勇者よ、人間性を獲得せよ   作:じーくじおん

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生存報告…亀更新で申し訳ない…二期がもうすぐ始まるというのに…ァァァァァァァァァァァァ(発狂)


EP26 忌まわしき異物

 夕焼けがすっかり辺りを淡く染めた頃、緑の呪いに蝕まれていたレルノ村に変化が訪れた。村全体を忌々しく覆っていた蔓群は須く枯れ果て、再び村へ襲撃を掛けてきた植物の魔物達が一斉に悶え苦しみ、朽ち果てていく。

 

 「や・・・やった・・・俺達の勇者様が勝ったんだ! 盾の勇者様が村を救ったぞーーー!」

 

 自ら尊敬してやまない勇者の言いつけを従順に守り、村の防衛に尽力していた獣人・亜人夫婦の感極まる雄叫びが響く。それに呼応するかのように、村の子供達に侵食していた筈の植物も次々に枯れ落ちていく。

 

 苦しみが和らぎ、次々と意識を取り戻していく子供達を見かね、村人達も次第に状況を理解していく。自分たちの大切な村と子供達が救われ、村人全員の内に安心と感謝の念が浮かぶ。だがその反面、彼らの心には否が応でも罪悪感が生じていた。

 

 元々三勇教に染まりつつあり、村の危機にてどうしようもない無力感に苛まれていたこともあってか、ここに居る全員が少なからず盾の勇者に対して心にも無い言葉や想いを投げつけてしまった。

 

 思い返してみれば、あの獣人夫婦や勇者のお子さんが怒るのも無理はないだろう、と村人達の間で気まずさだけが募っていく。現状において未だに盾の勇者に対してぶつくさ文句を言っている一部の者達も目に入り、更に他の者達は頭を痛めていた。

 

「あっ! 帰ってきた! 噂をすればなんとやらだね。行くよギー! あたし等の勇者様を迎えてやらなきゃ!」

 

「お、おいキーネ。まったく、嬉しいのは分かるが待てって。あんまり騒がしいと勇者様だって困るだろう」

 

 獣人・亜人特有の感覚の鋭さで盾の勇者一行の帰還を察知した冒険者夫婦が、互いにウキウキとした足取りで村の入り口へと駆けていく。さて、自分たちは何と声を掛けたら良いものやら…と対照に重い足取りで後へと続く村長。だが、いざ一行の姿を目にすると彼の言葉は喉の奥へと落ちていった。

 

 大きな怪我こそしていないものの、大きな籠いっぱいに赤い実を背負う彼等はレルノ村に来た当初と比べ、程度は違えどクタクタであった。特に亜人の従者は鎧の損傷が酷く所々が溶解しており、身なりを気にしてか勇者のマントを羽織っている。銀髪の幼女は三人の中で一番大きな籠を背負いケロッとしているが、その表情からは少なからず疲労が感じられた。しかし、真に村長が言葉を失ったのは従者ではない。

 

 問題の盾の勇者は三人の中で外見は最も変わっていない。…が、彼が纏う雰囲気が別物であった。およそ人間が出してはいけないような威圧感、何者をも寄せ付けぬようなオーラと言うべきもの…いざソレが向けられているわけではないが、無意識のうちに村の皆を怯えさせていた。駆け寄った冒険者夫婦も獣の血をひく性か、盾の勇者と言葉を交わしつつも、その尻尾は本能故の警戒からか体毛が逆立っていた。

 

「…貴公…少し良いか? …貴公?」

 

「…えっ? あっ! はいっ! 勇者様、お陰で村は助かりました。勇者様から頂いた薬もあって子供達も全員無事です。本当に助かりました勇者様。一体どのようなお礼をしたら良いか…ただいま討伐費と治療費を集めますので少々お待ち頂けますでしょうか?」

 

 威圧に当てられ軽く放心状態の所へ急に話しかけられたものだから、泡を食った村長はまだ話してもいない魔物の討伐への感謝と、聞かれていない村の状況をズラズラと並べていった。脅威が去ったというのに必要以上の怯えを見せるかの初老にハベルはゴトッと岩兜を傾げる。

