勇者よ、人間性を獲得せよ   作:じーくじおん

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いやあ、ものの見事にアイスボーンにハマってしまいましてね(言い訳)。
ジンオウガがクリア後のコンテンツだと聞いたときの私の絶望が、貴公らに分かるか? いや、分かるまい(反語)


EP10 波へと向けて

 炭鉱での戦いから約一ヶ月が経ち、リユート村を拠点に鍛練を重ねながら城下のギルドから発注される依頼等をこなす等、二人は戦いの日々に明け暮れていた。全ては災厄の波までにラフタリアを奴隷から立派な戦士にするため・・・ただひたすら彼女に戦いを打ち込ませていった。

 

 炭鉱での一件から彼女の思い切りの良い立ち回りを見出したハベルは、日々の鍛練の中に彼自身とのより本格的な模擬戦を組み込ませた。獣の血が混じる亜人であるためかヒトよりも俊敏性、瞬発力など身体面では目を見張る物がある。

 

 より実戦に近く殺伐とした模擬戦により、彼女の戦い方はハベルとは似付かぬほど差異を帯び、守りよりも攻めに力を入れ、相手の懐へと飛び込む事が多い大胆な物へと変化した。魔物のレザー装備に片手剣のみという限界までの軽装、その素早い身のこなしから放たれる致命の一撃、己が技の粋を叩き込んではすぐに実戦へと移し込む彼女を育てるのは、彼としても存外に面白いものだった。

 

 更に、彼女の飲み込みの早さはそれだけでは無かった。ラフタリアは立ち回りを確立するにあたって、ハベルからの教えだけでは無く、彼が無意識のうちに行っているであろう動きを真似ていった。自身の攻撃を当てる際の踏み込み・・・相手の攻撃を躱す瞬間の退き際・・・小さな一歩の間合いでの感覚を徐々に掴んでいき、ラフタリアは遂に彼女独自の戦技を習得するに至った。

 

 彼女が戦いの中で初めて実践したのは丁度今朝のことだ。城下付近の草原で大量発生している、背面と側面が針毛でビッシリ覆われた獣『ヤマアラ』の討伐依頼を受けた時である。何分数が多いため二人で手分けをして討伐に挑み、先にハベルが任された分を狩り終えて何気なしに彼女の方を見やる。その時であった。

 

 彼女は最後の一匹を追いかけ回していると、逃げていたヤマアラが突如として振り返り、そのまま体を丸めてラフタリアに体当たりを仕掛けた。その距離は目と鼻の先ほど近く、とても回避が可能な距離では無かった。どうしたものか・・・とハベルが見届けていると、彼女は剣の腹を向け、足を開いて体幹を整えると真正面からヤマアラを受け止め・・・瞬間、ハベルの耳に聞き慣れた『弾き』の音が響き渡る。

 

 力の行き場を失ったヤマアラはほんの僅かな時間、宙でバランスを崩してしまう。その刹那的な瞬間をラフタリアは逃さず、ヤマアラの針毛が無い首元に深々と剣を突き刺した。ヤマアラが事切れるのを見届けると、ラフタリアは返り血を腕で拭い、主人にいつもの笑顔を向ける。

 

「ハベル様、こちらは済みました・・・あの、どうされましたか?」

 

「・・・ラフタリアよ・・・先程のアレは何だ?」

 

「さっきの・・・? ああ! あれは、その、ハベル様の盾の受け流しが剣でもできないかなーと思いまして。丁度コツを掴んだところなんですけど・・・・・・ダメ、ですか?」

 

「・・・・・・そうか・・・・・・・・・いや、貴公に任せる」

 

 ハベルは自身の『四聖盾』と『黒騎士の剣』を交互に眺めてから考えた末、ラフタリアに一任した。一方、彼女は編み出した戦技を否定されなかった安心と実戦で成功し通用した喜びで胸を躍らせながら、仕留めたヤマアラを次々と手際よく解体していく。最初の頃とは考えられないほど強く育ったものだ、とハベルは一人思い起こしていた。

