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早速契約しよ!
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心が折れそうだ・・・←イマココ
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アンバサー!!
更なる魔物の追撃を考慮した盾の勇者一行は、なんとか救出に成功した亜人と獣人の冒険者二名の案内の下、村人達が避難しているというキャンプ地へと足取りを進める事とした。
馬車の中で応急手当を受けつつ、なんとか話ができるまでの冷静さを取り戻した二人にハベルは目的地であるレルノ村の状況を問うが、二人も通りすがりのため詳しい事はよく分からないらしい。
「俺とキーネは夫婦で冒険者を始めてよ。レルノ村の連中から中心部の様子を見てきて、いくらか魔物を倒してきて欲しいと頼まれて・・・盾の勇者様の助けが無けりゃ、今頃は俺達も・・・こんな事になるなら、二つ返事で受けなきゃ・・・俺の所為でガクは・・・」
「ギー! 勇者様の前でみっともないよ! 済んじまった事は仕方ないだろう。あんたそんなんで、騒動が終わってからガクにきちんとお別れ言えるのかい? あたし等は冒険者なんだ。いつ逝っちまったって覚悟はできてるはずだろう? ガクだってきっと、あんたがメソメソしてるとこなんざ見たくもないさ」
体に巻いた包帯に染みができるほど涙を流すラビット種の亜人ギーの背中をバシン! とひっぱたき、フォックス種の獣人キーネは励ましの言葉を掛ける。どうにもならなかったとは分かっていても、救えなかった命に心を痛めるのは、ラフタリアも同じだった。
「・・・とっても立派な方だったんですね。今のメルロマルク王都で
「ありがとうなぁ、ラフタリアさん。そうとも、短い時間だったがガクは良い奴だった。奴隷だった俺達を買ってくれて、一緒に冒険しようって言ってくれてよう・・・命の恩人だったんだ」
「・・・なんだか、ハベル様みたいですね。私も元奴隷でハベル様に―――」
「知ってるよ、盾の勇者様方の話はすっかり有名になっちまってるからね。最近じゃ専ら、勇者の証であるフィロリアルクイーンを仲間に加えた事で持ち切りさ・・・セーアエットの領主様が最初の波で死んじまってから、今のメルロマルクじゃアタシ達の居場所なんてあったもんじゃない。そんなときガクは盾の勇者に憧れてって、アタシ達を買ってくれたのさ。三勇教が国教と定められてんのに、よくもまあ・・・ドが付くほどお人好しな奴だったよ。ほんと神様は残酷な事をするもんだ」
ハァーっと深いため息を漏らしながら、一条の涙が彼女の毛皮を伝う。キーネの悲しみの涙を目で追うラフタリア。その時の従者の顔つきは、まるで幼少期の頃を思い出させるような辛さを負っているように、ハベルの目には映っていた。
夫婦冒険者二人が口にした通り、四聖勇者の行動はメルロマルクを越えて滞る事無く広がっている。勇者として活動するというのはそういうことだ。多かれ少なかれ、人々の思想や言動に影響を及ぼす。ハベルの場合、まだまだ悪評が目立つ一方だが、差別の対象である獣人や亜人等にとっては、正に希望の星であると言う。
だが、ハベル自身は自らを全くそのように思ってはいない。今のハベルが存在するのは、ソラールとラフタリアが居てくれたからこそだ。生命の理から外れた不死の自分が、少なからずとはいえそのような英雄的に思われて良いものか・・・と、どうしても感じてしまう。そしてなにより、自らの所為でガクという人物の生を歪めてしまったのでは無いのか、とも・・・。
「・・・・・・ぬぅ」