 

「…先にも言った通り、我々はただ…他の四聖勇者の尻ぬぐいをしたまで。故に報償金の類は要らぬ。村の復興等、貴公等には何かとこれから要りようであろう? …それと貴公、魔物から取れたこの赤い実だが、もう怪しげな術は感じられない。口にしても問題は無いが…最終的な処分は貴公等に任せる」

 

「お、おおッ! ありがとうございます勇者様、村の危機を救って下さっただけでなく、こんなお恵みまで…」

 

「…貴公、本題に戻るが…」

 

 また長々と世辞を語られる前に、ハベルはバッサリと村長の話を遮る。本題…と切り込まれ、思わず村長は顔色が悪くなった。まさか金は要らぬが貴公等の命を貰おう、などと口にするつもりでは…。

 

「…件の魔物には思った以上に苦戦してな。我が従者は疲労が著しい……今晩だけ寝床を借りられないだろうか?」

 

「…は?」

 

 先程から変わらぬ威圧感を放ち続ける勇者から出た細やかすぎる願いに、村長だけでなく他の村人達の目が点になる。その様子にラフタリアは、もう慣れました…と苦笑を浮かべていた。

 

「……すまない貴公、無理を言ったな。では、我々はこれで――」

 

「ちょ!? ちょっと待って下さい勇者様、勿論でございますとも。ささ、こちらへ」

 

 あれほどハベルに対し怯えていた村長だったが、彼が背を向けようとした途端に慌てて手を引き、自身がいた仮設の民宿小屋へと案内する。

 

 百聞は一見に如かず、三勇教への不信感もさることながら、村長とのやり取りを見た村人達はこぞって、盾の勇者への想いをまるまると翻した。宿に向かう道中にて、彼等へ一斉に降り注いだ暖かな言葉の数々がそれを物語っていた。

 

「…たく、調子が良いったらありゃしないよ」

 

「流石に野暮だぞ、キーネ。勇者様が良いなら良いじゃないか」

 

 面白くなさげな彼女を窘める彼の言う通り、当人達は誰も不満を抱いてはいない。人とは未知を恐れるもの…そして皆に理解して貰った現状があればこそ、ラフタリアとフィーロはそれで満足であった。

 

「ママの言う通り、みんなパパが良い勇者って分かってくれたよね?」

 

「勿論よ。パパだけじゃない、フィーロが頑張ってくれたお陰で村のみんなは助かったんだから」

 

「ママもがんばってたよ! フィーロ見てたもん! 最後にパパの剣をとりゃーっ! て」

 

「あ、アレは…アハハ……私も、もっと鍛えないとなぁ…」

 

 腕を曲げて力こぶを作るが、直後に彼女は軽く項垂れる。悠々と片手で振り回していた漆黒の特大剣を、両手を用いても振るうことが叶わなかった自身の鍛練不足に対してである。もっとも、筋肉隆々なラフタリアなど、あまり想像したくはないハベルであった。

 

「ささ、勇者様。どうぞこちらへ」

 

「…感謝する、村長殿。ああ、それと…私はまた中央へと向かう。枯れた蔓の掃除もあるが、万一残党が潜んでいるとも限らん」

 

「へ? いや、しかし―――」

 

「いけません、ハベル様!」

 

 村長よりも先に、ラフタリアがハベルの前に立ち塞がる。幾らハベルが《不死人》とは言え、あまりにそれは酷であると。いつもであればそんな彼女の人間性溢れる想いに対して素直に応えるハベルだが、今の彼は黙って首を振り、彼女の横を通り過ぎた。

 

「蔓の片付けなら明日にでもできるじゃないですか。それに、村に魔物がいない事だって確認済みです。今は身体を休めて…」

 

「…ああ、貴公の言いたい事は分かる。その正しさもな……だが貴公、頼む。今は…しばらく一人になりたいのだ。それこそ身体でも動かして、気を紛らわせたい」

 

