Lostbelt No.8 「極東融合衆国 日本」   作:萃夢想天

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どうも皆様、お久しぶりでございます。
そして、明けましておめでとうございます。
また今年も拙作をよろしくお願い致します。

実は私が執筆していたもう一つの作品が
一応完結…みたいな感じになりましたので、
こちらを再び書き始めることが出来ました。


さて、これからしばらくは
こちらを重点的に書き進めようと考えて
おりますので、またお付き合いください。


それでは、どうぞ!






第八章二節 天地に在って、種は樹へ至る #2

 

 

 

 

 

 

――時刻は、真夜中。

 

 

汎人類史における最後のマスター藤丸立香とその仲間、カルデア一行が前線基地である

ノーチラスから出立したのと、ほぼ同時。

 

其処は、夜空の色が染み出したかのように黒く暗い海の、浅瀬。

 

否。黒いのは海だけではない。数える事すら億劫なほどの黒い体色をした奇怪な生物の

群れが浅瀬に集まっていた。ひどく冒涜的な、しかし理知的な思考に従い集った群衆と

化した怪物たちの先頭に立って海に向かっているのは、時代錯誤な鎧姿の大男。

 

 

「………刻限か。殿や同胞(はらから)より伝えが来ぬのは、手が足らぬという意味合いと視た」

 

 

大男の仮初めの名は、ランサー。槍兵の英霊に数えられし、護国の鬼将たる武士。

 

ざざん、ざざん。波と風がランサーの鎧を濡らし、冷やす。だがそれらを意に介さぬほど

熱く熱く滾る思いを心に秘めている彼は手にした槍を力強く握り、閉じていた眼を見開く。

 

 

「今宵此の時を以て、我ら武士(もののふ)が護らんとしたる御国が、新たなものとなる!」

 

 

ランサーは、武者だ。それも、正当なる血筋と一本気な性質を両立させた、真なる者。

戦を前にしての口上を述べることはもはや慣例に等しく。誰も耳にしてはいないと

理解していたとしても、彼は止めない。焼き付いた一種の儀式に近い行い故に。

 

鎧姿の大男は、腰に備え付けていた雑嚢から、携帯可能で丈夫な酒入り徳利を取り出し、

満天の星空と巨大な満月に向けて掲げた後、一息に呷った。

 

空になった徳利を海へ放り捨て、酒精で喉を程よく温めた彼は、大声で歌を吟じる。

 

 

「〝酒は呑め呑め、呑むならば。日の本一のこの槍を、呑み取るほどに呑むならば〟」

 

 

ごう、と。男を中心として魔力の流れが変わる。風が吹き、やがて大渦が生まれる。

 

 

「〝これぞまことの、黒田武士〟」

 

 

ざばぁっ! 立てていた槍を片手で掲げ、器用に回して石突と穂先を入れ替える。

海水の飛沫がいくら顔や体にかかろうとも構わず、ランサーは槍を海に突き刺した。

 

 

「――いざ、いざ! 我は出雲尼子を源流とせし、播磨の御国の槍働き‼」

 

 

ランサーのエーテル体から迸るその魔力は、周囲に軽度の天変地異を齎すほど。

海は荒れ狂い、波は逆巻き、風はごうごうと唸りを上げる。

背後に控える無数の黒き軍勢は、ランサーが成そうとする行いを静かに見守る。

 

突き刺した槍に、尋常ならざる量の魔力が注ぎ込まれていく。

 

 

「――黒田二十四騎は勇猛と讃えられる八虎が一角! 挙げたる首級は七十と六つ!」

 

 

それは紛れもなく、宝具の真名解放の予兆。

 

ただ、宝具といえど対人・対軍宝具程度のランクでこれほどの余剰魔力が放出される

ことはあるまい。ならば彼が海へ刺突した槍と、これから成そうとする行いには、

対城・対国宝具並の魔力が加えられていることに他ならない。

 

武者は嵐吹き荒ぶ海原ですら轟くような声を張り上げ、槍を持つ手に力を込めた。

 

 

「――総じて我が身が背負うは百と八つ! 人面獣心なる者持つ、煩悩を相殺せり!」

 

 

人間が抱く欲望、煩悩の数は百八個あるとされている。彼は、自らが身の回りの

誇りとする数で以ってこれらを相殺し、自身に何の我欲もない事を宣言していた。

 

武と忠、双方を一身に携えたる我が身。これ即ち、天上天下に我在りという証。

 