「と、ところで勇者様、ずっと聞きたかったんだが、何で勇者様が三勇教のロザリオなんかを持ってるんだ? もしかして勇者様は・・・」
「バカな事言うもんじゃないよあんた! アタシ等の勇者様がそんな事・・・大体、肝心の盾が無い宗教に属したって勇者様に何の得があるってのさ!」
「・・・ぬ? 貴公、これがか?」
ハベルは確かめるように、皆の前へロザリオをかざした。ラフタリアは初めて見るのか興味深げにデザインを確認していたが、夫婦は吐き気を催すような顔つきでそっぽを向いた。
「確かに、盾だけがデザインに組み込まれていませんね。ハベル様、これを何所で?」
「・・・あの魔物が落としたものだ。とりあえず回収はしたが・・・」
「なんだって!? 三勇教め、今度は一体何を企んでやがる! 勇者様、悪い事は言わねえ。絶対に奴らと、もしくはそんなのを拝んでる奴らとは関わりを持たねえ方が良い!」
「クソッ!! あのゴミカス宗教家共が! いいかい勇者様。三勇教ってのはね、その名の通り盾以外の四聖勇者を信仰する碌でもない宗教だよ。それだけならまだ良かったんだが、こいつがシルトヴェルトの盾教と同じくらいには醜悪でね。人間至上主義を謳っているお陰で、アタシ等のような非人族の差別を正義としてるんだよ。災厄の波の影響もあって、何所の国もそんな極端な輩は減ってきたと思ってたのに、いざ四聖勇者が召喚されたらこれだよ! 全く嫌になるったらありゃしない!」
人が変わったかのような拒絶を見せる二人に、従者は思わず主人と顔を見合わせた。
成程、確かにあの亜人嫌いの国王が気に入りそうな宗教だと納得する一方、盾の勇者だけで無く信奉する者を殺し、憎悪を撒き散らしていたあの異形、今回の事件と無関係ではなさそうだ、と二人は心に留める。
「パパー、見えてきたよ!」
手綱を付けず自走しながらフィーロは馬車の中にいる父へと声を張り上げる。
村の殆どの人口が集まって形成されたキャンプ地であるため、それなりに規模も大きく目立っていた。フィーロが集落へ辿り着いた途端、険しい顔をしながら何名かの村人が農具をもって近付いてくるが、先に夫婦等が降りて顔を見せると幾らか彼らの警戒は解けたようだ。
「おお、冒険者殿! その怪我は!? もう一人の方は馬車の中ですかな?」
「すまない村長さん、村の内部に入ってからすぐに魔物に襲われて・・・もう一人は死んじまった。勇者様が助けに来てくれなければ、今頃は俺達も・・・」
「なんと・・・それは、その・・・すまない事を頼み込んでしまった。しかし勇者というのは・・・ッ!!」
初老の村長は馬車から出てきたフルプレートの岩鎧を見て唖然とする。よりにもよって助けてくれた勇者とは、メルロマルクにて罪人とされた盾の勇者であった。
他の村人もざわつき始めると、後から出てきたラフタリアと人間に変身したフィーロは揃ってムッと表情を曇らせる。他の地域でもまるで打ち合わせたかのように同じ反応をされる為ある程度の予測はできるが、やはり主人に向けられる負の感情に対して従者等が慣れる気配は一向に見られなかった。向けられている当の本人が馴染むところまで甘んじているのもどうかと思うが・・・・・・。
「・・・なあ、村長。分かってるとは思うけどさ・・・」
「っ! ああ、いえ、その、そんなつもりでは・・・盾の勇者様! お願いです、我が村をお救い下さい!」
ジトッと目を細めてギーが村長に訴えかけると、すぐに現状を思い出したのか切羽詰まるまま村長は勇者一行へと頭を下げた。
いくら勇者と言えども、罪人に村の命運を託す事に他の村人は納得していないのか、いつも通り従者等の感じている嫌な雰囲気は消えない。キーネは見え透いた態度にハンッ! と鼻を鳴らすが、それでもハベルは構う事無く、村長に頭を上げるよう促した後、いつも通りに話を伺うのだった。
