「・・・騙して悪いが・・・」
「ウソダドンドコドーン!」
青ざめた血の如き空に放たれた、禍々しき一条の光。血生臭い戦場にはあまりに不自然な光量に、その場の全てが釘付けとなっていた。そうして、不意に閃光からゾクリと背筋を振るわせる程の悪意を覚えたハベルは、咄嗟にラフタリアの肩を掴んで抱き寄せる。呆けているラフタリアを余所に、彼は手元を『ハベルの盾』へと変換し、彼女をすっぽりとかぶせるようにして構えた。
瞬間、空高く上がった閃光は更に眩い光を放ち、鼓膜が破れるほど大きな音を立てて爆発した。尚も凄まじい音を立てながら、爆裂した幾重にも渡る火の手が、広場を中心に村全体を覆っていく。ハベルの呪術を上回る魔の炎は、確かに村全体の魔物を残らず焼き尽くしていった。
無論、火の手は広場の中心へと位置するハベル等にも及んでいく。だが、魔の炎が降り注ぐ瞬間、『ハベルの盾』の中心に埋め込まれた四聖武器の証である宝石が眩い光を放ち、四聖盾のスキル『防御壁』がハベルの意思に関係なく自動で発動する。それにより、ハベルの盾と同じ耐性を持つ透明な防護膜がハベルの周囲に張られることとなった。思わぬスキルの発動により、炎弾がハベルへと直撃することはなく、防御壁がある程度のダメージを和らげる事となる。
しかし、そんな事象を深く分析する暇があるはずもなく、降り注がれる火の雨が落ち着きを見せるまで、ハベルはしっかりとラフタリアを傍へと抱き寄せ、ただ岩のように耐えるばかりであった。炎弾は見事に広場全体を焼き尽くし、広場中心に配置され老朽化した見張り台にも火の手が移る。やがてギシギシと音を立て、勢いよく炎を纏いながら見張り台はハベル等の元へと倒壊していった。
「ヌァッハッハッハ! 見たか、一気に焼き殺せたではないか!!」
それからしばらくの時が経ち、増援である王国騎士隊が魔法の効果を確認すべく広場へと駆け付けた。隊の先頭では広範囲魔法の指示を出した騎士団の団長が、焼死体となった魔物の残骸を見てほくそ笑んでいる。盾の勇者を中心に形成された魔物の群れを一網打尽にした自らの指揮を自賛し、波が終わった後の騎士団長として受ける名声を想像しての笑みである。
幸いにも村人の避難も完了し、あとに残るは忌まわしき盾の勇者だ。複合魔法の犠牲になったところで何のことは無い、むしろ国王陛下から更に賞賛が・・・・・・等と下賎な思惑を抱いている中、崩れた瓦礫からガラガラと物音が聞こえてきた。死に損ないの魔物か? と騎士団の全員が警戒して剣を引き抜くと、瓦礫を退かして這い出てきたのは重厚な石鎧に若干の煤を付けた盾の勇者と亜人の従者であった。
「ほう・・・盾の勇者か。この中で五体満足とは随分と頑丈な奴だ。まさに『盾』として素晴らしい働きぶりだな」
魔物ではないと分かるな否や、騎士団長は皮肉な笑みを浮かべてハベルへと近付く。その瞬間、彼が手にしていた石の大盾から目をぎらつかせたラフタリアが刺突を放った。切っ先が真っ直ぐ団長の喉元へと到達する手前、団長よりも恰幅の良い副団長が前へと出て、彼女の剣を真っ向から受け止めた。突如として殺気を向けられた団長は怖じ気のあまり剣を抜くことすらままならず、無様に尻餅をついている。
「ハベル様が居ると知ってての事ですか! 返答次第では許しませんよ!」
「・・・・・・・・・」
申し訳なさそうな表情を浮かべながらも、副団長は黙ってラフタリアと鍔迫り合いを継続する。
「あ、亜人風情が生意気な・・・・・・我ら王国騎士団に逆らうとでもいうのか!」
「黙りなさい! 守るべき村と民を蔑ろにして何が騎士ですか!」
パチパチと焼き尽くされた家々から火花が飛び散る中、腰が抜けて地べたに手を張り付きながらも、騎士団長の口が減ることはなかった。そのことにラフタリアの苛立ちは募り、鍔迫り合う手先へ更に力がこもった。
