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「勇者様! どうか何卒、この村をお救いください!」
必死な形相で縋り付くように懇願する村長に対して、ハベルは返答に困っていた。無論、彼としても見捨てるつもりは毛頭無いし、助けたいのは山々であるが・・・・・・癇癪を起こしたマインの出した条件がよりにもよって魔物レースであった。
レースのルールは至ってシンプルなもの。コースはリユート村の外周の道をぐるっと三周し、先に村の入り口にある門をくぐった者を勝者とする。走者は次期メルロマルク女王マインの権限により、槍の勇者・北村元康が後々駆る予定の騎竜と、盾の勇者・ハベルが所持しているフィロリアルが指定された。
ハベルが渋る理由というのは、何も彼自身に乗馬の経験があまりなく、必ず勝てる自信が無いということだけではない。問題は、彼を『ハベル』たらしめるとする鎧にある。
自慢ではないが、重厚なハベルの岩鎧はソラールが装備しているような普通の騎士鎧と比べると、およそ二倍以上の重量である。とても常人が装備できるような重量でなく、体力の無いものが纏えば移動すらままならないものだが、一度着こなせばハベルの信奉者・戦士として他の装備の追随を許さぬ強靱性が得られるのだ。
決して後退せず、敵としたモノを必ず叩き潰す・・・古竜との戦争から火継ぎの物語に至るまで、この岩鎧を纏うものの戦い方は決まっていた。
・・・・・・そんな鎧を身に纏う彼を、果たして成体になったばかりのフィロリアルが乗っけられるだろうか? 試す気にもならない程、その場の全員が無理だと分かっていた。
「他の鎧はないのですか?」と村の誰かが口にしたが、生憎持ち合わせていない、というのが答えである。ロードランの旅でしこたま手に入れた防具は、ハベルの鎧を着こなした彼にとって邪魔な物でしかあらず、その全てを『世界の蛇フラムト』に食べさせソウルへと変換させてしまった。
「美味であった」と亡者でありながら臭いと感じさせる息を吐きながら満足げに歯を鳴らすフラムトが浮かぶ一方、こんなことなら・・・と後悔の念ばかりがハベルに積もった。
「勇者様のフィロリアルはやる気満々のようですが・・・・・・」
「・・・ぬ?」
村長の指摘に思わず顔を上げると、青い瞳にメラメラと闘志を宿し、元康の駆る騎竜と睨み合い因縁を付け合うフィーロの姿があった。普段の人懐っこい表情からは想像もできないほど目の前の騎竜に対して敵対心を露わにしており、今にも飛びかかっていきそうな雰囲気を醸し出している。これは一体・・・。
「フィロリアルとドラゴンは種族的に仲が悪いって先生から聞きましたが、フィーロがあんな顔をするだなんて・・・」
「・・・食うか食われるかの一方的な関係だと思うのだが・・・?」
「どちらも雑食で種によっては群れを成しますから、野生でも縄張り争いが絶えないそうですよ」
「・・・そういうものか」
外見だけで判断するなら、たかが鳥類如きが竜に挑むなど・・・となりそうなものだが、脳裏に森を支配していた茸人が過ぎり、外見など何ら当てにならないことを静かに再認識するハベルであった。
「復興が終わろうとしている今の時期に増税など、とても看過できるものではありません。どうか何卒、勝利した暁には報償を約束しますので―――」
「・・・落ち着かれよ領主殿、そういう問題ではないのは貴公とて分かっているだろう」
「はぁ・・・しかし・・・」
「こ、こうなったらハベル様、私がレースに―――」
「おーい! 貴公等、何を慌てている?」
話の方向が「誰が騎手としてレースに出場するか」の問題へと戻ったその時、少し離れたところから呑気で朗らかな声が聞こえてきた。
「ソラール、こんな時に貴公どこへ・・・」
緊張感のまるでない剣の勇者を見やると、彼の手元には使い古された鞍や手綱などの乗馬用の道具があった。ソラールはこちらを一瞥する間もなく、手慣れた手つきでフィーロに装着していく。彼女も騎竜から視線を外し、嫌がる素振りを一切見せることなくソラールに身を任せていた。