そうして亜人・獣人夫婦は馬車の近くで待機させ、ハベル達は「まずはこちらに・・・」と村長に案内されるまま、キャンプ地で一番大きなテントの中へと通された。中に入って早々、惨憺たる光景にフィーロはハベルの後ろへ無意識に隠れ、ラフタリアは咄嗟に口元を覆った。
テントの中は弱り切った子供が余すところなくベッドに寝かされており、その半身からは皮膚を突き出るように青々とした植物が侵食していた。形状を観察すれば、例の町を覆っていた種類と酷似しており、明らかに個々の人間を苗床としたおぞましいものである。
「ママ、ここイヤな感じがするよぉ・・・」
「こ、これは・・・どうしてこんな事に・・・」
「村を例の植物が覆ってしまい、しばらくすると子供達が次々とめどなく・・・・・・勇者様のお力でこの病は何とかならぬものでしょうか?」
「・・・・・・ぬう」
助けたいのは山々だが、亡者の感覚からしても全員のソウルは酷く掠れており、既に危篤状態に陥っていた。試しに一番手前のベッドに寄り、苦しむ男の子の手を優しく握り、もう片方の手に『粗布のタリスマン』を握りしめ、ハベルは《回復》の奇跡を詠唱する。しかしながらハベルの予測通り、奇跡の効果は有っても植物は取り除かれず、回復した分の生命力をまた搾取され、ソウルの輝きは失われてしまう。
「・・・馬車の中には薬があるが、この様子では延命にもならんだろう。これは・・・呪いの一種だ」
「の、呪い!? そんな!? 三勇教の話と違うではないか!」
思い当たる節があるのか、村長は聞いて間もない
「・・・元を断たん事にはどうする他もあるまい・・・貴公、詳しく聞かせてはくれないか? 一体この村で何があったのかを」
「そう・・・ですな。村の者達を至急集め、全てお話しします」
肩をガックリと落とし、失意の底に落ちたまま村長は外へと出て村人達に声を掛けていく。病人達の前で話を聞くわけにもいかないため、ハベル等もまた馬車の方へと足を向けるのであった。
「我がレルノ村では代々から土地の状態があまり良いものではなく、年々作物が育ちにくいのですが・・・今年は最も酷く都からの援助や外部から買い入れるだけでは足りないほどの飢饉に悩まされていました。そんな時、丁度三勇教の信徒様が二名来訪されました」
キャンプ地の中で動ける者達の殆どが盾の勇者を囲むようにその場に座り込み、村長の話と今後の彼らの動向について耳を傾けている現状。
村の危機だというのに、何人かはその手に農具を持ち、ハベルとその横に座る亜人夫婦への警戒を解かぬ者達がいた。援助を受けていたと言う村長の口ぶりから察するに、元々国教である三勇教も今まで根深く関わっていたためだろう。彼らの何人かは今も尚、熱心なその志にさぞ忠実なようだ。
「話を聞いて下さった信徒様は槍の勇者様より頂いたという、メルロマルク国内の遺跡にて封印されていた種を持ってきて下さいました。なんでも飢えに苦しむ民達のために錬金術師達が作り上げた傑作の一品『奇跡の種子』だと仰っておりまして・・・」
「・・・・・・何? モトヤスが?」
「ハベル様、それってあの魔法石を取りに行った場所の・・・」
村長の話が事実なら、心当たりがある所の話では無い。確かに宝箱の中身は既に空であったし、記憶が正しければすぐ横の碑文には“封印を解くな”といった内容が書かれていた筈だが・・・古代語であるが故、解読できるものは限られているのを考えれば、元康と信徒等がその事実を知っていたとは考えにくいだろう。
「最初はその名の通りでした。枯れた土地だというのに、植えてから間もなく成長を始め、見上げるほど大きく立派な大樹になりました。果物から野菜まで幅広く、様々な実を付ける植物に皆は大喜びでした。ところが大樹の成長は留まるところを知らず、村ごと飲み込まれてしまい・・・」
