Lostbelt No.8 「極東融合衆国 日本」 作:萃夢想天
狂喜乱舞している萃夢想天です!
渚の水着ノッブは宝具火力が加速し、
沖田オルタは回数性の火力増強。
そして魔王ノッブは弓ノッブと同じくスキルで二重特攻持ちに!
……まぁ、無敵スキルに追加しなくてもとは思いましたが。
それでは、どうぞ!
日本異聞帯の海に神霊級サーヴァント出現の一報を受け、クリプター……元クリプターである
ゼベル・アレイスターと対談していた私たちカルデアは虚数潜航艦艇ノーチラスに帰艦した。
まぁ、その間に色々なんて省略できないくらいの出来事があったりはしたんだけど。
「な、なぁ、経営顧問? ホントにそのセイバーは敵ではないのかね?」
「ええ。なにせ我々の目の前でゼベル・アレイスターを刺突してみせたのですから。
敵対関係であるならば、わざわざ自分のマスターを害するようなことはしないかと」
「……それについても説明をしたい。其方がそちらの党首であるなら、面通り願いたい」
案内されて訪れた国会議事堂から逃げるように飛び出した私たちは、来た時と同じ様に
『神の通り道』を利用してかなりの距離をワープして、浜辺へ戻ってきた。
その時、ゼベルさんの胸を刀で貫いたセイバー【山岡鉄舟】も一緒に着いてきてくれた。
慌てていたからゴルドルフ所長にちゃんと説明できてなくて、だから余計に怯えているのが
なんとなく分かる。実を言うと私も、ゼベルさん、元マスターをあっさりと切り捨てた
セイバーを信用すべきか迷っていた。けど、今は一人でも多く戦力が欲しい状況だ。
「所長! 私は、信じたい!」
「はい! マシュ・キリエライト、先輩の意見に賛成します!」
「……だ、そうですが。いかがしますか、ゴルドルフ所長?」
「くっ、ええい分かり切ったような目で見よってからに! 乗船を許可するとも!」
外部スピーカーから渋々といった所長の声が響く。それと同時にハッチが音と共に開いた。
もう見慣れてしまった武骨な拠点に足を踏み入れ、そのまま皆のいるデッキへと向かう。
「ごご、ご苦労だったな諸君! ま、まぁこの異聞帯では目立った困難や脅威と対峙しては
おらんから、さほど苦労していないやもしれんが。と、とにかくよくやってくれた」
「………この御仁が、其方らカルデアの党首なのか?」
「お眼鏡に適っただろうか」
「……………少なくとも悪人ではなかろうよ」
デッキに入室した私たちをみるなり、顔を真っ青にして震えながらも貴族然とした余裕を
見せつけようとしてくる所長。年上に失礼かもしれないけど、そんな姿に安心してしまう。
ガクガクと揺れる膝を冷ややかな視線で見つめるセイバーは、ホームズからのにこやかな
問いかけにため息を一つ吐き出す。一歩前に踏み出し、所長が小さく悲鳴をあげる。
「そう身構えるな
「なっ、う、うん? そうなのか? だが貴様はゼベル・アレイスターを殺害したと…」
「殺すつもりではあったのだがな、うむ。如何な悪鬼外道の策謀と言えど、不慣れな事は
成し難かったというわけだ。まだ命を取り留めたのであれば、じきに姿を見せるだろう」
「い、生きとるというのか⁉ カタナで胸を貫いたのだろう⁉ 普通死ぬのでは⁉」
「………事の初めから話した方が良さそうだな」
敵側の、それもマスターを裏切ったサーヴァントという明確な危険を前にしているせいか、
顔面を蒼白にしてしまう所長。セイバーこと鉄舟が呆れ顔になるのも無理ないと思う。
所長が落ち着くのを待ってから、デッキに集まったメンバーで緊急会議を開いた。
議題の中心となるのはもちろん、私たちについてきた元クリプター側のセイバー、鉄舟だ。
「あまり猶予は無いと思われる故、手短に語り申す」
「よろしく頼むよ」
ホームズの対面位置で直立不動のまま口を開く鉄舟。彼の背後には薛仁貴が控えている。
最初こそ「拘束すべきだ」とがなっていた所長のせいで話が進まなくなっていたけれど、
