Lostbelt No.8 「極東融合衆国 日本」   作:萃夢想天

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どうも皆様、萃夢想天です。

バレンタインイベント、皆様は楽しんでおられますでしょうか?
私は期間限定鯖がガチャ復刻しないと気付いて意気消沈しております。
いったいいつになれば邪ンヌと対面できるんや…。


さて、今回は久々に我らが主人公ゼベル視点に戻ります。そういやこの作品、カルデアが主人公側じゃなかったんだったわ()


それでは、どうぞ!





第八章三節 天地に在って、種は樹へ至る #3

 

 

 

 

 

よぉ。随分久々な気がするな、ゼベル・アレイスターだ。

 

唐突だが、少し前の俺に起きた出来事を自分でおさらいさせてもらう。

なにせ、こちとら数十分意識を失って生死の境を彷徨ったらしいんでな。

 

まず俺は、カルデア一行と話し合うための席を設け、議事堂に招待した。

俺自身の目的と敵対する意思はない事を伝え、できればこれからの計画に彼らを

巻き込まないように異聞帯から撤退するよう勧めたりもした。ここまでは覚えてる。

 

問題はその後。俺は手駒の英霊、セイバーに裏切られて殺されかけたようだ。

 

胸を深々とカタナでブッ刺しやがって…殺す気かっての。殺す気だったわ。

で、そこで意識を失った俺は、気付けば女王卑弥呼の隠れ家で倒れてた、と。

 

 

「そういう事でいいんだよな、フォーリナー?」

 

「はい主人(マスター)。ご安心を、セイバーは既に妾が始末致しました」

 

「……おう」

 

 

未だに俺の頭を膝の上に乗せてうっすら笑っている極上の美女、フォーリナーに

事の次第を語らせる。コイツは俺が召喚したサーヴァントだ。おまけに三回限りの

絶対命令権こと令呪で「俺を受け入れろ」と命じてある。裏切りの可能性はゼロだ。

 

そんな彼女は俺の瞳を覗き込むように、顔を近付けてきた。

 

 

「…………」

 

「なんだ?」

 

「いえ? ただ、愛しい主人の御顔を間近で見たかっただけですわ」

 

 

ニコニコと、真紅と黒の配色が艶やかなドレスを纏う麗しの令嬢が微笑む。

これでも男だ。後頭部の暖かく柔らかい感触も相まって、赤面は避けられない。

気恥ずかしくなって顔を反らす俺の反応が気に入ったのか、笑みの深さが増していく。

 

何故だか知らんが、胸に開けられた傷穴は塞がり、痛みも全く感じられない。

この女王卑弥呼のいる『皇居』の結界の中にいるってことは、おそらく女王が俺を治療

してくれたんだと思う。フォーリナーにそういった回復系のスキルや宝具はないからな。

 

…ふと、ここで俺はある疑問を抱いた。命を預ける相棒、我がサーヴァントについて。

 

 

「なぁ、フォーリナー」

 

「はい? なんでしょう?」

 

「……お前、令呪を使った時に真名を名乗ったよな」

 

「ええ、名乗りました。それが?」

 

「俺の記憶違いなら申し訳ないんだが、【メアリー・スチュワート】が真名なんだな?」

 

 

疑問というのは、フォーリナーの真名。いや、その正体についてだ。

 

これでも英霊を召喚して人理を救済する一大プロジェクトに参加していた一軍マスターの

一員だったんだ。人類史に名を刻むほどの英雄や偉人の名は頭に叩き込んである。

だからこそ、最初に彼女を召喚して名乗った真名にも心当たりがあったし、そのクラスが

暗殺者(アサシン)】や、ワンチャンで【騎手(ライダー)】ではなかったことに驚かされたわけだが。

 

そう。彼女はかのメアリー・スチュワート。それはいい。本人がそう言ってるし。

問題は、それだけでは彼女の存在そのものに、説明がつかないことについてである。

 

 

「契約者である俺には、お前さんの色々な情報が丸見えなわけだが……おかしいだろ。

 いや、名前じゃない。確かにお前さんはメアリー・スチュワートなんだろうさ」

 

