Lostbelt No.8 「極東融合衆国 日本」   作:萃夢想天

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どうも皆様、モンスターハンターの新作を購入してしまった萃夢想天です。
流石かつてのG級を彷彿とさせる強さ。おかげでソロ弓の私は生き残れない
環境と化してしまいました………現在は太刀での回避抜刀斎の修行中です。


さて、今回はいわゆる「ふりかえり」回のようなイメージでの話です。

クリプターたちが異聞帯と空想樹の育成に勤しむその頃、カルデア側の人々が
どうなっているのかを少々展開を省略気味に描こうと思っております。
ちなみにカルデア所属の人類最後のマスターの性別は、女性になりました。
この後の展開を考えると、男性より女性のほうが書きやすくて………。

念の為に警告します。
この話には、FGOの2部、及び1.5部の核心に触れる内容が記載される可能性が
ございます。ネタバレを厭う方は、この作品を閲覧しないことを推奨致します。
「問題ないぜ」なんて言って変わらない方々は、このままで。


それでは、どうぞ!





序章:裏 2018年1月1日 カルデアの者たち

_________________________その日、歴史は(・・・・・・・)跡形も無く漂白された(・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

結論から言えば、ソレは紛れもなく人類史への攻撃(・・・・・・・)であった。地球ではなく、歴史への侵略行為。

地球とその他の星を内包する銀河系とは異なる次元から来訪してきた、正体不明の干渉によって。

2018年現在まで星の表面に確認されていた、ありとあらゆる文明の痕跡が、生命の存在総てが、

観測不可能と成り果ててしまった。空から垂直に落下してきた、七つの光る何かに(・・・・・・・・)よって(・・・)

 

 

 

 

_________________________2017年12月31日を以て、星の歴史は、終末を迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いったいどうして、こんな事に………」

 

 

嘆かずにはいられない。原因なんて私には想像もつかないし、今だって理解が追い付いていない。

けれど直面している問題に向き合わなくちゃいけないのは分かる。どれだけ辛く苦しくても。

 

 

「………………………先輩」

 

「大丈夫、私は大丈夫だよ。ありがとう、マシュ」

 

 

少なくとも、この少女の前でだけは、私は強くなる必要がある。私の為に、その穢れを知らない

真っ白な命を賭して、戦いに身を投じてくれた彼女、【マシュ・キリエライト】の前でだけは。

 

燃え盛る業火。瓦礫の下敷きになった女の子。肺を焼く熱と煙。そして、繋いだ手。

 

全てが『あの日』から始まった。この私【藤丸立花】が、世界の命運を背負う事となった日。

魔術なんてものがこの世にあると知らなかった一般人。そんな弱く無価値な私だけが何故か

人理修復とかいう前人未到の偉業を担う事態になり、それを私は、私たちはやり遂げてみせた。

 

最初の人理修復は、マシュを含めたAチームの8人が遂行する予定だったと聞いたのは後の話。

それがレイシフトというタイムスリップ技術で行われようとした瞬間、爆発事故が発生して

Aチームから予備のBチーム、各技術系職員が巻き込まれ全滅。辛うじてマシュだけがあの場で

なんとか生きていたけれど、彼女が特殊な存在でなければ、瓦礫に潰されて死んでいた。

 

 

『手を………握ってくれますか?』

 

 

忘れもしない、マシュとの約束。そしていつの日か、マシュが私の為に戦う理由になって。

魔術素人の私が、あの日から魔術とそれを使った英霊召喚を駆使して、七つの特異点を修復

するという大冒険は、ここから始まったのだ。今にして思えば、苦難の道行きばかりだった。

 

 

A.D.2004_______________特異点F 【炎上汚染都市 冬木】に始まり、

 

A.D.1431_______________第一特異点 【邪竜百年戦争 オルレアン】

 

A.D.0060_______________第二特異点 【永続狂気帝国 セプテム】

 

A.D.1573_______________第三特異点 【封鎖終局四海 オケアノス】

 

A.D.1888_______________第四特異点 【死界魔霧都市 ロンドン】

 

A.D.1783_______________第五特異点 【北米神話大戦 イ・プルーリバス・ウナム】

 