「ふん、魔物共を一挙に討伐する機会をみすみす逃せと? 大体にして、この程度の範囲魔法すら耐えられぬような貧弱極まりない盾の勇者など、この世界にはいらんだろう!」
「あなたって人はッ!!」
遂に耐えきれなくなったラフタリアは激情に駆られ、副団長の剣を弾き飛ばし、再度団長へと殺意の込めた一撃を振り下ろした。しかし団長の脳天へと刃が振り下ろされる瞬間、ラフタリアの横から怯える団長を庇うように剣が突き出される。ガァン! と火花を散らして重なり合った剣先の方を見やると、そこには彼女の主人の姿があった。
「・・・・・・ラフタリアよ、下がれ」
「ハベル様!? でもコイツは―――」
「私は《下がれ》と言ったぞラフタリア!」
ハベルが荒々しくがなる中、ラフタリアは胸に刻まれた奴隷紋がじわりと光を帯び、久しく感じることがなかった呪痛を覚えたことにより、すごすごと剣を納める。その一連の光景を目にした騎士団長が気をよくしたのか、立ち上がりながらまたもや意地の悪い笑みを彼らに向けた。
「ふん! 貴様の主人は実に物わかりが良いな。まあ、ここから先はそうやって大人しくしていれば、我々とて
「・・・・・・そうか・・・・・・では、あれらの相手は貴公等に任せるとしようか?」
「ああ?」と団長は背後に向かって大剣の切っ先をかざすハベルを不審に思い、そのまま振り返る。すると、そこにはつい先程殲滅したばかりだというのに、第二陣とも呼ぶべき魔物の軍勢がすぐそこまで迫ってきているではないか。あまりに早すぎる敵増援の到着に、騎士団の者達は目に見えてうろたえ始めた。
「なぁ!? ええい、慌てるな馬鹿者! 直ちに態勢を立て直―――」
数少ない団長としての仕事である彼の指揮は、不意に目の前まで何匹かの羽虫が特攻してきたことにより遮られる。羽虫の毒針が団長の目と鼻の先に迫る瞬間、またもやハベルが団長の前に立ち塞がり、大盾を勢いよく突き出した。ハベルの鎧と同等の重量を誇る大盾に叩き付けられた羽虫は、残らずグチャッと嫌な音を立てながら半壊していった。
「・・・貴公の言う通りだ。大人しくしていれば、我々とて
「な!?」と、ハベルの侮辱的な発言に青筋を浮かべるも、巨漢の屍食鬼が斧を振り下ろし、それを真正面から一歩も退かずに受け止めるハベルの後ろ姿に、団長は罵倒が喉元でつかえ、吐き出すことすらできずにいた。そして、間髪入れずに団長の背後から一人の影が跳躍し、動きの止まった屍食鬼の首筋を貫いて瞬く間に討ち取っていく。思わず見やると、自身に殺意を向けた生意気な亜人の女であった。
「我々はこのまま、勇者としての使命を全うする。後は・・・貴公等の好きにするが良い・・・・・・行くぞ、ラフタリア!」
「はい、ハベル様!」
『ハベルの盾』から比較的身軽な『黒騎士の盾』へと持ち替えて敵陣へと突っ込むハベルに呼応し、ラフタリアも後へと続く。
真っ先に敵陣へと突貫したハベルは『黒騎士の剣』を踏み込みに合わせて突き出し、粗末な盾を構えた屍食鬼を盾ごと串刺し、そのまま横に大きく薙ぎ払い、宙を舞う鬱陶しい羽虫を粉砕しながら、一列に並んだ魔物の陣形を大きく乱した。
そんなハベルに槍を装備した三体の屍食鬼が、彼に向けて一斉に刺突を繰り出す。三本の槍の穂先が重なる瞬間、真上から跳躍したラフタリアが踏みつける。体重を乗せた刺突が防がれたことにより体幹を崩した屍食鬼達がおたおたとしている最中、ハベルはしっかりと三体の頭を同時に斬り落とし、僅かなソウルへと変換させる。
途中、巨漢の屍食鬼がラフタリアへ向けて斧を向け、両手で大きく振りかぶる。刹那、ハベルは呪術の火を手元に宿らせ、巨漢の屍食鬼に『大発火』をお見舞いする。腐りきった肉に呪術の炎は火だるまの如く存分に燃え猛り、炎に苦しみ喘いでいる巨漢の屍食鬼に、ラフタリアはトドメと言わんばかりに斬りかかった。
