Lostbelt No.8 「極東融合衆国 日本」   作:萃夢想天

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どうも皆様、お待たせいたしました。

まさかFGO本家に卑弥呼が実装されるだなんて
夢にも思っていなかった萃夢想天です。

しかもルーラー側で実装ってマジかよ…(絶望)
流石に原作には反論なんてできないからね、
仕事しながら大急ぎで設定を練り直しましたよ。

てっきりキャスター枠かと思ってたのにくそぅ…。

長々と愚痴るのはよしましょう。
二万で卑弥呼も一ちゃんもきてくれたしよかよか!


それでは駆け足気味で本編へ、どうぞ!





第八章 天地に在って、種は樹へ至る

 

 

虚数潜航艦艇・ノーチラス デッキにて

 

 

四時間の休息を終えた私は、軽い身体検査を受けてから新所長たちが集まるデッキへ向かった。

 

 

「藤丸立香です! 任務に戻ります!」

 

「先輩!」

 

「おお、戻ったか藤丸! しっかりと体を休めたかね?」

 

「はい!」

 

 

入室するなりマシュとゴルドルフ新所長が暖かく出迎えてくれる。

マシュもオルテナウスの調整が終わったようで、いつでも出撃できるとのこと。

 

人類最後のマスターである私が戻ったことで、いよいよ作戦が始まる。

 

表情を真剣なものに変えた新所長が、傍らにホームズを控えて号令を開始した。

 

 

「それではこれより、日本異聞帯攻略及び空想樹切除の最終工程に入る!」

 

「加えて、日本異聞帯の空想樹を守護するゼベル・アレイスターとの決着もつける」

 

 

熱のこもった一言に続けて、事実を淡々と告げるようなホームズの補足が入る。

そうだ。私たちはこれから、ゼベルさんと戦うんだ。誰より優しく信じてくれたあの人と。

 

やりきれない気持ちは正直、まだある。でも、それじゃダメだって自覚できたから。

ホームズのおかげで私は自分の弱さに、歪みに気付けたのだから。

 

ゆっくりと、深く息を吸い、決意と共に目を見開きながら返答する。

 

 

「……はい!」

 

「よい返事だ、マスター・立香。ではミス・シオン、作戦概要を」

 

『了解ですホームズ氏! というわけで、彷徨海から通信越しで失礼をば』

 

 

自分の覚悟を前面に押し出すと、ホームズはいつものニヒルな微笑で頷いてくれた。

続けて話に参加してきたのは、いつもの青白いホログラムに投影されたシオン。

アトラス院の知啓と彷徨海を提供してくれるカルデアの新たなブレインである彼女は、

インテリジェンスあふれる眼鏡をくいっと押し上げ、快活な笑みで作戦の内容を話す。

 

 

『立香ちゃんが休んでいる間、私はホームズ氏や現地で収集されたデータをもとに色々と調べ上げておきました。、ま、細かい部分はおいおいということで省略(カット)! 要点だけお伝えします』

 

「お願いします」

 

『お? なんか立香ちゃんやる気バッチリ? なら問題ナイナイだね! 作戦概要を掻い摘んで説明します。まず、目下の目的にして異聞帯攻略の第一工程は、敵側にいるランサー!』

 

「それは分かっておる。なにかしら情報は掴めたかね? 真名にしろ、弱点にしろ」

 

『せっかちだな~ゴルドルフ氏は。そう簡単に英霊の急所が見つかってたまりますか』

 

「どっちの味方だね君ぃ!?」

 

 

シオンの話を遮るように新所長がズバリと気になるところを聞いていく。

正直、私もそうした情報が欲しいなって思ってたから、落胆の色は隠せない。

戦うとなった以上、相手の情報を少しでも多く掴みたい。その足がかりでもあれば、と。

 

気が逸っている証拠だろうか。落ち着くために、もう一度大きく深呼吸する。

隣にいるマシュが小さく「先輩?」と尋ねてきたが、暗いモノを払った顔で見つめ返す。

自分が心配することは無いだろうと思ってくれたのか、それ以上彼女は何も言わなかった。

 