A.D.1273_______________第六特異点 【神聖円卓領域 キャメロット】

 

B.C.2655_______________第七特異点 【絶対魔獣戦線 バビロニア】

 

 

そして、A.D.2016________終局特異点 【冠位時間神殿 ソロモン】で、決着した。

 

 

私たち人類が唐突に2017年以降の未来を焼却された、人理焼却という未曽有の大災害は、

人類最後のマスターである私と、その契約サーヴァントのマシュ・キリエライトと、最初からは

かなり人数が減ってしまったが頼もしさは健在だったカルデアのスタッフと、英霊たち。

多くの人々と明日を望む人類の希望の光が、死と断絶の『憐憫』から未来を勝ち取ったのだ。

 

 

………………………ただ一人の犠牲を除いて。

 

 

私の人類史を巡る戦いの旅は、これで終わらない。いや、終わってほしかったんだけど。

ここからは私たち人類が獲得した2017年から、カルデアの解体が予定された2018年末までの

一年間の中で何の脈絡もなく浮き彫りになった、【四片の断章の物語(エピック・オブ・レムナント)】が幕を開けた。

 

 

A.D.1999_______________亜種特異点Ⅰ 【悪性隔絶魔境 新宿】

 

A.D.2000_______________亜種特異点Ⅱ 【伝承地底世界 アガルタ】

 

A.D.1639(寛永十六年)_______________亜種特異点Ⅲ 【屍山血河舞台 下総国】

 

A.D.1692_______________亜種特異点Ⅳ 【禁忌降臨庭園 セイレム】

 

 

私はしがない一般家庭に生まれ育った、ただの人間でしかない。本当に何の素質も持たない、

ごくごく普通の凡人。そんな私が、気付けば幾度も人類史を救った英雄へと成っている。

勿論、私一人で成し遂げたなんて口が裂けても言えない。私が人類史の修復を達成出来たのは、

魔術による召喚に応じてくれた、歴史に名を刻む英霊のみんなが手を貸してくれたからだ。

 

日本で普通に女子学生していたら、こんな辛い思いはしなかっただろうけど、それと同時に

こんなにも素晴らしい『色彩』に満ちた大切な思い出を得ることも出来なかっただろう。

世界は美しいばかりじゃない。汚くもあり、残酷でもあり。それもまた世界を彩る一つの色。

一日時間の針が進むにつれ、その分だけ未来が作られていく。これが、人の歴史である。

 

出逢い、別れ、また出逢う。

現実の非情さを、その吐き気を催す重さを、私は投げ出す事なく受け止め続けてきた。

 

繰り返すが、これは決して、【死と断絶の物語】などではなかったと断言できる。

私たちが人理修復の中で目に焼き付けた世界の在り方は、清濁を含め『色彩』で溢れていた。

一分一秒でさえ愛おしく思えるほどの輝きを放つ、【愛と希望の物語】だったのだ。

 

 

そうした波乱万丈を乗り越えた先で、未来を勝ち取ったはずの私たちは。

謎の敵性勢力によって拠点であるカルデアそのものを襲撃され、敗走していた(・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_____________2018年1月1日

 

_____________虚数潜航艇 シャドウ・ボーダー

 

 

「何においても、まずは現状を正しく把握すべきだろう」

 

 

沈黙が支配していたブリッジに、冷淡ながらも威厳に満ちた声が、遮られることなく響く。

誰もが生き延びる為に必死になっていた昨日を過ぎ、生存に安堵した今日を迎えて一時間も

経過していない内にその発言をしたのは、現カルデアにおいて貴重な二騎の英霊の内の一騎(・・・・・・・・・・)

 

 

「そうは言うけどね、ホームズ。まだ私たちは窮地を脱したばかりなんだよ?」

 

「理解しているとも、ダ・ヴィンチ。だからこそ、明確な行動指針が必要であるべきだ」

 

 

ブリッジの作戦司令台を挟んで語らっているのが、今の私たちが有する最高戦力。

 

