勇者よ、人間性を獲得せよ   作:じーくじおん

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段々落ち着いてきたので1ヶ月以内投稿できたぞ〜
(┛ಠДಠ)┛彡┻━┻
気がつけば評価者140人……本当に感謝です。


EP27 瘴気の山

 雲一つない快晴の下、天気とは裏腹に鬼気迫る表情のフィーロは砂塵を巻き上げながら馬車を引く。道中、商人の馬車や通行人らに衝突せぬよう気をつけつつも、乱暴な運転にすれ違いざま文句をぶつけられるもしばしば。

 

 しかし、その声に構っていられるほど盾の勇者一行の余裕はなかった。

 

 事の発端は彼等が救ったレルノ村を出立する直前のこと。剣の勇者ソラールの発注で馬車の荷台一杯の薬が届けられた。もしや彼が気を利かせてか…と従者等は思ったが、ハベルはすぐさま首を振った。ソラールならば回りくどいことをせず、必ずその身を運ぶであろう。

 

 慌てた商人から事情を聴取したところ、彼が口にしたミルソ村はここレルノ村から正反対の方角にあった。運搬していた薬は流行病の為のものだと言う。つまり商人はこの村が受けた呪いをソラールから依頼されていた流行病と勘違いし、誤ってこの地に踏み込んだという。

 

 話を聞いた盾の勇者一行は顔を見合わせ、村人等に簡潔な挨拶を済ませてから馬車を走らせた。言葉を交わさずとも、既に三人の目的は一致していたのである。

 

 なかでもフィーロのやる気は察するまでもなく凄まじい物だ。少しでも成長した自分を見て欲しい……(ソラール)と“人”として話をしたい……初めてその身を預けた彼に対する想いは褪せることなく、また会おうという彼の言葉を信じて膨れあがっていた。

 

 そんな彼女の想いも相まって爆走したお陰もあり、普通の荷馬車では半日ほどかかる距離をものの数時間で村に到着する。だがかなり乱暴な運転であった為、荷台で揺れに揺られたラフタリアはぐたっと伏せていた。

 

「わわっ!? ママ、ごめんなさい! 大丈夫!?」

 

「良いのよ、フィーロが頑張ってくれたお陰で早く着けたし……大丈……ウッ…プ…じゃないかも……」

 

「……私が行くから……貴公は休め」

 

 すみません、と顔色の悪い彼女の看病をフィーロに任せ、ハベルは一人村へと足を運ぶ。

 

 そして、村に入った時点でハベルは違和感を覚えていた。踏み行った村は彼等が訪れたレルノ村ほど切羽詰まった様子はなく、村人達は何ら変わりないように過ごしていた。流行病の話が出てくるのが不思議なほど、何の変哲もないようであった。

 

 そしてもう一つ、村人等がハベルに対して向けてくる視線だ。

 

 ハベルの犯したとされる所業は少なくともメルロマルク国内では余すところなく広まっている。謂れのない罵倒や嫌悪な目を向けられるのが当たり前であるはずが、ミルソ村の彼等からは好奇の視線しか向けられない。それは決して不快な物ではなく、まるでこちらを値踏みするかのような、疑いの目が向けられている。

 

「おお、その岩鎧……まさか、貴方様は盾の勇者様では?!」

 

「……そうだ。商人から流行病の話を聞いたのだが?」

 

「流行病? ああ、そういうことか……これも剣の勇者様が仰っていた太陽のお導きに違いない。ひとまず勇者様、歩きながらで申し訳ありませぬが、どうかお話を」

 

 静かな視線の中から慌ただしげにハベルへと駆け寄った男が、この村の村長だと口にした。

 

「……して、盾の勇者様は剣の勇者様とご友人で?」

 

「……私は、そう思っているが……」

 

「おお、そうでしたか。どうか、村の者達に気を悪くしないでいただきたいのですが……何分国中に広まっている噂が噂でして。剣の勇者様が熱く語られても、皆半信半疑なのです。私としては、あのお方の友人というだけで大丈夫だと思っておりますがね」

 

「……ぬぅ……」

 

