文化祭が終わり学校生活も元に戻りつつあった。3年生はここから一気に受験ムードになり、毎日が忙しなく感じた。
四葉の告白から数日経ち、俺も自分の気持ちが理解できた。
しかし、あそこで四葉が返事を求めなかったのは今ではないと分かっていたからだ。
だから当然だと俺もこの気持ちは心のタンスにしまっておく。
「はぁ〜、学校でも勉強、家でも勉強って信じらんないわ〜」
「おいニ乃、今はお前が一番ピンチなんだからもっと気合をいれろ」
「まさか四葉がそんなに成績あげてるなんて知らなかったわ」
二乃のその言葉で俺は文化祭最終日のことを思い出してしまった。
実を言うとあの時のキスは唇を合わせただけではなかった。
数秒ではあったが四葉は俺の口に無理やり舌を入れてきたのだ。
「...っ」
「どうしたのふー君、顔真っ赤よ?」
「なんでもない」
「あ、もしかして私が可愛くて顔赤くしちゃったの?」
「バカ言えっ、早く帰るぞ」
バイトが終わればすぐに家に帰り勉強、そして朝早く起きてまた勉強。
こんな日々を繰り返し気づけば年越し。
「おにいちゃーん、勉強ばっかしてないで行くよー!」
「どこにだ...」
「もちろん初詣だよ」
らいはに連れてこられ近くの神社まで足を運んだ。
流石に今年は会わないだろうと思った矢先、あいつらは現れた。
またか、、、そう思っていると四葉がすぐに気づきこっちを見て叫んだ。
「あ、上杉さんとらいはちゃーん!あけましておめでとー!」
「くそ、あいつ馬鹿でかい声で呼びやがって」
すると姉妹全員が駆け寄ってきた。
新年の挨拶をしお賽銭をした後に絵馬にそれぞれの目標を書いた。
「四葉、お前大学の名前間違ってるぞ」
「えぇ!ずっとこれだと思ってました!」
四葉がそう言うと姉妹と俺はため息を吐いた。
本当に大丈夫かよ、、、
「でも四葉は格段に成績をあげましたね、今では姉妹の中で一番です」
「五月もこの前のB判定だったんでしょ?すごいよ!」
二乃、四葉、五月と受験組は順調そうだ。
二乃もまだ危なっかしいところはあるがこの調子なら合格するだろう。
「じゃあ帰ってテレビ見よっか!」
「ん?そんなに気になるテレビなんてあったか?」
そう言うと姉妹は俺とらいはを連れてマンションへと向かった。
「なんだ、一花お前正月番組に出てるのか」
「う、うん...なんか恥ずかしくてあんまり見られたくないんだけど...」
その番組はお正月では定番の格付けチェックというバラエティ。
一花は女優枠として出演していた。
「お、お前っ...分かったようなこと言って...外してんじゃねぇか」
「もうふーたろう君いじわる!」
「うわー、一花がGAC○Tと喋ってる!」
「今度はYOSI○Iと喋ってるわよ!」
今年のお正月は去年と比べ少し盛り上がった。
多分これがみんな揃って迎えられる最後のお正月だ。
きっと一花はこれからどんどん忙しくなるんだろう。
「はい、おせち作ったよ」
そう言って三玖が重箱を持ってやってきた。
去年のおせちは見るに耐えないものだったが今年は彩もよくどれも美味しそうだった。
「三玖、お前かなり上達したな!」
「あの時のコロッケとは大違いだね!」
三玖も変わってきている。
本当に1年前とは何もかもが変わってきている。
時間の流れは止められない。
たしかに昔が居心地が良かったと思う日もあるだろうがそれは違う。
きっと今があるからそう思えるだけであって、消して今が悪いなんてことはない。
変わって行くのもまた新鮮味があっていい。
「来年、またみんなでお正月を過ごせるといいな」
「そうですね、貴方とらいはちゃんと私たち五人で」
「五月、お前も変わったな」
「私だって人間です、これからもどんどん変わって行くと思います...でもそれは貴方に会えたからですよっ」
そう言うと五月は俺の頬に軽く唇を合わせた。
「おまっ...」
幸い他の四人はテレビに釘付けになっており背中を向けていた。
本当に人は変わって行く。
1年前じゃ五月の今の行動もありえなかっただろう。