仮契約してくれた薛仁貴が後ろに立ち、睨みを利かせることでようやく納得してくれた。
鋭い視線を背中にぶつけられているにも関わらず、一切動じない鉄舟は語りだした。
「今一度改めて。我が名は山岡鉄舟。剣の英霊として、汎人類史により喚ばれた者。
そして同じくこの地に喚ばれた
「宇喜多直家……戦国三大悪人に数えられる、稀代の謀略家だね」
「然り。私はあの悪党めの誘いに加担し、奴の
これにより今の私は、『主君を裏切り、害する逆賊』とする悪性に汚染されているのだ」
「ふむ。『邪智のカリスマ』とは異なる、より直接的影響を与える悪性スキルか……」
鉄舟はホームズの返答に静かに相槌を打ちつつ、話を進めていく。
「この地に召喚されてすぐ、私は宇喜多と手を組んだ。私は奴の霊基の一部をスキルと
共に同化させ、悪性に蝕まれた状態でクリプターを名乗るあの小僧の配下となった」
「そのアサシン、宇喜多直家はいま何処に?」
「とうに果てておる。奴の役目は私を獅子身中の虫として小僧の懐へ放り出す事。
もう一つは己以外に召喚され得る英霊と結託し、其方ら汎人類史を取り戻す者を待つ事」
「他にも召喚された英霊が?」
「いた。四人ほど。だがあの悪党め、召喚された者らがこの歪な日本を統べる王に拮抗する
鬼札でないと断じたのだろうな。本命を生かす為だけの囮として使い捨ててくれよったわ」
「本命?」
どうやら鉄舟によれば、この日本異聞帯にはそれなりの数の英霊が召喚されたようだ。
でも、彼と手を組んだ宇喜多というアサシンが暗躍し、四人もの英霊は私たちと出会うこと
すらないまま、消えていった。ゼベルさんのサーヴァントが各個撃破していったらしい。
ホームズが眉を少し上げる。鉄舟はその疑問に対する答えを述べた。
「今も私を油断なく見据えておる、そこな女弓兵よ」
「なっ、わ、
「無かろうよ。されど、其方のみが唯一まともな戦力であったのだ。
アメリカのバーサーカー、ノートンとやらだけでは
驚くべきことに、鉄舟と宇喜多が生かした本命とは、薛仁貴のことだった。
当の本人も出会ったことがないはずのアサシンに助けられていたことに、驚いている。
けど気になる言葉を続けていた。唯一まともな戦力? 負けないけど勝てないって?
「アメリカ帝国唯一皇帝たる朕を弄するか! 無礼千万であるぞ!」
「………意思疎通も困難ではな。いくら非常識なほど頑強であれ、勝てはすまい」
「非常識な頑強さ。それは彼のスキルによるものだろう。そうだね、マスター・立香?」
「うん。多分」
ホームズに名を呼ばれた私は、少し自信は無いけど頷いてみせる。
仮契約を結んだおかげで、マスターである私にはノートン皇帝のステータスが閲覧できる。
彼の有しているスキルの中に、彼の頑強性を引き上げていると思われるものがあった。
それが――――スキル・『第二位階聖者 : C』
「聖者、ですか? ノートン皇帝陛下が聖人認定された記録はありませんが……?」
『第二位階聖者っていうのは確か、「ディスコーディアニズム」における最高位聖人だっけ』
「ダヴィンチちゃん、知ってるの?」
『はぁ~い! 万能無敵のダヴィンチちゃん、艦内放送から失礼するよ~!』
デッキのスピーカーから、聞き慣れた少女然とした声が響き渡る。ダヴィンチちゃんの声だ。
溌剌とした声色を引き継ぐようにして、目の前にいるホームズも簡単な解説を挟んでくれた。
ディスコーディアニズム。それは一種の宗教活動。いや、
ギリシャ神話の女神エリスから啓示を受けた、などと称した一人の男が作り上げた疑似宗教。
勿論正式に宗教と認定されたわけでもなく、他宗教のように荘厳な
いわば、単なる
ただのお遊びめいたその宗教は、だが確かに作られ、誰かの心の支えになっていたのだろう。
「世に悪の根は尽きまじ。ならば笑い飛ばせ」と豪語するディスコルディア内の最高位聖人。
架空の宗教に集った、空想の信仰。それらが辿り着いた先は、宗教内での最高位聖人とする
