勇者よ、人間性を獲得せよ   作:じーくじおん

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EP13 苦難の宴

「勇者諸君、今回の波での戦いは誠に大儀であった! ここまでの活躍を見せるとはワシも思わなんだ。今宵は宴だ! 皆、勝利を祝って存分に楽しむが良い」

 

 一流のシェフが作った豪華な料理、選び抜かれた華やかな合奏団の演奏を前に、護衛の騎士達に囲まれたメルロマルク国王がグラスを掲げて高らかに宣言する。そして王が玉座に腰掛ける前に、三勇者一行及び騎士団長等を囲むように宴に参加している貴族達が一斉に動き出した。

 

 皆が波での武勇をいち早く本人から聞きたくて仕方がないのである。なんと言っても古くから伝承として伝わっている四聖勇者様が目の前に存在しているのだ。男女問わず目を輝かせながら口々に勇者を褒め称え、波での戦いを聞き出していった。

 

 貴族等のこの対応に気分を良くした弓と槍の勇者は、料理を片手に味わいながら壮大に次元のキメラとの戦闘を語っていく。まるで一つの物語のように二人の口から語られるソレに、女性陣は黄色い歓声を挙げ、男性陣はさらに目を輝かせて興奮気味に傾聴している。その場にいた貴族等は男女問わず、まるで童児の如く彼らの話に聞き入っていた。

 

 剣の勇者であるソラールにも当然、貴族等が囲むように配置されるが・・・生まれてこの方、貴族に目をつけられることはあれど賞賛される覚えのなかった彼は唐突な状況について行けず、まるで借りてきた猫のように大人しく、苦笑を浮かべるばかりである。宴の場であるため、今は装着していないバケツヘルムが恋しくなるほどに、彼はいつもの威勢の良さを取り戻せずにいた。

 

 そんな場慣れをしていないソラールを見かねてか、騎士団長が彼の元へと割り込み、あたかも彼の活躍をその場で見ていたかのような口ぶりで語り出した。ついでに村を守ったとして自分の功績を織り交ぜながら話す彼の物語に、貴族達の視線はソラールそっちのけで集中される。

 

「三勇者が波の元凶である災厄の魔物と戦っている間、我ら騎士団は村に迫り来る魔物共に一歩も退かず―――」

 

「僕たちが背負っている使命と正義の重さは理解していますからね。最初の波なんかで苦戦するはずもありません。その証拠に、僕たちは自然と統率が取れた連携を組むことができましたし、お陰で終始戦況は優勢でした。そうして魔物が弱ったところを見計らって勇者のスキルである―――」

 

「俺の大切な仲間の応援がなかったら、俺は決してここまで強くはなれなかったさ。皆の応援が俺に無限の力を与えてくれるんだ。何度波が来ようが、いずれもっともっと強くなって村や町の人達皆を守れるような立派な勇者になるのが俺の目標だ。その時はどんな魔物だろうとこの槍で一突き―――」

 

 各々の武勇や志が飛び交い賑わう中、盾の勇者であるハベルはひっそりと窓辺に佇んでいた。彼自身、このような催しには一切の興味も湧かなかったのだが・・・・・・彼がこの場にいる経緯としては、災厄の波が終わってから村に駆け付けたソラールにある。

 

 彼はハベルとラフタリアの無事を確認すると同時に宴の件と、四聖勇者に褒美を取らせるため必ず参加するように、と王から仰せつかっていることを伝えたのだ。宴に報酬と聞いていくらか気分を取り戻した様子のラフタリアとは違い、ハベルは彼の話を聞いてからもあまり乗り気にはなれなかった。亡者である自分がそのような華やかな場に居ても、居るだけで空気を乱すほどの邪魔者になるだけなのは明白である。しかし、国王陛下直々の命とあってはハベル自身に選択権は無いにも等しく、参加せざるをえないだろう。

 

 そんなわけで、彼は普段口にすることのない豪華な料理を前にソワソワしていたラフタリアに料理を楽しむよう一人で行動させる。そして、素晴らしい演奏を耳にすることも、宴の様子を眺めることもなくただ一人ぽつんとワインの入ったグラスを片手に外の景色をただ眺め、時が過ぎるのを黙って待っていた。

 

 しかし、そんな彼のところにそろりと近づく人影が一つ。気配を感じて目を向けると、そこには疲れきった表情を浮かべた太陽の騎士が酒の入ったグラスを持って、よろよろと弱々しい足取りで向かってくるのが見えた。

 

「・・・・・・大分お疲れのようだな、剣の勇者」

 

