刀奈求める楯無き者   作:乱麻@PINK

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簪は原作で接吻未遂をしている、これマメな。


43.姉妹との夜

入浴を終え一夏と別れた俺は、自室に戻っていた。

一夏から『就寝時間まで遊ぼうぜ!』と誘われていたのだが、丁重に断った。

大人気男性操縦者である一夏の部屋には、女子が殺到する可能性がある。千冬が滞在する事でそれを防げている可能性もあるが、それはそれで“世界最強”との勝負がセカンドシーズン到来である。それだけは絶対に避けたかった。

 

『マスター。織斑一夏の部屋からは反応が二つ確認されました。後者の予定が的中しているかと』

「よし、一夏には姉弟の時間を楽しんでもらおう」

 

相棒の報告により、点呼の時間まで俺は自室に籠る事に決めた。

用がある人間が居たとすれば、自室を訪ねてくるなり通信を入れてくるなりするだろう。

布団を敷いて横になれば、思い出すのは更識刀奈の事だった。

“黒雷”のモニターから、“霧纏の淑女”のアドレスを選ぶ。

時間帯的には刀奈は寮に戻っている筈だ。通信を繋げようとして、迷惑じゃないだろうか、と一瞬躊躇した。

だが、欲求に抗う事は出来なかった。忙しいなら出ないだろうし、掛けるだけ掛けてみよう。

 

『あら、こんな時間にどうしたの?』

 

通信は一瞬で繋がった。待っていたんじゃないかと疑うくらい、タイムラグ無しでモニターが立ち上がる。

 

「お風呂上がって自由時間になったから。迷惑じゃなかった?」

『私も丁度お風呂上がったところ。夏だから火照っちゃうわねー』

 

モニターに映る刀奈の恰好はラフな部屋着だった。プロポーションがいいせいで素で若干谷間が見えている上に、ぱたぱたと胸元を摘まんで空気を送るので大変刺激が強い。

上半身より上しか映っていないが、下の服装も丈の短いパンツの様な刺激の強い格好なのだろう。

 

「……更識先輩、色々見えちゃうから」

『サービスよ……なーんてね。思春期の男の子には刺激が強かった?』

「うん。と言うかその、綺麗だから見ちゃいけないって思っても見ちゃうから」

『そ……そう? お姉さんも罪作りね』

 

正直に告げると、刀奈は顔を赤くして照れたように笑う。

可愛い、と声に出し掛けるが、刀奈の表情に見惚れていたおかげで免れた。

だが見惚れている俺がおかしかったのか、刀奈はモニターを覗き込むように距離を近付ける。

 

『……楯無君、何かあった?』

「何で?」

『顔、赤いわよ? お姉さんに見惚れちゃった?』

「今までも何回も見惚れてたと思うけど、今回のはそんなに目立ってたかな」

『……やっぱり何か変。揶揄い甲斐のベクトルが違うわ』

 

刀奈だけの感覚だから仕方がないのだが、もう少しましな違和感は感じられなかったのだろうか。

それにしても、俺に何かあっただろうか。

思い出すのは、先程の一夏との会話の中で自覚した気持ち。更識刀奈と更識簪に対する恋心。

刀奈に対する反応が違ったのだとしたら、それぐらいしか思いつかない。

 

『そういえば、何で私に通信をくれたの? 自由時間ならクラスメイトと過ごせばいいじゃない』

「更識先輩の声が聞きたかった。臨海学校が終わったらお土産話する約束だったけど」

『……我慢が出来なったの?』

「うん。我慢しようとも思わなかった」

 

我慢が出来なかった、と言うよりはもう声を聞くのが当然だと思うぐらいだった。

元々ダメ元で掛けてこうして出てくれたのだ。こんなに嬉しい事は無かった。

画面越しの刀奈がみるみる赤くなっていく。先程からモニターに近付いているので、表情の変化はよく分かる。

 

「何だか調子狂ってる?」

『おかげさまでね。いつも押せ押せなお姉さんは、攻められると弱いのね』

「攻めた覚えないんだけどな……」

『攻めてるわよ。普段は声が聞きたいなんて言わないくせに』

 

