいう連中か」

 

 

だが彼女がゼベルを抱えて異聞帯の王の住居へ足を踏み入れようとした途端、古風な服装を

した女性が数名現れた。こちらの行く手を遮るように立ち塞がる彼女らを煩わし気に見やる。

 

 

「一歩たりとも近付くことは許されない! 此処は」

 

「囀るな低次元生命が。失せよ」

 

 

巫女衆の鬼気迫る怒号に耳を貸さず、フォーリナーは自らの仔である混沌の眷属を召喚。

不気味で冒涜的な黒い肉塊が数体現れ、立ち塞がった者らを悲鳴を上げることすら許さずに

触手で縛り、引き千切り、容易く殺し尽くした。仔山羊のようではあるが、聞くに堪えない

不快な鳴き声をあげる怪生物を付き従えて、彼女は異聞帯の王の待つ御殿へ歩を勧める。

 

そして、ついに対面する時が来た。

 

 

『―――――よくぞ吽を連れ参った。褒めて遣わす』

 

「御託は要らぬ。我が望みを叶えよ、神々の宿り木(うつわ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――女が、いた。

 

―――女は、夫を愛した。

 

―――女は、子を愛した。

 

―――女は、国を愛した。

 

―――女は、民を愛した。

 

―――そのはずだった。

 

―――女は独り、監獄の檻を見つめる。

 

「こんなはずじゃなかったのに」

 

―――夫は、女の心を愛せなかった。

 

―――子は、女の欲を愛せなかった。

 

―――国は、女の夢を愛せなかった。

 

―――民は、女の罪を愛せなかった。

 

―――女は独り、栄える国を見つめる。

 

「こうなるはずだったのに」

 

―――私はただ、愛されたかっただけなのに。

 

―――私はただ、愛していただけなのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………ん、ぁ?」

 

 

ここまで最悪な目覚めはいつぶりだろうか。気分が悪いどころの騒ぎじゃない。

 

此処は、何処だ。何がどうなってるのか、分からない。思考がままならない。

視界がぼやける。手足の感覚がないみたいだ。とにかく疲労感が凄まじい。

 

俺は、俺はいったい?

 

 

「目が覚めましたのね、主人(マスター)

 

「…………ふぉ、り、なぁ…?」

 

 

薄ぼやけた視界に色彩が飛び込んでくる。最初に映ったのは、我が相棒の顔だった。

 

もはや見慣れた金髪に黒目。女性というカテゴリにおいて間違いなく最上位に有る美貌。

それらを惜しげもなく見せる美女。俺が召喚したフォーリナーだ。そのはずだが、どこか妙だ。

 

なんだかまるで、よく似た別人を見ているような、そんな感じがする。

 

 

「お……ま、え……?」

 

「傷が完治したところで、十数分前まで重篤だったのです。暫し安静になさいませ」

 

 

気のせい、か? 今の俺は正常な判断が出来んほど不調なようだ。実際クソほどしんどいし。

どうしてこんな状態になっちまったのか。こうなるまでの経緯を思い返し、答えに辿り着く。

 

そうだ! あの野郎、セイバー! 俺を裏切って背後から剣をブッ刺してきやがった!

いや待て。それは無理だろ。だってアイツは山岡田……じゃねぇ、【山岡鉄舟】なんだぞ。

 

サーヴァント・セイバー 山岡鉄舟。いわく、剣を用いた精神修行で覚者へ至りし侍。

カタナを人を殺す武器ではなく、己の精神を高め清める為の道具として使った、不殺の剣客。

生涯ただ一度もカタナで人を殺さなかった逸話を持つ、剣の技術や技のみでセイバークラスを

獲得した化け物なんだぞ。英霊が逸話や伝説に引っ張られる存在である以上、アイツが人間を、

俺を殺すどころか傷つけられるはずがないのに。

 

ダメだ、思考がうまく回らん。いつも以上にだ。クソ、酷く気分が悪い。

 

 

「せい、ばぁ、が……お、れ」

 

「はい。あの東洋の侍が裏切りました。なにやら以前に討伐したアサシンと密かな企てを

 していたようです。おそらく、霊基の幾分かを削り、何らかのスキルを譲渡したのかと」

 

「あさし、ん……にほん、の、あいつか」

 

「ええ。セイバーやランサーと同時期に異聞帯へ召喚されておきながら、目立つ動きを避け、

 セイバーにスキルを譲渡。そのまま身を潜め、同じようにカウンター召喚された他の英霊を

 (けしか)けることで、自身の存在とセイバーとの関係を可能な限り秘匿しようとした曲者」

 