 

『かっかしてるゴルドルフ氏はおいといて。こちらに送っていただいた戦闘データなどを

 集めて解析した結果、それなりに有益な情報を得ることは出来ました』

 

「お、おお! なんだやはりあるじゃないか!」

 

『無いとは言ってませんので。そうですね、最初はやはり、敵の要からいきますか』

 

「要というと……ゼベルさんの契約サーヴァント、フォーリナーのことでしょうか?」

 

『正解! さすがマシュさん話が分かる~! ってことで、こちらをどうぞ』

 

 

そうこうしているうちに、シオンが彷徨海で解析したデータを転送してくれた。

デッキ内にいる全員でホログラムに投影されたそれを見て、それぞれが反応する。

 

 

「これは……」

 

「ど、どういうことだね技術顧問、経営顧問! 分かりやすく説明してくれないかな!」

 

『これはまた、すごいね。何をどうやったのか見当もつかない』

 

『おや、ダ・ヴィンチ女史もお手上げ案件ですか? 実は私もなんですけど』

 

 

カルデア三大頭脳がそろって両手を頭の上にあげるほど、ここに記された情報は難解らしい。

私には何が何だかさっぱりだ。黙って情報を隅から隅まで閲覧しているマシュを見習おう。

 

データが開示されてから少し間を置き、暗にお手上げだと言っていたダヴィンチちゃんが呟く。

 

 

『ゼベル・アレイスターの召喚したフォーリナー。これ、()()()()()()()()()()()?』

 

『御名答。なーんか歪な霊基の構造だなーと思って解析走らせたらビンゴでした』

 

「霊基の結合…いや、融合か。マスター・立香、この現象に心当たりはないだろうか?」

 

 

艦内放送のダヴィンチちゃんもデータを閲覧しているようで、すぐに結論に行き着いた。

シオンもダヴィンチちゃんの答えに頷き、彼女の発言を肯定する。

そしてホームズは神妙な面持ちで視線だけをこちらに向けて尋ねてきた。

 

霊基が混ざり合う現象。類似した、あるいはまったく無関係の霊基が一つになる事象。

 

私は、私とホームズは、その心当たりがハッキリと共通認識として理解できていた。

 

 

「……新宿に現れた幻霊複合サーヴァント、だよね?」

 

「その通りだ。カルデアにも何人か召喚されているが、これが最も近いだろう」

 

「ということは、あのフォーリナーも何らかの幻霊と英霊が融合したものでしょうか?」

 

 

幻霊。それは英霊未満の、しかし世界に刻まれた魂。単一の英霊として召喚するにはあまりに

貧弱過ぎるそれらは、けれど確かに存在していた。英霊ほどの力はないが、能力を持った霊魂。

 

それこそが幻霊。私たちが人理修復後に訪れた、とある特異点で遭遇した存在である。

 

そのどれもが特異な状態にあり、真名看破も能力の推察も一筋縄ではいかない強敵だった。

今では頼もしい仲間としてカルデアに召喚されている者もいるが、彼女もそうなのか。

 

マシュの問いに、ホームズは小さく首を横に振った。

 

 

「いや。フォーリナーは何らかの外的要因が加わることで霊基自体が書き換えられた存在だ。

 現にカルデアに召喚された幾人かのフォーリナーは、そうした性質の者ばかりだろう」

 

「では、今回は違うと?」

 

「ああ。我々の敵である彼女は、幻霊と幻霊が融合した存在に外的要因が加わった結果として

 フォーリナーとなっている。ミス・シオンの解析結果を見る限り、間違いはない」

 

「…幻霊とやらはカルデア接収前に資料で確認していたが、そんなことができるものなのかね」

 

「通常では不可能です。膨大な魔力リソースと特殊な手法を用いなければ不可能に近い」

 

 