 

 ヤマアラの解体を終え、二人はそのまま城下町のギルドへと依頼の達成報告を済ませる。その際、貰うべき報酬が張り出された額の半分である事をラフタリアは気が付いた。どうやら、罪人である盾の勇者がギルドを通じて依頼を受ける際の規定らしく、今までハベルが受けてきたクエストもそうだったらしい。すっかり憤慨したラフタリアは誤解だと抗議の声を挙げるが、別に稼ぎを重視していないハベルからすればそんなことはどうでも良かった。受付に尚も異議を唱えるラフタリアを下がらせ、二人はギルドを後にするのであった。

 

「んもう! ハベル様! 今後はあんなギルドから依頼を受けるのは辞めましょう!」

 

「・・・・・・何故貴公がそう怒るのだ? 現状、金銭に困っているわけではないだろう」

 

「そういう問題ではないのです! 私は・・・・・・私は、ただハベル様が良いように使われているのが我慢ならないんです!」

 

「・・・そういうものか?」

 

「そういうものです!」

 

 プクッと頬を膨らませては尚も不機嫌な様子のラフタリアを不思議に思いながら、ハベルは武器屋へと足を運んでいく。災厄の波の訪れが近いためか、道中で何人もの王国騎士達が忙しなく城下を往来しているのを見かける。騎士だけではない、町全体が何やらピリピリと気を張っているようだった。

 

「町の雰囲気がなんだか物々しくなってきましたね・・・」

 

「災厄の波が近いからであろうな・・・・・・せめて、何時何所で訪れるものかが分かれば対策のしようはあるのだが、騎士達の様子を見る限りでは後手に回るのは確実であるな」

 

 ままならんものだ・・・とハベルが呟いたところで、二人は武器屋の前へと辿り着いた。拠点をリユート村へと移したお陰でこのところめっきり顔を見せていなかった所為か、店主のエルトハルトは二人を見た途端に、カウンターの向こうで顔を輝かせていた。

 

「ハベルのあんちゃんに・・・こりゃたまげた、嬢ちゃんじゃねえか! 随分と久しぶりだな!」

 

「・・・・・・そう言えばそうであったな」

 

「お久しぶりです、親父さんも元気で安心しました」

 

 無愛想な態度のハベルとは一転して、ペコリと会釈をするラフタリアに、エルトハルトは店に来た当初の彼女を思い出して目頭が熱くなっていた。別にハベルを信じていなかったわけではなかったが、まさかここまでとは思わなかったのだろう。

 

「あんちゃんは相変わらずだが、嬢ちゃんの方はすっかり見違えちまったなあ。随分と別嬪さんになっちまいやがって・・・・・・。そういや近頃見かけなかったが、あんちゃんのことだ。さぞや戦いづくしだったろう?」

 

「森の近くにあるリユート村でハベル様に鍛えてもらいました。確かに戦いの日々でしたが、テーブルマナーや料理も村の人達から教えてもらいました。ハベル様の従者として少しでも恥ずかしくないように、色々と頑張ってましたよ。・・・・・・まだまだですけど」

 

「くぅ~~、心身共に健気になりやがって。前に来たちんちくりんとは大違いだ。良かったなぁ、ハベルのあんちゃん」

 

「・・・まあ、貴公の言う通り亜人の特性にはこちらとしても大いに助かっているところだ。幼子を戦場にかり出す羽目にならないのもそうだが、戦いにおいても成長具合には目を見張るものがある。・・・・・・夜泣きもすっかり落ち着いたことだしな」

 

 ハベルのあんまりな物言いに、思わずエルトハルトはずっこけそうになる。溜息をつくラフタリアを横目に、そりゃねえだろ、と言わんばかりに彼へ目線を向けるが、当の本人には何一つ伝わらなかった。

 