「今に至る・・・か。貴公等、何か対策は施したか?」
「ええ、まあ・・・火で焼き払ったり、蔓を刈り取ろうともしたんですが、大樹から生まれた植物の魔物共が押し寄せてきてしまい・・・あの呪いの影響もあって、作業どころではなくなってしまいました」
一般に魔物というのは余程の腕利きでも無ければ、バルーンであれ農具で倒す事は不可能である。だからこそ荒くれ者にもうってつけの冒険者という職業が存在するのだが、元々飢饉に苦しむ村にそれらを定期的に雇うほどの余裕は無く、必然的に詰みの状況が生まれてしまう。
「ちょっと待ちなよ。そう言えばその種を持ってきた信徒様はどうしたのさ? まさか・・・」
「ええ、村が悲惨な状況になる前に姿を眩ましてしまわれました。おそらくは・・・」
「はっ! 手に負えなくなったんで、自分達だけとんずらこいたってかい? 流石だねえ、やる事が違う。どうせなら責任とって、お得意の『神の国』とやらに召されれば尚更立派だったろうにさ!」
「この獣風情が! 黙って聞いていれば! お前等だってオメオメと負けて帰ってきたんじゃないか!」
「っんだってぇ!! アタシ等だってガクのお人好しが無けりゃ、誰がわざわざ間抜けでおまんまも禄に食えないあんたらの依頼なんか無償で受けるかい!」
「もう二人とも! けんかは、めーっ! だよ!」
「キーネ、落ち着いてくれよ。ここで争ったってどうしようもないじゃないか!」
興奮したレルノ村の若人にフィーロが立ち塞がり、その若人に全身の毛を逆立てて今にも飛びかからんばかりのキーネを羽交い締めにして宥めるギー。彼らの喧騒なやり取りを横目に、ハベルは手元のロザリオを握りしめ、唸り声を挙げる。
「・・・やはり、呪いに呑まれた者か」
「勇者様? 今、何と?」
「・・・いや。それよりも貴公、他に何か知り得た事はあるか?」
「ええ。私達も何とかできないかと対策を調べはしました。すると、私がまだ子供の頃から村に伝わっている伝承に行き当たったのです。かつて、この辺りを根城にしていた錬金術師がとある術の研究を行っていたこと。其奴等の実験の所為か、一時的に異常なまでに植物が生い茂り、飢饉を脱する事ができたこと。しかしその後、植物が自我を持ち始めたと訴えた錬金術師が村に来訪し、その植物を焼き払って厳重な封印を施したとも・・・」
「ちょ、ちょっと待ってよ! そんなお話があったのに、だれも怪しいとは思わなかったの? しんとさまって人が持ってきたって種は、そのれんきんじゅつしの種なんじゃないの?」
話を聞いたフィーロは疑問を抑えきれずにぶつけるが、村長だけでなくその場の村人全員が彼女から一斉に視線を逸らした。幼子の問いに誰も答える事ができない村人等の様子にキーネはハンッと鼻を鳴らし、またギーがそれを窘める。誰も質問に答えない事にフィーロは更に首を傾げるが、見かねたハベルが代わりに助け船を出した。
「・・・無理もあるまい。今まで援助を行ってきた国教の信徒が持ってきたものだ。何より、飢饉に苦しむ中で選択の余地は無かっただろう・・・他ならぬ四聖勇者のお墨付きもあれば尚の事だ。疑いの目を持つだけでも、失礼に当たるというものだ」
「・・・どうしても断れなかったってこと?」
「・・・そういう事になるな」
村の者達を気遣って出した父の答えに納得の意を示すフィーロ。ただ、それでも彼女はそういう人間が持つ“面目”や“建前”のような気持ちを理解する事はできなかった。
事実、少し調べれば分かるような危機が、三勇教の提案を聞いてしまったが故に引き起こされている現状を見れば尚更だろう。大人の人間というのは難しいものだ、と感じざるを得ないフィーロであった。