新所長が頭を抱えているのを背後に控えるホームズが平淡な口調でさらに追い込んでいく。

そりゃ「普通は無理」なんて言われてるのに実例があるんだから、頭痛の種にもなるか。

けど、実際どうなのかな。ゼベルさんは膨大な魔力のリソースと特殊な方法の双方をどこで

獲得したんだろう。魔力の方は日本異聞帯の霊脈でどうとでもなるかもしれないけど。

 

そう思っていると、スピーカー越しにダヴィンチちゃんが鶴の一声を発した。

 

 

『特殊な手法、ねぇ……彼があの犯罪界のナポレオンと呼ばれた人物と同様の頭脳を有して

 いるはずもない。けど、彼が旧カルデアで何をしていたかは記録で残っているよ』

 

「おお、でかした技術顧問!」

 

『そういった情報のアドバンテージは大きいですねぇ。ではダ・ヴィンチ女史』

 

『はいは~い。彼はAチームのマスター候補として活動するにあたって、エクストラクラスの

 召喚を予定していた。本来なら召喚されることが稀なクラスを意図的に喚び出すなんてのは

 不可能に近い。だが彼はそれを実行すべく、英霊の召喚詠唱に手を加えていたようだよ』

 

「召喚詠唱って、あの〝我は常世総ての…〟ってアレ?」

 

『そう、ソレ。バーサーカークラスを限定的に召喚する追加詠唱の文言の指定力に目を

 つけたみたい。そこから呪言系の魔術やらを取り入れて、形にしていたんだろう』

 

 

ダヴィンチちゃんの話に、魔術に造詣の深い面々は軽く驚いたような顔になった。

私はゼベルさんのしたことの凄さがイマイチ伝わらず、額面通りに言葉を受け取る。

彼は実際にその取り組みに成功し、現に幻霊を掛け合わせた歪な英霊を召喚したのだから。

 

 

「そこはいい! 問題は、その幻霊とやらの正体だ! 何か分かったのかね!?」

 

『いやぁ…英霊ほどの知名度があればまだしも、幻霊となると候補が多過ぎます』

 

「やはりそううまくはいかんか…」

 

『残念ながら』

 

 

シオンの方でも、あくまでフォーリナーを構成するのが幻霊だったということが分かった

だけで、その真名や弱点などは解明できなかったようだ。充分過ぎる情報だと思うけど。

 

 

『とにかく。我々と敵対する存在は、ゼベル・アレイスター率いる四騎のサーヴァント。

 彼と直接契約しているフォーリナーと、フォーリナーが生産する怪物を魔力源として

 間接的に存在維持されている、ランサー、キャスター、ライダーの三騎です』

 

「補足すると、フォーリナーは自らが生産した怪物と魔力のパスを繋いでいる英霊の霊核を

 遠隔で浸食することが可能だ。我々の目前で、セイバー…山岡鉄舟がそうなった」

 

「最悪の場合、倒しても怪物になって再度戦闘になるやもしれんわけか…」

 

『正直、ノーマルタイプの怪物だったらジル元帥の召喚する海魔と性能はどっこいなので、

 そう危険視しなくてもよいかと。無論、油断を推奨するわけではないのであしからず』

 

 

以前、中国異聞帯でゼベルさんと初めて会った時、彼は数百匹の群団規模で怪物たちを

引き連れていた。もしかしたら此処の異聞帯ではさらにそれ以上の数がいるかもしれない。

ゼベルさんのサーヴァント、フォーリナーへの警戒心を一層高めていく私たち。

 

 

「あとは依然として真名及び弱点の判明していない、三騎のサーヴァントたち。

 その中でも特に情報のアドバンテージを得ておきたい相手は、言う必要もないか」

 

『装備や言動から、ランサーが日本の戦国時代周辺の英霊であるとは絞れてるんですけど。

 それでも槍の逸話を持ってる英雄豪傑が多くて……うーん、もう一押し欲しい感じ?』

 

「そうは言うが、結局このランサーを止めることが目下、最優先目標なのだろう?」

 

「ええ。敵を欺いていた山岡鉄舟の言葉を信じれば、ですが」

 

 

