( ゚д゚) ・・・
(つд⊂)ゴシゴシ
(;゚д゚) ・・・
(つд⊂)ゴシゴシゴシ
(;゚Д゚) …!?
《血が出た!》《発狂》《怖気》
あれから一週間程の時が経った。ハベルは一介の冒険者として国の冒険者ギルドから紹介された下水道に住み着くハエ・ネズミ狩りやら手入れを行っていない墓に住み着く
睡眠を必要とせず、疲労も感じることが無い彼が野営を行っていたのは―――単に夜目が利かないこともあるが―――『スキル』の存在に興味を持ち合わせていたためである。いつもの通りギルドで報酬を貰ってから、ハベルを化物と嫌悪する人々の視線を浴びながら城の外へと向かったとき、たまたま出店で出てきていた薬屋の売っている薬草に見覚えがあるところから始まった。
同じような薬草を城の近隣にて見つけたために採取をしていたところ、ハベルの盾がうっすらと光を放ったかと思えば、脳に直接《リーフシールド/採取技能Ⅰ》の文字が刻まれる。またこれか・・・とステータス魔術の発現を鬱陶しげに振り払うと、手元の摘み取った薬草にも変化が生じていた。薬草は採取する前の状態よりも青々としており、明らかに品質が向上している。それがステータス魔術の示していた『スキル』なるモノであることは想像するに容易かった。
今の所、ステータス魔術にて判明したスキルは《採取技能》・《植物鑑定》・《簡易調合》・《薬物向上》のみであるが、この世界に篝火が無いと仮定する以上、エストの補充がままならないことを考えればエスト瓶や回復系の奇跡以外の回復手段は確保しておきたいところである。そのため、ハベルは夜になると睡眠の代わりに様々な植物を組み合わせ、独学による薬の調合に勤しんでいた。もっとも、独学であるため今の所はとても飲めたものではない粗悪品しか生産できないが、彼にとって味などどうでも良かった。
そんなハベルは今日、珍しく依頼を達成した後であるにもかかわらず、城下町の通りに顔を出していた。鳥型の魔物を倒している最中、クロスボウのボルトが残り少なく、補給の必要性を感じたのが理由である。そして念のため、ハベルは武器屋へと寄る前に以前マインが言っていた素材屋へと先に向かい、換金を済ませることにした。
目的地へと向かう最中、ハベルの姿を見た道行く住民の全てがヒソヒソと内緒話をし、彼の周りから少しでも距離を置こうと離れていく。皆に悪意は無く、ただ化物とされたハベルが怖いだけなのである。そんな調子でハベルは素材屋の前に顔を出すと、換金を済ませた先客が彼の姿を見ては一目散に逃げ出していった。素材屋の店主も全身石鎧姿の彼を見て、問題の勇者がきたことを察すると、ヘラヘラと意地の悪い笑みを浮かべた。
「いらっしゃいませ~勇者様。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「魔物の素材を買い取って欲しい。貴公の店で換金できると聞いたのでな。・・・可能か?」
「ええ、勿論ですとも。他の勇者様方もうちでなされましたし、いやー光栄ですな~」
身体をくねくねさせながらおべっかを使う店主を余所に、ハベルは両手いっぱいにバルーン風船の残骸を展開してカウンターへと置く。その量の多さに店主は少しばかり怯むも、すぐに残骸を手にとっては勘定していった。
「そうですねぇ、バルーン風船の皮ですかぁ。全部で三十枚程ですから、銅貨三枚ではどうでしょうか?」
「・・・・・・貴公、それだけか?」
「何分こちらも商売ですので。こういうものは品質、傷の有無、大きさ、その他諸々で決まっていくのです。勇者様のためを思ってこれでも奮発している方ですよ?」
「・・・・・・ぬぅ」
ちなみに真っ赤な嘘である。バルーン風船であるならどんなモノでも規定の大きさであれば二枚で銅貨一枚が相場である。盾の勇者はこちらの世界に疎いという噂を聞きつけた店主の卑しき企みだ。そうとは知らず、商いに詳しいはずもないハベルはそういうものかと頷いていた。
―――あの売女め、相場の話ですら嘘であったか・・・。
「さあ、勇者様。よろしければこちら銅貨三枚です」
「・・・・・・いただこう」