「……では、何がご不満なのですか?」

 

「じゃあ答えてもらおうか―――お前、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

突き放すように告げる。疑っているわけじゃない。これは、あくまで確認だ。

召喚された時も、令呪で命じた時も、彼女は確かに自らをメアリー・スチュワートと名乗り、

俺もそれを信じた。彼女の保有するスキルや宝具を確認するまではな。

 

彼女を見上げると、そこにはフォーリナーの各種ステータス等の情報が開示されている。

それら一つ一つを改めて、吟味するようにじっくりと眺め、疑念は核心へと変わった。

 

 

サーヴァント・クラス 『フォーリナー』

 

真名 :【女王メアリー】

 

属性 : 中立・悪

 

 

各能力値・パラメーター

 

「筋力 : C」 「耐久 : B」 「敏捷 : E」 「魔力 : C+」 「幸運 : D」 「宝具 : A+」

 

 

 

保有スキル

 

 

『領■■の生 : EX』 『神性 : A+』 『血染めの戴冠 : A』
 

 

『高貴なる血脈 : A』 『王権の母 : A++』 『黒き豊穣の女神 : EX』

 

 

 

宝具

 

産まれ満ちよ不浄の血族(ブラース・キィン・インピュラァ) : A】 【■■よりくもの : A+】

 

 

マスターである俺の目に浮かび上がる数々の数値や記述に変化はない。

やはり彼女には、フォーリナークラスという異端の英霊には、謎がある。

 

 

「………」

 

 

言葉に詰まっているのか、あるいは返す言葉もないってやつか。

返答が来ないのに待ってやる時間は無い。俺は回転し出した頭脳が導く回答を口にする。

 

 

「お前の『高貴なる血脈』と『王権の母』ってスキル。そりゃお前さんがあの有名な

 メアリー・スチュワートだってんなら、保有してて当たり前のスキルだわな」

 

「………ええ。そうですわね」

 

「だったら聞かせろ。お前が真に英霊メアリー・スチュワートだと公言するのなら、

 何故『血染めの戴冠』なんてスキルを持ってる? そんな逸話がお前に在るか?

 俺が知る限りじゃ、メアリー・スチュワートに備わっているはずのないものだ」

 

「……だとしたら?」

 

「お前はメアリー・スチュワートであり、メアリー・スチュワートではない者。

 つまり、名前を騙る第三者か。あるいは影武者が名前だけで召喚されたのか。

 もしくは―――何らかの要因で、別の英霊が召喚されてるか。俺はそう考える」

 

 

サーヴァントを召喚したマスターには、召喚された英霊のステータス等の情報が開示

されるようになっている。その機能によって、俺は彼女の異質さに気付くことができた。

 

第一に、『高貴なる血脈』というスキル。

これは単純に、特権階級の、特に優れたる血筋に生まれた事で生涯を通して強大な力を

獲得した者に付与されるもの。しかも、己や類する血縁が連綿と、子々孫々を繋いでいく

継承によってスキルのランクが上昇するようだ。彼女はコレをAランクで所持している。

 

効果としては、疑似的な戦闘続行スキルと言っていいだろう。

 

第二に、『王権の母』というスキル。

こいつは非常に強力で、自らの血縁で絶対者たる王を輩出した者に与えられるもの。

彼女はコレをA++という規格外レベルのランクで保有している。

 

効果としては、概念的に強力な防御――無敵と言っていいほどの加護――を一時的に得る。

 

 

「…………」

 

 

黙っている目の前の美女がメアリー・スチュワートだとしたら、保有していたとしても

なんらおかしくないスキル群だ。問題は先も言った、『血染めの戴冠』というスキル。

 

コイツは自らが王権を得る資格者として君臨する際に、流れた血の量、つまるところ

失われた命の数に応じて効果が上昇するものらしい。保有ランクはAランク。事実上の

最高値と言っていい。それだけの数の人命が、彼女の王権獲得の為の礎となったのか。

 