そうして事の全てを伝え終わった所で、村長は懐から大きめの金袋を取り出し、ハベルの前へと跪いた。
「村からかき集めた魔物の討伐費は、前金で全額お支払いします。どうか、我がレルノ村をお救い下さい! 盾の勇者様!!」
「・・・馬車の中には薬がある。呪いが解かれ次第、子供達に飲ませると良い。全部使って貰って構わない・・・・・ラフタリア、フィーロ、行くぞ」
村長から金袋を受け取る事無く、ハベルは淡々と説明を口にしながら従者に号令を掛けた。元気な二人の返事が響き、いつもの通り主人へとついて行く。その後ろで、中身がたっぷりの金袋を手に持ったまま「あ、あの・・・」と村長が言い淀む。そんな行き場を無くした両手を差し出し続ける彼にハベルは振り返り、冷静に告げた。
「・・・今回の騒動、元を辿れば四聖勇者にも原因がある。正すのであれば、同じ四聖勇者が正さねばならんだろう・・・その金は後の復興に用いると良い。村の現状を鑑みるに。何かと入用であろう?」
盾の勇者の言動に、レルノ村の全員はまず彼の正気を疑った。それはつまり何の見返りも無いまま、彼の言う勇者の志だけで村の問題を解決しようというのだ。明らかに異常という他なかったが、亜人夫婦だけはそんな盾の勇者一行の姿に大興奮である。
正に幼い子供のころから故郷で言い聞かされてきた伝説の勇者様。そんな彼に何とか助力はできないものかと、村の外へ足を向けるハベルに二人は駆け寄った。
「なあ勇者様! 俺達もついて行くよ! 俺だってガクの仇を討ちたいんだ!」
「・・・傷の方はもう大丈夫なようだな。なら、貴公等には村の防衛を頼みたい。いつ何時、奴らがこの村を襲うか分かったものではないからな」
「クゥゥーーッ! やっぱ違うねアタシ等の勇者様は! どこぞのぼんくらとは大違いだよ! やることなすこと心構えも、勇者ってのはこうでなくっちゃ!」
「・・・それと貴公、あまり村の者達と波風を立てないで貰えると助かる。彼らとて被害者である事に変わりないのだ・・・分かってくれるか?」
「おっと、そいつは悪かったね。どうにも昔からこの口が悪くってさ。気をつけるとするよ」
普段から気が強く、他人に反発する事が多い獣人の彼女も、盾の勇者の頼みとあれば喜んで従った。
ハベルの姿を一目見ては酷く怯え竦む人間達、片や憧憬の眼差しを向け、まるで英雄に会合したかのように気勢高まる亜人と獣人。その光景は三勇教に関わりを持つ者には耐えがたいモノであった。
「そんな調子の良い言葉を並べて、本当はそのまま逃げ出すつもりだろ! 悪逆非道な盾の罪人なんかに何ができるってんだよ・・・」
だからなのだろう。先程(よりにもよって盾の勇者の)幼子に窘められた若人が、心にも無い言葉を口走る。その若人に同調するかのように、三勇教を信仰している何人かの村人等も細々と疑念を口にし、やがて全体へと広がっていた。
あまりの村人等の態度に冒険者夫婦の瞳が獣のようにギラつくが、当の盾の勇者からいざこざを起こすなとお願いされているため、二人は歯を噛み締めてグッと自分の気持ちに蓋をした。しかし・・・・・・。
「・・・なんで? どうしてなの? ・・・・・・なんでそんなにパパの悪口を言うの!! パパがみんなに悪い事したの?! パパとママはみんなを助けようとしてるのに! なんで―――」
「・・・・・・フィーロ、行くぞ」
ここ最近でも特に酷い村人等の態度に、まだまだ幼子のフィーロは遂に溜まっていた鬱憤を吐き出すよう、蒼い瞳に涙を目一杯にじませながら叫んだ。その声は怒りと悲しみで震えていたが、そんな彼女を遮るようにハベルの指示が耳元に届く
「でも、パパ! みんな―――」
「・・・行くぞ」