シオンがランサーの真名に近付けるようなヒントを挙げるが、彼女の言っていたように

日本の英霊で槍の逸話がある者というだけでは候補を絞りきることは不可能に近い。

槍で戦ったからなのか、槍自体が有名なのか。それだけでも英霊の選択肢は増える。

 

流石に直接戦った回数が少ないせいで情報を集めきれていない。これからの戦いに不安を

抱えることになると意識が後ろ向きになるのを感じていると、シオンの言葉が響いた。

 

 

『そう、それです。私としては、そのセイバー・山岡鉄舟の発言の方が余程気がかりです』

 

「……それは私とて同じだよ」

 

『いいえ。ホームズ氏の自己完結癖にペースを合わせていては、いずれ立香ちゃんや我々と

 大きな認識の齟齬を生み出しかねません。なので、分からないままでも論ずるべきです』

 

「ふむ。君がそう言うのなら、そうしよう。敵サーヴァントの情報開示はここまでで?」

 

『まぁライダーがワープ染みた次元歪曲現象を起こす宝具かスキルを持っている事と、

 フォーリナーないしキャスターのどちらかが皆さんの現在地を特定できる能力がある。

 という程度ですし、そこは一堂に会して話すような内容ではないでしょう』

 

「いま聞き捨てならない言葉がいくつか飛び交っていたような気もするが!?」

 

 

新所長が蒼褪めながら怒鳴っているが、割といつもの事なので誰も気に留めなかった。

ライダーのワープがどうのっていうのは、多分中国異聞帯にゼベルさんが突如として

現れたあの時の事を指しているんだと思う。あの時もライダーがいたし。

 

で、現在地の特定っていうのは、魔術と科学技術を駆使したステルス迷彩を施してある

このノーチラスの存在をゼベルさんが特定してやって来たことから推察したのだろう。

交渉の為に来たと言っていたけど、実際、今も居場所を特定されてたりするのかな。

 

そんなわけで新所長のことを意にも介さず、シオンとホームズは議論を加速させる。

 

 

『山岡鉄舟は確かに、【人理抹消】と口にしたんですね?』

 

「確かだとも。それはゼベル・アレイスターがこの異聞帯で画策しているものとも」

 

『ふぅん……正直、私としてはそこが一番引っかかってるんですが、ホームズ氏は?』

 

「同感だ。ダ・ヴィンチ、君は?」

 

『引っかかる云々はともかく、君たちの言いたいことは分かるよ』

 

「どういうことですか?」

 

『要するに―――()()()()()()()()()()()()()()()()()、ってことだろ?』

 

 

ダヴィンチちゃんの発言に、スタッフの皆や新所長の表情がにわかに変化した。

周囲の様子を置き去りに、万能の天才の後継機はそのまま語り続ける。

 

 

『ゼベル・アレイスターの目論みがどうであれ、【人理抹消】が何なのか。

 今の私たちには見当もつかないことだとは思うけど、可能らしいってことは分かる』

 

「か、可能なのかね!? 奴のやろうとしてる事は本当に!?」

 

『まず、【人理抹消】とは、何を以って抹消なのか。そこんところが不透明ですよね。

 人類を抹殺することでこれ以上の発展を防ぐのか、人類の発展の歴史を消し去るのか』

 

「いや、それだけでは不十分だ。後者にいたっては、既に実行されているからね」

 

「……ゲーティア」

 

 

私の呟きに、ホームズが短く「正解だ」と答える。

 

かつて私たちが戦った相手であり、人類をよりよくすべきと愛を以って立ち塞がった敵。

それこそが【人王ゲーティア】という、『憐憫』という獣性に目覚めた魔術王の残骸達。

 

俯きがちになる顔をなんとか上げて、意識を保つ。理解が及ばなくても話を聞かなきゃ。

過去の凄まじい戦いをフラッシュバックしている私に気を遣うような声色でシオンは話す。

 

 

『立香ちゃんにも分かりやすいよう、可能性の話をしていきましょう』

 

「お願い」

 

『ええ。ではまず、ゲーティアの【人理焼却】について。これは当事者である貴方がたに

 改めてお話しする必要はないかと思いますが、要約すればアレはゲームのデバックです』

 

「で、デバック? なんだね、それは」

 

『ゲームのデータを利用した、許容範囲内の改竄行為…とでも言えばいいですかね?