「五月...お前もかよ」
「えぇ、私たちは五つ子です、当然ですよ」
全く最後まで手を焼かせる五つ子だ。
お正月が過ぎれば時間もあっという間だった。
2週間後にはセンター試験を受け、一喜一憂する者もいれば落胆する者も。
「五月どうだったー?」
「はい、自己採点ではなんとか...四葉はどうだったのですか?」
「私もバッチグーだよ!上杉さんが教えてくれたところがいっぱいでくれて助かったよー」
センター試験が終われば次は私立の一般試験が待ち構えている。
「に、二乃、どうだった...?!」
「え...嘘でしょ.......合格だって...」
二乃は無事地元の私立へ合格。
一花と三玖が付き添いで向かい、3人とも泣きながら帰ってきた。
そしてそんなこともつかの間、すぐに国公立の二次試験だ。
「上杉君、四葉、東京で頑張ってきてください」
「五月も頑張ってね!」
「いい結果まってるぞ」
そう言って俺たちはそれぞれの試験会場へ向かった。
ここで今までの全てを出し切る。
そして3月10日。
俺たちは東京のキャンパスまで合格を確認しにやってきた。
「う、上杉さん...私帰りたい...」
「何言ってんだ、早く見るぞ」
「上杉さんはどうせ受かったますからいいですよ!でも私はダメなんですぅ...」
「さっさと見てスッキリしちまった方がいい、ほら行くぞ」
俺は躊躇う四葉の手を引っ張り張り紙の場所まで向かった。
「四葉、どうだ?」
「えーっと...えーっと.............」
「どうした?」
「あ、ありました...ありました!上杉さん!」
「本当か?!見せてみろ!」
俺は少し信じられなくて自分の目で確認した。
「1052...1052...あ、あるじゃねぇか...」
「上杉さん...私やりました...」
堪え切れなくなったのか四葉はボロボロと涙を流しながら俺に抱きついてきた。
「おい、鼻水服につくだろ!」
「うえーんっ!受かりまじだー!」
「全く...」
俺たちはすぐに電話で報告をして、足早と地元へと帰った。
「あ、そういえば上杉さんは受かりましたよね?」
「あぁ、当たり前だろ、俺が落ちるわけない」
「あはは、さすがセンター試験全科目満点なだけありますね...」
五月もぶじ第一志望の大学へ合格。
こうして俺たちの受験という戦いは一区切りついた。
そこからは二乃が受験で溜まった鬱憤を晴らすために暴走して毎日あちらこちらへ連れまわされた。
まぁこれから東京に行けば二乃とも三玖とも会えなくなるし、思い出作りにはもってこいか。
そして3月20日卒業式。
俺はこの学校に来て最初はただの学年一位の秀才だった。教科書通りの回答しか導き出せない秀才。
しかし2年の春、こいつらに会って俺は変われた。色んな思い出が頭の中で浮かぶ。
「色んなことがあったなぁ」
喜びも悲しみも幸せも怒りも、全てが詰まった2年間だった。
「なんか高校の卒業式ってそんなに感動しないねー」
「そうですか...私は先生方のことを思うと」
「この子式中ずっと泣いてたわよ」
「でももう学校には来ないんだよね」
「ふーたろうに会う機会もなくなるね」
俺はクラス委員の最後の仕事を終え、誰もいなくなった教室を一人で少し眺めた後に鍵を閉めた。
「お、お前ら待ってたのか」
校舎の外に出ると5人は校庭の桜の木の下で待っていた。
「ふーたろう君」
「ふー君っ」
「ふーたろう」
「上杉さん!」
「上杉君」
「一緒に帰ろ!」
これが最後の下校か、、、
「あぁ、帰るとするか」
これが最初で最後の6人揃っての下校だ。
出会った当初のことを思い出すとなんだか考えられない。
こんなに下校が楽しいと思ったのは初めてだ。
先頭を行く四葉、その後ろを静かに歩く三玖、お菓子を食べながら歩く五月、それにちょっかいを出すニ乃、それを見て笑う一花。
カシャっ
「いい写真だ」
こうして俺たちの高校生活は幕を閉じた。
ありがとうございます。
次回は5人の気持ちへの返答を書いていきます。