Lostbelt No.8 「極東融合衆国 日本」   作:萃夢想天

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どうも皆様、暑い日が続いていますね。
熱中症などにかからないよう、お体ご自愛ください。

特に令和初のコミケに赴かれた強者たる皆々様は、激戦地での疲れを
充分に癒すよう努めてください。何事も体こそが資本ですからね。

さて、前回は少々強引に一つの話を切り取ってしまったのでやや短めに
なっていましたが、今回もその続きなので短くなりそうです。
読者の皆様が感想欄で鯖の真名を予想されるたびに、いつ的中されるのか
戦々恐々としております。ヒントを出しすぎないことも大事って、ちぃ覚えた!


それでは、どうぞ!





第一章三節 根を落とした今、水やりの仕方を模索中

 

 

 

 

 

 

どうも、つい今しがた場の雰囲気に呑まれないように気を引き締めた発言をしたはいいものの、

ふと冷静になって振り返れば他力本願ムーブかますダメ人間と化したゼベル・アレイスターです。

 

いや、俺の言ったことは間違いではないんだけどね。俺みたいな平凡な魔術師一人じゃ、逆立ち

したって人類の歴史そのものに立ち向かえっこないんだしさ。けどもう少し考えてから喋る方が

良かったなって今更ながら後悔してます。いやー恥ずい。マジで恥ずい。いっそ殺してほしい。

 

先の発言を顧みて独り赤面して悶絶しかけた俺に、八つの瞳、計四人分の視線が突き刺さる。

 

分かってるから、言わなくても。堂々と他人任せ発言するマスターなんて最低だよねゴメンね。

今度からはちゃんと言葉を選んでから喋るんで勘弁して下さい。聞かなかったことにして下さい!

 

 

「…………ふふ。何を今更」

 

「オーゥ! もちろんだともマスター! 良い意気込みだ、痺れたぞ! ワハハハハ!」

 

 

ライダーはもう気にしないことにする。アイツには多分羞恥心ってもんが欠落してる恐れがある。

そんな奴に恥ずかしいから止めてくれっつっても逆効果だ。延々と弄られ続ける未来しか見えん。

もう考えるのやーめた! これ以上俺自身の恥について考える脳細胞がもったいないっつーの!

 

もはや開き直りに等しいゴリ押しで精神の安定化を図ろうとしていると、ライダーの帰還により

開けっ放しになっていた扉の外から、スーツを着込んだ男性から声をかけられた。

 

 

「アレイスター特別顧問。そろそろお時間です」

 

「え、アレ? もうそんな時間だっけ?」

 

「申し訳ありません。ですが、この後の首相のスケジュールに変更があった影響で……」

 

「早まったのね、なるほど。りょーかい、すぐ行きますんで」

 

 

男からの話を聞き、クリプター会議の後にする予定だったこの国の首相との会談の開始時刻が

早まったと知り、急遽支度を始める。ついでにここに集まったサーヴァントにも指示を出す。

 

 

「ゴメン、そういう訳だから俺は抜けるわ。キャスター、お前はライダーから接触した例の

相手について詳細に聞きだしてくれ。ランサーもフォーリナーもそういうの向いてないから」

 

「ふむ。しかし『観測』についてはどうする?」

 

「一時中断。話をまとめた後に再開。切り上げたいからって適当に済ませるなよ?」

 

「流石にそこは弁えているとも」

 

 

キャスターことガリレオには、あのライダーからバーサーカーについての話を引き出してもらう。

このメンツでそれができるのはコイツしかいない。理由はさっきも言った通り。

 

それと、俺たち以外の、というか異聞帯の人間がいる手前、キャスターの真名は明かさない。

彼らだって人間だ。もし今後カルデアと接触した際にそこからガリレオの名前が判明してしまう

恐れだってある。まぁ知られても困る事は無いが、未知の相手というだけで充分な脅威になるし。

だから他のサーヴァントたちの真名も明かさずクラス名で呼ぶし、サーヴァントたちにもそれを

徹底するよう呼びかけている。まぁ二名ほど分かってるか分からんのがいるが、そこは目を瞑る。

 