「あの欠片を手にした時から、落ち着きがないですよね。ハベル様、アレは一体…」

 

「…貴公が気にすることではない」

 

「でも!」

 

「…ラフタリア…頼む」

 

 彼がそう告げると、不意にラフタリアの左腕に違和感が生じた。それが奴隷紋の発動であることに気が付いたとき、彼女は胸がキュッと締め付けられるような思いを久しぶりに覚えていた。最も低位な奴隷紋が発動する絶対条件、それは主人の完全な拒絶。意図的に発動したものではないことは分かっている。だが、それでも…そこまでして彼は……。

 

 言いも知れぬ不安に心を支配された彼女は、咄嗟にハベルの手を掴む。何事かと顔を向けると、彼女はまるで、あの日と同じ悲壮な表情を浮かべていた。

 

「また…いなくなったりしませんよね? 帰ってきますよね?」

 

「………無論だ、貴公」

 

 今の自分は、そこまで危ういのだろうか…そんな疑念を抱きつつ、ハベルはやんわりと彼女の手を解いて行ってしまった。

 

「……ハベル様」

 

 情けない奴だと思われただろうか…事実、自分でも驚くほど不穏になった自覚が彼女にはあった。しかし今のハベルは、あの忌まわしき日の彼と重なるほどの危うさを感じてしまったのだ。無論、彼の言葉を信じていないわけではない。だが、彼女の胸騒ぎが消えて無くなるかと言えば、別の話である。

 

 あの螺旋状の破片を手にした時から、ハベルはずっと心ここに在らず…であった。どこか遠く…奇天烈な話ではあるが、どこか別の世界を見据えているような…。だが、彼は絶対に話してくれないだろう。四聖勇者の伝説としてとても有名な話だが、全ての波を退くことができれば、勇者は元の世界への帰還が叶うという。

 

(ハベル様もきっと…元の世界に帰りたいって…思っているのかな…)

 

「ママ、どうしたの? さむいの? 具合がわるいの?」

 

 奴隷時代の癖が蘇り、思考がどんどんマイナスに囚われていく。気が付くとラフタリアはハベルのマントを深く羽織っていた。母の変化を素早く察したフィーロが上目遣いで彼女の手をそっと握る。

 

「…ううん、平気よ。ちょっと疲れちゃったのかも…フィーロは?」

 

「フィーロは…お腹すいちゃったな。ママ、早くご飯にしよ!」

 

「そうね、ママもぺこぺこ。夕食にしましょっか。村長さん、宿の台所をお借りしてよろしいですか?」

 

 自分はもう奴隷でもなければ一人でもない…心の中でそう自分に言い聞かせ、ラフタリアはなんとか気丈に振る舞ってみせる。

 

「ええ、勿論構いませんとも。食材も沢山ありますからどうぞご自由に……それにしても、盾の勇者様という方はなんとも、寡黙でつかみどころがないお人ですな…」

 

「そうですね……いえ、とても優しくて…同じくらい不器用な方なんです」

 

 村長なりに気を使ったのだろう。無論、彼女は気遣いを察し、微笑みながら言葉を零した。しかし彼女自身はその時、上手く笑えているか自信はなかったという。

 

 

 

 

 

 一方、ハベルは夜が完全に明けるまで村の巡回を兼ねつつ、ひたすら枯れた植物を一箇所に集めては呪術の火で焼却を繰り返していた。疲労を覚えぬ故に作業の手が止まることはない。

 

 村人全員が取り掛かって一日かかるかどうかの面倒を、淡々とハベルはこなしてしまった。規模が規模であるため元通りとまでは行かないが、それでも人が住む分に支障はなく、大分マシになったと言えよう

 

 火の始末を終え、いよいよやる事がなくなってしまったハベルはフーッと息を吐いてその場に腰を降ろし、懐から小袋を取り出す。中に入っているのは、現在ハベルの思考を掻き乱している原因…螺旋状の破片であった。

 

 小袋から出し、再び手に取る。

 

――北の不死院 火継ぎの祭祀場 城下不死街 城下不死教区 不死街下層 病み村――

 

(……くっ!?)