メアリー・スチュワートにそんな逸話は無い。不倫だの元夫の殺害計画の主犯だのと

黒い噂はいくつもあるが、どれも根拠のない噂程度のもの。最高値であのスキルを保有

するのに必要な犠牲は足りているわけがない。となれば、俺の考えのどれかが正解だろう。

 

 

「どうなんだ?」

 

 

意を決して、膝枕されたまま彼女を見上げる。すげぇ格好つかない状態だな俺。

 

表情を鋼鉄のように冷たく固めていたフォーリナーは、溜息を一つ吐き、呟いた。

 

 

「貴方様を受け入れろ、と。令呪で命令されておりますものね。いえ、命令などなくとも

 お話しするつもりではありましたが……お望みと在らば、全てを語り明かしましょう」

 

 

諦めたような投げやりな言い方なのは気になるが、どうやら話してくれるみたいだ。

 

彼女にも心の準備がいるのか、沈黙が続く。数秒、あるいは十数秒。

いつになったら聞けるのかと気を揉み始めた頃合いになって、彼女はその口を開いた。

 

 

「御明察のとおり、妾はメアリー・スチュワートという英霊()()()()()()()()()()

 

「単独じゃない…? なら、影武者とか別人ってことじゃねぇのか」

 

「早計ですわね。妾は確かにメアリー・スチュワートの霊基にて召喚された者。

 しかしながら妾は何の因果か、あるいはこの土地の影響か定かならぬ理由はあれど、

 メアリー・スチュワートという単一存在のみでの召喚は果たされなかったのですわ」

 

「……どういうことだ?」

 

 

言ってる意味が分からん。メアリー・スチュワートだが、単一ではないって何だ?

俺の疑問を払拭するように、フォーリナーはゆっくりと事の始まりから語り始める。

 

 

「妾は主人、貴方様に召喚されこの地に降り立ちました。しかしながらその召喚自体に

 なにか異変があったようですの。悪意はありませんが主人の圧倒的な魔力不足は当然の

 ものとして、他にも幾つか異変の要因となるものがあったのだと推測しております」

 

「……なんだ、俺が悪いってのか」

 

「そうは言っておりません。ですが主人、妾の召喚は適切に行ったものでしたか?」

 

「は? 適切も何も、俺は英霊召喚の術式に従っただけであって…」

 

「本当にそれだけですか?」

 

 

やけに断定的な言い方が引っかかるな。俺に不手際があったって言いたいのか。

いや、そういった弾圧的な意思を彼女の視線からは感じない。じゃあ何なんだ。

 

彼女の召喚に……触媒が無かったからこの土地の無限に等しい霊脈の魔力をちょいと

拝借しながら、英霊召喚の儀に用いられた魔術陣を描き、必要な素材を投入して…。

 

そこに至って俺は、ようやく気付く。

 

 

「―――あ。そういや、エクストラクラス召喚の為の詠唱を追加したっけ」

 

 

自分で言って思い出した。そうだ。俺は基本とされる七つのクラスとは根本から異なる、

規格外のクラスを召喚しようと画策してたんだ。予想外にも想定していたクラスと違う

降臨者(フォーリナー)】なんて異端の存在を喚び出しちまったわけだが。

 

そうか、あの追加詠唱で英霊召喚の術式になにかバグが起きたのか。

 

 

(わらわ)の主体である霊基情報はメアリー・スチュワートのものですが、それだけにあらず。

 召喚時の様々なエラーやバグが重なり、最終的には三騎分の霊核が主人の召喚により

 集められていたのです。しかしながら、肝心の主体たる私の霊基は貧弱に過ぎました」

 

「貧弱って……人類史に名を刻んだ偉人だろ?」

 

「名が刻まれれば英霊になれる、というものではございません。私を含めた多くの場合、

 英霊となるには霊基の質が足りぬ型落ち……つまるところ、英霊未満の幻霊としてしか

 存在できません。想定外に次ぐ想定外。妾が選択したのは、霊基の融合という手段ですわ」

 