そうだっけ。欲求としては常日頃からあるから気にもしていなかった。

しかし、まあ。俺もISの訓練や束姉の任務に時間を費やしていたとはいえ、離れ離れになっていた間よく平気だったもんだ。

こうしてIS学園に入学して再会した事を切っ掛けに、今まで我慢していた欲求が爆発しているのかもしれない。

 

「じゃあ、これからはちゃんと言ったらいいのかな」

『それをしたら私からも言うわよ?』

「……更識先輩、俺の声を聞きたい時ってあるんだ」

 

俺の質問に、珍しく、本当に珍しく刀奈が失言を悔いる顔をした。

その表情があんまりに珍しくて、俺は刀奈と同じようにモニターに近付いた。

 

『……あるわよ。お姉さんだって幼馴染に会いたい時ぐらいあるわ』

 

やがて刀奈はいじけるように言った。普段の掴み所のないおちゃらけた様子は見られず、羞恥で顔を赤くしている姿はとても可愛い。

刀奈は簪が刀奈の想いを知っている事を知らない。

簪とほぼ常に一緒に居る俺とは、生徒会の仕事もあって好きな時に会うというのは難しいだろう。

 

「じゃあ、会いたくなったら呼んでよ。直ぐに行くから」

『簪ちゃんと一緒の時でも?』

「……………………う、うん」

 

懇切丁寧に説明をして、精一杯謝罪をして、埋め合わせの約束をしてからなら何とか。

とんでもなく間の空いた俺の返事に、意地の悪い質問だったのは刀奈自身理解しているのだろう。くすくすとおかしそうに笑い、『冗談よ』と訂正した。

 

『簪ちゃんと居ない時にしておくわ』

「一緒に居るかどうか判るの……?」

『当然よ。お姉ちゃんだもの』

 

そうなるとお兄ちゃんの俺も楯愛が誰と一緒に居るかどうか判らないといけない。お兄ちゃん道はまだまだ長そうだった。

 

『それにしても、嬉しい事を言ってくれちゃって。あーあ、モニター越しじゃなかったら抱き締めて頭撫でてあげたいぐらいなのに、残念だわ』

「……それは本当に、残念だな」

『……やっぱり、楯無君何かあったでしょ』

 

刀奈は確信に近い形で確認をしてきた。

これは、何と言うか。一夏との浴場での会話を素直に言うべきだろうか。

ともあれ、俺は刀奈と簪には嘘は吐けない。そんな事するぐらいなら、正直に話して嫌われた方がましだ。

 

「……俺、二人の女の子が好きみたいなんだ」

『あら、欲張りね』

 

最低な俺の告白を、刀奈は軽く受け止めてくれた。

相手が誰かなんて分かりきってるだろうに。あっさりと、何でもないように。

 

「選ぶ立場でもないけれど、どちらかを選べって言われたら選べない。俺は、二人に笑っていてほしいんだ」

『相手の子に、「片方を選んで」って言われても?』

「……無理だよ。どっちも、俺の人生には必要なんだ」

 

刀奈も、簪も。そのどちらかだけでも俺の人生から零れ落ちてしまうなんて考えたくもない。

どちらかを失ってしまうぐらいなら、全部失って死んだ方がましだ。

 

『そう。なら、それでいいんじゃないかしら』

「いいの?」

 

今のところ、俺は優柔不断な人間でしかないのだが。

それでも刀奈ははっきりと、『いいのよ』と言ってくれる。

 

『楯無君がその二人の子を大切に思ってるのは伝わってくるから。「幸せにしたい」とかじゃなくて「笑っていてほしい」なんて言葉、簡単には出てこないのよ』

「……欺瞞じゃない?」

『どこでそんな言葉覚えてきたの。楯無君は大切な時に人を騙すような人間じゃないって事、お姉さんは信じてるわ』

 