 設計されていた形とは異なる形を、既存のデータを流用してカスタムする事なんですが』

 

「正確に言えばデバックとはまた違うがね。人王は人類史三千年を燃料として星を再創生し、

 有限である人類の命の概念を造り替えようとした。広義的に捉えれば同じかもしれないな」

 

「分かったような、分からんような……ふ、藤丸! 貴様は分かったのか?」

 

 

新所長が 仲間を求めるように こちらを見つめている!

 

いやふざけている場合じゃない。ただ、シオンの説明に出たゲームのデバックは分かった。

これでも2016年を極々平凡に生きていた一般JKだったんやぞ。携帯ゲーム機もTV接続型も

ある程度はやったことあるんじゃい。高度で専門的な部分は知らないのであしからず。

 

静かに、薄っすら勝ち誇ったような笑みを張り付け、首を小さく縦に振る。

 

 

「なっ…! くっ、ムジーク家の男が、まさか日本の女子高生に敗北を喫するとは…!」

 

『悔しがるとこソコなの?』

 

『まぁゴルドルフ氏はおいといて問題ナイナイ! ってなわけで、次は【人理白紙化】です。

 現在、我々が対応している未曽有の大災害。いえ、人為的な悪意ある犯罪行為そのもの』

 

「ミス・シオンの説明を借りるなら、これはゲームのデータ上書きと言えるかな」

 

『その通りです! 人理白紙化現象は、いわば汎人類史というデータに白紙のデータを

 無理やり上書きしたようなもの。その実行犯こそが〝異星の神〟……という認識です』

 

「なるほど」

 

 

実に分かりやすい説明で助かる。なるほど、聞けば違いが明確に分かる。

【人理焼却】も【人理白紙化】も、ゲームでいうならデバックやデータ上書きに相当する。

それを惑星規模で行ってるというのが悪い冗談みたいだけど。

 

ただ、そうなると…。そう思った私はホログラムのシオンを不安げに見つめる。

 

 

『お、立香ちゃんも気付いたみたい? では、ここで【人理抹消】とは何なのかを改めて

 考察していきましょう。これも恐らくですが、ゲームに置き換えると認識が容易いかと』

 

「……さしずめ、ゲームのデータをデリートする行為に相当するのだろう」

 

『話が早すぎますよホームズ氏! まぁでも、ぶっちゃけそうだと私も思います』

 

「データのデリート、だと?」

 

『はい。造られたデータをデリート、つまり消去してしまうことですよ』

 

「………それは上書きと変わらんのではないか?」

 

『いいや、違う。多分だけど』

 

 

ここで新所長の疑問を、ダヴィンチちゃんが真っ向から否定した。

 

 

「違うとは、どう違うのかね?」

 

『データの上書きとシオンは言った。つまり、地球という惑星に元あった〝人類史〟を、

 新しい真っ新な〝人類史〟で塗り潰すこと。これが【人理白紙化】だと考える』

 

「それが消去とどう違うのだ」

 

『別物だよ。ゼベルの言う抹消っていうのはきっと、〝人類史〟そのものの抹消。

 上書きと抹消は違う。どちらかと言えばゲーティアの理想に近いと表現できるかな』

 

「それは、つまり……」

 

『うん。ゼベルは、()()()()()()()()()()()()()こと自体を、完璧に消去するつもりだ。

 分かるかい? 彼は、人の歴史を消す気なんだ。地球で最も繁栄した種族であるという

 事実を根っこから消し去ることで、地球上の過去現在未来全てから、人類の足跡を……』

 

「抹消、する……それが」

 

『ゼベル・アレイスターの目論む【人理抹消】じゃないかな、と。私はそう予想した』

 

 