 彼のことだ、打算も何も無く本心のままの行動であろう。かわらず太陽のような彼に、ハベルの胸の内がじんわりと暖かくなるような感覚が訪れた。

 

 一方、事情を知らぬであろう盾の勇者に行き先も告げずに案内しながら、村長は淡々と語っていく。

 

「村の傍にある山が見えますでしょう? つい最近なのですが、山頂近くの麓でドラゴンが巣を作ったそうなのです」

 

「…(ドラゴン)か……」 

 

 ハベルの世界にも奴らは存在していた。古い時代、世界が世界としてある前から支配者として存在していた死と無縁の上位者。始まりの火を手にした神々と争い、生命という毒によって敗れ去った哀れな種。その末裔こそがハベルの認知する竜である。

 

 もっともこの世界の奴らが同じとは流石に思わないが……村長の口ぶりから察するに、生命の輪に入りつつも奴らが上位者として君臨し続けていることは想像だにしやすい。

 

「何かあってからでは遅いと思い国へ討伐依頼を出したところ、『太陽の竜騎士』と名高い剣の勇者様が来てすぐに退治してくれました。たった一人で、あのドラゴンをですよ? それから数日間、村は勇者様の偉業を聞いた冒険者や観光客で溢れました。おかげでこのミルソ村も活気が出てきたんですが……」

 

 太陽の竜騎士……彼の栄誉ある二つ名に関心を抱きつつ話を聞いていると、気が付けば即席の大きなテントの前に立っていた。導きのままに中を覗くと、そこには外傷により至る所に包帯を巻き、苦しみながら横たわる冒険者らの姿があった。治癒師と看護師がそれぞれ看病しているが、あまり芳しくないのが見てとれる。

 

 だが、何より目を引いたのはテントの一番奥の大きな影。そこにはソラールの駆っていた騎竜が苦しみ喘いでいた。

 

「貴公……これは……」

 

「本題に入りましょう。剣の勇者様が倒したドラゴンの素材を持ち帰ろうと、ここに居る冒険者達が山を登った時でした。ドラゴンのねぐら辺りから強力な魔素が漂っていたそうです。恐らくドラゴンの死骸から発せられたものなのでしょう。それに伴うように山の生態系も変化し、一介の冒険者では到底叶わないような魔物が跋扈するようになったそうです。村の治癒師の話では、濃い魔素はやがて瘴気へと変わり、この村まで及ぶだろうと……」

 

「それでソラールは薬を頼んだわけか……今彼は何所に?」

 

「ええ、これは私の責任だ、と言って早朝に山へ登られました。村に残っていた冒険者の方々もこぞって彼についていきましたが―――ッ!?」

 

 突如として鳴り響いた爆音に、村長の声がかき消される。何事かと表へ出てみれば、例の山から煙が上っていた。

 

「剣の勇者様は大丈夫かしら」

 

「しかし不思議だ。雲一つないのになんで雷が落っこちたんだ?」

 

「ッ! 貴公、もうしばらくしてから商人が来るだろうが、薬が足りなければ使ってくれ。私が調合した物だが繋ぎにはなるだろう。私もこれから山へと向かうが、戻ってくるまで誰も登らせるな。よいな!」

 

 不安がる村人達の言葉から察したハベルは懐から出した薬袋を村長へ渡し、一息に捲し立てては従者のもとへと向かった。いくらか顔色が良くなった従者と共に、馬車を暴走させて村を出て行く。山へと向かう彼等の背を眺めながら、村長はただ祈りを捧ぐ他ないのであった。

 

 

 

 

 

「『紅蓮剣』ーーーッ!!」

 

 勇者の加護を受けた真っ赤な炎を纏う『太陽の直剣』を振るうソラール。彼の中にある温かな心が灼熱と化し、彼を取り囲む魔物達を次々浄化していく……が、不意に殺気を感じ、咄嗟に前転してその場を離れる。彼を串刺しにすべく、炎をかいくぐった四つ足の一角獣が突進してきたのだ。

 