カルデアが人理修復という目的を成し遂げた以上、その存続は難しく、結果として査定に

やってきた魔術師の人が個人資産で丸ごと買い取ってしまい、一個人の所有物へ成り下がる。

その査定をどうにかやり過ごすべく、人理修復中の詳細な資料や記録データを全て改竄したり、

物的証拠に成り得るサーヴァントたちと契約を解除して「座」に還ってもらったりしていた。

結果、カルデアに残された英霊は、人理焼却の折に命を落とした所長の代理を務めてくれていた

万能の天才ダヴィンチちゃんこと【レオナルド・ダ・ヴィンチ】と、さらにもう一人。

 

それが鬱い顔の名探偵こと【シャーロック・ホームズ】その人であった。

 

万能の天才を自負するダヴィンチちゃんと、創作における探偵という存在の最高峰と称される

ホームズの、夢のタッグが話している内容に凡人代表の私が首を突っ込む余地などない。

彼らが必要だと言えば必要だと思うので、その行動指針とやらについて話し合いをしてほしい。

 

ちなみに、カルデアを買い取った例の魔術師(立場上、新しいカルデアの所長なので新所長と

呼称することにする)は、迫りくる死から解放された反動か、自分専用の部屋で熟睡中だ。

なんでも「現段階での最高権力者は、カルデアを買い取り所長の地位を預かるこの私である」と

いう理由で専用の個室を無理矢理作らせていたけど。そんなこと言ってる余裕があるのかな。

 

 

「異論は無いね、マスター・立花」

 

「え、あ? ゴメン、聞いてなかったや…」

 

「無理もないよ、マスターはカルデアが落とされたせいで、マシュへの魔力供給を保有魔力のみで

補うハメになったんだもの。疲れて当然。君みたいにおくすりキメて疲れを忘れられるような

非人間じゃないのさ」

 

「………お疲れのところ申し訳なく思う。だが、これは今じゃないと話せない事なのでね」

 

「それって、あのゴルドルフって魔術師の人がいたら、話せないって事なの?」

 

「……実に聡明だ。これなら問題ない。話にも充分ついてこられるだろう」

 

「呆れた。普通なら精密検査しなきゃいけない状態なのに。まったく、例の彼(・・・)さえいたらなぁ」

 

 

ほんの些細なその一言が、琴線に触れる。瞬きほどの微かな時間だが、私の肩が震えた。

そして、この二人が私の反応に気付かないはずも無く。先程とは別種の沈黙が訪れる。

 

 

「………今のは君の失態だ、ダ・ヴィンチ。私のような非人間でも分かる」

 

「………そう、だね。ゴメンよマスター、配慮が足りてなさ過ぎた。まだまだだな、私」

 

「う、ううん。いいの、気にしないで! 私は全然気にしてないから」

 

 

どんな苦境でも、諦めず、下を向くことなく空を見上げて笑う。今までずっとそうしてきた。

そう、どんなに辛く苦しいことが起きても、笑うことだけは忘れちゃいけないんだって。

私たちは挫けず立ち上がる事を絶対に止めない。どれだけ歴史を正しても、もう逢えない彼に

誓ったのだと。それでも、想い出深いもう一つの我が家とも呼べるカルデアを追われる形になった

影響か、極限状態には慣れてるはずの私の心が限界を迎えたのか。涙が、溢れて止まらない。

 

 

「気にして、ないからさ……」

 

「マスター、その、ゴメン」

 

「今は何も言っても逆効果だ、ダ・ヴィンチ。少しだけ、気持ちの整理をさせてあげよう」

 

 

二人にも、生き残ったボーダー内の職員の皆にも迷惑になる。だから泣き止まないと。

そう頭では理解できていても、体が勝手に涙を溢し続ける。参ったな、水だって今じゃ貴重な

資源だっていうのに。浪費してたら怒られちゃうよ。だから、だからもう、泣き止まなきゃ。

 

切り替えよう。今はもう、どうしようもない。カルデアにはもう、戻れないんだから。

進むしかない。私たちの旅はいつだって、進む以外の選択肢は無かった。そうだよね?