海を削り取るが如き渦の中心で、ランサーは突き刺した槍を両手で握る。

そのまま力を込めて引き抜くような姿勢を取り、喉を裂かん勢いで咆哮を放つ。

 

 

「――殿より授けられし三千と六百の怪異が魂! 我が成す行い果たす礎とせん!」

 

 

瞬間。鎧武者の背後に群れ成していた三千六百匹の怪物たちが、魔力へ還元される。

生物としての形状を失った魔力は、周囲を取り囲む渦に加わり槍へ吸い込まれた。

 

剛力を誇る戦国の武者が渾身の力でその槍を引き上げる。が、ビクともしない。

されど。怒涛の荒波渦巻く海の上であっても感じ取れる、轟音と地響きが起こる。

 

ランサーは己の行いが成就したと確信し、剛毅な笑みを張り付けた顔で叫んだ。

 

 

「――いざ、()()()()()()()()()‼ 宝具、【天下名槍(てんかめいそう)日本号(ひのもとごう)】ッッ‼」

 

 

宝具の真名開放。真価の開帳を果たしたランサー。

 

彼の足元が、其処に在る大地が。国が、島が。

 

 

()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――少し前。ノーチラスより出立したばかりのカルデア一行。

 

 

 

 

「そう言えば、どうしてカリギュラの狂化が薄れてるか、原因は分かったの?」

 

 

私は異聞帯にて召喚したキャスター、ジル・ド・レェ元帥が召喚した海魔をキャタピラの

ようにして利用した高速移動できる乗り物に揺られながら、皆に尋ねてみた。

 

英霊カリギュラは『狂戦士(バーサーカー)』クラス。理性を引き換えに霊基を強化する狂化スキルを

保有している。その為、本来であれば言語による意思疎通など不可能に近いはず。

だというのにこの異聞帯で召喚した彼は、何故か狂化されず理性を取り戻す時がある。

 

いつまでも原因不明のまま、というのも困る。これから私たちは異聞帯攻略、つまりは

空想樹の切除という大切な任務に取り掛かるのに、肝心な場面で理性を喪失なんて

されたら目も当てられない。いい加減、何か情報が欲しいところではある。

 

そう思って尋ねてみたところ、当の本人が反応してくれた。

 

 

「これ、という確たる証は無い。されど、こうだろうという推察は可能だ」

 

『ふむ? カリギュラ帝。どうかその推察、お聞かせくださいますか?』

 

「良い。だが、念を押すがあくまで推察。余自身にも断言はできぬ」

 

 

通信越しにホームズが推察でもいいから情報を寄越せ、と促してくる。

その返答として首を縦に振ったカリギュラは、海魔車に乗りつつ話し出した。

 

 

「おそらく……この異聞帯、神が身近にあるという状態が関わっている」

 

「神が身近に…?」

 

「余がこの身に狂気を宿したのは、月司る女神ディアーナによるものである。

 即ち、狂気に堕ちた頃の余を召喚したのであれば、それは神の証明に他ならぬ」

 

『……なるほど。貴方がバーサーカーとして召喚されている以上、そうなった理由として

 ディアーナの干渉が紛れもない事実であるという証明が成されているわけですか』

 

 

カリギュラの言いたいことをホームズがもっと分かりやすい言葉にしてくれた。

ふむふむ。つまり、カリギュラがバーサーカークラスで召喚されている時点で、

女神ディアーナとの一件があったという歴史的な証明が出来ているってわけか。

 

 

「しかし、この異聞帯にて召喚された余は、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 余は月女神ディアーナによって理性奪われし者。これは不可思議極まる事態だ」

 

『そうか…!』

 

『何か分かったのかね、経営顧問!?』

 

『はい。カリギュラ帝が正気を取り戻す事態の原因、いえ、根幹と呼ぶべきもの。

 それはつまり――因果の事象飽和によるものである可能性が極めて高い』

 

『ふぅ~ん? 君にしては断言とも推論ともとれる曖昧な発言だね?』

 

 

新所長もダヴィンチちゃんも、ホームズとカリギュラとの話に参加してきた。

 

にしても、その因果のなんちゃらってのは何なのだろう。マシュなら分かるかな?

