大王グウィンが残した最初の篝火に触れた事により、全身に温かな熱を感じる。それがハベルの鎧をその身に纏った、かの選ばれし不死が感じる最後の感覚であるはずだった。
闇の時代の象徴である不死人がこれ以上現れることがないよう、薪としての役割を引き継いで火の時代を紡いでいく。それが、世界の蛇フラムトから聞かされた己の使命であった。だというのに―――――
「勇者様方! どうかこの世界をお救いください!」
「「はい?」」
覚醒したばかりの意識のなかで最初に認識できたのは、聖職者が着用するようなローブを着た男達であった。その足下には大きな規模の魔方陣と何本かの蝋燭が配置されており、先程まで何らかの儀式を行っていたことは明らかである。私の他にも困惑が漂う声が聞こえたところを見るに、対象は複数人であろう。
―――どういう·····ことだ·····
見慣れぬ場所への転移など、不死の知る限りでは篝火を通しての転移か、はたまた召喚に答えたかのどちらかである。
状況からして後者であろうが、仮に召喚であるとしても、最後に感じたあの暖かな感覚からして、火継ぎに必要な薪として己の身体とソウル、人間性から何やらを全て捧げたはずの私がこうして召喚に応じること自体が可能であるはずはない。第一に、私は他の不死人のように白サインをこのような場所へと残した覚えが全くないのだ。
「色々と込み合った事情があります故、ご理解できる言い方ですと勇者様方を古の儀式で召喚させていただきました。この世界は今、存亡の危機に立たされているのです。勇者様方、どうかお力をお貸しください」
私の知っている召喚とは、宿主の元へ霊体となって一時的に赴くもの。だが今の感覚は完全に受肉している時とほぼ同等である。それに、この聖職者達の口ぶりや『勇者』という単語・・・・・・まるで幼いときによく聞かされた御伽噺のようではないか。
それに先程気が付いたのだが、左手にいつのまにか装備されているこの『盾』。戦いの中で使用するにはあまりに心許ない小盾が鎧の一部として・・・・・・いや、まるで身体の一部であるかの如く備え付けられている。しかも不思議なことに、この盾自体から奇妙なソウルを感じとることができた。
「嫌だね。人の同意なしでいきなり呼んだ事に対する罪悪感をお前らは持ってんのか?」
「そうですね、仮に、世界が平和になったらポイっと元の世界に戻されてはタダ働きですし」
「だな、こっちの意思をどれだけ汲み取ってくれるんだ? 話によっちゃ、俺達が世界の敵に回るかもしれないから覚悟しておけよ」
思考を整理するなか、耳障りな程の高圧的で若い声が2つ。
たまらず不死は声のする方へ目を向けると、まだ幾何の年月を過ごしていないような青年2人の姿があった。金髪の一つ結びの青年は『槍』、育ちの良さげな巻き毛の青年は『弓』を手にし、どちらの武器も『盾』と似た様な装飾が施されており、同じく奇妙なソウルを感じた。
召喚に応じたと言うことは、彼らはまだ若い内に不死へと成り果てたのだろうか・・・と思わず哀れみの心を持つ。しかし、そんな様々な思いを巡らせていた不死の全てを吹き飛ばすものが、そこに存在していた。
「まあまあ、貴公等。そんなに邪険にせんでもよいではないか! ここはまず、あの者達の話を聞いてみるというのはどうだ? 諸々の話はそれからでも―――」
2人と聖職者達の間に入り、場の空気を仲裁しようとする、聞き慣れた明るい声。
「うわっ!? なんだよ、あんたその格好?! 随分趣味の悪いコスプレだな」
「コスプレが何かは知らんが、趣味が悪いとはいきなり失敬ではないか? ・・・・・・ウワッハッハ! 冗談だ! 確かに言われ慣れているが、貴公のように初対面で堂々と言われたことはなかったものでな」
趣味が悪いと言われても仕方のないバケツヘルムに、誓約『太陽の戦士』の象徴である独特な太陽のホーリーシンボルがデカデカと描かれた鎧。
「確かに、そちらの2名は凄い格好ですね。これは本物の鎧ですか?」