 

 忌々しきかの地(ロードラン)の情景が直接脳に入り込み、すかさずハベルは破片を小袋へと戻した。そうしてまた、ハベルは一人思考に囚われる。

 

 これは明らかに自分の知るソウルの産物である。この世界にとっては異物以外の何物でもない。対峙したあの大樹も、この世界の魔物達とは明らかに逸していた。奴の宿していたソウルは、ハベルからすればあまりに既視だったのだ。ソウルの業を知る者であるからこその確信とも言えよう。

 

 何故こんなものがこの世界に存在するのか、偶然の産物と呼ぶにはおぞましすぎる。呪いに呑まれたであろう三勇教の信徒は、この存在を知っていたのだろうか。そもそも奴らは我々のことを知っているのか? 思えば四聖勇者召喚の儀を執り行ったのも三勇教だ。異なる世界とは言え、(ハベル)とソラールが召喚されたのは、あまりにできすぎではないか。

 

 だが、いの一番にハベルを乱していたのはそんな事ではない。

 

―――何故、私は懐かしさを覚えているのだ…!

 

 破片を手にした瞬間、ハベルの中に懐古的な情が一瞬だけ芽生えいた。あり得ない…そうハベルは己に憤慨すらしていた。その情が破片に生じた物か、はたまたかの地への想いなのか、どちらにせよハベルにとって非情に疎ましいものには違いない。あんな醜悪でおぞましい、忌避すべき地に一体何を感じているというのだろうか。

 

 命の理を失い、人間性を失い、友を失ったあの世界を…

 

 幾度となく迫害を繰り返し、殺害を繰り返し、死を繰り返したあの世界を…

 

―――どうして懐かしいなどと思えようか…!

 

 頑強な岩鎧のずっと奥深くにて、ドロリとした黒い淀みが蠢く。このどうしようもなく平和な世界に晒され、中途半端に人間性を取り戻してしまったが故に、ハベルの思考は気も狂わんばかりに乖離し続けていた。

 

 

 

―――おお、こりゃ美味い

 

「……ぬぅ?」

 

 どれ程、思考の波におぼれていたのだろうか。いつの間にか太陽も昇っており、遠くとも分かるほど快活とした喧騒にハベルの意識が復帰する。今となっては当たり前となった暖かな日光を浴び、のそりとハベルは重たい腰を上げた。

 

 辺りを見渡すと村人の姿はなく、避難所の方から賑やかさがあった。何を考えることなく、まるでそれらの声に惹かれるようハベルは足取りを向けていた。そして避難所が近くなるにつれ、人々の活気と共に良い香りがほのかに漂っていた。砂糖とバターの甘く心地よい香りだ。

 

「あっ! 勇者様、お帰りなさい! 聞きましたよ、村の掃除を一人でこなしてるって。言ってくれたら俺とキーネで手伝ったのに」

 

「…貴公、それは何だ?」

 

 ギーが美味しそうに頬張りながら手に持っていたそれは、あの赤い実を使ったフルーツパイであった。

 

「ああ、これです? ラフタリアさんがみんなにって焼いてくれたんですよ。今まで食べたパイの中で一番美味いですよ! 宿でみんなに配ってるんで是非勇者様も!」

 

「う、うむ」

 

 ハベルは彼に促されるまま、従者の元へと足取りを進める。道中、ハベルの目にはまぶしい人々の笑顔が映っていた。何時ぞやのリユート村のように、レルノ村はまだ完全に復興したわけではない。だが、それでも人々は前を向いて笑っていた。

 

 盾の勇者を蔑んだあの若者も、バツの悪そうな表情を見せつつもフィーロから渡されたパイを受け取り、そして最後にはぎこちない笑顔で食していた。

 