「霊基の融合…? 英霊って合体できんのか!?」

 

「通常は不可能です。無限に等しい潤沢な魔力源と、より親和性の高い霊基同士でなければ

 こんな無茶は通らなかったでしょう。メアリー・スチュワートと他二騎の霊基を融合し、

 我らは貴方様の召喚に応じました。言うなれば、【女王メアリー】という複合英霊です」

 

「複合英霊……じゃ、じゃあ、お前が融合したっていう二人は…?」

 

「――妾と同じ名を冠した【メアリー1世】、そして【メアリー・テューダー】」

 

 

重々しい態度で放たれた二つの真名に、俺は思わず目を見開く。それと同時に納得した。

 

【メアリー1世】とは、時のイングランド女王であり、国教会のプロテスタントに対する

過激な宗教弾圧行為から「血塗れの女君(ブラッディ・メアリー)」と恐れられた人物である。

 

そして【メアリー・テューダー】もまた、フランス王妃の位を戴いた高貴な身分の女性で、

メアリー・スチュワート同様に多くの男性との不倫や暗殺関与を実しやかに囁かれた者だ。

 

名前も一致し、女王や王妃と国の頂点かそれに最も近しい立ち位置に身を置いた経歴があり、

似たような結末を迎えたほぼ同時代の王侯女性貴族。なるほど、類似点は腐るほどある。

親和性が高いのは当たり前だ。歴史学者ですら混同しかけることもあるって話だしな。

 

 

「……要約するとお前は、メアリー・スチュワート単独じゃ英霊として現界できないから、

 バグで同時召喚されてきた他のメアリーたちの霊基と混ざり合った複合英霊ってことか」

 

「その認識で問題ありませんわ(フォーリナーたる由縁は語らぬがな)」

 

 

フォーリナーの話を聞いて、とりあえず得心がいった。矛盾点とかは無かったと思うし。

まぁ、なんだ。元々俺にとっちゃフォーリナーがメアリー・スチュワートだろうが違って

いようが構わなかったんだが。召喚に応じてくれたって一点で信じると決めたんだからな。

 

それにしても、『領■■の生』ってスキルは何だ? 情報が虫食いみたいだぞ。

 

事実上の最高値であるAを超える、EXランク。即ち、計測不可ないし規格外を意味する

破格のスキルが二つもある。『黒き豊穣の女神』ってのも気になる。女神ってなんだ?

 

疑問が尽きない我が相棒へさらに質問を続けようとした時、微かな地面の揺れを感じた。

 

 

―――ゴゴゴ……

 

 

「……いま、何か揺れたような?」

 

「主人。配下の三騎が、計画を始動したようですわ」

 

 

嫋やかな女性的な表情を引き締め、声も強張らせてフォーリナーが告げた。

 

そうか。いよいよ……いや、この異聞帯に来てから今日まで約半年。長いようで短いような、

そんな雌伏の時は終わりを迎えたんだな。そして、ついにここから俺の野望が動き出す。

俺が異聞帯運営を任命され、フォーリナーを召喚し、カウンター召喚された汎人類史の英霊

三騎を引き込めた時点で思い描いていた絵空事。それが今この時を以て現実になるのだ。

 

待ち遠しい。【人理抹消】はすぐそこだ。

 

 

「ランサーが妾の下賜した仔らを消費し、日本列島を()()()()()()()()()

 主人の想定では、この結果ですら五分五分だったようですが。成功して何よりかと」

 

「……そうだな。本当なら成功しなかった場合の策も用意しなきゃならなかったが、

 もう今となっちゃ必要ないしな。計画の第一段階を成功させただけでも充分だろうよ」

 

「必要ない、ですか……では主人。ライダーとキャスターが第二段階に移行させた時点で」

 

「――ランサーを消せ。セイバーと同じだ。いつ裏切るか知れたもんじゃねぇ」

 

 

夢物語を実現させる高揚感とただの空想を世界に移し替える責任感に、胃が煮えくり返る。

それと同時に頭から血の気が引いていく感覚を覚えた。静かな、けれど激しい怒りと共に。

 

セイバー。山岡鉄舟。俺の描いた妄想を、【人理抹消】の計画を聞き入れた同志。

少なくとも俺はそう思っていた。あんな裏切られ方をするまでは信じていたってのに。

もう嫌だ。うんざりだ。だから人間が嫌いなんだ。姑息で、狡猾で、残忍で、無関心で。

平気で他人を傷つける。加害者である立ち位置を理解しようともせず、我が物顔で驕る。

 

ふざけやがって…。俺の崇高な理想に()()()()()()()示したフリなんかしやがって!