 かわした直後、ソラールは反撃に奇跡『雷の大槍』を左手に展開して射出するが、獣は鼻先の大きな角を避雷針の如く扱い、彼の奇跡を真っ向から打ち消した。

 

「なっ!?」

 

「ブゥオォォォォォォーーーー!!」

 

 ソラールより二回りも大きい一角獣は口角を上げたのち、ご自慢の角を掲げるように咆哮すると、どこからともなく彼の周囲に獣系統の魔物が現れ始めた。振り出しに戻った状況に苛立ち、バケツヘルムの下で舌打ちが響く。

 

「ええい! 貴様等に構っている暇など無いと言うに!」

 

 ソラールについていった冒険者達だが、道中魔物達の襲撃が度重なり、その多くが負傷してしまった。彼等の戦意は失われてはいなかったが、装備も肉体もボロボロであり、いつ死人が出てもおかしくない状況に(一角獣)が来たのだ。

 

 決して偶然などではない。奴がこの山のヌシであり、自分たちを確実に仕留めに掛かっているのは考えるまでもなかった。

 

 自分の所為で死なせるわけには……と、冒険者等を逃がすべくソラールは単身で殿を担う。

 

 新たに会得した奇跡『雷の杭』で見事魔物達の注意を引き、現状に至っている。正直なところ竜を相手取っていたときよりも数で押されている今の方が辛いとは、山をこんな惨状にしてしまった原因の彼にはなんとも皮肉であった。

 

 しかし例え数で押されようと、相棒の騎竜がいなかろうと、彼の太陽が沈むことはなかった。四方から飛びかかる爪や牙を盾で払いのけ、隙を見て奴らの喉元に剣を突き刺しながら、剣の勇者は聖武器と化した自身の直剣に祈りを捧げていく。

 

 聖武器の宝石が赤く輝き、必殺スキルの準備が整ったところでソラールは剣を両手に持ち替え、真っ直ぐ一角獣を見据えた。それを挑戦と捕らえた獣は、己が内の本能に身を任せるように巨体を揺るがし、角を突き付けて猛進する。

 

―――誘いに乗ってくれた!

 

 正面から突っ込んでくる巨体をしっかりと見定め、鋭利な角が自身を貫くであろうその瞬間、ソラールはその身を翻した。その場で回転し、一角獣と隣り合わせな距離のまま、彼は勢いのままに直剣の腹を角へと叩き付けた。

 

 互いに衝突しただならぬ衝撃が体中を襲うも、よりダメージが多いのは一角獣の方であった。神経の集中する根元に衝撃が行き届いた一角獣はよろめき、厚皮の薄い側面を無防備に晒してしまう。

 

 無論、そのチャンスを逃す彼ではない。聖武器の宝石の輝きが最高潮に達すると、直剣に炎と雷が混合する。先程の衝撃でがたつく腕を無理に抑え、渾身の一撃を振り下ろした。

 

 青空のもとで全てを照らし、暖かな熱を届ける……この世界の太陽を知ったとき、ソラールは激震した。旅先で手当たり次第書物を漁り、最も太陽に近い力が炎であると理解したとき、彼は四聖の加護をその一偏にのみ傾けた。

 

 そして、かの世界(ロードラン)において神々の力…すなわち太陽の力とされた雷。真の太陽を知ってしまった上で、それは偽りなのかもしれない。しかし、彼にとってはあの暗闇の世界で見出した太陽に違いなかった。信仰の心を持つにまで至ったその力に支えられてきたからこそ、今のソラールがあると言えよう。

 

 ソラールにとって、どちらも正しく太陽であった。ならばどうして選択などできようものか。ソラールはソラールであるが故に、そのどちらをも受け入れた。

 

「『日輪・双刃剣』!!」

 

 炎と雷が混ざり合い、太陽と成った剣から斬撃が放たれる。斬撃は雷の如く獣を引き裂き、そしてその体は炎に包まれた。竜を屠ったその一撃に獣風情が耐えられる道理もなし。断末魔を挙げる間もなく一角獣は灰燼へと帰し、ソウルへとその身を変えていった。

 