 

「ランサー、アンタはしばらくの間、俺とフォーリナーの護衛をしてもらいたい。頼めるか?」

 

「承知した」

 

「んでフォーリナー」

 

「妾に命じるというのね。ふふふ、いいわよ」

 

「お前さんはいつもと同じだ。出来るだけたくさん(・・・・・・・・・)産んでくれ(・・・・・)

 

「いいわ。ええ、貴方の命令ですものね」

 

 

同様にこの二名にも指示を出す。ランサーには、例のバーサーカーや他のサーヴァントの明確な

情報が得られるまではこちらの防衛に回ってもらう。俺が一番危惧するのは、狙撃と暗殺だ。

原因は不明だが、この異聞帯という異なる人類史が続く世界に汎人類史側の英霊が召喚される

という事象。まず放っておいていい問題ではない。そいつら全員が敵に回るかもしれないという

最悪の想定を回避する為に、何としてでも英霊の情報を、最低でも数くらいは把握しておきたい。

 

徒党を組んで攻めてこられると厄介だし、こっちにいるサーヴァントの内、まともに戦闘を許可

出来るのはランサーだけだ。今のところはな。だから、何が何でもあと二騎くらいは手元に置いて

おきたいくらいだが、そう簡単にもいかないようだ。バーサーカーとは早速敵対したようだし。

 

サーヴァントの探索にも、キャスターとライダーを使っている。あの二人はそういった面でも

重宝しているけど、ランサーは手持無沙汰になりやすい。この異聞帯は現段階において、英霊とか

人間とかはともかく、あらゆる暴力行為の(・・・・・・・・・)必要性が皆無(・・・・・・)となっているか、余計に仕事が無い。

だからランサーは護衛に適任ってわけ。そんでフォーリナーには、魔力源の生成を依頼しておく。

正直言って彼女の能力には本当に助けられている。でなけりゃ俺はとっくに干乾びて死んでた。

 

なにせ俺はこの場にいる四騎のサーヴァント全員と契約を結んで(・・・・・・・・・)いる(・・)んだからな。

 

どれだけ優れた魔術師であっても、普通一騎と契約するだけでもヘビーだってのに俺はその四倍。

英霊にも格や強さがあるから一概にも言えないけど、俺のような貧弱な魔術回路の魔術師の場合、

せいぜい絵本作家や小説家の英霊くらいしかまともに維持できないくらいに俺の魔力量は少ない。

だがフォーリナーはこの問題を解決する術を持っていた。彼女の宝具とスキルの相乗効果により、

眷族をほぼ無尽蔵に召喚できるというものだ。まぁ眷族の見た目は筆舌に尽くし難いものだけど、

魔力タンクとしてはかなり優秀であり、おまけに一部の個体は戦闘力を有しているのだ。

 

ハッキリ言って、使わない手はない。直視できないくらいにグロイ肉塊染みてるけど。

 

そんな感じで各々の役割を通達してから、俺はスーツ姿の役人の案内を受けて別室へ移った。

その別室とは、この国会議事堂の中心部にして、この国の政治の心臓部ともいえる本会議場だ。

汎人類史の日本における国会議事堂では、参議院と衆議院という二つに分かれていて、それぞれに

議会が設けられていたらしい。ところが、この日本異聞帯においては、分裂する意味が無いために

一つに集約されている。議事堂の中央に広々としたスペースを使って設けられているのである。

 

この異聞帯担当のクリプターになってから何度もここにきてるけど、やっぱり慣れないなぁ。

自分が本来いるべき場所じゃない、って感じのオーラで満ちているというか、どうにも居心地が

良くないせいで落ち着かない。他人の、それも重役とかの偉い地位にいる人たちの視線が一斉に

向けられてるってのもあるんだろうけど、こういったやり方の会議は緊張するから避けたい。

 

本会議場には既に多くの人が集まっていた。議会に参加する人間の座る席は勿論の事、会議を

傍聴する為の席にも無数の人が腰を下ろして待っているのが、一階からでもよく見えてしまう。

これ以上待たせるのもよくないし、さっさと本題に入って速やかに会議を終わらせよう。

 