 

 

____________私の初恋の相手で、この想いを伝える事がもう二度と叶わない貴方。

 

 

パチン、と両手で包むように頬を叩いて気合を入れなおす。うん、ジンジンと痛む。

少し腫れちゃったかもだけど、これくらいなら大目に見てくれるよね、ドクター・ロマン。

 

 

「もう大丈夫。大丈夫だよ、ダヴィンチちゃん」

 

「ほ、本当に? 無理してない?」

 

「今は気にしてる場合じゃない、でしょ?」

 

「それはそうだけど……でも、でも!」

 

「そうだよ。ロマニ(・・・)アーキマン(・・・・・)は私の初恋の人。でも、今だけはその事を忘れる!」

 

 

この状況で、私が彼を思い出してしょげても意味なんてない。だったら、一旦置いておこう。

悲しみは癒えないし、この想いは捨てられない。だけど、見て見ぬふりならしてもいいよね。

時間を少しでも無駄には出来ない。物資の限られた閉鎖空間で極限状態ならなおさらだもの!

 

 

「評価を改めよう、ダ・ヴィンチ。彼女は、我らがマスターは、強い」

 

「………うん、そう思うことにする。それと迂闊な発言の自粛も、データ更新項目に追加する」

 

「さて、それではマスターの心情整理も終えた今、本題に入ろう」

 

 

二人に変な気を遣わせちゃったことを心の中で詫びつつ、ホームズの言葉に耳を傾ける。

 

 

「今後の行動指針について、だったね」

 

「というよりその前段階。つまり、現状の把握に努めるべきだ」

 

「現状………ピンチって事?」

 

「単純かつ明快で大変素晴らしいが、目の付け所が違う。今知るべきは、我々の敵(・・・・)の事だよ」

 

 

なんだか褒められた気がしない褒められ方をされたような。

 

 

「我々の敵って事は、カルデア脱出時に無線通信で語りかけてきた、彼らの事かい?」

 

「ああ。彼ら『クリプター』を名乗る存在について、知り得る情報を共有すべきだと考える」

 

「ふーむ。クリプター、ね。名称はともかく、彼らの構成については推測できるかも」

 

 

早速蚊帳の外である。まぁ人類最高峰といっても過言じゃない頭脳の持ち主である彼女らに

割って入れるほど、私は自惚れてない。一応、分からなくても聞くだけは聞いておこう。

 

 

「ね、マスター。前の私(・・・)が独房に押し込められてた時、君に話した事を覚えてる?」

 

「え? えーと、確か私が、Aチームのマスター候補の話を聞いたんだったよね?」

 

「ほう」

 

 

尋ねられた私は、数時間前の出来事を思い出す。査定の一環として口頭尋問を要求された時、

マシュと私、職員のムニエルさんとダヴィンチちゃんの四人で独房に入れられてたんだった。

その時はまだ、ダヴィンチちゃんの姿は、豊満なムチムチグラマラス美女だったんだけど、

カルデア脱出の直前に彼女は私たちを庇って、一度その霊核(いのち)を奪われてしまっていた。

 

しかし、そこは万能の天才ダヴィンチちゃん。もしもの時のバックアップと称して、自分自身の

幼い身体を作り、稼働できるよう準備していたのだという。未来予知能力でもあるのか?

とにかく、ボンキュッボンなモナリザだったダヴィンチちゃんは、今では私のおへそのあたりに

頭頂部が当たるくらいの身長のロリンチちゃんとなっているのだ。万能の天才ってスゲー。

 

そして、そうなる前の話。独房内で私が気になって尋ねた話を、このダヴィンチちゃんもやはり

しっかりと覚えているようだ。というわけで、その時に聞いた内容が重要みたい。

 

 

「私はボーダーの最終調整を行っていたので、その話は知らないな」

 

「君は勝手にカルデア内の資料読み漁ってたから、とっくに把握済みだろ」

 

「Aチームメンバーの詳細な資料やデータは、ね。かつての君の口からマスターへと語られた、

ダ・ヴィンチの主観からの情報には興味がある。齟齬の改善もふまえ、もう一度話してほしい」

 

「はー、本当にこの非人間。言うに事欠いて、万能の天才に『齟齬の改善』ときたもんだ」

 

 

あの時は確かにホームズはいなかったし、なんなら彼が他のサーヴァントの皆と同じようにして

英霊の座とやらに還ったとばかり思ってたから、知っていなくて当然ではある。

でも天才って分野の人は、どうしてこんな状況下でも普段通りでいられるんだろうか。

 