 

 

「因果の事象飽和現象、ですか? あの、ホームズさん。もう少し具体的に…」

 

『おや、これは失敬。ミス・キリエライト。ではカリギュラ帝に代わり解説しよう』

 

 

マシュもどうやら理解が難しかったらしく、ホームズに捕捉を求め出した。

我らが安楽椅子探偵は、カリギュラに目線だけで許可を取り、解説の代打を買って出た。

 

 

『先にカリギュラ帝が話した通り。彼はディアーナによって狂わされた後の状態で召喚

 されているわけだ。つまり、女神の干渉が間違いなくあった、という状態でね』

 

「はい。その部分は理解できました」

 

『では、この異聞帯ではどうか。此処は神が現存する、非常に稀有な()()だ。

 であれば、当然この異聞帯にも存在しているはずだろう……彼の狂気の元凶が』

 

「……それって、女神ディアーナがいるってこと?」

 

『そこが問題だマスター・立香。女神の実在が証明されたにも関わらず、その影響を

 受けたカリギュラ帝の霊基に一種のバグ、エラーの様な正気の回復現象がみられる。

 分かるかね? 狂気の元凶が存在するのに、その狂気が喪失するという異常事態が』

 

 

正直よく分からない。つまりどういうコトだってばよ?

 

 

「答えは一つ。この異聞帯のディアーナには、狂気を操作する権能が存在しない」

 

『……異なる歴史を歩んだ世界だからね。女神という世界機構に変化が生じてても

 おかしくはない、と思う。でも、だからってそれで英霊の霊基に影響が出るかな?』

 

『英霊の霊基に影響が及んでいる以上、英霊を召喚する為に使用したものに何らかの

 異常があったと考えるべきだ。ああ、無論だが、君の発明を疑う意図はないよ』

 

『言ってらぁこの皮肉屋め! つまり、霊脈そのものに何らかの問題が?』

 

 

証拠はないが、そうとしか考えられない。ホームズがそう呟き、顎に指を添えて考える。

 

カリギュラを狂気へ堕とした女神ディアーナはこの異聞帯に存在していて、でもこちらの

ディアーナにはその権能が無いと思われる。だから、彼の霊基にバグが発生した?

しかも彼を召喚する為に用いたのは霊基グラフとダヴィンチちゃんの召喚する英霊を指定

する為の拡張パーツ。それとこの地の霊脈のみ。となれば、おかしいのは霊脈なのだろう。

 

 

『霊脈に手が加えられていると見た方がいい。異聞帯の王の策か、あるいは……』

 

「……ゼベルさん」

 

 

もしかしたらあの人が、この異聞帯の霊脈に何か細工をしたのではないだろうか。

カルデアの皆はゼベルさんが三流魔術師だってよく言ってるから、きっと能力的には

それほどすごいことが出来る魔術師ではない。けど、きっとあの人がやったんだ。

 

証拠なんて何もないのに、なぜか私は確信が持てた。

 

 

『つまり、なんだね? 英霊カリギュラは、月のある夜の間だけは正気でいられる。

 そう思っていていいのだね? だとしたら今は絶好の好機ではないか!』

 

「うむ。今の余は、力にも知恵にも衰えはない。ローマの威光に満ち満ちている」

 

「それじゃあ安心だね」

 

「うむ」

 

 

新所長の言葉を自信に満ちた肯定で返したカリギュラに、改めて信頼を寄せる。

私の召喚に応じてくれたんだから、きっと大丈夫。理性が無い時でも、きっと。

 

そう思ったところで、今度は肝心のもう一人の方へ話の矛先が向いた。

 

 

『で、では、その……バーサーカーに勝るとも劣らぬ精神汚染を持っとるそちらの

 キャスターは、えと、どうなんだね? 藤丸、お前さんはどう見る?』

 

「ジルですか? うぅん…いつもよりかは大人しめって感じですね」

 

「おや? 御呼びでしょうか、マスター」

 

 

私が名前を呼んだのに反応して、ギョロリと飛び出た目玉を向けてくる長身痩躯の大男。

彼は『魔術師(キャスター)』クラスで召喚されたジル・ド・レェ。元はフランスの元帥を務めた事も

ある軍人であり、忠を捧げた国と守護した人々に裏切られ黒魔術に傾倒した悲劇の人。

 

神を信じる敬虔な信徒の軍を率いた彼はいつしか、神の不在を悪行で証明しようとして

幼い子どもを領地から攫い、監禁と拷問を繰り返す悪魔へと堕ちていった。

 

誰が呼んだか〝聖なる怪物〟、後世では「青髭」という創作のモデルとなった人物。

 

 

『ジル・ド・レェ。貴方もまた、一筋縄ではいかない狂気と精神汚染の保有者だ。

 それがこの異聞帯で召喚されてから、理知的で冷静な言動しか見られていない。

 異常らしい異常が見られない、という意味では今の状態の君はまさに、異常だ』

 