 

 

「……よろしいのですか? ランサーを我が眷属化した後に暴走させても」

 

「構うもんか。アイツも、ライダーもキャスターも、信用しないことにした」

 

「そう、ですか…。では主人、妾は…?」

 

「俺が召喚した唯一のサーヴァントだからな。他の奴とは違う。お前だけは違う」

 

 

気を落としたような声色で尋ねてくるフォーリナー。自分も他の奴らみたいに俺の信用を

失ったとでも思ったのだろうか。それなら問題ない。令呪で俺に服従してるし、そもそも

彼女にだけは最初から本当の計画について洗いざらい話している。裏切るとは思わない。

 

もしも、なんて可能性すら考慮に値しない。フォーリナーは、俺のサーヴァントだからな。

 

 

「……光栄ですわ、我が主人」

 

 

そう言って彼女は静かな微笑みで答える。安心したような、分かり切っていたような。

しっかし、フォーリナーの膝枕は最高だなぁ。このままうっかり寝落ちしちまいそうだ。

だいぶ前から糸が切れたように意識を失う事が増えたから余計にそんな事考えちまう。

 

ええい、やめやめ。ひとまず起き上がって頭も体も動かそう。

 

フォーリナーに感謝して、ゆっくりと起き上がる。さて、ここからどう動くべきかね。

 

 

「主人。以後の動向は?」

 

「流石だなフォーリナー。いま、それを考えるとこだった」

 

 

まず考えなきゃいけねぇのは、【人理抹消】計画の第一段階から第二段階への移行、

その間の行動についてだ。ただ座して見てるわけにもいかない。何をしたらいい?

 

 

「フォーリナー。ランサーが第一段階を始動した今、ライダーとキャスターは共に

 第二段階の準備に入ってる。フリーに動けるのは俺とお前さんしかいないわけだが、

 どう動くのがいいと思う?」

 

「まず目的を明確にすることでしょう。主人は何を為さりたいのですか?」

 

「……目的か。まぁそりゃ、計画の完遂だわな」

 

「でしたら、計画の円滑な遂行の障害と成り得る存在の排除などが妥当では?」

 

「それって」

 

「カルデアの排除に他なりません。とはいえ、現状の手札は妾のみとなれば、

 正面からの戦闘は悪手。妾の仔らを投入しての遅延戦闘…時間稼ぎが最善かと」

 

 

フォーリナー、メアリーと今後の動き方を話し合う。単に意見聞いてるだけとも言える。

彼女の出した答えは、計画の邪魔になるカルデアにちょっかいをかける事だった。

 

カルデアにこっちから戦闘を仕掛けに行くのか……そういうのは何か嫌だな。

最初から戦う必要なんかねぇと思ってたから話し合いの場を設けたんだし、

何なら撤退だって促した。そんな俺が都合が悪くなったからやっぱり戦う、なんてのは

傲慢だろうよ。俺が嫌いな人間性そのものじゃないか。俺はそんなのごめんだね。

 

 

(………ん?)