ダヴィンチちゃんの放った予想の斜め上をいく推論に、デッキ内の誰もが閉口する。

私はこの中でゼベルさんとの関わりが一番希薄だからともかく、一番仲が良かったはずの

マシュまでもが二の句を告げられないでいた。それほどまでに突拍子もない話だったのだ。

 

 

「ば、馬鹿げとる! そんなことできるはずがないだろう! 人理焼却などという大問題を

 起こした人類悪とやらでも出来なかったことを、たかが三流魔術師風情に叶うはずがない!」

 

『ですが、ゼベル・アレイスターはそれを目標に動いている。そうですよね?』

 

「ああ。彼は間違いなく、目的を達成するために異聞帯で暗躍していた」

 

『補足するとゴルドルフ君、かのゲーティアはあくまで人類の有限を憂いたから人理を焼いた

 のであって、人類に興味を失ったから人類史を滅ぼしたわけじゃない』

 

「な、なにを言い出すかと思えば。どちらも同じではないか」

 

「…いえ。違います。ゲーティアは人理の抹消を()()()()()。出来なかったわけではない。

 本当に人類へ何の未練も抱いていなかったなら、やり直しなど求めはしなかったのだから」

 

「…………」

 

「つまり、その……ゼベルさんは、憐憫でも回帰でもなく、ただ人理を消し去る気だと?」

 

 

マシュの声が震えている。信じられない、信じたくない。そんな気持ちが伝わるようで。

スタッフさんたちも目を背けている。これまで少なくない歳月を共にしてきたはずの仲間が、

人類に対しどこまでも冷徹で無関心な災害を意図的に引き起こそうとしていると知ったのだ。

ひどく暗い空気がデッキに満ちる。目に見えない重圧がゆっくりのしかかってくる。

 

議論がわずかに停滞したその時。狙っていたかのようなタイミングで、扉が開かれた。

 

 

「―――我ら等しく、災害の引き金に是非を問う資格はない」

 

 

荘厳な佇まいを崩さず、堂々と現れたるその姿は、まさしく皇帝と呼ぶに相応しく。

 

ローマの暴君の異名で恐れられた狂戦士、カリギュラが赤いマントを翻し現れる。

 

 

「カリギュラ!」

 

「これは…カリギュラ帝、意識の方は如何ほど?」

 

「狂乱の霞に包まれる気配はない。今なお、雲一つなき夜空に瞬く星々を見渡せるほどに、

 我が眼は冴えている。物事の道理を踏み外す悪を犯すことはあり得ぬと知るがいい」

 

 

普段の呻き声とも咆哮ともとれる音声を絞り出すことなく、人の言語を介するカリギュラ。

四時間の休息を取った後じゃまた戻ってたかと思っていたのに、大丈夫だったみたい。

 

それにしても、資格って何のことだろう。

 

 

「………森羅を暴き、万象を解く者よ。余らは汎人類史より出でたる、破壊者なり。

 汎人類史を生かす為、他の一切合切を滅ぼし尽さねばならぬ業を背負いし狂気の徒。

 何も残すことなく消える側の視座からすれば、奴も余らも大差はない。同じことだ」

 

「何を言いだすかと思えばこのサーヴァントは! 我々は汎人類史を救うべく立ち上がった

 救済者なのだぞ! 破壊だの業だの、我々の正しい歴史を取り戻すことをそのように表現

 されるのは納得いかん! 我々は、我々が生きるべき未来を勝ち取るために在るのだ!」

 

「……否。それは汎人類史の視座である。異聞の世に生まれ落ちた者にとって、その異聞こそ

 唯一無二にして正しき歴史に他ならない。故に、我らも彼らも、差は無いに等しい」

 

『カリギュラ、君の言い分は理解できる。けどそれはこの異聞帯に暮らす人々の話だろう。

 私たちの打倒すべき相手は同じ汎人類史から飛び出た、異聞帯とは無関係の魔術師だ』

 

「………否だ。万能より産まれ、その境界を超える者よ。人への憐憫も、人々の回帰も、

 あるいは見も知らぬ悪意に満ちた災害も。それらはすべて、愛によって始まるもの。

 愛無くして憎悪なし。人類の足跡を抹消せんとするその志こそ、まさしく愛である」

 