 従者達との旅の中では何度か繰り返されてきた光景ではあるが、ハベルだけは未だ慣れずにいた。不死にとっては、あまりにまぶしすぎるのだ。しかし、決して不快ではない。それどころか暖かく、むしろ安楽にすら思えていた。

 

「はい、どうぞ。お替わりはもうちょっと待っててね」

 

 そうして宿に着くと、呪いが解けてすっかり元気になった子供達にパイを渡す従者を見つけた。そして彼女の装備していた軽装の鎧が、何やらつい最近見覚えがあるものに変わっていることに気づく。

 

「…貴公、我が従者が着ている鎧は、もしや貴公の夫人の物では?」

 

「ええ、そうですよ。彼女の鎧がダメになってたんで、ウチの予備を。勝手にすいません」

 

「…何を言う、貴公。私もどうするか悩んでいたところだ。とてもありがたい…いくらなら足りるだろうか?」

 

「そんなやめてくださいよ、勇者様。正直、ガクの仇をとってくれた事に比べたら、全然足りない位です。繋ぎで良いから貰ってください。それに…」

 

 ギーは自分の胸を指さし、少し意地の悪い笑みを浮かべた。

 

「ラフタリアさんの抜群スタイルじゃきつくって仕方ないでしょう。特に胸部なんて…少しでもいいからウチのに分けて欲しいもんです」

 

「…ぬぅ……っ!?」

 

「へえぇぇぇぇぇーー……ギー、そりゃあ悪かったねえ」

 

 ああ、南無三。百戦錬磨のハベルすらも後ずさりする気迫を放つキーネが、牙を剥き出しながら笑みを浮かべ、夫の方をガシッと獣人特有の野生パワー全開で掴んでいた。

 

「へっ……!? キ、キーネっ!? いつからそこに!?」

 

「それって重要かい? アタシが貧相な身体だって? なに勇者様に碌でもないことほざきちらしてんだ! ちょっとこっち来な。ラフタリアちゃんのパイよりもっと良い物喰らわしてやるよ!」

 

「キーネ! 悪かった冗談だって! 勇者様だって男だし気晴らしにでもなればと思って…助けて勇者様ーーー!」

 

「………」

 

 首根っこを掴まれた哀れなラビット種の亜人を無言で見送る。せめて五体満足であってくれと祈りを捧げ……気を取り直してハベルは従者の元へと足を運ぶ。

 

「あ、ハベル様! 村のお掃除、お疲れ様でした…幾らか気分転換になりましたか?」

 

「…ああ…うむ…それよりも貴公。これは…?」

 

 ラフタリアへ現状を問うと、彼女もまた良い笑顔で応えてくれた。

 

「村長の奥さんと一緒に宿の窯を借りて作ったんです。集めた実は日持ちしないだろうから、せっかくと思いまして。とっても美味しく焼き上がったんですよ。ハベル様もお一つどうぞ!」

 

「…う、うむ。ありがとう…それにしても貴公、これだけの数だ。さぞ疲れたであろう?」

 

「まさか! ハベル様やフィーロのお陰で、料理は私の趣味みたいな物ですからね。このくらいへっちゃらです! ……ところで、お味の方は如何でしょうか?」

 

 彼女の言う通り、始めはハベルに美味しい物を食べさせたいが為に勉強し始めた料理だったが、彼に加えフィーロの笑顔、そして回を重ねるごと次第に広がり極まる自身の技術に、彼女は存外な面白さを見出していたのだ。そう突き詰めるうち、気づけば料理は趣味となっていた。

 

 そんな彼女が口元を抑え、上目遣いで恐る恐る問いかける。最も感想を聞きたい御仁が、手渡したパイを口にしていないためだろう。言われてハッとなったハベルは、岩兜をずらして口元を露出させ、すぐに味わった。サクッと咀嚼した瞬間、口の中へ微かに香ばしさと甘酸っぱさが広がり、ハベルの中で安らぎが生まれた。

 

「……いつもながら、貴公には驚かされる。初めて作ったとは思えんな。美味いぞ、ラフタリア」

 

