勇者よ、人間性を獲得せよ   作:じーくじおん

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兵士、民草合わせて、死者数千

生き残りは、殆どなし

異なる世界のメルロマルクは

異世界で最も悲惨な殺戮の舞台と成り

その地には、後々まで闇霊が潜み

やがて腐敗した世界では飽き足らず

堕落した女神をも殺し回ったという





EP11 災厄の波

「・・・他の勇者様方と何かあったのですか?」

 

「・・・・・・何?」

 

 教会を後にしてからの二人は城壁近くの草原へと赴き、日が落ちるまで弱い魔物を刈り尽くした後にハベルとの鍛練などで時間を潰していた。そうして城下の宿で一部屋を取り、ハベルがいつものように薬草を調合している最中に、恐る恐るといった様子でラフタリアから疑問の声が上がった。

 

「いえ、その・・・槍の勇者様はともかく、弓と剣の勇者様・・・特に剣の勇者様を見たときのハベル様は、いつも以上に距離を取っている感じがして・・・」

 

「・・・・・・我々の間に何かがあったとして、貴公に何かができるのか?」

 

「・・・っ・・・ハベル様、私は―――」

 

「明日が何の日か分からないほど貴公も馬鹿ではなかろう・・・・・・下らんことを考えている位なら、少しでも体を休ませておけ」

 

 ハベルはラフタリアの方を一瞥もせず、ゴリゴリと薬草を磨り潰して調合しながら、冷たく突き放すように言い放った。これ以上話すことはないと言わんばかりにハベルは彼女に背を向け続ける。

 

「・・・・・・すみません・・・・・・先に休みます、おやすみなさい」

 

「・・・・・・うむ」

 

 彼が適当に返事を返してから、とくに食い下がることもなく諦めたラフタリアは、すごすごとベッドへ潜っていく。主人に何かあったことは察せても、自分では何も解決できないことを思い知り、無意識に両手へギュッと力がこもる。彼女は一人毛布を頭まで被りながら俯き、己の無力感とそれに対する悔しさに向き合いながら眠りについた。

 

 彼女が眠りについてからしばらくして、ハベルはベッドの方をチラリと一瞬だけ見やると、自分の左籠手をおもむろに外した。彼の左腕は相も変わらず焼死体のような亡者のソレであり、前腕部には不死人の象徴であるダークリングが刻まれている。

 

―――今更ながら、貴公の思い描いていた盾の勇者の正体が、不死身の化物などと・・・まるで笑えんな・・・・・

 

 ハベルは未だに彼女の前で鎧を脱げずにいた。今まで自らの正体を明かさなかったのは、彼女を戦士へと鍛え上げる上で、単にその機会がなかったからだ。もっとも、今ラフタリアにそのことを問いただされても、先程のようにハベルは何かと理由を付けて強引にはぐらかすだろう。本気の拒絶を示せば彼女がそれ以上踏み込んでくることはないことを、彼はよく知っていた。

 

 鎧の下に隠れた素顔を見たとき、彼女はどんな反応をするのだろうか。他の有象無象と同じくハベルを化物と蔑み、恐れや拒絶を向けて去って行くか・・・それとも自らが思い描いていた勇者像とは異なることに嘆き悲しみ、絶望しながら去って行くか・・・。

 

―――私が・・・・・・恐れている? 彼女を手放すことに? ラフタリアを失うことに? この私が?

 

 ダークリングをじっと見つめていると、一瞬だけラフタリアの絶望した表情が浮かび上がり、何を馬鹿な・・・と首を振って頭に浮かんだ残像を払いのける。かの地(ロードラン)であれだけの喪失を味わって来たというのに、何を今更・・・・・・・。心の中で自身を戒め、籠手を填め直してから、彼は日が昇るまで無心に薬を調合し続けるのであった。

 

 

 

 朝日がうっすらと差し込む早朝、手早く朝食を済ませて宿を後にした二人は日常とかけ離れた雰囲気へと変貌した街道に出る。城下町では今日が波の日である事が既に知れ渡っているのだろう。王国騎士隊と冒険者がこぞって城門付近に集合して出撃の準備を整えており、街の者達は残らず家に立てこもっていた。

 

 結局、龍刻の砂時計に触れることが叶わなかったハベルはラフタリアに時間を確認すると、あと17分で災厄の波が訪れるという。

 

「・・・ラフタリアよ、私はできる限りのことを貴公に教えてきたつもりだ。今回の波でも普段と何ら変わらぬ動きをすれば、どうにかなろう。・・・いざとなれば私が何とかする」