ハベルの声色が一トーン下がる。それは、彼が何を言われようと絶対に曲げぬ時であることを、フィーロはよく分かっていた。しかし、分かってはいても納得のいかない彼女は亜人夫婦と同じように歯をグッと食いしばり、涙を溜めながら父の元へと駆けて飛びつくように手を握った。
ラフタリアは悔しげなフィーロの背中をさすり、亜人夫婦に頭を下げた。
「今は皆が協力する時です。キーネさん、ギーさん。ガクさんの仇は必ずとって見せます! ですのでどうか、レルノ村の事はよろしくお願いします」
しかし、彼女も思うところがあるのだろう。村人等までに届くような大きな声でハキハキと二人に伝えたのだ。彼女の願いにすぐさま揃って頷く二人を見届けると、チラリと村人等へ視線を移した後、主人と共に戦地へと赴くのであった。
「・・・・・・パパはくやしくないの?」
「・・・・・・ぬ?」
大樹から生成されたであろう植物型の魔物達を殲滅し、着々と村の中枢へ足を運んでいるその道中にて、彼は娘から投げつけられた疑問に首を傾げた。
「フィーロはとってもくやしいの! パパはなんにも悪い事はしてないんでしょ? なのにどこへ行ってもみんなパパの悪口ばっかり・・・でもパパは勇者だから、助けるのがお仕事なんだって・・・分かってるけど、分かってるんだけど! フィーロはなんだかとってもくやしいの!!」
「・・・・・・ぬう」
彼女の言わんとしている事は、何となくではあるがハベルには伝わっていた。だが、それが果たしてハベル本人に納得がいくかと言われれば難しい話である。百年の時を優に超えて生きてしまった不死人にとって、蔑まれ忌み嫌われる事こそが凡常であり、先程の亜人冒険者達の反応が異質なのである。
世界そのものが変わり、取り巻く常識が変化しようと、ハベルの中に根付いた価値観は早々拭えるものではない。しかし、村を出てから八つ当たり気味に力の入った戦い方をするフィーロに、そのような説き方では納得しては貰えないだろう。
分かってはいるが納得できないのは、ハベルも同じであった。一体、何をどうすれば、生命の理から外れた化物である亡者を認めてくれ、などと言えるだろう。不死人を悪とする『白教』の下で不死狩りが正義とされていた時代からその考えが根本にあるハベルには、どうしても怒れる娘を宥める事ができないでいた。
「ねえ、フィーロは皆が食べた事無いけど美味しくないって言う食べ物を食べたいって思う?」
「えっ・・・と・・・美味しくないならフィーロも食べたくないって思うけど、どうしたのママ?」
ぐずるフィーロの頭を優しい手つきで撫でながら、なんでもないようにラフタリアは語りかけた。話の繋がりが見えなかったフィーロは、上目遣いで彼女の意図を読み解こうとする。
「でもフィーロが食べてみて、本当はとっても美味しかったら?」
「んーっとね、みんなは食べた事無いんだよね? だったらフィーロが美味しいから大丈夫だよってみんなに教えてあげるの・・・・・・あっ!」
母の言いたい事に合点がいき、フィーロの表情がパッと晴れやかになる。一方、こっそりと聞き耳を立てていたハベルはゴトッと岩兜を傾げ、内で眉をひそめていた。
「パパも一緒なんだね!」
「・・・・・・ぬ?」
「そうよ。それに、私達が助けた人達も、最後は笑顔でありがとうって言ってくれたでしょ? みんな悪い噂に騙されてるだけで、本当のパパを知らないの。だから―――」
「フィーロ達がかつやくして、教えてあげれば良いんだね! よーし、フィーロもっとがんばる! ぜったい槍の人よりもパパの方が強くてかっこいいんだって、あの人達を見返してやるんだからー!」
声高らかに宣言したフィーロは、沸き上がる気持ちを抑えきれないのか先頭に立つ父を追い越し、魔物の姿を散策する。「もう、フィーロったら・・・」と母性を纏わせるような微笑みを浮かべるラフタリアに、気が付けばハベルは足を止めて彼女を見据えてしまっていた。