「へへ、毎度あり」と意地の悪い笑みを浮かべては素材を奥の方へとしまうべく、店主は大量の皮を両手に取る。しかし、換金を済ませたというのに、ハベルはまだカウンターの前に突っ立っていた。何か文句があるのかと睨み付けると、彼は次々と手元に魔物の素材を展開した。
「あ、あの、勇者様?」
「・・・・・・すまない貴公、私は噂通りこちらの世界に疎くてな。魔物のどこの部位が高く売れるのかよく知らんのだ。だから、ここに適当に並べていくことになってしまうが・・・・・・構わないか?」
「ええ、はい。それは勿論構いませんが・・・・・・・・・ヒッ!?」
店主は絶句し、両手に抱えていたバルーンの皮を全部床に落としてしまった。ハベルは展開した魔物の素材というのは、その殆どが“生首”であった。他の勇者より素材の量が多かった事も相まって、彼の手に掛かったであろう多種類の魔物の首を無感情・無造作にカウンターへと並べていくハベルのその様は、店主に強い精神的ダメージを負わせた。まるで、貴様もここに並んである首の一つになるか? と問いかけているかのような感覚に襲われた店主は、ガクガクと全身震えながら青ざめた顔色となる。
「よし、これで全部だな。では、頼―――貴公、大丈夫か? 何やら顔色が悪い様に見えるが・・・」
「ヒィ!? い、いえ大丈夫でございます。こちらできちんと買い取らせていただきますですはい! あ、すみません先程の買取額ですがこちらの間違いでした! 銅貨15枚で買い取らせていただきますぅ!」
「・・・・・・いや、しかしだな貴公。質が悪いのは私の不手際で―――」
「そんなことはございませんお願いですから勘弁してください」
突然豹変した店主に泣きつかれ、「ぬぅ・・・」とどこか納得いかないまま、無事相場通り換金を済ませたハベルであった。店を出る際、店主に気を使わせてしまった事に尾を引いた彼は、良い店であったためまた来る、といったことを伝え、知らずの内に店主へと絶望を与えた後、武器屋へと歩み始めた。
ハベルが店を出ていった後、正気を取り戻した店主はすぐさま事のあらましを近隣の店へと広めていった。そうしてハベルの恐ろしさに更に磨きが掛かったことは、彼自身知る由も無いことである。
「いらっしゃ・・・・・あんちゃんか・・・」
ハベルが武器屋に入ると店主はすぐに彼の存在を認識した。すると、店主は怒りを露にして距離を詰め、ハベルの肩をがっちりと押さえては拳を握っていた。
「一緒に居た嬢ちゃんについての噂は聞いたぜ、盾のあんちゃん。うちで買い物をするってんなら、まずは一発殴らせろ!」
「・・・・・・貴公、少し待て」
あ゛あ゛・・・? と尚も凄む店主を前に、ハベルは兜を脱いで素顔を晒した。もうむやみやたらに隠す理由も無いのだ。冒涜的な光景を目の当たりにしながらも、店主は恐れを顔に出すこと無く、拳を掲げ続けていた。
「何の真似だよ、あんちゃん。そんなんで俺がビビるとでも――」
「兜のままでは貴公の手を痛めるだけであろう。私の所為で貴公の仕事に支障をきたしても仕方があるまい。さあ、貴公の気がすむようにしてくれ」
店主の言葉を遮ってハベルが語ったことは、あろうことか店主に向けた心配の念であった。常人であれば嫌みに取れるものでもあるが、彼は黒い瞳で真っ直ぐ店主の顔を見据えて言葉を放った。とても今から殴られる者の態度では無い。店主は全てを察したのか、掲げた拳を解き、そのまま下ろした。
「・・・・・・どうした、貴公。具合でも悪くなったか?」
「そうだな、あんちゃんを見てたら自分に対して具合が悪くなったよ」
「・・・? ・・・そうか」
不思議そうに首をかしげながらも、ハベルは兜をかぶり直す。そうして彼は当初の目的であるクロスボウのボルトを数百本単位で頼むと、一瞬目を丸くされたものの値段を何割かオマケしてもらった。礼を言って頭を下げたハベルは、早速何百本のボルトをソウルへと変換し、自分の中へと収納していく。そして、口をあんぐりと開けて驚いたままの店主を放って、ハベルはそのまますぐに店を出ようとした。