巨漢の屍食鬼にトドメを刺した直前、剣に残った炎を纏わせた状態でラフタリアは次々と魔物を捌いていく。今度はそのラフタリアに続く形でハベルも魔物を灰燼へと帰していく。長くビッシリと続いた鍛練により、かの地で戦いに明け暮れたハベルの動きに合わせて立ち回ることが、今のラフタリアには可能であった。
盾の勇者等が見せる阿吽の呼吸とも言える立ち回りに、その場に居た何名かの騎士達は思わず見惚れて立ち尽くしていた。しかし―――
「チィッ! ここは盾の勇者に任せて、我々は三勇者の元へ向かうぞ!」
面白げなく顔を歪ませた騎士団長の命令が飛ぶと、呼応して何人かの騎士達は剣を納め、大人しく団長の下へとついて行く。新兵や善意を持った騎士の何人かはこの命令に疑心を持つも、団長の命に逆らったと見なされ除隊となることを恐れるあまり、諦めて剣を納めようとした。・・・・・・その時である。
「これより、盾の勇者を援護する! 密集陣形!」
盾の勇者を捕らえ成り上がったとされる副団長が、覚悟を決めた眼差しで指令を飛ばした。これに答えた新兵を始めた何名かの騎士達は、訓練通りの揃った動きで陣形を速やかに形成する。やがて、副団長の「突撃!!」の号令が掛かると、騎士達はこぞって魔物達へと剣を振るっていく。
「クソが、これだから一兵卒上がりは・・・・・・構わず行くぞ」
騎士団長は憎らしげに副団長を睨み付けながらも、自身に付いた部下を引き連れて亀裂の方へとゆっくり向かっていくのであった。
「ハベル様、騎士団の方々が!」
「・・・まだ捨てたものでもないという訳か」
魔物を切り伏せながら感心していると、不意に足を取られる感覚がハベルを襲った。足下に目を向けると、地中から這い出た屍食鬼がハベルの足首を掴み上げ、醜い顔を覗かせていた。すぐさまハベルは頭蓋を踏み砕いて腕を切り落とすも、背後から剣を振りかぶる屍食鬼の姿が見えた。剣を受け止めようと盾を構えたその時、屍食鬼の胸から直剣が貫通する。
「貴公・・・あの時の・・・・・・」
事切れた屍食鬼を退かした騎士の兜から覗く大きな傷のある顔に見覚えを感じると、ハベルはこの者が彼を城まで連行した小隊の隊長である事に気が付いた。
「今更、どの面を下げて・・・と見下してもらって構わん。許してもらおうなどとも思ってはいない。ただ、私は己の信ずる騎士の誇りに従うまでだ」
「・・・・・・それで構わぬさ、貴公。理解があるようで助かるよ」
何時ぞやの言葉を再度投げかけると、ハベルは漆黒の大剣と盾を構え直し、背中を従者と騎士に任せたまま、広場の魔物を討伐していくのであった。
一方、空に浮かぶ亀裂から次々と湧き出る魔物を打ち倒しながら、ソラール一行は無事に元康と樹のもとへと合流することができていた。亀裂の丁度真下にて、四聖勇者の仲間達は尚も湧き続ける魔物の相手を、三勇者は前衛後衛に別れて波を引き起こしていると思われる元凶の魔物『次元のキメラ』を相手取る。
ソラールは前の世界、ロードランの頃から変わらず愛用している自作の『太陽の直剣』と『太陽の盾』を手にし、勇者の名に違わぬ果敢な攻めをキメラ相手に繰り広げていた。鉄の鎧を容易に切り裂く鋭い鉤爪、人一人を容易に飲み込めるほど大きな獅子の口に生えそろった牙、噛まれたら命はないであろう毒蛇の尻尾、強靱な肉体から放たれるそれらの攻撃を躱し、はねのけながら、ソラールは共に戦う勇者のフォローに回っていた。
時折無謀とも言えるほど欲張った攻撃をする彼らの支えとなるのは流石の火継ぎを成した彼でも容易ではない。しかしながらロードランのハベルとは違い、剣の勇者であるソラールはその身に与えられた四聖勇者の恩恵を活用し、増強された奇跡やスキルを用いて槍の勇者の傷を癒やし、弓の勇者にキメラの注意が向かぬよう立ち回っていく。
熟練したソラールの戦いぶりへと導かれるように、その場の全員の士気も向上し、勇者達も普段以上の思い切りの良い立ち回りをすることができていた。戦況はこれ以上ないくらいに優勢であり、遂にキメラがふらつきを見せる。