 山のヌシが潰えたことにより、周囲の魔物達は恐れおののき退散していく。辺りを見渡し戦闘の空気が過ぎ去るのを感じると、ソラールはフーッと息を吐いて剣を納め、再び歩み始める。瘴気が村へと降りる前に片を付けねば、と気を引き締めたその時だ。

 

 背後から砂塵が舞い上がり、何かがこちらへ向かってくるではないか。ええい…と忌々しげに唸り、彼は先制しようと砂塵に向けて奇跡『雷の大槍』を振りかざす。

 

「……ぃちゃーんッ!! ソラールお兄ぃちゃーんッ!!」

 

「なっ!? はっ!? んんっ!?!?」

 

 砂塵の中から突如として響き渡る幼女の声。あまりに突飛で奇怪な事象により、ソラールの振り上げた手と思考が停止する。それは、かの世界を知る者にとって生を手放すほど致命的である。にもかかわらず、どういうわけか彼のソウルは甘んじて受け入れていた。

 

 そして砂塵の正体を確認するや否や、すぐに彼は自らのソウル的な導きに感謝し、手にした『雷の大槍』を空の彼方へ投擲する。

 

「ソラールお兄ちゃん! 会いたかったぁぁーー!!」

 

「おお! フィーロ! 少し見ないうちに喋れるようにまでなったか! ……いや待てフィーロ、そのまま来るのはまず――――へ?」

 

 まるまると大きなフィロリアルのまま馬車ごと突っ込んでくる彼女は正に重戦車の様。先程とはまた違った身の危険を感じたが、それでも彼は動けなかった。眼前の距離にてボフンッ! と音を立てて小さな女の子の姿に変身したフィーロに、ソラールの思考は宇宙を垣間見た。

 

「お兄ちゃん! ぎゅーー!」

 

「なッ!? 一体……ガフッ!?」

 

 魔物の時の白い羽とは対照的なチョコレート色のローブを着た長い銀髪の少女。彼は思考が停止したまま、ぎゅーっという彼女のカワイイ要望へ反射的に両手を広げて待ち構えたが、如何せん勢いが勢いであった。

 

 小さくなっても魔物の力がそのままの彼女は、正に砲弾の如し。この世界に召喚されてから一番のダメージを負った剣の勇者は彼女の要望を叶えつつ、ガクリと気を失った。

 

「あ、あれ? お兄ちゃん? お兄ちゃん!? なんで?! パパなら平気だったのに……お兄ちゃん、しっかり! 死んじゃいやなのー!」

 

「……フィーロ……」

 

「パパ! 大変なの! ソラールお兄ちゃんが……あっ……」

 

 父の声が届いた瞬間、彼女は自分の引いていた馬車の存在を思い出した。思えばソラールを見つけた瞬間から、彼女の記憶はあやふやなのだ。魔物的な欲求が自制できなかった彼女にハベルの静止が届くはずもなく、完全に制御を失った馬車は急発進から急停止の後、ものの見事に横転した。

 

 地の底まで響くような低い声色で呼ぶ彼は今、馬車の中で備蓄していた赤い実や薬でグチャグチャであった。当然、ラフタリアも再びグロッキーな状態へ。

 

 全てを察したフィーロはダラダラと汗をかき始め、甘んじてハベルの怒りをその身に受けた。

 

 

 

 

 

「ウワッハッハ! いやはや助かったぞ! まさか貴公等が助けに来てくれるとは。しかしまったく……貴公等は本当に毎度驚かせてくれるな! ウワッハッハッハ!」

 

「…ぬぅ……貴公、笑いすぎだ」

 

 ハベルの雷が落ちつつ、横転した馬車を直している最中にソラールの意識は回復した。それからというもの、彼はシュンと落ち込んでいるフィーロの馬車に揺られる今に到るまでしきりに笑いっぱなしである。

 

「しょうがないだろう? 特に貴公の叱り方など父そのものではないか。てっきり俺はラフタリア殿が主な教育係になっているものだと……ああ、すまんすまん。もう笑わんから、そう怖い顔を向けてくれるな」

 