 

 

ふと。俺はそこで違和感を覚えた。

 

何に対してだ? いや、それはきっと、自分自身の考えに、だ。

 

 

(……カルデアとは戦いたくねぇ。本当だ。これは俺の正直な気持ちだ)

 

 

今の俺は汎人類史を裏切ったクリプターだが、元々は人理修復のために結成された

Aチームのメンバーでもあった。当然、今も残ってるカルデアの面子と関わりがある。

顔見知りを傷つけたくないってのは誰しもが持つ感情だろう。俺はそう思ってる。

 

けど、俺の目的の先に在るのは【人理抹消】だ。人類の痕跡の無い真っ新な世界だ。

 

俺の内側には人類に対する敵意が渦巻いてる。人が人である性質、人らしさってのが

嫌で嫌で仕方ない。だからヒナコの人類嫌いにも共感したし、理解だって出来てた。

 

 

(それって―――()()()()()()()?」

 

 

親しかった人たちと、責任を押し付けて苦労させた後輩たちと敵対したくない。

でも、人類という悪性の生命体を、地球にとっての癌細胞を完全に除去したい。

 

どっちも本音だ。嘘偽りのない、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

(戦いたくないが、確実に消し去りたい。なんだ、この矛盾は…!?)

 

 

胸の内で異常な思想が膨れ上がる。妙だ。確信は持てないが、どうもおかしい。

 

 

(俺は、いったい―――何なんだ?)

 

 

ズキン、と。体中の傷跡が、鈍く傷んだような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――神を引き摺り下ろせ、ってどういう事なの?」

 

 

未だ以て緩やかに、しかし確かに浮上している大地に膝を折りながら聞き返す。

まず自分の耳を疑ったけど、正常だと気付き、次に私は彼の言葉の真意を尋ねた。

 

私がこの異聞帯で召喚し、応えてくれたキャスターのサーヴァント。

 

黒魔術に傾倒した『聖なる怪物』ジル・ド・レェ元帥が、淡々と現状を語る。

 

 

「これこそが敵方の策略にして我らが恐れる【人理抹消】の先駆けでありましょう。

 何としてもこの局面、阻まねばなりませぬ。止めなければなりませぬ。必ず」

 

「それは、分かるけど! でも!」

 

「ええ、ええ。承知しております。こちらの手勢では圧倒的に数が不足している。

 これまでは私の宝具で召喚した海魔で誤魔化しが効きましたが、いよいよとなれば

 出し惜しまずとも物量に押されていくでしょうな。今、戦力の欠落は痛手ですとも」

 

「そうだけど、そうじゃないよ!」

 

 

普段の狂言回しの様な芝居がかった口調は鳴りを潜め、冷徹に現実を見据えている

軍師としての視座で話している。私は知ってる。自分を勘定から省くような、英雄と

呼ばれる英霊の彼ら特有の話し方だと知っている。そして、その先に待つ結末も。

 

浮かび上がる大地の揺れに起き上がることも出来ず、礼装の裾を力いっぱい握りしめる。

 

分かってる。本当は分かってるんだ。今はとにかく行動しなきゃいけない時だって。

ジル元帥の言いたいことも何となく察しが付く。生前、神の不在に翻弄され続けた彼が

自分から神の名を口にしたんだもの。間違いなく彼は、見据えるべき敵と相対する気だ。

 

それを私は、彼のマスターである私は、命じなきゃいけないんだって分かってるんだ。

 

 

「でも、でも……それじゃジルは!」

 

「……マス、ター」

 

『………マスター・立香。時間が無い。結論を』

 

『ちょっ!? 経営顧問、貴様!?』

 

 

私たちの状況はモニターされてるから、ノーチラスに居る皆にも伝わってる。

ホームズは私の内心での葛藤を理解したうえで、それでも決断すべきと発破をかけて

くれている。事態は一刻を争うんだから、私の判断の遅さが致命的になる。

 

だとしても私は、助けに来てくれた彼に、捨て駒の様な役割を任せたくない…!