〝設定〟に組み込まれたジョシュア・ノートン1世であった。
彼は没後もその畏敬と博愛、そして幻想のユーモアを以て、人々の心を支え続けた。
『―――と、こういう理屈だろうね。彼がそんなスキルを有しているのは』
「なるほど。『中庸及び中立属性からのダメージを大幅に軽減』するスキルの恩恵で、
ノートン皇帝は我々と合流するまでの数か月間、耐え凌ぐことができていたというわけか」
「スキルとやらの理屈までは知らなんだが、小僧の傀儡となった英霊の誰もがこの男に
有効打を与えられないことは理解したのでな。女弓兵を落とさぬ為にも、攻撃が然程効かぬ
バーサーカーに連中の意識を釘付けにしてやったのだ。おかげで両名とも永らえた」
「……知らず救われておったのか。そうとは知らず無礼を働いた、赦せ」
ノートン皇帝のスキルの詳細をダヴィンチちゃんとホームズが明かし、それを利用していた
鉄舟によって生き延びていたことを知った薛仁貴が、鉄舟に頭を下げる。
構わぬ、と短く返した鉄舟はそのまま話を続けた。
「ともかく。宇喜多めが召喚された四騎を攪乱に使い潰したと悟った私は、どうあっても
女弓兵、其方を落とされるわけにはいかなんだ。一度だけ視た其方の宝具。私の見立てでは
「……そこまで見破られるとは、気分のいいものではないな」
「赦されよ。だが、不意を突いたうえで放った弓兵の宝具が、
あの小僧の英霊一騎すら討ち取れぬほど脆弱とは思えぬ。それ故、何らかの制約か何かが
あったのではなかろうか、と。それを探るべく私はキャスターを除く小僧側全ての英霊を
バーサーカー討伐に向かわせた。其方と討ち合い、そこから糸口を見抜かんが為に」
「幾度も繰り返した小競り合いには、そのような意図が隠してあったのか」
「あの小僧の甘さもあったさ。異形の怪異どもを侍らせた英霊を二騎も進軍させておいて、
そのくせ「敵対する者だけを狙え。そうでない者は攻撃するな」などと抜かしよる。
まったく。『人理抹消』などという大言壮語を吐く割に、なんとも胆の小さき童よ」
鉄舟は口早に、自分が彼らの参謀の立ち位置を利用した策を講じていたのだと告げる。
私たちがこの異聞帯へやってくるよりも前の出来事はよく分からないけど、召喚された
サーヴァントの皆は、ここにいる鉄舟を含めて汎人類史の為に戦ってくれたのだと実感する。
ただ、鉄舟の呟きを聞き、それまで口をつぐんでいた所長が金切声を挙げた。
「そ、それだよ! なんなのだ、その『人理抹消』とかいう不穏なワードは!」
「言葉の響きから察し得る限りでは、かの人王の『人理焼却』とは異なるようですが」
「どっちだって恐ろしいモンに変わりあるまい!」
「ゼベルさんが、そのような事を目的として異聞帯を運営していたのですか…⁉」
ゼベルさんの拠点だった国会議事堂から立ち去る直前にも聞いた、『人理抹消』という単語。
それが彼の真の目的であると鉄舟は言った。でも、あんなに優しい人が本当にそんな事を?
正直、信じられない。横にいるマシュも、愕然とした表情で瞳を震わせていた。
「無論だ。なにせ私は奴自身から直接聞いたのだ。この異聞帯を利用した計画の全貌を」
「そ、そんな……」
マシュが俯く。無理もない。私以上に付き合いが長く、相当信頼していた相手なんだもの。
家族のいない彼女にとって、兄のような存在であったと。恥ずかしそうに口にしていた。
それほどまでに大切に想っていた彼がまさか、人理を否定するような計画を企てていたとは。
「……ダヴィンチ。君の『
『ん? んー、そう言えるのかな。嫌っていた、というより……失望していたが近い感じ?』
ショックを隠せないマシュを慮ってか、ホームズがダヴィンチちゃんに尋ねる。
今のカルデアメンバーの中で、マシュとスタッフさんに次いで彼を知っているはずの彼女は、
何故か言葉を言いかえるようにして問いに返した。ゼベルさんは失望していた? 何に?