 いい加減にしろ、と意を込めてかズモモモ……と岩鎧から重い威圧を感じ取ったソラールは、おもむろに咳払いをして場を濁した。そして、今度は改めて盾の勇者一行に頭を下げた。

 

「本当に助かった。貴公等が来てくれなければ俺の所為で村に被害が出るところであった」

 

「そんな、頭を上げてください。ソラール様が言ったんじゃありませんか、困ったときは助け合おうって。私やハベル様は勿論、一番張り切ってたのはフィーロなんですよ」

 

「ウワッハッハ! ソレは違いないな!」

 

 目的地が近いこともあり、あまりに顔色の悪かったラフタリアには荒療治ではあるが、ソラールが奇跡をかけて回復させた。こと奇跡に関しては本物の信仰を持つソラールの右に出るものはいない。

 

「だが、今回は死体の処理を後回しにしてしまった俺が悪いのだ。わざわざ尻ぬぐいをさせて本当にすまない。まさか3日で肉が腐るとは……いかんな、ロードランの奴らとは違うと言うに……」

 

「ハベル様の世界にもドラゴンが居たんですか?」

 

「…うむ。竜に挑むは騎士の誉れ……そんな言葉がある程度にはな……時に貴公、竜と言えば貴公の騎竜だが――――」

 

「アポロか!? 一体どうした!! ミルソ村で休ませていたはずだが…まさかアポロの身に何かあったか!?」

 

 ハベルから騎竜の話が出た瞬間、彼は血相を変えて詰め寄った。あまりの豹変ぶりにラフタリアは勿論、ハベルですら言葉に詰まってしまった。二人が呆気にとられたのに気が付くと、彼はまたも咳払いをして腰をおろす。

 

「い、良い名前ですね」

 

「ああ、いつまでも名がなければ不便だろう? 本人も気に入ってくれているしな!」

 

「……成程、貴公が死骸を放置した理由…何となく見えてきたな。しかし、私が村でアポロを見たときには、外傷などなかったようだが?」

 

 そう語るハベルに対し、事態がうまく読み込めていない従者はコテッと首を傾げる。だが、当事者であるソラールには伝わったようで、彼は乾いた笑い声をあげた。

 

「うん…うん…貴公の言わんとする通りだ。竜との戦いでアポロは手痛いのを貰ってしまってな。我ながら冷静さを欠いていた。竜の息の根を止めたのは良いものの、ソウルに帰す前にアポロを癒やしてすぐに山を下りたのだ。下りるまでは良かったんだがな……村へ辿り着いた瞬間、事切れるように倒れてしまった」

 

「そんな……ソラール様の奇跡でもダメだったなんて」

 

「……原因は?」

 

「それが…さっぱりだ。村の治癒師に見せたり色々薬を試したが…どれも思わしくなさそうでな……」

 

「…さっきからお兄ちゃん、あのドラゴンのことばっかり……」

 

 今も尚苦しんでる騎竜を想い、いつもの太陽の様な明るさがなくなったソラールは人が変わった様。それが面白くないのか、馬車を引きながらフィーロがジト目で文句をたれた。

 

「こ、こらフィーロ! なんて事言うの!」

 

「う~……でも! ヤなものはヤなの!」

 

 

 いつもとは違った我が儘を見せる彼女にラフタリアは慌てて注意するが、聞き入れる様子はない。彼女がここまで強情になるのは初めのことだ。年相応と言えばそれまでだが…どこか違和感を拭えぬハベルはラフタリアに続いて叱ることができなかった。

 

「ハハッ……フィーロの言う通りだ。いつまでも大のおとながウジウジしている姿は情けないだろう?」

 

「……貴公の気持ちはよく分かる…我々は一人で歩むのに慣れてしまったからな。もし今の私が貴公の立場であれば…貴公ほど冷静ではいられないかもしれん……弱くなったと言えばそれまでだが…この弱さを手放す気にはなれないだろう?」

 

 なにやら揉めているようで肝心の従者達には聞こえていない。だが、そんな彼女等を見つめるハベルからは、溢れ出んばかりの人間性を感じた。そして、彼と同じ道を歩んだソラールだからこそ、彼の抱く思いには強く共感し、スッと納得していた。