 

 

「……マスター。我が一時の主君よ。そこの男の覚悟を聞き入れてやるべきだ」

 

「薛仁貴さん!? ですが、それは…!」

 

「ああ。死ぬ気だろうな。しかし、命を賭してでも成さねばならぬ事もある。

 それが分からぬほど堕ちてはいまい。そして、それが出来るのは己のみと

 心得てもいる。良い覚悟だ。戦場を知る戦士ならば、命じ送り出すが将の役目」

 

 

異聞帯に召喚されて、私と仮契約を結んで味方になってくれたアーチャー・薛仁貴も

ジルの言葉に賛同する。マシュが引き留めようとするが、それを憮然と切り捨てた。

 

やるしかない。でもそう簡単に割り切れない。

 

これまで失ってきた人たちの思い出が脳裏に蘇る。救えなかった、救わなかった人々の

記憶が私の心を苛む。決断を鈍らせる。そうして、どれだけの時間が経ったか。

 

 

「……マスター。汎人類史という世界を救わんとする、正真正銘の聖女よ」

 

 

召喚した海魔で足元を支えさせながら、うなだれたままの私の頬にジル元帥が手を伸ばす。

悪魔のように鋭く伸びた爪で傷つけないように、そっと柔らかな触り方で頬を撫でられる。

不意に伝わってきた温もりに驚き顔を上げると、決意に満ち満ちた精悍な男と目が合った。

 

 

「私はかつて、過ちを犯しました。無垢な少年少女の魂と尊厳を穢し、奪い去った悪行も

 過ちの一つであります。しかし、しかし。私が最初に犯した罪とは、そうではない」

 

「え…?」

 

「我が生涯最大の過ち。それは―――聖女を見殺しにした事。いえ、救わなかった事です」

 

 

地鳴りが遠くに聞こえる。倒木の悲鳴も、地割れの絶叫も、私の耳から離れていく。

逆に、ジルの唐突な告白は罪の懺悔にも聞こえ、嫌に耳へこびりついて離れない。

 

ジル・ド・レェという英霊の生前については、カルデアのデータベースやかつて彼自身の

口から語られた話から理解を得ている。特に、彼の別側面たるセイバーの霊基の彼から

色々な顛末を聞いたことがあった。だから、分かる。彼は、責任を果たすつもりだと。

 

 

「かつてジャンヌが囚われの身となった時、我々は祖国からの支援を信じ撤退しました。

 戦線に張り付いて交戦し続ければ祖国の支援を受けられなくなると言い訳をしてまで。

 しかし蓋を開けてみれば、裏切りに次ぐ裏切りによって、麗しの聖女は火刑に処され、

 付き従っていた騎士や爵位持つ者らは家名剥奪や領地没収の理不尽に晒されました」

 

『………酷い掌返しだとは思うが、国家元首の選択としては誤りではなかろう』

 

「かもしれませぬ。私はその事を棚に上げ、国は聖女を裏切ったのだと拳を振り上げた。

 私自身が何よりもまず救いに馳せ参じなかったというのに……愚かな行いでしょう」

 

 

そう言って自嘲するキャスターだが、私もマシュも、薛仁貴も、誰も笑わなかった。

 

 

「それは、当時の情勢を鑑みれば致し方ない結果だったと…」

 

「貴女は優しいですね、盾の乙女よ。しかし、それが事実なのです。加えて私はまたも

 同じ過ちを繰り返した。そうでしょう? マスター」

 

「え?」

 

「はい。過去に貴女方の前に立ちはだかった、人理焼却という悪逆非道に加担した

 という私の話です。そこでも私は、私自身の望む聖女の偶像を生み出すに飽き足らず、

 最期を共にすることなく、手を差し伸べもせず、再び見殺しにしたのだと聞きました」

 

「なんで……だってソレは」

 

 

ジルの口から語られた懺悔は、思いもよらない部分に着地する事となった。

 

彼が口にしたのは、いま私たちが立ち向かっている【人理白紙化】よりも前の大災害、

【人理焼却】事件の一片である、第一特異点。フランスはオルレアンでの出来事だった。

それはこの異聞帯で召喚された彼には知る由もない事のはず。だから私は驚いた。

 

 

「マスターが休息しておられる間、少々無理を言って過去の記録を閲覧させていただき

 ました。私ならざる私の犯した所業ではありますが、それもまた我が罪には違いなく」

 

 

