そのため、本作はラストシーンから開始しています。
天気の子をまだ見ていない方はネタバレとなりますので、閲覧はご遠慮ください。
また、作者は小説版を読んでいないため、整合性が合わない可能性があります。その場合、本作は後日削除いたします。予めご了承ください。
雨。雨。雨。
ずっと降り続けている雨と、時折しか陽光を通さない雲。学校帰りの坂道から見える景色は、いつまでも続く雨が変えてしまった東京。高架線の柱は沈み、その上の線路は意味をなくし、徐々に緑色が増している。かつては太陽に照らされて薄く透ける桜も、雨垂れのせいで下向きだ。
その景色を見るたびに、どうして、と体の内側から疑問が浮かぶ。
どうして自分はあの時、あの場所で、空に溶けてしまわなかったのか、と。
天野陽菜という人間は、人柱だった。この東京の天気、狂った雨だけの世界/東京を、元の天気に戻すことができたはずの、ただ一人だ。それは同時に、自分一人がいなくなれば、世界は元に戻ったということだ。
人柱はその生命と引き換えに、願いを天に届ける存在だ。3年前であれば、100%の晴れ女という言葉が当てはまる。というよりもそうなった。
ある一人の少年が提案した、晴れ女の噂を元にした、願い/"晴れ"にしたいという願いを集め、空に渡す、という。代価はお金。現金な人柱だな、と水たまりを避けながら口にする。全てを知った後では、あんなことを商売にし、実行したのは、相当頭が悪かったと思える。いっちょ前に大人ぶって、彼のことをビジネスパートナーと呼んだこともある。
本当に余裕のないバカだったんだな、と考えてると、また大きな水たまりがあった。中途半端な時間のせいか、他に学生はいない。だから子供っぽい仕草で、大きく足を広げて跳ぶ。伸ばした足先に雨が当たり、跳ねる。そこにはかつて見た、あの不思議な魚の姿はない。
商売という形で儀式をやっていたからだろうか。いつからか、透明な水でできた不思議な生き物たちが、自分の周りに現れた。その生き物たちは自分の触ると、そのままするりと体をすり抜けた。そして彼らが触れた箇所は、彼らと同じように透明になっていった。当時はただひたすら不気味だったが、それが人柱の代償、個岸での喪失だったのだ。彼の知り合い、須賀夏美が教えてくれた、天気の巫女/人柱としての役割と状態にも納得した。
だから、思ったのだ。
自分のような子供一人がいなくなることで、皆が青空を見れるようになれるなら、構わないと。自分だけ、母親と共に青空を見せ、歩いてみたいという、傲慢な願いを叶えてしまった代価なのだ。それに、皆が晴れを望み、笑顔になってくれるのも、とても嬉しかった。
彼もあの夜、その願いを肯定してくれた。
だから、人柱を全うすることにしたのだ。
それなのに今、ここにいる。
「なーにが、狂った世界より、陽菜さんがいい、だ」
態と水たまりを踏んだ。すっかり当たり前になった、デザイン重視の防水靴が濡れて、内側まで染みた。自分の心のように、前の冷たさが染みた。
彼は、自分を選んだ。この雨が降り続ける世界より、自分を選んでくれた。そのことは言葉にできないくらい嬉しかった。消えることで皆の笑顔を取り戻せると考えていた自分を、そうではないと言って、引っ張ってくれたのだ。おかげで中学3年後半から今まで、事情を知らない同級生や先輩の告白を断る羽目になり、学校では鉄壁女と影で言われているのだ。その責任をいい加減果たすために、一度ぐらいは会いに来てほしい。
けれど、彼は3年経っても東京にはこない。夏美と弟の凪経由で、彼があの日に色々無茶をしたせいで、保護観察処分となっていると知ったのは、あの日からそう経ってないときだ。彼は彼なりに現実と向き合い、静々と社会に伏している。それが彼が、自分をここに連れてきた代価の一つだ。
そう、理由はわかる。けど、それでも会いに来てほしいのだ。
そうでないと、いつか押しつぶされてしまいそうだからだ。
「……進路、か」
高校3年生。これからの未来のことを決めなければいけない。友達はもう決めている子もいれば、まだ迷っている子もいる。けれでもこの街を見ながら、未来に対し、歩いていこうとしている意思だけは間違いなくあった。