「ほほう…。つまり、私もまた皇帝陛下のように、何らかの影響で正気を保っている

 状態にあると仰るわけですな? いえいえ、お気になさらず」

 

 

彼もまたカリギュラの様な何かしらの影響か、霊脈のバグを発生させているのか。

少し不安になった私の内心を見抜いたかのような物言いで、薄く微笑むジル元帥。

 

 

「ええ、はい。心当たりならございますとも。このジル・ド・レェ、何故に精神を

 蝕まれる事なく正気を紡いでいられるか。これもこの異聞帯の状態によるものかと」

 

『ではやはり霊脈か』

 

「それも一因ではありましょうな。しかしながら、最たる要因は他に在りましょう」

 

『……と、言うと?』

 

「この異聞帯は神が現存し、存在しております。神の実在が証明されているのです」

 

 

そう呟いたジル元帥の言葉からは、どうしてか小さな落胆のような思いが感じられた。

彼の言葉に「ほう?」と眉を吊り上げたホームズに、ジル元帥は笑いながら語る。

 

 

「私、ジル・ド・レェは…あらゆる悪徳を積み上げることで神に罰されようとした。

 もしも神がおわすのなら、このような罪業を為す私を裁かぬはずがない、と」

 

『……それが、少年少女への拷問行為の真実』

 

「はい。しかしながら、この地は神が確かに在る。私が悪行を働かずとも、

 いつ如何なる時でも神は私を見ておられる。不在の証明に苦しむ必要などないのです」

 

『ふむ。神の存在証明を果たす意味がなくなり、精神的に安定したわけか』

 

 

悲しそうに、そしてどこか嬉しそうに微笑んだジル元帥は私へと向き直る。

 

 

「加えて今、私をかつてのように導いてくださる御方が、貴女様がいらっしゃる。

 我がマスター、藤丸立香。そう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()たる貴女が」

 

「え、え? いや、私は別にそんなんじゃ……」

 

「いえ、いいえ! 貴女様こそ、我が麗しの聖女ジャンヌに並ぶ救世の聖女!

 ジャンヌは祖国フランスの救済を! そして貴女は! 滅びゆく人理の救世を!

 であれば! であればぁぁぁ‼ 貴女こそは紛れもなく我らを導く聖女に他ならぬ!」

 

「……これのどこが大人しいのだ? やはり気狂いではないか」

 

 

同行している仮契約中のアーチャー、薛仁貴が呆れたように溜め息を吐く。

いや、言いたいことは分かるけど。でも、スイッチが入らなきゃこうならないって

時点で、私の知ってるジル元帥よりよっぽど冷静みたいだと思える。

 

そして―――突然、地面が急激に動き出した。

 

 

「なにっ!?」

 

「せんぱっ…あうっ!」

 

「口を閉ざせ契約者、盾の乙女。舌を噛むぞ」

 

『な、なんだこの揺れは!? お、おい、何がどうなっとるんだね!?』

 

 

海魔の車モドキに乗っていても分かる、上下に荒々しく揺さぶられる感覚に襲われた。

 

私はこの感覚を知ってる。地震だ。でも、こんなに大きいのは初めて感じる。

マシュの身体を抱き締めて支える。他の皆はいつでも動ける体勢を取っていた。

 

通信機越しでパニック状態に陥ってる新所長をホームズがしっかり支えているようだ。

立つこともままならないのはノーチラスの方も同じらしい。相当大きな地震みたい。

 

 

『――なんだ、この反応……!?』

 

 

これは大きな地震。そんな私の思いを引き裂くように、目を見張るダヴィンチちゃんの

悲鳴に似た声が通信から聞こえてきた。

 

 

『コレは、何だ!? 場所は汎人類史の東京湾付近! そこに膨大な魔力反応を計測!