私が人類最後のマスターとして初めて立ち向かった特異点にて、その姿を現した存在。

彼女は【有り得ざる復讐心を宿した竜の魔女(ジャンヌ・ダルク・オルタ)】と呼ばれ、今では私たちカルデアの頼もしい

味方の一人に加わっている。そんな彼女を聖杯の力で生み出したのが特異点に召喚された

ジル元帥だったのだ。彼はその時の、自分ではない自分の犯した所業を懺悔している。

 

ハッキリと覚えている過去を想起させられ、さらに混乱させられた。

言葉が出てこない私を置いて、ジルは立ち上がり、両手に魔力を集束させ始める。

一瞬の輝きを放った後、彼は左手に宝具の書物を、右手には何か長い棒状の物を持っていた。

 

 

「ジル・ド・レェさん…? それは…!?」

 

「我が盟友より授けられた人皮の魔導書【螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)】にて私は魔術師(キャスター)クラスを

 獲得しております。似非魔術師の身の上であるため、『道具作成』を持ち合わせては

 おりません。ですので、カリギュラ帝の御力添えをいただきました」

 

「ああ。余の『皇帝特権』スキルを活用し、魔術師の真似事をした。仮初めの借り物故、

 投影魔術のような、ハリボテ程度の物しか作り出せぬ。許せよ」

 

 

彼が右手に持ったものを振り上げ、カツンと地に突き立てる。

私はその形状を知っていた。槍のようだが、槍ではない。先端付近に厚みがある。

そう、その武器は。いや、武器ですらない。本来、それは味方を鼓舞する為のもの。

 

 

「………それって、ジャンヌの旗?」

 

 

ジル・ド・レェという男が光を見出した相手。フランスを救済すべく戦線に立ち続け、

最期には救おうとした国に裏切られ、その身を業火に焼かれた少女にして聖女。

同じくカルデアの頼もしい味方となってくれた【裁定者(ルーラー)】クラスのサーヴァント。

 

ジャンヌ・ダルク。救国の聖女と名高い彼女が持つ宝具と、余りにも酷似していた。

 

ジルは私の呟きに薄っすらと微笑みながら頷き、穂先の旗を振るってはためかせる。

そこで私は再び瞠目した。彼の手に在る旗に描かれていたのは、ジャンヌのそれではなく。

 

 

「―――これこそは、世界を救わんとする聖女の従僕である証」

 

 

バサバサと風に揺られる旗には、カルデアのシンボルマークが燦然と輝いていた。

 

もう、何も言えなかった。彼が手に持つその旗は、武器にもなるが明確に他者を傷つける

ための武装ではない。それでも、彼が私と同じカルデアを、人理再編を背負ってくれている

ということを言葉ではなく心で理解できた。ジルも、私たちと世界を救ってくれるのだと。

 

目頭がカッと熱くなる。俯いて、滴が手元に零れ落ちた。

 

ああ、そうだ。私はバカだ。ホームズだって言ってくれたのにもう忘れたのか。

彼らは私の声に応えてくれた。私と一緒に汎人類史を、世界を救ってくれる仲間だって。

かつては敵だったかもしれない。サーヴァントは召喚者に応える人理の影法師だから、

敵味方が入れ替わる事なんてよくある話だって私も学んだ。

 

けれど、彼はその事を悔いてくれている。その行いを贖い、報いようとしてくれている。

 

だったら私は、その善意に、その誠意に、その忠心に、応えなきゃ。

 

 

「……キャスター。ジル・ド・レェ、令呪を以て命じる!」

 

 

右手に宿った三画の令呪。膨大な魔力がうねり、命じた対象へと注ぎ込まれていく。

私は胸に抱いた決意を吐き出すように、込み上げる想いと共に、声を張り上げた。

 

 

「―――私たちと、世界を救って‼」

 

 

 

 

 









いかがだったでしょうか?

書いている間にバレンタインイベ終わってました…
CBCでまさかのあ ま く さ 降臨。

中途半端な終わり方になってしまったかもしれません。
ですが、今後のパートを濃密にするために仕方なく……という事にしてくれませんか(懇願)


それでは次回をお楽しみに!


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