「ソラール様、参加してくれるのですか!」
「勿論だとも。そういえば言ってなかったか、俺は元々騎馬隊上がりでな。だから心配など要らん、任されよ! それに、よもやハベル殿が出るわけにもいかんだろう。鈍重な貴公を乗せるなど、フィーロがあまりに可哀想だしな」
ウワッハッハ! と豪快に笑い声を挙げるソラールに、村の住民達から不安げなものが剥がれ落ちていく。フィーロをハベルよりも慣れた手つきで撫でていく彼の姿は、正に希望そのものであった。気持ちの良い安らぎの表情を浮かべた後、心身共に整ったフィーロも、いつになくやる気に満ちた頼もしい顔つきとなっている。
そうして魔物レースの準備を手早く済ませたソラールが、フィーロの手綱を引いてスタート地点へと足を向けたその時、ハベルの手がソラールの肩に当てられる。振り返ると、もう片方の手に彼が装着していた赤茶色のマントが握られていた。
「・・・貴公、念のためだ。モトヤスはまだしも、あの女の事だ。用心しておくに越したことはあるまい・・・・・・それに、エルハルトの一品だ。魔除けの信頼はできよう。・・・・・・フィーロ、ソラール・・・頼んだぞ」
「ハベル殿・・・ウワッハッハ! 相分かった、充分に気をつけるとしよう。感謝するぞ!」
乗馬の際に空気の抵抗を受けるマントは本来よろしいものではないのだが・・・ハベルからの警句を優先したソラールは嬉々としてマントを装着し、足早に所定の位置へと向かっていった。彼を見送った村人達も、応援のためか村の入り口に向かって散り散りになっていく。そんな中、ポツンと残った盾の従者は不安げな表情を最後まで浮かべていた。
「・・・ハベル様、私は・・・」
「貴公は入り口の付近で応援を頼む。私は・・・あそこで見ているとしよう」
そう言ってハベルが指差したのは、建て直されたばかりの見張り台であった。ラフタリアはすぐさま彼の考えを察し、「分かりました!」と元気に笑顔を取り戻して、村人達の列へと混じっていく。ハベルもまた、見張りでコース上に配置された国家騎士達に目を配りながら、彼女らとは逆方向に歩みを進めていく。
「ふむふむ、盾の勇者殿と剣の勇者殿は仲が良い・・・と。これは嬉しき知らせ。女王陛下に報告が必要、でごじゃる」
そんな用心深い盾の勇者でさえ、その様子をただ黙って見守る影の一人の存在には気が付かないのであった。
「おいおい、ソラール。いくら何でもそりゃ無いぜ! あんた今、自分の恰好を鏡で見てみろよ。ダサいなんてもんじゃないぞ!」
先に準備を済ませ、スタート地点に着いていた元康が真っ先に口走った一言に、フィーロの目つきが鋭いものへと変わる。そこらの魔物よりも圧倒的に表情が豊かなはずの彼女に気づかず、更に元康は笑いを含みながら軽口を叩く。
「たかがフィロリアルで俺の騎竜とレースなんて、最初は何かの冗談かと思ったが、まさか本気だったなんてな。それに見てみろよこの色、少し混じってるのは安物かハベルの育て方が悪いからだぜ。流石は盾クオリティってやつだな。こんなんで俺のドラゴンと張り合おうなんて・・・なあ?」
同意を求めるように、彼は周りの騎士に嗤いながら語りかける。その騎士達も勝敗は目に見えているといった風に剣の勇者を見て笑いを堪え、果ては哀れみの視線を向ける者までいた。
とうとう彼らの小馬鹿にした態度に我慢ならなくなったフィーロは、強靱な脚力をお見舞いしようと片足を振り上げる。だが、そんな彼女に手を当て、黙って首を横に振るソラールの制止がはいった。何故、と抗議の目を向けるフィーロだが、尚もソラールの手がどく事はなかった。
「なんだよ鳥公、悪いけどソラール。相手があんたでも手加減は―――」
「一つだけ聞きたい、モトヤス殿。貴公は乗馬の経験があるか?」
「な、なんだよ急に・・・まあそりゃ・・・」
「そうか、それを聞いて安心した。では、手心を加える必要は無いわけだ。お互い全力を持って正々堂々いこうではないか!」
バッ! と力強く差し出される右手に薄唇軽言な元康の口が閉じ、恐る恐る握手に応じた。バケツヘルムにより彼の表情は分からないが、少なくとも焦りは感じられなかった。