 

「ハベル様・・・分かりました。頑張ります!」

 

 声が上擦り尻尾の体毛が逆立つほど、ラフタリアは誰がどう見てもガチガチに緊張していた。適度な緊張は持ち合わせておいた方が良いが、行き過ぎればかえって動きを鈍らせ、戦いに支障が出ることが容易に想像できる。そんな彼女を察してハベルは彼なりに不器用に激励する。すると、彼女は主人の思いを受け取ってか戦意が高揚し、先程より幾分かは緊張がほぐれていた。

 

「あの、ハベル様・・・・・・少しお話ししてもよろしいでしょうか?」

 

 「ぬ?」とハベルは彼女の方を振り向く。すると、そこには態度を改め、いつも以上に真っ直ぐで真剣な眼差しを向けるラフタリアの姿があった。流石のハベルも何事かと思い、彼女の方へ体を向け、話に耳を傾ける。

 

「私は、他の誰になんと言われようとも、ハベル様と出会うことができて良かったと、心から思っています。生きる希望を見いだせずに、病弱で泣き虫だった奴隷の私を、ハベル様は見捨てることなく戦士にしてくださいました」

 

「・・・・・・それは貴公が望んだことだ。礼を言われる筋合いはない」

 

「それでも、言わせてください。温かい食事に病を治す薬、そして生きていく術を私に教えてくださったのは他ならぬハベル様です。そして、私に従者として災厄の波へと立ち向かう機会を与えてくれました。それに・・・私も波へと立ち向かう理由ができました」

 

「・・・・・・理由? 盾の従者である以外の理由などあるのか?」

 

 彼女が理由にこだわる意図を人間性を失っている故か理解することができず、ハベルはゴトッと石兜を傾げる。そんな彼を見ても、ラフタリアは揺らぐことなく力強く返答する。

 

「波によって家族を失う人達をこれ以上増やさないようにすることです・・・この私のように・・・・・・」

 

「・・・・・・何?」

 

「私の大切なものを奪った災厄の波を全て払うことができても、私の家族や友達が帰ってくるわけではありません。けど、それでも私と同じ境遇になってしまいそうな人達を、今の私なら少しでも多く助けることができます。・・・ソレが私の波に立ち向かう理由です」

 

 ハベルの石兜を逸らさずに真っ直ぐ見つめ、落ち着いた声色で彼女は話す。彼女が語った理由は、上手く言い表すことができないが自身に存在しないものである事を、ハベルは内に残った僅かな人間性で感じ取ることができていた。同時にソレは、彼女が自分とは違う生者である事を存分に思い知らされた。

 

「・・・・・・そうか」

 

 あまりに真っ直ぐな視線に耐えきれなかったのか、彼はまたぶっきらぼうに返答し、彼女に背を向ける。

 

「ハベル様・・・・・・私はいつまでも、貴方の従者です!」

 

 背を向けるハベルに対して彼女は力強く宣言するも、彼が振り返ることはなかった。

 

《00:01》

 

 そして、時が刻まれる。

 

《00:00》

 

 ビシィッ! と世界中に亀裂が入ったかのような身の毛もよだつ恐ろしい感覚が、その場に居た全員によぎる。刹那、二人の体が一瞬にして淡い光に包まれたかと思うと、二人から見える景色が一変した。エルトハルトの言っていた転送の実感が湧かぬまま辺りを見渡すと、自分たちが見晴らしの良い高台に飛ばされたのが分かる。

 

「ハベル様、空が!」

 

 怯えるラフタリアに言われるがまま頭上を見上げると、彼でさえ驚きを隠せなかった。雲一つなく青空が広がっていた空は、まるで血で塗りつぶされたかの様に赤黒く、更にはそのまま空を切り裂いたかのように不自然な亀裂が存在していた。そして、亀裂からはとても数え切れないほどの蟲や獣、そして亡者戦士に酷似している武装した屍食鬼(ゾンビ)が溢れんばかりに湧きだし、村へと進行していく。

 

 冒涜的光景を目にして怯むラフタリアを余所に、バッと飛び出す影が二つとそれらに続くいくつかの者達。すぐにそれらが槍と弓の勇者一行であることに気が付くと、彼らが我先にと一目散に亀裂へと向かっているのが分かった。一体何故・・・。

 

「おお、ハベル殿達もここに飛ばされてきたか!」

 

 聞き馴染みのある声にハベルはすぐさま振り返ると、ガシャガシャとホーリーシンボルが描かれた鎧を鳴らしながら、剣の勇者となったソラールが一人でこちらに駆け寄ってきた。彼の仲間はハベルを警戒してか、遠くから見守っている。