「勿論そうだとも! 曲がりなりにも太陽の騎士を名乗っているからな。むしろ俺からしたら格好云々は貴公等の方が見慣れぬ物のような気がするが・・・。まあ、いいか! さて、そちらの貴公もいつまで呆けているのだ。一緒にこの者達の話を聞こうではないか!」
「う・・・うむ。そう、だな・・・」
「・・・ったく、しょうがねぇな」
「ですね」
この手で殺したはずの戦友『太陽の騎士』の声がけのもと、場の雰囲気は何とかまとまりつつあった。
もっとも、彼の腰にぶら下がっていた得物が、彼自身が愛用していた太陽の直剣ではなく自分たちと同じような装飾の『剣』を所持していたことも相まって、不死の心中はさらに混沌としていたが・・・。
「助かります。まずは王様と謁見して頂きたい。報奨の相談もその場でお願いします」
ローブを着た聖職者の代表がタイミングを見かねると、重厚感のある扉を開けて道を示した。それから召喚者達は暗い部屋から聖職者の案内のもと、石造りの廊下を歩いていく。
そして、道中で日が差し込む窓から見えた光景に不死人二人は息を呑んだ。
神族の住まうアノール・ロンドでしかあり得ないほど空が近く、太陽の光が存分に当たる街。手当たり次第にソウルを求めては我が物顔で闊歩する亡者や醜い獣、デーモンの姿がなく、生者による活気溢れる町並みは、ここが全くにもって別の異世界であることを不死人の脳へ瞬時に刻みつけられた。
しかし、青年二人はそんな町並みに長く目を向ける程の興味も暇も無く、すぐさま廊下を歩き、先に謁見の間へと辿りついていた。少し遅れてから不死人等が到着すると、謁見の間の玉座に腰掛ける白髪の初老が口を開いた。
「ほう、そなた等が古の勇者達か」
佇まいからして、誰の目からもこの国の王であることは明らかであった。すぐさま不死とソラールは揃った動きで跪く。
「ワシがこの国の王、オルトクレイ=メルロマルク32世だ。勇者達よ、顔を上げい」
「「はっ!」」
王の言葉に応答して跪いたまま顔を上げると、青年等が物珍しげにこちらを凝視していた。おまけに一国の王を前に畏まるどころか背を向けている現状。彼らの世界では王という存在自体が皆無であることを示していた。
「さて、まずは事情を説明せねばなるまい。この国、更にはこの世界は滅びへと向いつつある」
この世界には『終末の予言』というものが存在しており、世界を破滅へ導く『災厄の波』と呼ばれるものが幾重にも重なって訪れる。その訪れを知らせる『龍刻の砂時計』の砂が予言通りに、本年の始めに落ちたのだ。
予言を蔑ろにしていたつかの間、勇者達が召喚される前に第一波がメルロマルク国を襲った。瞬く間に闇が空を覆ったかと思えば、空をそのまま切り裂く様な亀裂が出現し、そこから凶悪な魔物が止めどなく溢れたという。
国の兵と冒険者の活躍により何とか退けたものの、当然無視できない被害を国は負った。これが第二第三と続くにつれ、さらに強力なものとなる。というのが予言の内容であるため、国に伝わる伝承に則り四聖勇者召喚の儀を執り行った。
以上が、メルロマルク王の語った真実であり、この地に召喚された勇者が成すべき使命であることを不死人二人は心に刻みつけていた。だが・・・
「話は分かった。で、召喚された俺たちにタダ働きしろと?」
「都合のいい話ですね。自分勝手としか言いようがありません」
彼らと違い納得のいかぬ者達もいた。だが、不死人の目から見ても、彼らは我々の居た世界とは異なる住人であることは確実である。加えて彼らはまだ若く、血を知らぬ振る舞いだ。不死人ではないであろう彼らの言い分を責めるのは酷というものであろう。
「もちろん、勇者様方には存分な報酬は与える予定です。その他援助金も用意できております。ぜひ、勇者様たちには世界を守っていただきたく、そのための場所を整える所存です」
「へー……まあ、約束してくれるのなら良いですけど」
「俺達を飼いならせると思うなよ。敵にならない限り協力はしておいてやる」
・・・・・・この場にそぐわぬ浅ましさを感じ、不死人達の先程浮かんだ哀れみがだいぶ薄らいだ。