同じ疑問を抱いた所長は、歳が近いことを思い出し、言葉を選んで尋ね返す。
「失望だと? 人類の何に失望したというのだ、あの小ぞ……奴は?」
『何にというか、人類そのものに、だろうね。彼は常日頃から人類を疎む発言をしていたし』
「なんだそれは? 奴は人類史を不安定化させる特異点修復の為に集められたはずだろう。
間違いなく人類に益する行いをするべく招集されておいて人類を疎む? 矛盾だソレは!」
所長が呆れたように批判する。でもその言葉は間違いじゃない。正論だと私も思う。
『なんでも彼の先々代が、アニムスフィア一族に借りがあったみたいだよ。その返済として
六代目当主の座を預かっていた彼が、カルデアに招集をかけられたと聞いたことがある』
「自分の意志で来たのではなかったのか……」
『みたいだね。けど、カルデアに来てすぐスタッフともマスター候補生とも打ち解けて、
少なくとも人理に悪影響を及ぼす危険思想を持っていたとは思えない。表面上は、だけど』
ダヴィンチちゃんの高い声がスピーカー越しに聞こえる。そんな事情があったんだ。
でも今言っていた通り、人物像は私が出会った彼と一致してる。なのに、どうして?
「………ふむ。もしや、カルデアに来る前に何らかの思想の変化が起きたのやも」
「経営顧問はこう言っているが、どうだね技術顧問?」
『カルデアに来る前の事は流石になぁ……ちょっとデータベースを漁ってみるよ』
そう言い残して、ダヴィンチちゃんの声が消える。
彼女に情報の収集は任せ、私たちは話し合いを続けようとしていた。
すると、デッキ内で計器を見ているムニエルさんたちスタッフが口々に話し始める。
「しっかし、ゼベルがそんな恐ろしいこと考えてたとはな…」
「僕は今でも信じられないよ。人に失望してたって話もさ」
「そうね。私たちスタッフひとりひとりと真摯に向き合ってた彼がって思うと」
「やりきれませんよね……実際、閉鎖空間だったカルデアで起こった諍いの仲裁とかを
していたのも彼ですし。魔術師と一般スタッフとの軋轢、彼が溝を埋めてたんですよ」
呟かれる言葉の端々に、ゼベルさんに対する信頼が感じられる。
こんなにもスタッフさんに好かれていた彼が、人類に失望していたとは考えにくい。
「本性を露にしたのではないかね? 元からそうした危険思想の持主だったのでは?」
「バカ言えよオッサン! 心底から人間嫌ってるような奴だったら、俺たちが争ってる姿見て
慌てて止めに来たりするもんかよ! 代わりに俺を殴れなんて言い張れるかってんだ!」
「オッサンではないわ! だがまぁ、諸君らがそこまで言うなら……考えを改めよう」
私以上に面識の少ない所長が、何気なく疑うような発言をしてムニエルさんに怒られる。
いつもなら言い返しているはずだけど、流石に不謹慎だと思ったのか、発言を慎んだ。
所長が気圧されて乱れたちょび髭を整えている間に、再びスピーカーから幼い声が響いてきた。
『おまたせ~! ゼベル・アレイスターに関する資料、残ってた物を
「ご苦労、ダヴィンチ。それで、なにか目立った部分はあるかな?」
『んー、特にないかな。名前はゼベル・アレイスター。アレイスター家の六代目当主で、
フィンランドに本家を構える魔術一家出身。生まれも育ちもフィンランドみたいだよ』
「………アレイスター家の六代目? フィンランド?」
「どうかしましたか、ゴルドルフ所長?」
「あ、ああいや。何でもない。続けなさい」
戻ってきたダヴィンチちゃんが、ゼベルさんに関する資料をホログラム上に投影しながら
読み上げている。マシュも時間をおいて落ち着いたのか、顔を上げてデータを閲覧している。
所長が何やら引っかかったような物言いをしていたけど、何かあったのかな?
