【三次】 みほエリを見たかった俺はこの先生きのこれるのだろうか? 作:米ビーバー
高等部に進級する前だが―――俺はもう限界です。
オレンジペコ(仮)とダージリンによる“天翔エミ学業アップ作戦”の結果蓄積されていったダメージは確実に俺の身体に影響を及ぼしていたのだ。
その蓄積されたダメージによる身体への影響は徐々に徐々にだが日常生活をむしばんでいて―――ある日突然爆発した。
――月――日
ぼくはいまびょういんにいます
>> To Assam
天翔エミが学力テストの試験後に入院した件について、学内では様々な推測が飛び交った。流言飛語の類も含めてそれはそれはもう大渋滞。
中でも一番多かったのが『ダージリンによる居残り教育の結果によるもの』というもの。
彼女とダージリンのただならぬ()関係については、聖グロリアーナにも広く周知されており、ダージリンが事あるごとに彼女をかわいがって()いることも、同時に同じくらいライバル視していて事戦車道においては真っ向からぶつかり合いたい相手だと認識していることもまた周囲に広く認知されている。
そんな相手だからこそ「やりすぎてしまった」のではないか?
それが周囲の認識として一番有力だと思われていた。
この一件においては私も物申すところがないわけでもなく、特に天翔エミはGI6のエージェントを兼任している身分である。彼女が行動できなくなると作戦行動に支障が出るレベルに収まらず、一時機能不全に陥る場所すら出てくるのだ。
それもこれも彼女が有能だからという証左でもあり、彼女に負担を強いることで上げてきた成果を日常だと錯覚してしまった上層の判断ミスともいえる。
「―――はぁ……」
そうして私―――アッサムは一人廊下でため息を吐く。
彼女の体調管理は、私が担当していたことだ。
だからダージリンが原因だとしても、彼女の体調を管理する私が彼女の不調に初めから気づいていれば未然に防げていた。
―――防げていたのだ。
「――エミ。入るけど、大丈夫?」
コンコンと病室のドアをノックする。集中治療室で治療を受けたのも最初のころだけで、今は一般の病室に入っている。ただし彼女に面会できるのは限られたメンバーだけになっている。
理由はひとつ。
「――あぁ、アッサム?入っていいよ」
入っていいと言われてドアを開けた私の目に飛び込んできたのは――
――病室においてあるモノを組み合わせて簡易のトレーニング用具を自作して、それを使って筋トレをする病人着姿の幼女だった。
いや、正確に表すのならば幼女のように見える中学生だった。
天翔エミはすでに体力を回復し、それなりに動けるようになっている。
面会謝絶としてダージリンとオレンジペコ、ローズヒップを遮断し、彼女たちが面会できないからと一般生徒たちをもシャットアウトした。
今この病室に入ることができるのは、私と、アールグレイ様の二人だけだ。
そうすることでやっと『彼女を守ることができる』から。
天翔エミの肉体は、外から見て治っているように見えても、その実内側はズタズタだ。
そんな状況で私の相棒としてずっと仕事を続けてきた。戦車道を続けてきた。傍目に見えて馬鹿だと、有り得ないと言われ続ける無茶なトレーニングを実践してきた。
その結果が今この状況だ。
天翔エミは無理をし続ける。周囲の声のため、ダージリンのため、私のため、オレンジペコのため、聖グロリアーナのため、
何より自分のために。
「――前にも言ったでしょう?貴女の体力はまだ全盛期の30%。まだまだ休養が必要なのよ?」
「ンな事ぁないさ。自分の身体だ、自分が一番知ってるよ」
グッと力こぶを作ってニッと笑う。その瞳の奥が揺れているのは察することができる。捨てられた子犬のようにわたしに向けて無言で語っているのだ。
“どうしてもだめかな?”と。
「――病室の中だけよ?外でリハビリをしているときには全力を出さない事」
「ありがとな、アッサム」
撫でろコールに応えてやった時の猫の様な屈託のない嬉しそうな顔でそんなことをいうものだから、甘くなってしまう。いけないことだと判っているのに。
*******
天翔エミは回復している。本当はもうとっくの昔に回復している。
でも内部はボロボロなのだ。
血液検査の結果わかった『天翔エミの秘密』。
天翔エミの肉体は徐々に崩壊に向かっていて、それは現在の医学では治療方法すらわかっていない。そも、原因もわからない、病名も症状も不明。ないない尽くしできりがない状態。
――これをダージリンに告げようかと思った。