多くを語らずとも難なく物事をこなそうとする彼の姿勢に、元康はどこか嫌な既視感を感じつつ、気を引き締めて騎竜に跨がる。とんだ出来レースだが、野郎の中で唯一尊敬するソラールに勝って一目置かれるチャンスだ・・・そんな思いを胸に元康は「頼んだぞ」と騎竜に一声掛け、真剣な眼差しでレースに挑む。
「グゥゥ・・・・・・」
「不服か、フィーロ? だが、いきなり手を出すのはダメだ。お前には優しい子になって欲しいからな」
一方の剣の勇者はフィーロのふわふわな頭を撫でながら宥める位には余裕を持っていた。元康と言葉を交わした時から、既に勝利を確信していたのだ。真に気をつけるべきは、ハベルの言うマインの妨害行為のみである。ソラールは尚も騎竜と元康を憎々しげに睨むフィーロに信頼の意を示した。
「それに、あんな安い挑発は、レースの結果をもって見返してやろうではないか。フィーロなら大丈夫だと、俺は信じているとも」
「ッ! クアッ♪」
両者ともに準備を終え、スタート位置に並ぶ。周囲に緊張が纏う中、村長が前に立って右手を高く掲げた。
「それでは・・・・・・始めッ!!」
勢いよく振り下ろされたレース開始の合図。早くもスタートダッシュを制して前に出たのはソラールの駆るフィロリアルであった。地面を力強く蹴り上げ、走行の後に多量の砂塵が舞うような力強い脚力。前傾姿勢のまま羽を広げ、風を掴む種族独特の強靱な走りで、元康を難なく引き離していく。
慌てた元康が加速するよう指示を出し、応じて騎竜も身体を屈めて空気の抵抗を減らしつつ前に乗り出すも、その差は離れて行くばかりである。
「クソッ! もっと早く走れないのかよ! お前、一番足の速いドラゴンって呼ばれてんだろ!?」
「ガウゥゥッ!」
「クアァァーーーッッ!!」
―――良いぞフィーロ、そのまま・・・ッ!
コース半ば、観衆の目が届かぬ道中にて、突如として目の前の地面が陥没し、小さな穴が形成された。丁度フィロリアルのような中型の魔物の足が引っ掛かる大きさのソレは、明らかに人為的なもの。見え透いた妨害に予め警戒を強めていたソラールはすぐさま跳躍の指示を出してこれを回避する。
最高速度での跳躍により着地は少しよろめくも、ソラールの体重移動によるテクニックですぐさま態勢を整え、またも加速して差を広げていく。
一方、一向に追いつく気配もない自身の騎竜に苛立ちを募らせる元康。だが、コースの半ばを過ぎた瞬間、騎竜が一気に二倍以上の加速を見せた事により、何の疑いもなくそのまま身を預け続けた。
両者の差は縮まるものの、まだまだ追いつく事のないままに一巡目が終了。村人達からは歓喜の声が上がると共に、レースは二巡目へとさしかかる。
―――モトヤス殿、なかなかやるではないか! どれ・・・!
差を縮めてきた元康に感心しながら、ソラールは腰を更に上げ、身体の重心をより前に移行させた。そのまま彼はフィーロの走る際の癖、言わば上下の動きに合わせるように自らの身体をも上下に動かしはじめた。彼のフォームはフィーロにとって走りを邪魔するものではなく、むしろ推進力となって負担を減らし、彼女に気持ちの良い走りを補助していた。
目に見えたソラールの騎乗の変化に観衆や見張りの騎士達は驚き、レースはまたもソラールの独走状態を許してしまう。何故こうも差が出るのかを理解できぬまま、元康はただ騎竜の手綱を乱暴に引き「もっと速く走れ」「このままだと負けるぞ」と叫ぶばかりであった。
事実、元康は指示とも言えぬ指示を飛ばすだけで、自身は騎竜に
そしてコース半ば・・・マントたなびくソラールの背中に違和感を覚えた。幸いにして何も影響が無かったが、魔法防御の効果があるマントが反応したという事は・・・そういうことで間違いないだろう。嘆かわしい、と心内でぼやきながらソラールは直ぐさまレースに集中する。
そんな彼の思いが届く事無く、またも元康の駆る騎竜がコース半ばの地点で倍速となり、更にフィロリアルへと詰め寄った。ソラールと並列するまであと一息というところ・・・にもかかわらず、何故か騎竜は前へと出ようとせず、元康はあと一歩のところでやきもきする。