 

 「ハベル殿、ありがとう」

 

「……ここまで考えが及ぶようになったのは貴公のお陰でもあるのだぞ?」

 

 

 

「なんだか苦しくなってきた、そろそろだよ!」

 

 フィーロの感じた通り、辺りの空気が目に見えて淀みはじめ、視界も悪くなっていった。ここからは歩いた方が良いだろうと馬車を止め、道を知るソラールを先頭に隊形を組んで進んでいく。

 

 道中、羽虫や泥状の魔物を蹴散らしつつ歩み続けると、人型へと姿を変えたフィーロが浮かない顔をしながらソラールの隣へちょこんと並んだ。

 

「お兄ちゃん…さっきはごめんなさい。アポロが苦しんでるのに…フィーロは…」

 

「ん? ああ、いや…謝ってくれたのは嬉しいが、何もそこまで気にしなくても大丈夫だぞ。フィーロとアポロの仲が良くないのは分かっていたことだ」

 

「そうだけど、違うの。フィーロはそんな事言うつもりはなかったのに…どうしても我慢できなくて…それが自分でも分からなくて…」

 

「フィーロ、あなた大丈夫? 具合が悪いの?」

 

 ラフタリアが心配する通り、先程からのフィーロはどうにも落ち着きがない。人型になってからの彼女の言い分も、ただ言い訳を並べている様には聞こえなかった。まるで自我が乖離しているかのように苦しんでいる。

 

「フィーロ、もうそろそろ変身しておけ。瘴気が強くなってきた」

 

「あっ……う、うん」

 

 もしや濃くなった瘴気を吸った影響か…と危惧したハベルが指示を出し、彼女をフィロリアル・クイーンの姿にさせる。先程のこともあり負い目を感じているのか、普段なら嫌がる魔物への変身を彼女は素直に従った。

 

 彼がここまで警戒するのはロードランでの経験からだ。竜の死骸が近づくにつれて濃度を増していく瘴気……ハベルとソラールには既に共通の確信が生まれていた。

 

 そして、とうとう竜の骸が見えたとき、二人の確信はより顕著なものへと変わっていた。

 

「これが…ドラゴン……ソラール様はこれを一人で……」

 

 体長は10m程、竜鱗はほぼ全て冒険者に剥がれており、代わりに肉だけが異様に腐敗し、所々で骨が露出している。腹部には致命傷と想われる大きな裂傷が貫通しており、傷跡は焼かれて真っ黒だ。

 

 そして何より、腐敗した骸の至る所からガスのように瘴気が吹き出していた。それはまるで呪いの根源のようで……ラフタリアは先程から本能的な嫌悪感からくる吐気を必死に抑えていた。獣の血を引く亜人である彼女は人一倍感覚が鋭いため、尻尾の毛が常に逆立つほど、正に現状は地獄以外の何物でもなかった。

 

「……やっぱり変です。ソラール様の話を聞く限り3日でこうなったんですよね。腐敗が早すぎます。まるで自ら意思を持って進んで腐敗しているような…」

 

「……貴公、剣を構えておけ」

 

「…へ? ハベル様、なんで―――きゃっ!?」

 

 ラフタリアの疑問を待たず、彼は呪術の火を発現させ、『大発火』にて勢いよく骸を焼却しに掛かった。突然あがった火の手に彼女は思わず抗議の目線を送るが、ハベルは真剣そのものであり、既にその手には岩の大盾と大竜牙が握られていた。

 

 それはソラールも同じ、フィーロに至っては骸をずっと睨んで唸っている。尋常ではない状況につられ、ラフタリアもアストラの直剣を抜く。

 

「ハベル様……ッ?!」

 

「……やはりか……来るぞ!」

 

 何が…とは聞くまでもなかった。

 




盾の勇者の成り上がり2期が10月からですって奥さん。
楽しみだな‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦

皆様からの感想、心よりお待ちしております。
次もなるべく早くにでかしたいです……
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