二人の発言と跪いている不死人の様子をうかがい、協力関係の承諾と判断した王が口を開く。
「ありがたい。そこの者達も楽にして良いぞ。では勇者達よ、己がステータスを確認するのだ」
「「・・・・・・は、はぁ・・・?」」
聞き慣れぬ単語に不死人は揃って戸惑うが、その様子を青年二人は不思議そうに眺めていた。
「なんだよ、あんたら大層な鎧来てる割にはだな。普通この世界に来てから真っ先に気が付くところだろう?」
「視界の端にアイコンがありませんか? そこに意識を集中してみてください」
さも当然であるかの如く呆れている二人に言われるがまま、不死は視界の端にうっすらと存在していた紋章に意識を集中させる。すると、多様な数字や項目が不死の目の前に現れた。話を聞くに、どうやら自身の能力を数値化できる魔術か何からしい。
「なんと!? こんな手軽で便利な魔術は聞いたことも見たこともないぞ! おまけに触媒を必要とせず使用回数もなく無限に発動できるとは! いやはやなんとも―――」
「それで、俺達はどうすれば良いんだ? ステータスを確認したんだが、俺達のレベルは1だぜ。これじゃまともに戦えるかも不安だ」
「そのことですが・・・勇者様方にはこれから冒険の旅に出て、自らを磨き、伝説の武器を強化していただきたいのです」
「強化? この持ってる武器は最初から強いんじゃないのか?」
「はい。伝承によりますと召喚された勇者様が自らの所持する伝説の武器を育て、強くしていくそうです」
「俺達四人でパーティーを結成するのか?」
「それにつきましては、勇者様方は別々に仲間を募り、冒険に出かける事になります。伝承によると、伝説の武器はそれぞれ反発する性質を持っておりまして、勇者様たちだけで行動すると成長を阻害すると記載されておりますゆえ」
「伝承・・・伝承ねぇ・・・」
未知の魔術に興奮している太陽の騎士を余所に、得物の槍を器用にクルクルと回しながら、金髪の青年が一人で話を進めては頷く。
「となると仲間を募集した方が良いということでしょうか?」
「それについてはワシが用意しておくとしよう。なにぶん、今日は日も傾いておる。勇者殿、今日はゆっくりと休み、明日旅立つのが良いであろう。明日までに仲間になりそうな逸材を集めておく。・・・そう言えば、ワシとしたことがまだそなた等の名を聞いていなかったな」
王の言葉を聞き、二人の青年が前に出て自己紹介を始めた。
「じゃあ、俺からだ。俺の名前は北村元康、年齢は21歳、大学生だ」
「次は僕ですね。僕の名前は川澄 樹。年齢は17歳、高校生です」
二人に続き、不死人等も名乗り始める。
「俺はアストラのソラール。太陽の神の信徒であり、騎士である!」
「・・・・・・私は・・・・・・」
不死は言葉に詰まった。優に百年もの間、北の不死院の牢獄で幽閉されていた所為か、こともあろうに出自から自らの名前まで、そのほとんどを忘れてしまっていた。ロードランの地では火継ぎの使命が自分の全てであったため気にも留めなかったが・・・。
「ふむ。モトヤスにイツキにソラールか」
「陛下、お待ちください。まだ彼が名乗り終わっておりませぬ」
「おお、そうであったな」
意図してか分からぬが、四人目を無視して話を終わらせようとした王をソラールは引き留めると、今度は心配するようにこちらを覗き込んだ。
「さあ、貴公! どうしたのだ? そのような立派な石鎧を身につけながら、まさか自分の名を忘れたなどとは言うまいな? ウワッハッハ!」
「・・・わ、私は・・・」
そこで、彼の鎧という言葉に不死はピンときた。過酷なロードランの地を共に歩んできた自分の装備と、この装備の信奉者が身につけていた指輪を見渡し、名無しの不死はこれから新たな名を名乗っていくことを決意した。
「私は・・・・・・ハベル。ロードランのハベルだ」
名も無き不死・ハベル
装備:ハベル一式
指輪:ハベルの指輪・寵愛と加護の指輪
左手武器:四聖勇者の呪いから盾固定
主人公の基本装備です。ソラールさんを入れた理由? 彼にも救いが欲しかったからだよ!!太陽万歳!!!(ヤケクソ)