 

してやられましたわね。普段よりも軽いような口調で、フォーリナーはそう言った。

 

あのアサシン、妙に弱いと思ってたんだ。クラスの特性上、正面切っての戦闘が不得手だからと

納得していたが、それにしても強くないのが気がかりだった。だがこれで得心がいった。

なるほど。遭遇した時点でセイバーに自分の霊基を与えていたから、弱っていたわけか。

 

そして、立て続けに存在が明るみになった汎人類史の英霊たち。観測したのはキャスターだが、

それにしたって連鎖的にもほどがある。ほとんど同時に四か所ではぐれサーヴァントが動きを

見せ始めるなんて、冷静に考えれば裏で繋がっているとしか思えんだろ。なぜ気付かなかった。

 

 

「みぬけ、なかった……なさ、け、ねぇ」

 

「主人の落ち度ではありません。そのためにセイバーが此方へ加わったのでしょう」

 

「……どういう、いみ、だ?」

 

「此方の動きを制限し、あるいは御し易くする為の、()()()()()()()()()()として機能した。

 ということではありませんか? 我々の一連の動き。改めて思い返せば、それら全てが悉く

 汎人類史側にとって都合の良い状況を作り出しているんですもの」

 

 

フォーリナーらしくないフォローの言葉が身に染みる。しかし、俺たち、というか俺を暗殺

するためだけにこっち側に与したってことじゃないと言いたいのか。

 

どう頑張っても身動きのできない現状。大人しく肢体を投げ出したままで話を聞いておく。

 

 

「あの男が此方に接触を測ってきたのは、ノートンとかいうアメリカのバーサーカーめが

 大仰に動きを見せてからですわ。そして、主人はこれを討つための策を何度もあの男に

 尋ね、委ねておりました。その結果はどうでしょう。バーサーカーは未だ健在」

 

「じゃあ、あいつ、わざと…?」

 

「討たせないよう策を弄したのでしょう。作戦の如何をセイバーに委ね続け、ライダーや

 ランサーに意見を求めなかったのもありますが、それ以上に言葉巧みに主人の意向や方針を

 バーサーカーから逸らしてみせた奴めが上手でしたわ。気付けぬ私も愚かでしたが……」

 

「……………」

 

「どうあれ奴の思惑通り、汎人類史に与する英霊二騎は消耗なく生き残っており、セイバーも

 此方の情報を多く手に入れた状態であちらへ鞍替え。対する此方は白兵戦における強みで

 あったセイバーを喪失。我らの拠点も晒し、挙句に要のマスターたる貴方が生死を彷徨った」

 

 

聞けば聞くほど自分のアホらしさに腸が煮えくり返りそうになる。愚かにも限度があるだろ。

なんでセイバーにだけ作戦の指揮を任せた? 将軍だったライダーにも戦闘の指揮を執る頭は

あっただだろうに。アイツの負担を少しでも減らしてやりたかったから、ってのもあるが。

 

それにしたってお粗末極まりない。全部セイバーのいいようにして掌で転がされてたわけか。

不甲斐ないってんなら俺の方だ。マスターである俺がしっかりしなきゃいけなかったのに。

そうだよ。前提が間違ってたんだ。アイツらは全員、汎人類史の断末魔が喚んだ英霊だ。

 

フォーリナーのように、俺が直接喚んだわけじゃねぇ。なのに、安易に信じてしまった。

キャスターも、ライダーも、ランサーも。俺の思想、俺の考え、俺の計画に賛同してくれた。

だから、本当に嬉しかったんだ。ずっと独りで抱え込んでいた「矛盾」を認められて。

きっと、伝わったんだと思っていた。俺以外の人間にも、この苦しみと悲しみが分かると。

 

 

「……ち、く、しょう……」

 

 

涙が零れ落ちる。溢れ出る。一瞬の熱と、直後の冷やかさ。俺はそれを止められない。

どんどん流れ出す雫を止めるだけの力が出せない。仮にあっても、止めなかったかもな。

 

悔し涙でもあり、悲しみの涙でもあった。

 

裏切られた情けなさではない。騙された惨めさでもない。

あるのはただ、「どうして解ってくれないんだ」という、不理解への絶望。

 

俺の考えは間違っていないはずだ。

俺の思想は正しいはずだ。

俺の願いは、正しいものであるはずなんだ。

 

そこで俺はようやく気付く。

 

アイツは、セイバーは一度だって、俺に共感も理解も示したことがないことに。

 

 

「主人……」

 

 

俺を心配して見つめてくる彼女の美貌が、歪んで映ってしまう。

 

あぁ、ダメだ。吐き気がする。脳に針を差し込まれるような頭痛も響く。

どうしてなんだ。どうして理解してくれない? 共感してくれない?