 

「ソラール、モトヤスとイツキはどこへ向かっている」

 

「なんとっ! やはりハベル殿は聞かされていなかったか。災厄の波を終わらせるには亀裂付近に存在している強い魔物を倒す必要があると、あの砂時計があった教会で二人から聞かされてな。おそらく彼らは亀裂の真下へと向かっていったのであろう」

 

 ソラールからの説明を受け、ハベルはすぐさま納得する。ならば話は早い、と亀裂の方へハベルも足を向けたその時、ラフタリアから悲鳴のような声が上がった。彼女の方へ顔を向けると、ここから見える村に向けて必死に指をさしていた。

 

「大変ですハベル様! あそこはリユート村です!」

 

「・・・何?」

 

 ラフタリアの指の先を見てみると、確かに彼女の言う通り、すっかりと見慣れてしまった村の風景が広がっていた。炭鉱を魔物から取り戻したリユート村は徐々に活気を取り戻していったお陰で、農村部でありながらここ一ヶ月で急激に住民の数を伸ばしていった。その村に向かって魔物の群れが今にも押し寄せようとしている。

 

 すると、先行していた勇者の一団に動きが見られた。ヒューッという音を上げながら、煙を激しく逆巻きながら光弾が上空に打ち上げられた。

 

「・・・・・・狼煙か。村のことは城下で待機中の騎士団に場所を知らせるだけのようだな」

 

「馬鹿な!? アレがイツキ殿の言っていた対策だと!? あれでは増援が到着する前に村が全滅してしまうではないか!」

 

 顔全体を覆うバケツヘルムを被っていても、ソラールの驚愕している表情が浮かんでくる。他の勇者と友好な関係を築けている彼ですら、波の被害を抑える対策とやらをざっくりとしか聞かされていなかったのだ。あまりにも雑な狼煙という手段と、先行した勇者一行が誰も村へと向かわぬ現状に、ソラールは拳を握りしめる。

 

「ハベル様・・・・・・村の防衛は―――」

 

「ラフタリア、リユート村に向かうぞ」

 

 ソラールの様子を窺っていたハベルが、不意に彼女の言葉を遮って指示を飛ばした。使命を重視していたハベルなら、必ずや亀裂へと向かうだろうとラフタリアは思っていたのだ。思いもよらなかった彼の命令に、ラフタリアは満ち足りた様子で「はい!」と力強く頷いた。

 

「ハベル殿、俺達も向かおう! 勇者二人が力を合わせれば村の一つや二つ―――」

 

「ダメだソラール。貴公は他の勇者について行け」

 

「なっ!? 貴公、一体何故・・・」

 

「貴公は素人に討伐を任せる気か! いくら勇者の力があるとは言え、血も知らぬ連中だぞ! ・・・流石に貴公の仲間を何人か借りることができれば良いが、あの様子では難しいだろう」

 

 ハベルがソラールの仲間の方へと顎をしゃくってみせると、あるものは盾の勇者にビクつき、あるものは剣の柄に手を掛けてハベルへと警戒を高めていた。このザマでは連携どころか一緒の戦場に立つことすら望むべくもないだろう。それでも、ソラールはたった二人で村の防衛に当たることになるハベル達を案じてか、彼の采配に納得できず唸りを挙げていた。

 

「・・・・・・他ならぬ火継ぎを成し得た貴公だからこそ、勇者の使命を託せるのだ。なに、私とてかの地(ロードラン)を巡り、同じく火継ぎを成した身だ。あんな陳腐な魔物共に今更遅れを取ろうはずもない。・・・・・・貴公のメダルにかけて誓うさ」

 

 ハベルは手元にホーリーシンボルが刻まれたメダルを1枚取り出した。少しばかり熱を帯びたソレは、太陽の戦士との勝利を分かち合った何より名誉の証である。ハベルが放った最後の一言とメダルを見せられ、ソラールの心は決まった。

 

「分かった・・・。だが貴公、数が数だ。・・・気をつけてな」

 

「・・・貴公も、抜かるなよ」

 

 お互い同意した後の短いやりとりの末、ハベルはラフタリアと共に村の方へと降りていく。そんな二人の背に向かって、ソラールは腕をYの字に広げて太陽賛美のポーズを捧げ、二人の武運を祈った。そして、いつまでも遠くで見守っているばかりの自身の仲間を叱咤激励し、道中出会った魔物を素早く倒しながら、他勇者に追いつくべく亀裂の方面へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 入り口からすでに、村は魔物等が入り交じる混沌とした戦場と化していた。騎士団の姿は見られず、防衛は駐在していた少数の冒険者と村の男達がそれぞれ農具を持って魔物に立ち向かう始末である。案の定、戦況が好ましくないのは明らかである。既に何人かの村人が負傷して倒れているどころか、逃げ遅れた女子供も見られた。防衛線など無いも等しく、壊滅は秒読みであった。