「今です! 《ウィンド・アロー》!!」
四聖弓から風の魔力を纏った樹の矢が、ふらついたキメラの両眼をくり抜いた。耳障りな程大きい苦痛の叫びを挙げ、キメラはその場でのたうち回る。決めるならば今しかない、そう判断したソラールは直剣を両手に持ち替え、刃を空に掲げた。すると、ソラールの信仰から生み出された魔力が四聖の恩恵により炎と化し、太陽の直剣はその名の通り燃え盛る暖かな火の力を得た。
「俺の・・・太陽の力をくらえ! 《紅・蓮・剣》ーーー!!」
大きく振りかぶって放たれた炎の斬撃は、大地を焦がしながら徐々に勢いを増して次元のキメラへと直撃する。莫大な衝撃に吹き飛ばされながら、その巨体は瞬く間に紅蓮の炎へと包まれる。そして、もはや虫の息であろうキメラの前に元康は堂々と向かい合い、手にした四聖槍へと雷の魔力を溜めていく。
「最後は俺が決めるぜっ! くらえ!! 《ライトニング・スピア》ーーー!!!」
矛から放たれた雷の衝撃波は、最早抵抗叶わぬキメラの頭部に向かって吸い込まれ貫通する。「グギャアァァァ・・・」という最後の断末魔を挙げ、次元のキメラはその場に倒れ伏し、二度と起き上がることはなかった。
そして、次元のキメラが事切れた瞬間である。次元の亀裂が徐々に閉じていき、赤黒く染められた空も亀裂へと吸い込まれるように退いていく。その後、まるで何事もなかったかのように青空が広がり、祝福するかの如く燦々とした太陽の光が彼らを照らしていた。
「ふう、なんとかなったか。まったく、モトヤス殿もイツキ殿も戦いの素人とは思えん立ち回りだったぞ! 俺の初陣とはまるで比べものにならんな」
「大袈裟だなあ、
「僕たちが力を合わせれば、怖いモノなんてありませんよ。これなら次の波も余裕ですね。とはいえ、ソラールさんの立ち回りは流石としか言いようがありませんでしたね。」
「やっぱ、異世界出身者は違うって事だな。でも見てなよ、ソラール。俺や樹も、すぐにあんたと肩を並べられるほど実力を付けてみせるぜ!」
「ウワッハッハ! それは頼もしいな。是非とも貴公等には期待するとしよう。その心意気を忘れてくれるなよ?」
互いに肩の力を抜き、武器を降ろして談笑しあう。まだまだ荒削りとはいえ、向上心の塊のような二人の姿勢に、ソラールは若い頃の自分、アストラにて騎士になりたての懐かしき頃を思い出していた。限りある命の中でがむしゃらに藻掻いていたあの時代、感慨深い思いを秘めながら、ソラールはバケツヘルム越しに二人を見つめていた。せめてこの二人には、全てを捨て去り虚像の太陽を追い求めた自分のように、生者の道を違えて欲しくないと思いを込めて・・・・・・。
仲間達も魔物の討伐を終えて勇者の元へと集まる中、ガッシャガッシャと鎧を身につけ増援と思われる何人かの騎士達がこちらへと走ってやってくるのが見えた。急いできた事を表すように肩で息をするが、兜から覗く顔に汗は流れていなかった。
「王都で待機していた騎士団の方々ですか・・・」
「今更来られてもなー・・・」
二人が呆れた眼差しを騎士団長に向けていると、ずんずんとソラールは団長の方へと唐突に歩み寄っていく。彼の朗らかな気は一変し、バケツヘルム越しでも伝わるほど強烈な怒気を放っていた。
「おい貴公等! ココまで来るのにどれほど時間を掛けていたのだ! なんだその傷一つ付いていない綺麗な鎧は! 一体今まで何をしていた!」
突然として豹変した剣の勇者に騎士団長はたじろぎ、他の面々は揃ってポカンと口を開くばかりである。王国騎士が無能なのはどのゲームでも定番であるため、元康と樹は彼が何をそんなに怒っているのか分からずにいた。
「そ、それは・・・我々は・・・そのぉ・・・近くの村を守ったり・・・避難活動を行ってですな・・・ああ、そうそう。そんなことよりも勇者様方、陛下が宴の準備と報酬を用意しております。ささっ、参りましょうぞ!」