「勘弁してくれ、ハベル殿。今しがた騎士団長には感謝しているところなのだぞ? これまでの人生、変人だの狂人だのと罵られ不審な眼差しを向けられることには慣れているつもりであったが・・・・・・まさか、よりにもよって貴族に囲まれて憧憬の念が向けられるなど、到底慣れるものではない」

 

「これでは酒も碌に楽しめん」とソラールは疲労困憊といった風にやれやれと首を振って苦笑する。窓辺に手をつきながら、初めて見る彼の表情にハベルは兜の下でフッと笑みを浮かべ、グラスの中の酒をゆっくりと一口含む。しかし、味は相も変わらずであった。

 

「いや、しかし貴公には安心したぞ。あのまま一人でこの世界を歩んでいく気かと思っていたが、どうやら俺の杞憂であったな。貴公のことを気に掛ける随分と健気で良き理解者と出会ったものだ。・・・まあ、それが若い女性であることは流石の俺も驚いたがな」

 

「・・・ソウルの導きに従ったまでだ。性別や種族など関係ない。貴公とて何も感じぬ訳ではないだろう・・・・・・本当に、彼女は立派な戦士に成長してくれた」

 

「であろうな。リユート村の者達から聞いたぞ。盾の勇者と亜人の従者が助けてくれなければ私たちはここには居ない、と。貴公の戦いについて来られるということは、恐らくラフタリア殿はこの中で最も実力のある従者だな!」

 

「・・・・・・であれば良いが」

 

「貴公の鍛練の賜物ではないか! 謙遜する必要がどこにあるか、ハベル殿! ウワッハッハ!」

 

 調子を取り戻したソラールは、朗らかに笑いながらバシバシとハベルの肩を叩く。予想するに鍛練のこともリユート村の誰かから聞いたのだろう。いつの間にそこまで仲良くなったことやら・・・彼の太陽のような人柄に村の者達はすぐさま心を開いたことだろう。

 

「・・・・・・ところで貴公、波での戦いはどうであった?」

 

「んん? ああ、こっちはハベル殿の後ろ盾があったからな。心置きなく存分に戦うことができたぞ。いやしかし勇者のスキルとやらは凄いな。まるで剣に太陽の力が宿ったかのような―――」

 

「貴公の話ではない、他の者達の話だ。勝ち戦にて貴公の活躍など、その場に居なくとも容易に想像がつく」

 

 発言を遮ってまで堂々と言い放つハベルに、彼はどこかむず痒さを覚えつつも言葉に詰まってしまった。

 

「・・・・・・戦いの様子であれば、今彼らが貴族等に語っている通りだぞ?」

 

「ほう? 今現在あの騎士団長に混じって語る彼奴等の言うことを信じろと?」

 

「ぐぅっ!? そ、それは・・・・・・」

 

 ギクッ!? と目に見えて反応するソラールに対して、早く話せとたたみかけるようにハベルは詰め寄った。

 

「・・・・・・は、初めてにしての筋はとても良いぞ! この国の王国騎士よりは間違いなくできるな! 俺がこの一ヶ月で出会った冒険者の知り合いの中でも、モトヤス殿とイツキ殿の実力は上位に位置するくらいだ」

 

「勇者の恩恵を受けている者をそこらの生者と比べてどうする。我ら不死人と同等に考えても良いくらいだ。それで、一ヶ月経ってからの彼らはどうであった?」

 

「いやぁ・・・まあ・・・なんだ。退き際などの立ち回りを覚えさえすれば彼らも一人前だと思うぞ。スキルやこちらの世界の魔法は俺より使いこなしていたからな。十分今からでも成長は見込めるだろう・・・うん、そうだ! 俺はそう信じているぞ!」

 

「・・・・・・そうか」

 

 隠し事が致命的に下手くそな彼は声を震わせてどもりながら、まるで言葉を無理矢理ひねり出したようである。他人を悪く言えない彼らしいが、その答え方にハベルは全てを察して溜息をついた。

 

 環境は違えど魔物が蔓延るこの世界にて一ヶ月の時を過ごせば、少しは勇者としての自覚や戦い方を知ると思ってはいたのだが・・・・・・やはり血を知らぬ異世界の者達への期待はしない方が良いだろうとハベルは勝手に区切りを付けていた。

 

「ハベル様! それに剣の勇者様も!」

 

「おぉ? 噂をすればなんとやらだな。ソラールで良いぞ、ラフタリア殿」

 