刀奈がそう信じてくれてるなら、俺はきっとそういう人間だ。

経歴を詐称し続けているような嘘吐きな俺ではある。だが、肝心な時に騙すような真似はしていないと思う。

 

『あーあ、何度も言うけど、直接話せてたらいっぱい抱き締めてあげるのに。それで、自信がつくまで撫でてあげようと思ってたんだけど……』

 

まだいっぱい話していたかったけれど。

刀奈はモニター越しの俺の後ろ――部屋の襖をちらりと見て。

 

『今日のところは十分嬉しい気持ちにさせてもらったから、後の事はもう一人に任せようかしら』

 

ウィンクをして『続きは臨海学校の後でね』と通信を切ってしまった。

まだ話していたかったのだが、刀奈の言うもう一人は静かに襖の向こうから声を掛ける。

 

「楯無……?」

 

聞き慣れた声で控えめに名前を呼ばれる。

「居るよ」と返事をすれば、部屋の襖が控えめに開かれ、簪の姿が見えた。

簪は部屋の中へ入るときょろりと周囲を見渡す。

 

「今、誰かと喋ってた? “黒雷”?」

「いいや。刀奈と個人間秘匿通信で話してたんだ」

 

そして、通信越しに簪の気配を感じて刀奈は通信を切ったのだろう。恐るべし。と言うか普通に怖い。

簪は「お姉ちゃんと……」と呟いて、揶揄うようにこちらを見る。

 

「臨海学校の後で話をするって言ってたのに、我慢出来なかったの?」

「……そうだよ」

 

他人から改めて指摘されると少し恥ずかしくて拗ねた風に肯定すると、簪は微笑ましそうに「ふふ」と笑った。

 

「お姉ちゃんの事……大好きだよね」

 

簪はそう言って俺の隣に座り、下から顔を除いてくる。

赤い双眸をはっきりと見つめる事が出来なくて、そっと目線を逸らした。

 

「……恥ずかしがらなくていいのに」

 

どうやら、目を逸らすのは許されないようだ。簪の細い指が顔に添えられ、そっと目線を固定される。

すっとした顔立ち。垂れ目がちで優し気な双眸。ふっくらとした唇。それらを強く意識させられて、俺の鼓動は早くなる。

風呂上がりの浴衣姿が覗かせる鎖骨や、普段はそんなに無防備じゃないのに見えてしまう谷間も、嫌でも視界に入ってしまう。いや全然まったく嫌ではないんですけど。

 

「私も……お姉ちゃんの事、大好きだから。……楯無の事も、ね?」

 

真っすぐ告げられた言葉にどきりとする。

好きだと思ってくれている。それは今までの態度から分かっているし、伝えようとしてくれてるのも分かっている。

 

「ああ。俺も、簪の事も大好きだから」

「っ……それは、知ってる、から。態々、言わなくてもいい……」

 

自分だって言ってくるくせに、顔を赤くしてしまった簪。

少し潤んだ瞳は心臓に悪い。格好と合わせて歯止めが利かなくなる前に、簪の両手を取って俺の顔から離す。

手で触ってみると簪の手の平は普段より熱かった。風呂上がりだから体温が上がっているのか。

 

「で、でも!」

「でも?」

「二人きりの時、とか。いい雰囲気の時、とか。……お姉ちゃんに嫉妬した時、とか。そういう時は、言ってほしい」

 

それは、何と言うか。今じゃないのだろうか?

二人きりだし、いい雰囲気だし。刀奈に嫉妬しているかどうかは微妙なところだが。

いや、それを問うのも彼女に恥をかかせる事になる。そういう時はそれとなく、察していくしかないのだろう。

 

「お姉ちゃんと何を話してたの?」

「多分……恋愛相談」

 

最初は今日の簪の水着写真を送って感想会でもしようと思ってたのだが、俺の様子がおかしかったようで話の筋が違ってしまった。

簪はきょとんとした顔でこちらを見ている。

 

「……楯無、お姉ちゃんに恋愛相談してたの?」

 