 ハベルの言った通り、亜人にはある特性がある。幼いときにある一定の経験を積むと、それに比例して肉体も急成長を遂げるというものだ。そうとは知らず、みるみるうちに彼女の発育が異常なまでに発達していくのを不審に思ったハベルが村長に相談したところで発覚したことである。想定外の事ではあったが、ラフタリアを戦士にする上ではどう転んでも損のない好都合な事象だ。経験が経験であるため、肉体だけではなく精神も成長を遂げていることだろう。もはや奴隷だった頃の面影すら、残っていないように見えていた。

 

「にしても、あんちゃんはとんだ朴念仁だなあ・・・」

 

「・・・ぬ? 貴公、ソレはどういう意味だ」

 

「俺に聞いてる時点でアウトだ。まったく、嬢ちゃんが誰のためを思ってここまで立派になったと―――」

 

「わ、わぁああーー!! 親父さん! ハベル様に余計なこと言わないでください!」

 

 「でもよぉ・・・」と言い淀むエルトハルトの言葉を遮るようにラフタリアは騒ぎ立てる。事の発端であるにも関わらず、ハベルはやれやれといった具合に中睦まじく話す二人を眺めていた。

 

「・・・・・・そんなことよりもエルトハルトよ、今日はラフタリアの装備を整えに来たのだ。魔法鉄の直剣と上質のレザー軽鎧を頼む」

 

「ああ、分かった。ちょっとそこで待ってな。丁度嬢ちゃんに似合いそうな物を見繕ってたんだ」

 

「あ、あの、そのことなんですが・・・・・・ハベル様はよろしいのですか?」

 

「・・・何?」

 

 エルトハルトが商品を取りに店の奥へと消えたとき、ラフタリアがおずおずと言いにくそうに切り出した。なんでも自分ばかりが装備を買い与えてもらってばかりで、なんだかばつが悪い気がするというのだ。そうは言っても、ハベルは現状、装備追加の必要性を感じてはいなかった。炭鉱での件もハベル自身が苦手としていた犬型が相手であり、言い方は悪いがラフタリアを庇わなければマシな立ち回りができたことだろう。

 

「・・・私に必要性を感じるのか? それよりも貴公はまず自分の心配をするべきだろう。災厄の波では何が起こるか分からんのだ。私の身を案じていられるほど貴公には余裕があるのか?」

 

「いえ、それは・・・・・・申し訳ありません」

 

 ハベルの放つ気迫が一変し、語気も心なしか強くなる。出過ぎたと判断したラフタリアはシュンと気落ちしてそれ以上は何も言わなかった。注文通りの商品を持ってきたエルトハルトはその一連の流れを察したのかハベルを窘めるように睨み付ける

 

「はあ、ったく。そんな言い方ねぇだろ。嬢ちゃんは単純にあんちゃんの心配をしてんだよ。・・・・・・しょうがねえなあ。嬢ちゃんの気持ちを汲んで、いけ好かねえあんちゃんの装備は俺がオマケして考えといてやるよ」

 

「えっ! 親父さん、本当ですか!?」

 

「あたぼうよ。次に来るときまでには考えといてやるよ」

 

 ありがとうございます、と彼の気遣いにラフタリアはいつもの元気を取り戻していた。ついでに彼女は注文した鎧と剣を値切りに掛かると、エルトハルトはこれまた嬉しそうにしながら彼女の交渉を快く受けていた。結果、武器にブラッドコーティングという耐久性を高めるものをサービスで付与してもらうところまで交渉した彼女を、なんとも逞しく育ってくれたとハベルは感慨深く眺めていた。

 

「そう言やよ、あんちゃん達は教会にはもう行ってきたのか?」

 

 エルトハルトからの突然の問いかけに、二人は揃えて疑問の声を挙げた。てんで見当が付いていないその様子に、問いかけた彼も同じように「え?」と口から疑問を漏らしていた。

 

「なんだよ、あんちゃん達は教わってねえのか? この町の広場で時計台のある教会にデカい砂時計があるらしいぞ。龍刻の砂時計って名前だったな。その砂が落ちきったときに、勇者は一緒に戦う仲間と共に厄災の波が起こった場所に飛ばされるらしいぜ」

