勇者よ、人間性を獲得せよ   作:じーくじおん

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ブラボ買った例の格ゲーフレンズがやーなむちほーを旅して一番強かったのは聖職者の獣だとほざきやがりました。ざっっっっk・・・とマウントとろうと思ったら一周クリアしての感想でした。私は黙ってDLC購入後の二周目を勧めましたとさ・・・・・・


EP21 フィロリアル・クイーン

 慌ただしかった魔物レース事件の翌日、村の復興を見届け出発を決めた剣と盾の勇者一行。そのため、リユート村の住民がこぞって見送りをしようと、早朝から村の入り口に集合する。

 

 出発の際、村長から幾度となく村を救って貰った礼として、剣の勇者にはお金の足しにとリユート村産の鉱石をいくらか、盾の勇者には四輪箱型の使い古された馬車が贈呈される。こんな物しかありませんが・・・と村長は口にするが、前の世界では人々から罵詈雑言しか貰い受けてこなかった不死人等からすれば、とんでもない話である。

 

 中でも種族的に馬車を引く事を本能としているフィーロは、彼女専用の馬車を持てる事により、不死人以上に喜びを見せていた。

 

 だが、そうそう嬉しいことばかりが続くはずも無く・・・。これからずっと一緒にいると思っていたソラールが、これからは自分たちとは別々に旅をするという事と、よりにもよってあの騎竜が彼に同行する事が分かると、飛び上がっていたはずが途端に目に見えて落ち込んでしまう。

 

 ハベルとて、できることなら同郷であるソラールと共に旅ができればどれほど心強いか、と思う。だが、勇者同士によるパーティの編成は禁忌とされている以上、仕方のないことなのだ。

 

 その時である。彼女のそんな様子を見た騎竜がフフンッと鼻を鳴らして得意げな表情を見せたため、怒りに燃えたフィーロが飛びかかり、取っ組み合いの喧嘩が勃発してしまう。

 

 馬よりも一回り以上も大きな騎竜、そしてその騎竜とほぼ同等の体格になってしまったフィーロの喧嘩は全員の目に留まるほど迫力があり、倒れるまで気が済まないという気迫が双方から感じとられた。

 

 喧嘩は長引き、勇者一行が村人全員に挨拶を済ませていざ出発と言うところまで続いた、その時である。出発の妨げとなるまで発展した二匹の喧嘩に如何した物かと首を傾げる勇者二人を見かねてか、遂にラフタリアの雷が二匹に落ちた。

 

「二人とも、いい加減にしなさいッ!!!」

 

「「ッッ!?!?」」

 

 普段の温厚な彼女からは考えられないほど大きな怒声が,まるで落雷の如き衝撃を与えた。たちまち二匹は離れ、彼女の放つ気迫に当てられてかその場で『お座り』のような体勢を取っている。そんな体勢でもラフタリアより遙かに大きな体格を誇る二匹であったが、普段から勇者と共にフィーロの面倒を見ていた彼女にとって、恐れを抱く事などあろうはずもない。

 

 ・・・・・・実際にはこの中で一番年を食っているのは騎竜であったが、新しい主人の目もある以上、今この場でラフタリアの説教に抗うほど愚かではなかった。

 

 最後の最後まで騒がしかったが、リユート村の皆に快く見送られながら、剣と盾の勇者一行は揃って村を発っていく。

 

 道中、二匹は王都に向かう最中に睨み合う事はあれど手を出す事は一切無くなった。確かに彼女の説教が効いたのもそうだろうが、フィーロは専用の馬車を引いている内に、騎竜は新たな主人を背中に乗せている内に、つまらない啀み合いなどどうでも良くなったのだろう。

 

 そんな平和で快適な調子を維持しつつ、メルロマルクの城下町へ難なく辿り着く。二匹は疲れた様子もなく、ペースを落とさなかった為、想定よりも早い到着に二人の勇者は感動を覚えていた。これからの行動範囲が圧倒的に広げられることに感嘆しつつ、勇者達はそれぞれの目的地へと足を向けた。