「ハベル様、どうされました?」
「・・・貴公は凄いな」
「あ、いえ・・・あれは父と母からの受け売りですよ。私の住んでいた所でも、盾の勇者は亜人以外ではあまり受け入れられなくて。両親の言う通り誤解を解いたら、人間のお友達も沢山できましたし」
唐突に出てきた称賛の言葉にラフタリアは照れから謙遜の姿勢を示す。だが、ハベルがそう思ったのは今に始まった事では無い。口が達者ではないハベルでは、どうにもフィーロの「なんで?」という年相応の質問に答えられぬ事が多かった。勿論それが全てでは無いが、彼女の助け船には何度救われた事か・・・。
「・・・事実そうなんだと思います。亜人や人間に限らず、人は“分からない”というだけで“怖い”と思ってしまう生き物なんだって。この身をもって体感しましたから。フィーロの言う通り、分からないなら教えてあげれば良いんですよ。ハベル様は優しい方なんだって。そ・れ・に!」
「・・・・・・ぬ?」
ハベルの兜の前に人差し指を立てながら、ラフタリアはハベルへと距離を詰めていく。
「私だって、ハベル様が悪く言われるのは凄く嫌ですし傷つきます。例えハベル様がどう思われようとこれは変わりません。分かりましたか?」
「・・・う・・・・・・うむ」
目の前まで迫られたラフタリアの気迫に、ハベルは頷かざるをえなかった。そんな彼を見てニッコリと微笑むと、彼女はそのまま先行したフィーロの後を追った。
何と言って良いものか、虚偽ではあるが母となってからの彼女は以前にも増して強くなった気がしていた。無論、今でもハベルによる鍛練は続いているし、一行の動向を決めるのもまたハベルにあるのだが、それとこれと話はまた別という事だろう。
何にせよ、彼女が生き生きと笑っていられる分にハベルは満足していた。それだけは確かな事実である。
「パパー!! 早く来て、見えたよ! おっきな木が!」
「・・・ぬっ!」
感傷に浸る間もなく、ハベルは瞬時に雰囲気を転化させて二人のもとへと向かった。駆け付けた先にはハベルと同じように顔つきを引き締めて剣を抜く従者と、指を差して感心の意を示す娘の姿。
《ハベルの大盾》と《黒騎士の剣》を展開させてから目線を先へと向ける。色とりどりの花が咲き乱れる広場の中心部、そこにはでっぷりと禍々しいまでに幹を肥えさせた大樹がどっしりと居座るように根付いていた。
幹の上方には大きな蕾が存在し、ハベル等を待っていたかのようにゆっくりと花開いていく。花弁が開かれた内部には細やかに無数の瞳が覗いており、それぞれがおぞましく蠢いていた。
―――なんだ、この既視感は?
妙な感覚を抱くハベルであったが、それは大樹も同様だった。血走った瞳を一斉にハベルへと向け、巨体をギシギシと揺らした。すると、大樹に呼応したのか辺り一面に植物型の魔物が溢れかえり、その中には杖を持ったあの異形の姿も見られた。
「そんな!? ハベル様が倒した筈じゃ」
「臆するな、二人いると言っていたではないか」
「ッ! では、やはり・・・」
「・・・呪いに呑まれた。まあ、そんな事だろうと思っていた」
聖職者ほど、醜い化物へと成り果てる。ハベルの世界の理と何ら変わりなかった。異形は杖を掲げ、今度はハッキリと人の言葉で詠唱を始める。ハベルに対する鮮明な呪詛が戦の狼煙となるのであった。
まじでコロナやばすぎんだろ・・・
だからといって処刑隊の面々はお手元の仕掛け武器を展開しないで(切実)
医療協会の方は治験を諦めて、お手元の注射器を置いて(懇願)
「貴公等、不要な外出は避けるのだぞ! 落ち着くまでの辛抱だ! 良いか不死の諸君、消して振りなどでは無いからな!? この俺との約束だ! 守れた者にはこの太陽のメダルを贈呈しよう! ではな貴公等! 太陽万歳!!\(T)/」