 

「・・・・・・初耳だな」

 

「まあ、あんちゃんはハブられてんだろ。なんたって犯罪の勇者様だからな」

 

「・・・・・・ぬぅ」

 

 笑いながら彼なりの冗談のつもりであったが、ラフタリアがグスッと鼻を鳴らし、途端に目に涙を溜めて哀しげな表情を見せたため、堪らず慌てふためいて説得していた。一方、ハベルは彼の冗談を聞き流しながら先程の情報を整理しては唸りを挙げていた。直接関係の無い武器屋の彼でも知っている『波』に関する知識。ラフタリアを鍛えることだけ目が向いていたばかりに、ハベルはこの世界の常識に疎いことを改めて自覚させられた。

 

「こうしてはおれんな・・・・・・ラフタリア、装備を替えたらすぐに向かうぞ」

 

「は、はい!」

 

 ハベルの指示が飛ぶと、気を取り直したラフタリアはせかせかと防具を持って更衣室へと入っていった。同時に彼はラフタリアの値切った料金をカウンターへと置き、魔法鉄の直剣を受け取る。

 

「なあ、ハベルのあんちゃん。あの嬢ちゃんは根っこからあんちゃんのことを信じてるんだ。化物でも勇者でもない、あんちゃん自身をな。それだけは覚えといてくれよ」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 エルトハルトの思いをどう受け取ったかは知らないが、彼はただ黙って剣を受け取る。そして、ラフタリアが戻って店を出る際に一言「・・・また来よう」とだけ添えて行ってしまった。どこまでも不器用なハベルに、エルトハルトはやれやれと言った具合で店の奥に引っ込み、ラフタリアとの約束であるハベルの追加装備を考えるのであった。

 

 

 

 キュルルル~ッ! と武器屋を後にした瞬間、どうにも聞き馴染みのある腹の虫がハベルの耳元まで聞こえてきた。音源を見やると、そこには顔を盛大に赤らめた彼の従者の姿があった。そういえば昼時であったな、などとハベルは時計台を見ながら思案する。

 

「・・・・・・教会は逃げては行くまい。先に食事にしようか?」

 

「うう・・・すみません、お願いします・・・・・・」

 

 お腹を押さえ、申し訳なさげに獣耳を垂れながら言うラフタリアを連れ、ハベルはいつもの食事処へと足を運んだ。店の中に入ると店員やその他の客も一ヶ月ぶりとはいえもう慣れたのか、過剰に怯えることはなく少し噂話が飛び交うといった風に落ち着いていた。ハベルは適当に席へ付くと、早速ウェイターを呼び出して素早く一人分の定食を注文する。注文を受けたウェイターが奥へと引っ込もうとしたその時、ラフタリアが待ったを掛け、ハベルの方をもの言いたげな目でジッと見つめた。

 

「ハベル様、何度も言いますが御自分の料理を頼み忘れてますよ?」

 

「・・・・・・私は食欲がない。貴公だけで良かろう」

 

「その言い訳も何度も聞きました。戦士はいつでも戦えるよう万全にしておくものだ・・・私が最も尊敬する人のありがたいお言葉ですよ」

 

「・・・・・・ぬう・・・・・・」

 

 ラフタリアは戦いの絡んだハベルには全く頭が上がらない。しかし、普段の生活ではその立場が逆転し、ラフタリアは彼に生者同然の人間性のある生活を送って欲しいと願いを込めて厳しく接するところがあった。端から見れば奴隷の主従関係とは程遠い微笑ましくもあるものであったが、亡者であるハベルは余計な世話としか捉えることができずにいた。だが、今でも彼女の前では重厚な兜や鎧を脱がず、何故かは分からぬが化物である事を明かす気になれない彼は、ただ彼女の言うことを聞くほか道はなかった。

 

「すまない、追加で一番安い定食と一番強い酒を――」

 

「ハベル様、昼間からお酒はだらしがないです」

 