 

「ではな! ハベル殿、ラフタリア殿、そしてフィーロ。誰一人欠ける事無く、また会おうではないか!」

 

「はい! ソラール様、今回も本当に助かりました。これからもどうかお気を付けて」

 

「クア~~クア~~」

 

 やはり一時とは言え別れは辛いのだろう。よりにもよってドラゴンと旅をするソラールに様々な感情をぶつけるように、フィーロは悲しげな様子で彼にすり寄っていく。

 

「・・・こらフィーロ、ソラールが困っているぞ?」

 

「クアッ!? クゥゥー・・・」

 

 一応ハベルが注意をすると、ハッとした表情を見せたフィーロは今度は悔しげにハベルやラフタリアの方へと身を寄せてきた。ふわふわの羽毛に埋まりながら彼女を宥める二人を見て、ソラールは確信をもって頷く。ラフタリアとハベルなら心配なくフィーロを育てる事ができると。

 

「ずっとお別れ、という訳ではないのだ。近々また会えるさ。それまでハベル殿とラフタリア殿を頼んだぞ? フィーロ。・・・ではまたな! 貴公等に太陽の導きがあらん事を!」

 

 そう口にしたソラールは最後にフィーロを一撫でしてから、武器屋の方へと騎竜に跨がって行ってしまった。その後ろ姿をフィーロは最後まで潤んだ目で見送っていた。

 

 見た目は成体以上に成長しても、彼女はまだ生まれてから一週間だ。魔物の成熟速度は知らないが、初めての親しき者との別れというのは予想以上に辛かったのだろう。だが、いつまでもこのままというわけにはいかない。

 

「・・・・・・さあ、奴隷商のもとへ行くぞ」

 

「フィーロ、次に会ったときにはもっと良い子になって、ソラール様をビックリさせましょう。ね?」

 

「ッ! クアッ!」

 

 ラフタリアの言うとおりである。『頼んだぞ?』という彼の最後の言葉を思い出し、フィーロはハベルの指示した方向、薄暗い路地裏へと馬車を引いていくのであった。

 

 

 

「これはこれは盾の勇者様。よくぞおいでにっ!?」

 

 いつもの如く燕尾服を着込み、ニヤニヤと余裕たっぷりな表情で近付く奴隷商。だが、ハベルが連れているドデカい鳥型の魔物を一瞥すると、途端にその表情が固まってしまった。何か思い当たる節でもあるのだろうか? 脂汗まみれの顔にモノクルを付け直し、フィーロに近付いてはブツブツと小さな声で呟いている。

 

「まさか・・・いやはや・・・こんなことが・・・・・・」

 

「・・・貴公から買った魔物の卵から孵ったのだが、どうやら心当たりがあるみたいだな?」

 

「ええ・・・まあ、しかし、こんなことが・・・・・・この魔物は生まれたときからこのようなお姿で?」

 

「・・・いや。孵ったときはフィロリアルであったが、昨日災厄の波から出現した魔物の肉を摂取してな。・・・こうなったばかりだ」

 

「・・・・・・なるほどなるほど・・・グッフフフフ! いやぁ、私ぞくぞくしてきましたぞぉ!!」

 

 何か確信に至ったのか、奴隷商は態度を一変させたかと思えば、興奮して目をぎらつかせていた。そんな目線を向けられるフィーロは堪ったものではなく、嫌悪感を感じるとすぐにハベルとラフタリアの後ろへ隠れてしまう。尤も彼女の巨体では隠れる場所など何所にもないのだが・・・・・・。

 

「とは言え、勇者様。原因が定かではない今、こちらの方で一日預からせてはいただけないでしょうか? こういったモノには何分時間が必要ですので」

 

「・・・・・・手荒なマネはせんだろうな?」

 

「とんでもございません。お客様の・・・ましてや勇者様のモノに傷を付けるなどと。何より店の信用にも関わります故」

 

「・・・・・・ぬぅ・・・・・・分かった。任せよう」

 

「クェッ!? クエェェッ!?」

 