って、そうじゃなくて。

 

 

「二人とも、その辺で。私が聞いた話をホームズに話せばいいんだね?」

 

「いや、それは違う。君が聞いた話を、もう一度ダ・ヴィンチに話してもらう。これが重要だ」

 

「うーん。私は前の私からデータを引き継いだ存在だ。今の私の話は、主観じゃなくなるよ?」

 

「構わない。その辺りの把握も兼ねている。マスターの認識度も向上する、いい塩梅だ」

 

「分かったよ。それじゃあ立花ちゃん、同じ話をもう一度聞いてくれるかい?」

 

 

どうやらホームズは、今のダヴィンチちゃんに、昔のダヴィンチちゃんが話していた事をもう一度

話してもらいたがっているらしい。天才の考えは読めないけど、彼なりの考えがあるのだろう。

私自身、Aチームの人たちの話を聞いてから後にいろいろあり過ぎて、若干内容が飛んでいるし、

一石二鳥ってヤツだね。前に聞いた内容と間違ってないか、注意深く聞いてみよう。

 

 

「ふふ、こういうのってなんか、知的で素敵な美人女教師って感じで、燃えてくるね!

さーて、あの時話したのは………Aチームメンバーの簡潔な紹介、だったよね?」

 

「うん。名前と、ちょっとした特徴とか、人柄とか。そんな感じだった」

 

「うんうん。記憶のアップロードに問題なし! 続けるよ、ホームズもいい?」

 

「いいとも。続けてくれ」

 

 

そこからダヴィンチちゃんの口から語られた内容は、一言一句前の時と変わっていなかった。

 

 

Aチームのリーダーを務めていたという男性【キリシュタリア・ヴォーダイム】について。

魔術師たちの総本山、『時計塔』の天体科主席で、さらには魔術家名門中の名門の若き当主。

カルデアを作った『マリスビリー』という人の一番弟子だったらしく、Aチーム内においても

魔術師として最も優れていたのは彼だったという。召喚を予定していたクラスは、ランサー。

 

 

続いて、同じく時計塔の降霊科の秀才【オフェリア・ファムルソローネ】について。

彼女は実質的にAチームの副リーダーポジションにいたらしい。統率力に長けていたのだとか。

また、彼女は魔術界隈において有名な『魔眼』という特殊能力を持った目を、生まれつき右目に

宿していたようで、眼帯姿はとても目立ったそうな。数少ない女性マスターの一人でもある。

召喚を予定していたクラスはセイバーで、なんでも契約する英霊に拘りがあったと聞いた。

 

続いて、平凡な魔術師だったとされる【カドック・ゼムルプス】について。

彼は先の二名のように突出した才能や秀でた能力があったわけではなく、人理修復という偉業に

参加する絶対条件である「レイシフト適性」が高かったという。私と同じような境遇なのだとか。

天才揃いのチーム内で平凡だった彼は、自虐的ながらも心優しい青年だったと聞いている。

召喚を予定していたクラスはキャスター。平凡な魔力を補えるクラスを希望していたらしい。

 

続いて、素性の一切が謎に包まれた人【スカンジナビア・ペペロンチーノ】について。

国籍不明で名前も偽名。この時点で胡散臭さと怪しさが凄いけれど、何故かダヴィンチちゃんや

同じ部屋で聞いていたマシュからは好印象を持たれているようで。悔しくなんかないやい。

最年長で、「生まれる時代を間違えた」とかなんとか。ムードメーカー的存在だったとの事。

召喚を予定していたクラスはアーチャー。仏教やインド神話なんかに精通していたんだっけ。

 

続いて、ダヴィンチちゃんが閉口した【ベリル・ガット】について。男の人、以上!

だってマシュもダヴィンチちゃんも話したくなさそうだったんだもん。そしたら聞けないよ。

 

続いて、色々とヤバい雰囲気が伝わる【デイビット・ゼム・ヴォイド】について。

時計塔では最も生徒の少ない科目とされる『伝承科』から追放された、危険人物なのだとか。

Aチーム内でもよく分からない立ち位置だったらしいが、先のマリスビリーさんは彼の能力を

高く買っていて、ダヴィンチちゃんも一目置くような、稀有な存在だったようである。

召喚を予定していたクラスはバーサーカー。うん、ヤバい人って事は充分伝わったよ!