「何してんだ! 今こそ前に出ないでどうする!」
「グルゥッ!」
切羽詰まる元康の指示が出ようと、騎竜はただ唸るばかり。確かに元康の言うとおり、タイミングとしては悪くないだろう。だが、無意識下の中で最良のコースを維持し続けているソラールを抜く事は、騎竜だけの走りでは難しい事だ。
走り手である騎竜をリードする乗り手の操縦技術が少しでもあれば話は違ってくるが、先程から彼はただ身を預け、要らぬ口を挟むばかり。これでは安全に抜き去る事など到底叶わないというのが、レースを通じての騎竜の了見であった。
無理にでも抜こうとして、全速力で走り続ける魔物同士がぶつかれば、いくら体格差があれど全員がタダでは済まないだろう。そんな乗り手を想うが故の行動であったが、彼に騎竜の想いが届くはずもなく・・・両者の差がそれほど開かぬ状態のまま、二巡目が終了した。
なんだかんだ言って一巡目よりも確実にソラールとの差が縮まったことにより、心配やら不安の声が観衆から漏れ始める中、ラフタリアは今か今かと見張り台の方を見つめていた。そして、丁度三巡目に差し掛かったところでラフタリアは見張り台を見上げながらコクリと頷き、全速力で村の反対側へと駆けていくのであった。槍の従者達や他の騎士達に気づかれぬままに・・・。
そして、両者一歩も譲らぬまま変わりなく問題のコース半ばに辿り着こうとするその時、コースアウトを見張る騎士の一人が一巡目・二巡目と同じように、両手に魔力を溜め始めた。
(まったく、あの騎竜は何をしているのだ! ファスト・スピードの魔法を上掛けしたというのに・・・オマケに剣の勇者め、どこからあんな装備を・・・・・・まあ、良い。もう一度掛ければ済む話だ)
「『力の根源たる我が命ずる。理を今一度読み解き、彼の者の速度を上げよ』《ファスト・スピ――」
「タァーーーッ!!」
「ぐぇあっ!?」
魔法の詠唱を終える直前、助走を充分に付けたラフタリアの跳び蹴りが騎士の顔面を直撃する。魔法は放たれる事無く、すぐ目の前をソラールが通過していく。彼女はソラールに向かってVサインを掲げると、ソラールの方も振り向きざまに親指を立てて返し、直ぐさまレースへと意識を戻していく。
レースの妨害を未然に防ぐ事ができ、ホッと息をつくラフタリア。その瞬間、魔法の効力が消失し、よろよろと満身創痍でコースを走る元康と騎竜が前を通っていった。
それもそのはず、魔法によってペースを無視し、限界以上に身体を酷使したツケが回ってきたのだ。もはや剣の勇者に追いつけるような勢いなど残っているはずもない。騎竜の上では相も変わらず、元康が怒鳴り散らすばかりであった。
「・・・まさか貴公にこのような特技があったとはな」
魔物レースの最中、ずっと見張り台にて監視をしていたハベルが呟く。ロードランでの火継ぎの旅では知る由も無かった彼の乗馬技術に、ハベルは舌を巻くばかりであった。それはリユート村の人達も同じ事だろう。先程からここまで歓声の声が聞こえてくる。
「・・・さて、戻るか」
どうせ、あの売女がこれから何か難癖を付けてくるに決まっている・・・と少しばかり億劫な思いを胸にしながら、ハベルは梯子に手を掛けてスムーズに滑り降りていく。
「すごいや、流石は剣の勇者様だ!」
「ありがとうございます、剣の勇者様。本当に何とお礼を申し上げれば良いか」
「ほら、フィーロ。ご褒美だぞー! いやいや、まさか俺もこんなところで役立つとは思わなんだ。それに今回の一番の功労者は俺ではなくフィーロ・・・・・・・・・あっ・・・」
突如、ボフンッ! という大きな音がしたかと思えば、フィーロが不思議な煙に巻かれた。すぐさま煙は晴れたものの、中から姿を見せたのは、体型がまん丸となるほど羽毛が異常なまでに増量され、ずんぐりとした大きな個体であった。
「・・・・・・へ・・・?」
「ふ、不正よ! 盾のフィロリアルの正体がこんなデブ鳥なんて聞いてないわ!」
歓声から一転、呆然とする皆を見計らってか、マインがここぞとばかりに仕掛けてくる。しかしその束の間、ドスンッ! と大きな地響きがマインの意識を逸らさせた。