『特に目覚ましい功績とかを挙げた記録はないね。片田舎でひっそり研鑽を重ねてたのかな。
どういう形態の魔術なのかは不明。ま、秘匿は当たり前だけど、情報が少なすぎるのが
ちょーっと怪しいといえば怪しいくらいだよ。ホームズ、君の方はどうだい?』
「………確かに。君の言った通り、魔術師としては平凡以下。目立つ部分は見られない」
『でしょ? あーでも、身体測定の記録で妙な部分はあったよ』
「身体測定。つまり、体に異常な箇所があったということかい?」
『異常と言えば異常かな。彼、入院歴や手術記録は無いのに、
ダヴィンチちゃんが語った不審点を証明するかのように、ホログラムにデータが表示される。
私には何が書いてあるのかさっぱりだけど、人の体に無数の線が奔っている図は見て取れた。
「縫合痕…? それも全身に?」
『異常だろ? それでいて火事で火傷負ったとか、病気で皮膚移植したなんて記録は一つも
ないんだ。人体そのものに大きな異常があったわけじゃないからスルーされてたけど』
「ふむ……」
『ホームズが長考に入ったみたいだけど話を続けるね。えーと、それ以外には特にないかな。
学校にも通ってて、卒業もしてる。あとは……海外渡航記録が一件。留学目的でイギリスに
渡ったって記録にはあるけど、おかしなことにものの一週間程度で帰国してる。変なの』
ホームズが顎に手を当てるいつものポーズで考え込む間にも、ダヴィンチちゃんの話が続く。
ゼベルさんの経歴に移ったところで、こちらに聞き耳を立てていたムニエルさんが反応した。
「ちょっと待ってくれダヴィンチ、そいつはおかしい」
『え? なに? どこかおかしかった?』
「俺、前にアイツから日本に滞在していた頃の話を聞いたことがあるんだ。間違いない」
『そんなバカな。密入国でもしない限り、出国は現代じゃしっかり記録に残されるんだから』
「本当さ、証拠もある」
まさかの情報が飛び出て驚くダヴィンチちゃん。どういうことかと私も耳を傾ける。
「アイツとはオタク談義する仲でさ。そん時に、日本の超ローカルイベントで限定販売された
関連品を見せてくれた。コアなファンしかいない作品だ、後で調べて本物と確信した」
『このご時世だ。ネットで購入とかも出来たりすると思うけど?』
「その関連グッズってのは、写真立てさ。中に現地で撮ったアイツの写真も入ってた」
『……魔術による工作は、流石に有り得ないか。そんな自慢話に魔術なんて使わないよね』
ムニエルさんの話を聞いて、ダヴィンチちゃんも納得した様子。でも、どういうことだろう。
不思議に思った傍から、ムニエルさんに続くようにその場にいたスタッフが口々に話す。
「僕はニュージーランドに居た頃の話を聞きました!」
「私はブータンの魔術形態の話を少し。幸福の錬成理論がどうとか……」
『……でっち上げた法螺話なのか。それとも、本当に現地で見聞きした体験談なのか』
うーん、とスピーカーから唸り声が聞こえる。私には何が何やらさぱりだ。
ゼベルさんはイギリスにしかいった記録が無い。けど、日本に居たという証拠がある。
どういうことなんだろう。日本に密入国したってこと? そんなこと出来るのかな?
首を捻る私の横で、マシュがおそるおそるといった様子で発言し始めた。
「あ、あの、先のイギリスへの留学という点ですが……ゼベルさんはロンドンの時計塔へ一度
押し掛けたそうです。時計塔の一員に成るために、実力を証明しようとしたと聞きました。
結果として魔術師の敷居の高さを思い知り、諦めて実家に帰ったという顛末も……」
『へー。そっか。そういう事ならこの渡航歴も納得がいくね。なるほどなるほど』
「ですが、世界各国の思い出話を語ってくれました。スタッフの皆さんと同じように」
『そこの真偽はちょっと怪しいけどね~』
「………んん? 時計塔へ押し掛け? アレイスター? むむむむむ?」
マシュの話を聞き入れ、半信半疑といった反応を示すダヴィンチちゃん。
そんな彼女らを差し置いて、所長が先程からどこかおかしな態度で唸っている。
見かねた私は小声で何かあったのかと尋ねてみた。
「どうかしたんですか、所長?」
「むむ……む? いや、少々腑に落ちない点があってだね」
「所長、私の話にどこかおかしなところがあったのでしょうか?」