 

 

「…………なるほど。貴重な情報だ」

 

「で、あとはマシュを除いて二人いるんだったよね?」

 

「うん、そうだよ。あとの二人は、まぁ………一緒に説明した方が手っ取り早いね」

 

 

間を開けて残り二人、【芥 ヒナコ】と【ゼベル・アレイスター】について。

 

 

「そうだな。まずは芥ヒナコから聞かせてほしい」

 

「まーかせて! 立花ちゃんも、それでいい?」

 

「オッケー」

 

 

時計塔出身で、魔女学として知られている(らしい)植物科出身。元は技術者としてカルデアに

来ていたようだけど、マリスビリーさんにマスターとしての才能を見抜かれて抜擢されたとか。

さっきから凄いな、マリスビリーさん。他人の才能見抜き過ぎじゃない? 流石は初代所長さん。

 

 

「………………ふむ」

 

 

ホームズが何か考えてる顔してるけど、話を戻そう。彼女は何故か、ロマニの健康診断や定期の

検診を受けずにいたようだ。一度も体調不良や怪我をしなかったから咎められなかったみたい。

召喚を予定していたクラスはライダー。本人がそう強く希望していたのだとか。

 

 

「そして最後に、ゼベル君だ」

 

 

一番最後にAチームへ加入した【ゼベル・アレイスター】について。

彼はカドック君と同等かそれ以下レベルの魔術師だったらしいけど、私と同じ100パーセントの

レイシフト適性があると発覚したため、急遽Aチーム入りを果たしたのだと聞いた。

召喚を予定していたクラスはエクストラ。この人、なんで基本の七クラスじゃないんだろうか?

 

 

「えーっと、確かこのアレイスターさんと芥さんって、付き合ってるんだよね(・・・・・・・・・・)?」

 

「多分ね。というか、あの距離感はいわゆる異性間の友情じゃ保てないと思われるってさ」

 

「マシュも言ってたけど、『仲睦まじく、ほとんど一緒にいた』んだったっけ? 確定じゃん」

 

「前の私の記録じゃ、起きてから寝るまでずっと一緒にいる姿を何度も見てたらしいよ?」

 

「確定だよソレ。いやー、なんか妙にリアルな感じがしてきた」

 

 

これから戦うかもしれない相手の、そういった情報は聞きたくなかったなぁ。いや本当に。

サーヴァントの中にも、生前は夫婦だったり恋人同士だったり(一方的な)愛情を向けるタイプが

いたけれど、今回は生身の人間なんだよね。うわー、なんかもう、うわー。やり辛過ぎる…。

 

 

「………ふむ。とりあえずは、こんなところか」

 

「そうだね。あとはこの二人が『人間嫌い』だったって共通点ぐらいかな?」

 

「なに? それは…………なるほど。しかし、そうなると辻褄が合わなくなる」

 

「でたよ、お得意の自己完結。これで分かるまでは喋らないんだろ、君」

 

「(営業スマイル)」

 

 

何やら天才探偵のホームズが勘付いたみたいだけど、私には何が何やら。怪しい点でもあったの

だろうか。それだったら、ペペロンチーノさんとやらがダントツで怪しいと思うんですけど。

まぁホームズは確証が得られるまで自分の推理を語ろうとしないから、いつも通りだね。

これが彼のライバルであり、私の相棒の一人でもある悪の犯罪教授だったら話は変わったのに。

ダディなら「マイスウィートの頼みなら、いくらでも語ろうじゃないか!」とか張り切って話を

してくれてただろう。チョロイ、犯罪界のナポレオン、チョロイ。逆にそれでいいのか?

 

 

「立花ちゃん、悪い顔してるー」

 

「どこかの悪辣教授の悪影響を受けているようだね。これは良くない」

 

「多分『お前にだけは言われたくないネ!』って、座で中指立ててるよ今頃」

 

「実にいい気分だ。彼の負け惜しみなんて、そうそうお目にかかれたものじゃない」

 

 

まぁ、いなくなってしまった彼らを当てにしても仕方ない。現状でどうにかしなくては。

あ、そうだ。現状で思い出したけど、マシュは、私の大切な後輩はどうしたんだろう?

