五等分の気持ち   作:yami_yami

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時間軸は卒業から約8ヶ月後の12月です。
そこから風太郎が過去を回顧します。


文化祭の日の決意

東京に来て約1年弱が経った。

俺は高校卒業後、中野家の父親から援助をもらい東京都内の国公立大学へと進学。

他の姉妹も順調にそれぞれの道へと旅立って行った。

まず一花、あいつらもともと女優業を高校の頃からやっていたからもちろんあのまま女優業へと専念している。

高3の最後あたりはCMやバラエティにも引っ張りだこでよく他の姉妹と一緒に勉強の息抜きがてら見ていたのを思い出す。

 

そして二乃、あいつは地元の大学へと進学。

受験当初は厳しい目標ではあったが後半から成績は良くなっていき国公立は厳しかったがなんとか地元では有名な私立大学へと進学。

今頃大学生活をうんと楽しんでいることだろう。

 

そして三玖、あいつは明言通りに料理の学校へ。日本屈指の料理学校らしく当然のように落第、退学もある学校らしい。

1年生のこの時期まで生き残っているようで何よりだ。きっと将来は美味いもんでも食わせてくれるのだろう。

 

そして五月、あいつは教師になるために地元の国公立の教育学部へ進学。

秋ごろの模試の判定が悪く落ち込んでいたが、あのとき始めてあいつの口から勉強を教えて欲しいと頼まれた。

相当な努力をしたのだろう、冬にはB判定まで上げ、見事に第一志望合格。

あいつの事だから今頃もまじめに勉強してるんだろうな。

 

そして四葉。

四葉はもともと将来の夢などが定まっておらず俺にとっては一番の不安要因だった。

しかし文化祭最終日の事だった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「あれ、あいつらはどうした?」

「クラスでお仕事じゃないですかね?」

 

俺と四葉は学級員同士で文化祭の運営も手伝わされていた。

そこでよく二人きりになる事も多かった。

 

「とうとう最終日ですね」

「あぁ、最後の文化祭にしては仕事が多かったが、またそれもいい思い出だ」

 

学級委員は強制的に文化祭実行委員に入ることになっており、企画、運営から全てを任されていた。

当然クラスの運営も学級委員の仕事なのであまり回ってる時間もなく、ほぼ仕事をした思い出しかない。

 

「あ、上杉君と四葉ちゃんやっと見つけたよ!」

 

するとクラスの同級生がやってきた。どうやら俺たち二人を探していたようだった。

 

「二人ともお仕事で全然文化祭回れてなかったでしょ?だからあとは私たちに全部任せて回っておいで!」

 

「えぇ、でも任せっきりなんて悪いよ」

「いいからっ!二人は仕事しっぱなしなんだから遊んでおいで!」

 

そう言われて仕事を禁止された。

確かにこの文化祭で俺たち二人は少し働きすぎていた。

本当に1つも回れていない。

 

「なんだ、一気に暇になっちまったな」

「そうですね...」

 

四葉と二人っきりなんて前までは何も思わなかったが、あの鐘キス事件からだ、こいつを意識し始めたのは。

あの爺さんからは見分ける方法が愛というとんでも理論を教えられたが、今ではそれも理解できる。

俺もこいつらをよく知るようになりちょっとした仕草、喋り方、考え方で見分けられるようにまでなっていた。

そして時間が経つにつれ、あの鐘でキスをされたのが四葉だったとわかって来た。

それからと言うもの、四葉にはなぜか特別な感情を抱いてしまう。

 

「ど、どうする、一緒に回るか?」

「はいっ!」

 

四葉は満面の笑みでこちらを見た。

多分後々彼女を好きになってしまったのはこう言うところなんだろう。

 

「何から回りますか?」

「うむ、お化け屋敷なんてどうだ!」

「あぁいいですね!林間学校では脅かし役でしたが、文化祭では参加者で楽しめますね!」

 

そう言って俺たちは2年生のクラスが主催していたお化け屋敷へと向かった。

どつやらかなり本格的らしく大人気で行列ができていた。

 

「うおっ、かなり並んでるな」

「どうします?並びますか?」

「そうだな、この並んでる途中にお前に勉強を叩き込む事はできるな」

 

と、俺は冗談で四葉をからかったが、四葉は案外乗り気であった。

 

「上杉さんここ教えてください!」

「おお、そこはだな...」

 

10分、20分と時間があっという間に過ぎて行った。

 

「お前やけに今日は前のめりだな...」

「あはは、私が一番卒業危ういですから...」

 