『愛、ですか…』

 

 

理性を取り戻している時のカリギュラの話は、私程度には難解かつ複雑に過ぎる。

ただ、なんとなくだけど言わんとしてることは伝わった気がする。多分だけど。

 

私たちはゼベルさんの【人理抹消】という目的を脅威としか捉えていなかった。

でも、彼がそんな計画を立てるまでに至ったのには、理由があるはずだ。

彼について詳しく知らない。だとしても、人に無関心なら絶対こんな事はしない。

 

カリギュラはそう言いたいんだろう。赤黒く染まった瞳が、まっすぐこちらを射抜く。

 

 

「我が契約者よ。相対する魔術師が如何な目論見を企てていようと、構わぬ。

 己が成すべきことを為すがいい。我らは汎人類史から当てもなく彷徨い出でた旅人。

 進む道を己で定めよ。余は、ローマは、お前の浪漫(ローマ)ある道行きを支えよう」

 

「……未来がどうなっても、私を信じて助けてくれるってこと?」

 

「偉大なりし神祖(ロムルス)と、我が愛する妹親子(アグリッピナとネロ)に誓って」

 

 

そう言い切って優し気な微笑みを向けるカリギュラ。

四時間の休息時間にホームズから自分の歪みを指摘されて諭されたせいか、

いやに涙腺が緩んでいるような気がしてならない。彼の言葉に目頭がジワリと熱くなる。

 

なんとか平常心を保とうと努力していると、カリギュラが皆へと向き直って語りだす。

 

 

「〝ローマは一日にして成らず〟とは、後世の格言だ。意味するところは語るに及ばず。

 よいか。愛によって人理を抹消せんとする魔術師の野望、叶うか否かは重要ではない。

 異聞の歴史が紡がれてからこれまで、積み上げられてきたという事実があるのみだ」

 

『……なるほど。つまりカリギュラ帝は、こう仰りたいわけですね?

 〝向こうがやろうとしてるんだから、できるかどうかはさておいてまず動け〟と』

 

「ああ。幸いにして相手側の拠点、戦力等の情報はある程度手に入れている」

 

『う~ん。理屈としては正しいんだけど、これまでの話し合いが全部無駄にされた感が

 あるのは否めないのも事実だな~。もう少し言い方に優しみを含めてほしかった!』

 

「万能ならざる者よ。歩くことは容易だが、歩き出すことが最も難題であると知れ」

 

『それもローマ皇帝の格言ってヤツかな? まぁ確かにのんびりしてられないのも事実だし』

 

 

カリギュラの言葉に、スピーカー越しのダヴィンチちゃんの声が落ち込むのが分かった。

身も蓋もない言い方ではあったけど、ともかくまず行動を起こさなきゃ始まらない。

この作戦会議も決して無駄などではなかった。色々と重要な情報を出し合えたのだし。

 

 

「では、会議はここで終了としましょう。よろしいですか?」

 

「う、うむ。これより、日本異聞帯攻略の最終段階に突入するぞ!

 藤丸! 貴様は当初の指示通り、現在も異聞帯の壁の中で民衆をまとめあげている

 ノートン一世と再度合流し、そのままアレイスターの拠点である議事堂を目指せ!』

 

「了解!」

 

「ホームズ! 貴様は手薄になるノーチラスの護衛だ!」

 

「……ここへきてマスター・立香の戦力を削る判断はリスクを伴いますが、了解です」

 

『こちらは引き続き、彷徨海から日本異聞帯をチェックしていきます』

 

『ノーチラスもいつでも出艦できるようにしておこう! 頑張ってね!』

 

「はい!」

 

 

時刻は真夜中をそろそろ過ぎる頃。あと五時間もすれば日の出という時間帯だ。

休憩時間に仮眠もとったし、軽食もすませた。気力はバッチリ、みなぎっている。

 

極地型魔術礼装に不備がないかを確かめ、手袋を指になじませ、顔を上げる。

 