見ると、見張り台の梯子から手を滑らせて落下したハベルが地面に寝転がっていた。かと思えば、ハベルはすぐさま起き上がってはエスト瓶を呷り、そしてその重厚な岩鎧に相応しくない早さでソラールに駆け寄り、並々ならぬ剣幕で詰め寄っていった。
「貴公! フィーロに何をした!」
「ま、待ってくれハベル殿、俺は別に何も・・・」
「貴公! 先程のあっ・・・は、なんだ!」
「あ、あれはその・・・頑張ったフィーロにご褒美と思って・・・宿の主人から頂いたキメラの肉を・・・」
「貴公! あんな得体の知れぬ肉を与えたのか!」
「フィーロは肉類が特に好物であろう? 試しに俺も食べてみたが、腹を壊すような事は何もなかったし・・・・・・な?」
「・・・・・・貴公っ!!!」
「すまなかった!!!」
「ちょっと、こっちを無視しないでくれる!?」
完全に蚊帳の外に置かれた次期女王が髪の色と同じくらい顔を真っ赤にして喚くが、ハベル等の耳には届いていなかった。誰かに無視される事を誰よりも不快に思う彼女は尚もがなり立てるが、そんな彼女の前に黒装束の者達が再度姿を現した。
「な、なによ!?」
「我らの監視の下、コース上にて魔法使用の痕跡がありました。不正は明らか、よって剣の勇者様の勝利とさせていただきます」
「・・・・・・それこそ、そこの盾の勇者がやったに違いないわ! おかしいじゃない、あいつはレースの時に姿がな―――」
「いえ、盾の勇者様の魔法適性は回復と炎の適性が、従者である亜人はラクーン種であるため光と闇の適性でございます。今回使われた魔法とは系統が違うのは明白です」
黒装束の代表の言い分に何も言い返せないのか、マインは口をへの字に曲げて黙ってしまう。対して彼ら(彼女ら?)のやりとりを聞いたハベルは、黒装束の者達に対する警戒を一気に強めた。一体いつ、どこで我々の魔法適性を知ったというのか・・・少なくとも常日頃から監視されているとでも言うのだろうか・・・・・・。
「ハベル様! 一応連れては来ましたが、どうしましょうか?」
更にたたみ掛けるように、一人の騎士を担いだラフタリアが村の奥から姿を現し、皆の前へと雑に放り投げた。言うまでもなく、不正を指示されて行っていた見張りの騎士だろう。放り出され、顔に大きな痣を作ったままぐで~っとしている彼を見たマインの表情を見れば、語るに落ちたも同然である。
「・・・分かりました! 今回は引き上げます。ですが、次もこうなるとは思わない事ね、盾の犯罪者! あら、そう言えばモトヤス様は?」
「・・・・・・ぬ?」
マインに言われるまで気が付かなかったが、そう言えばもう一人のうるさいのがいなかったなと、ハベルはゴトッと首を傾げる。だが、縮こまっていたソラールが「あっ!」と声を挙げた先を見やると、そこには今更ゴールに辿り着いた満身創痍の騎竜と、不服な様子を全面に醸し出す元康の姿があった。
「モトヤス殿、お疲れ様だ。ひとまずこちらで話は付いた―――」
「クビだ!」
ソラールの労いを遮り、元康は怒気を存分に含んだ声色で騎竜に告げる。一方、騎竜の方はそれどころではなく、疲れた身体を休ませようと四肢を伸ばして地べたにへばっていた。これを真剣みの無いものと捉えた元康は騎竜の固い鱗に包まれた胴部を蹴りあげ、更に騎竜へと声を張り上げる。
「おい! 分かってんのか! お前が言う事も聞かないで勝手なペースで走らなきゃ、ソラールに勝てたかも知れないんだぞ! 例え勝てなくったって、もっと良い勝負ができたかも知れないってのに! 主人の言う事を聞かない使役魔物なんていらねぇ! どこへでも好きに行っちまえ!」
「そうね、モトヤス様の言うとおりだわ。盾のフィロリアルもどきなんかに負ける役立たずはもう必要ないわね」
敗れた腹いせか勝手に捲し立てる二人だが、騎竜にはもう抗議の唸りを上げる余裕もなかった。これから野生になって冒険者に狩られないようにするには何所が良いか、と先の事を考えてまでいた・・・その時であった。
「こら、モトヤス殿!」
「なん―――あでっ!?」