 まさかまさかの同意にフィーロは酷く驚き、優しく宥めていたラフタリアの手をバサバサと振り払ってまで抗議の鳴き声を上げる。しかし、ハベルが答えを変更する事はなかった。

 

 確かに何をされるか分かったものではないが、もし今の状態がフィーロにとって有害な事象であるならば、早急に原因や対処を調べる必要がある。それが可能なのは、ハベルの人脈では奴隷商しか居ないというのが現状だ。

 

 これもフィーロのため・・・そんな思いを胸にしながら、ハベルは尚も抗議を続けるフィーロに手を当てた。

 

「クエ~ッ! クエ~ッ!」

 

「・・・フィーロ、どうか一日だけ我慢してくれ。私とラフタリアは、お前の身体の事に詳しくはない。故に、何かあってからでは遅いのだ・・・・・・明日になれば必ず迎えに来る。だから、一日だけ頼まれてはくれないか?」

 

「フィーロ、私からもお願い。ハベル様も私も、あなたの事が心配だから・・・だから悪いところが無いか見て貰った方が良いの。あなたを大事に思う気持ちに変わりはないわ、だから・・・お願い」

 

「・・・クゥゥゥ・・・・・・・」

 

 二人の想いが通じたのか、フィーロは渋々といった様子で同意を示した。その後は、いつの間にか店の奥から出てきた筋肉隆々な二人組に誘導され、大人しく檻の中へと入っていく。しかし、やはり寂しいのか。フィーロは青い瞳を潤ませながら、懇願するかのような目線を二人に向け続けていた。

 

「・・・明日には必ず分かるのだろうな?」

 

「ええ、それは勿論でございます。明日の同じ時間に来ていただければすぐにでも」

 

「フィーロはまだ生まれたばっかりなんですからね! くれぐれも乱暴な事はしないで下さいよ!」

 

「分かっておりますって。あなたも私の商品だったのですから、そこら辺は承知してるでしょう?」

 

 念入りに釘を刺してから、盾の勇者と従者は店を出ようと背を向けた。だが、二人の姿が段々と遠ざかっていくその光景は、フィーロにとってはとてつもない苦痛であった。一歩、また一歩と遠ざかっていくその一瞬で、フィーロの心に不安が積もっていく。その不安が彼女の自制を超えてしまうのに、時間は掛からなかった。

 

「クエェーーーーッ!! クエェーーーーッ!!」

 

 檻をがたがたと揺らしながら、彼女の苦痛に満ちた叫び声が店中に響き渡った。声を聞いたラフタリアは足を止めるも、ハベルに手を引かれてしまう。

 

「ハベル様・・・」

 

「・・・仕方がなかろう、我々ではどうする事もできんのだ」

 

「それはそうですが・・・なんだか心苦しいです・・・」

 

「・・・そうは言ってもな・・・今のフィーロには必要な事なのだ」

 

 まるで自分に言い聞かせるように呟き、ハベルが店を出ようとしたその時である。先程まで響いていたフィーロの声と檻を鳴らす音が、ピタリと不自然なまでに止んだ。奴隷商が興奮を落ち着かせる何らかの手段を執ったのだろうか? 

 

 念のため、あくまで確認のために顔をチラリと向けると、檻の中に居るはずのフィーロの巨体が消えていた。代わりに二人の視線の先に映ったのは、光沢を放つ艶やかなロングの銀髪に、透き通るような青い瞳、雪のように純白な羽が背中に生えた、一糸まとわぬ姿の幼き少女であった。どこからか現れた彼女は涙を流しながら格子の間から手を伸ばし、口をぱくぱくと動かしていた。

 

「・・・ぱ・・・・ぱ・・・・ぱぱ・・・・たす・・・け・・・て・・・・・・」

 

 フィロリアルの叫び声よりも遙かに小さくて掠れた声だが、不思議と二人の耳にはしっかりと届いていた。刹那、ラフタリアがハベルの方を向いたときには、彼は既にその手へ『黒騎士の大剣』を握りしめ、奴隷商の制止も聞かずに少女が入った檻に振り下ろしていた。