「・・・・・・・水を一杯」

 

 かしこまりました、とウェイターが下がっていくのと同時に、ラフタリアの顔には満足げな笑みが浮かんでいた。リユート村でも何度も繰り返されたこのやりとりであるが、不思議とハベルはそこまで悪い思いを抱いてはいなかった。

 

 

 

 

 

「これが、親父さんの言ってた『龍刻の砂時計』・・・綺麗・・・」

 

 教会に着いてすぐ、二人は受付のシスター服を着用した女性聖職者に案内された。ハベルの石鎧を見るなり嫌そうな顔を隠そうともしない彼女にラフタリアはムッとしていたが、教会内部の中央にデカデカと設置された龍刻の砂時計の神秘に当てられていた。

 

 独特な金の装飾が全体に施されており、およそ七メートルの高さから流れる炎の如き赤い砂がラフタリアを魅了していた。思わず彼女が手を伸ばすと砂時計が一瞬だけ輝き、視界の端に時間が刻まれた。ステータス魔術の1種だろうか、時間は18:29と災厄の波までの時間を示している事が分かった。

 

「時間が・・・コレに合わせて災厄の波に備えれば・・・・・・ハベル様?」

 

 教会に入ってから彼の反応が何も無かった事に気づいた彼女が顔を向けると、そこには龍刻の砂時計を呆然と見上げる主人が見られた。普段の彼からは考えられないほど無防備な姿を晒しており、まるでここではない、どこか遠くを見据えているかのような感覚に囚われ、ラフタリアの心はざわついていた。

 

 その一方、ハベルはどうしようもないほどの既視感を龍刻の砂時計から感じ取っていた。あり得ない、そんなはずはない・・・そう自身に暗示を掛けても、彼の心に平穏が訪れることはなかった。彼はラフタリアの不安げな呼び声に耳を貸さずに彼女を追い越し、砂時計へと恐る恐る歩みを進めた。そうして、まるで太陽の如く輝き、炎のように燃え盛る赤い砂粒に向けて、ハベルは震える手を伸ばし―――

 

「そこにいるのはハベルか?」

 

 あと一歩、あと少し手を伸ばして届きそうなところで、久方ぶりに聞いた声がハベルの意識を取り戻させる。ハベルはすぐさま腕を引っ込めて声の方へと体を向けると、こちらを見定めるかのような目で見下す『槍の勇者』の姿があった。

 

「おいおい、最初の頃と何にも変わってないじゃないか? 石の鎧が下から数えた方が早い下位装備なのを知らないのかよ?」

 

「・・・モトヤスか、久しぶりだな」

 

 久しぶりに会った彼の装備は、銀に輝く鎧で身を固め、なんとも自己主張の激しい装飾が施されたものであった。相も変わらず意味の通じない言葉に首を傾げながらも、ハベルは元康に挨拶を交わす。しかし、彼の後ろから憎らしげな目線を向ける赤髪の女性が、ハベルの前に立ち塞がった。

 

「ちょっと! 犯罪者風情が何を気安くモトヤス様に話しかけているのかしら?」

 

「・・・ほう? まだ生きているとは驚きだな、マインよ」

 

「なっ!? ・・・・・・ええ、誰かさんと違って槍の勇者様はちゃんと仲間を大切にしてくださいますもの」

 

 瞬間的に表情を歪ませた後、マインはこれ見よがしに元康の腕へと絡みついた。その様子を見て、ハベルは煩わしげにフンっと鼻を鳴らす。

 

「それはモトヤスの苦労を増やしているだけではないか?」

 

「なんですってぇ?!」

 

「この野郎! まだ彼女を侮辱する気・・・か・・・・・・?」

 

 ヒステリックに叫ぶ彼女を余所に、元康はハベルの後ろでオロオロとしている亜人の女性を発見した。すると、彼はするりとマインの腕をほどいてハベルを退かし、ヒラリとラフタリアの前に傅きはじめた。

 