 無骨な岩兜の下から見えた主人の笑みに、ラフタリアの纏う雰囲気がぱぁっと分かりやすく晴れていく。そんな微笑ましげな彼女を見つめ、ハベルは残ったパイを食べきり、確信した。

 

 この世界に紛れ込んだ異物を根絶しなければ、と。

 

 この素晴らしき世界に()の存在は要らない。過ちを繰り替えさせてはならない。この身がどうなろうと、また死を繰り返そうとも、彼等の笑顔を絶やしてはならない、ハベルはそう確信した。

 

(ラフタリアよ…私も見つけたぞ…貴公の言う使命が…)

 

 そして当然、その対象(異物)には自分自身(亡者)も含まれていた。

 

 

 

 

 

「王都……ですか?」

 

 食事を終え、一行はせっせと出立の準備に入っていた。まだまだ沢山残っているあの赤い実を馬車に二箱詰め込む最中、ハベルは次なる目的地を告げた。

 

「うむ…波も近い、ここから何かと色々準備もある。余裕を持って王都に戻っておきたい……そして個人的には、協会に用があるのだ」

 

 そう言って、ハベルは例のロザリオをかざした。剣と槍と弓の装飾が折り重なった銀のロザリオである。

 

「三勇教…元はと言えば、今回の騒動の発端でしたね」

 

「勇者様、どうか気をつけて。油断ならん奴らですから警戒するに越したことはないですよ」

 

 両頬に立派な赤い紅葉をつくった彼の言う通り、事が事ならハベルは迷わず剣を抜くつもりであった。

 

「じゃあね、勇者様、ラフタリアちゃん、フィーロちゃん、いろいろ助かったよ。運が良かったらまた会おうじゃないか。アタシ等もシルドフリーデンで名を挙げて、あんた達を歓迎できるくらいになってみせるからね!」

 

「キーネさん、ギーさん、ほんとに送っていかなくて大丈夫? フィーロ早いよ?」

 

「全く、フィーロちゃんは良い子だねえ。でも本当に大丈夫だよ。お姉さん達の目的地は真逆の方だからさ」

 

 ちなみにだが冒険者夫婦とはここでお別れだ。ガクの助けが無くなった以上、メルロマルク領地内で冒険者家業を続けていくことはどうしても厳しいとのこと。彼のお陰で充分に世情を生き抜く術を身につけた二人は、生まれ故郷であるシルドフリーデンで活動していくという。

 

「ギーさんも、鎧は本当に助かりました。亜人同士辛いこともありますけど、私もお二人を見習って乗り越えていきます! これからの旅路のご武運を願っています」

 

「おうよ、ラフタリアさん。今度あった時には盾の勇者様との進展を期待してるからな! うちの家内から色々アドバイスも貰ったみたいだしな」

 

「なっ!? ななな何を言うんですか! もーっ!」

 

 なにやら顔を真っ赤にして抗議するラフタリアに首を傾げつつ、ハベルも二人の旅路を祈って見送った。大切な者を失っても心折れなかった二人だ、きっとこの先も二人が手を取れば自ずと大成するだろう。

 

 そんな想いを胸に、ハベルがフィーロの手綱を握ったその時だ。向かい側から全速力で走る馬車が視界に入った。フィロリアル二頭が引く馬車は隣に停車したかと思うと、手綱を引いていた男が慌てて降りる。

 

「流行病で薬が必要だってミルソ村はここか? 発注した薬だぞ! おい、剣の勇者様はどこだ!」

 




次回、この作品の準主人公が登場。事後処理できるかどうかって大事だと思うの…。

皆様の感想は本当に心に染み渡ります。見返すくらいに日々の活力です。何とかハベル達を引っ張り出してでも返信したいと思っておりますのでこれからもよろしくお願いします。

関係ない話ですが、今期の異世界転生アニメ凄いっすね。不死の方々が行けば間違いなく色々耐えられず、血みどろフィーバーになりそう(フロム感)。

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