――それを私は握りつぶした。
ダージリンは天翔エミに対して偏った対抗心と敵愾心、それと愛情を抱いている。
あの子はこの結果を見せたら、きっとこう思うはずだ。
“天翔エミは戦車道を続けたがっている”
“だから弱ってしまう前に彼女の願いを叶えなければならない。私との決着もつけなければならない”と
その結果始まるのは天翔エミへの過干渉からくる過密トレーニング。
それはきっと確実に彼女の寿命を奪っていく――けれどダージリンも彼女もきっと止まらない。
だって彼女の望みはその先にある。
エミはきっとダージリンの手でそこまで羽ばたいていくだろう―――
―――
人道的見地からしても許されるものではない。だってあんまりじゃないか。
彼女は皆のために、私のために、学園のために、己のために、すべてひっくるめてそれらのために歩き続けただけだというのに―――そんな終わり方が許されるはずがない。
―――きっとかつての私が今の私を見たのならば笑うだろう。
馬鹿なことをやって
友達を裏切って
彼女すらも裏切って
その結果、何の成果も得られずにただ無為に時間を使い潰しただけになるかもしれない なんて―――無様に過ぎる と。
「…………アッサム?」
「……なんでもないわ。トレーニングは許してあげるけれど、1日1時間程度にすること、その後必ず私の問診を受けること。さもないと今度はまた特別治療室で何もせずベッドの上でぼーっとすることになるわ」
「うげぇ……」
一度叩き込んで白い部屋に白いベッドしかない粗末な部屋で一日過ごすという拷問にも似た時間を過ごさせたのが効いたのか、吐き気を催すレベルで嫌がって見せたので、こちらは笑顔で死刑宣告の執行猶予を飛ばすことができる。
彼女は放っておいても寿命を削って歩き始める。
―――だから“私がすべてを管理する”
彼女の体力も、筋力も、肉体耐久度も、生理周期から来るバイオリズムの乱れ、そこから派生する僅かな運動能力の上下の振れ幅ですらも詳細なデータで読み切って、彼女の負担を限りなく少なくする。
私にならできる。
彼女を相棒として、その身体データを常にリアルタイムで更新し続けてきた私だけにできること。
そうして可能な限り彼女の限界が来る日を引き延ばして、引き伸ばして
―――神に奇跡を請うのだ。
『天翔エミのこの原因不明の難病を、治療する技術が確立されますように』と。
「じゃあ、面会時間が終わるからそろそろ行くわ。貴女の今の身体については、ファイルにまとめておいたから。ちゃんと読んできちんと養生しなさい。
――退院したら、戦車道だってまたできるから」
「あいよ。高校の大会までには退院するさ」
これまでの自分の回復力を疑っていない彼女の姿に、胸が痛む。
体力だけなら、身体能力だけなら、回復はするのだ。
ただし彼女の寿命は、それを引き換えにして短くなっていく。
仮にこの寿命の話を彼女にしたところで「それでも走る」と言うだろう。
彼女にとっての戦車道とはそういうものなのだと、ダージリンが、彼女自身が、ともにそう話していたことを覚えている。
「―――
廊下を歩いていてふと外を見ると、通り雨のようにざぁざぁと降った雨は上がっていた。
―――けれど濡れた窓に移された私の瞳は、ひどく濁っていて―――
―――こんな私にお似合いだと、そう思ってしまうのだ。
*******
「アッサム?紅茶の園には今日は来ないの?」
「ええ、今日はGI6の諜報活動で明日から出向よ。エミを借りるわ」
心配そうに声を掛けてくるダージリンにそう答えて、私は踵を返して歩き出す。
コツコツと廊下を叩く靴の音に混じって、ダージリンの声がひとつ
「―――最近あなた、ずっと“そんな顔”じゃない……何があったというの……?」
その呟きは耳に拾われたが、私は答えを返すことなく立ち去った。
―――だってこれはもうダージリンには関係のない話だからだ。
「―――ただいま、“野良猫”」
「いや、ただいまじゃないだろ、アッサム」
コーヒーハウスの扉を開き、カウンターテーブルを越えて向こう側へ。
更衣室の隠し階段を今降りようとしていたエミを捕まえてそう挨拶すると、呆れたような困ったような顔で答えが返ってくる。
その答えにクスリと笑って、私は笑顔で彼女にファイルを渡すのだ
「さぁ、行きましょうか。今度のミッションも難解よ」
「―――まぁ、何とかなるでしょ」
隣でいつもの服装に着替えているエミの方へ顔を向けながら、目線だけ下に落とす。手首に巻いた時計の表示板には、時刻とは違う数字が表示されている。