「初めまして、美しいラクーンのお嬢さん。俺は槍の勇者『北村元康』と言います。もし貴女がよろしければ、お名前を聞いてもよろしいでしょうか?」

 

「・・・・・・え、ゆ、勇者様だったんですか? えっと・・・ら、ラフタリア・・・です」

 

「ラフタリアちゃん、可愛らしい名前だ。本日はどのようなご用件でこんなところに? 貴女のようなお人が物騒な鎧と剣を持っているなんてどうしたというのです?」

 

「えっと・・・その・・・・・・」

 

 突然槍の勇者に言い寄られてしまい、ラフタリアはどうすれば良いか分からずに困ってしまう。そんな最中、態度を一変させてだらしなく口説き始めた元康の背後から、どす黒い怨嗟の念が送られているのを感じ取る。念が向けられてくる方を見ると、彼のパーティーであろう三人の女性がジト目で、或いは笑いながら槍の勇者と自分に向けて睨みを利かせているのが分かった。

 

 ゾワリとしたものが彼女の背筋を走って体毛が逆立つ中、槍の勇者は尚も気づかずに訳の分からないことを話しながら言い寄ってくる。堪らず彼女はハベルの方へと顔を向けて涙目になりながら助けを求めると、状況を飲み込めず傍観していた彼は、何とか彼女の意思を汲み取ることができた。

 

「・・・貴公、そこまでにしておけ」

 

「ああ? 何だよテメェ、まさかラフタリアちゃんに欲情したんじゃ―――」

 

「貴公のためを思って言っているのだろうが。・・・それと、ラフタリアは私の連れだ」

 

 「な!?」と見るからに動揺する元康の隙を突いて、ラフタリアはそそくさとハベルの後ろへと隠れるように移動する。彼のような奴に可愛いケモ耳女の子の連れがいるという事実に衝撃が走るも、すぐさま元康は余裕の笑みを浮かべた。

 

「なんだよ、一人で使命を全うするんじゃなかったのか? やっぱハッタリだったんじゃねえか。それとも、化物でも人肌が恋しくなったのかよ」

 

「・・・許せよ、貴公。こちらにも色々と事情があったのだ。知っての通り貴公のような人望は化物である私には無いものでな・・・」

 

 あくまでも動じない姿勢を見せるハベルに、元康はイライラを募らせていく。まさに一触即発の雰囲気が教会内を支配していた。しかし、その暗い雰囲気を一変に吹き飛ばすほど、朗らかで明るい声が教会に響き渡った。

 

「おお! ハベル殿にモトヤス殿ではないか! 勇者全員が息災なようでなによりだな! ウワッハッハッハ!!」

 

「ソラ――」

 

「ソラールさん!!」

 

 無意識にハベルを遮り、元康は声の主へ颯爽と駆け寄った。『剣の勇者』ソラールの横には彼の仲間の仲間が控えているほかに、『弓の勇者』川澄 樹が途中で合流したのか、彼の横に連れ添っていた。三勇者とその仲間達が互いに和気藹々と交流を図っている最中、自然とハベル達は蚊帳の外となっていた。元康同様に装備を整えた樹と、あの時から何も変わっていない太陽のホーリーシンボルが描かれたお手製の装備を纏っているソラールが無事であるのを確認すると、ハベルは「行くぞ」と一言ラフタリアに声をかけ、先に教会を後にしてしまうのであった。

 

「ああ、待ってくれハベル殿。貴公は―――」

 

「いいって、ソラールさん。あいつは俺達と関わりたくないんだってよ。そこの君も、彼がいかに残忍で冷酷無比な化物だって噂を知らないわけじゃないだろう?」

 

 ソラールの制止の声を遮るほど、元康はハベルの後を追従するラフタリアに声を張り上げた。彼女は唇を噛み締めながら、その耳障りな声を無視してハベルの元へと駆けて行く。そうして彼に追いついたとき、ラフタリアは黙ってただハベルの隣へと並ぶのであった。

 




小ラフタリアのターン終了でございます·····
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