 

 誰もが諦めかけている最中、思いもよらぬ希望が彼らの前に舞い降りた。押し寄せてきた魔物の群れが、あれよあれよという間にその頭数を減らしていく。あまりにも鮮やかな手際にその場の全員が目を向けると、そこにはこの村の活気を取り戻してくれた全身石鎧の盾の勇者と亜人の女従者の姿があった。

 

「すげえ、流石は勇者様だ!」

 

「あの盾の勇者様が助けに来てくれたぞ!」

 

 村人達からこぞって歓声が挙がる中、構わずハベルは『黒騎士の剣』と『黒騎士の盾』を、ラフタリアは新調した『魔法鉄の直剣』を手に、次々と魔物達をソウルへ帰していく。少数の冒険者達も彼らの戦いぶりにあてられたのか、士気を高めて勢いを増していった。そのお陰かあれだけ劣勢だった広間は一瞬のうちに形勢を逆転し、10分とかからず掃討を完了する。

 

「盾の勇者様ーーー!」

 

 辺りを見渡して魔物の生き残りが居ないか確認していると、他の村人と同じく農具を持って立ち向かっていたであろうリユート村の村長が、ハベルの元へと慌てて駆け寄ってきた。

 

「貴公、村人の避難は?」

 

「それが炭鉱への避難中に襲撃に遭ってしまいまして、何人かが見当たらないのです。恐らくまだ近辺に取り残されているやも・・・・・・」

 

「・・・分かった。ラフタリアよ、冒険者と共に村人達の避難を援護しろ」

 

「はいっ! ですが、ハベル様は?」

 

「・・・・・・私は・・・ひとまず村を駆けて数を減らす」

 

「盾の勇者様、俺達も加勢します! この村は俺達の―――」

 

「戦士でもない貴公等に何ができる? 波を乗り切って終わりではないのだぞ。ラフタリアよ、貴公も務めを果たす事だけに集中せよ」

 

 指示を飛ばしたハベルは武器を比較的取り回しの軽い『黒騎士の斧槍(グレイブ)』へと持ち替え、残された者達の有無を言わさずに村の奥へと掛けていく。彼の背が見えなくなるまで見届けると、彼女は言われた通り村人達を避難所へと誘導していった。

 

 

 

「ウオォォ・・・!」

 

「うわぁぁ!? た、助け―――」

 

 広場での襲撃に気が動転し、ところ構わず逃げ出した宿屋の主人が村の外れにて、今まさに武装した屍食鬼三体に襲われ、武器が振り下ろされるその時であった。屍食鬼達は横から突き出された刃によって一気に串刺しとなり、やがて灰燼へと帰していった。恐る恐る目を開けると、目の前には見慣れた石鎧の勇者が細長い武器を手にしていた。

 

 ありがとう、と礼を言う間もなく、彼は悲鳴のあがった方へと重厚な鎧に似合わぬ足の速さで駆けて行く。向こうには羽虫に群がられ、子供を守ろうと必死に屈んで庇っている母親の姿が見られた。「そのまま伏せていろ!」と彼が声を荒げ、群がる羽虫に向けて斧槍を勢いよく薙ぎ払う。脆弱な羽虫が飛び散り、跡形もなく灰に変わるのを見届けると、盾の勇者は避難所に早く向かうよう一言叫び、その場を後にしていった。

 

 その後もハベルは村の外周を回るように魔物達を殲滅すると同時に、人命の救助を行っていった。民衆を守りながらの立ち回りを繰り返す内に、ハベルは自身の国家騎士時代を思い起こしていた。いつのまにか四聖勇者の使命感だけではなく、やり甲斐を見出していた。

 

 やがて村全体を周って見張りの高台が設置されている広場へと辿り着く。気が付けば、ハベルの周囲を亀裂から湧き出た魔物が見事なまでに取り囲んでいた。村中を駆け回っている内に彼の膨大なソウルに惹かれたのか、自然と魔物達は村人よりもハベルにターゲットを移していたのだ。

 