溜息をついて呆れながら、ソラールは拳骨を槍の勇者の頭に落とした。確かに痛いが、明らかに加減が考えられた一撃・・・それはまるで、子どもを叱るときのしつけと同様のものだった。
「少し冷静になれ、モトヤス殿。貴公、乗馬の経験は何回だ? 正直に言ってみろ」
「・・・・・・二、三回だけど」
「そんなものだろうな。貴公はまだまだ素人。レース中に騎竜への気遣いをする余裕もなかったろう。ただ背中に乗って指示を飛ばしていただけではないのか?」
「・・・でも指示に従ってさえいれば」
「素人のか? 貴公よりも走りの経験のある騎竜が、貴公の指示を聞くと思うか?」
「・・・で、でもよぉ」
「ハッキリ言うが、このドラゴンは騎手の力も借りずによくやったぞ。貴公を勝たせようと必死に食らいついて来た。それこそ、仲の悪いフィロリアルにぶつかりにいくような乱暴な行いをせず、真正面からレースに向かっていった。褒めてやらねばあんまりだろう?」
そう言って、ソラールは疲れ果てている騎竜の口に緑花草を当てて食べさせる。独特の苦みに顔を歪めつつ、身体からスッと一瞬にして疲労が抜け落ちていく。今まで経験したことのない現象、そして何故争った相手に施しを・・・と様々な驚きを自らの内で消化できず、心底困惑した表情を浮かべてソラールの方を見つめていた。
「・・・なんでだよ」
そして、別の意味で困惑する者がもう一人。
「なあ、ソラール。あんたと俺は同じ四聖勇者だろ。なんで犯罪者のハベルや、たかが使役用の魔物共をそんなに認めるんだよ。何があんたをそこまで贔屓させるんだ」
「・・・貴公、対等な立場と思っているからこそ物を申すのではないか。貴公の従者と同じように、自分の考えを持たずに貴公を賞賛するだけの存在など御免被る。今の貴公は自分の思い通りに事が進まず、ダダをこねる子供と変わりない。そんな貴公に変わって欲しいからこそ―――」
「おい、今俺の仲間の事をなんて言った?」
純粋に困惑に包まれていた元康の雰囲気が、ソラールの一言が引き金となり変化した。雲行きが怪しくなり、皆は見守りに徹している。
「対等な立場って言っておきながら、俺を子供扱いか? あんたに俺の何が分かる! 俺の仲間の、マインの一体何が分かるってんだ!」
「分からぬ奴だ! 貴公の従者は端からキタムラ・モトヤスの事など見てはいない!」
「うるさい! どうせ俺はガキさ。戦いも何も経験していない、あんたとは違うただの一般人だった。でもこれからは違う。俺は四聖勇者の槍として、メルロマルクに貢献してみせる。俺の信じる仲間達と共にな! あんたは勝手にヒーローごっこでもしてれば良いさ」
もはや何を言っても通じはしない。自分を信じてくれるかけがえのない仲間を馬鹿にされたと感じる元康には、ソラールの声が届く事はなかった。
「いくぞ!」と語気を荒くして、元康は騎士隊を引き連れて出て行ってしまう。槍の従者達全員に舌を眺められながら、残された者達は彼らの背を見送るほかなかった。
一騒動あった魔物レースが幕を引き、村の皆と復興記念のパーティを楽しんでから大分時間が経った。深夜零時を過ぎ、ソラールは一人眠ることなく外の風に当たっていた。まだ亡者と化していない不死人である彼に、睡眠は必ずしも必要という訳ではないが・・・・・・どうにもぱっとしないソラールの背中を、バシンッと叩いて活を入れる者がいた。
「ッ! ハベル殿・・・」
睡眠を取る事のできないハベルは、その手に持っていた二本の酒瓶のうち一本をソラールに手渡した。
「ラフタリアには内緒だぞ、こんな夜分から飲み始めていては叱られてしまうからな」
岩鎧に身を包みながら、口元に指を一本立てて言うハベルの姿にソラールは思わず笑みが浮かんでしまう。
「貴公も変わったな、最初と比べると大分人間性を取り戻してきたと見える」
「・・・変わらざるをえんだろう。忌まわしく唾棄されるべき亡者である私が、こうもまるで人のように扱われれば・・・・・・もとより何も残っていない空の身だ。いやでも人間性が溜まっていく一方だ」