 

それがないと、俺は、俺は………。

 

 

「ふぉーり、なー」

 

「はい」

 

「おまえは、おまえは……」

 

 

俺の頭を膝に乗せ、晒した無様を受け止めてくれている彼女に、二の句を告げられない。

いや、何と言っていいのかが分からない。俺は、彼女に何を言えばいいのだろうか。

 

裏切らないよな? それは彼女の信頼への裏切りだ。

 

分かってるよな? それは彼女への不理解の証明だ。

 

どうしたらいい。俺は、()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「―――主人(マスター)

 

 

彼女が、フォーリナーが俺を呼ぶ。

その瞳は俺だけを見つめ、その声を俺だけに届けるように、彼女は言った。

 

 

「どうか、どうか私に―――令呪をお使いくださいな」

 

 

やんわりと微笑むようにして告げられた言葉に、俺の思考は真っ白に染められた。

 

いきなりなんだ? 何を言い出すんだ、フォーリナーのやつ。どういうことだ?

令呪を自分に使えって、それをサーヴァントが言うのか。そんなの自殺行為だろ。

 

令呪。それは、サーヴァントと契約したマスターの体の一部に宿る、三画限りの絶対命令権。

 

自らが契約したサーヴァントを補助する魔力塊でもあり、逆に拘束する枷にも成り得る。

場合によっては自害を命じることで、反逆を防ぐことも可能な、英霊を縛る上下関係の証左。

まぁ一部の英霊には効果が無いって記録もカルデアにあったが、それは今はおいておこう。

 

 

「な、んで…?」

 

 

目下の疑問はコレに尽きる。なぜ彼女は、唐突にも令呪の使用を求めてきたのか。

令呪には一画毎に強大な魔力が籠められており、戦闘時のバックアップや緊急時の離脱などを

可能にするほどの万能性も有している。しかし今はそれらを使用する時ではないはずだ。

 

涙が止まり、目の端に留まった小さな雫を手で拭き取りつつ、フォーリナーは答えた。

 

 

「契約による回路(パス)の接続が強まった影響でしょうか。貴方の過去を拝見しましたわ」

 

「っ‼」

 

「と言っても、ほんの一部分だけですが。それでも、()()()()()()()()()()()()()

 

 

フォーリナーの溢した一言が、彼女の覚悟を俺に示させた。

 

彼女は言った。ほんの一部だと。それでも、俺にとって、己を知られることは重要だ。

きっと魔術的な『起源』に触れているんだろうか。あるいは、俺の精神の引き金か何かか。

とにかく、俺にとって理解を示す、共感を抱くという行いは、何よりも意味を持つものだ。

 

そして、彼女はそれを解ったうえで先の言葉を発したのだろう。

 

ならば、俺もそれに応えなきゃいけない。

 

 

「…………分かった」

 

 

俺の右手に宿る令呪。その一画を消費して、俺を見つめる彼女に絶対遵守の(ねが)いを課す。

 

縦に裂かれた瞳のように見える形状の一画が、光を発した後に薄れていく。

 

フォーリナーに対する強大な魔力の蠢きを感じ、俺は掠れた声のまま力を込めて命じた。

 

 

「令呪を以て命じる。俺を受け入れてくれ―――――メアリー」

 

 

静かに。右手から失われていく魔力が流れ、目の前に居る彼女の霊基へ刻み込まれる。

マスターである俺が強制した命令を受け、彼女は聖母のような笑みを浮かべた。

 

 

「我が主人の意を承ります。我が真名【メアリー・スチュワート(シュブ・二グラス)】にかけて」

 

 

かつて恐れられた名の通り、その衣装を血塗れ(ブラッディ)に染め、忌み嫌われし女王は微笑んだ。

 

 

 

 

 









いかがだったでしょうか?

ようやく、ようやく真名解放です!
長かったなぁ。いやホントに長かった。
実は感想欄で予想されていた方がいて、
「これ全員バレるんやなかろうか」と
戦慄しておりました。戦慄経験!(グリリバ)

さて。前回実施したアンケートですが、
投票を終了させていただきました。
沢山のご意見の表示、ありがとうございます。

この結果をもちまして、この物語の結末を
決定させていただくことになりました。
果たして、どのような終わりが待ち受けるのか。
もうしばらくお付き合いください!


ご意見ご感想、並びに批評や質問などお気軽にどうぞ!
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