 すっかりソラールと話し込んでいたハベルのもとに、ラフタリアがジュースの入ったグラスと大皿を手に料理を沢山乗せて帰還した。一緒に居るソラールを一瞥すると、彼女は大皿とグラスを近くの窓辺に置き、礼儀正しくお辞儀をした。自らの主人との仲が良いことと、災厄の波での一件により、彼女の中で剣の勇者の評価は他の二勇者よりも抜き出ているのだ。

 

「・・・それでラフタリアよ、どうかしたか?」

 

「あ、はい。ハベル様が行きづらいと思って料理を装ってきました。見てください、どれもすっごく美味しそうだと思いませんか? あ、ソラール様もグラスの方が空きましたら教えてください」

 

「・・・・・・私達に気を遣う必要など無い。このような機会は滅多にないのだ。貴公の赴くままに楽しめば良かろう」

 

「もぅ! こういうのは一人で食べても美味しくないんです! それに、こういう機会が無いのはハベル様も一緒ではないですか。きちんと味わっておかなきゃ損ですよ?」

 

「・・・・・・すまないが、今は食欲が―――」

 

「おいおいハベル殿! まさか貴公、こんなにも可愛らしい女性からのお誘いを断るわけではあるまいな! 流石の俺でも、騎士である前に男としてどうかと思うぞ」

 

 見ていられないといった風にソラールがハベルの返事を遮ると、瞬時にラフタリアの側へと加勢した。可愛らしいと言われ頬を赤らめるラフタリアを余所に、退路を失ったハベルは「ぬぅ・・・」とただ唸るばかりであった。頬を染めつつ、今の困っている彼を見て好機と見なしたラフタリアは、フォークに一口サイズのステーキ肉を刺してハベルの面頬へと近づけた。

 

「さあ、一口どうぞ。凄く美味しかったですよ?」

 

「・・・・・・ぬう」

 

 ソラールが目の前にいるというのに大胆な行動を見せたラフタリアに、ハベルは更にたじろぐ。ここで彼女に応えなければ、またとやかく言われる未来しか見えない・・・・・・咄嗟にそう判断したハベルは、羞恥の心を押し殺しながら面頬の隙間から器用にステーキ肉を口にした。端から見れば恋人同士のソレと言うより、どちらかと言えば餌付けに近い感じではあるが、それでも彼女はにっこりと表情を和らげるほど大満足であった。

 

 ウワッハッハッハ! と、ソラールはたじたじなハベルという珍しく面白いものを目の当たりにして大爆笑する。そうしてひとしきり爆笑した彼は、尚も都合の悪そうな彼と満足げな彼女に自身のグラスを傾けた。

 

「では、貴公等、改めて災厄の波の勝利を称えて乾杯といこうではないか! 貴公もソレで良いな?」

 

「・・・今の私が断ると? まあ良い。そうだな、乾杯といこう。前に話した通りカタリナ式で良いか?」

 

 「勿論だとも!」と力強く頷くソラールを横目に、音頭を知らぬラフタリアへとハベルは簡単に説明する。最後の輝かしくも暖かい締めの言葉を覚えたラフタリアはどこか緊張した面持ちでグラスを二人に合わせて傾ける。

 

「では俺からいくぞ?・・・・・・波を退けた我らの勇気と―――」

 

「ゆ、勇者の誇り高き使命と―――」

 

「・・・我らの輝かしき勝利に―――」

 

 

 

「「「太陽あ―――」」」

「おい、ハベル!」

 

 気持ちの良い乾杯の音頭と共に互いのグラス同士が重なり合う寸前、水を差すように耳障りな声が挟まれる。これには流石のソラールですら眉をひそめる中、声の正体である槍の勇者・北村元康は片方の手袋を外してハベルの前へと叩き付けた。彼の行動の意をすぐさま理解したラフタリアは目を見開いて驚愕するが、当の本人はゴトッと兜を傾げていた。

 

「・・・貴公、手袋を落としたぞ?」

 

「拾うな馬鹿が! 俺と決闘しろって意味だ!」

 

「・・・・・・何?」

 

 突然の出来事に先程まで賑わっていた会場はシーンと静まり返り、場の注目を一斉に集めていた。一方、決闘を挑まれる因果にまるで心当たりのないハベルは尚も首を傾げながら元康の顔を見つめていた。

 

「とぼけたって無駄だ! 騎士団長から全部聞いたぞ、この血も涙もない化物め。そこにいるラフタリアちゃんを奴隷として使役してるんだってな!」

 

「なっ!? ラフタリア殿が奴隷?!」

 

「・・・・・・ああ、そう言えばそうであったな」

 

「犯罪者であれ四聖勇者ともあろう人が奴隷を雇うなんて・・・幻滅ですね。あれから何も反省していないとは・・・」

 