そういうと、彼は酒瓶を一気に呷りグビグビと音を立てながら飲んでいく。だが、ソラールは酒に手をつけず、また表情が曇ってしまった。いつものバケツヘルムを外した彼は、いつもの朗らかさも一緒に外してしまったかのようだ。
「・・・貴公、いつまでしょぼくれているつもりだ。これで分かっただろう。これからもあのバカは、貴公の太陽など見ようとはせん・・・そんな顔をしていては村の皆を心配させるだけだ」
「・・・分かっては、いるのだがな・・・」
「・・・貴公、何故そこまで彼奴に入れ込む?」
「・・・どことなく似ていると感じてな。昔の俺と」
「・・・・・・彼奴がか?」
「他人の話を聞かぬ所などそっくりであろう。俺はこの世界に来る前でさえ、頑なに他人を頼りはしなかった。その他人には、いつでも困ったときがあれば俺を頼れと言うくせにな・・・・・・あのままでは、モトヤス殿は破滅するやもしれん。どんな形であってもな・・・」
その身が滅びるか、心が朽ちるか・・・どちらにせよ、ソラールは彼の身を案じていた。ロードランにて希望を失い、朽ち果てようとした自分自身と重なってしまうのだろう。
「・・・一度破滅せねば分からぬかもな?」
「なっ!? は、ハベル殿?!」
「・・・自らと重ねるのであれば、尚更貴公が何を言ってもモトヤスには届かんよ。一度・・・いや、何度か痛い目を見なければどうにもならんだろう。貴公がそうであったようにな・・・太陽の信徒・ソラール」
ハベルの言を受けたソラールはしばらく呆けると、フッとまた笑みを浮かべた。
「・・・・・・なるほど、貴公は『俺』を殺したのだったな。どうにも、貴公の言葉には説得力がある」
そう言い切ると、ソラールは手元の酒瓶をグイッと勢いよく呷った。プハッと息を吐く彼は、すっかりいつもの太陽のような彼であった。
「・・・そう言えば、貴公はこれから一人でどうするつもりだ。明日此処を発つのだろう?」
「そのことだが、じつはな・・・・・・おっと、噂をすれば」
「なに?」と再度問うハベルだが、明るい顔を向けるソラールが振り返るのを見て、同じ方へと目線を向ける。すると、馬小屋で休んでいたはずの騎竜が恐る恐るソラールの元へと近付いてきた。夜中まで起きていたのを見かねて心配したのだろうか。ソラールが手招きすると、騎竜は顔を綻ばせながら彼の下へと寄っていった。
なんでも元康達が置いていった騎竜だが、まさか野に放つわけにもいかず一旦リユート村で預かる事となっていた・・・のだが、一人旅と聞いた村長が旅のお供にどうだろう? 彼にと提案したわけだ。
もとより騎竜の走りを見て気に掛けていたソラールはこれを了承し、騎竜の方も既に彼へと懐いていたため、新たな主従関係はハベル等の知らぬ間に結ばれていたという。
「・・・フィーロは良い顔をせんだろうな。彼女に嫌われても私は知らんぞ?」
「むむ・・・そこまでは考えが及ばなかったな。どうにか分かってくれる事を祈るとしよう・・・そういう貴公はどうするのだ?」
「私は・・・とりあえず奴隷商のもとへ向かおうと思う。魔物の知識ならば奴の方があるからな。それからは・・・また冒険者のように依頼をこなしていく。波までまだ時間はあるだろうしな」
「おお、貴公も一度戻るか。俺もエルハルトの所に装備を取りに戻らねばならんから、道中までは一緒だな」
例え国からの報酬が半分であれ、災厄の波に備えて実戦を積み、各々の実力を高めていく必要がある。新しく仲間に加わるフィーロに今一番必要なのは、実戦での空気や経験である。それに、今の不死人等に与えられし使命は勇者だ。勇者は人々のために動くのが使命というものである。
「・・・しかし・・・不死の勇者か・・・今となっては思い出したくもないが、どことなく懐かしい気分だな」
「あの頃とは意味合いもやり甲斐も違うだろう。この
ソラールが身を寄せてくる騎竜を撫でつつ酒瓶を傾けると、ハベルもそれに応えて軽く傾ける。軽くぶつかり合い、カチンッと心地の良い音を鳴らした後、二人は揃って酒を飲み干すのであった。
フロムやった事無い友達に隻狼とダークソウルⅢやらせたら自分よりクリアの時間早くて上手いのは何でなの・・・格ゲープレイヤーって本当に恐ろしい・・・。