「あ、いや、うん。マシュ・キリエライトを疑うわけではないのだよ。それは誓って本当だ。
しかしだな、時計塔へ殴り込みをかけてきたという人物とゼベル・アレイスター。
私にはこれが別人であると思えてならん。少なくとも、同一人物ではないとも……」
ゴルドルフ所長が自信無さげにポツリと語る。
確証のない言葉ではあるが、それでも私たちを驚愕させるには充分過ぎた。
『どういうことなのゴルドルフ君! 別人って、だってそんなの』
「どうと言われても、私だって直接目にした訳ではないので、ハッキリと言えんのだよ。
それでも「あれ。聞いてた話と違うな」って思ったから口にしたのであってね⁉」
「……所長。いま、「聞いていた話と違う」と仰いましたが。ゼベル・アレイスターに関する
何らかの話題を聞き及んでいるのですか? あるとすればそれは、いつ何処で?」
「と、時計塔に在籍していた頃の話だ! 噂好きの現代科の連中が捲し立てておったのを
たまたま聞いただけで、実際にあったことかどうかも確認できん。責任は取れんぞ⁉」
「だとしても、足りないピースを埋める空白に、形を見出すことができるやもしれません」
指をつつきながら項垂れる所長に、ホームズが諭すような声色で問いかける。
世界最高の知名度を誇る名探偵の誘導に逆らえず、所長はヤケクソ気味に語りだした。
「時計塔に殴り込みをかけてきた魔術師がいた、という話はそれなりに有名だった。
しかも、在籍している名門魔術師の誰もが寡聞にして知り得ぬ一門だというのも、
噂話に拍車をかけた。それが「アレイスター」の者だと、私はそう聞いた」
「その話を聞き、何故ゼベル・アレイスター本人ではないとお考えに?」
「そりゃお前さん当然だよ。噂話に登場するその人物と、外見的特徴がかけ離れておる。
肌は色黒で髪は欧州の金。瞳は赤く、かなり高度な魔術を操る魔術師だったそうだ」
「…………なんですって?」
「それに比べ、クリプターの奴はどうだね。黒髪に黒目。魔術師としては三流ときている。
これでどうやって同一人物だと思えるのだ。最初は同姓同名の別人か、奴の名前が代々
一族内で襲名される類のものであるのかと思ったほどだよ。これで満足かね?」
多分所長は、根拠が無いまま話すことでこっちが混乱するかもしれないのを嫌ったんだ。
いや、もしかしたら。かのシャーロック・ホームズに語って聞かせるのがやるせないのか。
釈迦に説法をする、という故事成語を思い出して小さく笑う。ごめんね所長。
所長は無理やり言わされて御機嫌ナナメだけど、名探偵は穏やかな笑みを湛えていた。
「所長。ひとつお尋ねしたいことが」
「まだあるのかね⁉」
「ご存知なければ結構。アレイスター家が目指した、魔術的な到達点などは?
一族特有の魔術体系と言い換えてもいい。ムジーク家の
「………うろ覚えだが確か、『人造精霊』だか『人造妖精』を創るみたいなことを
何処かで聞いたような気がするな。下らん与太話だ。要は『神秘の人工化』だろう」
「―――――ご協力感謝致します、所長。おかげでほぼ全て出揃いました」
所長とホームズが魔術について難しい話をしている。私は残念だがついていけない。
せめて話の流れだけは掴んでおこうと耳に意識を集中させていると、鉄舟が口を開いた。
「小僧の過去について私は詳しく知らぬ。されど、奴の起こさんとする
互いに猶予は無かろう。今の内に吐き出してしまいたいのだが、よろしいか」
「済まない、ミスター・山岡。彼の不透明さが気掛かりでね」
「そうだ、それよりも! 奴の目的、『人理抹消』とやらについて聞かせたまえ!」
「そのつもりだ。先も言ったが時間がな―――」
ゼベルさん自身に対する疑問や謎が急浮上したせいで、元々の議題である『人理抹消』という
彼の計画についての話し合いを止めてしまっていた。気になる部分はひとまず置いておこう。
ようやく鉄舟の口から彼の目的の全容が明かされる。そう思った矢先、異変は起こった。
今まさに打ち明けようとした鉄舟の体のあちこちが黒く染まり、異様な臭気が立ち込める。
「なな、な、何事だね⁉」
「先輩、私の後ろに!」
『コレは……! 気を付けて皆! 鉄舟の霊基から、現地で戦闘した黒い怪物の反応が!』
「見えているよダヴィンチ! こちらで対処する! 君はノーチラス外部を見張るんだ!」