普通なら色々と手順を踏んでから始まる会議だが、俺はそういったお決まりを無視して話を

切り出す。

 

 

「お待たせしてすみません。これ以上お時間を取らせたくないので、本題に入りましょう」

 

「うむ。こちらとしても長く時間は取れない。早速だが本題に入ってくれ」

 

「かしこまりました首相。それでは、こちらをお聞きください」

 

 

会議場にいる全ての人間の意識が向けられる状況に早くも腹の痛みを感じながらも、つい先程

使用したばかりの通信礼装を取り出し、内蔵されていた別の使用方法を起動してみせた。

 

それは__________映像記録の再生。

 

通信の為の礼装ではあるけれど、トランシーバーのように一方的な情報送信しか出来ないような

低スペックな代物じゃない。他の連中が使ってるかどうかは知らないが、俺は通信記録の保存、

並びにその再生機能を十全に利用させてもらっている。これも俺の策の一つってわけよ。

 

突如として浮かび上がった映像と音声記録に驚く面々を無視して、記録を再生する。

そうして十数分間の記録を再生し終え、それを会議場内にいる全員に余すところなく見せつけた。

え? 魔術の公開は神秘を堕落させる? ご安心を。彼らは今見たものの全てが『先進的科学技術』

であると信じて疑っていない。当然ながら、俺が魔術師であることも向こうには伝わっていない。

 

さて。俺がクリプター会議の内容を異聞帯の人間たちに明かしたのには、当然理由がある。

 

 

「これにて映像は終了。お集まりの皆々様、ご覧になられた今ならば、ご理解いただけますね?」

 

 

それは、この日本異聞帯という「有り得ざる歴史」を、その歴史の住人達に認めさせる事だ。

 

 

「…………首相、これが本当だとするならば、我々は一体……」

 

「言わずとも分かっているよ、環境大臣。アレイスター特別顧問、質問を幾つか、良いかね?」

 

「構いません」

 

 

自分たちが本来の歴史の歩みとは違う歴史の中に生きている。そんな事を見ず知らずの人間から

一方的に言い張られて、それを本気で信じる人間がいるとは思えない。どんな歴史の中でもだ。

だから俺は、まずその前提を崩す事にした。この世界が、間違いであると、明確に突きつける。

 

この映像を見て彼らは理解した。自分たちの進めてきた人類史が、過ちの末に消された事を。

この音声を聞き彼らは理解した。知らぬ間に消され、知らぬ間に蘇り、今があるという事を。

 

てなわけで、自分たちの存在の根底を揺らがされた彼らは、ほぼ確実にこう尋ねるだろう。

 

 

「我々は_____________一体、何を間違えて消されたのかね?」

 

 

ハイ、予想的中。

 

こうくるだろう事は読めていた。付き合いは二か月程度だが、この首相はとても賢い人だと

分かる程度には関わってきている。そんな彼だからこそ、まずそこから尋ねると思っていた。

読めていたのなら、そこから先の対応も考えられる。シミュレート通りに答えを口にする。

 

 

「いいえ、首相。あなた方は決して、間違ってなどおりません」

 

 

これは俺の本心からの答えでもある。この異聞帯は、別に何も間違ってなどいないはずである。

 

そもそも、正しいか正しくないか、なんてのは『比較』でしかない。それも客観的な比較だ。

主観的に見て正解かどうかなんて、当人にしか分かる訳が無い。当人が正しいと信じた答えで

あったとしても、客観的に見て間違っているだなどと、主観で気付けるはずが無いのだ。

 

だから俺は、胸を張ってこの異聞帯の住人達に、汎人類史を生きた者の代表として答える。

 

 

あらゆる戦いに勝ち続けて(・・・・・・・・・・・・)世界の国々を吸収し(・・・・・・・・・)続けた最強の日本(・・・・・・・・)が、間違いだったなど」

 

 

言えるわけが無いし、言うつもりも無い。何故ならそれは、間違いないなんかじゃないからだ。

 

 