そして、自分にはそんな資格はない。
「今日、雲薄いな」
坂の上まで来て、足を止めた。
雨。雨。雨。
振り続ける雨。いつまで続くか、いや永劫続くかもしれない雨。それをしてしまったのは、自分だ。東京を変えてしまったのは自分だ。東京に住む人々の生活を変え、青空/笑顔を奪ってしまったのは自分だ。生きたいと、彼と願った自分だ。
許してほしい、罪深い自分を許してほしい。一人でいると、この雨のような罪悪感が溢れてくる。涙の出ない不安が身内を蝕んでくる。
許される簡単な方法はある。今度こそ人柱としての役割を果たせばいい。けどそれは、彼と、彼といたい自分の願いを裏切ってしまう。そんな2つの気持ちで、いつも潰されそうになる。
その不安定な感情から逃げる方法は、いつも決まっていた。両手を組み、そこに額を乗せ、空に願う、祈りの姿。
願いの内容は、実はない。ただこうしていると、自然と耐え、逃避できた。罪もある、生もある、感情もある。そんな醜いものが一杯で胸が張り裂けそうなのを、ただ耐えるためにやっているだけだ。こうでもしないと、変わってしまった/変えてしまった世界と自分に、押しつぶされそうだから。
陽菜さん!
だから、聞こえてきた声に、会いたかった人の姿に、心底驚き、身内にあるものが、いつかの自分のように、どこかに飛んでいってしまった。なんて単純な女なんだろうと、自分自身に驚く間もなく、坂の下の彼が走り出した。自分も、彼に向かって走り出した。
3年前より大人びた身長や顔立ち。そのくせ、泣いてたみたいな目元の赤さ。あの時とは違うけど、けれども確かに彼は、そこにいた。
ああ、来てくれた。本当に来てくれた。
「帆高っ!」
そのことがどうしもうなく嬉しくて、水たまりなんて気にせず、ただ走り出す。体が軽く、飛び跳ねてしまいそうだ。そんな気持ちいっぱいに、彼に抱きついた。勢いが強すぎたけど、彼はぐるっと回って、自分を抱きしめ、離さなかった。
どうして来たの、どうして会いに来てくれなかった、何でまた泣いてるの、世界が怖いよ。冷たい雨の中で感じる彼の吐息や温まりに、言いたいことが溢れてくる。坂のおかげで、目線の高さは一緒。だからいつかのように、対等に感じる距離で、しかし3年前と違う気持ちのせいで、声にならない。
けれど握った手をそのままに、彼は言った。
大丈夫……僕たちは、大丈夫だ!
ああ、急にそんなことを言わないでほしい。3年前から出なかった涙が、溢れてしまいそうになる。
大丈夫。そんなこと単純なことを言われただけなのに。自分と一緒にいてくれると遠回しに言われただけなのに。きっとそれは、あの空の彼方まで、彼が追いかけてきてくれたから。生きてほしいと願ってくれた人だから。こんな自分に、指輪なんてものを渡してくれたこともあったから。そして今、ようやく願いを叶えてくれたから。
不安がある。恐れがある。罪悪感は消えない。それはずっと生きている間、自分が背負わなければならないものだ。けど彼は、それを一緒に背負ってくれる。そういう人だと、知っている。
だから、大丈夫なんだ。2人だから、大丈夫なんだ。
「……うんっ、うん!」
ああ、神様。幸せを感じ、勇気を奮い立たせ、ただの人として生きたい、こんな私を許してください。
私は恋をしました。彼と、帆高と一緒に生きていきたいです。
きっとあなたは、私を許してくれないかもしれない。東京という街も、私を責めるかもしれない。
けど、それでも、私の手を握ってくれるこの人がいる限り、私はもう、大丈夫です。どんなことがあっても、決して。
だから、お母さん。
私はもう、大丈夫だよ。
あのシーンの解釈は見た人によって別れますので、一視聴者の感想と思ってください。
ぶっちゃけ「陽菜さんエロ可愛いやったー!」でいいのです。
あと、天気の子をまだ一回しか見てなかった人は是非もう一回見てください。色々な心のフィルターが外れているため、2回目以降はより素直に楽しめます。
だから見るんだ(迫真