エミが身に着けている体温保持のためのスーツに取り付けた装置から届く、彼女の心拍数が表示されるようになっているのだ。
彼女の寝室のベッドにもそれは取り付けられており、24時間バイタルサインが表示されるようになっていて、有事の際にはラップトップに警告が届けられる。
徐々に弱っていく彼女の様子を、ただただ見守る事しかないかもしれない。
でもそれは私の罪であり責任だ。
あの子の最後までを見守る責任が、私にはある―――。
******** > To Emi
――月――日
病院生活にも慣れてきた。
やっぱし過酷な勉強漬けの毎日と、ダージリンのマンツーマン教育は無理があったようだ。
夏休みを終えて学院に通う傍ら、学力を落とさないようにと言って甲斐甲斐しく俺に付き合ってくれたダージリン。
それはそれで感謝している、しているのだが距離感がおかしいんだよ毎度毎度。
こいつの行動の根幹が「俺をからかって遊ぶため」という行動原理なのは理解してるが、それはそれとして精神がゴリゴリとやすりがけされていくような感覚を常に感じ続けていた俺の精神よりも、肉体がそれに耐えきれなかったのか、ある日不意にぷっつりと逝ってしまったのだ。
目が覚めたら病院のベッドの上。秋も深まるさなかのことであった―――。
――月――日
アッサムが言うには「限られた生徒以外には入れないようになっている」とのこと。
感謝しかないね。お見舞いとかぞろぞろ来られると平穏が保てない。主に心の。
たまーに疲れた様子でやってきてはあれこれ世間話で外の様子を教えてくれるパイセンと、こっちのバイオリズムだのデータだのを取ってくるアッサム。
ダージリンやペッコが来ないのは少し気になったが、あっちはあっちで大変らしい。アッサムから聞いたんだけども。
――月――日
暇だったんでトレーニングを再開した。
もう動けると言っているのにアッサムはデータの書かれたファイルを持ち出して
「まだ体力が戻ってるだけで肉体的には戻っていない」と熱弁する。
テメーの身体くらいテメーが一番わかってるんだよ!と叫べたら一番いいのだろうが―――データ厨のアッサムにそんなクソ生意気なこと言うのありえなくない?ピロシキ案件じゃない?そう思わないか?アンタも?
――月――日
冬休み手前に復帰完了。だが流石に冬季親睦大会は参加できないらしい。
退院手続きを済ませて紅茶の園に戻ると盛大なパーティーが俺を待ち受けていた。
入院した経緯を考えると申し訳なさでいっぱいなんだが・・・?
――月――日
戦車道のためのリハビリのためのトレーニングのためのリハビリと称してアッサムと一緒に諜報活動を再開することになった。
――月――日
作成遂行に安全を期すためにってことで常に7割のパワーで行動して、残り3割はいざという時のスパートにとっておけ という指令を貰った。
アッサムの計算を常に上回りすぎてアッサムが遂にブチギレたのかと不安だったがどうやらそういうことではないらしい。
――月――日
冬が終わり、春が始まる。
俺のXデーまであと数日。歴史を変えることができるかどうか――。
まぁできなかったときは潔く人生からピロシキするまでだ!!
みほエリの無い世界に未練なんかぬぇ!!
副反応つらたん・・・まだつらたん・・・orz
結局大遅刻してしまった・・・すまぬ・・・すまぬ・・・!!
次回更新のお相手()
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ダージリン
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ペッコ
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舎弟ップ
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アッサム
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パイセン
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その他
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本編更新して、やくめでしょ
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休憩やで