 

 

 

 

 

「悪いなお客さん。もう今日は店仕舞いだ・・・て、盾のあんちゃんじゃねえか。どうした、こんな飯時に?」

 

 日が微かに顔を出している夕暮れの時間帯、仕込みやら鍛冶作業やらでエルハルトは早めに店を閉め、今まさに夕食を頂こうとしたその矢先だ。入り口の扉がノックされて出てみると、姿を現したのはこの武具屋のお得意様である盾の勇者と従者、そしてハベルに与えたはずのマントを羽織った見慣れぬ銀髪の少女であった。

 

「ソラールの奴ならもうとっくに町を出た頃だと思うぞ?」

 

「・・・用があるのは貴公だ・・・無理を承知で頼みたいのだが・・・今よろしいか?」

 

「あんちゃんが頼み事だぁ? ったく! とりあえず入りな」

 

「・・・すまない」

 

 エルハルトの好意に甘える形となり、申し訳なさげにハベルとラフタリアはお邪魔する。一方、少女はトテトテと遠慮の無い足取りで店の中に入ると、奥から漂う美味しそうな香りに鼻をひくつかせていた。

 

「ぱぱー、いいにおいがする~」

 

「・・・パパ? ブフッ! あんちゃんがか? クックック・・・」

 

「・・・・・・ぬぅ」

 

「親父さん! そんな吹き出さなくても良いじゃありませんか!」

 

「だってよ、盾のあんちゃんがパパって・・・ククク・・・」

 

 ラフタリアが注意するも、エルハルトから笑みが収まる気配は無かった。ついこの間まで生きているか死んでいるかも分からなかったような無機質な男が、いきなり舌足らずな幼子に父親認定されているのだ。これで笑うなという方が、無理があるものである。

 

「ままー、おなかすいたー」

 

「えっ!? さっき出店で食べた分じゃ足りなかったの? すいませんハベル様、私何か買ってきます」

 

「いいよ、嬢ちゃん。せっかくだからうちで飯でも食ってくか? たった今シチューが煮えたところだ」

 

「えっ! いいのー?」

 

「良いって事よ。先に食べてて良いぞ? 俺はパパとママに話があるからな」

 

「おやじさんありがとう! わーい!」

 

 少女は長い銀髪を揺らしながら、ご飯を求め元気な足取りで駆けていく。彼女の様子をだらしなく頬を緩めて見守るエルハルトであったが、ハベルやラフタリアのジトッとした視線に気が付くと、すぐさま表情を引き締めて向き合った。

 

「・・・貴公、夕食の件だが―――」

 

「心配すんな。あんちゃんと嬢ちゃんの分もちゃんと作ってやるっての」

 

「そんな、まるで私達が食いしん坊みたいに―――」

 

「そんな事より、用があってきたんだろ? 大方、あの子のことだってのは予想が付く。良い奴隷を買えたからってわざわざ自慢しに来たわけじゃ無いだろ?」

 

 エルハルトは、ハベルが良い意味でも悪い意味でも、そんな無駄なことはしない男だというのはなんとなく分かっていた。まさかとは思うが、この店に初めて顔を店に来たラフタリアのように使命の覚悟とかの修羅場をくぐらせるのか、はたまた鍛冶職人である自分に手に負えるような用件なのかを確かめる必要があったのだ。

 

「・・・・・・実はな」

 

「・・・・・・実は?」

 

「変身しても破れない服を探している・・・できれば魔物用の」

 

「・・・・・・は? 何だそりゃ」

 

「奴隷商の方から聞いたのですが、変身する種族のための服が存在する、と。何か心当たりはありませんか?」

 

「・・・へ? 嬢ちゃんもか?」

 

 予想だにしない彼らの注文に、エルハルトの口から気の抜けた声が漏れる。二人の様子からして巫山戯ているという事は無いのだろうが、エルハルトはその必要性を感じることができず首を傾げるばかり。まさかと思いつつ、「一体誰が着るってんだ?」と一応口にするも、二人は彼の予想通り店の奥へと顔を向けた。