 

「藤丸立香、行きます!」

 

 

マシュとカリギュラを引き連れ、私はノーチラスのデッキを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜。深い闇に、空の彼方から天然自然の光が降り注ぐ。

 

鬱蒼と生い茂る名もない樹海の中枢。無論、この世界に人間は一人として近寄らぬ場所。

小さくか弱い神々があらゆる地に根差しているこの地に、月光とは異なる燐光が集う。

 

この世のものとは異なる非物質的な光が音もなく集まりだし、それらは固まり、形を成す。

 

やがて一つになった光の塊は、一際強い輝きを放つ。

 

 

「―――ふぅ。どうやら上手くいったらしいなぁ」

 

 

次の瞬間、そこには一人の男の姿があった。

 

袴と足袋、薄緑色の羽織を左半身だけにのせた、いやにやつれた出で立ちの男。

けれど貧弱であるとは微塵も感じさせぬ凄味と、一目でわかる悪辣な笑みを浮かべていた。

 

 

「くくっ。莫迦な野郎だ。まさか仕込みが一度で終わるわきゃねぇだろうに」

 

 

にたり、と。邪悪という言葉をそのまま表したような笑顔で、男は夜空を仰ぐ。

 

 

「俺様がおっ死んじまってる間に、どれほど戦局が変わったかねぇ…」

 

 

まるで死から蘇ったかのように独りごちる男。彼は、瞳を閉じて脳裏の盤上を手繰る。

 

 

「……こうしてまた俺様がお月さんを拝んでるってこたぁ、()()()()()俺様の仕込みが

 働いたわけだ。重畳重畳。人を斬らない侍に暗殺は無駄かとも思うたがな」

 

 

一つ、また一つと。男は頭の中で駒を進め、自分のいない世界の流れを読む。

 

 

「となれば、野郎は焦る。持ち手は恐らく減っちゃいねぇだろうが、一番失いたくない

 手駒が裏切ったんだ。他の連中も傍には置いておけんさ。くく、読める読める」

 

 

まるで未来を見通すような言動で、男は盤上の玉座に手を伸ばす。

 

 

「で、手薄になればなるほど野郎は大きく動く。お侍様が殺しきれるたぁ思ってねぇ。

 生き残ってはいるだろう。そんなら、汎人類史の使者とやらは、どう動くか」

 

 

慎重に、繊細に、けれど迷うことなく手を進めていく男。

やがて盤上にある駒の数が少なくなり、玉座から動けない王の駒へその手をかざす。

 

 

「真正面からぶつかりにいく。だが、それを悠長に待ち構える野郎じゃねぇ。

 逃げるか、嵌めるか。どちらも失敗するだろうなぁ。はてさて、俺様はどうするか」

 

 

そこまで呟いた男は、ゆっくりと瞳を開き、向かうべき道の先へ視線を向けた。

 

 

「合流は無しだ。共闘も無し。生前あれほど蝙蝠ぶったんだ、流石に死んだ後くらい

 好き勝手に動いたっていいだろうぜ。ここにゃ秀家ちゃまもいねぇわけだし」

 

 

からからから。心底からではない、何の感情も表していない笑い方で、男は歩む。

 

 

「なぁに、好きにやんのはお互いさまだ。そうだろう?」

 

 

全ては己が読み開いた絵空事。しかし、まるで事実であるかのような確信があった。

 

男は歩く。腰に携えた刀に手を当て、目的地を目指して真っ直ぐに。

 

 

「くかかっ……さぁ、【奸悪無限】がいざ参る、ってなぁ」

 

 

底冷えするほどの獰猛な気配を殺すように、悪党らしき男は夜の闇を往く。

 

 

 

 

 







いかがだったでしょうか!

大変長らくお待たせいたしました!
時間がね、中々ね、とれないの!

それでも少しずつ進めていこうと思いますので、
どうかこれからも応援よろしくお願い致します!


それでは次回をお楽しみに!


ご意見ご感想、並びに質問や批評などお気軽にどうぞ!


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