 反応はあのフォーリナーの使い魔みたいな怪物のもの……いや、変化した!』

 

『こちらにもモニターを。コレは……ダ・ヴィンチ! 宝具だ!』

 

『やっぱり!? そんな予感はしてたよ! どんだけ魔力を充填したらこうなるんだ!?』

 

 

どうやらこの地震とも関係がある話なのだろう。真剣な表情に切り替わった二人に状況を尋ねる。

 

 

「ダヴィンチちゃん! ホームズ! 状況を報告して!」

 

『うん! 汎人類史の地図で言うと東京湾手前ぐらいの場所で、とんでもない量の

 魔力の変動を確認した! 観測できたのはスゴイ量のフォーリナーの使い魔だった!』

 

『だがその反応も今は無い。そこにある反応は、ランサーの霊基だ』

 

「そ、それでは、鉄舟さんが言っていた……」

 

『ああ。ゼベル・アレイスターによる【人理抹消】が始まったのかもしれない』

 

 

視界丸ごと揺さぶられる。五感を内臓諸共にシェイクされてるような感覚に吐き気を催す。

 

あまりに激し過ぎる揺れのせいか、身体が浮き上がっていくみたいな錯覚まで感じる。

重たいものが上からのしかかってくるのに、それとは逆に背中が引っ張られるような

言語化が難しい状態を体感している。いけない、頭がやられたかもしれない。

 

 

『……いや、違う。これは単なる揺れではない! ダ・ヴィンチ!』

 

『キャプテン! ノーチラスを動かすかい!?』

 

『駄目だ。こんな状態で動くのはまずい。ヒラメのようにじっと待つべきだ…!』

 

『いいや、キャプテン・ネモ! ここは動かなければいけない!』

 

 

グラグラ、ゴゴゴゴ。とてつもない轟音と一緒に揺れる私たちの耳に、ホームズの

慌てふためく声が響いてきた。すごく焦ってる。いったい、何が起きているのだろう。

 

 

『ノーチラスを動かすべきだ! 見たまえ!』

 

『なっ……! そんな、バカな!?』

 

『お、お、おおおおおッ!? しし、し、島が……飛、いや、浮かんどる!?』

 

「え?」

 

 

驚愕と、茫然。二つの感情が入り混じった悲鳴が、通信から聞こえてくる。

 

彼らはノーチラスに、海上に居る。だから今、日本に起きている異常が目に見えている。

私はその場にいるからよく分かっていないだけ。彼らの言葉を、信じなきゃいけない。

 

ってことはまさか、本当に浮いているの? 日本が? 日本列島が、浮いてる?

 

 

『島が浮くことなんぞ有り得ん‼ 此処は現実だ! ラピ○タではないのだぞ!?』

 

『……そうだね。有り得ないことだ。その有り得ないことが、現実に起きている。

 メンダコのように不可解極まることが、こうして実際に僕らの目の前にある』

 

『マスター・立香! 端的に話す! 今、日本列島そのものが浮上している‼』

 

 

ホームズが素早く状況を教えてくれた。けど、体感しても信じられない。

 

頭が混乱しそうになっていると、ホームズが続けて情報を開示していく。

 

 

『東京湾にいるランサーの霊基に膨大な魔力反応が集中している。で、あるならば。

 答えは自ずと見えてくる。道理も原理も不明なままだが、彼の計画が始動した!

 山岡鉄舟の言葉を信じるのなら、此処でランサーを倒さなくては!』

 

「……【人理抹消】が達成されちゃう!」

 

「で、ですがっ! 立つこともままなりません! それをどうやって…!」

 

 

オルテナウス装備の盾を地面に打ち立てて体勢を整えようとするマシュだけど、

それでも揺れが激し過ぎて会話も普通にできやしない。私も長くは喋れない。

 

それに、会話に支障が無くても移動が困難になった。立つのも一苦労な時点で、

まっとうな方法での移動は封鎖されたに等しい。海魔の車モドキも機能停止している。

 

成す術なし。八方塞がりといえるこの状況。どうにか打開しなきゃいけないのに。

 

 

「――マスター。このジルめに、策がございます」

 

 

混乱と悲嘆が私たちを覆いだしたその時。静かに、突き放すようにジル元帥が告げた。

 

 

「…キャスター?」

 

「はい。ええ、我がマスター。救世為さんとする清らかなる聖女よ」

 

 

今までの、そして普段の彼からは想像もつかないほど優しさと厳しさに満ちた眼差しに

見つめられて思わず硬直してしまう。そんな私に、ジル元帥は自身の策を語った。

 

 

「――私に、どうか令呪を。()()()()()()()()()と、そうお命じくださいませ」

 

 

 

 

 









いかがだたでしょうか。


次回、ジル・ド・レェ覚醒の時!


今回は元帥とカリギュラ帝の狂気に関する話を詰め込ませてもらいました。リハビリついでに設定部分の詰めを行っていくスタイル。

そしてついにランサーの宝具が明らかになりました!
これでもう真名も看破されてしまう事でしょう。

これからどんな展開になるか、どうぞお楽しみに!


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