 

「おいおい、あの子が魔物だって?! 人に化けられる魔物なんざ聞いたことないぜ。何かの冗談か、それか二人とも騙されてんじゃ・・・・・・」

 

 問題の少女の方へと視線を移した途端、エルハルトの言葉が潰えた。火に掛けていた熱々のシチュー鍋を年端もいかぬ少女が素手で持ち上げ、中身のシチューをゴクゴクと全部飲み干していたのだ。ちなみに先にテーブルへと並べていた前菜も綺麗さっぱり片付けられ、結果的に彼の用意した夕食は全て少女の腹の中である。

 

「ぷは~! おいしかった~!」

 

「お、俺の飯が・・・全部・・・一体全体何がどうなって・・・」

 

「・・・・・・・~~~っ!」

 

「・・・あ~、何か買ってくるとしよう」

 

 彼にとってはよほど衝撃的な映像だったのか、「しかも今回のは自信作だったのに・・・」と困惑気味に呟きながら崩れ落ちるエルトハルト。その横には、ワナワナと黙って震えるラフタリア。自身の従者の様子を目にしたハベルは、こそっと露店へと一人足を向ける。

 

「コラーッ! フィーロ!」

 

 ハベルが扉を閉めた瞬間、ラフタリアの愛の雷が武具屋へと落っこちるのであった。

 

 

 

 

「それで、最初から説明して貰おうか、あんちゃん」

 

 近くの露店でハベルが買ってきたベーコンサンドを頬張りながら、エルハルトは盾の勇者を鋭い眼差しで睨み付けている。片や向こうでフィーロはちょこんと椅子に座り、リユート村にいた頃のようにラフタリアの説教を大人しく聞いていた。

 

 もっとも、あの時とは違って意思疎通ができるようになった所為か、時折「まま、なんで?」と質問を投げかけ、ラフタリアは冷静に答えている。感情的な物言いは最初の一声だけで済んだようで、後は何が悪かったかを分からせるような彼女の叱り方を聞いていると、彼女の両親がどれほど人格者であったかが窺えてくる。

 

「・・・あんちゃん、嬢ちゃんの母親加減を観察しているとこ悪いんだが・・・」

 

「ぬ? ・・・ああ、すまない。フィーロのことであったか」

 

「そうだ。あの子は一体何なんだ! さっきも言ったが、人間に化けられる魔物なんて、生まれてこの方見たことがないぜ!」

 

「・・・貴公、フィロリアル・クイーンというのに聞き覚えはないか?」

 

 フィロリアル・クイーン・・・・・・その名の通りフィロリアルには王や女王と呼ばれる群れの主がおり、人の言葉を理解し発声が可能な他、個体によっては魔力や変身能力に長けている。もっともその生態の多くは謎に包まれており、普通の個体に紛れて人目をかいくぐる術を持つ、そもそも人前に姿を現さない等、様々な諸説がある。これらの知識は奴隷商から聞いたものだが、その奴隷商でさえも本物を実際に目にしたことはないという。

 

「マジかよ・・・フィロリアルの王なんて御伽噺かなんかだと思ってたぜ」

 

「では貴公、実際に見てみるか?」

 

 ちなみにだが、先程の光景のように人間の形態へと変身した後も、彼女が感じる感覚は魔物のソレと変わりない。筋力、持久力、体力など、優に人間のソレを凌駕していた。

 

「・・・もっとも、フィーロ自身は馬車を引く時以外はできるだけ変身したくは無いと言っているがな」

 

「あぁ? なんで・・・って・・・そういうことか」

 

 エルハルトはハベルとラフタリアがパパ・ママと呼ばれていたことを思い出すと、察してそれ以上は問わなかった。二人との距離を縮めることができるのは、姿だけとはいえ魔物と人間であれば、答えは明白である。

 

 端から見ても、彼らの関係性はもはや主従のソレを超えているようにエルハルトは思えた。使役魔物に対する適切な距離かと問われればなんとも言えないが、ソレは他人が口を挟む問題ではないのだろう。