確かに一番危ないのは四葉だが、3年生のテスト結果から見れば結構余裕なはずだった。

余裕を持って卒業したいのか、それともそれより上の目指すべきものに向かっているのか、俺はまだわからずにいた。

 

「はーい次の方どうぞー」

 

そう促されて中へ入ってみると、本物さながらに作られたミイラの模型や人造人間が置かれていた。

そして想像以上に暗い。

中へ入った途端、四葉は俺の腕をぎゅっと掴んだ。

 

「お、おい四葉、あんまりひっつくと...」

「わ、私案外くらいの苦手で...」

 

四葉が密着してくると洗剤の匂いかシャンプーの匂いかはわからないがいい匂いが漂ってきた。

そしてそれに混じって四葉本人の匂いも。

 

「...っ」

 

やはりキスをされてから彼女を妙に意識してしまう。

まぁ当然といえば当然かも知れないがなんだかこの気持ちは今までに無いような気持ちだった。

四葉に近づかれるだけで照れてしまったりする。

 

プシュゥゥゥーー!

 

「きゃっ!」

 

本格的な仕掛けに俺も四葉も驚いてしまった。

ここまで本格的だったらそりゃ人気出ますわ。

しかし、四葉がさらに密着してきた事で俺の頭はそんな事どうでもよくなるくらいドキドキしていた。

 

「う、上杉さん...手繋いでくれませんか?」

 

暗闇であまり見えないが四葉の半泣き顔が頭によく浮かぶ。

怖いの得意な俺でもなかなか怖いと思うくらいだ、女の子の四葉なんて相当怖いんだろうな。

 

「あ、あぁ、いいぞ」

 

そう言って四葉の手をぎゅっと握った。

澄ました顔で言っているが内心は意識しまくりである。

 

お化け屋敷もそろそろ出口に近づき、終わりを迎えようとしていた。

 

「あ、やっと出口ですよ!」

 

そう言って四葉は手を引っ張って俺を連れ出した。

 

「はぁ〜、怖かったですねぇ〜」

「なかなかに本格的だったな...」

 

お化け屋敷を終え、次はどこに行くか考えていた中、人々の視線を感じた。

 

「あれ学級委員の二人じゃない?」

「きゃー!手繋いじゃってるよ!」

 

「...!」

 

俺はクラスメイトの話し声を聞いてとっさに四葉の手を離した。

 

「う、上杉さん?」

「いや、なんでもない、次どこ行く?」

 

そういうと四葉は俺の手を引っ張り歩き出した。

 

「こっちにメイドカフェがあるみたいですよ!」

「おい、あんまり手握ったりしてたら...」

 

俺は周りにクラスメイトがいないか気にしながら廊下を歩いた。

ましてや姉妹、特に二乃や三玖に見つかれば面倒な事になるに違いない。

そうして1年生のクラスが出していたメイドカフェへとやってきた。

 

「お二人ですか?」

「はいっ!」

 

二人用の席に誘導されメニュー表を渡された。

パンケーキやショコラなどのデザート、そしてソフトドリンク系も少々あった。

 

「上杉さんはおなか空いてませんか?」

「俺さっき焼きそば食ったから腹は減ってねぇな」

「じゃあこのブルーハワイジュース頼みましょ!」

 

ブルーハワイジュースを頼み数分後、なにやら少し大きめの容器が運ばれてきた。

二人分頼んだはずと思っていたが、、、

 

「お待たせしました、ブルーハワイジュースでこちらカップル仕様となっています!」

 

カップル仕様?!

そう言われみてみると大きめの容器にハート型になった2口のストローが刺さっていた。

どうやら俺たちがカップルだと勘違いされたらしい。

こいつとはよくカップルに間違えられる。

 

「い、いや、俺たちカップルじゃ...」

「もう上杉さんは隅に置けませんなぁ〜」

「も、申し訳ありません!ただ今取り替えますので!」

「あ、大丈夫です!このままで!」

 

そう言って引き下げようとする後輩に気を使ったのか四葉は引き止めた。

 

「お、おいこれどうやって飲むんだよ」

「いいじゃないですかー、上杉さんも高3の最後の文化祭くらい女の子とデートした思い出があった方がいいですよ」

 

そう言われてもこれを二人で一緒に飲めばかなり至近距離で顔を合わすことになる。

周りには他の客の目もあるから余計に恥ずかしい。

 

「はいっ、上杉さん呑みましょっ」

 

そう言って四葉は先にストローを咥えた。

俺も躊躇いながらストローへと口を近づけた。

 

「これ美味しいですね!」

「あぁ、うまいな...」

 