「あるはずがございません」

 

 

日本異聞帯が何故、異聞帯と成り果てたのか。その理由は三か月に渡る現地調査で推察した。

何故これほどの歴史が、汎人類史よりも未来を目指せないと切り捨てられたのか、読めた。

このままでは確かに、汎人類史よりも先の未来は得られない。故に、それを俺たちが変える。

 

俺たちクリプターとサーヴァントならば、それができる。

 

 

「そう、か。そう言ってくれるのか、異なる歴史からの流浪人よ」

 

 

俺の答えが満足のいくものであったのか、首相は固く引き締めていた頬の筋肉を少し緩めた。

周囲のお偉方たちも未だ不安や猜疑の残る表情ではあるものの、少なくともさっきよりかは

俺の発言を信じてくれるようになったと思いたい。いや、思われるように変えていかねば。

 

力を以ての変革を担うのは、力を持ったサーヴァントたちに任せる。

力を持たない俺のような人間が担うのは、同じ人間たちの意識の変革だ。

 

 

「我々クリプターはこの異聞帯のような、星の未来を求める意志に見捨てられた可能性に

手を差し伸べようとしています。無論、この私もそのうちの一人である事は変わりません」

 

 

あくまでこれは、計画の前段階。遂行する上での前提となる意識改革の足掛かりとなる地点。

ここで成功させなきゃ、俺とフォーリナーの計画が水の泡になる。それじゃあ意味が無い。

だからこそ俺は、戦いで役に立たない俺は、戦う為の準備で役に立たなければならないんだ。

 

 

「ですが私は、他のクリプターたちとは違い、皆様を異聞帯同士の争いに巻き込みません」

 

 

ざわめき、空気が動き、意識が入り乱れる。だだっ広い空間でせめぎ合う人の流れを感じる。

それらを敢えて意識しないよう努め、伝えなければならない『俺自身の意志』を言葉にする。

 

 

「クリプターは【異星の神】の為の代理戦争として、異聞帯を駒代わりにしようとしていると

いう事は、先程御見せした記録でお分かりいただけたでしょう。だから今、私は宣言します。

この日本異聞帯が、他の異聞帯と戦うという最悪の事態だけは、絶対に起こさせないと!」

 

 

空間を飛び交っていた無数の意識が一斉に飛び掛かってくる図を、幻視してしまう。

それほどに緊迫し、緊張した場にいるのだという事を改めて実感させられる。が、止まらない。

 

 

「クリプターの目的は、異聞帯の領域拡大。それは私も同じです。しかし、彼らとは発想の

根幹が違う。私は他のクリプターのように、二次元的な思考(・・・・・・・)に囚われてなどおりません!」

 

 

ここだ、ここが正念場。俺が戦える唯一の場所。俺という人間が通用する戦場。

取り柄もなければ目立った才能も無い、そんな俺が役立つという意味で戦える無二の世界。

今度こそ。そうだ、俺は今度こそ。人類が歴史の証明者であるという絶対条件を覆すのだ。

 

 

三次元的な発想(・・・・・・・)によって! この日本異聞帯は、地球という星の正史として生き残る(・・・・)!」

 

 

強者には強者の戦い方があり、弱者には弱者の戦い方がある。

そして当然ながら、平凡な者には平凡な者にとっての勝ち方があるのだと知らしめてやる。

 

 

「その為に、皆様と私たちの協力が不可欠です。未だ知りえぬ(・・・・・・)敗北が訪れる前に(・・・・・・・・)!」

 

 

俺にとって「勝ちだ」と思えるやり方で、俺の正しさを人類史に刻み付けてやろうじゃねぇか。

 

 

 









いかだだったでしょうか。
これからあと三~四話くらいは、主人公とサーヴァントによる異聞帯生活の
様子が描かれることになるかと思います。

それが終わったらいよいよカルデアとご対面………になるのかな?
その前に、他クリプターとの関係性を描く話を書くのもアリですかね?

もしよろしければ、感想欄で皆さまのお声を聞かせていただければ幸いです。


ご意見ご感想、並びに質問などお待ちしております!

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