 

 事実、奴隷商の下で調べを進めていた時のこと、ハベルは使役用の魔物に推奨される誓約の魔物紋をフィーロに入れることは無かった。クイーンへと変貌を遂げたフィーロは呪いに対する耐性ができたのか、生まれたときの魔物紋が消えてしまっていたのだ。紋の更新には、より高度の魔物紋を入れる必要があった為、「檻の弁償も込みでお安くしますよ?」と奴隷商に言われたが、ハベルは黙って首を振り、壊した檻の代金だけを支払った。

 

 高度な呪いは自然と罰則の痛みが強くなり、使役する魔物の自由を奪うもの。もとより奴隷制度を快く思っていなかったハベルにとって、それは考えるまでも無かった。

 

「それであの子の為に服をねぇ・・・確かにずっとあんちゃんのマントを着せておく訳にはいかねえよなぁ」

 

「それで貴公・・・頼めるか?」

 

「うちじゃあ無理だ。残念ながら俺は鍛冶師でな。けど、魔法屋の婆さんなら分かるかも知れねえ」

 

「・・・あの魔女がか?」

 

「魔法とか変身とか、そういう奇っ怪なのは総じてあの婆さんの方が詳しいからなぁ。俺も魔力付与の武器を造る際に、よく相談に乗ってもらってんだ。今日はもう遅いから、明日になったら行ってみな」

 

「なるほど・・・すまない貴公。助かった」

 

「良いって事よ」

 

 鼻の下を擦りながら、エルハルトはそう口にする。すっかりと素直に礼を述べるようになった盾の勇者にしみじみとしていると、突然ズボンの裾をクイッと引っ張られた。目線を下に向けると、青い瞳に涙を溜めておどおどとしたフィーロが彼を見上げていた。先程のハベルの話を聞いてしまったエルハルトは、無意識のうちに身構えてしまう。

 

「・・・ん? どうした?」

 

「あ、あの、その・・・・・・おやじさんのぶんまでたべちゃって・・・ごめんなさい」

 

 ああ、なんだ・・・と彼は肩の荷を降ろした。フィロリアルの女王とは言っても、許して貰えるか不安を抱く今の彼女はまだほんの子供と変わりないのだ、と。

 

「ああ、良いよ。ちゃんとごめんなさいが言える良い子だな、フィーロは。俺のシチューは美味かったか?」

 

「うんっ! おいしかった!」

 

「そうかそうか、これからもママの言う事はきちんと聞くんだぞ」

 

 「はーい!」と元気よく返事をするフィーロの頭を撫でながら、「すみません」とラフタリアは彼に礼を言う。すっかり打ち解けた様子を確認したハベルは、こちらの用件が済んだことも踏まえ、そろそろ宿屋へ向かうことを彼女らに告げた。

 

「おやじさん、ばいばーい!」

 

「おう。そうだ、嬢ちゃん。絶対その子をあんちゃんに似せるんじゃねえぞ?」

 

「なっ!? し、失礼ですよ、親父さん!」

 

「・・・いや、それは私も心配していたところだ」

 

「ハベル様!?」

 

 「何を仰ってるんですか!」「ぬう・・・しかしだな・・・」「ぱぱ、まま、なんのことー?」と最後まで騒がしいまま、彼らは店を後にする。店に一人残ったエルハルトは、俺も身を固めた方が良いかもな、と今まで思ったことも無い事を口走りつつ、自前の工房へと足を運んでいくのであった。

 




お前がパパになるんだよっ!!

フィーロの姿はダクソを基準とした作者の趣味ですorz

金髪碧眼の活発な天使はやっぱり尚文の所じゃないと! と思ったが故の所存でございます(言い訳)

それはそうと異世界カルテットに盾の勇者一行が参戦しましたね! 盾の勇者ロスだったこの身にあ~染み渡るんじゃ~。尚文もあの世界だったら心安らぐ・・・いや、そんなこともないか・・・。(新たな突っ込み要員として)


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