正直恥ずかしくて味なんて全然わからなかった。

周りの客もこちらをみているような気がする。

 

「えへへ、なんか本当に付き合ってるみたいですね」

 

そう言って四葉は方杖を次俺の方を笑顔で見てきた。

その瞬間俺の胸はズキッと痛みが走った。

 

「...っ、早く緩くなる前に飲んじまうぞ」

 

そう言って照れ隠しをした。

やっぱり俺はおかしい、あの日からこいつを変に意識しちまう。

教科書しか読んでこなかった俺にはこの気持ちがわからない、理解できない。

 

「はぁー、美味しかったですね〜」

「なんか体育館でライブやってるみたいだぞ」

「あ、アンサンブル部ですね!」

 

俺たちは次に体育館で行われているアンサンブル部のライブにやってきた。

 

「うわー、人結構いますね〜」

「この紙に書かれているには流行りの曲を歌うらしいな」

「あ、米津○師ですね!」

「誰だそれ」

「もう、上杉さんこういうのにはとことん疎いですねぇ」

 

俺はあまり音楽などは聞かない、いやほぼ聞かない。

だから最近流行っている歌などもよくわからないが、今だったらこいつら姉妹がそういうことを俺に教えてくれる。

 

体育館は暗くなりやがてライブが始まった。

 

「なんかいい曲だな!テンションが上がるぞ!」

「上杉さんがノリノリ!?」

 

そこから1時間ほどそのライブを楽しんだ。

なぜか手を繋いだままだったが次第に気にしなくなっていた。

 

「楽しかったですねぇ〜」

「あぁ、ライブは初めてだったがなかなかいいもんだな!」

「余韻がすごいです!」

 

ライブの余韻に浸りながら次の場所へと向かっていた。

ライブの余韻が冷めてくるとだんだん手を繋いでることに違和感を覚え始めた。

 

「あー、四葉、なんで手繋いでるんだ?」

「え、あぁ...そのライブで盛り上がっちゃって...」

 

四葉もライブの余韻から少しずつ覚めてきたのだろう、少し恥ずかしがる仕草を見せた。

そして俺が手を離そうとすると今度はむっと顔をしかめてきた。

 

「上杉さんは私と手を繋ぐの嫌なんですか?」

「いや、嫌ってわけじゃないけど...」

「じゃあ今日は特別に私が上杉さんの一日彼女になってあげます!」

 

四葉はドヤ顔をしながらそう言ったが、自分で何を言っているのかわかっているのだろうか?

 

「いや、別にそんなの...」

「いいじゃないですか!高校生で1回も彼女できないなんて可哀想です!私が昨日1日だけ上杉さんの彼女になります!」

 

多分これはもう何を言っても聞かないだろう。

俺は半分あきらめて四葉の言う通りにきた。

 

「じゃあ、これで手を繋いでいてもおかしくわないですね」

 

そう言って四葉は再び俺の手を握り歩き始めた。

それから次々と出し物を見て回り、あっという間に夕方になってしまった。

 

「はぁ〜、楽しかった〜」

 

最後に四葉が屋上に行き風に当たりたいと言うので二人で屋上に上がってきた。

文化祭中でもちろん屋上には誰もいない。

夕日が少し眩しく、そして終わりに向かう文化祭を少し寂しくさせた。

 

「上杉さんはどうでした?」

「あぁ、今までで一番の思い出だな」

「それは良かったです」

 

そう言って四葉は振り向いた。

夕日の逆光でよく四葉の顔は見えなかったが恐らく笑っているだろう。

今日四葉と二人っきりで文化祭を回り嫌という程あの笑顔を見てきた。

しかし夕日が雲にかくれ逆光がなくなると四葉の表情は少し暗くなった。

 

「上杉さん...お話ししたいことがあります」

 

これまでの雰囲気とは真逆に四葉は真剣な顔をして俺に話をした。

 

「私、大学へ行きます」

「そうか、やっとやりたいこと見つかったか?」

「はいっ...やりたいことは見つかりました」

 

そう言いながら四葉は俺に近づいてきた。

 

「私今まで自分だけが幸せを感じるのはダメだと思っていました」

「それはお前が落第したせいで姉妹まで転校する羽目になったからか?」

「それもあります...」

 

完全に夕日が雲にかくれ明るかった空は一気に薄暗くなった。

 

「それもありますが...私にはもう一つずっと心に残っているものがありました」

「...なんだ?」

 

四葉は少し間を置き、軽く深呼をした後に再び口を開いた。

 

「それは上杉さん.......いや、風太郎君との約束です」

 

一瞬何を言っているのかよくわからなかった。

風太郎君との約束?