苦しい言い訳だけでなく、報酬をちらつかせて足下を見る騎士団長にソラールは嫌気がさしていた。「もう良い!」と彼はピシャリと鋭く言い放ち、団長へ背を向ける。そして、自身の仲間へ先に城へと戻っているように伝えると、彼はそのまま村の方へと歩いて行った。
ソラールの姿が見えなくなった直後、マインがわざとらしく盾の勇者が戦いに参加していなかったことを口にして仄めかした。魔物に臆して逃げただの、村の隅っこで弱い魔物に足止めされていただのと好き勝手に言い合いながら、勇者一行は騎士団長の案内の下、宴と報酬を楽しみにしながらメルロマルク城へと足を運ぶのであった。
次元のキメラを倒して災厄の波が終わりを告げた頃、広場での戦線も決着が付いていた。王国騎士達と共に僅かな残党を片付け、その場の全員が戦いが収束したことに安堵の息をついていた。
しばらく腰を下ろして休息を取るついでに、ラフタリアは村全体を観察する。屍食鬼や羽虫などの死体が至る所に散乱しており、広場一帯の家々は騎士達の放った範囲魔法でその殆どが焼き尽くされ、火の手が収まった現在では見る影もない瓦礫と化していた。
しかし、しばらくしてから炭鉱の方へと避難していた村人達が徐々に姿を現していく。皆所々に怪我を負ってはいるものの、その眼差しには確かな希望が宿っていた。女性や年寄りは傷ついた者達の手当や炊き出しを行い、男達はこぞって魔物の亡骸を集めて処理し、邪魔な瓦礫を退かしていく。そして、少なからず犠牲となった村の者達を順々に弔っていった。
皆がそれぞれできることを行い、懸命に村を立ち直そうとしていた。皆それぞれが必死に今を生きているのだ。そのことを思うと、途端に彼女の目から自然と涙が溢れてくる。
一人うずくまって泣いているラフタリアの傍にハベルは寄り添い、「よくやった」と一言口にして頭を撫でる。そんな彼に副団長は近づき、ただ黙って頭を下げては兵を退かせ、城へと帰還していった。
「あの、勇者様・・・」
「・・・・・ぬ?」
騎士団が去った直後、今度は作業を中断して村長と何人かの村人等がハベルの下へと集まり声を掛けてきた。
「村を守っていただき、誠にありがとうございました。盾の勇者様がいなければ、皆はこの場にはいなかったでしょう。これだけの者がいれば村もきっと復興できます」
「・・・・・・私は使命を果たしたまでだ」
「それでも言わせてください。このご恩は決して忘れません。本当に、ありがとうございました!」
「「「ありがとうございました!!!」」」
「・・・・・・・・・そうか」
村の者達がこぞって礼を言い、揃って頭を下げると、また復興作業へと戻っていった。礼を言われたハベルは、心の奥底で暖かい、まるで残り火の様な物を感じていた。久しく味わうことのなかったこの感覚に、ハベルはただゴトッと兜を傾げるばかりであった。
「・・・感謝、されましたね」
未だ目に涙を溜めたラフタリアがぼそりと呟いた。よく見れば、激しい戦いだったが故に彼女も全身が泥と汗にまみれ、細やかな傷が目立っていた。
「・・・・・・・そう・・・だな」
「・・・・・・私のような方を、少しでも減らすことができました・・・よね?」
「・・・・・・・そうだな」
嗚咽を挟み、震えた声で彼女は主人へ問う。自信の欠片も感じない声色を窺ったハベルは、どっしりと彼女の隣へ腰を下ろす。そしてポンッと石籠手を彼女の頭に乗せ、また不器用な手つきで優しく撫で始める。
「・・・貴公は従者として、充分すぎるほどの働きを私に見せてくれた。今生きている彼らが、その結果だ・・・・・・よく頑張ったな、ラフタリア」
彼女の抱えた不安は、彼の一言でぬぐい去られた。ポロポロと流れ出る涙を拭いながら、彼女はまた、戦士として、盾の従者として、大きく成長していくのであった。
誤字脱字を訂正してくださった読者の方々には本当に頭が上がりません。いつもありがとうございます。これかもどうかなにとぞ・・・・・・(白サイン)