想い人本人に向かって恋愛相談をする。しかも本人には多分ばれている。ついでに内容としては別の女の子の事も好きなんだという内容。

簪に言われなくとも分かっている。五分前の俺は刀奈の優しさに狂っていた。

 

「……して」

「まさか……」

「私にも、恋愛相談、して」

 

そして簪は刀奈への対抗心で狂っていた。

逆に手を握られて逃げられなくなってしまった俺は、どうやら恋愛相談という名の懺悔をするしかないようだった。

息を吸って、深く息を吐いて、再度吸い。正気のまま狂気的な行動をするのが、こんなにしんどいと思っていなかった。楯愛ってすげえんだな。流石俺の妹。

 

「……実は」

「うん」

「二人の女の子を同時に好きなのが、一夏との風呂で発覚しまして」

 

それが誰かなんて言うまでもなく。

やはり伝わってしまっているのか、簪はこれ以上ない程顔を赤くしている。

同様に俺も紅潮しているのだろう。顔の熱が触らなくとも分かる。

 

「……楯無や一夏君は、普通の立場の人じゃないから。IS学園から卒業したら、色んな国家から手を出されると思う」

「そりゃ、まあ。そうなるだろうな」

 

世にも貴重な男性操縦者である俺と一夏は、世界各国にとって格好の研究材料であり確保対象だ。

ついでにISを扱える事をアイデンティティとして、女性の優位性を主張している面倒くさい団体の目の上のたんこぶでもある。

“世界最強”の弟である一夏の方が世間的な注目度は高いだろうが、俺も俺で過去に束姉との繋がりがあったり包村帯だったりで面倒な事てんこ盛りだ。

IS学園にある意味保護されている三年間の間に身の振り方を考えなければ、今後の事もままならないだろう。

 

「だから、今の内に私とお姉ちゃんで……更識家で囲っておく」

 

――――そんな爆弾発言と共に。

とん、と。簪が俺に倒れこんできて。

いきなりの事に対応出来なくて仲良く二人布団に寝転んでしまい、必然簪が俺に覆い被さる形になった。

簪の髪の匂いはやっぱりいい匂いだな、なんて呑気な考えが頭に過って、現状の不味さに思考が戻された。

 

「ちょ、簪?」

 

問うても返事がなく、真っ赤な顔で沈黙した簪はどう見ても興奮状態だった。

楯愛の言葉が頭の中でリピートした。『避妊はしっかりしてくださいね?』。『初めては思い出深い方がいいですもんね』。

まさかの妹により予言された、幼馴染による貞操の危機である。

 

「……今なら、お姉ちゃんの他にシャルロットもついてくる」

 

そんな通販番組のおまけみたいな感じでつけられてしまうシャルの人権は大丈夫だろうか。

そういう夢の策謀はともかく、この流れは非常に不味かった。

どうにか逃げ出そうと藻掻いて、簪の拘束力が強まる。

 

「嫌なの……?」

 

ショックを受けたように訊いてくる簪へ、ぎこちなく頷いた。

 

「空気に流されるのがな。……囲まれるのはいいけど。こういう事はまあ、後悔しないタイミングでと言うか」

 

それに隣の部屋には千冬さん――――いや、織斑先生が居る。

流石に隣の部屋で不純異性交遊がおっぱじまり始めたら、第二回モンドグロッソ準決勝が強制再開させられてしまうだろう。

いざとなったら“黒雷”からシャルに連絡を入れてもらおうと思っていたが、どうやら簪は冷静になってくれたようだ。

 

「ご、ごめんなさい……」

 

しょんぼりとした表情と言葉の弱弱しさに比例して緩んでいく拘束から抜け出して、両手を放り出した。

別に拒絶したりはしない。俺が簪を拒絶するなんてありえない。……今回は偶々理性が勝っただけだ。

 

「点呼までこうしていないか?」

「……うん」

 

改めて簪の手を握ると、今度は優しく握り返してくれた。

またこういう雰囲気になったら我慢出来るかな、なんて思いつつ、この温もりに溺れていった。




やっと一日目が終わる
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