「待ちな、あんちゃん。・・・・・・まだあんちゃんの名前を聞いてなかったよな?」
扉の取っ手に手を掛けた瞬間に店主が引き留めると、ハベルは振り返らずに立ち止まる。
「・・・・・・ロードランのハベルだ」
「そうか、良い名前だな。俺はエルトハルトってんだ。なあ、ハベルのあんちゃん・・・その・・・まあ・・・なんだ。何か困ったことがあったらいつでも来いよ」
店に来たときの態度を悪く思ってか、武器屋の店主エルトハルトは歯切れの悪そうに伝える。ハベルは足を止めてから数秒間黙り込み、扉を押し込んだ。
「考えておこう・・・お得意様としてな・・・」
ハベルはそう言葉を残すと、最後に満足げな笑みを浮かべた店主を見ることなく、店を後にするのであった。
「・・・・・・死ぬんじゃねえぜ。あんちゃんの死体なんて、見たくもねえからな」
武器屋を後にしてから、ハベルは日がだいぶ暮れ、辺りが暗くなっていることに気づく。今日の野営地はどこにするか、と思案を巡らせていると、不意に目の前にあった酒場の看板が目についた。
―――たまには、良いか・・・。
そんな軽い気持ちで彼は酒場に入ると、案の定賑わっていた店の空気が一変した。もともとこの遅い時間帯の酒場には冒険者などの荒くれ者しか出入りしてないが、それでも大抵の者はハベルの事を恐れ、心ない噂を流していた。しかし、周りの目を気にも留めなくなったハベルはずかずかとカウンター席へ移動し、一番安い定食と一番強い酒を頼む。そして、おっかなびっくりなウェイターが運んできたソレを、彼は慣れた様子で兜を脱がず一人黙々と食べていた。
―――やはり、味はしないか・・・。
ソラールとの晩酌やマインとの晩食でさえも、薄らと酒や料理の味を感じてはいたため少しばかり期待はしていたが、あの時のような至福の時間が訪れることは無かった。ソラールに諭された後、久方ぶりの食事を味わったことであの時は多少なりとも心躍っていた彼であるが、今では酒で無理矢理料理を流し込むザマである。
―――我ながら馬鹿な期待を持ったものだ。・・・・・・これはいかんな、ただロードランに居た頃に戻っただけだというのに・・・・・・。
自分自身に嫌気を差しながら、ハベルは料理を残さず平らげる。すると、そんな彼を見越してか、複数人のみすぼらしい格好をしたガラの悪い男達が5人程、ハベルを取り囲むようにして現れた。
「お噂の盾の勇者様~、寂しいんなら俺達が仲間になってあげましょうか~?」
「俺達五人全員あんたについて行きますよ。ひとりぼっちの勇者サマー、感謝してくださーい!」
どこかおちょくるような話し方をする二人に、残りの三人は下品にゲラゲラと笑い出す。一方のハベルは相も変わらず無反応を突き通し、カウンターに金を置いてすぐに出て行った。チッ! と舌打ちをしながら、彼らもその後をついて店を後にする。やがて、人通りの無い路地までしつこくついてきたところで、急にハベルが足を止めた。
「貴公等、そうまでして私の仲間になりたくば、まずはその脆弱な身なりを整えてからにして貰おうか。貴公等では力不足にも程がある」
「えー、そんなこと言ったって俺ら見ての通り貧乏だし、勇者様だから羽振りは良いでしょう? 俺達の装備くらい買ってくださ―――」
「すまないが貴公等に投げる程、今は持ち合わせが無くてな・・・。分かったなら他の勇者様方を相手にして欲しい」
「・・・・・・チッ! あんたも分かってんだろ? さっさと金目のもの置いていけよ」
仲間の一人がしびれを切らしダガーを抜くと、他の男達もぶら下げていた剣を抜いた。
「へへ、5対1だぜ。化物勇者様って言っても所詮俺達と同じ穴の狢じゃねえか」
「同じ穴の狢か・・・・・・確かに貴様等は亡者の様であるな。求める物がソウルから金に変わっただけだ」
「あん? なに訳の分かんねえことを―――」
それ以上、男達の言葉が続くことは無かった。四人の首が一斉に、ハベルの振り返りざまに薙ぎ払った『グレートソード』の一振りで宙を舞った。おびただしい量の鮮血が吹き出す前に、四人の身体と首は拠り所となるソウルを失い、後には灰だけが風に舞った。距離をとっていた残りの男は風に乗った仲間の灰をもろに浴びて腰を抜かしていまい、歯をガチガチと鳴らしては逃げることもできずにいる。