四葉に名前を呼ばれたのは初めてだったが、俺は懐かしさをそこに感じた。

昔、ある女の子と約束した時、あの時も確かそんな言い方で名前を呼ばれた。

 

「私のやりたい事は風太郎君との約束を守るために、風太郎君と同じ大学に行って、勉強して、お金持ちになること」

「それってどういう意味だ...」

「風太郎君、私だよ?あの5年前の日に一緒に約束した女の子」

「いや、まて、何を言って...」

「君を見つけて私が救ったのも、一緒に清水寺を回って逸れて迷子になったのも、そのあと100ずつ訳あってお祈りしたのも」

 

「全部私だよ?」

 

俺は前々からこの姉妹の中に5年前の子がいることはわかっていた、というより麗奈本人から五つ子にいるとヒントをもらっていた。

二乃や五月にも女の子のことは話したがここまで詳しくは話してはいない。

だとすると、四葉は本当に5年前に俺が約束をした女の子ということになる。

兎にも角にも当然驚きは隠せなかった。

 

「四葉...お前が5年前の子だと...」

「ごめんね、初めて食堂で出会った時からわかってたの」

「食堂...あの時から...」

 

ちょうど1年前くらいから四葉は俺のことをわかっていたというらしい。

自然と四葉との思い出が蘇ってくる。

 

「でもあの時、私は約束を守れていなかった、だから言えなくて、呼び方も"上杉さん"て呼んで自分を殺してたの」

 

この時、俺はなぜ最初から四葉が協力的だったのかが理解できた。

他の姉妹は全く相手にしてくれなかったのにこいつだけは最初から俺に勉強を教えて欲しいと言ってきた。

多分それは約束を守れなかったせめてもの償い、そして上杉さんという呼び方は俺への尊敬の気持ちからなのだろう。

 

「だからお前は最初っからあんなに協力的だったのか...」

 

「うん...でも風太郎君に勉強教えてもらって正直嬉しかった...このまま勉強頑張ったら私のこと打ち明けてもいいのかなって思った」

 

「でもそれはできなかった...」

 

多分三玖や二乃、一花の気持ちの変化のことだろう。

こいつは姉妹の幸せを優先する、だから自分が俺の初恋の相手であると打ち明けるわけにはいかなかったんだろう。

もし打ち明ければ三玖達の気持ちを踏みにじることになる。

 

「みんながどんどん風太郎君のことを好きになっていくにつれて、どんどん言い出せなくなっちゃって...でもみんなが風太郎君の良いところを分かってくれて嬉しかったんだ」

 

「四葉...」

 

「だから私もケジメとしてもし2学期の模試までに成績が上がらなかったらこの気持ちは永遠にしまおうって思ってたの...」

 

そう言いながら四葉は俺の一歩先まで来た。

そしてポケットから紙を取り出し広げた。

 

「私ねっ、風太郎君とおんなじ大学にいくよ」

 

そう言って彼女は紙を俺に見せた。

その紙は2学期の模試の結果、俺と同じ大学の欄にはB判定の文字。

これまでの成績だったら絶対にありえない数値、本当に血の滲むような努力をしたんだろう。

そこまでの覚悟をもってこの模試に挑んだことがひしひしと伝わってくる。

 

「えへへ、驚いちゃいましたか?でも私は本気ですよっ」

 

そう言いながら一歩手前まで来ていた四葉は少し背伸びをし自分の唇を俺の唇へと合わせた。

 

「お、お前っ...」

 

「ずっと好きでした、5年前からずっと、三玖よりも私の方が早かったんですよ?」

 

そう言って四葉は振り返り背中を見せた。

すると隠れていた夕日は姿を現し、再び俺たち二人を赤く染めた。

そして四葉が振り返るとまた逆光で表情が見えなかった、しかしそこには夕日に負けないくらいの満面の笑みが俺には想像できた。

 

「あの旅行先の鐘、あそこでキスして来たのお前だろ」

 

そう言うと四葉はしししと笑った。

 

「私は上杉さんのことが好きですっ...でも5年前の私はもう忘れてください!今の私を見てください!」

 

そう言って彼女の笑顔は夕日に照らされ何百倍にも明るく感じた。

 

「あぁ、見ててやるから俺とおんなじ大学に受かってみせろ」

 

「はいっ」

 

こうして高校最後の文化祭は幕を閉じた。

多分この文化祭の時から俺は気づいていた。

この四葉への気持ちは多分"好き"という気持ちなんだろうと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ありがとうございました。
次回は卒業式まで一気に進めます。
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