 

 

「そういえばダヴィンチちゃん、マシュは?」

 

「医務室さ。人理修復から向こう一年、戦闘に立つ機会の無くなった身体でいきなり戦闘を

行った挙句、何故か消えたはずの【ギャラハッド】君の円卓までもが復活しているときた。

何か体に異常が起こっているのは間違いないからね。念の為の精密検査中だよ」

 

「何事も無いといいんだけど………」

 

 

人理修復の旅で、マシュの体は傷つき過ぎた。もうこれ以上あの子を戦いの場に出すような事は

してくないというのに、現実はそれを許さない。せめて、また寿命が減ってしまうような事態に

発展することがないようにと祈るしかない。私がマシュにしてあげられる事なんて、その程度だ。

 

 

「私が気にしてもどうにもならないね。気にするべきは今後の事、でしょ?」

 

「その通りだ。しかし、今後といってもやるべきことは既に見えている」

 

「私たちの地表への復帰と、クリプターたちの目的の究明。急務はこれくらいかな?」

 

「これ以上は我々だけで進めるべきではない。例の魔術師が起きてくるまでは、休憩も兼ねて

一時中断としよう。マスター・立花の調整や精密検査も今の内にしておくといい」

 

「それもそうだね。よし、立花ちゃん! マシュのいる医務室へ案内しよう!」

 

 

ホームズ曰く、「今はまだ語るべき時ではない」という恒例のヤツが出た以上、話を先に進める

必要がなくなったという事だろう。それなら提案に従って、休めるうちに休んでおこうかな。

マシュの様子も気になってたし。私より小さくなったダヴィンチちゃんの背中についてブリッジ

から退室する。カルデアより一気に狭くなっちゃったし、今の内にここに慣れておかなくちゃ。

 

 

「それにしても………」

 

「ん? なんだい?」

 

「あ、ううん。なんでもないよ。ただの独り言」

 

 

ポツンと呟いた言葉が耳に届いたらしく、ダヴィンチちゃんが振り向いたのを苦笑で誤魔化す。

彼女は「…そっか」と言って気にしないでくれた。多分、私がドクターの事を思い出してるとか

慮ってくれたんだろう。それはいつも考えてるけど、今は件のクリプターの人たちについてだ。

 

いったい、何が目的で私たちを攻撃してきたんだろう?

そもそも、最初のレイシフトが妨害された際の爆発で、コフィン内に冷凍保存されてたのでは?

だいたい、人理修復の為に集められたメンバーが、どうして人類史を攻撃する側になってるの?

 

いくら考えてみても、私の平凡な頭脳じゃホームズみたいに閃いたりしない。分かってる。

けれど、分からないからって考えるのを止めたら、それこそどうしたって分からなくなる。

何か理由があっての事なのか、それとも単なる裏切りなのか。分からなくても考えは浮かぶ。

考える事を放棄してしまったら、人は人でなくなってしまう。相互理解は生まれなくなる。

 

少なくとも、「敵だから」という理由だけで戦えるほど、私たちは人間を捨ててなんかない。

 

だから私は、考える。人として、考える。人類史を、英霊たちと駆け抜けた一人の人間として。

 

 

「どうして彼らは人類史を、この星を裏切ったんだろう?」

 

 

考えを諦めずに続けても、未だ堂々巡りな思考に、答えは見えてこない。

 

 

 




いかがだったでしょうか?

何が「ふりかえり」回だ馬鹿野郎! 1万字超えてるじゃねぇか!
しかもコレ、進んでるように見えて何一つ進んでねぇし!

だめですな、慣れないことはするもんじゃねぇや。
次回からはおとなしく主人公の異聞帯開拓記を再開します。
少しずつ話の伏線やサーヴァントのヒントを出していきますので、
真名予想や「これはどういうこと?」などの疑問をぶつけていただければと。


次回をお楽しみに!
ご意見ご感想、質問や批評などもお気軽にどうぞ!

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