 なんて事の無いように認めたハベルに加えて弓の勇者である川澄 樹の一言により、周りの彼に対する心象は一気に悪化した。よりにもよって世界を救う勇者が奴隷を引き連れるなど、前代未聞であるからだ。その事実にソラールは驚嘆するも、ハベルとラフタリアを交互に見やり、「しかしなぁ・・・」と一人考え込んだ。

 

「そうであったな、じゃねえだろ! いいか、人は人を隷属させるもんじゃない! 騎士団長が言うには、ラフタリアちゃんに無理矢理命令の呪いを行使してたそうじゃねぇか!」

 

「・・・・・・そうは言うがな、貴公。この国は奴隷制度を禁じていないではないか」

 

「そういう問題じゃねえって言ってんだよ!! 俺達四聖勇者は世界を救う唯一無二の存在だ! 仮にも盾の勇者であるお前が奴隷を従わせるなんて、到底許されることじゃない!」

 

「・・・・・・貴公は私に倫理を問いているのか? おかしなものだな・・・貴公が散々化物と宣う私にヒトの倫理を問うなど・・・」

 

「てめぇ!!」

 

「まあまあ。モトヤス様、落ち着いてください。きっとお酒が混ざって悪酔いしてしまったんですね。良いじゃないですか、こんな化物にこき使われている亜人風情にそこまで気を回さなくとも・・・」

 

 淡泊な応答をする彼に元康が一人でヒートアップしている最中、意外にも二人の仲裁に入ったのはマインその人であった。脂汗をかきながら必死になって彼に言い訳を唱えるが、「俺は酔ってねえ!!」と顔を真っ赤にしながら叫ばれる始末であった。残念ながら彼の胸には少しも届かなかった様子である。

 

「一旦落ち着け、モトヤス殿。確かに貴公の言い分も俺は理解できる。だが、ラフタリア殿を見てみろ。俺の世界でも奴隷制度は存在していたが、普通、奴隷というものは笑顔を見せないものだ。それどころか、彼女は望んでハベル殿の傍へと居るように見える。貴公が思っているほどハベル殿は彼女に酷い扱いをしてはいないと思うぞ?」

 

「ソラールさんまで・・・でもよ―――」

 

「騙されるでない槍の勇者殿! 俺は確かに戦場で目にしたのだ! 彼女の胸元に奴隷紋がはっきりと浮かび上がるのをな!」

 

 勢いを失いかける元康に加勢するように、横から騎士団長が図々しく口を挟んできた。これに対し、ソラールとマインは「余計なことを・・・」と、同時に顔を歪める。

 

「奴隷紋が光り輝くときなど一つしか無い。強制的に命令を聞かせるための呪いを行使したときだけだ。そして、その呪いによってそこの亜人の少女は明確な殺意を持って私に斬りかかって来たのだ! 手柄を横取りするために団長である私の首を狙って・・・なんとおぞましい!」

 

「なっ!? 何をいけしゃあしゃあと! よくもそんなことが言えましたね! あなたがハベル様や私を巻き込んで範囲魔法を打たなければ―――」

 

「おお、なんと可哀想に・・・。主人を庇うように重厚な呪いを掛けられているとは・・・・・・」

 

 顔に手を当てがり哀れみの芝居を続ける騎士団長のペースに、どんどん周りは飲まれていく。ラフタリアが何を言おうと、これで信憑性は殆ど意味をなさなくなってしまった。自分は間違っていなかったことを再確認すると、元康はハベルの方へ自信に満ちた眼差しを再度向ける。

 

「勝負だ! 俺が勝てばラフタリアちゃんを今すぐ解放しろ!」

 

「・・・・・・仮に私が勝ったとして、貴公はどうするつもりだ?」

 

「その時は・・・これまで通り好きにすれば良いさ」

 

「・・・・・・ハァ・・・・・・まるで話にならんな貴公。決闘の心得すら知らんと見える。最低限、貴公のソウルか人間性を捧げねばな?」

 

「話は聞かせてもらったぞ」

 

 呆れ返ったハベルがラフタリアを連れて宴の会場を後にしようとしたその時、彼の周りを兵士が取り囲み、槍を構えては彼のいく手を即座に阻んだ。そして、そんな彼を蔑む目で見下すメルロマルク王が玉座から重い腰を上げた。

 

「勇者ともあろうものが奴隷を使役するとは・・・・・・やはり、盾の勇者は人間性を失った化物であるということか。それに比べ、槍の勇者であるモトヤス殿の何と慈悲深い事よ・・・この決闘、メルロマルク国王であるオルトクレイ=メルロマルク32世の名の下に認めようではないか!!」