 数えきれぬほどの魔物に囲まれようとも、ハベルの心中が乱れることはなかった。ロードランの地に降り立ったばかりの頃ならいざ知らず、今の彼は火継ぎを成した身だ。有象無象に囲まれたところで、あの頃とは比べものにならないほどの力を手にした彼には何も問題はなかった。

 

 周囲の魔物を存分に引き寄せると、彼は手元の槍斧を内に引っ込め、代わりに呪術の火を出現させた。そして、右手に呪術の魔力を集中させてから地面へと押し当て、一気に火の力を解放させる。すると、ハベルを中心に幾多もの極太い火柱が地面から炎上し、周囲の魔物を焼き尽くしていった。呪術の師である彼女から託された最高峰の呪術《炎の大嵐》である。

 

 だが、業火の中でもまだ立ち上がる者が居た。ハベルよりも一回り以上の巨漢の屍食鬼が、ハベル目がけて巨大な斧を振り下ろしてきた。彼は後ろに転がるようにして避けると、すぐさま自身の身長程の大きさを誇る『黒騎士の大剣』を展開する。

 

 展開してすぐに、ハベルは手にした特大剣を地面にガリガリと火花が散るほど擦り合わせ、勢いを溜める。隙だらけなその格好に巨漢の屍食鬼は先程と同じ動きで斧を振り下ろすも、稚拙な力任せの攻撃ではビクともせず、ハベルの強靱さを揺らがす事は不可能であった。

 

「ズェアァァーー!!!」

 

 勇ましい咆哮を挙げ、ハベルは火花を散らして地面を大きく抉るほどの切り上げを放った。普通両腕で行う動作ではあるが、彼の豪腕にものをいわせて繰り出された一撃は、自身よりも体格のある巨漢の屍食鬼を高々に宙へカチ上げ、息の根を止めた。

 

 更に彼は振り上げた勢いを殺すことなく、漆黒の特大剣を背後へと力の限りに振り下ろした。気配を感じた先には粗末な木の盾を構えた巨漢の屍食鬼が構えていたが、ハベルの一撃により盾ごと両断される。

 

 やけになった巨漢の屍食鬼はデタラメに拳を突き出すも、ハベルの持つ黒騎士の盾が通すはずもなく、逆に振り払われて体勢を崩してしまう。ガァン! と心地よい音が響いた瞬間、ハベルは特大剣を2度に掛けて巨漢の屍食鬼の胴体に叩き込む。上半身と下半身を真っ二つにされた巨漢の屍食鬼は、そのままソウルを垂れ流して灰となった。

 

 周囲に張り巡らされていた敵意が落ち着きを見せたところを見計らい、ハベルは自ら調合した回復薬を兜から一気に呷る。そうして、彼はまたどこからともなく現れた多くの魔物達に目を向ける。疲労を覚えぬ自身の呪われし身体にこの時ばかりは感謝をしながら、ハベルは黒騎士の大剣と盾を構え直した。

 

「ハベル様!」

 

 不意にここに居るはずのない従者の声が、彼の耳元に届いた。声の方へ振り向くと、魔物の頭上を踏みつけ、首を切り落としながらラフタリアが懸命に向かってくるではないか。驚きのあまり彼女を凝視すると、向けられた屍食鬼の武器を空中で器用に弾きながら、ラフタリアはハベルの横へと降り立った。

 

「・・・・・・貴公、村人の避難はどうした?」

 

「村長さんから全員が揃ったと言われました。それから、冒険者の方々にここは任せろとも・・・・・・ですから、私はハベル様の言われた通り、盾の勇者の従者として、務めに集中させていただきます!」

 

「・・・そうか・・・・・・そうだな」

 

 ハベルは彼女を咎めることなく、気を取り直したかのように武器を構え直した。そんな彼を見てラフタリアはホッと息をつき、剣を上段で構える。

 

「それにしても、大分まだ数が多いですね」

 

「・・・・・・言ってくれるな、貴公。これでも随分と減らしたと思ったがな」

 

「ッ!? ああ、いえ、決してハベル様を責めたわけではなくてですね!?」

 

 冗談交じりの言動にあたふたするラフタリアを眺め、ハベルは兜の下でフッと笑みを浮かべる。彼の中に無意識のうちに余裕が生まれ、いざ奴らを殲滅せんと武器を握る手に力を込めた、その時である。彼らの上空に、禍々しいほどの光を放つ閃光が上がっていった・・・・・・。

 




どんどん字数が増えていく・・・。止まるんじゃねえぞ・・・。

皆様からの感想は作者の心に存分に染み渡っております。モチベーションに直結するのだよ!これからもどうかよろしくお願いいたします・・・。
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