慌てふためく私たちを無視して、黒の浸食が進み、鉄舟の全身を染め上げ尽くしていた。
あっという間に変わり果てた姿に成った彼は、掠れた声で途切れ途切れに言葉を紡ぐ。
「やれ、や、れ……魔力の繋がりを断つのみ、かと、思っておったが……おのれ女怪。
まさか繋がりを逆手に、取って、この身を貪り喰らう、とはな……恐れ入ったわ」
「な、何がどうなってるの…」
「汎人類史の、者らよ。これなるは、フォーリナーなる女の、産み出す怪異化生の類。
あの女以外の英霊は皆、この怪物めから魔力を、汲んで、現世に留まって、おる…」
「つまり、ゼベル・アレイスター本人と契約したサーヴァントはフォーリナーのみ。
他の三騎は、フォーリナーの生産した怪物による魔力供給で現界しているのか!」
既に黒く染まった体の一部から、獣の足に見える部位や蠢く触手が生え出している。
見るだけで正気を失いかねない光景に耐えながら、マシュの盾の後ろから状況を把握する。
「然り。加え、て、あの三騎は、それぞれが、大きな役割を、担っておる。
ランサー、だ。まず、ランサーを、斃せ。それで小僧の、計画は、水泡に帰す…」
「あの場に居たランサー。日本の英霊。彼を倒せば、目的が果たせないのだね?」
「……正確、には、ランサーが役目を、果たせなければ……キャスターとライダーの持つ
宝具が意味を、成さなくなる。裏を返すが、ランサーを止められなけ、れば……」
「彼の目的、『人理抹消』が行われてしまうということか!」
ゴボゴボと不快な泡音を立てながら、鉄舟の全身からナニカが膨れ出す。
そんな状態でありながら、鉄舟は私たちの為に大きなヒントを与えてくれた。
ゼベルさんの『人理抹消』計画は、彼に従うあのランサーが重要であるらしい。
ランサーさえ倒してしまえば、キャスターとライダーの宝具を無効化出来るのだとか。
カルデアとして日本異聞帯を攻略する目途が、明確になった。
「くっ…! マスター! このままでは変じる、射つぞ! 構わぬな!」
「ま、待ちなさいよ! こんなところで戦闘なんてしたら!」
「戦闘になる前に手を打つと言っておるのだ戯け! マスター、良いな!」
今にも黒い泥のような鉄舟の体から、溢れ出ようとする怪物を即座に射貫こうとする薛仁貴。
しかし、それを所長が慌てて止めようとするが、彼女は私に意見を求めてきている。
どうしたらいい。被害を出さずにこの場を収める方法はないか。
鉄舟は私たちを助ける為にずっと陰で動いて、得た情報を伝えようと必死だ。
彼をこのまま放置出来ない。でも、助ける方法も分からない。長引かせれば絶対にマズい。
薛仁貴は仮でもマスターである私の命令を待ってくれてる。どうする、どうすれば。
迷いあぐねて指示も出せない私の背後から突然、無数の海魔が飛びかかっていった。
「なっ、え―――?」
「これは…!」
黒々とした触手や足に、澱んだ青紫の触手が絡みつき、膨張を抑え込もうとしている。
それが味方であるジル・ド・レェからの援護であると悟った瞬間、人影が躍りかかった。
「ロォォォォォォォォォマ‼」
鼓膜が弾け飛ぶほどの咆哮と共に、浅黒い肌に黄金の鎧をまとう巨漢が飛びかかる。
海魔に塗れた鉄舟だったソレに向け、祖国への愛を叫びながら暴君は拳を振り抜いた。
直後、激震。
轟音と衝撃に備えきれず、マシュの盾の後ろで尻もちをついてしまった。
慌てて起き上がり、マシュの防御範囲からはみ出ないよう、おそるおそる様子を窺う。
そこにはもう、鉄舟の姿はなく。
「…………………賊徒の如き蛮行、赦せ。偉大なるローマを支えし腕にて果てよ」
粘性の高い黒い液体を腕にこびり付かせて呟く、バーサーカーの堂々たる背があった。
真紅のマントを翻し、目を伏せ黙祷を捧げた彼は、口を弓なりに曲げ高らかに告げる。
「待たせたな、我が契約者。これより、反撃へ転ずるとしようか」
いかがだったでしょうか?
やっぱりローマかっこいいよローマ。
しゃべるカリギュラ帝のイメージって、
私の中ではもろロムルス=クィリヌスなんですよね。
理知的で、博愛があって、そんでローマ。
どうしても彼に引っ張られそうで怖いです。
それでは次回もお楽しみに!
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