「・・・・・・草原で1回、森の中で1回、洞窟で野営中に1回、そして遂には城下の酒場帰りに1回」
淡々と語りながら近づくハベルから逃げようにも、男は足が震えて自由が利かなくなっていた。
「貴様等のような下賎な輩にここ一週間で付きまとわれては、皆口を揃えて仲間になってあげるだの、可哀想だのと・・・・・・その度に決まって、毎度矮小なソウルにはうんざりさせられる」
尚も距離を詰めるハベルに、男は逃げることを辞めて真正面から斬りかかった。しかし、ハベルは左手の四聖盾を軽くふるって剣の重心を受け流す。武器が弾かれる心地の良い音と共に、男はそのまま無様に体勢を崩してしまった。
「・・・・・・貴様もどうせ、そうなるのだろう?」
男の肩を鷲掴んでは胴体を目掛け、ハベルは自身の身長よりも長く、重量のある特大剣を叩き付ける。男の身体は易々と上下半身別れて真っ二つになり、ソウルが残らず流れ出ては灰と化した。予想通り少量のソウルに、ハベルは深い溜息をつく。虚しさだけが、彼の中に残ったばかりであった。
「お困りのご様子ですな?」
背後からの声に、ハベルは振り返りグレートソードと四聖盾を構え直す。視線の向こうにはシルクハットに燕尾服を着た小柄の中年男性の姿があった。先程戦いを始める際、近くに他のソウルが居ないか確かめたつもりであったが・・・・・・「油断したか」とハベルは心の中で自身を責める。
「おお!? そんな構えないでくださいよ。私は人手が足りない所為で煩わしい思いをしている貴方様にぴったりな話をお持ちしに来ただけです、はい」
「・・・・・・仲間の斡旋であれば間に合ってるぞ? 私は一人で使命を成すと決めたのだ」
「しかし、一人でいる所為であのような者達に絡まれ続けては、使命もナニもあったものじゃないでしょう? 違いますかな?」
フッフッフッ・・・と怪しげに笑い出す男に、ハベルは図星ながら尚も警戒を強めていた。見られていたのは先程の戦闘だけじゃないということと、今までの経験上そんな笑い方をする者には碌な奴が居なかったが為である。
「それに、貴方は勘違いをなされている。私が提供するのはそんな不便な代物ではありませんよ。『盾の勇者様』」
思わずピクッと反応したハベルに、男は擦り寄ってきて声を出す。
「何を隠そう、私めは奴隷商でありますが故」
「・・・・・・何だと?」
この国でも奴隷制度が認められていることに、ハベルは驚きを隠せなかった。ハベルの故郷でも不死人を対象とした奴隷制度が設けられていた時代はあったが、やがて不死人がこぞって亡者へと成り果てる者が多くなると、途端に廃止となって不死院送りが常習となったのだ。
「・・・何故、私が奴隷を欲すると?」
「盾の勇者様のお噂はかねがね耳に届いております。仲間犯しの強姦勇者、殺めることを楽しむ化物、逆らえば生首にされて売られる狂人等々・・・そんな勇者様の仲間になりたい物好きなど、この国にはおりますまい。それに先程申し上げました通り、仲間がいなければ終始、貴方様はつまらない者達に付き纏われることでしょう。一週間でこのザマなんですからね」
そのでっぷりと肥えた体型の通り、舌にも脂がのっていることだろう。奴隷商は言葉を絶やすことなくハベルに語り続けた。
「そして、ここが奴隷の特権です! あらかじめお買い頂いた奴隷には裏切れないよう重度の呪いを施せるのですよ。主に逆らったら、それこそ命を代価にするような強力な呪いをね・・・・・・どうですか、見ていただくだけでも構いませんよ?」
奴隷商はニヤリと白い歯を見せながら満面の笑みを浮かべる。呪い云々の話に興味はないが、ハベルにとってはつまらぬ者達に対する煩わしさが問題となっている現状がある。それに、この奴隷商自体にいろいろと不都合な場面を握られているかもしれないため、顔を出すだけ出してみるのも悪くはない・・・そうハベルは自分に言い聞かせ、奴隷商の案内の下、街灯の当たらぬ暗い路地裏へと足を踏み入れるのであった。