 

 高々に宣言した国王に周りの貴族達から次々と歓声が飛ぶ。だが、決して盾の勇者に酷使されているであろうラフタリアを思ってのことではない。勇者同士の戦闘、ましてや盾と槍の戦いという勝敗が明らかで安心して見ることのできる娯楽に、貴族達はこぞって興奮しているのだ。

 

 そんな彼らの魂胆が見え透いていたソラールは拳をワナワナと震わせ、今度こそハベルを助けようと、直接国王陛下へと進言するために前に出ようとする。しかし、彼がアクションを仕掛ける前に、ハベルは彼の胸元に描かれたホーリーシンボルの前に手を置いて無理に静止させると、あろう事かそのまま国王陛下の前へと跪いた。

 

「陛下自らの命とあれば、断る理由はございません。この決闘、ありがたく受けさせていただきます」

 

「ほう・・・」

 

「なぁ!? は、ハベル殿!?」

 

 目を細め訝しむ国王と、彼の想わぬ言動に驚くソラール。その他大勢の様々な視線を集めながらも、ハベルは微動だにせず姿勢を保っている。

 

「・・・・従わねばお前の奴隷をこの場で没収するつもりではあったが、まぁよかろう。では決闘は城庭にて行うものとする。準備ができ次第始めるとしよう」

 

「まさか逃げるつもりなんて無いよな? 誰がどう見たって正義は俺にあるんだ。どうしても自分が正しいってんなら、俺に勝って見せろよ!」

 

 跪いているハベルに対してこれ見よがしに捨て台詞を吐いた元康は、準備のために移動した国王の後へとついて行く。そして、次第に周りの貴族達も良い席を確保すべく、我先にと会場を後にしていった。その場に残されたのは、ハベルとラフタリアとソラール、そして彼が逃げ出さないよう遠くから見張っていた樹であった。

 

「すみません、ハベル様。私があの時、怒りに飲まれた所為でこんな・・・」

 

「・・・・・・いや、貴公が気にすることではない。どのみち、貴公を手放す気など無いからな」

 

 すっかり獣耳が垂れ下がり、目に涙を薄らとにじませているラフタリアに、ハベルはなんでもない風に声を掛ける。しかし、それでも納得のいかぬ者もいた。

 

「しかしだな、ハベル殿。いくら王の命とは言え、何故ああも易々とふざけた決闘なぞ請け負った? 私欲に塗れた貴族共の目を貴公も見たであろう? この決闘の結果がどうであれ、貴公に旨みがあるとは俺はどうしても思えぬのだ」

 

「・・・・・・貴公は他の勇者を導きたいのであろう? であれば、ここらで場数の違いを見せつけるべきだとは思わないか?」

 

「俺は貴公の心配をしているのだ!」

 

「何の心配だ? 私が決闘に敗れるとでも? 狂った闇霊ならいざ知らず、あのような青い若造に負けるほど落ちぶれてはいない。安心しろソラール、なにも殺しはしないさ」

 

 そう言うと、彼はラフタリアを連れて城庭へと足を運んでいった。

 

―――冗談ではない、結果がどうであれ、貴公は周りからこれ以上に化物と蔑まれることになるのだぞ

 

 その場に一人残されたソラールは、胸のわだかまりが先程から幾分も晴れないことにより、ついぞ表情を雲らせていた。かつて変人やら狂人と蔑まれ続けた彼だからこそ、ハベルにそのような思いはして欲しくはなかったのだ。例えハベル自身が自分を亡者と蔑もうとも・・・・。

 

「大丈夫ですよソラールさん。元康さんだって熱くなっていましたが、分別はある人です。万一にでも、ハベルさんを殺すようなことにはなりませんよ」

 

 思い悩む彼に樹は近づくと、彼なりのねぎらいの言葉を掛けた。言い残して一人満足した彼は、気軽い足取りで上から城庭が見渡せるテラスの方へと向かった。

 

「・・・・・冗談ではない。身の心配をするならば、それこそモトヤス殿ではないか」

 

 彼の呟きは誰に聞こえることもなく、がらんとしてしまった会場に吸い込まれていった。

 




やめて!

ハベルに致命の一撃を入れられたら、槍の勇者と言えどモトヤス様のライフは一瞬でなくなっちゃうわ。

お願い、死なないで槍の勇者様!

貴方が今ココで倒れたら、王様や騎士団長との約束や、ラフタリアの未来はどうなっちゃうの。

ライフはまだ残ってる。この決闘に勝利すれば、貴方の強さが認められるんだから!

次回《槍の勇者死す》デュエルスタンバイ!!!
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